今日のアリスさんはどこかおかしい。
普段、休日は昼過ぎまで寝ているというのに今日に限っては7時前に起きているではありませんか。
しかも自分から
「ねえ、今日は野球の試合が午後からあるんでしょう?みんなで見に行かない?」
なんて言い出す始末です。
野球好きの私や、試合はあまり見ないものの犬鷲球団のファンであるレティさんと違ってアリスさんが野球に興味を示すことは珍しい。
熱でもあるんじゃないでしょうか。
「アリスさん……オセルタミビルを処方しようか」
「なんでインフルエンザを疑われるのよ」
オセルタミビルは商品名タミフル、言わずと知れたインフルエンザ治療薬です。
そりゃ疑いたくもなります。
前回野球観戦に行った時はずっと牛タン弁当食べてましたからね。
まあ、見に行くのは大歓迎なんですけどね。
今日は私が応援する若鷹軍団との試合ですし。
ただ、前売り券に比べて当日券は高いので前もって言ってくれるともっと嬉しいんですが。
しかしまあアリスさんが行くって言うんだし断る手はない。
「よし、じゃあ行こうか。いいよねレティさん?」
「私も今日は暇だしいいわよ~」
「なら早く行きましょう。試合直前は混むんでしょう?」
「まだ7時だけど……?」
試合開始は午後1時、今から行っても時間を持て余すだけ……というかどんだけせっかちなんだ。
いつでもマイペースなアリスさんらしからぬ言動に私はますます疑念を持ちます。
もしかして、単純に私達を部屋から追い出したいだけだとか。
そんなに部屋にいたらいけない理由なんて、
水の入ったコップに存在するクレオパトラの飲んだワインに含まれていた水分子の数より少ないと思うんですが。
ああ、わかった。
「バル○ンを焚きたいの?黒光りするGならここには生息してないはずだけど」
「防虫剤ならヤマメがタンスに入れたパラジクロロベンゼンで間に合ってるわよ」
「あれ過剰量使用するとシックハウス症候群を誘発するんだってね」
「さっさと回収しなさい」
話が逸れましたが、どうやらGを追い出したいわけではない様子。
隣でレティさんが破壊系電波ソングを口ずさみましたが気にしてはいけません。
野良猫は水で溺れた。
決して突き落としてなどいません。
ただちょっとでかい水たまりにマタタビに含まれるアクチニジンを撒いただけです。
今ではちょっと反省していますよ、高校時代の懐かしい記憶。
「とにかく、なんでそんなに出かけたがるのさ?」
「な、なんでもないわ……単に野球見るのもたまにはいいかなーって」
「アリス、さっきからなんで携帯を手に持ってるのかしら~?」
「き、気のじゃない……?」
どうやら携帯に謎を解く鍵がありそうですね。
さて……、
「あ、もしもーし。てゐさん?今から私の部屋来てくれない?アリスさんから携帯を奪って欲しいんだけど」
「わかったから!差し出すからてゐを巻き込むのは勘弁して!」
電話をかけるフリをするだけであっさり情報入手。
てゐさんの手にかかったら携帯を取られた挙句、個人情報まで抜き取られそうですし当然といえば当然の反応ですね。
我ながら恐ろしい友人を持ったものです。
さて、アリスさんが原因たる携帯の画面を見せてくれましたが……。
差出人:お母さん
件名:アリスちゃんが心配なので♪
「察した。察したから出かけようか」
「理解が早くて助かるわ」
本文は要約すると、アリスさんが親元を離れてもちゃんと生活しているか心配だから今日顔を見に行く、と。
私だって同じ事をされたら嫌だ。
アリスさんには同情します。
しかし、アリスさんのお母さんですか。
どんな方なのか気にはなりますね。
「一言で言うなら過保護、ね」
「それは察したからもう一言紹介してよ」
「……『アリスの母親』」
「うん、なんとなく想像が付いたよ」
マイペースなんですね。
そういえばお姉さんもいるという話ですがその辺はどうなんでしょうか?
「兄弟姉妹は何人いるの?」
「姉が3人よ。ほら、これお姉ちゃんとお母さんの写真」
「へえ……って誰がお母さんなのかわからないんだけど」
「一番左よ、ほらピースしてるでしょ。神綺お母さん」
「若っ!」
一番左というと長いサイドテールの可愛らしい女の子にしか見えないんですが。
満面の笑みで、右手でピースサイン作っていますし余計に幼く見えます。
ただやけに胸が自己主張しているように見えるのは気のせいでしょうか?
何かの間違いであってほしいですね。
アリスさん今でさえ私よりは胸あるのに巨乳のDNAを受け継いでいるなんて。
そのままのCカップでいてくださいな。
「で、こっちが一番上の夢子お姉ちゃん」
「なんでメイド服着てるのか説明してもらおうか」
「……私も知らないわよ。物心付いたときにはこうだったんだから。多分お母さんの趣味よ」
まだあったことのない夢子さんよ、きっと苦労してるんでしょうね。
アリスさんも着たんでしょうか。
見てみたいですね、アリスさんのメイド姿。
やっぱり出かけるのやめようかな。
「それで、ユキお姉ちゃんとマイお姉ちゃんは双子なのよ」
「双子は似てるっていうけど服が黒と白でわかりやすいね」
「二卵性だから顔でもそこそこ見分けつくわよ?」
ところで双子でも胸は似てないんですね。
黒い方……ユキさんは私の同士ですけど他のお三方は皆巨乳。
アリスさんも普通程度にはありますしユキさんさぞかし家族内ではコンプレックスを感じていることだろうと思うと知らず目頭が熱くなります。
揉むと女性ホルモンが出て胸が大きくなるっていいますけど、自分で揉んだら脂肪が燃焼して縮みました。
最初に言い出した人は訴えてやる。
ちなみにその光景を文さんに盗撮されてネガをめぐって争いが起きました。
なぜか勝者はレティさん。
この間レティさんのパソコンを覗いたら取り込まれた大量の写真が出てきました。
その8割が私とアリスさんの写真であり、なおかつその中の6割が半裸以上のピンク写真であったことは先日追及しました。
もちろん撮影主の文さんも含めて。
最終的に私はキスメとレティさんの同じような写真、アリスさんは笹かまぼこ1ダースで手を打ちました。
かくして私のパソコンもレティさんと似たような状態ですがね。
キスメが見たら怒るだろうなあ。
「自分でも撮ってコレクション増やしましょうかね……」
「ヤマメ、モノローグが口から漏れてるわよ~」
「……しまった」
「生が見たかったら言ってくれれば見せるわよ~」
ウインクすると同時になぜか胸が揺れるレティさん。
わかってないなあ、写真で見るからいいんじゃないですか。
私はレティさん程変態じゃない。
さっきの発言、完全にアレじゃないですか。
そんな言葉に釣られて文さんにネタを提供するほど学習能力がないわけじゃありません。
……まあ5回くらい釣られてるんですが。
「ねえ、その話はもういいから早く出かけましょうよ」
アリスさんにせっつかれてようやく話が最初の話題に戻ります。
私がさんざんそらしたような気がしますがね。
時計を見るとちょうど午前8時。
1時間も話し込んでたんですね。
まだまだ早い時間帯だけど出ましょうか。
しかし寮の玄関まで出たところで……、
「あれ?もしかしてあの人アリスさんのお母さんじゃないの?」
「逃げるわよ」
「ちょっと!急に走るな!」
サイドテールで巨乳の少女を見つけてアリスさんが真逆の方向に全力疾走。
あわてて追いかけます。
と思ったらアリスさん曲がり角で誰かにぶつかった。
以前にも魔理沙とぶつかってなかったっけ。
ちゃんと安全確認しないとそのうち大怪我するような気がするんですが。
ぶつかった相手も心配ですし衝突現場に駆け寄ります。
