名前。
家族。
長所。
取り得。
アイデンティティ。
居場所。
何一つ持たないわたしに、朝は来ますか?
ならいっそ、夜の住人になりたいなって思います。
・
・
・
・
・
・
・
・
「……ねぇ、お願いだから顔を上げてよ」
いくら自分がこの館で一番偉いからって、ここまでされたら恐縮してしまう。
重たい空気に耐えかね、レミリア・スカーレットは目の前で五体投地を続ける妖精に声を掛けた。
「………」
それでも顔が上げようとしない彼女に、とうとうレミリアは自分自身が椅子から降り、彼女の頬に手を添えて力を込める。
「んあぅ」
ほっぺたを両手で挟まれ、ぐいっと顔が上がった。その拍子に、湖の大妖精は思わず変な声を漏らしてしまう。
「大ちゃん、どうしたの?私、素直に喜んでいいのか……」
傍で見ていた司書見習いの小悪魔は困ったような表情で、床に手を着いたままの大妖精の下へ駆け寄り、そっと肩に手を添える。
「ごめんなさい。でも、わたし……」
彼女に促され、立ち上がりながらも大妖精は俯き加減で言葉が続かない。
「……とりあえず、状況を整理しましょう」
レミリアはため息交じりに、そう言って場を一旦リセットした。
――― 事の発端はほんの二十分ばかり前。
週に二、三のペースで紅魔館内大図書館に足を運び、本を読んだり小悪魔と一緒に過ごしたり、な大妖精。
この日も昼過ぎ頃にやって来た大妖精の姿を見て、門番の紅美鈴はいつもの図書館だと彼女を通そうとした。
だが大妖精は、美鈴に向かってこんな事を言う。
『あのぅ、レミリアさんにお話したいことがあるんですけど……』
図書館では無く、館の主に直接話。今まで無かったシチュエーションに少々戸惑いつつも、すぐに館へ戻って許可申請。
どうせ大丈夫だろうとは思っていたが、やはり当主への客人はちゃんと許可を取らねばならない。
案の定すぐに許可は下り、美鈴の案内で――― 途中、匂いでも嗅ぎつけたかの如く図書館から出てきた小悪魔も交え――― レミリアの部屋へ。
いざ館の主と対面した大妖精は、暫しもじもじと言い辛そうにしていたのだが―――
――― 不意にその小さな身体を投げ出し、両手両膝をついて床にぶつけるくらい頭を下げた。
いわゆる土下座である。これだけでもレミリアやその場にいた者達を驚かせるには十分だったが、続いて彼女の口から発せられた言葉が場の空気にトドメを刺した。
『……わたしを……わたしを、紅魔館で雇ってください!お願いします!何でもしますから!』
――― そして話は冒頭へと移る。いつまで経っても顔を上げない大妖精に業を煮やし、レミリアが無理矢理身体を起こした。
小悪魔はかねてより、冗談半分本気半分で大妖精に『一緒に紅魔館でお仕事しようよ』と誘ってはいた。
単に大妖精と一緒に過ごせる時間が圧倒的に長くなるからという理由が主ではあったし、本人も満更では無さそうではあった。
しかしその大妖精が自らそう懇願するとは想定外で、しかも妙に真剣――― というより必死さが垣間見え、どうしても能天気に喜ぶ事が出来ない。
何か重大な理由があるんじゃないか。そう思ったのは当然、彼女だけでは無かった。
「いきなり言われてもね。いつも小悪魔に良くしてくれてるのは知ってるし、もう半分くらい紅魔館の一員みたいなモノだったし。
あなたが何か良からぬ事を企んでるなんて微塵も思わないけれど、だからってあっさり許可する訳にはいかないわ」
「……そう、ですよね……」
「で、でも!大ちゃんがこんなに言ってるんですから、何か理由があるんですよ!私からも、お願いします!」
「こあちゃん……」
やはり、おいそれとはいかない。深い事情も知らぬままなのに、小悪魔も深く頭を下げて懇願した。
そんな彼女を少しだけ泣きそうな目で見つめる大妖精を見て、レミリアはふっと笑った。少し、肩の力が抜けたようだ。
「……本当に、仲が良いのね。小悪魔と一緒にいるのを見てると、このまま許可したくなっちゃうわ。
まあ流石にそうはいかないから……面接をしましょう」
「め、面接?」
「そ。就職活動には面接がつきものよ。まずは、志望理由でも聞かせてもらおうかしら。
どうしてあなたは、紅魔館で雇って欲しいの?そこを聞かないと何とも言えないわね」
「……言わなきゃダメですか?」
「そりゃ当然」
純粋な好奇心の詰まった、興味深げな視線を向けられ、大妖精は姿勢を正した。
「……えっとぉ……うまく、言えない部分もあるんですけど……」
「構わないわ。説明出来る範囲でいいから」
心配そうな彼女をレミリアが促すと、ようやく話し始めた。
「……とは言っても、そこまで切羽詰まった理由とかがあるワケじゃないんです。
ただ、誰かのために働いてる姿っていうのに、ものすごく憧れるんです」
「ふぅん?」
意外性のあるような無いような、な言葉が飛び出した。相槌で続きを促す。
「わたし、生まれてこのかた誰かに貢献したことがないなぁって、ふと考えてしまったんです。
毎日をただぼんやり生きてるだけと言うか……何もしないままでいていいのかなって」
「随分と哲学的ね」
「大ちゃんは頭いいんですから」
皮肉では無く、ふと思った事を呟くレミリアに小悪魔がそんな言葉を投げる。
彼女の発言に頬を染め、軽く首を振りながら大妖精は続けた。
「べ、べつにそんな。で、えっとぉ……そうそう。それで、何かしたいと思って最初に浮かんだのが紅魔館なんです。
毎日館の安全を守る美鈴さんとか、能力もフル活用して家事全般をこなす咲夜さんとか。
いつも会ってるからかもしれませんけど、パチュリーさんの助手として毎日頑張ってるこあちゃんも、とても印象に残ってます」
今度は小悪魔が顔を赤らめる番だった。
「そんな風に、頑張って毎日誰かのために働くっていうのが、わたしにとって本当にカッコいいんです。そうなりたい、って思うんです。
わたしは一人の妖精に過ぎませんから、レミリアさんのように誰かをまとめるなんてできません。
けれど、だったらお世話になってる人が少しでも笑顔で暮らせるように、何かしたい……って。
えっと、それで……」
上手く言葉にまとめられないのか、こめかみの辺りを押さえて大妖精は言葉に窮する。
そんな彼女にレミリアは頷き、口を開いた。
「いいわ、ありがとう。あなたの気持ちは良く分かったわ。
他者に貢献する、誰かの笑顔のために働くという姿勢に憧れを持った。自分もそんな存在になりたいと思って、人が多く働いている紅魔館の門を叩いた。
それにここは、あなたにとっても馴染みの深い場所だから貢献のしがいもあるし、その住人として一緒に働きたい……簡潔に言うなら、これでいいのかしら?」
「は、はい」
頷く代わりにぺこぺことお辞儀を繰り返す大妖精。そんな彼女の様子に思わず『そんなに恐縮しないでよ』なんて笑みがこぼれる。
「それにしても、結構難しい事を考えるのね。自分自身の存在意義を問うてるみたいな感じ。
何というか、自我への目覚めみたいなものかしら?一個人としての、ア……アイアンメイデンじゃなくって、えーっと」
「アイデンティティ」
「そう、それ……パチェ!何だか私がカッコ悪くなっちゃったじゃない!」
「ほっといたらますますカッコ悪いわよ」
「耳打ちするとか、気を利かせなさいよ!」
「視界に入る時点で同じじゃない」
話を聞いたのか、丁度部屋にやって来たパチュリー・ノーレッジが華麗に補足。恥ずかしそうに頬を膨らませるレミリアにも涼しい顔だ。
その時、張り詰めた空気を優しく押し破るかのように、鈴の音のような笑い声が響いた。
「あはははは!!な、なんだか……本当に、楽しそうでいいなぁ……」
笑い声の主は、一寸前まで難しそうな顔をしていた大妖精だった。
唇を尖らせてパチュリーを一睨みし、取り繕うように咳払いをしてからレミリアは真面目な表情に戻る。
「こ、こほん……まあ、この通り突発的な漫才もあるのが紅魔館よ。何でもこなせなきゃ。
それよりあなたの事を考えなきゃ。雇用問題は簡単に決断しちゃいけないわ。
この館を気に入ってくれてるのは嬉しいし、あなたなら馴染めそうな気もするけど……そうね、それじゃあ……」
「い、いいですよね!?大ちゃんがこれほど紅魔館の事を思ってくれてるんですし、メイドの子だっていっぱいいるんですから一人くらい増えても……」
「こらこら、落ち着きなさい。レミィの事だし、悪いようにはしないわよ」
何としてでも大妖精を迎え入れたい小悪魔は、興奮した様子でまくし立てる。それを微笑ましそうな表情で、パチュリーが落ち着かせた。
二人の顔を見て頷き、彼女は大妖精へ向けて告げた。
「……テストをしましょう。あなたが本当に、この紅魔館の一員に相応しいかどうかを見てあげる」
・
・
・
・
・
――― 翌朝、午前九時。
集合時刻は九時半だったのだが、三十分早く尋ねてきた大妖精を、パチュリーと小悪魔が紅魔館のエントランスにて出迎えた。
「もしかしたら、本当に大ちゃんがウチにくるかも知れないんだよね……えへへ」
「この子ったら昨日からこんな調子でずっと笑ってるの。気が早いわね」
にこにこ笑顔の小悪魔と、呆れ半分ながらも同様に笑っているパチュリー。
嬉しいと同時に気恥ずかしくて、頬を染めつつ大妖精は尋ねた。
「が、頑張ります……ところで、レミリアさんは?」
「あー、多分寝坊ね。本来夜行性だから」
「ごめんなさい……わたしのために、わざわざ」
「いいのよ、そもそもこの時間を指定したのはレミィの方……あ、来た来た」
噂をすれば何とやら、寝ぼけ眼のレミリアが帽子を90度横に被った状態で現れた。
「おはよ……今日から採用テストね。が、がんば……ふわぁぁぁ」
あくびの拍子に、ぺろん、と帽子のリボンが顔にかかる。息に煽られてひらひら。
ばっ、と彼女の帽子を取り、きちんとした角度で――― 目が隠れるくらいにぐいっと深く――― 被せてやってからパチュリーはため息。
「まったく……それじゃ、私から説明するわ」
「ちょっと、前が見えないじゃない!パチェ!」
「シャラップ」
「うー!」
抗議を始めたレミリアの口に、ポケットから出したカードのような物をぴしゃりと張り付ける。
魔力が込めてあるのか取れないようで、うーうー言いながら何とか剥がそうと試みる彼女を尻目に、改めてパチュリーは説明を始めた。
「あなたには、一通り紅魔館における仕事を体験してもらうわ。
門番隊、メイド、図書館司書手伝い……が主かしら。もう一つあるけど、それはまた後で」
図書館司書手伝い、の部分で小悪魔の目の輝きが一層増した事には敢えて触れず、パチュリーは続ける。
「これが全てではないけれど、人手が要りそうなのはこの辺りだから。
仕事中は、それぞれのリーダー……まあ言わなくても分かると思うけれど。美鈴と咲夜と私、が仕事ぶりをチェックするわ。
で、最終的に紅魔館で働くに相応しい、或いは必要な人材かを評価して、合否を決定という所ね。もっとも……」
彼女は言葉を切り、未だ口に張り付いたカードと戦っているレミリアをちらりと見やる。
「……最終的な決定権は、そこのお口チャックされた当主にあるから。仕事中の総合チェックも行うって話よ」
「むぐー!」
「小悪魔、適当に遊んでから外してあげて」
「はぁい」
「じゃ、早速だけど行くわよ。まずは門番……外ね」
『お嬢様、動かないでくださいねー』と、小悪魔はペンを取り出して口に張り付いたカードにやたらとセクシーな唇を描き込み始める。
くすぐったいのかびくびく身体を震わせて笑っているらしいレミリアと、実に楽しそうな小悪魔をその場に残し、パチュリーと大妖精は移動を始めた。
玄関を開けながらパチュリーは、ふと背後で未だもごもごやっている当主の姿を見やる。
彼女の脳裏に蘇る、昨晩の会話。
『ねぇ、あの子の事……ちょっと監視しててくれないかしら。仕事以外の時にさ』
『監視とは穏やかじゃないわね。いいけど、何か疑ってるの?』
『なんか……必死すぎるのが気になって。いくら雇って欲しいからって、普通いきなり土下座なんかしないわよ。
雇ってもらえなかったら死ぬ、くらいの勢いだったからちょっとね……。
嘘をつくとは思えないけど、まだ他に理由がある気がしてならないの。疑う訳じゃないけれど、何か変な素振りがあったら教えて』
(……何か企んでるとでも言うの?このお人好しの権化のような子がねぇ……)
やや緊張の面持ちで隣を歩く大妖精を見て、パチュリーは内心で首を傾げた。
・
・
・
「やー、お待ちしてました!」
外は実に良い秋晴れだが、出迎える美鈴の笑顔もそれに劣らない。
彼女に合わせて思わず敬礼のポーズを取ってしまう大妖精に笑いつつ、パチュリーは大妖精の背中を押した。
「じゃ、後は美鈴に聞いて。頑張ってね」
ポンと肩を一つ叩き、彼女は館内へ引き上げていく。
パチュリーの後姿を見送った後、未だ笑顔の美鈴と見つめ合う大妖精。
その状態で二分、ぼけーっと時間が過ぎた。頭上を飛んでいく雀。
そろそろカップ麺も伸びるかという頃になり、ずっとにこにこ笑ってた美鈴がようやく、何かに気付いた顔になった。
「あっ、ごめんなさい。説明要りますよね」
「あ、はい」
どうやら、既に仕事は始まっていたようだ。きっと何もしていないように見えて、気を張り巡らせていたのだろうと大妖精は脳内補完する。
「とは言っても、しょっちゅうお会いしますから大体分かるとは思いますけれど。
ご想像通りの門番仕事です。ここに立って来客応対、有事なら真っ先に飛び出して迎撃です。まあ滅多にありませんよ」
「美鈴さんだけなんですか?門番って」
「私が休憩してる時とか、お休み頂いてる時とかは代理で、門番隊に回されてるメイドを何名か置きますよ。
勿論、来客応対は問題ありませんが万一敵が来たりしたら不安ですし危険ですから、いつでも出れるようにはしてます」
聞くからに責任の重い仕事なのに、一連の説明をする美鈴はずっと笑顔を崩さない。余裕すら窺える。
『それじゃあやってみましょう!』との号令で、門を挟んで左右に立つ二人。
ちょっぴり緊張しながら、大妖精は前を見た。離れた所に立ち並ぶ木々が、そよ風に揺れる光景をぼんやりと眺める。
かと思えば、
「ねぇねぇ、ちょっと聞いてくださいよ~。昨日のコトなんですけど」
「なんですか?」
「お嬢様がですね、珍しくご自身でお料理したいと仰いまして。じゃあまずはオムレツでも、ってことで咲夜さんに教わってたんですね」
