「…………」
人里の入り口近くに構える民家の屋根に腰掛ける少女が一人。
背に軽くかかる程度まで伸ばされた黒髪。赤い蝶ネクタイの付いたワンピースを身にまとい、その背に負うは三対の歪な羽根。左は蒼く波打つ矢のような、右は紅く鋭い鎌のような。
屋根の淵から投げ出した両足をぷらぷらと揺らしながら、少女は里の入り口を眺める。
「まだかな……?」
溜め息とともにこぼれた言葉。その様子は、まるで想い人を待つ乙女のようで。
「…………あ」
やがて里を出て行く一人の少女が見えた。両手の手提げ袋を重たげに揺らしながら少女は駆ける。
肩口で切り揃えられた銀の髪と黒いリボン。白のブラウスに緑を基調としたベストと、同じ意匠のスカート。背と腰に一振りずつ刀を携え、一つの大きな霊魂を従えて走る少女。
その少女の姿を見た瞬間、屋根の上の少女は笑みを浮かべた。ただし、その笑みは愛しき人に向けるような甘美なものではなく、嗜虐的で歪なもの。
「きたわね」
昼間に見かけてからこれまで、ずっと窺っていたチャンスがついに到来した。
宴会の席で聞いた話――あの少女、人間と幽霊のハーフたる魂魄妖夢は怖いものが苦手なのだとか。自身も半分はお化けのクセに、笑わせてくれる。
「ふっふっふっ……あの時のお返し、きっちりとさせてもらうわよ、魂魄妖夢!」
復讐に燃える古の妖怪、封獣ぬえがふわりと宙に舞う。
茜色の幻想郷。太陽はその身を半ば近くまで地平の向こうに隠し、東の空には既に月の姿が見えていた。
買い物を済ませた妖夢は人里を出て家路を辿る。
「すっかり遅くなっちゃったな」
今日は日用品の買い出しの他に幽々子から甘味のお使いも受けていた。以前、お土産として買った羊羹が大層お気に召したらしく、また買ってきてほしいとのこと。
しかし件の甘味処に行ってみれば、なんと店主が風邪を引いてしまったために店は閉まっていた。さてどうしたものかと代わりの甘味を探していたらこの時間である。
白玉楼に着く頃には日も暮れてしまうだろうか。そんなことを考えながら妖夢は、茜から藍に、そして闇に染まりつつある幻想郷を行く。その背を舐める邪悪な視線に気付くことなく……
魔法の森の上空を飛ぶ妖夢の姿を、ぬえは木々の合間から見ていた。ねっとりとした湿気と瘴気が気持ち悪いが、我慢しつつぬえは森の中から妖夢を追跡する。急いでいるのだろうか、妖夢は周りに目もくれずに飛び続けていた。結構なスピードが出ているため、森の中から追うのは一苦労だ。
まずは足を止めよう。
「人を驚かすにはシチュエーションが大事よね」
呟き、ぬえは大きく息を吸った。
『ワ……ワタシノ、ウ、デ、ハ……アタマ、ハ、ドコ……?』
裏声を駆使して喉から甲高い声を発する。その声色はか細く、物悲しく、不安感を煽る悲愴さと不気味さを漂わせていて。
それが耳に入ったのだろう、上空を飛ぶ妖夢が足を止めてきょろきょろと森を見下ろした。しかし、森の中に潜んだぬえの姿を遠方から視認できることもなく。
「ではでは、降りてきてもらおうかしら」
ぺろりと唇を舐めながら、ぬえは腕に絡み付いている蛇のような生き物を引っつかみ、持っていた頭大の石に取り付ける。
「それっ、行ってきなさい」
そして石を放り投げ、ぬえは移動を再開した。
森の中から飛び出した石は“蛇”の力によってふらふらと宙を彷徨い、やがて妖夢の眼前まで飛んで行った。
「きっ、なな生首っ!?」
小さな悲鳴。どうやら妖夢には“蛇”を取り付けた石が生首に見えたらしい。あいにく、ぬえにはただの石にしか見えないのだが。
ともあれ、少しでも動きを止めることができればそれで十分だった。
妖夢が石に気を取られている間に死角へ移動したぬえは、威力を抑えた中弾を妖夢に放った。
「だっ!?」
中弾は狙い違わず妖夢の後頭部に直撃。妖夢はふらふらと森の中へと降りていく。
「よしよし、いいわよ。時は黄昏、ところは不気味な魔法の森。仕込みもオッケー! カンペキなシチュエーションだわ」
ぬえはほくそ笑む。
「さあ、魂魄妖夢。正体不明の恐怖に怯えるがいい!」
魔法の森に、妖怪少女の笑い声が響く……
「いたたたた……何なのよ、いったい?」
痛む後頭部をさすりながら妖夢はぼやいた。
奇妙な声がしたかと思えば森の中から生首が飛んできて、そして後頭部に衝撃を受けて……
荷物を落とさなかったのは運が良かったと思いながら見上げれど、視界には鬱蒼と生い茂る木々の枝葉と藍の空しか見えず。いったい襲撃者は何処に……?