「……痛い」
「マイ……お姉ちゃん……?」
「……アリス?」
なんとまあ衝突相手はアリスさんのお姉さんのうちの一人、双子の白い方ことマイさん。
こりゃアリスさん御用ですね。
彼女には悪いけど私達だけで野球観戦行ってきていいですかね。
「マイ大丈夫!?ってアリスじゃない!久しぶりー!」
「久しぶりも何もユキお姉ちゃん、なんでここにいるのか説明してもらうわよ」
「お母さんの付き添いと、あと旅行も兼ねて」
「そうじゃなくって!」
ユキさんまで現れましたし。
私達本格的に邪魔にならないようにどっか行っていいですか。
親子姉妹水入らずで団欒タイムをお楽しみくださいな。
「じゃあおみやげ買ってくるから後はごゆっくりー」
「ヤマメ、それはちょっと薄情なんじゃない!?」
アリスさんの悲鳴を背に歩き出そうとする私ですが、予想外の人にひきとめられます。
「えーと、そっちの子ヤマメちゃん……でいいのかな?」
「あ、はい」
「アリスのルームメイトだよね。あ、私はアリスの姉のユキ。こっちはマイね」
「はあ、はじめまして」
声の主はユキさん。
アリスさんの扱いが悪くて怒らせてしまいましたかね。
でも他にどうしろと。
「私としても本意じゃないけどさ、私たちの母がぜひ挨拶したいって言ってるからアリスだけ置いてくのはちょっと勘弁して欲しいかな」
「……へ?」
「ほら、全員出かけてるならあきらめが付く、というか帰ってくるまで待つハメになるんだけど」
「待つんですか」
フリーダムな家庭だなあ……。
しかも全然諦めてないし。
これでユキさんを説得してアリスさん共々逃げるという手は封じられました。
「でもさ、私がアリスだけ捕まえるとするじゃん。そうすると母が言うのさ。アリスちゃんのお友達はどうしたの?って」
逃げた、なんて言えるわけないですよね。
つまり私達に観念してお縄につけ、と言いたいんでしょうか。
ユキさんは手をあわせて私とレティさんに懇願のポーズ。
というかレティさんもなんか言ったらどうなんです。
「お願い!母とアリスの親子漫才を聞きつつ二人の帰りを待って、それから長々と挨拶するのは嫌なの!」
「……お願いします」
ユキさんとマイさんの苦労を想像すると同情は禁じ得ない。
さっき旅行も兼ねて、と言ってましたし観光の時間を私たちのせいでパアにしてしまうのも後味の悪いものがあります。
でも親子漫才はちょっと聞いてみたいような。
レティさんとアイコンタクトで意思の疎通を。
彼女の目にも諦観の色が浮かんでいたので答えは一つでしょう。
「わかりました。ではご挨拶とまいりましょうか」
「あーよかったー!恩に着るよ!」
「……これで観光できる」
見てくださいこの喜びよう。
さっきからポーカーフェイスを貫いていたマイさんがほっとしたような表情を見せましたよ。
アリスさんは安堵と困惑の入り混じった表情をしていますがこの状況、これ以上の手はあるまい。
むしろ脱走成功だと思って寮に戻ったら待ちくたびれた様子のユキさんとマイさんを見つけるほうが罪悪感に苛まれそうです。
プロ野球は見たかったけどまた今度にしましょう。
もっともアリスさんがまた観戦に乗り気になってくれるかはわかりませんが。
「あ、もしもーし。アリスと、あとアリスのお友達とばったり会ったので今からそっち行くねー」
ユキさんが手に持つは最近白色がリリースされた林檎印のスマートフォン。
ちなみに色は黒。
電話の相手は神綺さんでしょう。
いいなあスマートフォン、私はまだ半年契約残ってるからなかなか変えるわけにはいかないんですよね。
あ、でもミスティアの持ってるメールの受信がまとめて行われたりネットサーフィンがやけに重かったりするスマホはいらない。
6万もしたのに、と先日ミスティアが嘆いてました。
「じゃあ行こうか。すぐそこにいるってさ」
ユキさんに連れられさっきの道を戻ります。
やっと落ち着いたのかアリスさんが口を開きます。
「夢子お姉ちゃんは?」
「姉さん仕事だって。おみやげにフカヒレ買ってきてって言ってた」
「フカヒレなら駅前のアニ○イト下の魚屋に置いてあるかもしれないわね~」
「……魚○イトは有名」
なんでそんなに有名なんだろう、魚臭いアニ○イト。
地元出身のレティさんの口からそんな単語が出てくるのはあまり違和感ないですけど、マイさんも知ってるとは。
キスメが前に行ってきたそうですけど、本当に魚臭かったらしいです。
「ヤマメも行く?アニ○イト」
「いや、遠慮する……というか用があるのは魚屋でしょうに」
「魚臭いのが嫌ならと○のあなとかメ○ンブックスとかあるわよ~?」
「メ○ブはダメだろ!なんていうか理由はメタだから言えないけど!」
店舗の約1/3を占めている某弾幕STGコーナーが主にダメです。
自分で見に行って何が楽しいんだ何が。
早く話題を変えましょう。
「そ、そうだユキさんとマイさんはおいくつなんですか?」
「まだ誕生前だから20歳だよ。大学3年生の」
「……双子だから私も同じ」
なら勇儀さんやパルスィさんと同じ学年ですね。
神綺さんは何歳なんでしょうか。
恐ろしくも聞いてみたくはありますが……、
「母さんの年齢?私達でも知らないんだよねー。免許証とか絶対見せてくれないし」
「おかげで書類書くときは苦労したわね……」
「……適当に書いた」
この有様。
適当って許されるのか。
確かに女性に年齢を聞いてはいけないとはいいますが、あれって男が聞いてはいけないって意味なんじゃないですかね。
話しながら歩いていると、まさに今話題にしていた神綺さんが私たちを見つけたのか大きく手を振っている光景が。
どう見ても子持ち、いや20代にすら見えるかすら怪しいです。
後で若さの秘訣でも聞いてみましょうか。
「久しぶりねアリスちゃん~♪ホームシックにならなかった?風邪ひかなかった?」
「お生憎さま、心も体も健康そのものよ」
「そっけないわね……せっかく4ヶ月ぶりに会ったんだからお母さんの懐に飛び込んできてもいいのよ?」
「友達いるんだからやめてくれない?」
子離れできてない、という表現がぴったりですね。
大学生の今なら簡単にあしらえるんでしょうが、思春期真っ盛りの時とかどうしていたんでしょうか。
私なら絶対喧嘩してたと思うなあ……。
当の過保護ママこと神綺さんはアリスさんの発言にようやく私達の存在に気づいた様子。
アリスさんしか見えてなかったんでしょうか。
「あらいけない……私、アリスちゃんの母の神綺と申します。アリスちゃんと仲良くしてくださってありがとうね」
「黒谷ヤマメです。アリスさんとはルームメイトということもあって仲良くさせていただいてます」
「同じくルームメイトのレティ・ホワイトロックです~」
変わり者同士の上っ面だけはまともな自己紹介。
上っ面だけといいますか容姿はレティさんも神綺さんも素晴らしいものがあるんですけどね。
いや別に胸だけじゃなくて。
「ルームメイトのヤマメちゃんとレティちゃんね。ぜひご挨拶したいと思ってました」
「そうでしたか。立ち話も何ですから、よろしかったら続きは部屋に上がってからにしましょうか~」
「アリスさんがよく掃除してくれるので、私達が散らかしてない限りは綺麗な部屋ですので遠慮なさらずにどうぞ」
早くも神綺さんのペースに乗せられているような気がします。
ちなみに部屋を一番散らかすのは私。
主に部屋で試薬作ってたりするせいですが。
それでもそんなに散らかってないし、実際のところはアリスさんの掃除もあまり必要ない程度には部屋は綺麗なはずです。
「おじゃまします~」
「おーほんとに綺麗。アリスやるじゃん」