「レミリアさんって、普段はお料理されないんですか?」
「ええ、やっぱり当主ですから。もっぱら咲夜さんの役割ですし。
で、いくつか作ってみて自信がついたのか、今度は一人でやるって」
「一人でできれば、お留守番の時とかも安心ですしね」
「そうなんですけど、どうやらちょっと遊び心みたいなのが芽を出しちゃったらしくて。
料理人っぽく、思いっきりフライパンを跳ねさせてオムレツをひっくり返そうとしたら……」
「落っことしちゃったんですか?」
「あはは、実は逆で……天井に、びたーんって。見てた咲夜さんや私も、笑いをこらえるのに必死でした。
でもそれで終わってくれれば良かったんですけど、少しして張り付いたオムレツが降ってきて……」
「まさか」
「はい、お嬢様の頭にクリーンヒットです。黄色い帽子を被ったみたいになって、とうとう我慢できなくてみんなで大爆笑。
泣きながらどっか行っちゃった後、当分料理はしない、って拗ねちゃいました。今はパチュリー様が『私の方が下手だから』って励ましてるらしいです。
……あ。このお話、お嬢様にはナイショにして下さいね?バレたら大変です」
――― こんな具合に美鈴が何気無い話を振るので会話が尽きない。
目に浮かぶ、あの紅魔館当主のコミカルな姿に大妖精もくすくすと笑ってしまう。
楽しげな彼女を見て、美鈴も嬉しそうだ。いつしか緊張も忘れて自然と会話が繋がり、双方口が休まらない。
「――― で、思わず私、言っちゃったんです。『今の咲夜さんのお顔の方がサイエンスフィクションですよね!』って」
「どんなお顔だったんですか……」
「いやあ、言葉じゃ形容出来ませんねあれは。そしたら時間が止まったらしくて、気付いたら咲夜さんが背後にいて。
峰打ち用のナイフでポカリとされちゃいました。口は災いの元ですね」
あはは、と笑いながら美鈴が帽子を取ると、そこには小さなタンコブ。大妖精が釣られて笑っていると、
「あれ、大ちゃんだ。なにしてるの?」
気付いたらすぐ前方に人影があって声を掛けられた。赤を基調とした服が緑の背景に対して目立つのは、ここが紅魔館だからという訳でも無いだろう。
騒霊キーボーディストのリリカ・プリズムリバー。いつものようにキーボードを抱えた彼女が、いかにも物珍しそうな視線を向けてきていた。
「こんにちは!」
まず美鈴が挨拶。
「リリカちゃん、こんにちは」
続いて大妖精も挨拶。
「あ、うん。こんにちは」
最後にリリカがぺこりと頭を下げた。
一連の流れで形成された妙な一体感に思わず苦笑いを滲ませつつ、彼女は再び尋ねる。
「あいさつはともかくさ、大ちゃんは何してるの?今日は図書館じゃないんだ」
「え、えーっとね……」
大妖精はしどろもどろ。今まさに採用試験中です、なんてストレートにも言い辛い。
迷っていたら、美鈴が助け舟を出してくれた。
「門番のお手伝いをして頂いているんですよ。紅魔館も人手不足ですし、一人よりは二人の方が安心ですしね」
「ははぁ。アルバイトみたいな感じ?大ちゃんよく里でアルバイトしてるもんね」
「う、うん。そんな感じ、カナ……」
ぽりぽりと頬をかきながらとりあえず肯定。ふむふむ、と数回頷きリリカは納得の表情。
「そっかぁ。あ、ごめんねお仕事の邪魔しちゃって。私はただ散歩してただけだから……じゃ、頑張ってね」
互いに手を振り、彼女はそのまま元来た方面へと飛んでいく。
「やっぱり珍しいんでしょうか……わたしがここにいるの」
「門の前で立ってるのは珍しいでしょうね。紅魔館自体はともかく」
小さな姿が見えなくなった頃、そんな会話を交わす。当たり前と言えば当たり前だが、自分がまだこの場所に馴染めていない、そんな気がして少しだけ気持ちに陰りが差す。
まだ採用された訳でも無いのに何故そんな事で悩むのか、自分でもよく分からない。
しかし、それから五分もすると彼女の暗い気持ちはどこかへすっ飛んだ。
「………」
「ほほう」
「ね、珍しいでしょ?」
別れたばかりのリリカが、姉二人を連れて戻って来たのだ。
門前に立つ二人から数メートル離れた位置より、三姉妹並んで見る。超見る。ガン見である。
「……あ、あのぅ」
近くからじぃっと見つめられ、恥ずかしくて自然と顔が赤くなる。
耐えかねて声を掛けると、流石に申し訳無く思ったかルナサが頭を下げる。
「ご、ごめんなさい。リリカが珍しい光景が見られるって言うから来てみたら、あなたがいたから驚いちゃって」
「うんうん。門番さんが二人ってだけでも珍しいのに、それが大ちゃんと来たらね」
その横でメルランも頷く。相変わらず笑顔を絶やさない。
「でもさ、不思議と似合うよね。親和性っていうのかな?紅魔館にいること自体がさ」
「そ、そう?」
先の不安を消し飛ばしてくれるような発言に思わず食い付く大妖精。
「うん、いい意味でだよ。まあいつも図書館に行ってるらしいから、馴染んでるのかもね」
リリカはそう言って笑う。
彼女達が去って行った後、美鈴は大妖精へ笑顔を向けた。
「よかったですね、お似合いですって」
「はい……ちょっぴり安心しました」
柔らかく笑い返す。それからは暫し会話が途切れ、遠くに視線を投げながらぼんやり。
だが、更に数分後―――
「わー」
「こりゃ珍しい」
「大ちゃんが門番?」
「敵とか来た?」
「来てたらこんなのんびりしてないでしょう」
「サマになってるよ、やっぱ」
「写真撮りたいね」
一度は去った三姉妹が、今度はルーミア、チルノ、リグル・ナイトバグ、ミスティア・ローレライの仲良しお子様組を連れて戻って来たのである。
ギャラリーが倍以上に増え、大妖精は勿論、さしもの美鈴もどこか緊張した面持ち。
どこかで遊んでいたのを引っ張って来たのだろう、彼女達は一様に興味津々だ。
見る。超見る。それはもう見る。ねっとり見る。穴が開く程見つめる。包囲網を狭めてもっと見る。無遠慮の極みである。
「は、恥ずかしいよぉ……」
十四もの視線を浴び、いつしか顔を真っ赤にした大妖精の弱々しい声でようやく少し離れる一同。
「敵とか来ないの?大ちゃんが門番するトコ見たい!」
「そうじゃなくても、お客さんとか」
「う~ん、今日は全然来ませんね。いや、ある意味いっぱい来てますけど……」
美鈴が苦笑いしていると、不意に頭上から声が降ってくる。
「あれ。珍しく紅魔館の門に人が集ってると思えば……それに、なんか門番増えてない?」
声の主は博麗霊夢。首を傾げながら降り立つと、美鈴の横に立つ大妖精の姿をまじまじと眺める。
すると、不意にチルノが今来たばかりの彼女を指差して叫んだ。
「あっ、大ちゃん!敵!敵きたよ!早くなんとかしなきゃ!」
「えっ、えっ!?」
不意なネタ振りに驚き戸惑う大妖精。すると今度は彼女を囲んでいた一同までもが名乗り出す。
「あ、じゃあ私も敵」
「私もなのかー」
「私もやろっと」
「んじゃあたいも」
「私も私もー」
「戦隊モノみたいね。私もやる!」
「よく分かんないけど、私も」
「わ、私は医療事務……じゃなくて。うん、敵で」
「え、えええぇぇ!?」
急な展開にも関わらずしっかり乗って来た霊夢も含め、一斉に2 VS 8の構図。かと思えば、
「面白そうですねぇ、じゃあ私も敵やります!」
「ちょ、美鈴さん!?」
横に立っていた美鈴までもが一同の側へ。
「じゃ、一斉に襲い掛かりますので大妖精さん、ウマイこと捌いてください」
「そ、そんなのムリ」
「それー!」
「わーい!」
「大ちゃん覚悟ー!」
「きゃー!!」
九人が一斉に団子になって突っ込んできて、大妖精は成す術無く飲み込まれた。
地面に組み敷かれた後、座った状態になり代表でメルランが、痛くない程度にがっちりと羽交い絞め。
全く身動きが取れないが、背中にむにむにと天然のクッションが当たるので無性に落ち着くとの後日談。
「ダメだよ、あっさり捕まっちゃ」
「そ、そんなぁ。離してくださいよぉ」
「だ~め、いい機会だから……というワケで、大ちゃんの防御力を鍛えてあげましょう。
だいじょぶだいじょぶ、笑いながら防御力が上がるハッピーなプランだから」
「ますます不安です……」
「はい、それじゃどーぞー」
彼女の声に合わせ、まずチルノが大妖精の傍に屈み込む。
「へへー、大ちゃんかくごー!うりゃー!」
何をするかと思えば、猛烈に大妖精の脇腹をくすぐり始める。
「あっ、やぁ……きゃ、きゃはははははは!!チルノちゃ、やめっ……あははははは!!」
悪戯に慣れた彼女の手つきは非常に的確で、確実に笑いのツボを突いてくる。全身を駆け巡るこそばゆい感触に、大妖精は思わず滅多に出さないレベルの大声で大爆笑。
それを見た一同が一斉に大妖精へ纏わり付き、靴を脱がせて足の裏、腹部、膝の裏、首筋 ――― 思い思いの部位へくすぐり攻撃を敢行。
「はぁっ、はぁっ……あはははは!もう、やめ……ひゃぁんっ!?」
極め付けには、出遅れて身体の部位を攻撃出来ないルナサが、そっと大妖精の耳元にふーっと息を吹きかけるものだから、思わず悲鳴とも嬌声ともつかない声が飛び出す。
そんな状態で五分程大妖精の防御力を鍛えてあげていると、
「あのぉ、そろそろお昼ご飯……なんか面白そうですねぇ、うふふ」
いつの間にか小悪魔が門の傍に立っていて、団子状態の総勢十名を茫然と、だが興味津々の目で見つめていた。
「あはは、大ちゃんの門番としてのステイタスを鍛えていたのだ」
「そそ、門番力ってやつだね」
えっへん、と胸を張るメルランリリカの妹組。『ごめんなさい』と頬を染め、頭を下げるルナサ。
普段あまり出来ない、大妖精への思い切った悪戯が出来て満足げなお子様組。『定期的にやりたいわね』と霊夢。
美鈴は退屈な仕事が一大エンターテインメントと化した事でとても楽しそうだ。
そんな彼女達の脇で、色々と危ない感じに着衣の乱れた大妖精が肩で息をし、まだ感触が残るのか時折身体をびくんと震わせていた。
「大ちゃん、よく頑張った!これでもう大量のダスキンモップに襲われても大丈夫!」
「また鍛えて欲しかったら言ってね」
「はぁ、はぁぁ……も、むり……れすぅ……」
美鈴に助け起こされながら、何とかそれだけを答える大妖精。頬はすっかり紅潮し、目元には涙が滲んでいる。
(今の大ちゃん、何だかすごくかわいい……)
そんな彼女を見る小悪魔の目つきはかなりアブないが、今の彼女にそれに気付けるだけの余裕は無かった。
気付かないと言えば―――
「………」
屋根の上で日傘を差し、そんな一同の様子を高みからじっと見つめる、口元が赤くなったレミリアの姿にもだ。
・
・
・
・
・
午後も美鈴の横で門番を務めるも、訪問者はおらず『ずっと美鈴と雑談に興じる』だけであった。これにて門番テストは終了。
紅魔館に宿泊してそのまま翌朝七時、大妖精は早起きしてエントランスへ。
「おはよう、よく眠れた?」
「おはようございます……えと、こあちゃんと結構話し込んじゃって」
既に待っていたパチュリーの問いに、少し頬を染めて答える。小悪魔の強い要望で、彼女の自室にて寝泊まりしたのだ。
当の小悪魔はいつもの広さに戻ったベッドの上で毛布を被り、未だにすやすやと夢の中。
予想通りだったのか、パチュリーは苦笑い。
「睡眠不足はミスの元よ。まあしょうがないか……じゃ、今日はメイドの仕事をやってもらうから」
「レミリアさんは?」
「寝てると思う。まあその内起きてくるわよ。咲夜、あとよろしくね」
「はい、お任せを」
昨日のように大妖精をメイド長の十六夜咲夜に託し、彼女は自室へと引き上げていく。寝直すのだろうか。
二人だけになった所で、さて、と一言呟いて咲夜は腰に手を当てる。
「聞いてるとは思うけど、今日のあなたは紅魔館のメイドよ。大体仕事は分かるわね?」
「は、はい。お掃除したり、お料理したり、他にも色々」
「本当におおまかだけど、その通り。私が時間止めてやっちゃう部分も多いんだけど、メイドにちゃんと任せる部分もあるから、そこの手伝いね。
最初は私の補佐でもやってもらおうと思ったんだけど……あなた、止まった時の中は動ける?」
「ムリです……」
即座に返され、咲夜は苦笑いと共にぺろりと舌を出す。イメージと違って意外とお茶目な仕草が多い、と率直に思う大妖精。
「やっぱりそうよね。だからその代わりに、あなたにはうちのメイドをまとめてもらうわ」
「まとめる?」
「要は指示を出したりとか、リーダーの役割ね。言うなればメイド副長。私があなたの事を見てる間とか、代わりに他のメイドの仕事を見ながら的確に指示を出すの。
メイドもみんな妖精だし……大妖精のあなたなら適任かなって」
軽々と言ってのけるが、仕事初日からリーダー的役割とはかなりのプレッシャー。
緊張で涼しい時期にも関わらず頬を汗の伝う大妖精に、咲夜は安心させるように柔らかく笑った。
「そんなに固い顔しない。メイドが怖がるわよ?あなたの事はもう伝えてあるから、言えばちゃんと指示は聞いてくれるはず。
深く考えないで、あなたの判断で効率的に家事をこなしてくれるだけでいいの。やれる?」
「が、がんばります」
出来ません、なんてとても言えない。それに、やってみなければ分からない。
大妖精の答えを聞いて満足げに頷き、エントランスの時計を見上げた。七時十五分。
「じゃ、そろそろ朝食の準備ね。これは私も一緒にやるから」
「はい!」
ぽん、と背中を叩かれる。それだけなのに、不思議と自信のようなものが湧いてくる気がして、大妖精は力強く返事をしていた。
いざ厨房へ―――と思ったのだが、その途中で咲夜が何かに気付いたように足を止めた。
「あ、そうそう。忘れる所だった……ちょっとこっちへ」
「へ?」
近くの応接間へと手を引かれていく。
――― それから一時間後、大妖精は姦しい喋り声渦巻く厨房の真っ只中に放り込まれていた。
「卵割ったのだれー?カラ入ってるよ!」
「まな板おもてうら逆じゃない!」
「ベーコンの脂身のけちゃダメだってば!」
「パンこげてる!」
「お砂糖とお塩間違えてない?この目玉焼き甘いよ?」
「ごめん……ってつまみ食いしたでしょ!?」
「こげてるってばー!げほ、げほっ!」
わいわいがやがや、騒乱の絶えない厨房。せわしく妖精メイドが右往左往し、食材が粗末にならない範囲で乱れ飛ぶ。
既にエプロンを調味料で汚した者も多く、さながら戦場。
「ほら、カラはさっさと除けて……ほらそこ、火気を付けて!服の裾!