「『腕は、頭はどこ?』って言ってたわね……もしかして、さっきのはそいつの声……?」
……うあにわぬぐげげおわみあえあ……
「!?」
妖夢はびくりと身を強張らせた。
「今度はなに!? 今の……声、なの? 何なのよ、本当に……?」
それは意味のある声のような、意味のない音のような。鳴き声のような、笑い声のような。そんな曖昧で不可思議な音声だった。
先ほどの空を飛ぶ生首といい、気味が悪い。こんなところに長居は無用だ。
妖夢は森から抜け出すべく、荷物を持ち直すと真上に飛び上がった。
その時――
ぺとっ。
「うっひゃああ!?」
首筋にひやりと冷たい何かが張り付いてきて、妖夢は悲鳴を上げながら地面に落下した。
「あいたぁ……もうっ、今度はなにきゃあ!!」
ぬるり。
首から引っぺがしたものを見て妖夢は三度目の悲鳴を上げる。妖夢が慌てて放り投げたそれは、血まみれの手だった。
「なっ、ななな、なに!? この森、何!?」
妖夢は尻餅についたまま視線を巡らせる。しかし、鬱蒼と生い茂る木々と大小様々なキノコが視界を狭め、周囲の様子はよく分からない。さらに見上げた空は藍の色。陽は落ちきっていないようだが、天を覆う木々の枝葉が僅かな明かりさえも遮り、薄暗い。
見通しの悪い森をきょろきょろと見回しながら、妖夢はじっとりと滲み出していた額の汗を服の袖で拭った。気分が悪い。この森は湿気だけでなく瘴気も濃いと聞いたことがある。そのせいだろうか。
魔法の森に入ったことはなかったが、これほど過酷で気味の悪い場所だったとは。
「……魔理沙はよくこんなところに住んでいられるわね」
こんなところに好んで住んでいるのかと思うと、魔法使いが恐ろしく思えてきた。
とにかく、一刻も早くここから出たかった。これ以上ここにいては何が起きるかわからない。
幸い、腰は抜けていなかった。妖夢は立ち上がると荷物を持ち直して再び空からの脱出を試み――
「え」
目の前に生首がいた。
血にまみれ、乱れた髪はその血で濡れぼそり、痩せこけた顔に刻まれた一筋の大きな切り傷からは赤黒い肉が見えている。右目はなく、そこには暗い眼窩があるだけ。そのせいだろうか、見開かれた左目が必要以上に大きく見えた。
そんな生首が目の前にいた。額と額がこつんと当たると、生首は残った左目を更に見開き、口の両端を裂けんばかりに吊り上げ、
『ケタ……ケタケタケタケタケタ……』
笑った。
「…………」
妖夢は静かに着地し、そしてぱたりと仰向けに倒れて気絶した。
「~~っ……ふっくくく……あっはっはははははは!!」
妖夢が気絶したことを確認したぬえは、盛大に声をあげて笑った。
「はー、面白い。生首ーって言ってたけど、よっぽどおぞましい顔でもしてたのかしら?」
目の端に涙をためながらぬえは潜んでいた草むらから姿を現し、妖夢の傍らまで歩み寄った。完全に気を失っているようで目覚める様子はない。
「ふふん、いいザマね!」
ぬえはうんうんとうなされている妖夢の頬を指でつつく。
ちなみに、先ほど妖夢が血まみれの手として認識していたものは、命蓮寺の台所から拝借したこんにゃくである。
なぜ妖夢にはこんにゃくが血まみれの手に、石が生首に見えたのか。その正体はぬえの腕に絡み付いている蛇のような生き物にある。
“正体不明の種”――取り付けた対象の正体を判らなくさせる力を持つ、ぬえの能力発動の媒体となる存在である。
正体不明の種の能力は、取り付けた対象を見たものの“先入観”と“想像力”に依存する。
今回を例に挙げるとすれば、ぬえは何の変哲もない石に正体不明の種を取り付けた。種によって空を飛ぶそれは、その正体を知るぬえから見ればただの“空を飛ぶ石”だ。しかし“石が空を飛ぶはずがない”という“先入観”を持つもの――妖夢から見れば、それは石ではなく“空を飛んでいてもおかしくないもの”として認識するのだ。無論、何に認識するかは本人次第である。こればかりはぬえにも操ることは出来ない。しかし、妖夢は種を取り付けられた石を見る直前にぬえの声を聞いた。
『腕がない』『頭がない』
元来、怖がりとは想像力が強いものだ。ただの天井の染みが、人によっては化け物の顔のように見え、その姿を“想像”して怯えてしまうこともある。妖夢も例外ではなく『自分の頭がない』という声を聞き、首なしの人物を“想像”し、また不安感を掻き立てる得体の知れない声に恐怖を覚えた。
故に、頭大の石から“血まみれの生首”という、本来ならばありえないものを想像し、それを認識しまった。
一度この暗示にかかってしまうと抜け出すのは難しい。恐怖が恐怖を呼び、加速した恐怖は恐ろしい想像を次々と脳内で生み出し続ける。こんにゃくが血まみれの手に見え、石が生首に見え、あまつさえそれが口を開いて笑い出してしまう。
また、正体不明の種にはもう一つの付加効果がある。それは近くにいるものの聴覚を狂わせること。
原理は視覚に対する影響と同じく“先入観”と“想像力”に依存する。聞き覚えのない音がより正体不明になってしまうのだ。
ぬえはこの正体不明の種を妖夢に放った中弾に紛れ込ませていた。妖夢の背に取り付いた種が彼女の聴覚を狂わせ、未知の音を不安感と恐怖心を煽る正体不明の音声に聞こえさせていたのだ。
妖夢が聞いた正体不明の音声、その正体はぬえの羽音。妖夢が森に降りてからぬえはずっと背の羽根を擦り合わせていた。きゅりきゅり、きゅききゅきと金属の擦れるようなその音は、妖夢にとっては聞いたことのない音。故にそれは種の影響で正体不明の音声として妖夢の耳に入ることとなった。これもまた、妖夢の不安感、恐怖心を更に強く煽るための作戦の一つである。
ランダム性の高い正体不明の種を、相手の心情を操ることで自分の思い通りの姿に見せる。長年やってきた封獣ぬえの恐怖術である。