「そこまでしょっちゅう掃除してないから綺麗なのはルームメイトの二人のおかげよ」
ユキさんの反応を見てちょっと安心する私です。
アリスさんは謙遜しなくてもいいのに。
とりあえずコーヒーでも淹れましょうか。
他には……確か先日文さんをジエチルエーテルで昏倒させたお詫びにあげる予定だったクッキーが戸棚にあったはずです。
戸棚を開けるとそこには、
『美味しくいただきました Byてゐ』
「あんにゃろ……」
四葉のクローバー柄の紙切れにクッキーの消失を意味するメッセージが。
そろそろこれまでの被害をまとめて警察に持っていったほうがいいかもしれません。
特に塩酸とアセトンはよく使うから早く返して欲しいんですけど。
リッター単位で盗られていますしキスメしか部屋にいない時を見計らって取り返してもすぐに気づかれるし。
問題は被害物品の中に塩酸ジアセチルモルヒネ、つまるところのヘロインが含まれてるってことです。
麻薬及び向精神薬取締法によって製造・所持、果てには医療目的の使用すら厳しく規制される通称『薬物の王者』。
静脈注射して数分後に訪れる『ラッシュ』と呼ばれる強烈な快感は
「人間の経験しうるあらゆる状態の中で、他の如何なるものをもってしても得られない最高の状態」
とまで形容される一方で、
「ほかの何でもない地獄そのもの」
と表現される苛烈な禁断症状はあのジョン・レ○ンをしてネガティブキャンペーン的楽曲《C○ld Turkey》を作らしめるほど。
私もカラオケで時々歌います。
ジョン・レ○ンの名誉のために補足すると彼はヘロイン使用歴はないはずです。
もちろん私にも使用歴なんてあるはずがない。
奪った試薬を全く触っていない(キスメ談)てゐさんも多分セーフ。
あくまでコレクションとして作っただけです。
死ぬほど話が逸れましたが、要するに私が捕まるんで警察を頼るにはまずアレをどうにかしないといけません。
「ヤマメ~、遅いけどどうしたの~?」
「あ、ごめんぼーっとしてた」
レティさんの声で我に返る。
仕方ない、クッキーが無いなら猛暑に備えて冷凍しておいたフルーツゼリーを出しましょう。
こっちは多分てゐさんに盗られてはいないはずです。
冷凍室を見ると、今度は紙切れも無く無事なゼリーが。
レティさんが好きなんですよね、これ。
コーヒーを注いでゼリーと一緒に全員に渡します。
「こんな物しかお出し出来ませんが、よろしかったらどうぞ」
「あら、このコーヒー良い香り。こんなに気を遣ってもらわなくても構いませんのに」
「いえいえ、遠くからいらっしゃってお疲れでしょう」
「そうでもなかったわよね~。ほら、なんだっけ新しい新幹線。あれに乗れて満足でした」
昨年小惑星から奇跡の帰還を果たして話題になった探査機と同じ名前を冠する新幹線ですか。
私はこの街に来るとき飛行機使ったから乗ったことないんですよね。
旅行とか行くときに乗ってみたいです。
あまりお金無いので多分無理でしょうけど。
そもそも旅行なんて行く余裕もあまりありませんし。
「そうそう、アリス……きちんと朝起きてる?」
「うっ……ゴホッゴホッ」
突然のユキさんの質問に思わずむせるアリスさん。
1時限目の授業がある日は8時30分に私に起こされ遅刻ギリギリ、
2時限目からの日は10時起床、午前に授業がなかったり休日だったりすると昼まで寝てるのがきちんとに含まれるのか。
「ルームメイトのお二人さん、どうなの?」
「「朝起きません」」
「……案の定」
返答がハモりましたね。
レティさんはアリスさんを起こさないため布団から引きずり出すのはもっぱら私の仕事となっています。
前はユキさんやマイさんがやっていたんでしょうか。
「前はね、私とマイがアリス担当だったの」
「前は、とおっしゃいますと」
「……お母さんも朝に弱い」
「母さんを起こすのは夢子姉さんの担当だったんだよね」
去年は姉さんが就職して朝忙しくなったせいでマイが母さんを、私は一人でアリスを起こす羽目になった、
とため息を付くユキさん。
私も一人でアリスさんを起こすの大変です。
その苦労を知っているものとして妙な親近感を覚えました。
「仕方ないじゃない……私もアリスちゃんも低血圧気味なんだから~」
「低血圧で全てが許されるほど世の中甘くないから!」
「だから低血圧でも許される会社を立ち上げたんじゃない」
「アレ会社って言えるの?」
低血圧の人って胃下垂である可能性が高いんですよね。
胃下垂だと食べても太りにくいとか。
どんなに寝坊しても1日3食は欠かさないアリスさんがスレンダーな体型を維持してる理由がわかった気がします。
羨ましいけど朝起きられないのは嫌だなあ……とも思ったり。
それにしてもアレって何だろう。
口ぶりからして4人の娘を大学に入れるほどの収入を神綺さん一人が得ているようですが……。
「あの……アレというのは」
「女の秘密よ♪」
「まあ……母さんは一部業界で神と呼ばれ崇められる存在である、とだけ言っておくよ」
神って何だ神って。
ますます謎が深まりました。
ただ、これ以上詮索したらいけないという雰囲気がします。
触らぬ神に祟りなし。
まさに言葉通りですがそうしておくことにしましょう。
ところで……、
「アリスさーん、さっきから静かだけどどうしたのー?」
「……」
へんじがない ただのしかばねのようだ
……じゃなっくって、座りながら寝てますね。
私も高校の日本史の授業はこんな姿勢でよく寝てました。
キスメは数学の時間はずっと机に突っ伏して休み時間まで寝てましたね。
「アリスさん珍しく今日は早起きだったからかな」
「……それは異常事態」
「あのアリスが早起きしたのって、大学受験でもなかったことだよ」
寝坊して私大の入試に遅刻しかけた友人がいましたが、まさか国立大でそれをやる人が身近にいたとは。
彼女……霊烏路空は今どうしているんでしょうね。
一応地元のどっかの大学に受かったとか聞きましたが、どこだっけかなあ。
とりあえずアリスさんが風邪を引かないように布団を敷いて寝かせます。
寝相悪いからすぐ蹴っ飛ばして床で寝そうな気もしますけどね。
アリスさんの寝乱れた写真フォルダは既に私のパソコンのHDDを1GB以上占領しています。
よだれ垂らしてたり枕に抱きついたりとレパートリーが豊富でかわいいんですよね。
「やっぱり寝てるアリスちゃんが一番かわいいわね~♪」
「それはアリスが母さんにはデレないせいだと思うよ」
「……反抗期」
「昔はもっとお母さんに笑いかけてくれたのになあ……」
神綺さん、それは多分自業自得です。
私には兄弟姉妹がいないのでよくわかりませんが、やっぱり末っ子は可愛がられやすいんでしょうか。
空、通称お空とは別の高校時代の知り合いに古明地さとりという人がいましたが、彼女には妹がいましたっけね。
姉がきのこ派、妹はたけのこ派だったから遊びに行く時に持っていくお菓子はいつもカ○トリーマアムでした。
あの姉妹はしっかり者の姉とフリーダムな妹という構成でしたからアリスさんの家庭とどこかかぶりますね。
フリーダムなところがかわいいんだとよく言ってましたっけ。
久々にメールでもしてやりますかね。
私が高校時代の友人たちを思い出して一人懐かしく思っている一方、
レティさんはニヤニヤしながらさっそくタオルケットを蹴飛ばしたアリスさんの寝顔を写真に収めています。
同様の行動を取る神綺さん。
アリスさん愛されてるなあ……。
「じゃあアリスも寝ちゃったし私たちはお暇しようか」
「それもそうね。夢子ちゃんにおみやげ買わないと」
「……魚○イトでフカヒレ」
だから魚臭いアニ○イトにはフカヒレは売ってないって。