え、まな板?もう面倒だからそのままやっちゃって。でもちゃんと洗うのよ。
なんか焦げ臭い……パンが?十枚まとめて?あーもう!」
猛烈な勢いで寄せられる救援を捌いていく咲夜。
そんな最中、オーブンでもうもうと煙を立てるトーストだったものを見て、彼女はたまらず時を止めた。
その間に消し炭と化したパンを処分し、内部を軽く掃除して戻す。
「……あれ、きれいになってる……」
「綺麗にしたの。ほら、今度は失敗しないように」
不思議そうな顔をするメイドにまだ焼いていないパンの入った袋を押し付け、すぐに彼女は自分の仕事――― 盛り付け作業に移る。
盛り付けはメイドに全てやらせると、ある者はおかずの配置や乗っけるベーコンの焦げ具合、角度にまで妙にこだわったり。
またある者は逆に『乗ってればおっけー』的な雑さだったりと、日によってお造りかビビンバかと言える程の差が出てしまうので、一括して咲夜と手の早い一部のメイドの仕事になっている。
そして大妖精もまた、顔を合わせて一時間程度しか経っていないにも関わらず既に指示出し側。とは言え頻繁に図書館へ足を運んでいる身、故に顔見知りではあるのだが。
「脂身だけ山になってる?ん~、しょうがないからそれはとっといて後でラード代わりにでも使おうか。
甘いのはしょうがないから脇に除けといてね。今度は間違えないで。つまみ食いは後で好きなだけ食べられるからガマンガマン。
あっ、ほら包丁の握り方。ちゃんと指丸めて……そうそう。危ないから、後で練習してね。
ところでこのオレンジは今日の朝ごはん用でいいの?」
「は、はい」
「そっか、じゃあもう切っちゃおうか。あなたと……じゃ、そっちの二人も。手分けして、このオレンジ全部カットして。
四等分して、その内二個ずつこのお皿に。手が空いてる子……うん、あなたたち。オレンジのお皿をカウンターの方まで運んであげて。
手が回らなかったらまた何人か呼ぶから」
てきぱきと指示を出していく彼女は、普段の青いワンピースでは無くメイド達と同じエプロンドレス姿だ。
色はいくつか種類があるが、彼女のものは黒基調のデザイン。純白のエプロンとの対比が美しい。
咲夜がここへ連れてくる前に、『せっかくだから』と着せたもの。意外な事に、メイドの誰とも被らない緑の髪を三角巾でまとめている。
同じ妖精達の中で、共に最前線で働いているにも関わらず彼女のエプロンだけは全く汚れていない。
「はい、ちょっと通るよ。ごめんね」
大きめの皿を一度に十数枚抱え、狭い厨房を颯爽と駆け抜けていく。
そのままカウンター付近まで行くと、一同の中ではやや珍しい黒い髪を左右で括ったメイドがせっせと盛り付け中。
彼女の脇に皿を置き、大妖精は尋ねた。
「はい、お皿追加。足りる?」
「あ、は、はい!えっと、もうだいじょぶです!はい!」
不意に質問されたメイドは、あたふたとどこか慌てた様子でそれに答え、ぺこぺこと頭を下げた。
「よかった。お仕事早いんだね、すごいなぁ」
予想よりもずっと皿の消費が早い事で、大妖精は彼女の仕事ぶりをにっこり笑って褒め称える。
不意に向けられた笑顔が眩しかったのか、或いは褒められたのが嬉しかったのか。
彼女がそのまま踵を返して仕事に戻って行ってからも、当のメイドは顔を赤らめたまま完全に手が止まっている。
(ほ、ほめられちゃった……)
どきどき高鳴る胸元を押え、何とか心臓の鼓動を落ち着けようと格闘していたら、
「ほら、手が止まってるわよ」
「ひゃいぃ!?ごごごごめんなさいっ!」
咲夜に指摘され、大慌てで彼女は仕事を再開した。
それから更に十五分もすれば、大分忙しさも緩和されて余裕が生まれてくる。
「フライパン洗いましたー!」
「うん、ありがとう」
「えへへー」
「えと、その、見て下さい、お皿まとめておきました」
「あ、ホントだ。洗う時楽だね、ありがとう」
「は、はい……」
殆ど後片付けの準備に入る段階だが、メイド達はそれらの作業を完了すると大妖精に報告。
彼女が『ありがとう』と言うまでがワンセットのようで、口が休まらない。
「ほら、あんまり疲れさせちゃダメよ。ありがとう、おかげで普段よりずっと楽だったわ」
「いえいえそんな。少しでもお役に立ててたらいいんですけれど……あ、運ばなきゃ」
咲夜に頭を下げてから、盛り付けの済んだプレートをまとめてお盆に乗せ、カウンターの方まで持っていく。
大妖精の仕事ぶりと常に相手を気に掛ける事を忘れない優しさは、いつしか同じ妖精達の羨望の的となっていた。
その証拠に『手伝いますぅ!』と十人単位のメイドがドドドドドと後をついていくも、狭い通路につっかえて通れない。
『嬉しいけど、そんなに慌てなくていいよぉ』と笑いながらプレートを取りやすいように並べていると、
「あっ、大ちゃん!メイドの服着てる!かわいいね、それ」
「新鮮ね」
カウンターの向こうに、トレイを手にした小悪魔とパチュリーが並んでいた。やはり彼女の服装に注目。
「そ、そうかなぁ……ありがとね」
「うんうん、すっごく似合ってるよ!ねえ、ちょっと回ってみて」
「こう?」
小悪魔に促され、大妖精はその場でくるりと一回転。
普段の服よりも丈が短く、フリルのついたスカートにエプロンがふわりと翻えるその光景に、小悪魔は思わず見とれてしまう。
「大ちゃん!すっごくかわいいよ!もうそのままメイドになっちゃったらいいのに」
「そ、そんなコトないよ。この子たちの方がずっと似合ってるよ」
大妖精は顔を赤らめてそう謙遜するが、彼女の言った厨房内のメイド達は完全に大妖精のファッションショーに視線を奪われていた。
熱っぽい視線を厨房中から集める大妖精に、声を掛けたのは咲夜。
「まあ実際似合ってるわよ?それより、とりあえずご苦労様。ちょうど小悪魔も来たみたいだし、あなたも朝ご飯にしたら?」
「いいんですか?それじゃ遠慮なく……お片付けは?」
「九時半くらいにまたここへ来てもらえる?」
「はい!お先に失礼します」
時計を見上げれば、八時四十分。朝食の時間は十分にありそうだ。
彼女にもう一度深く頭を下げ、大妖精は厨房を出ていく。
「あなたたちもご苦労様。ぼちぼち交代で朝ご飯にして」
続いてメイド達にも労いの言葉をかけつつ、咲夜はそう促す。
すると彼女達は一斉に『はーい!』と返事をしたかと思うと、我先にと大妖精の出て行った厨房出口に群がる。
「こらこら、全員行っていいなんて言ってないわ。せめて半分ずつよ」
咲夜が呆れ顔で言うと、メイド達の間で始まる壮絶なジャンケン大会。
勝利した者から順番にとてとてと厨房から出て行った。
「いやあ、図書館に来てほしいとばかり思ってたけど……メイド大ちゃんもいいなぁ。毎日見たいよ」
「もう、こあちゃんったら……」
その一方で、自分の手で作った朝食の皿を乗せたトレイを手に、エプロンドレス姿のまま大妖精は席に着いた。無論小悪魔と一緒。
横にはパチュリーの姿もある。
「それにしても、流石と言う他ないわね。初出勤でいきなりメイドをまとめ上げるなんて。
大妖精の面目躍如といった所かしら?」
「そ、そんな。咲夜さんのご指導のおかげですって。わたしの力じゃないですよ……」
首を横に振り、頬を染める大妖精。パチュリーはフォークで切り分けた目玉焼きの一片を口に運び、満足そうな顔をして続ける。
「まあ咲夜がちゃんと教えたのも理由の一つではあるでしょう。でも、あなたの力ではない?
……私は、そうは思わないけど?」
「へ?」
意味ありげに、パチュリーが視線を外した。その方向を振り返って見やり、大妖精は驚愕。
トレイを持ったメイドが、彼女の席の後ろにずらりと列を作っていたのだ。
一瞬混乱しつつも、大妖精はちょっぴり恥ずかしげな笑顔を彼女達へ向ける。
「……いっしょに、食べる?」
「は、はい!」
先頭にいたメイドが代表で返事をし、わぁっと一斉にテーブルへ群がる。
特に大妖精の横の席は凄まじい競争率だったが、パチュリーが機転を利かせて『さっきのジャンケンで一番に抜けた子が隣よ』と言ったので、それ以上の混乱は起こらずに済んだ。
「大ちゃん、モテモテだね」
「やめてよぉ」
小悪魔のニヤニヤとした笑いに、大妖精はますます顔を真っ赤に染めた。正直恥ずかしくてたまらない。
けれど、来たばかりの自分がこの場所にきちんと馴染めているという事実が、同時にとても嬉しかった。
食事中はメイドからの質問攻めでなかなか皿が片付かなかったが、確かな充足感。
ゆっくりと朝食を食べ終え、小悪魔達と別れて再び厨房へ。今度は大量の洗い物との格闘だ。
「あっ、それまだ洗ってないからもどさないで!」
「あついあつい!お湯あついよ!」
「きゃっ!水飛ばさないで!」
「泡とんだー!」
食器の触れ合うカチャカチャという音も加わって調理時と変わらず騒がしい。
大妖精は他のメイドに混じって、普通に食器を洗っていく。咲夜は敢えて参加せず、彼女の働きぶりを見守る。
始める前に洗う者とすすぐ者、それを拭く者にグループを分けて作業にあたるよう指示を出しておいたのも功を奏し、大分スムーズに作業は進んでいった。
(よかった、これなら特に問題もなく……)
終わりそう、と思いかけた時に事件が起こるのは世の常。騒がしい厨房でもはっきりと響く、がちゃん、という破砕音。
どうやらメイドの一人が手を滑らせたようだ。床に散らばる皿の破片と、それを見つめておろおろするメイドの姿。
咲夜は動きかけたが、押し留まった。大妖精の対応を見る為だ。事実、彼女はすぐに動いた。
他の皆に作業を続けるよう声を掛け、皿が割れた周辺のメイドを一旦退避させる。
「ケガはない?」
皿を割ってしまったのは、盛り付け班にいた黒髪ツインテールのあのメイドだった。
傍に来た大妖精の姿を見ると、今すぐにでも無かった事にしたいかのように慌てて屈み込む。
「ご、ごめんなさい!すぐに……いたっ!」
彼女はすぐ皿の破片を拾おうと床に手を伸ばしたが、慌てた為か破片で指先を切ってしまったらしい。
一瞬顔を歪ませ、慌てて手を引っ込めた彼女の様子でそう判断した大妖精は、
「大丈夫?ちょっと見せて」
「ごめんなさい!へ、へいきです……から、あっ」
最早条件反射なのか、謝り続ける彼女の右手を取った。
近くで観察すると、なるほど確かに人差し指の腹、第一関節付近に切り傷。
じわ、と血液が玉になって滲み出てくる。
「ちょっと待ってね」
重ねて迷惑をかけたくない、と泣きそうな顔のメイドに大妖精はそう声を掛けると、
「だいじょぶ、です……ひゃあっ!?」
何の躊躇いも無く、ぱくり、と怪我をした彼女の人差し指を口にくわえた。
突然の事に大層驚き、思わず大声を上げてしまったメイドであったが、徐々に事実を認識し始める。
大妖精に指をくわえられていると分かると、みるみる顔が真っ赤に染まっていく。
「あ、あ、あぅ……」
指先を舌で舐め取られる、温かくてくすぐったい感触につい吐息が漏れる。
やがて、ちゅぱっと音を立てて大妖精の口から指が離れた。
「応急処置だよ。あとは……」
事も無げにそう言うと、唾液で濡れた指先をハンカチで優しく拭ってやる。傷口を見ると、もう出血は止まっていた。
エプロンのポケットから絆創膏を取り出し、傷がしっかり覆われるように巻いて処置完了。
「うん、これで大丈夫。指ケガしちゃったら、洗い物は厳しいよね……。
そうだなぁ、それじゃああの子たちと一緒に、ゴミ出しの方手伝ってもらっていいかな?」
「は、は、は、はいっ!ありがと、ございます……」
丁度、一旦帰って来たゴミ出しのメイド達を指差して指示を出すと、彼女は真っ赤な顔のままでがくがくと頷く。
それに頷き返して大妖精は、割れた皿を片付けるべく厨房の隅にある箒とちりとりを取りに行く。
いざ床を掃こうとしたのだが、ふと見るとそのメイドはまだそこに立っていた。
絆創膏を巻いてもらった人差し指をまじまじと見つめて、まるで大切な物を守るかのように左手でぎゅっと握りしめる。
頬を紅潮させたまま、そんな具合にそこから動かないメイドに向かって、大妖精は首を傾げた。
「どうしたの?痛い?」
「ふぁい!?あっ、やっ、そのぉ……だいじょぶです、ごめんなさい!」
はっと気付き、目をくるくると回しながら彼女は大慌てで近くにあったゴミ袋を引っ掴み、転げるように厨房から出て行った。
ばたばたばた、ばたーん、と騒がしい足音――― 途中で転んだようだ――― が遠ざかっていくのを聞き届け、一息ついて彼女は床を掃除し始める。
しかし彼女は気付いていないようだが、大妖精以外のメイドは全員手が完全に止まっていた。
先のメイドの大声で何事かと振り返り、”治療”の現場を目撃した為だ。
赤らんだ顔で上の空な彼女達へ、咲夜が苦笑いと共に一言。
「言っとくけど、ワザとお皿を落として割ったりしたら怒るわよ?」
メイド達は一斉に作業を再開する。一人だけ事情を知らぬ大妖精は、懸命に皿を洗う彼女達を見て『みんな頑張ってるなぁ』とのん気に笑った。
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その後は咲夜に指導を受けつつ、紅魔館の家事全般をこなしていった。
掃除は殆ど出番が無かったが、食事関連は大妖精にも活躍の余地が大きい。
三時頃におやつを作っていたらようやくレミリアが現れたかと思うと、大妖精が焼きたてマドレーヌをオーブンから出したのを見るなり、
『当主権限発動!プレイヤーはおやつをつまみ食いできる!』
などと言いながら厨房内へ突撃してきたので、
『メイド副長権限発動!厨房内のメイドを全てアクティブにしてディフェンス!』
とカードゲーム的なノリで返し、その場にいたメイド全員にレミリアを取り押さえてもらうといったハプニングも。
最終的に三十人近いメイドの手でマイルドに拘束された彼女は、『えーん、咲夜に訴えてやるぅ!』と嘆きながら、当の咲夜の手によって厨房から放り出された。
そんな具合に紅魔館のメイドからは大分好かれたようで、どこかへ移動する時は常に誰かしらメイドが後をちょこちょことついていったり。
特に、あの指の怪我を治療してやったメイドは朝以降、どこへ行っても常に彼女の傍。大妖精も何となく嬉しくてそのまま一緒に家事を手伝って貰った。
一人になる事がほぼ無いまま、メイド体験も終了。
「おはよう、今日は……私の所ね」
「おはようございます」
翌日、朝食後の朝九時、エントランス。いつものようにパチュリーと、この日はきちんと起きられたらしいレミリアがいる。
ぺこりと頭を下げる大妖精――― いつもの服に戻した――― の横で、小悪魔は先程からずっとにこにこ笑顔。
「よっぽど楽しみにしてたのね」
ふむぅ、と呆れ半分ながらもどこか見守るような笑みで呟くパチュリーに、小悪魔は『えへへ……』とはにかんで答える。
「それじゃ、立ち話もなんだし行きましょうか」
「私、あの埃っぽさがあんまり好きじゃないんだけど……パチェ、喘息持ちなのに平気なの?」
「むしろそんじょそこらの空気清浄器よりよっぽど私に合った空気よ」
ぶつくさ言うレミリアに肩を竦め、彼女は先頭に立って歩き出した。その背中を追い、大妖精らも本日の勤務先 ―――図書館へ。
ドアを開く時の、ぎっ、という軋んだ音も大妖精にとってはすっかりお馴染み。
「あ、なんだかちょっと懐かしい……」
「この二日間、紅魔館にいながら来てなかったもんね」
小悪魔の言う通り、それが何だか不思議な感覚だった。
中央に置かれた大テーブルまで歩いていく。パチュリーに促されてとりあえず席に着き、一息ついた所で彼女が口を開いた。
「さて、と。今日はあなたに、図書館司書手伝いとして働いてもらうわ。小悪魔と同じ、見習いって言った方がいいかしら?