「ま、声を出すなんてあからさまなことはいつもはしないんだけどね。この程度で怖がってくれるんだから、やっぱりビビリちゃんで遊ぶのは面白いわ」
閑話休題。妖夢の頬をつついたり引っ張ったりすることに飽きたぬえは、やがて更に二切れのこんにゃくを取り出した。それらに正体不明の種を取り付けると、一切れを妖夢の足に、もう一切れを首に貼り付ける。
「起きなさい。まだ終わらないわよ」
嗜虐的な笑みを浮かべながら、ぬえは妖夢の頬をぺちぺちと軽く叩く。
「…………ん……」
小さなうめき声。
さて、もうひと驚きしてもらおうかしらと、ぬえはそそくさと草むらに姿を隠した。
「…………んぅ?」
最初に感じたのは、不快感だった。
身体にまとわりつくねっとりとした湿気に顔をしかめながら妖夢は身を起こした。ぽてり、と何かが腹の上に落ちる。
「みょわっ!?」
血まみれの手だった。
…………
「はあ……まったく、本当にこの森はどうなってるのよ……?」
ひとまず落ち着くことに成功した妖夢は溜め息を吐く。先ほどの手は丁重に草むらへ放り込んでおいた。無論、足にくっついていた方もだ。
いくらか冷静になった頭で妖夢は状況を確認することにした。一度、意識を失ったおかげで混乱していた頭も冷えていた。
「里での買出しが終わって、帰る途中だったのよね」
そう、その道中に魔法の森があって。
「そこで襲われた」
上空で後頭部に受けた衝撃。それは二度ほど姿を見せたあの生首の仕業なのだろうか。
あの生首は何なのだろう。この森で無念の死を遂げた誰かが、時を経て自縛霊となってしまった成れの果てなのだろうか。
……いや、あれからは霊的な気配を感じなかった。妖夢の霊感レーダーには何も反応はなく。つまり、悪霊的な外見でありながら霊ではないのだ。
「……どういうこと?」
考えても答えが出てくることはなく、ひとまず確認作業を続ける。
「荷物はあるわね」
すぐ隣に鎮座していた買い物袋の中身を確認し、何もなくなっていないことに安堵する。
「そして……」
あうあうけぎぞあいまぬりさぐあ……えおあくぃぐおう……
そしてこの声。人間なのか、動物なのか、妖怪なのか、霊なのか。喜んでいるのか、怒っているのか、哀しんでいるのか、楽しんでいるのか。全く検討のつかない声だった。いや、もしかしたら声ですらないのかもしれない。この音声の主が、あの生首や手の持ち主なのだろうか。無関係とは思えないが……
とにかく、どれも今まで森の上を通った時にはなかったこと。
魔法の森に“何か”が潜んでいるのは明白だった。
「…………怖いなあ……」
状況を確認して、妖夢は早くも弱音を吐いた。
目の前に敵がいるならそいつを斬ればいい。いなかったとしても、犯人さえわかればそいつを探し出して斬ればいい。
では今回は?
森に“何か”が潜んでいるらしい。それは血まみれの生首であったり、血まみれの手であったり。あるいは妙な音声を発する“何か”であったり。しかし目の前に姿を現してくれる生首や手は、この異変の一部だ。本質ではない。これらを斬ってもどうにもならないだろう。
とにかく曖昧だった。目的も、正体もわからない“何か”をどう斬ればいい?
斬ればわかる。祖父――お師匠様はそう教えてくれたけれど、ならば斬れないものは? 何を斬ればこの“正体不明”をわかることが出来る?
「…………」
心中で問うが、答えてくれるものなどいる筈もなく。
「……ここにいても仕方ない」
帰ろう。すっかり遅くなってしまった。幽々子さまも心配しているに違いない。
見上げた空は狭く、無明の闇と生い茂る木々の陰が広がるばかりだった。
…………
じあおぐごうくぉをぐぶえぇおぬ……えういは、はおいうをわ……
空を飛ぶとまた“何か”に襲われる。これまでの出来事からそう考えた妖夢は、歩いて森を抜けることにした。
しかし……
「ここ……さっきも通ったっけ……?」
この、傘が赤くて白丸の斑点がついたキノコはさっきも見た……ような気がする。
夜の魔法の森。その奥地で妖夢は所謂“迷子”というものになっていた。
当然である。ここは妖夢にとって未踏の地。更に時刻は夜。闇雲に歩いて出られるわけがなかった。
やはり空から脱出をと何度も考えたが、その度に“正体不明”の存在が脳裏をよぎって踏み出すことができず。……怖いのは御免なのである。
ぶあぉあごうぃぐくぇうぃぐ……んびうぬえいくぁ……
不気味な音声は相変わらず続いている。つまり“正体不明”はまだこちらを見ている、ということなのだろうか。
とにかく、油断はできない。
妖夢は気を取り直して、空気が綺麗な気がする方へ歩き出した。
…………
「はあ……はあ……」
実際にはそれほど時間は経っていないのだろうが、緊張状態が続いている妖夢にとって、ほんの数分が何十分、何時間にも感じられた。
姿を見せない“正体不明”の存在が神経をすり減らし、森に蔓延する瘴気が体力を奪う。
「……このままじゃ駄目だ」
やはり森を抜けるには空しかない。
妖夢が意を決して飛び立とうとした、その時。
ぬえぬえ……
『……しく』
声が止んだ。森に響いていたおかしな音声が消えたのだ。そして代わりに聞こえてきたのは――
「……泣き声?」
『しくしく……』
まさか、迷子?
ああそれは自分もか、と一人でツッコミを入れつつ妖夢は周囲を見回した。視界に入るのはキノコ、木、キノコ、キノコ、木、キノコ……
キノコの割合がやたら多いなと思っていると、キノコとも木とも違うシルエットが見えた。
「しくしく……」
声からして幼い少女だろうか。植生の濃い森の中、天涯にぽっかりと開いた隙間から降り注ぐ月光の下、木々キノコの向こうに汚れたぼろ布を身にまとった何者かがうずくまっている。
里の子だろか? でも、だとしたらどうしてこんなところに?
いや待て冷静になれ。こんな時間、こんなところにまともな人間がいるだろうか? こんな森に好んで住んでいるのは魔法使いくらいだ。
彼女は、何者?