心の中でマイさんにツッコミを入れますがおそらくは届いていまい。
別に今うまい事言ったなんて思ってはいません、断じて。
「おじゃましました。これアリスちゃんに渡してくれる?あと二人にはこれを」
「い、いや私達はいいですよ!ねえレティさん?」
「ありがたく頂きます~」
「私がこうして振ったにもかかわらず貰うのかい!図々しく見えるよそれ!」
そりゃ何か貰えるのはありがたいけども。
せめて形ってものがあるでしょうに。
「ヤマメちゃんも遠慮しなくていいのよ?アリスちゃんと仲良くしてもらってるお札よお札」
「すいません私今聞き間違えたかもしれません。多分お礼って仰ったんでしょうけどお札って聞こえました」
「漢字似てるし中身を言ったまでよ♪気にしない気にしない」
ごめんなさい尋常じゃなく気にします。
これまでさんざん金欠をネタにしてきた私ですが、友達のお母さんにお小遣い貰うほど困っているわけでは。
神綺さんとしては普通の感覚なのかもしれませんが私としては些か心がとがめます。
だってこの包み厚さ3ミリくらいありますよ、野口さんだったとしても貰うのはばかられますよ。
「じゃあこうしましょうか」
「どうするんです?」
「私のメールアドレス教えるからアリスちゃんの写真を送ってくれない?これはその代金ということで♪」
「はあ……」
それなら……まあいいか。
私の心の悪魔が貰ってしまえと囁いて天使が徹底抗戦をしていたところでしたが、
それを聞いて天使が白旗を掲げました。
神綺さんとアドレス交換をして紙包みを受け取ります。
心なしか包みが重いなあ……。
ついでとばかりにユキさんやマイさんともアドレス交換をすることに。
「あ、私達iPh○neだからアドレス教えてくれたらこっちからメール送るよ」
「じゃあ、はい」
「えーと……長いね」
「すいません、お気に入りの試薬の英語名と化学式なんです」
赤外線通信ができない人にはよく長いといわれます。
なんかもっと簡単なアドレス交換の方法とか無いんですかね。
「よっし、できたっと」
「……次は私」
「マイさんのiPh○neは白なんですね。服も黒と白で対照的ですし」
「……双子だから区別しやすいように」
なるほど、イメージカラーが決まっていれば知ってる人は間違えませんね。
まあ、ユキさんとマイさんは髪型も違うし見分けはつきやすそうですが。
「見た目が黒くて心は潔白なのがユキ、見た目が白くて腹黒いのがマイ。ほら覚えやすいでしょ?」
「……そんなに腹黒くない」
「クラスがわかれたときに『やっと役立たずと別のクラスになれる』って喜んだのはどこの誰かな?」
「……誰だろう」
姉妹喧嘩ってなんとなく羨ましいですね。
私も年上のきょうだいが欲しかったです。
アリスさんの家庭が羨ましいなあ……。
「ヤマメちゃん、そんな目で見つめないで欲しいんだけど」
「ああ、すいません。姉妹っていいなって思ったもので」
「そうかなあ……私は逆に一人っ子が羨ましかったよ」
「……ほらユキだって私いらないって」
「拗ねるな拗ねるな。そういう意味じゃなくって、単純にお菓子独り占めできたりゲーム取り合わなかったり」
お菓子は一人分しか無いから独り占めも何もないし、ゲームは1日1時間でしたからねえ。
ユキさんの話はいまいちピンと来ませんが、そういうものなんですかね。
ちなみにキスメは1日に何時間もゲームやってますね。
寮生活の今も毎日モン○ンやってます。
たまに狩りに付き合わされますね、文さんとてゐさんがいない時とか。
他にもポ○モンの厳選に精を出したり。
私は寮生活始めるまでゲームに時間制限ありましたからキスメに邪道と罵られつつも乱数使ってます。
野生から育てたポ○モンだけで電車100人抜きを達成したレティさんにはどっちもどっちだと呆れられました。
それはそれで大変だと思うんですよね。
「それじゃあねー、アリスによろしくー」
「……おじゃましました」
「うちの近くに来ることがあったらぜひいらしてね~♪」
いけない、ゲームなんていいからお見送りしないと。
でもアリスさんの家以前に大都会に行くことが今後あるんでしょうかね。
キスメはお盆にお○場に行くと息巻いていましたが、私にはあんな人の多いところに行く気は起きません。
「もし薄い本とか描いてるんだったら送ってくれればお盆にマイが一緒に売ってくれるよー」
「……大きな声で言わないで」
「じゃあ逆に買ってきて欲しいものがあるんだけど~」
「レティさん!?」
授業中にわからない問題があって当たるな当たるなと思っているときに限って当てられるじゃないですか。
あれと同じ気分を味わってます。
以心伝心って言うんですかこういうの。
ドクター○リオのメロディをパクった歌じゃないですよ。
そしてレティさんが薄くて高い本を欲しがっているという事実にも驚きです。
ジャンルは何だ、アドベントチル○レンか。
レティさんのTwi○terのハンドルネームはレティシアだったりします。
先日ブラウザを覗き見たらすぐに閉じられてめちゃくちゃ怒られましたがそれだけは確認できた。
後でアカウント特定しておこうっと。
「細かい話はメールでしようか。母さんが変な気起こさないうちに退散するよ」
そう言って、既に部屋を出た神綺さんを追って走りだすユキさんとマイさん。
私とレティさんも寮の入り口までついていき、手を振ってお別れしました。
「じゃあねー!アリス起こすの頑張ってー!」
手を振り返して叫ぶユキさんの発言がなんとなく重いですが、まあ良しとしましょう。
3人の姿が見えなくなってからレティさんと顔を見合わせ頷き合います。
「いくら入ってるかしら~」
「何に使おうかなー」
期待に胸をふくらませ紙包みに手を突っ込みます。
引き出してみると、日本人から最も愛されているであろう某KO大学の創始者の肖像画が。
「1、2……7枚!?どうしようこんな大金!?」
「後でアリスの写真たくさん添付したお礼のメール送る必要があるわね~」
「もう新たに撮る度に送るレベルだよこれは……!」
我ながら意地汚いと思いながらも大喜び。
ついでにアリスさんの分も覗いてしまいましょうか。
「やっぱり多いんだろうなー、10枚とか?」
「早く見せてくれる~?」
あれ、なんだろうこのすべすべした手触り。
取り出して見てみると……、
「……10億旧トルコリラの小切手が20枚くらい入ってるんだけど」
「……さすがにお金持ちのやることはよくわからないわね~」
インフレで有名だった旧トルコリラを小切手で寄越すとは神綺さんも侮れない。
新紙幣の移行に伴い2006年から回収が始まり、2016年に失効が決まっている、とググったら出ました。
2004年時点での対ドルレートは1億5000万旧トルコリラ以上。
140ドルに満たないですね。
日本円の戻したところでどうあがいても私たちが貰った額には届きません。
さらに円高が追い打ちをかけている状況ですからね。
子煩悩に見えてなかなか娘にひどい仕打ちをするようで。
これを見たらアリスさんどんな顔するんでしょうか。
写真に収めるために文さんにデジタル一眼レフカメラ借りましょうかね。
時計を見るとまだ11時半、まだまだ今日は騒がしくなりそうです。
普段、休日は昼過ぎまで寝ているというのに今日に限っては7時前に起きているではありませんか。
しかも自分から
「ねえ、今日は野球の試合が午後からあるんでしょう?みんなで見に行かない?」
なんて言い出す始末です。
野球好きの私や、試合はあまり見ないものの犬鷲球団のファンであるレティさんと違ってアリスさんが野球に興味を示すことは珍しい。