まあもし採用されて、この先もずっとここで働いてくれるならそうなるけれど……今は置いとくわね。
仕事内容……とは言っても、いつもここに来て小悪魔のことを見てるなら、大体は分かるわよね?」
「はい。蔵書の整理とか、仕分けとか、図書館のお掃除とか、パチュリーさんの読みたい本を探したり、お茶いれたり。
お茶の種類は三日ごとにローテーションで、おやつは十時と三時と言われた時に。
週に一回、里の古本屋さんをチェックしに行って、その帰りに紫いもプリンを買ってきて……」
「お、思ったより細かく知ってるのね」
「パチェ、なんでもかんでも小悪魔にやらせるんじゃないわよ。まるでメイドじゃない」
「いいんですよ……あ、でもメイドのお洋服は着てみたいかも」
すらすらと立て板に水な大妖精を見て、彼女は少しばかり戸惑う様子を見せた。
業務内容をその口から聞き、レミリアはじとーっとした視線をパチュリーへ向ける。小悪魔はフォローしつつ満更でも無さそうだ。
「こ、こほん。とまあ、そんな感じ。今日は私の事はとりあえずいいから、図書館そのものに関する業務をやってもらうわ。
その様子を見て判断するから。適性があるかとか、やる気とか。で、肝心の仕事なんだけど……」
パチュリーが視線を少し外すと、図書館の一角に山と積まれた大量の本。本棚に収まっておらず、所々の背表紙が真新しい事から、新しく入れた本なのだろう。
それを指差し、続ける。
「あそこにある本を、きちんと分類して本棚に入れる作業からね。それが終わった後は、適宜指示を出すなりするから。
仕事の詳しい話とかは……」
そこで彼女は、不意に言葉を切った。ぎらぎらした強い視線を感じた為だ。魔術師として長いパチュリーにすれば、異様な雰囲気や気配は軽く察知出来る。
ちょい、と首を斜め横に向けると、興奮した様子の小悪魔が爛々と目を輝かせてこちらを見ていた。正体はこれか。
「……そうね、せっかくだから小悪魔に教わって。その方がいいでしょう」
「やったぁ……あ、えと、こほん。しょ、しょーがないですねぇ。パチュリー様はお忙しいですし、お任せ下さい!行こ、大ちゃん!」
「うん……っと、あわわわ」
わざとらしくオーバーに肩を竦め、彼女はとても嬉しそうな顔で大妖精の手を取ると椅子から引き剥がし、本の山へと小走りで引っ張っていく。
早速本を手に取り始めた二人の背中を見て、レミリアもくすりと笑うと椅子から飛び降りる。
「相変わらずね。それじゃせっかく来たし、私もたまには本でも読もうかしら。当主だもの、何か難しい本でもないかしら」
「んじゃ、あの辺はどう?」
ふふん、と意気込む彼女に、パチュリーが指差したのは魔術書や学術書が置かれたエリア。
『私にピッタリじゃない』などと呟く小さな背中が本棚に溶けて見えなくなった所で視線を戻すと、本の山は既に二割ほど削れていた。
「息ピッタリ、か……」
彼女は懐から紙片を取り出した。そこには欄がいくつかあり、『効率』『適性』『情熱』『同僚とのコミュニケーション』など複数の項目。
それらに全て『S+』と書き込み、一番下の大きな欄に『極めて強い適性を持つ。特に同僚とのコンビネーションで高い能力発揮』と書いて再び懐へ。
満足した顔になり、パチュリーは読みかけの本を開く。
「ま、これで悪い方向には転がらないでしょう」
楽しそうに会話しながら本を取りに戻って来た名無し二人を見て、我知らず微笑みながらそう呟いた。
さあ本の世界へ、と思ったその瞬間。
「ふえーん、ぱちぇー!」
魔術書エリアから上がった弱々しい泣き声に、彼女は素早く本を閉じて立ち上がった。
何故か本棚の間からもうもうと煙が上がっている。
思わず、ニヤリと笑み。
(かかったわね)
悪戯好きな二人に感化され、彼女自身もちょっとしたイタズラを仕掛けていたのだ。
レミリアを誘導した魔術書エリアに、ダミーの魔術書を仕込んでおいた。
『モテモテでカリスマな愛され吸血鬼になれちゃう魔法ミ☆』みたいなタイトルだったと思う。
その具体的な内容は――― 本人の名誉の為に伏せておこう。
「はいはい、どうしたの」
居候させてやってるという精神的アドバンテージの為か、普段やたらとパチュリーに対して保護者精神を露わにするレミリアへの仕返しとばかりに。
手のかかる子供をあやすかのような口調で、彼女は本棚の間へと足を踏み入れていく。
するとそこには、立ち込める白煙に覆われてわたわたするレミリアの姿が。煙から羽だけがはみ出して見えているのがどこか滑稽だ。
「何があったのよ、レミィ」
無論何があったかなんて分かっているが、笑いを必死に噛み殺しながら尋ねてみる。
パチュリーの声が近くでしたので、彼女は手にしていた本を放り出して駆け寄って来た。
「なんか、なんか急にあぼーんって……」
中に記してある魔術を詠唱すると、爆発する仕組み。こうも綺麗に引っかかってくれると、爆破音にもこだわった甲斐があるというものだ。
余程驚いたのか、幻想郷随一の吸血鬼とは思えないような泣き顔で抱きつかれ、流石に悪い気がしてきてしまう。
「よしよし、もう大丈夫だから」
背中を優しく叩きながら頭を撫でてやると、ようやく落ち着いたようでレミリアは少し離れ、こんな事を尋ねてくる。
「ねぇ、ところで……前に比べて私の背、伸びてない?あと胸も」
あっ、せっかく伏せたのに。
「……え、ええ。気付かない内に、サイズアップしたんじゃないかしら。なんだかセクシーよ」
パチュリーがややぎこちない表情でそう言ってやると彼女は、今の今まで泣いていた事も忘れてぱぁっと顔を輝かせた。まるで太陽のような笑顔。
吸血鬼は太陽が弱点の筈だが、別にいいだろう。
・
・
・
正午を回り、気だるい午後の時間帯。
相変わらずパチュリーは本の虫、その周りをちょこちょこと歩き回っては業務をこなしていく大妖精。
とは言え最初の本の山を片付けてからというもの、大した仕事も無いので専ら本棚の陰で小悪魔とお喋り。
時々降って湧いたように出てくる仕事を片付ける、そのループを暫し繰り返した午後三時前。
「ちょっといい?」
一時はやたらと煙にまみれていたレミリアが、不意に彼女の腕を引いた。
「はい、なんでしょう?」
「いえね、今丁度時間が余ってるみたいだから。こないだの、面接の続きをやろうかと思って。
ああ、仕事の方は大丈夫。パチェには許可貰ってるから」
その言葉で、急に大妖精の顔に緊張が走る。
「は、はい……」
「そんなに怯えないでよ、罪悪感が湧いてきちゃうじゃない」
苦笑いのレミリアについていき、図書館の隅。壁際に積まれていた丸椅子を二つ出して、向かい合う。
やたら胸をしゃんと張るレミリアに合わせ、大妖精の背筋も自然と伸びる。
「ふふん」
何故か得意気な彼女の様子に、
(あんなに堂々としてる。やっぱりレミリアさんともなれば、いつも自信に満ち溢れてるモノなんだなあ……)
彼女自身の思惑を外れた部分で感心する大妖精であった。そうこうしている内に、レミリアの口が開く。
「それじゃ、始めるわよ。と言っても、簡単だけどね。
あなたが紅魔館で働きたいと願うその理由をもう一度、私に教えて頂戴」
「理由、ですか?」
何かと思えば、一度訊かれた質問。当然尋ね返す大妖精に、レミリアは幾許真剣な顔になって続けた。
「ええ。ただ、今度は何も包み隠さないと誓って。胸に秘めた正直な想いを全部、臆す事無く私にぶつけて欲しいの。
大丈夫、ここには私しかいないわ。絶対に他には聞こえない」
「……えっとぉ……」
「この間聞いた内容だけれど、あれが嘘とは思わない。小悪魔には敵わないけれど、あなたの事はよく知ってるから。
けど……それだけじゃ、ないでしょう?あなたを出会い頭の土下座に走らせる程の、重大な理由があるはずよ」
「え」
明らかにどきりとした表情になる大妖精に、レミリアはニヤリと笑って見せた。
「まさかあなた、このレミリア・スカーレットを欺けるとでも?
……なんてね。威圧するつもりはないけれど、一緒に暮らすかもしれないのに隠し事はいけないわ。
どんな理由であっても、評価には影響しない。あなたのペースでいい。何時間でも付き合うから……正直に、話して」
「……わかり、ました」
戸惑いの色を浮かべていた大妖精が、しっかりと顔を上げた。
「わたし……不安になったんです。こうして妖精として幻想郷に生まれておきながら、何もなせないまま死んでしまうんじゃないかって」
「……採用面接より、人生相談の方が良かったかしら?」
思いもよらぬ言葉が飛び出し、皮肉では無くレミリアはそう呟く。
「わたしは、ただの妖精に過ぎません。ちょっとばかり力があるだけで、それですら吹けば飛んでしまうようなもの。
レミリアさんのように多くの方々に慕われることもなければ、霊夢さんのように異変を解決することもできません。
チルノちゃんみたいに強いわけでも、こあちゃんみたいに誰かのお傍で役に立ってるわけでもありません」
大妖精の独白を、口を挟まずに聞いてやる。
「湖の周りに住んでることくらいしか特徴もない。わたしとは違う何かを持ったみなさんが、すごくうらやましいんです。
このまま、無意味な妖精として消えていきたくはないんです。けど、何かできることがあるかって言ったら……。
名前もない。家族もない。長所も、力も、取り得も、アイデンティティも……居場所もない。わたしが生きてる意味って、あるのかなって」
「………」
「だから……だからせめて、誰かの役に立ちたいなって思ったんです。どんなに小さなことでも、誰かの力になれれば、わたしの存在は意味を持ちます」
「それで、紅魔館に?」
「はい。図書館を始めとして、いつもお世話になっている紅魔館に、少しでも貢献できたら……って。
もちろん、他にもお世話になってる方はいっぱいいます。けど、最初に浮かんだのがここで……」
「それに、規模が大きいから役割も多い。働き口としては最適ね」
「それもあります……何もできないわたしでも、誰かのお役に立てるなら。わたしが生きてる意味……みたいなのが、生まれると思うんです」
それ以上上手い言葉が見つからないのか、大妖精は押し黙ってしまう。
ふむ、と息をつき、レミリアは椅子に座り直した。
「なるほど、ね。今まで考えた事も無かった、自分の生きる意味や存在する理由について疑問を持ったと。
せっかく生まれたからには何かを残したい。でも自分には何も無い。
だから、誰かに貢献する事で自分が存在する意義を見出したい……それでいい?」
「はい。あっ、その、自分の都合のために紅魔館を利用したいとか、そんなんじゃ」
「分かってるわよ、そんなのも分かんないくらい馬鹿じゃないわ。
せめて慣れ親しんだこの場で、身近な者の役に立つ事を己がアイデンティティとして確立したいと。
とりあえず、ありがとうと言わせてもらうわ」
「へ?」
何故礼を言われるのか分からず尋ね返すと、レミリアはふっと笑み。
「だって、あなたが湖での気ままな生活を捨ててまで貢献したいと思ったのが、ここなんでしょ?
それだけの価値があると思ってくれてるなら、当主としてこれほど嬉しい事はないもの」
「そう、でしょうか……」
驚いた様子の大妖精に頷き、彼女はすっくと立ち上がった。
「よろしい。改めて、あなたの気持ちを再確認出来たわ。参考にするわね。
仕事中に邪魔してごめんなさい。戻っていいわよ」
「あ、はい。その、ありがとうございました」
釣られて椅子から立ち、ぺこぺこと頭を下げる。
椅子の片付けは彼女がやると言うので、レミリアはそのまま中央のテーブルまで戻る。
本の虫なパチュリーの肩を叩き、耳元で囁いた。
「監視はもういいわ。普通に仕事を見てあげて」
「え?ええ、分かったわ」
多少の受け答えなら本から顔を上げずに行う彼女も、この時はレミリアの顔を見た。
意味深な笑みを向け、図書館から出ていこうとドアを開ける。と、
「レミィ、忘れ物」
パチュリーの声。振り返ると、ニヤニヤ笑う彼女の手には例の魔術書。
「今度はネコミミが生える魔法なんてどうかしら?」
――― その晩、レミリアの自室からもう一度爆音と白煙が立ち上ったその理由は、決して他の者には明かされなかったという。
・
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・
――― 翌朝、というよりはもう昼を回った午後一時。
午前中は好きに過ごして良いと言われたのでいつも通りに図書館で小悪魔と過ごし、昼食を終えてから大妖精はエントランスへ。
「さっきまでずっと顔合わせてたけど、改めて。今日がいよいよ最後のテストよ」
彼女に向けて告げるパチュリーの顔は、心なしかどこか不安げなようにも見える。
「はい、頑張ります……でも、今日って何をするんですか?