「あの、大丈夫ですか?」
とは言え、放っておくことなど出来るはずがなく。浮かぶ疑問はさておくこととして、妖夢はがさがさと草の根を分けて少女に近づきつつ声をかけた。
少女に反応はない。聞こえなかったのだろうか。変わらずしくしくとすすり泣きを続けている
再び声をかけようと口を開いた妖夢の耳に、少女の声がかすかに聞こえた。
「……どこ?」
「え?」
「返して……」
「な、何を?」
ただならぬ雰囲気をまとってゆらりと立ち上がる少女を前に、妖夢は思わず足を止める。背を向け、頭からすっぽりとぼろ布を被っているため、体格が自分と同じくらいだということしか妖夢にはわからなかった。
「私の……」
「あなたの……?」
少女が振り返る。その様は――
「私の頭と手を返してよぉ!!」
「!?」
首から上と、両の手が存在していなかった。
ぼろ布の下には、同じくぼろぼろの着物を身体に引っかかっている程度に着ていて、そこから露出している腕や足も傷だらけの泥だらけだった。
失われた頭と手を求めて、首なしの少女は妖夢に歩み寄る。
「ねえ、貴方が持ってるんでしょ……? 返してッ!!」
果たしてその狂気に満ちた声はどこから発せられているのか。
じわり、じわりと焦らすように少女は妖夢へとにじり寄る。
「……」
妖夢は無言で荷物を置くと、楼観剣を抜き放った。暗闇の中、僅かな光を反射して妖怪に鍛えられた刀身が妖しく輝く。
「私の……え?」
「せやぁ!」
踏み込み、そして一閃。
「ちょおおぉぉぉ!?」
驚き、尻餅をついた少女の眼前を刃が通過する。
「あ、あぶっ、危ないじゃないの!」
更なる肉体分裂を免れた少女は、先ほどまでの狂気に満ちた空気を霧散させながら妖夢に文句を言った。
そんな少女を前に、妖夢は怯えるでもなく笑みを浮かべていた。隙なく楼観剣を構えたまま浮かべられたそれは、安堵の笑み。
「よかった。まさか“正体不明”の方から出てきてくれるなんて」
「え?」
「あなたには明確な意思がある、実体がある。すなわち、この森で起きている異変の犯人はあなたね!」
「えぇ!?」
びしっ、と楼観剣を突きつけて高らかに言う妖夢に対し、首なし少女の驚愕の悲鳴。
ずっと妖夢の神経を削り続けていた“正体不明”の本体が目の前に現れた。これを斬ればその正体を理解することが出来る。この機会、逃すものかと妖夢の目が鋭くギラつく。
「“正体不明”なんて目の前に姿を現せば恐れるに足らないわ。さあ、あなたは何者? 首もないのに動けるってことはゾンビとかキョンシーとかなのかしら?」
「ちょっと! 首なしに見えてるんでしょ!? なんで怖がらないの!?」
「見た目なんてどうでもいいのよ。要は“斬れる”か“斬れない”かよ」
「なに言ってんのコイツ!?」
「斬ればわかる。そうでしたよね、お師匠様」
「何てこと教えてんのコイツの師匠!?」
「さあ、覚悟はいいかしら?」
「よくないに決まってんでしょ! ちょっと待って! 待ちなさい!!」
いざ斬り捨て御免と力強く踏み出した妖夢だったが、少女がばさりと投げ放ったぼろ布に視線を遮られ、やむなく足を止めた。
と――
「くっ!?」
正面から殺気!
慌てて身を逸らした妖夢の脇腹を、ぼろ布を引き裂いて飛来した赤い大弾が通り抜けた。
「また斬られるなんてまっぴらごめんよ!」
「あっ! あなたはいつかの!」
ぼろ布を剥ぎ取った少女は先ほどとは全く異なる姿に、そして妖夢にとって見覚えのある姿になっていた。
背に軽くかかる程度まで伸ばされた黒髪。赤い蝶ネクタイの付いた黒のワンピースを身にまとい、背に負うは三対の歪な羽根。左は蒼く波打つ矢のような。右は紅く鋭い鎌のような。
「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私は“封獣ぬえ”。正体不明をウリにする古の妖怪よ」
「正体不明がウリなのに私の前に出てきていいの?」
「構わないわ。貴方には既に姿を見せているから。それよりも……」
少女――封獣ぬえは三枚の符を妖夢に突きつける。
「負けっぱなしじゃ悔しいからね。この間のリベンジをさせてもらうわよ」
「スペルカード……いいわよ。時間が遅いから手短に済ませてやる」
応じ、森の上へと飛ぶぬえの後に妖夢も続いた。その間に楼観剣を納刀し、手持ちのスペルカードから三枚を抜き出す。
がさがさと枝葉を揺らしながら、二人は上昇する。
「本当はちょっと怖がらせるだけで勘弁してやろうと思ってたんだけど、最後の最後で怖がってくれなかったからね。私の手で直接ぶっ飛ばしてあげるわ」
「あの生首や変な声はあなたの仕業だったのね」
「そうよ。怖かったでしょ?」
「ぐ、別に大したことは」
「『みょわっ!?』とか悲鳴を上げてたクセに」
「ぐぬぬ……!」
森を抜け、久方ぶりの澄んだ空気に妖夢は目を閉じて大きく深呼吸した。心地よい夜風が頬を撫でる。
ひとしきり綺麗な空気を満喫した妖夢はゆっくりと目を開く。視界にあるのは夜の闇と、それを彩る月と、星と、少しの雲。
そして、正体不明の妖怪少女がひとり。
「準備はいいかしら?」
手にしたスペルカードをぬえに突き出す。
「ええ。こちらも三枚」
「オーケイ。それじゃあ始めましょうか!」
妖夢はスペルカードをしまうと、再び楼観剣を抜き放つ。月明かりに照らされて、曇りなき刀身が閃く。対するぬえは虚空から三又の槍を出現させて握りしめた。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなどあんまりない!」
「正体不明の飛行物体(だんまく)に怯えるがいい!」
かくて、庭師と正体不明による弾幕ごっこが開演した。
「いくわよ!」
符弾で牽制しつつぬえが高らかに告げる。
「妖雲『平安のダーククラウド』!」
ぶわっ。
ぬえの宣言とともに、天高く掲げたスペルカードから暗雲が噴き出した。光を通さぬ闇が辺りを支配していく。
巻き込まれるのはまずい!
びっ!
「!」
妖夢は後退して暗雲から逃れようとしたが、左右から飛来した錐型の弾幕に阻まれて足を止めさせられてしまった。その隙に暗雲は妖夢を巻き込んで広範囲に拡散してしまう。
「逃げちゃダメよ?」
「ち……」
小さく舌打ちし、ぬえの声が聞こえた方向に楔弾を放つ。当然ながら手応えはなく。
『さあ、弾幕はどこから飛んでくるのかしら?』
嘲るようなぬえの声が暗雲の中で全方位から響く。声から居所をつかむのは難しそうだ。
どこだ……どこからくる……?