熱でもあるんじゃないでしょうか。
「アリスさん……オセルタミビルを処方しようか」
「なんでインフルエンザを疑われるのよ」
オセルタミビルは商品名タミフル、言わずと知れたインフルエンザ治療薬です。
そりゃ疑いたくもなります。
前回野球観戦に行った時はずっと牛タン弁当食べてましたからね。
まあ、見に行くのは大歓迎なんですけどね。
今日は私が応援する若鷹軍団との試合ですし。
ただ、前売り券に比べて当日券は高いので前もって言ってくれるともっと嬉しいんですが。
しかしまあアリスさんが行くって言うんだし断る手はない。
「よし、じゃあ行こうか。いいよねレティさん?」
「私も今日は暇だしいいわよ~」
「なら早く行きましょう。試合直前は混むんでしょう?」
「まだ7時だけど……?」
試合開始は午後1時、今から行っても時間を持て余すだけ……というかどんだけせっかちなんだ。
いつでもマイペースなアリスさんらしからぬ言動に私はますます疑念を持ちます。
もしかして、単純に私達を部屋から追い出したいだけだとか。
そんなに部屋にいたらいけない理由なんて、
水の入ったコップに存在するクレオパトラの飲んだワインに含まれていた水分子の数より少ないと思うんですが。
ああ、わかった。
「バル○ンを焚きたいの?黒光りするGならここには生息してないはずだけど」
「防虫剤ならヤマメがタンスに入れたパラジクロロベンゼンで間に合ってるわよ」
「あれ過剰量使用するとシックハウス症候群を誘発するんだってね」
「さっさと回収しなさい」
話が逸れましたが、どうやらGを追い出したいわけではない様子。
隣でレティさんが破壊系電波ソングを口ずさみましたが気にしてはいけません。
野良猫は水で溺れた。
決して突き落としてなどいません。
ただちょっとでかい水たまりにマタタビに含まれるアクチニジンを撒いただけです。
今ではちょっと反省していますよ、高校時代の懐かしい記憶。
「とにかく、なんでそんなに出かけたがるのさ?」
「な、なんでもないわ……単に野球見るのもたまにはいいかなーって」
「アリス、さっきからなんで携帯を手に持ってるのかしら~?」
「き、気のじゃない……?」
どうやら携帯に謎を解く鍵がありそうですね。
さて……、
「あ、もしもーし。てゐさん?今から私の部屋来てくれない?アリスさんから携帯を奪って欲しいんだけど」
「わかったから!差し出すからてゐを巻き込むのは勘弁して!」
電話をかけるフリをするだけであっさり情報入手。
てゐさんの手にかかったら携帯を取られた挙句、個人情報まで抜き取られそうですし当然といえば当然の反応ですね。
我ながら恐ろしい友人を持ったものです。
さて、アリスさんが原因たる携帯の画面を見せてくれましたが……。
差出人:お母さん
件名:アリスちゃんが心配なので♪
「察した。察したから出かけようか」
「理解が早くて助かるわ」
本文は要約すると、アリスさんが親元を離れてもちゃんと生活しているか心配だから今日顔を見に行く、と。
私だって同じ事をされたら嫌だ。
アリスさんには同情します。
しかし、アリスさんのお母さんですか。
どんな方なのか気にはなりますね。
「一言で言うなら過保護、ね」
「それは察したからもう一言紹介してよ」
「……『アリスの母親』」
「うん、なんとなく想像が付いたよ」
マイペースなんですね。
そういえばお姉さんもいるという話ですがその辺はどうなんでしょうか?
「兄弟姉妹は何人いるの?」
「姉が3人よ。ほら、これお姉ちゃんとお母さんの写真」
「へえ……って誰がお母さんなのかわからないんだけど」
「一番左よ、ほらピースしてるでしょ。神綺お母さん」
「若っ!」
一番左というと長いサイドテールの可愛らしい女の子にしか見えないんですが。
満面の笑みで、右手でピースサイン作っていますし余計に幼く見えます。
ただやけに胸が自己主張しているように見えるのは気のせいでしょうか?
何かの間違いであってほしいですね。
アリスさん今でさえ私よりは胸あるのに巨乳のDNAを受け継いでいるなんて。
そのままのCカップでいてくださいな。
「で、こっちが一番上の夢子お姉ちゃん」
「なんでメイド服着てるのか説明してもらおうか」
「……私も知らないわよ。物心付いたときにはこうだったんだから。多分お母さんの趣味よ」
まだあったことのない夢子さんよ、きっと苦労してるんでしょうね。
アリスさんも着たんでしょうか。
見てみたいですね、アリスさんのメイド姿。
やっぱり出かけるのやめようかな。
「それで、ユキお姉ちゃんとマイお姉ちゃんは双子なのよ」
「双子は似てるっていうけど服が黒と白でわかりやすいね」
「二卵性だから顔でもそこそこ見分けつくわよ?」
ところで双子でも胸は似てないんですね。
黒い方……ユキさんは私の同士ですけど他のお三方は皆巨乳。
アリスさんも普通程度にはありますしユキさんさぞかし家族内ではコンプレックスを感じていることだろうと思うと知らず目頭が熱くなります。
揉むと女性ホルモンが出て胸が大きくなるっていいますけど、自分で揉んだら脂肪が燃焼して縮みました。
最初に言い出した人は訴えてやる。
ちなみにその光景を文さんに盗撮されてネガをめぐって争いが起きました。
なぜか勝者はレティさん。
この間レティさんのパソコンを覗いたら取り込まれた大量の写真が出てきました。
その8割が私とアリスさんの写真であり、なおかつその中の6割が半裸以上のピンク写真であったことは先日追及しました。
もちろん撮影主の文さんも含めて。
最終的に私はキスメとレティさんの同じような写真、アリスさんは笹かまぼこ1ダースで手を打ちました。
かくして私のパソコンもレティさんと似たような状態ですがね。
キスメが見たら怒るだろうなあ。
「自分でも撮ってコレクション増やしましょうかね……」
「ヤマメ、モノローグが口から漏れてるわよ~」
「……しまった」
「生が見たかったら言ってくれれば見せるわよ~」
ウインクすると同時になぜか胸が揺れるレティさん。
わかってないなあ、写真で見るからいいんじゃないですか。
私はレティさん程変態じゃない。
さっきの発言、完全にアレじゃないですか。
そんな言葉に釣られて文さんにネタを提供するほど学習能力がないわけじゃありません。
……まあ5回くらい釣られてるんですが。
「ねえ、その話はもういいから早く出かけましょうよ」
アリスさんにせっつかれてようやく話が最初の話題に戻ります。
私がさんざんそらしたような気がしますがね。
時計を見るとちょうど午前8時。
1時間も話し込んでたんですね。
まだまだ早い時間帯だけど出ましょうか。
しかし寮の玄関まで出たところで……、
「あれ?もしかしてあの人アリスさんのお母さんじゃないの?」
「逃げるわよ」
「ちょっと!急に走るな!」
サイドテールで巨乳の少女を見つけてアリスさんが真逆の方向に全力疾走。
あわてて追いかけます。
と思ったらアリスさん曲がり角で誰かにぶつかった。
以前にも魔理沙とぶつかってなかったっけ。
ちゃんと安全確認しないとそのうち大怪我するような気がするんですが。
ぶつかった相手も心配ですし衝突現場に駆け寄ります。
「……痛い」
「マイ……お姉ちゃん……?」
「……アリス?」
なんとまあ衝突相手はアリスさんのお姉さんのうちの一人、双子の白い方ことマイさん。
こりゃアリスさん御用ですね。
彼女には悪いけど私達だけで野球観戦行ってきていいですかね。
「マイ大丈夫!?ってアリスじゃない!久しぶりー!」
「久しぶりも何もユキお姉ちゃん、なんでここにいるのか説明してもらうわよ」