最初に教えていただいたお仕事はもう全部やってしまったと思うんですけれど」
「ええ、そう……なんだけど。もう一つだけあるの。レミィがね、前から新しく誰かにやらせようと思ってた仕事らしくて。
丁度本人も来た所だし、説明してもらいましょう」
「おはよ……ふわぁぁぁ」
いつにも増して眠そうなレミリアの顔。大きなあくびを一つ。
「おはようございます……って、もうお昼だっけ。大丈夫ですか?」
「んぁ?え、ええ……大丈夫よ、問題ないわ」
「昨日ちょっとね、ハッスルしすぎて疲れたのよ」
「パチェ、それ以上はノーモアブッチャキングよ」
「え、え?」
「これ以上ぶっちゃけるな、ってコトね」
「ごめんなさい、ちょっと難しすぎる英語を使っちゃったわね」
ふふん、と得意げなレミリアだがパチュリーがこっそり大妖精に『ごめんなさいね』と囁いたのには気付いていない。
彼女が先導する形となり、三人で廊下を歩き始める。
玄関から離れ、厨房の入り口、小悪魔の自室、やがて図書館のドアをも通り過ぎていく。
(どこ行くんだろう……そういえば、この辺は来たことないや……)
普段は図書館までしか行かないので、奥の方には来た事が無い。
言い知れぬ不安を感じつつも、横を歩く見慣れたパチュリーの顔を見て気持ちを落ち着かせる。
が、彼女もどこか困ったような顔をしているのは変わらない。そうこうしている内に、先頭のレミリアが足を止めた。
「ここよ」
「ここ、って……」
まるで玄関のような、大きなドア。よく見ると、ノブの辺りにはどうやら南京錠が掛けられるようになっているようだ。
割と最近までついていたのか、跡が残っている。
「レミィ、本当にやらせるの?」
「大丈夫よ」
パチュリーの不安そうな声を、大妖精は初めて聞いた気がした。
それに対して対照的な笑みで頷き、レミリアは彼女を見やる。
「あなたにはこれから……私の妹、フランドールに会ってもらうわ」
「え……えぇっ!?」
まさか、とは思っていたが。彼女も話には聞いていた。悪魔の妹、フランドール・スカーレット。
単純な力で言えば姉であるレミリア以上、その強大過ぎる力と狂気を孕んだ精神から、地下に幽閉されていたと。
流石に驚き、段々と顔が青ざめていく大妖精を見て、レミリアは少しばかり心外そうな面持ちだ。自分の妹の名を聞いた者にここまで怖がられたら、そんな顔をするのもまあ頷ける。
しかし、ここは大妖精の反応が正しいと言うべきだろう。
「言っとくけど、会った瞬間バラバラにされるなんて事はないからね?フランも流石に以前より大分落ち着いたわ。
今はもう館内なら自由に歩き回る許可を出してるし、よくメイドと遊んでるわ。ちょっと怖がってるけど」
「そ、そうなんですか……でもわたし、一回も会ったことありませんよ」
「ああ……実はね。ああ見えて、と言っても会った事ないか。フラン、結構人見知りなのよ。以前の反動なのかしら。
だから、お客さんが来たと聞けばすぐ地下の自室に籠っちゃうの。まったく、引きこもりの吸血鬼がどこにいるのかしら」
「ちなみに、今でも地下にいるのは単に広くて快適だからそのまま自室にしたい、って妹様本人が言いだしたからよ。
だから閉じ込めてる訳じゃないし、そうしなきゃいけない理由もないわ」
パチュリーもフォローするが、やはり彼女も不安な表情を拭い切れていない。
「で、実際に何するかって言うと……単純よ。フランの遊び相手になって頂戴。ああ、弾幕とかじゃないから安心して。
遊び相手というか、世話係ね。専属メイドとでも言えばいいのかしら。パチェにとっての小悪魔みたいなね。
今までは咲夜とか美鈴にやらせてたんだけど、館内での仕事もあるからかかりっきりにはなれないし……。
まあ、手のかかる子供だと思って相手してあげて」
「わ、わかり、ました……」
がちがちに強張った表情で返事を返す大妖精。
こればかりは仕方無いと諦めたのか、黙って彼女の頭を撫でるとレミリアは扉を開いた。
きぃ、と軋んだ音を立てて、廊下の灯りが薄暗い階段を照らし出す。
「フランにはもう、あなたの事は伝えてあるわ。それと……咲夜」
「はい」
「わぁ」
次の瞬間には背後に咲夜の姿があり、大妖精は少々驚いた様子だ。
「絶対にないとは思うけど、万が一を考えてね」
「かしこまりました」
具体的に言わないのは大妖精の気持ちを考えてなのだろうが、彼女自身にもその意図は分かってしまう。
――― ”万が一”があれば、時を止めて救出しろという事。
彼女の想像を裏付けるかのように、レミリアやパチュリーが地下への入り口に残って見送っても、咲夜は後からついてくる。
一歩、また一歩と階段を下りていく。こつん、こつん、と、カーペット張りの廊下とは違う固い足音が、大妖精の心にさざ波のように広がる。
距離以上に長く感じられた階段の果てに、小さな扉が見えた。
「怖い?」
急に後ろから、咲夜が話しかけてきた。
「はっ……い、いえ、そういう、ワケじゃ」
「正直なのね。まあ普通の感覚じゃ怖がって当然よ。私くらい長く触れ合ってなきゃね。
でも大丈夫……お嬢様も仰ってたけど、今はもう怖くないわ。最初は緊張するでしょうけどすぐ慣れる。
妹様の事は信じてるし、大丈夫って言ったくせにあなたを脅すみたいで気が引けるけど……私は部屋の前で待ってるから、もし何かあったら大声で呼んで」
「は、はい」
震える声で紡がれた、大妖精の発言内容を丸っきり無視した咲夜の言葉。だがそれは的確に彼女の心中を射抜いていた。
少しだけ緊張が解けたのか、咲夜の顔をしっかりと見て頷き、彼女はもう一歩。階段を下り切った。
大きく深呼吸。吸って、吐いて、また吸って、また吐いて、もう一度吸って―――握り拳を二回、ドアにぶつける。
返事は、すぐだった。
「あ……もしかして、あなたがお姉さまの言ってた大妖精?入っていいよ」
声だけ聞けば、自分と――― いや、自分よりも幾許幼いくらいに聞こえる少女の声。
予想以上に普通な返事を貰い、ドアノブを握る勇気が出た。冷たい金属の感触。
「絶対に大丈夫よ。頑張ってね」
咲夜に、ぽん、と背中を叩かれる。文字通り、大妖精の背中をもう一押しした。
「はっ……はい!湖の大妖精です。入ってもよろしいでしょうか?」
「もー、聞こえなかった?入っていいって言ったじゃん」
がくがく、とその場で頷き、ノブを握る手に力を込めた。
微かに蝶番が軋む音がしたかと思えば、あっさりと扉は開いた。
「し、失礼しますっ!」
靴のままでいいのだろうか――― 緊張の余り、大妖精の脳裏を過ったのはそんな小さな疑問だった。第一、紅魔館自体が靴のまま入れるというのに。
数歩、足を踏み入れる。その瞬間の心臓の高鳴りに、既視感。それは、初めて紅魔館に訪れた時のもの。
恐ろしい悪魔の住む館という噂だけであの頃は、こんなに楽しい住人達の集まりだとは欠片も思わず、ただ恐怖していた。
(ってことは、今目の前にいるこの子も……)
そうなのかも知れない。自分が信じた、皆の言葉を信じよう。
自然と言葉が続く。
「よ、よろしくお願いします!」
ぺこり、と頭を下げる。すると、ベッドに腰掛けていたフランドールがけらけらと笑い声を上げた。
「あははは、そんなのやめてよ。一緒に遊んでくれるんでしょ?私がフランドール、フランだよ。よろしくね。
そんなトコ立ってないで、ほら……」
彼女は立ち上がり、歩いてきた。照明が灯っていても少し薄暗い部屋の奥から、段々とその姿が大きくなる。
目の前まで来たフランドールは、ちょっぴり強引に大妖精の手を取った。きらり、と光る虹色の羽。
「わぁっ」
驚きの声を上げる彼女の背後でゆっくりと閉じたドアが、見守る咲夜の姿を隠した。
・
・
・
閉じたドアの向こうで、耳をそばだてる。盗み聞きが上等な趣味とは思えないが、今は重要だ。
楽しげなフランドールと、まだ緊張の解けない大妖精の会話が聞こえてくる。大きさと距離的に、ベッドに腰掛けて話しているのだろうと推測した。
「ちょっとぉ、妹様なんてやめてよ。あと敬語も禁止!」
「え、えーっと、じゃあ……」
「フランって普通に呼んで!」
「呼び捨てはちょっと……」
思わず、くすりと笑みが漏れた。何だかんだで、上手くやっているように聞こえる。
一方その頃、図書館に戻ったパチュリーとついて来たレミリア、いつも通りに出勤する小悪魔の三人はと言うと。
「………」
「……十七」
「へ?」
「十七週目。あなたがテーブルの周りを回った回数よ」
レミリアにそんな事を言われ、ぴたりと足を止める小悪魔。
フランドールの下へ、ほぼ単身で赴いた大妖精の事を思うと、どうにも仕事にならない。
かと言ってぼーっとしてもいられず、つい小悪魔の足はテーブルの周りをぐるぐる。そんな彼女の顔を見て、パチュリーもふぅ、と息をつく。
「でも、小悪魔の気持ちも分かるわ。大丈夫とは思うけど、妹様が館外の者と接する機会なんて殆ど無かったし……」
「妹様が心配というんじゃなくて、今までにないことでしたから不安で……」
「まったく、ヒトの妹をなんだと……」
「世界中でレミィだけは言えない台詞よそれ」
「ぐぬぬ」
レミリアはやはり心外そうだが、パチュリーの台詞がもっともなので唸る。
結局それからはあまり会話も無く、銘々本を読んで過ごした。時折小悪魔が紅茶のおかわりを持ってくる時以外は、本をめくる音ばかりで静かだ。
ふと時計を見上げれば、もう午後四時近い。大妖精を地下へ送り込んでから三時間近く経った。
「大ちゃんと妹様、なにしてるのかなぁ……」
「咲夜がこっちに来ないって事は、ちゃんとやってるのよ」
紅茶のポットをテーブルに置きながら呟いた小悪魔に、パチュリーが励ますような語調で声を掛ける。
「最近、フランと遊んでないわ……」
ぽつり、とレミリアがそんな事を呟いたまさにその時であった。
唐突にドアの開く音。それに気付いたパチュリーが顔を上げる暇も与えぬまま、彼女達の前に現れた姿。
言うまでも無く、咲夜である。
「お嬢様!ちょっと……」
「どうしたの?まさか地下で何か?」
「大ちゃんに何かあったんですか!?」
努めて冷静に言葉を返したレミリアだったが、小悪魔はそうもいかず詰め寄るような勢いで彼女へ問うた。
そんな彼女を宥めつつ、咲夜は少しばかり言葉に困った様子で続ける。
「落ち着いて、大丈夫よ。で、えっと……その、何かあったと言えばあった、いや、起こっていると言うべきでしょうか……うーん。
とりあえずお時間があれば、来て頂けますか?その方が早いでしょう」
「分かったわ」
「わ、私も行きます!」
かくして咲夜を先頭に、ぞろぞろと図書館を出ていく一行。パチュリーもついて行く。
地下室への扉を素早く開けた咲夜の『足音はなるべく立てないで下さいな』という言葉で、足音を忍ばせて階段を下りる。
「急を要する事態ではなさそうね」
パチュリーが呟く。ゆっくり下りるよう言われたくらいなのだからそうなのだろう、と小悪魔も若干安堵した様子だ。
階段を下り切り、ドア前の空間に四人で固まると、咲夜は人差し指を唇に当てて『静かに』のポーズ。
「出来たら直にお見せしたいので、静かにお願いします」
「ええ」
レミリアが頷くと、咲夜はドアノブに手を掛け――― 次の瞬間にはもうドアは全開に開いていた。
そこから見えるのは、少し薄暗いフランドールの部屋。奥から何やら声が聞こえる。
本が数冊置かれた机に椅子、ベッド脇のサイドテーブルには空っぽの紅茶のカップに、何かお茶請けが乗っていたであろう皿。
そしてベッドの足元には二人分の靴が並んでいて、その上に二人の姿があった。
「それでそれで?」
「んーとね、他にはやっぱ雪で色々やるなぁ」
ベッドの上に並んで寝転がり、フランドールに急かされて大妖精は言葉を探している。
「雪ってあの白いやつ?」
「そうだけど……あれ、フランちゃん知らなかった?雪」
「見たコトしかないの。冬は寒いからますますお外には出られなくって」
「そっか、そうだよね。でも楽しいよ?雪合戦したり、雪だるま作ったり」
「雪だるま?」
「あ、ごめんね。雪で球を作ってごろごろ転がすと大きくなるから、それで大きな玉にして重ねて、人形を作るの」
「へぇー……転がすと大きくなるのはなんで?」
「転がすと雪がくっついて……あ、そうだ。じゃあフランちゃん、ちょっとここ持って」
「こう?」
大妖精はフランドールをベッドに敷いたタオルケットに乗せ、端を掴ませた。
「そうそう、それでね……こうすれば、それー!」
「きゃー!」
彼女がフランドールを両手でごろごろと転がすと、タオルケットがその小さな身体に巻き取られていく。
くるくる回る視界と柔らかい感触が心地良くて、思わず上がる歓声。
「ほら、こんな感じだよ」
ベッドの端まで転がされ、さながらロールケーキのようになったフランドールを前に大妖精が説明を締め括る。
簀巻きにされた彼女はと言うと、大層楽しかったようできゃいきゃい笑っている。
「きゃはははは!もっかいやって!」
「いいよ。じゃ、一回解かなきゃ……というわけで、ごろごろー」
「きゃー!」
今度は逆方向に転がす。再び楽しげな歓声が上がったのを聞き、茫然と見ていたレミリアがぽつりと一言。
「……あ、あのフランを掌の上で転がすなんて……」
「レミィ、用法が明らかに違うわ」
「え、じゃあデスロールってやつ?」
「それも違う」
いつから紅魔館の地下はアマゾン川になったのか。
同様に驚きの表情で見ていたパチュリーがきっちりツッコミを入れると、ようやくベッドの上の二人が、いつの間にか部屋にいた一同の存在に気付いた。
「あっ!」
「どうしたの……あーっ!お姉さま!それにみんなも!勝手にレディの部屋に入っちゃダメじゃない!」
こちらもまた驚いた様子の大妖精と、タオルケットが半分ほど巻き付いたまま頬を膨らませるフランドール。
まずは勝手に入った事を詫びつつ、パチュリーが続けた。
「ごめんなさい。けど、二人がとても楽しそうにやってるって聞いたから、どうしても気になって……」
咲夜が呼びに来た意図を汲んでの言葉だ。
「大ちゃん、妹様となんのお話してたの?」
小悪魔が次いで尋ねると、大妖精はフランドールに巻き付くタオルケットを慌てて解き、ベッドの上で正座に直りながら答えた。
「え、えっと。フランちゃん……じゃない、妹様がお外にほとんど出たコトがないから、外のことを教えてほしいって。
それで、普段どんなことをして過ごしてるかとか、面白い遊びとかを教えてあげてたの」
「ちょっと、なんで言い直すのよ!さっきみたいにフランって呼んでったら!」
レミリア達の手前、姿勢を正して言う大妖精だったが当の本人に肩をぐらぐら揺さぶられる始末。
「子供の扱いには慣れてるのかしら」
大妖精の交友関係には子供も多い―――彼女自身もまだ子供と言えるが――― ので、子供の心を掴むのも上手いのだろうか。
冷静に分析するパチュリーの横で、レミリアはどこかばつが悪そうに頬をかく。
「あー、まあ……仲良くやってるみたいで良かったわ。始める前の不安なんかもうどこにも無さそうね。