ゆっくりと身体を回転させながら妖夢は全方位を警戒する。暗雲には濃淡があるため、見通しづらい濃い部分には特に注意を払った。
ちらと見上げた先には月も、星も見えず。しかし空気だけが妙に澄んでいて奇妙な心地だった。
「…………」
びっ!
案の定、暗雲が濃く、視界の利き辛い左側から数条の錐弾が妖夢に襲い掛かる!
「くっ!」
身を捻って錐弾の隙間に身体を滑り込ませて回避。次いで錐弾から遅れて飛来した小弾の群れを回避しつつ、妖夢は弾幕の現れた方へ楼観剣を一閃、楔弾を放つ。手応えは……ない。
『どこ狙ってるのさ。私はココだよ?』
声とともに右後方から錐弾!
これも何とか回避。しかし、背後からの奇襲に今度は反撃することが出来なかった。
断続的に飛来する錐弾を回避しながら妖夢も適当に楔弾をばら撒くが、もちろんそんなものに被弾してくれることもなく。闇の中、正体不明の嘲笑をバックグラウンドに妖夢は防戦を強いられていた。
気配を探ろうにも、周囲はぬえの妖力によって展開された暗雲に包まれている。これではぬえの居場所などわかろうはずもなく。というより“気配を探る”などという器用な真似が妖夢には出来なかった。
妖夢は弾幕を放っているのはぬえ本人ではないかと予想した。断続的に放たれる弾幕、その間隔が“移動時間”であるような気がしたのだ。
予想が正しければ、弾幕を放つ場所にぬえはいる。しかし、ぬえの弾幕を確認してから攻撃したのでは遅すぎる。彼女の先を読む必要があった。
『逃げてばかりじゃ勝てないわよ! それとも時間切れでも狙っているのかしら?』
また暗雲の濃いところから錐弾。
「っと!」
……また?
そうだ。また、だ。
錐弾を避け、小弾を避け。しばしして錐弾。やはり暗雲の濃いところから。
「見えたわ」
笑みを浮かべて小さく呟き、妖夢は提示したスペルカードのうち一枚を取り出した。
「天星剣『涅槃寂静の如し』」
宣言し、静かに楼観剣を構える。一度だけ深く息を吐き、静かに目を閉じる。そしてゆっくりと目を開き――。呼吸は浅く、ピンと張り詰めた霊力に周囲の音が消え去る。
霊力の具現か、妖夢の周囲から粒弾が発生して四方にゆっくりと飛び行く。
ぬえは……右。
飛来した錐弾、小弾を最小限の動きで回避し、暗雲の様子を窺う。濃い部分は少しずつ左に移動し、妖夢の正面を通って左側へ。
……――!!
一閃。
音もなく斬り裂かれた空間から大量の楔弾が放たれ、暗雲を吹き散らしながら飛んで行く。
「おっと!」
斬り裂いた暗雲の向こう、一瞬だけ見えた紅い羽根は間違いなくぬえのもの。暗雲の濃い部分はぬえと同じ方向へ移動している。
間違いない。ぬえはそこに潜んでいる!
そうと分かれば、あとは先ほどよりも更に先回りして撃つだけだ。
妖夢は暗雲の動きを慎重に読み……
……――!!
一閃。
再び斬り裂かれる空間。放たれる大量の楔弾。それは暗雲の向こうにいるぬえを目指して飛んで行き――
「……!?」
しかし、吹き散らされた暗雲の先にぬえの姿はなく。
「バカね」
「あぐっ!?」
背中に衝撃。
錐弾に被弾した妖夢は大きくよろめいた。同時に周囲の暗雲も晴れ、背後からぬえがケラケラと笑いながら姿を現す。
「そんな分かりやすいところにいるワケないじゃない」
「くっ……」
どうやら、安い罠に引っかけられてしまったようだ。今までの攻撃は全ておとり。暗雲の濃いところから攻撃を続けて相手にそこにいると認識させ、攻めに転じたところでそこから離脱。背後から狙い打つ作戦だったのか。一回目の反撃で姿を見せたのも罠。こちらの予測を確信へと変えさせるためだったのだろう。
頭を抱えて大いに反省をしたいところだが、まだ弾幕ごっこは終わっていない。
こちらが体勢を立て直すのを確認したぬえは再び符弾を放つ。広範囲にばら撒かれた符弾を回避しながら妖夢も楔弾を撃ち返した。
「まずは一本ね。んー、次はどっちにしようかしら?」
妖夢の楔弾を軽々と避けながらぬえはスペルカード二枚とにらめっこ。
やがて一枚を再び高々と掲げた。
「次はコレよ! 正体不明『恐怖の虹色UFO襲来』!」
宣言と同時に今度は虚空から虹色に輝くUFOが現れた。
三機のUFOは黄色い小弾を数発並べて斜めに射出しながらこちらへ突撃。その一機、妖夢に直撃するコースを辿っていたUFOを回避すると、間髪いれずに黄色小弾の群れが襲い掛かってくる。妖夢の脇を過ぎたUFOは虚空に消え、ぬえの横に再出現して再び突撃。楔弾を撃ち込んで破壊しても結果は変わらず、やはりぬえの傍らに新たなUFOが出現した。
これではキリがないなと考え、妖夢はUFOを避けつつぬえに攻撃を集中させた。しかし、あるいは避けられ、あるいはUFOを盾にして防がれてしまう。
UFO自体の耐久力はそれほど高くなく、しっかり撃ちこめば十分に破壊できた。しかし問題は射出される小弾である。これはUFOのスピードに比べてやや弾速が遅い。そのため時間とともにその密度は高くなってゆき、徐々に妖夢の移動範囲を狭めていった。ぬえに撃ち込みたくとも、密度の高い小弾とUFOがそれを阻む。
この状況を打開できる手は――
「やってみるか……」
呟き、妖夢は二枚目のスペルカードを切った。
「獄界剣『二百由旬の一閃』」
半霊が赤い大弾をぬえに向けて放つ。が、やはり結果は変わらず、避けられ、防がれ。
「なにそれ? そんなショボい弾幕がスペルカードなんて言わないわよね?」
「当然」
ぬえの嘲笑に妖夢は小さく応え、意識を集中させる。
楼観剣を構えながら周囲を確認。眼前に迫っていたUFOの一機が半霊の大弾によって破壊され、しばしして次がぬえの傍らから出現した。折りよく更に一機のUFOがぬえの傍らから出現し、二機が並ぶ形となる。
妖夢は少しずつ横に移動する。ぬえがまだ何か言っているようだが、今度は無視。
足元に霊力を集中させて簡易の足場とし、それをしっかりと踏み締めて……
ぬえが騒ぐ。半霊が大弾をばら撒く。UFOが迫る。
――いま!