「お母さんの付き添いと、あと旅行も兼ねて」
「そうじゃなくって!」
ユキさんまで現れましたし。
私達本格的に邪魔にならないようにどっか行っていいですか。
親子姉妹水入らずで団欒タイムをお楽しみくださいな。
「じゃあおみやげ買ってくるから後はごゆっくりー」
「ヤマメ、それはちょっと薄情なんじゃない!?」
アリスさんの悲鳴を背に歩き出そうとする私ですが、予想外の人にひきとめられます。
「えーと、そっちの子ヤマメちゃん……でいいのかな?」
「あ、はい」
「アリスのルームメイトだよね。あ、私はアリスの姉のユキ。こっちはマイね」
「はあ、はじめまして」
声の主はユキさん。
アリスさんの扱いが悪くて怒らせてしまいましたかね。
でも他にどうしろと。
「私としても本意じゃないけどさ、私たちの母がぜひ挨拶したいって言ってるからアリスだけ置いてくのはちょっと勘弁して欲しいかな」
「……へ?」
「ほら、全員出かけてるならあきらめが付く、というか帰ってくるまで待つハメになるんだけど」
「待つんですか」
フリーダムな家庭だなあ……。
しかも全然諦めてないし。
これでユキさんを説得してアリスさん共々逃げるという手は封じられました。
「でもさ、私がアリスだけ捕まえるとするじゃん。そうすると母が言うのさ。アリスちゃんのお友達はどうしたの?って」
逃げた、なんて言えるわけないですよね。
つまり私達に観念してお縄につけ、と言いたいんでしょうか。
ユキさんは手をあわせて私とレティさんに懇願のポーズ。
というかレティさんもなんか言ったらどうなんです。
「お願い!母とアリスの親子漫才を聞きつつ二人の帰りを待って、それから長々と挨拶するのは嫌なの!」
「……お願いします」
ユキさんとマイさんの苦労を想像すると同情は禁じ得ない。
さっき旅行も兼ねて、と言ってましたし観光の時間を私たちのせいでパアにしてしまうのも後味の悪いものがあります。
でも親子漫才はちょっと聞いてみたいような。
レティさんとアイコンタクトで意思の疎通を。
彼女の目にも諦観の色が浮かんでいたので答えは一つでしょう。
「わかりました。ではご挨拶とまいりましょうか」
「あーよかったー!恩に着るよ!」
「……これで観光できる」
見てくださいこの喜びよう。
さっきからポーカーフェイスを貫いていたマイさんがほっとしたような表情を見せましたよ。
アリスさんは安堵と困惑の入り混じった表情をしていますがこの状況、これ以上の手はあるまい。
むしろ脱走成功だと思って寮に戻ったら待ちくたびれた様子のユキさんとマイさんを見つけるほうが罪悪感に苛まれそうです。
プロ野球は見たかったけどまた今度にしましょう。
もっともアリスさんがまた観戦に乗り気になってくれるかはわかりませんが。
「あ、もしもーし。アリスと、あとアリスのお友達とばったり会ったので今からそっち行くねー」
ユキさんが手に持つは最近白色がリリースされた林檎印のスマートフォン。
ちなみに色は黒。
電話の相手は神綺さんでしょう。
いいなあスマートフォン、私はまだ半年契約残ってるからなかなか変えるわけにはいかないんですよね。
あ、でもミスティアの持ってるメールの受信がまとめて行われたりネットサーフィンがやけに重かったりするスマホはいらない。
6万もしたのに、と先日ミスティアが嘆いてました。
「じゃあ行こうか。すぐそこにいるってさ」
ユキさんに連れられさっきの道を戻ります。
やっと落ち着いたのかアリスさんが口を開きます。
「夢子お姉ちゃんは?」
「姉さん仕事だって。おみやげにフカヒレ買ってきてって言ってた」
「フカヒレなら駅前のアニ○イト下の魚屋に置いてあるかもしれないわね~」
「……魚○イトは有名」
なんでそんなに有名なんだろう、魚臭いアニ○イト。
地元出身のレティさんの口からそんな単語が出てくるのはあまり違和感ないですけど、マイさんも知ってるとは。
キスメが前に行ってきたそうですけど、本当に魚臭かったらしいです。
「ヤマメも行く?アニ○イト」
「いや、遠慮する……というか用があるのは魚屋でしょうに」
「魚臭いのが嫌ならと○のあなとかメ○ンブックスとかあるわよ~?」
「メ○ブはダメだろ!なんていうか理由はメタだから言えないけど!」
店舗の約1/3を占めている某弾幕STGコーナーが主にダメです。
自分で見に行って何が楽しいんだ何が。
早く話題を変えましょう。
「そ、そうだユキさんとマイさんはおいくつなんですか?」
「まだ誕生前だから20歳だよ。大学3年生の」
「……双子だから私も同じ」
なら勇儀さんやパルスィさんと同じ学年ですね。
神綺さんは何歳なんでしょうか。
恐ろしくも聞いてみたくはありますが……、
「母さんの年齢?私達でも知らないんだよねー。免許証とか絶対見せてくれないし」
「おかげで書類書くときは苦労したわね……」
「……適当に書いた」
この有様。
適当って許されるのか。
確かに女性に年齢を聞いてはいけないとはいいますが、あれって男が聞いてはいけないって意味なんじゃないですかね。
話しながら歩いていると、まさに今話題にしていた神綺さんが私たちを見つけたのか大きく手を振っている光景が。
どう見ても子持ち、いや20代にすら見えるかすら怪しいです。
後で若さの秘訣でも聞いてみましょうか。
「久しぶりねアリスちゃん~♪ホームシックにならなかった?風邪ひかなかった?」
「お生憎さま、心も体も健康そのものよ」
「そっけないわね……せっかく4ヶ月ぶりに会ったんだからお母さんの懐に飛び込んできてもいいのよ?」
「友達いるんだからやめてくれない?」
子離れできてない、という表現がぴったりですね。
大学生の今なら簡単にあしらえるんでしょうが、思春期真っ盛りの時とかどうしていたんでしょうか。
私なら絶対喧嘩してたと思うなあ……。
当の過保護ママこと神綺さんはアリスさんの発言にようやく私達の存在に気づいた様子。
アリスさんしか見えてなかったんでしょうか。
「あらいけない……私、アリスちゃんの母の神綺と申します。アリスちゃんと仲良くしてくださってありがとうね」
「黒谷ヤマメです。アリスさんとはルームメイトということもあって仲良くさせていただいてます」
「同じくルームメイトのレティ・ホワイトロックです~」
変わり者同士の上っ面だけはまともな自己紹介。
上っ面だけといいますか容姿はレティさんも神綺さんも素晴らしいものがあるんですけどね。
いや別に胸だけじゃなくて。
「ルームメイトのヤマメちゃんとレティちゃんね。ぜひご挨拶したいと思ってました」
「そうでしたか。立ち話も何ですから、よろしかったら続きは部屋に上がってからにしましょうか~」
「アリスさんがよく掃除してくれるので、私達が散らかしてない限りは綺麗な部屋ですので遠慮なさらずにどうぞ」
早くも神綺さんのペースに乗せられているような気がします。
ちなみに部屋を一番散らかすのは私。
主に部屋で試薬作ってたりするせいですが。
それでもそんなに散らかってないし、実際のところはアリスさんの掃除もあまり必要ない程度には部屋は綺麗なはずです。
「おじゃまします~」
「おーほんとに綺麗。アリスやるじゃん」
「そこまでしょっちゅう掃除してないから綺麗なのはルームメイトの二人のおかげよ」
ユキさんの反応を見てちょっと安心する私です。
アリスさんは謙遜しなくてもいいのに。
とりあえずコーヒーでも淹れましょうか。
他には……確か先日文さんをジエチルエーテルで昏倒させたお詫びにあげる予定だったクッキーが戸棚にあったはずです。
戸棚を開けるとそこには、