もうすぐ夕食の時間でもあるし、ここらでテストはおしまいにしましょうか」
「あ、はい。わかりました。それじゃ……」
大妖精は立ち上がりかける。が、
「やだぁ!もっと遊ぶのー!」
「きゃあ!」
タックルのような勢いでフランドールにしがみ付かれ、そのままバランスを崩してベッドに沈んだ。
「フラン、この子にはまだ予定があるの。だから……」
「だめ!もう大ちゃんは私のだもん!もっとお話したいもん!」
レミリアが説得しようとするが、フランドールは大妖精の細い身体にしがみ付く腕に一層の力を込めて離れようとしない。
ぎゅう、と強く抱き締められる感触は少々苦しいが、同時に温かくて心地良い。レミリアが言った通り、大妖精はもう全く恐怖を感じていなかった。
しかしこのままレミリア達を困らせる訳にもいかない。大妖精は腰の辺りに回された手を引き剥がそうとしたが、腕力或いは魔力が桁違いのようでうんともすんとも言わない。
少し考え、彼女はフランドールの肩をつついた。
「ねぇ、フランちゃん」
「なぁに?」
レミリアがすぐ前にいるが怖じずにそう呼ぶと、彼女は顔を上げてこちらを見る。
『耳を貸して』と呟くと素直に応じたので、そっと耳打ち。
「今度、わたしがお外に連れてってあげる。一緒に遊ぼうよ」
「ホントに!?」
「うん、約束するよ。だから、今はレミリアさんの言うコト聞いて……ねっ?」
顔を離し、笑顔を向ける。するとフランドールは小さく頷き、ようやく彼女を解放した。
「なんて言ったの?」
「えへへ……ちょっとした、呪文です」
あっさり大妖精を離したのでレミリアが問うが、何を言われるか分からないので彼女は曖昧に誤魔化す。
ドアが閉じるその瞬間まで視線を向けてくるフランドールにもう一度笑い返し、大妖精は地下室を後にした。
・
・
・
・
・
「いやぁ、まさか妹様とあんなに仲良くなるなんて!さっすが大ちゃん!」
「そんな……ただ、一緒にお話しただけだよ」
「それが十二分に凄い事なのよ」
――― 翌朝、午前十時。大妖精は小悪魔、パチュリーと共にエントランスにいた。
未だに昨日の話題が尽きず、頬を染めっぱなし。
「でも、これならきっと大丈夫だよね」
「なにが?」
「採用試験に決まってるよ!だって、あんなに頑張ったんだもん。これからずっと、大ちゃんと一緒に……えへへー」
「気が早いわよ。でも本当、よく頑張ったわね」
「は、はい……」
二人の言葉で、途端に緊張の色が蘇る大妖精の顔。今日この日、いよいよ紅魔館の一員としての合否が、レミリアの口より伝えられるのだ。
その為に今こうして、エントランスに集まっている。そこへもう一つ人影。
「やー、間に合ってよかったぁ」
「あれ、美鈴さんも?」
「もちろんですよ!一緒にお仕事したんですし、ちゃんと聞き届けたいです」
玄関を開けて美鈴登場。軽やかな動きでパチュリーの横に並ぶ。
「どこに配属されるんでしょうねぇ。私としては是非門番になって頂きたい所ですが」
「美鈴、あなたも?」
「なにがですか?」
パチュリーに指摘されても美鈴は何の事やら気付いておらず、首を傾げて尋ね返す。
そんな折、廊下の奥よりとうとうレミリアが現れた。傍らには咲夜の姿もある。
「ぐっもうにん、えぶりぼでー!いい朝ね。知っての通り、今日はいよいよ、あなたの運命を私から伝えるわ。
さあ、食堂に行きましょう。そこで改めてね」
ある意味流暢な英語で挨拶し、くるりと踵を返して先に行ってしまった。
一拍の間を置き、大妖精を始めとした一同も廊下を歩き始める。咲夜はレミリアにはついて行かず、その列に加わった。
「咲夜さん、何か聞いてませんか?」
道中小悪魔が尋ねるも、彼女は首を横に振る。
「なんにも。お嬢様だけが合否を知ってるわ。でも……きっと大丈夫だと思うの」
「ほら、咲夜さんもああ言ってるし。歓迎会の準備しなきゃなぁ」
ほぼ確信しているようで、彼女はますます上機嫌。大妖精の表情も幾許和らいだ所で、食堂へ通じるドアが見えてくる。
大妖精を先頭に入っていくと、テーブルの一つに着席した状態でレミリアは待っていた。仕事中でもあるのか、メイドの姿も散見される。
その前に立ち、背筋を伸ばす。残りの一同は壁際に寄って、二人を注視した。
「まってまってー!」
そこへぱたぱたと足音を弾ませてフランドールも到着。美鈴の横に並んだ。
「言っとくけど、大ちゃんは私のところに来るんだからね!」
「妹様、落ち着いて下さい。結果がまだですから……」
建前上なのか、はやるフランドールを咲夜が宥める。彼女が大人しくなったのを見て、ようやくレミリアが口を開いた。
「――― さて。まずはこの数日間、ご苦労様だったわね。慣れない仕事も多かったでしょうに」
「い、いえ!むしろ楽しかったくらいです」
緊張しつつ、正直な気持ちを口に出す大妖精。レミリアは満足そうだ。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。
実際、色々あったものね。特に大きな仕事は無かったとは言え、門番として表に立ったり。
翌日にはメイドとして、見事にウチのメイド達をまとめあげてたわね。咲夜も感心しきりだったもの。
図書館はいつも言ってる場所という事もあって、一際仕事を早く片付けられた。小悪魔と一緒だしね」
彼女の視界の隅では、小悪魔が照れたように頬を染めている。それをちらりと見て、視線を大妖精の顔へ戻した。
「これだけでも十分だけれど、フランの世話係なんて前人未到とも言える役割すらこなしてみせた。
館外の者と関わって、あんなに楽しそうなフランは本当に久しぶりに見たわ。初めてかも知れない」
がくがくと頷くフランドールが見える。くすりと笑い、改めて大妖精を見やった。
レミリアに直接褒められているとあって、緊張しつつもその顔に不安はあまり見て取れない。
「来た時は随分と緊張していたようだけれど、もうすっかり慣れた感じね。まあ、元より何度も来てたけど。
長々と話をするのもアレだし、先に結論からいきましょうか」
椅子に座り直しながらのその言葉で、見ていた一同の顔にも緊張が走る。
「お、お願いします」
思わず呟く大妖精。ゆっくり頷いて、彼女は息を吸った。
「湖の大妖精。その仕事ぶり、しかと見させて貰ったわ。この紅魔館の一員として、あなたは―――」
言葉が途切れる。大妖精以下五人の固唾を呑む、その音が聞こえそうな程の静寂。
呼吸すらも止め、彼女は待った。からからに乾いた口腔内。早鐘の如き心臓。
そのハートビートが限界まで達した瞬間、レミリアの口が開く。
安堵させるような、優しい笑みで言い放つ。
「――― 不 合 格!!」
・
・
・
――― 空気が凍り付く音を、その場の誰もが聞いていた。
その言葉はまるで未知の言語のよう。理解出来ないものには、何と反応していいか分からない。
真っ先にその意味を理解したのは、誰より傍でその言葉を聞いた大妖精だった。
「……だめ、ですか……」
震える唇でそれだけ呟くと、顔がみるみる沈んでいく。安堵の表情はどこへやら、痛切の一言に尽きる表情。
大妖精のそんな顔なんて、見たくない――― どんなに少なくとも、そう思っていた彼女の口が開く。
「……お、お嬢様っ!!」
横にいたパチュリーがびくりと竦む程の大声で、小悪魔は叫んでいた。
清々しい程の、あまりに似つかわしくない笑顔だったレミリアが、彼女を向いた。
「何かしら」
「な、何って……納得できません!お嬢様の決定に逆らうようで、失礼なことだっていうのは分かってます!
だけど私、大ちゃんがどうして不合格なのか全く理解できません……説明をお願いします!」
面食らいつつ、臆する事無くまくし立てる小悪魔。レミリアは頷いた。
「……言うじゃない。分かったわ、説明してあげる。よく聞きなさい」
その言葉の途中で、レミリアは大妖精の方を向いていた。反応し、顔を上げたので彼女は再び口を開く。
「あなた、図書館での面接の続きの時……こう言ったわね。自分には何もないって。何もできないわたし、って。
という事は、あなたはこう考えていたのかしら?
『紅魔館は何も持たない小さな存在の者でも働ける、簡単な場所』だと……」
「なっ……」
予想だにしない言葉が出てきたので、一瞬フリーズする大妖精。次の瞬間、堰を切ったように否定の言葉が飛び出す。
「ち、違います!わたし、そんなつもりじゃ!」
「でも、そういう事よね?あそこまで自分を否定するような言葉を吐いておいて、ここで働きたいって言われたんじゃ。
自分を必要以上に持ち上げるつもりはないけれど、私にだって誇りはある。紅魔館の当主として、ここを守って来たというね。
だから、私の部下も皆一様に優秀よ。その中に、『何も無い』『何もできない』あなたが入ってきて、やっていけるの?」
「……そんな……わたしは、ただ……」
「その確信か、そこまでいかずとも『どうにかなる』という甘い考えがなければ、こんな悪魔の館にわざわざ寄って来るとは思えない。
正直に言って、私の怠慢だったのかもね。レミリア・スカーレット率いる紅魔館が、ここまで舐められたんじゃ……」
「………」
レミリアの口が開く度、大妖精の顔に絶望が刻まれていく。絶対零度の氷河を削って作ったナイフのように、ざくり、またざくり。
もう何も言えず、下を向いたままぶるぶると震えるばかりの大妖精。もしかしたら、泣いているのかも知れない。
傍らで一部始終を聞いていた小悪魔は、もう我慢の限界だった。誰であろうと、大好きな者を傷付ける輩は許さない。
相手が当主とて構うものか。再び声を荒げようと、息を大きく吸ったその瞬間―――
「――― レミィ!!そんな言い方無いじゃない!!」
今度は、彼女が驚く番だった。レミリアすらも肩を竦ませ、その声の発生源を見やる。
慣れない大声を出したせいで息を切らせたパチュリーが、明確な憤怒の表情でこちらを見ていた。
「何を考えてるんだか知らないけど、この子はそんな事を考えるような子じゃない!!
いい加減な事ばっかり言って弱い者苛めを続けるなら、私が許さないわ!!」
食堂の窓ガラスを内側から破砕しそうなくらいの叫び声――― いや、最早それは怒号。
それだけを言い終えると、けほ、けほ、と咳き込む。大妖精は、違った意味で茫然としていた。
自らの身体に鞭打ってまで、自分を庇ってくれたパチュリーの行動が、未だ信じられない。
そして、それに触発されたかのように―――
「お嬢様、あんまりですよ!そんなに信じられないんですか!?」
「お言葉ですが、私にもとても信じられません。お嬢様、確証も無しにそのような物言いはするべきではありませんわ」
「お姉さま!!大ちゃんにあやまりなさいよ!!あやまんないなら、私が……」
美鈴から、咲夜から、フランドールからも、擁護するような言葉が次々と飛んでくる。
言葉だけでは飽き足らぬのか、フランドールは腕をまくってレミリアの方へつかつかと歩いていく。流石にこれは美鈴が止めた。
真っ先に声をかけようとした小悪魔はもうどうして良いか分からず、大妖精同様立ち尽くす。
だけどここにいる皆が、自分と同じ考えだと分かって――― それだけで、泣きそうな気持ちが込み上げる。
言葉の代わりに、彼女は大妖精の下まで駆け寄って、固く握られたままの手をそっと握った。
「大丈夫だよ、大ちゃん。私たちは、そんなこと思ってないから」
そっと囁く。大妖精は、もう少し顔を伏せた。
部下や親友、果ては肉親からの叫びを聞き届け、目の前で手を握り合う二人を見て――― レミリアはここでようやく、もう一度口を開いた。
「――― 聞いたかしら?」
「……え?」
氷柱のように冷たい声では、無かった。いつものように幼くて、背伸びをしたような、けれど確かな強さを持つ、紅魔館当主の声。
その温度差に、思わず大妖精は泣いていた事も忘れて顔を上げる。その拍子に、睫毛の先から涙の雫がぽたり、床に小さな水溜りを築いた。
「この場にいた全員が、あなたを庇ったわ。仮にも当主である私の言葉なのにね」
はっとして、大妖精は視線を後ろに向けた。彼女の知る人物の中でも、特に見慣れた姿が並んでいる。
「あれだけの暴言だったら庇いたくなるのは分かるけれど、今のパチェ達の言葉は単なる同情じゃない。
真なる、心からのあなたへの信頼がそうさせたの。あなたには、この偏屈な館の住人の心に、あなた専用のスペースをこしらえるだけの確かな力があるのよ。
見なさい。小悪魔なんて、もう泣きそうじゃない。デビルメイクライ、悪魔に涙を流させるなんて大した妖精ね。
小悪魔の心の半分は、最早あなたで出来てると言っても良さそうよ?」
冗談めかしたレミリアの言葉。
「こあちゃん……」
「ご、ごめん、ね。けど私、大ちゃんが悲しんでると、私まで泣きたくなっちゃって……」
ぐしぐし、と袖で目元を拭って小悪魔は笑顔を作ろうとするが、上手くいかない。
「あなたは言ったわね。自分には何も無い。名前も、家族も、長所も、力も、取り得も、アイデンティティも、居場所も無いって。
名前なんか無くたって生きていけるわ。現に、そこにいる名無しの小悪魔は毎日が本当に楽しそうよ。
あなたもまさか、これまでの人生が全く楽しく無かったなんて言わないわよね?」
自信たっぷりなレミリアの表情が、心の底から頼もしく思える。
「長所が無いなんて、それこそ長所が無い者への暴言ね。私は見たわよ。あなたが外で立ってるだけで、続々と人が集まって来るのをね。
特に、三度も見に来た音楽家さんがいたじゃない。一回見りゃ飽きそうなものを、もっと多くの人を連れて三度もね。
門番としてはちょっとダメだったけれど、あれだけの多くの者を一度に笑顔に出来るのは、あなたの確かな”力”じゃなくて?」
門番として、美鈴と共に外に立ったあの日。親友達が呼んでもいないのに次々と集まって来て、ちょっとした大騒ぎ。
誰もがみんな、門に立つ自分を珍しそうに見ながら、楽しげに笑っていた。
「メイドとして働いたあの日も、一日で紅魔館中のメイドを味方に付けたと言っても過言じゃ無かったわね。
同じ妖精という事を差し引いても、あなたに彼女達を惹きつける魅力があったのは確かよ。
ほら、現に今も……なんでも、あなたがメイドで採用されたら親衛隊が出来そうな勢いだと聞いたわ。小悪魔、ライバルが増えたわよ」
厨房の方へ視線を飛ばすと、何人ものメイドがこちらを見ている。
更に視線をもう少し横へ向ければ、食堂に据え付けられた大きな柱時計の陰にもう一人。その指には絆創膏。
大妖精がこちらを見ている事に気付くと、頬を染めてはにかんだ。
(もう、とっくに治ってると思うんだけどなぁ……)
指の絆創膏を見てそんな事を考える。大妖精が気付いたかは分からないが、憧れの者に付けてもらった物は取りたくないのが乙女心というもの。
「部下にそんな情けない顔を見せちゃダメよ。ちゃんと胸を張って。
そして今誰よりもあなたを傍で見ている者がいるわ。何者にも断ち切れない、強固な絆で結ばれた存在がね。
普段でもあなたがいれば笑顔だし、あなたが来れなければ寂しそうで。誰よりも、湖の大妖精が紅魔館へ来た事を喜んだのは誰?