「はッ!!」
キンッ!
力強く踏み込み、気合とともに一閃。次の瞬間には、妖夢の姿はUFO、小弾の群れからかなり離れた場所まで移動していた。
「うわ、はや……」
その速さに、ぬえは驚愕の声を漏らした。妖夢は血糊を払うように楼観剣をぴっと振る。その瞬間。
ばつんっ!
妖夢の斬った数発の大弾が大量の中弾、小弾に拡散してぬえに襲い掛かった。
「げっ!」
ぬえは近くにいたUFOの一機を盾にするが、すぐに破壊される。
「ちょっとまってヤバいヤバいヤバい!!」
大騒ぎしながら右へ、左へ。次のUFOが現れる様子はない。ぬえの集中力に依存しているのだろうか。
ず……
弾幕の嵐をぬえは避け続け、やがてその密度が薄くなり、ようやく一息ついた。
「あぶ……ぜぇ、危なかった……」
「まだよ」
「え?」
ずっ……
楼観剣を鞘にゆっくりと納めながら告げる妖夢の視線をぬえは辿った。そこには二機のUFOが停滞している。斜めに断たれ、その身をゆっくりと滑らせながら。
「ま、まさか……」
絶望に満ちた呟き。そして妖夢は楼観剣を納刀した。
――パチン。
ばつつんっ!
「げげっ!!」
楼観剣の納刀を合図に二機のUFOが炸裂する。変じた弾幕は赤、青、緑……大弾、中弾、小弾……。虹色の名に恥じぬ美しい色彩、その圧倒的な密度の前に避けること叶わず。
「言ったでしょう? 斬れぬものなどあんまりないって」
「あだだだだ!!」
「それにしても……これで相手の弾幕を斬るなんて初めてやってみたけど、意外と斬れるものね」
満足げに楼観剣を眺める妖夢の前で、ぬえは弾幕の海に飲まれた。
…………
「大丈夫?」
ようやく虹色UFOからの弾幕が収まり、赤くなった鼻の頭をさするぬえに対して、鞘に納めたばかりの楼観剣を再び抜刀しつつ妖夢は声をかけた。
「アンタ容赦ないわね」
「背後から闇討ちするようなやつがそれを言う?」
「ま、私は正体不明の妖怪だし」
さっとぬえは妖夢から距離を取ると符弾を放つ。弾幕ごっこ再開だ。
「なにそれ。おっと」
右前方から迫っていた符弾を身を捻って避けつつ妖夢は緑と黄色の中弾を交差するように展開する。しかし今さら通常弾幕に被弾などという間の抜けたことをお互いするはずもなく。ぬえはすいすいと滑るように、妖夢は最小限の動きで弾幕を避けていく。
「これでお互い一本ずつね」
「ちっちっ、甘いわね! ここまでは私のニクい演出よ! こーやっていい勝負っぽくしたほうが面白いじゃない!」
「口の減らない……」
言葉と弾幕の応酬。勝気な笑みを見せるぬえに、妖夢は思わず苦笑した。
仕返しだ何だと言っておきながら、彼女は弾幕ごっこを楽しんでいる。そして妖夢もまた、初めて見る弾幕を楽しんでいることを自覚していた。
さあ、次はどんな“正体不明”を繰り出してくるのかしら?
ぬえが最後のスペルカードを掲げる。
「コレで終演よ! 鵺符『アンディファインドダークネス』!」
ぶわっ!
宣言とともに再び周囲に暗雲が拡がった。しかし、今回は先ほどのスペルカードほど濃くはない。見上げれば天涯に輝く月や星々が見て取れる。
ただし……
『さあ……私の正体は何かしら?』
ただし、ぬえの周囲の暗雲だけはひときわ濃く、その姿は完全に隠れてしまっていた。しかし今度は闇討ち目的ではないのだろう。周囲の暗雲は濃度が低く、身を隠すことはできない。
「“正体不明”でしょ?」
応えながら妖夢は楔弾を撃つ。
ぬえは暗雲ごと弾幕を避けると、中弾を撒き散らしながら妖夢に向かって飛び来る。
まさか、ただの突撃?
いぶかしみつつも妖夢が回避をしようとした、その時。
「返してよ!」
「!?」
暗雲の中から現れたのは、先ほどぬえが化けていた首なしの少女。
唐突な少女の再登場に妖夢の動きが止まった。その隙に少女は手首から先を失った傷だらけの腕を振りかぶる。その腕は不自然に長く、しなりを以って妖夢に襲い掛かった。
ギんッ!
「くっ!?」
腕の一撃を楼観剣で辛うじて防ぐ。それは異様に硬く、金属音を響かせて。
少女――ぬえは素早く腕を引くと再び暗雲の中に姿を隠して妖夢とすれ違った。同時に黄色い中弾が群れをなして妖夢に襲い掛かる!