『美味しくいただきました Byてゐ』
「あんにゃろ……」
四葉のクローバー柄の紙切れにクッキーの消失を意味するメッセージが。
そろそろこれまでの被害をまとめて警察に持っていったほうがいいかもしれません。
特に塩酸とアセトンはよく使うから早く返して欲しいんですけど。
リッター単位で盗られていますしキスメしか部屋にいない時を見計らって取り返してもすぐに気づかれるし。
問題は被害物品の中に塩酸ジアセチルモルヒネ、つまるところのヘロインが含まれてるってことです。
麻薬及び向精神薬取締法によって製造・所持、果てには医療目的の使用すら厳しく規制される通称『薬物の王者』。
静脈注射して数分後に訪れる『ラッシュ』と呼ばれる強烈な快感は
「人間の経験しうるあらゆる状態の中で、他の如何なるものをもってしても得られない最高の状態」
とまで形容される一方で、
「ほかの何でもない地獄そのもの」
と表現される苛烈な禁断症状はあのジョン・レ○ンをしてネガティブキャンペーン的楽曲《C○ld Turkey》を作らしめるほど。
私もカラオケで時々歌います。
ジョン・レ○ンの名誉のために補足すると彼はヘロイン使用歴はないはずです。
もちろん私にも使用歴なんてあるはずがない。
奪った試薬を全く触っていない(キスメ談)てゐさんも多分セーフ。
あくまでコレクションとして作っただけです。
死ぬほど話が逸れましたが、要するに私が捕まるんで警察を頼るにはまずアレをどうにかしないといけません。
「ヤマメ~、遅いけどどうしたの~?」
「あ、ごめんぼーっとしてた」
レティさんの声で我に返る。
仕方ない、クッキーが無いなら猛暑に備えて冷凍しておいたフルーツゼリーを出しましょう。
こっちは多分てゐさんに盗られてはいないはずです。
冷凍室を見ると、今度は紙切れも無く無事なゼリーが。
レティさんが好きなんですよね、これ。
コーヒーを注いでゼリーと一緒に全員に渡します。
「こんな物しかお出し出来ませんが、よろしかったらどうぞ」
「あら、このコーヒー良い香り。こんなに気を遣ってもらわなくても構いませんのに」
「いえいえ、遠くからいらっしゃってお疲れでしょう」
「そうでもなかったわよね~。ほら、なんだっけ新しい新幹線。あれに乗れて満足でした」
昨年小惑星から奇跡の帰還を果たして話題になった探査機と同じ名前を冠する新幹線ですか。
私はこの街に来るとき飛行機使ったから乗ったことないんですよね。
旅行とか行くときに乗ってみたいです。
あまりお金無いので多分無理でしょうけど。
そもそも旅行なんて行く余裕もあまりありませんし。
「そうそう、アリス……きちんと朝起きてる?」
「うっ……ゴホッゴホッ」
突然のユキさんの質問に思わずむせるアリスさん。
1時限目の授業がある日は8時30分に私に起こされ遅刻ギリギリ、
2時限目からの日は10時起床、午前に授業がなかったり休日だったりすると昼まで寝てるのがきちんとに含まれるのか。
「ルームメイトのお二人さん、どうなの?」
「「朝起きません」」
「……案の定」
返答がハモりましたね。
レティさんはアリスさんを起こさないため布団から引きずり出すのはもっぱら私の仕事となっています。
前はユキさんやマイさんがやっていたんでしょうか。
「前はね、私とマイがアリス担当だったの」
「前は、とおっしゃいますと」
「……お母さんも朝に弱い」
「母さんを起こすのは夢子姉さんの担当だったんだよね」
去年は姉さんが就職して朝忙しくなったせいでマイが母さんを、私は一人でアリスを起こす羽目になった、
とため息を付くユキさん。
私も一人でアリスさんを起こすの大変です。
その苦労を知っているものとして妙な親近感を覚えました。
「仕方ないじゃない……私もアリスちゃんも低血圧気味なんだから~」
「低血圧で全てが許されるほど世の中甘くないから!」
「だから低血圧でも許される会社を立ち上げたんじゃない」
「アレ会社って言えるの?」
低血圧の人って胃下垂である可能性が高いんですよね。
胃下垂だと食べても太りにくいとか。
どんなに寝坊しても1日3食は欠かさないアリスさんがスレンダーな体型を維持してる理由がわかった気がします。
羨ましいけど朝起きられないのは嫌だなあ……とも思ったり。
それにしてもアレって何だろう。
口ぶりからして4人の娘を大学に入れるほどの収入を神綺さん一人が得ているようですが……。
「あの……アレというのは」
「女の秘密よ♪」
「まあ……母さんは一部業界で神と呼ばれ崇められる存在である、とだけ言っておくよ」
神って何だ神って。
ますます謎が深まりました。
ただ、これ以上詮索したらいけないという雰囲気がします。
触らぬ神に祟りなし。
まさに言葉通りですがそうしておくことにしましょう。
ところで……、
「アリスさーん、さっきから静かだけどどうしたのー?」
「……」
へんじがない ただのしかばねのようだ
……じゃなっくって、座りながら寝てますね。
私も高校の日本史の授業はこんな姿勢でよく寝てました。
キスメは数学の時間はずっと机に突っ伏して休み時間まで寝てましたね。
「アリスさん珍しく今日は早起きだったからかな」
「……それは異常事態」
「あのアリスが早起きしたのって、大学受験でもなかったことだよ」
寝坊して私大の入試に遅刻しかけた友人がいましたが、まさか国立大でそれをやる人が身近にいたとは。
彼女……霊烏路空は今どうしているんでしょうね。
一応地元のどっかの大学に受かったとか聞きましたが、どこだっけかなあ。
とりあえずアリスさんが風邪を引かないように布団を敷いて寝かせます。
寝相悪いからすぐ蹴っ飛ばして床で寝そうな気もしますけどね。
アリスさんの寝乱れた写真フォルダは既に私のパソコンのHDDを1GB以上占領しています。
よだれ垂らしてたり枕に抱きついたりとレパートリーが豊富でかわいいんですよね。
「やっぱり寝てるアリスちゃんが一番かわいいわね~♪」
「それはアリスが母さんにはデレないせいだと思うよ」
「……反抗期」
「昔はもっとお母さんに笑いかけてくれたのになあ……」
神綺さん、それは多分自業自得です。
私には兄弟姉妹がいないのでよくわかりませんが、やっぱり末っ子は可愛がられやすいんでしょうか。
空、通称お空とは別の高校時代の知り合いに古明地さとりという人がいましたが、彼女には妹がいましたっけね。
姉がきのこ派、妹はたけのこ派だったから遊びに行く時に持っていくお菓子はいつもカ○トリーマアムでした。
あの姉妹はしっかり者の姉とフリーダムな妹という構成でしたからアリスさんの家庭とどこかかぶりますね。
フリーダムなところがかわいいんだとよく言ってましたっけ。
久々にメールでもしてやりますかね。
私が高校時代の友人たちを思い出して一人懐かしく思っている一方、
レティさんはニヤニヤしながらさっそくタオルケットを蹴飛ばしたアリスさんの寝顔を写真に収めています。
同様の行動を取る神綺さん。
アリスさん愛されてるなあ……。
「じゃあアリスも寝ちゃったし私たちはお暇しようか」
「それもそうね。夢子ちゃんにおみやげ買わないと」
「……魚○イトでフカヒレ」
だから魚臭いアニ○イトにはフカヒレは売ってないって。
心の中でマイさんにツッコミを入れますがおそらくは届いていまい。
別に今うまい事言ったなんて思ってはいません、断じて。
「おじゃましました。これアリスちゃんに渡してくれる?あと二人にはこれを」
「い、いや私達はいいですよ!ねえレティさん?」
「ありがたく頂きます~」
「私がこうして振ったにもかかわらず貰うのかい!図々しく見えるよそれ!」