それだけの存在が、あなたにはいる。何も持たない空っぽの存在にはいなくても、あなたにはいる」
顔を上げる。先程からずっと、震える己の手を温めてくれる親友の存在。
言葉は交わさない。何か言おうと思ったけれど、その必要も無かった。ただ、目を合わせるだけで伝わる。
それだけのシンパシーが、今の二人にはある。
『泣かないで、大ちゃん。私に出来ることならなんでもするからさ。早く大ちゃんの笑ってる顔が見たいな……』
少し潤んだ赤い瞳が、そう言っていた。
(ああ、そっか……わたしには、こあちゃんがいるんだ……)
この世のどんな具象よりも信じられる存在が、一人はいる。その事実に気付けるだけで、どれほど安らぎが得られるだろう。
「小悪魔だけじゃなくて。毎日のように図書館に足を運ぶ中で、パチェも随分とあなたの訪問を楽しみにするようになったわ。
最初は一人、やがて二人が当たり前の場所……そして今はもう、三人いるのが日常になりつつある。
あなたを含めて私達は麻痺してるけど、この紅魔館でもとびっきりの変人が心を許す存在って、とっても貴重よ」
紫色の彼女が、こちらを見ていた。恥ずかしそうな顔をしつつも、安心させるような笑顔を向けてくれる。
(パチュリーさん……)
そう言えばさっき――― 意図したものだったとは言え、レミリアの冷酷な言葉へ誰よりも先に反抗したのはパチュリーだった。
「これでもまだ、あなたは自分に何も無いと言えるの?言いたいなら、もう一枚カードはある。
悪魔の妹と呼ばれたフランが懐いた相手は、そこにいる本の虫が心を許した相手より更に少ないわ。
種族と力の圧倒的な差を乗り越えて、あなたはフランとしっかり手を繋いだの。とっても素敵な事じゃない。
誰もが認める、その優しさと笑顔を広げる能力。これは、あなたに確かに備わっているものよ」
言葉を切られると、途端に泣き出したい気持ちが溢れそうになる。
どうしていいか分からなくて、でも確かに自分が誰かに信じられているというその温かさだけは分かる。それがまた、きりきりと涙腺を締め上げる。
じわり、と滲んでいく景色の向こうで、レミリアはどんな顔をしているのだろう?
「それで、あなたを不合格にした理由をまだ言ってなかったわね。
正直に言えば、相性や能力とか、あなたの人となりだけを見るなら大喜びで雇ってあげたい。みんな喜ぶわ。
けどそれは、あなたの可能性を潰す事になる」
「かのうせい……」
「そう。あなたはフランやメイドにとても好かれている。友達にもね。あなたにはきっと、幼い子供に安らぎを与える事が出来る才能がある。
それなら例えば、里で寺子屋の教師になるのもいい。あのお人好しの教師も、喜んで迎え入れるんじゃないかしら?
人と接する事が好きでもあるようだし、そういう仕事だってある。あなたにはまだまだ、活躍出来る可能性のある仕事や、フィールドが広がっているの。
このちっぽけな紅い館に閉じ込めたりしたら、あなたの伸びるはずだった芽を全て摘んでしまう。私には怖くて出来ないわ」
「わたしの……可能性……」
その言葉を心の中で何度も反芻する。この館で働く以外にも、沢山のやれる事がある。いける場所がある。
ボロボロになるまで噛み締めた頃には、ほんのちょっとだけ、自分に自信が持てそうな気がしてきた。
「そろそろ、分かってくれたかしら?あなたが不合格なのは、あなたの無能故じゃない。
この小さな館にこだわらないで、もっと沢山の物を見て、知って欲しいの。
あなたは無意味な存在なんかじゃない。良い所も悪い所もきちんとある。名前なんて無くても、私達の一人の親友として心に刻まれているわ。
今は少し弱気でもいつかきっと、自分に自信が持てる。その日が来るまで、この幻想郷全てを駆け巡ってごらんなさい。
あなたを必要とする者が必ずいる。あなたのやるべき事がきっと見つかる。立派なアイデンティティがね」
「……は、はい」
「返事が聞こえないわ」
「はい……」
「声が小さい!」
「はい!」
「もっと!」
「はいっ!!」
「よろしい!!」
えっへん、と胸を張るレミリア。直前まであんなに空気が張り詰めていた中で、その様子があんまりに滑稽で。
どっ、と食堂中を爆笑の渦が包み込んだ。大妖精とて例外では無い。
安堵したような顔になって、レミリアが優しく語りかける。
「そうそう、泣き顔より笑顔の方が素敵よ。
どうか、忘れないで。さっき、あなたを庇ってくれた皆の事。勿論私を含めて、紅魔館はあなたの味方よ。
何か辛い事があったら、いつでも来て頂戴。辛く無くても頻繁にね」
「いいんですか?」
「図書館に足しげく通ってるのに、何を今更って感じよね。アルバイトとして仕事を手伝ってくれてもいいわ、人手は欲しいし。
美鈴の話し相手でもいいし、メイドに顔を見せてあげるのもいい。フランの遊び相手も歓迎よ」
「なんていうか、ここだけでもう大ちゃんにたくさんの可能性を提供してますよね」
「それもまた、一つの道よ」
小悪魔の言葉に、レミリアは肩を竦めた。
「そうだ、最後に……一つだけ。あなたを不合格にはしたけれど、さっきも言った通りあなたに何も非は無いし、あなたを嫌ってなどいない。
だからこれからも、小悪魔やパチェやフラン……メイド達もそうだし、美鈴や咲夜、それに私とも。ずっと仲良くしてくれる?」
「も、もちろんです!わたしから、お願いします!」
反射的に頭を下げると、レミリアは心から嬉しそうに笑う。
「そう、良かった。これからもよろしくね。先日から散々働いたし、あなたの顔も明るくなったし……今日はもうこの辺で、お開きにしましょう。
気は弱くても、力が無くても、誰よりも優しい小さな大妖精。あなたと出会えた事、仲良くなれた事……このレミリア・スカーレット、誇りに思うわ。
だから……」
言葉を切り、レミリアは立ち上がった。テーブルを迂回し、大妖精の方へ歩いてくる。
何かあるのだろうかと、小悪魔は彼女の手を離して少し下がる。
まるでスキップでもするかのような軽い足取りで大妖精へと近づいていき、その目の前で止まる。
絡み合う二人の視線。傍で見つめられてやはり緊張した様子の大妖精と、楽しげなレミリア。
悪戯っぽい表情でいた彼女は不意に両手を広げ―――
「わぁっ!」
――― とびっきりの笑顔で、大妖精へと抱きついた。
ぎゅうっ、とその小さな身体を抱き締めながら、大きな声でただ一言。
「――― またね、大ちゃん!!」
思考停止状態の大妖精から身体を離すと、彼女の桜色に染まった頬にそっと口づけ一つ。
踵を返し、レミリアは意気揚々と食堂を出て行った。
「ふぁ、ぁ……」
頬に残る、柔らかで温かい感触。どきどきと高鳴る心臓は今すぐにでも破裂してしまいそう。
それに加えて、まさか彼女から『大ちゃん』と呼ばれようとは。不意打ちのような衝撃に頭がぐらぐら揺れた。
全身が錆びたように動かない大妖精の下へ、今度は咲夜がゆっくりと歩み寄る。
「あなたのメイド衣装は、私の部屋に取っておくから着たくなったらいつでも言って。あの子らもみんな心待ちにしてるでしょうし。
お嬢様は色んな可能性があるって仰ってたけれど……私は、あなたはここに来るのが一番って信じてるわ。
いつかその日が来るといいなって。それまでは、あなたは大事なお客様。誰よりも丁重に、おもてなし致しますわ……大ちゃん」
え、と顔を上げる。咲夜は恥ずかしいのか、それ以上は何も言わずにただ、大妖精の頭を優しく撫でるだけ。
彼女も立ち上がると、レミリアを追うように食堂を後にする。きっとまた仕事に戻るのだろう。
「いやあ、モテモテですね。でもこれも、あなたがとってもステキだからなんですよ?
もし良かったら、また私のお話聞いて下さいますか?お茶とお菓子用意して待ってますから」
今度は美鈴がやって来て、屈んで彼女と目線を合わせながらそんな事を尋ねてくる。
大妖精は即答した。
「もちろんですよ!楽しみにしてますね」
「ホントですか!じゃ、とっても面白いお話も一緒に用意しておきますから。
図書館もいいですけど、たまには門の前も。いつでもいらして下さいね、大ちゃん!」
彼女も最後まで笑顔でそう呼ぶと、スキップしながら食堂を出ていく。
高鳴りっぱなしの胸元を押さえつけていると、今度はフランドールが傍まで寄って来て、
「ねぇ、私との約束……忘れてないよね?」
そう尋ねてくるので、大妖精は安心させるように笑って応えた。
「当たり前だよ。フランちゃんとお外で一緒に遊ぶ約束。いつか絶対に叶えるからね。なんなら明日にでも。
特に、わたしが普段いる湖は見せてあげたいな。とってもきれいなんだから」
「やったぁ!待ってるからね、絶対だよ!信じてるからね……大ちゃん!」
姉への対抗なのか、彼女も思いっきり大妖精に抱きついた。
その温もりを身体に染み込ませるかのようにきつく抱き締め、身体を離すと恥ずかしそうにそそくさとドアの方へ。
彼女が去って間も無い内に声を掛けてきたのは、パチュリーだった。
「何やら色々と、小難しい話もあったけれど……ごく簡単にまとめるなら、みんなあなたが好きって事よ。それだけはどうか忘れないで。
私達と出会えた事が、あなたの為になるように祈ってるわ。どうかこれからもずっと、ね……その、えっと、だ、大ちゃん」
心底照れくさそうだったけれど、彼女もそう呼んでくれた。白い顔を限界まで赤く染め、恥ずかしさを振り切るようふるふると首を振る。
彼女に目配せされ、最後に話を締めにかかったのは勿論小悪魔だった。
「ねぇ、大ちゃん……大ちゃんはさ、なんだか難しいことで悩んでたみたいだよね。
私はお嬢様やパチュリー様みたいに頭もよくないから、しっくり来る答えは出せないけれど……」
一つ一つ拾い上げるように、彼女は大妖精へ向けて言葉を投げかけていく。
「けどね、ほんのちょっとだけでもいいから、気付いてほしいな。大ちゃんがただ笑うだけで、心の底からうれしくなれる悪魔がここにいるんだ。
大ちゃんが悲しくて涙を流せば、何もできないけれど、一緒に泣いてあげたいって願うの。少しでも悲しみを背負ってあげられたらって。
自分の価値を測れる物差しはどこにもないけれど、どんなに少なくとも私は、大ちゃんがいるから幸せになれるんだよ」
「こあちゃん……」
「えへへ、もっとカッコよく言えたらいいんだけどね。でも本当だよ。
大ちゃんがもし、自分の生きてる意味っていうか、価値みたいなのにギモンを持ってたなら、知ってほしかったの。
紅魔館の小悪魔は、大ちゃんがそこにいるだけで、こんなにも幸せになれますってね」
余計な言葉で濁す事無く言い切り、小悪魔は照れ笑いでそう締め括った。
「やっぱり時には、ストレートな物言いが何よりも勝るもの。みんながみんな、小悪魔やあなたみたいに素直だったらね。
ま、あなたの胸のつかえも取れたみたいだし……難しい考え事は似つかわしくないわ。そういうのは、私に任せておきなさい。
ところで、今日はどうするの?もう帰る?」
パチュリーに尋ねられ、大妖精は小悪魔と顔を見合わせてから答える。
「えっとぉ……今から図書館に行きたいって言ったら、ダメでしょうか?