――なるほど。
中弾を回避しながら妖夢は分析する。今の一撃、恐らく実体はぬえの持っていた三又の槍なのだろう。暗雲の中から様々な姿で登場し、相手を動揺させた隙に攻撃をする。そんなところか。
タネさえわかってしまえばもはや恐れることなどない。
それよりも。
「ちょっと! 弾幕ごっこじゃなかったの!?」
『私自身が弾幕よ!』
抗議の声にぬえはケラケラと笑いながら応える。
「ふうん、自分自身が弾幕、ね」
そういうことならと妖夢は内心で笑みを浮かべながら、再び突撃してくるぬえを迎え撃つ。
先ほどは虚を突かれて受けにまわってしまったが、今度はそうはいかない。カウンターで仕留めてやる。
妖夢がスペルカードを取り出したところで、暗雲からぬえが姿を現す。さあ、次はどんな姿で来るのか。
『ガァァ!!』
「え!?」
鬼が来た。それも伊吹萃香のような人間に近い姿をしたものではなく、御伽噺に出てくるような、まさに化け物と言わんばかりの凶悪な姿の鬼が。
明らかに収まりきらないであろう巨体の上半身を暗雲の中からせり出して、手にした巨大なトゲ付き棍棒を振りかぶる。その長さ、妖夢の身長の倍はあろうか。その太さ、妖夢がしがみついても両手が届かぬほどか。
それが轟音とともに迫る。
「え、ええええぇぇぇえええぇ!?」
流石に予想外過ぎる相手の姿に、驚愕の悲鳴を上げながら妖夢は横に跳んだ。棍棒の一撃は回避。しかしまだ鬼の巨躯がこちらに迫っている。
「くっ、ううううぅぅぅぅ!!」
更に横に飛ぶ。
ごぉ!
紙一重、妖夢の脇を巨躯が通り過ぎる。荒れ狂う風にバランスを崩しつつも、次いで迫る中弾の群れを妖夢はギリギリで避けきった。
「あんなのに当たったら死ぬわよ!?」
『チッ、惜シイ……』
鬼の姿を暗雲の中に潜り込ませながら呟くぬえの声は、もはや当人の面影など微塵もなく。くぐもったその声は、男のような女のような、高いような低いような、まさに正体不明の声色。
『マアイイワ。次デトドメヨ』
収まりきらぬ筈の巨躯をずるずると暗雲は飲み込み、そして三度目の突撃。
どうやら変身のサイズに制限はないらしい。回避は早めに、大きめにを意識して妖夢は回避行動に移った。移動しながら楔弾を撃つが、ぬえはスピードを緩めぬまま回避してゆく。
暗雲の中から影。次に姿を現したるは……?
「くるくる~っと」
「ゆっ、幽々子さま!?」
妖夢の主、西行寺幽々子その人だった。ただし、その手に持っているのはいつもの扇子ではなく、黒い三又の槍だが。
「さあ、貴方は自分の主人を攻撃できるのかしら?」
幽々子の姿で、声でぬえは笑う。
「…………」
対する妖夢は絶句。ぽかんと口を開けたまま、ぬえの槍による近接攻撃を避け、弾幕攻撃も避け。
「手も足も出ないようね!」
勝利を確信したぬえの四度目の突撃。その姿は幽々子のままで。
ぬえは気付いていない。妖夢の表情が呆れの一色であることに。
「……はあ」
妖夢は溜め息をつきながらスペルカードを改めて掲げた。その場で足を止め、ぬえを迎え撃つ。もう回避はしない。必要がなかった。
その様子にもぬえは怯むことなく突っ込んでくる。
「姿かたちに惑わされるようでは、本当の従者とは言えない」
「いくら強がったところで貴方に主人を斬ることはできない! 私の勝ちよ!」
「空観剣『六根清浄斬』」
宣言して、スペルカードを口にくわえる。増幅された霊力が全身に満ちるのを感じながら、妖夢は白楼剣を抜き放った。
ぬえが迫る。三又の槍を構え。
「今さらそんな短い刀でどうするつもり?」
「……」
ッキィン!
薙ぎ払われた槍を、逆手に構えた白楼剣が弾き飛ばした。同時に白楼剣を通して自身の霊力をぬえに送り込み、一時的な金縛り状態に陥らせる。
「ぬぇ!?」
衝撃にぬえの身体は小刻みに震え、その身から暗雲がにじみ出る。僅かな時間だけ完全にその姿は隠れ、次の瞬間には全ての暗雲が霧散して元の黒髪少女の姿に戻っていた。
隙だらけのぬえを前に、妖夢は半霊を呼び寄せる。半霊はぬえの頭上で四つに分裂。それぞれが妖夢の姿を形作った。
「ちょっと、そのスペルカードそんな技じゃないわよね……?」
動かせる目できょろきょろと自身を囲む妖夢たちを見ながらぬえは言う。
『六根清浄斬』のスペルカードはその役目を終え、桜の花びらとなって妖夢の口元から散り消えた。
自由になった口を妖夢も開く。
「お生憎様。これは遠近両用のスペルカードなのよ。
自分自身も弾幕。ありよね?」
「いやぁ、できれば今からナシに」
「却下」
五人の妖夢は霊力を練り上げながらぬえの周りをぐるぐるとまわる。ぬえの足元に花弁が開く。
一枚。それは鮮やかな桜色。
二枚。それは霊力の具現。
三枚。それはぬえの身体を更に拘束し。
四枚。それは剣の威力を高め。
五枚。開花を果たしたそれは綺麗な桜の花。
五枚の花弁それぞれの頂点で妖夢たちは足を止め、ぬえを見据えて居合いの構えを取る。
「五人がかりなんてズルいー!」
ぬえの抗議は無論、無視。
「安心しなさい。斬りはしない」
構えた楼観剣を霊力で包み、斬れ味をなくしてから。
「“正体不明”の正体、見たり」
妖夢は小さく呟き――
そして五つの刃が閃く。
「そこまでです」
ぴたり、と。楼観剣が止まる。
否。ぬえの正体を明かす寸前で楼観剣は“止められた”のだ。しかも素手で。同時にぬえの周囲に光の帯が展開され、半霊妖夢をことごとく吹き飛ばす。半霊妖夢は霞みとなり、一所に集まって再び元の霊魂の姿に戻ってしまった。
ふぁさり。