そりゃ何か貰えるのはありがたいけども。
せめて形ってものがあるでしょうに。
「ヤマメちゃんも遠慮しなくていいのよ?アリスちゃんと仲良くしてもらってるお札よお札」
「すいません私今聞き間違えたかもしれません。多分お礼って仰ったんでしょうけどお札って聞こえました」
「漢字似てるし中身を言ったまでよ♪気にしない気にしない」
ごめんなさい尋常じゃなく気にします。
これまでさんざん金欠をネタにしてきた私ですが、友達のお母さんにお小遣い貰うほど困っているわけでは。
神綺さんとしては普通の感覚なのかもしれませんが私としては些か心がとがめます。
だってこの包み厚さ3ミリくらいありますよ、野口さんだったとしても貰うのはばかられますよ。
「じゃあこうしましょうか」
「どうするんです?」
「私のメールアドレス教えるからアリスちゃんの写真を送ってくれない?これはその代金ということで♪」
「はあ……」
それなら……まあいいか。
私の心の悪魔が貰ってしまえと囁いて天使が徹底抗戦をしていたところでしたが、
それを聞いて天使が白旗を掲げました。
神綺さんとアドレス交換をして紙包みを受け取ります。
心なしか包みが重いなあ……。
ついでとばかりにユキさんやマイさんともアドレス交換をすることに。
「あ、私達iPh○neだからアドレス教えてくれたらこっちからメール送るよ」
「じゃあ、はい」
「えーと……長いね」
「すいません、お気に入りの試薬の英語名と化学式なんです」
赤外線通信ができない人にはよく長いといわれます。
なんかもっと簡単なアドレス交換の方法とか無いんですかね。
「よっし、できたっと」
「……次は私」
「マイさんのiPh○neは白なんですね。服も黒と白で対照的ですし」
「……双子だから区別しやすいように」
なるほど、イメージカラーが決まっていれば知ってる人は間違えませんね。
まあ、ユキさんとマイさんは髪型も違うし見分けはつきやすそうですが。
「見た目が黒くて心は潔白なのがユキ、見た目が白くて腹黒いのがマイ。ほら覚えやすいでしょ?」
「……そんなに腹黒くない」
「クラスがわかれたときに『やっと役立たずと別のクラスになれる』って喜んだのはどこの誰かな?」
「……誰だろう」
姉妹喧嘩ってなんとなく羨ましいですね。
私も年上のきょうだいが欲しかったです。
アリスさんの家庭が羨ましいなあ……。
「ヤマメちゃん、そんな目で見つめないで欲しいんだけど」
「ああ、すいません。姉妹っていいなって思ったもので」
「そうかなあ……私は逆に一人っ子が羨ましかったよ」
「……ほらユキだって私いらないって」
「拗ねるな拗ねるな。そういう意味じゃなくって、単純にお菓子独り占めできたりゲーム取り合わなかったり」
お菓子は一人分しか無いから独り占めも何もないし、ゲームは1日1時間でしたからねえ。
ユキさんの話はいまいちピンと来ませんが、そういうものなんですかね。
ちなみにキスメは1日に何時間もゲームやってますね。
寮生活の今も毎日モン○ンやってます。
たまに狩りに付き合わされますね、文さんとてゐさんがいない時とか。
他にもポ○モンの厳選に精を出したり。
私は寮生活始めるまでゲームに時間制限ありましたからキスメに邪道と罵られつつも乱数使ってます。
野生から育てたポ○モンだけで電車100人抜きを達成したレティさんにはどっちもどっちだと呆れられました。
それはそれで大変だと思うんですよね。
「それじゃあねー、アリスによろしくー」
「……おじゃましました」
「うちの近くに来ることがあったらぜひいらしてね~♪」
いけない、ゲームなんていいからお見送りしないと。
でもアリスさんの家以前に大都会に行くことが今後あるんでしょうかね。
キスメはお盆にお○場に行くと息巻いていましたが、私にはあんな人の多いところに行く気は起きません。
「もし薄い本とか描いてるんだったら送ってくれればお盆にマイが一緒に売ってくれるよー」
「……大きな声で言わないで」
「じゃあ逆に買ってきて欲しいものがあるんだけど~」
「レティさん!?」
授業中にわからない問題があって当たるな当たるなと思っているときに限って当てられるじゃないですか。
あれと同じ気分を味わってます。
以心伝心って言うんですかこういうの。
ドクター○リオのメロディをパクった歌じゃないですよ。
そしてレティさんが薄くて高い本を欲しがっているという事実にも驚きです。
ジャンルは何だ、アドベントチル○レンか。
レティさんのTwi○terのハンドルネームはレティシアだったりします。
先日ブラウザを覗き見たらすぐに閉じられてめちゃくちゃ怒られましたがそれだけは確認できた。
後でアカウント特定しておこうっと。
「細かい話はメールでしようか。母さんが変な気起こさないうちに退散するよ」
そう言って、既に部屋を出た神綺さんを追って走りだすユキさんとマイさん。
私とレティさんも寮の入り口までついていき、手を振ってお別れしました。
「じゃあねー!アリス起こすの頑張ってー!」
手を振り返して叫ぶユキさんの発言がなんとなく重いですが、まあ良しとしましょう。
3人の姿が見えなくなってからレティさんと顔を見合わせ頷き合います。
「いくら入ってるかしら~」
「何に使おうかなー」
期待に胸をふくらませ紙包みに手を突っ込みます。
引き出してみると、日本人から最も愛されているであろう某KO大学の創始者の肖像画が。
「1、2……7枚!?どうしようこんな大金!?」
「後でアリスの写真たくさん添付したお礼のメール送る必要があるわね~」
「もう新たに撮る度に送るレベルだよこれは……!」
我ながら意地汚いと思いながらも大喜び。
ついでにアリスさんの分も覗いてしまいましょうか。
「やっぱり多いんだろうなー、10枚とか?」
「早く見せてくれる~?」
あれ、なんだろうこのすべすべした手触り。
取り出して見てみると……、
「……10億旧トルコリラの小切手が20枚くらい入ってるんだけど」
「……さすがにお金持ちのやることはよくわからないわね~」
インフレで有名だった旧トルコリラを小切手で寄越すとは神綺さんも侮れない。
新紙幣の移行に伴い2006年から回収が始まり、2016年に失効が決まっている、とググったら出ました。
2004年時点での対ドルレートは1億5000万旧トルコリラ以上。
140ドルに満たないですね。
日本円の戻したところでどうあがいても私たちが貰った額には届きません。
さらに円高が追い打ちをかけている状況ですからね。
子煩悩に見えてなかなか娘にひどい仕打ちをするようで。
これを見たらアリスさんどんな顔するんでしょうか。
写真に収めるために文さんにデジタル一眼レフカメラ借りましょうかね。
時計を見るとまだ11時半、まだまだ今日は騒がしくなりそうです。
こういう会話に憧れますなぁ
おもしろかった!
小ネタの多さが嬉しいですが、ケミカル要素はちょっと減ってきてますね。
可愛いよ神綺様
可愛いよアリス
続きも期待してます~
完全に二次だからやろうと思えば他のキャラでも可能だよ
神綺とは違って名無しだが
こういうの好きなので、これからも頑張ってください。
あと乱数は仕方ないですよね…
ガチ環境では少しの妥協が命取りになりますし。
楽しかったです
自分としては科学ネタもっと欲しかったりしました
まあ少なくてもこのノリなら全然いけるから問題ないですが。
と現役工学部生がつれづれと
仙台は自分の地元なので良く分かりますwww
今度遊びに行ったときはずんだ餅片手に行ってみようかな・・・w
ずんだもちが魚臭くなりそうだがw