ここの所、あんまり行ってなかったので……」
「私も、大ちゃんとお話したいです!」
「言うと思ったわ。じゃ、行きましょうか……あ、そうだ」
苦笑いを浮かべながら歩き出しかけ、ふと彼女はまだ時計の陰にいたあのメイドを向いた。
「悪いんだけれど、図書館までお茶淹れて持ってきてもらっていいかしら?」
「あ、は、はい!すぐにお持ちします!」
「よろしくね」
彼女が返事をしたのでパチュリーは頷き、今度こそ歩き出す。
三人が背を向けた厨房からは、
「私が持ってく!」
「いいよ、わたしに任せてったら!」
「わ、私が頼まれたんだから……」
「あんたは他に仕事あるでしょー!」
どったんばったん、台所戦争とでも言うべき騒乱が聞こえてくる。
「あなた、本当に好かれてるわね」
ぽん、とパチュリーに肩を叩かれ、大妖精は赤面した。
けれどそれと同時に、自分がここにいる事で、誰かが喜んでくれる事を確かに実感出来た。
勿論彼女達だけじゃない。この場にいない者達もそうであるし、そして今横を歩く二人。
きっと、大妖精の存在する価値を、誰よりも上手に見つけてくれるだろう。
(頼ってばっかじゃダメだけど……)
今はちょっぴり、甘えたい。こんなにもこの場所が心地良いから。
見慣れた赤い廊下を歩きながら、無性に幸せな気持ちに浸る夕刻。
今日、もう一日だけ、この館の住人になってもバチは当たらないだろうか。
「大ちゃん大ちゃん!もうせっかくだし、今日もまた泊まっていきなよ!」
「そうね、しっかり疲れを取ってから帰ってもらった方がいいわね」
――― 以心伝心って素敵な言葉だと、大妖精は思った。
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――― あの日から数か月が経った、ある夜の会話である。
「レミィ、ちょっといいかしら」
「どうしたの?」
「あの子……湖の大妖精ね。小悪魔と一緒に聞いたんだけど、やっぱり紅魔館で働きたいって言ってるの」
「え、ホントに?嬉しい反面、私の話を聞いてなかったみたいで複雑ね」
「それは違うわ。あの子なりに考えた結果なのよ。私の推測も入るけど……この場所で働く事が、あの子が『持ってない』と言った全てのものを手に入れる事になるのよ」
「?」
「自分に合った仕事と生き方。誰かに必要とされる生き甲斐。好きな人と一緒の生活とか、居場所とか。
『大ちゃん』の呼び名に、あの子の取り得や長所を見出してくれたレミィの存在、そういった尊敬する人の為に働ける充足感とか」
「まあ、パチェの言う事は分かるし、私としても雇ってあげたいけど……う~ん、でもそう簡単に言った事を返すのもねぇ」
「もう一つ。あの子が持っていない、最後の一つはここでしか手に入らないわ」
「え、なにそれ」
「他でも手に入れる事は可能かも知れないけれど、あの子はここで手に入れる事を望んでくれているわ。有難い事にね。
私もそうなって欲しいし、みんな喜ぶ。とっても素敵だと思うんだけれど、どうかしら」
「ちょっと待って、最後の一つって何?名前に、居場所に、明確な目標や生き甲斐の存在。まだあるの?
小悪魔の存在はもうとっくにカウントされてると思うし……個人的にこの場所や住人を気に入ってくれているってこと?」
「レミィが今言った事は近いけどね。この場所や住人を好いてくれている。勿論それもあるし、そこから繋がって来るの」
「うー、教えて」
「あれ、まだ分からない?」
「意地悪しないでよ」
「――― 家族よ」
まるであの私の中の名作「ナナシノダイチャン」、いや、それ以上の感動が!涙腺崩壊!
カリスマ溢れるレミリア、かっこいい!
これもう最高傑作だよ!
貴方は最高だ!
面白かったです
屋敷で新しく入った妖精メイドがとても可愛いときいたんですけど
大妖精に前から抱きついてるレミリア……、後ろから抱きついてくるフラン……、右腕にしがみつく小悪魔……、左腕にしがみつく妖精メイド……
悪魔の館の天国がここに!!
大ちゃん可愛いよ大ちゃん
ネコロビヤオキさんの作品の大ちゃんが可愛すぎてもう最高です!
大ちゃんと小悪魔のカップリングはよくあるけど
レミリアと大ちゃんもありかw
絶対こあが言うと思ってたから、意表を突かれて不覚にもどきっとしてしまった。
大ちゃん愛に溢れたいい作品だと思います。
ちょっと紅魔館に行って皿を割って指を怪我してくる。
やったーネコロビヤオキさんの新作だ!
これで忘年会乗り切れる
大ちゃんの仕事姿が目に浮かびます。
そして、名無しの大ちゃんだからこその葛藤、努力、才能
またアクセントとしてのレミリアがいい味出しています。
とくに締め、不 合 格のシーンが最高です。
あえて気になった所は、作者の風潮ですが小悪魔の大ちゃん愛が大きすぎる所(もう少し控え目でもいいかも)と、フランと大ちゃんのかかわりをもう少し増やすと更にいいものになると感じました。
上から目線ですみません。
大ちゃんもよかったけど、レミリアのカリスマ(&ブレイク含む)っぷりがツボです。
やっぱ紅魔館は最高。
ただ絆創膏のメイド妖精と大ちゃんのその後についてkwsk
心があったかくなって、優しい気持ちになれて、幸せです。
私は特にフランちゃんと大ちゃんが仲良くなるとこが好きです。
今後この二人の絡みの話、できればこの話の続編として外へ二人が遊びに行く話を書いていただければすごく嬉しいです。
次回も期待
愛され大ちゃん!
だがそれ以上になんて暖かい悪魔の館なんだ…
特にカリスマと可愛さを両立させているレミリアカッコイイです
存在理由なんていらんよ
曰く、
「この世に生まれ落ちた者は、ただそれだけで世界に受け入れられている」
んだそうだよ大ちゃん
館の皆もあったかくて最高! 癒されましたわー
紅魔館が羨ましいですよ
あまりコメントしすぎるのもあれかと思い自重していたのがすばらしすぎてまたもやコメントさせていただきました!レミリアがかっこいい!!
主様の作品でまたもやほっこりさせていただきました(*^ω^*)
おはずかしながら主様の作品をまったり読むことが最近の楽しみな桔梗です☆
それでは次回作を楽しみに正座でまったりお待ちしておりますゆえ体調の方に気を付けてまた読ませてくださいね(p^-^)p
失礼します(^_^)/
これはもはや[哲学]と言ってもいいのではないのでしょうか…
「自己を考える」というのはかなり難しいことですからね。
レミリアが芸達者でしたね(笑)
レミリアだけでなく今回は全てのキャラクター(それこそ妖精達も全て)が一段と輝いていたのではないかと思います。
ですが一言、これだけは…
ネコロビヤオキさんの作品に作品どうしの関連性があるのかは分かりませんが、過去作読む限り大ちゃんがかなり万能なんですがこれはどういうry←
長文ですいませんでした。
また次回作をお待ちしております^^
PS.ルナサの立ち位置にグッドサインb
大ちゃんは紅魔館で働くべきそうすべき。各部署をローテーションしませう^^
優しさを知っている子は、それだけで強いですよね!
>>名前が正体不明である程度の能力様
過去作と多少似通ったテーマかも、というのは書き上げてから気付きましたが、きちんと差別化出来ていたようで何より。
そうまで仰って頂けますと恐縮してしまいますが、同時に自分の創り上げた物語がここまで誰かの心を動かせた、その事実が何よりも嬉しく感じます。
これからもそんな作品を書いていけたらなぁと思わずにはおれません。
>>10様
大ちゃんのココロに巣食う暗い影。このお話全てを使って、それを粉々に吹き飛ばすつもりで書いてます。
これまで、そしてこれからの二次小説書きとしての人生全てを使ってでも、大ちゃんを笑顔にしてあげたい。
>>奇声を発する程度の能力様
冗長か、読み応えか。自分のようにいつも作品が長いと、紙一重で評価が天地に分かれてしまう恐怖が付き纏います。
面白ければ、長さは武器になる。それを信じて頑張ります。
>>COME BACK TO MY HOME様
世界を揺るがすだなんて大それた事じゃ無いけれど、傍にいたいと願ってくれる人がそこにいるのは本当に幸せで、素敵な事なのです。
『ただいま』『おかえり』っていい言葉だなァ。
>>17様
しかしお仕事が不定期で、時には門の前に立っていたり図書館にいたり。地下にいる事もあるようです。ご了承を。
天使のような悪魔の館。地上の天国、幻想の織りなす楽園。あーちくしょう見てみたい。
>>18様
必死に脳内でその可愛らしすぎるイメージを描き、いかに損なわずに文章に乗せられるか。かなり力を使いました。
後は誰かが本当にイラスト化してくれるのを待つのみ。あるのかな?
>>20様
大ちゃんの活躍を描こうとすると、自然とそんなお話に。大ちゃんは優しいコだからネ。
可愛いのは周知の事実であり真理。みんなで唱えましょう。大ちゃんかわいい。
>>君の瞳にレモン汁様
受け取ったZE!この100点を心のエネルギーに変えて次もがんばるよ!('(゚∀゚∩
>>22様
大ちゃんを可愛く書く、それに二次作家モドキとしての命を懸けてます。伝わってて嬉しい。
カップリング、という程かは分かりませんがこの二人結構合う。親和性ヨシ。でも一番はこぁ。
>>とーなす様
ぶっちゃけ狙いました。バッチリ決まったようで密かにガッツポーズです。大ちゃん愛はこれ一本じゃとても伝えきれません。
お皿を割るのはいいですが(よくないですが)、ワザとだとバレると咲夜さんにこってり絞られますし、第一メイドにならないといけないような……。
>>レミ大がジャスティスな人類様
おっほお、これはまさかのピンポイント。ちょっとしたポイントシーンなので可愛らしく書けてたらいいな、とは思いましたがジャスティスな方にも認めて頂けて嬉しい。
>>32様
ぎゅっと抱きしめるような、そんな温かさを表現したいというのは自分にとっての常なる目標。
ヘンテコで素敵な住人達のアレコレが、そんな風に映ったのであればこのお話は大成功です。
>>月宮 あゆ様
お忙しい年末を乗り切る活力にして頂けたのであれば幸い。
名無し故の悩みもあるけれど、そんなの関係無いと言ってくれる人が沢山出来るだけのモノを大ちゃんは持っている。そう信じて書きました。
しかしこぁが大ちゃんスキスキなのは(逆も然り)もう自分の中のジャスティスとも言うべきアレなので……まあもうちょっと控えめでも良かったかな?
フランちゃんに関してはお話の長さを考えるとこのくらいが限界でした。ごめんなさい。でももっと書きたい。
>>37様
地味な良作と言える作品が、自分にとっての目指すべき場所なのかもと思います。派手で無くてもいい、読んだ人の心にほんのちょっとだけ残るような何かを……。
>>40様
ちょっと久々にメインだったので、あらゆる意味で大暴れさせたくでおぜうさま大暴走。
へたれなおぜうさまは書いててとっても楽しいので満足です。でもやる時はちゃんとやる、そんな理想の上司像。
>>41様
言葉は無くとも、目を見れば伝わる。そんな温かみを表現出来てたらいいな。
>>52様
その後ですか。自分としても書きたいけれど需要があるのかどうか……ただ、仲良くやってる事は確実ですね。
大ちゃんとの距離の近さでちょっと有名になり、同僚から嫉妬の視線を浴びるビジョンまで見えます。
>>二人静様
その褒め殺しはまさに作者を殺しかねん!うひぃ嬉しい恥ずかしい。自分の書きたかったモノが伝わってると分かり、自分も幸せです。
サイドテール同盟とでも言うべきこの二人のシーンは自分も書いてて楽しかったです。続きは自分としても書きたいですが……いつかは。
>>54様
電車というコトは、携帯から?あの小さな画面でこんなに長い代物を読んで頂けた、その有難さにこちらも泣きそうです。ありがとう!('(゚∀゚∩
>>55様
自分も大好物です。だからこそ書いてます。次の作品はもっと良かった、と言って頂けるように頑張りますとも。
>>57様
大妖精、を”High Fairy”と訳する事もあると聞きますが、確かに大ちゃんの可愛さはHighどころかHighest。
>>58様
因果応報。誰にでも優しい大ちゃんは、与えた分よりもっともっと沢山の愛をもらいました。そんなお話。
>>59様
コメディ時の小ネタもそうですが、過剰なくらい盛ります。中途半端イクナイ。その分いっぱい伝わってるといいなァ。
>>60様
悪魔にだって心はあるのだ。先も述べましたがれみりゃは可愛い。可愛くて、ちょっとヘタレてて、でも肝心な時は締めてくれる。それがいい。
これだけの人妖に家族として受け入れられたのなら、世界の方も反対は出来ますまい。
>>61様
自分の思い描く幻想郷のイメージを、この一つの館に込めて。どこか気が抜けてて、ちょっと怖い所もあるけれど温かい。
勿論可愛いというのも重要なファクターです。
>>70様
誰もが羨む悪魔の館。文面に起こしてみると『!?』ですが、紅魔館を知る者ならきっと納得。
>>桔梗様
コメントは作者にとっての栄養です。ガンガン注いであげて下さいませお願いしますマジで一言でもいいかr(ry
失礼。しかし、こうして自分の作品を待って下さる方がいらっしゃるという事実が本当に嬉しくて涙が出そうです。
これからも、願わくば筆を置くその瞬間まで待って頂ける書き手になりたい。
>>76様
可愛さMAX。温かさMAX。ボケもMAX。何もかもMAXX UNLIMITED。それが紅魔館です。
>>77様
『僕の友達は、心がエリートです!』(by 風間トオル)
みんな心がイケメンです。でもお顔はとってもキュート。はぁ紅魔館に就職したい。食糧以外で。
>>78様
涙腺をブレイクする程の可愛さ。素晴らしい美術品を見ると、その神々しさに思わず落涙するという話もありますがそれか。大ちゃんは可愛すぎるから仕方無い。
>>79様
冬をモチーフにしたお話もいくつかありますが、大抵がこういうココロレンチン系なのはもしかして寒いからなのかしら?
身体は暖房に任せて、せめて心を温められるお話を書いていきたい。
>>81様
そのコメントで作者も泣く。大ちゃんにとってのこぁのような、こういう時に手を握ってくれる存在がいればなァ。
>>桜田ぴよこ様
きっと温かい紅魔館。健気な大ちゃん。出来すぎ?いいじゃない、幻想郷なんだから。
誰が何と言おうと、自分は優しい幻想郷が好きです。
>>キャリー様
ありのまま、感じたままでいいのよ!
今回のお話はぶっちゃけ、こぁが『いいじゃない、大ちゃんは大ちゃんなんだから!』と言えば終わってしまった可能性もありますが、時には大いに悩んで欲しいなと。
大ちゃんは万能なのでは無く、何にでも挑戦するチャレンジ精神旺盛な子なのです。好奇心が強いのは妖精の常ですしね。
時には失敗します。転びます。泣きそうになります。けど支えてくれる人もいるから頑張れる。そうして大ちゃんは強くなる。
>>ナナミ様
素晴らしい評価を頂きまして身に余る光栄ですが、これは自分の力では無く大ちゃんが可愛いから。お礼も兼ねて、これからも大ちゃんをもっともっと可愛く素敵に書けるよう頑張ります。
>>89様
そうするべき。館内の遊撃手的役割で、割と何でもこなせる助っ人ポジション。似合いそう。
最終的にどこに落ち着くか、は大論争になるのでなるべく触れない方向で。
>>立ちスクリューができない程度の能力様
名前も無い、力も無い。されど人の優しさ、温かさを知る大妖精。だからいつも、それを誰かに与え続けてきた。
ならばきっと、足りない所は誰かと助け合って生きていけるハズ。それが結実した一つの結果が、今回のお話なのです。
優しく感動的な読後感でした。
素敵なssをありがとう
これはここで無料で公開するのがもったいない位です。
文才分けて欲しいぐらいもう凄いです。色々。
こういうレミリアってあんまりみないね。普段のジャイアンイメージも相まってgood
この作品はクーリエの歴代でもトップクラスの名作だと思う。
この作品を見つけたかった.....!!
初めて涙を流した小説!!
貴方、私の初めてを奪ったわね!