黄と紫の長髪がなびく。黒い法衣をはためかせ、彼女は妖夢とぬえの間に割り込んで楼観剣をつまみ上げていた。ぬえの周りで輝いていた光の帯が女性に集まってゆく。そして光を失ったそれは小さな巻物のような姿になってその手に収まった。
「え……え?」
押せども引けども楼観剣はビクともしない。
混乱する妖夢をよそに、その女性は安堵の溜め息とともに口を開く。
「帰りが遅いと思って探しに来てみれば……ぬえ、大丈夫ですか?」
「ひ、聖……」
ぬえも驚いているようだ。呆然と女性を見上げている。その様子に女性は安堵の笑みを覗かせ、そしてすぐに表情を引き締めてこちらに目を向けた。
「さて……退治屋の方でしょうか? 申し訳ありませんが、この子は私たちの大切な家族なのです。見逃してはいただけませんか?」
「えっ、あ、わ、私は……」
突然の出来事に妖夢は混乱し、しどろもどろに言葉を紡ごうとするが、上手く話すことが出来ず。
その様子をどう取ったか、楼観剣をつまむ女性の右手に力がこもる。
「見逃していただけないというのなら、こちらも手荒な手段に出ざるを得ません。どうかお引取り下さい」
ぞくり。
言い知れぬ悪寒が妖夢を駆け抜ける。特別な探知能力を持たない妖夢にも、目の前の女性が強い魔力を身にまとっているのがわかった。強大なプレッシャーに妖夢は打ち震える。
あうあうと言葉にならない呻きを上げる妖夢を見かねてか、ぬえが二人の間に割り込んだ。
「聖、違うの。コイツは退治屋とかそんなんじゃなくて、その……友達! 友達なの!」
あせあせと言うぬえに対し、女性は静かに二人を交互に見て。
「……友達、ですか。しかし、私には彼女に襲われているように見えたのですが」
「弾幕ごっこだよ! ほら、友達と弾幕ごっこなんて普通じゃん? コイツ剣士だからさっ、その……“自分が弾幕”ってやつ?」
「…………」
「ね! ほら、妖夢! 私たち、友達だよね!?」
「あ……う、うん……」
「…………」
必死に抗弁するぬえをしばし見つめ、魔力に当てられたせいか自失しかけている妖夢を見つめ、やがて女性は溜め息をひとつ。同時に妖夢へ向けられていたプレッシャーも霧散した。
「そこまで言うなら信じましょう」
楼観剣を持つ手が緩んだことに気付いた妖夢はゆっくりと刀を引き、鞘に納めた。
表情を穏やな笑みに変化させて、女性は言う。
「失礼致しました。私は聖白蓮。命蓮寺の住職を務めさせていただいています」
「わ、私は、冥界の白玉楼で庭師をしています、魂魄妖夢です」
楚々と頭を下げる白蓮に妖夢も慌ててお辞儀を返す。
「はて、冥界の住人がどうしてこんなところに?」
「ちょっと里まで買出しに来ていて、これから帰るところだったんです」
そういえば荷物は森の中に置き去りだったなと思い、妖夢は眼下に広がる森に眼を向けつつ答えた。
妖夢の言葉に白蓮は驚きの表情を見せる。そして表情を険しくして口を開いた。
「まあっ、これからですか? それはいけません。こんな時間に里を出るなんて危険すぎます」
「大丈夫ですよ。私は強いですから」
「いくら強くても駄目なのです。どれだけの力を持とうとも、死は、理不尽は、唐突に訪れるもの……。今夜は命蓮寺で休んでいってください」
胸を張る妖夢に対して白蓮は強い口調で言う。視線を合わせ、静かにこちらを見つめるその瞳に宿るは悲哀の色。そんな眼で見られてしまっては、断りづらい。
所在なげに見回せば、幻想郷はすっかり闇の色、妖怪の時間になっていた。冥界までの道のりはそれなりに長い。実のところ、泊めてもらえるというのは有難い話ではあるのだが……
「で、ですが、私の帰りを待ってくれている人がいるのです。無断で外泊するわけには……」
「なら、無断でなければ良いのですね?」
「え? ええ、まあ……」
事情もあることだし、連絡さえ入れておけば一日くらいの外泊に目くじらを立てられることはないだろうと思う。
しかし……
「幽々子さまに連絡する手段があるんですか?」
「ええ、もちろん」
「聖、ぬえは見つかったみたいだね」
割って入ってきた第三者の声。三人が顔を向けた先にいたのは一人の少女だった。
灰色の髪に、人間のそれとは違う丸くて大きな耳が付いている。そして細い尻尾の先には小さな籠が引っ掛けられていて、中からネズミが顔を覗かせていた。その様からネズミの妖怪なのだろうと妖夢は思った。
「ナズーリン、ちょうどいいところに来てくれました。あなたの力を借りたいのです」
「なんだい? 私のようなちっぽけなネズミの力で良ければ、いくらでも貸すよ」
そう言って、ナズーリンと呼ばれたネズミ妖怪は皮肉げに笑った。
…………
「では、これを」
「任せてくれ」
魔法の森の脇に位置する小道。
白蓮のしたためた文書を受け取ったナズーリンは、籠の中にいるネズミの一匹にそれを結わえ付ける。
「いいかい、この手紙を冥界の白玉楼まで届けるんだ。場所は覚えているね?」
言葉に、地に下ろされたネズミは「チュウ」と答えた。
「よし、行っておいで。道中、野生動物や妖怪に気を付けるんだぞ」
目を付けられたら終わりだろうなと思いつつ、妖夢はテテテと駆けて行くネズミを見送って。
「なに、心配することはない。彼は私の部下の中でも特に足が速く、勇敢なやつだ。必ずや君のご主人様に手紙を届けるだろうよ」
ぼう、とネズミを見つめる妖夢にナズーリンは太鼓判を押した。
ただ……
「……白玉楼に行ったことがあるんですか?」
「ああ。人里に腰を落ち着けてからこっち、情報収集で幻想郷縁起に掲載されている場所は大体見てきた。冥界なんて死人の行くところには入れないだろうと思っていたのだが、なかなかどうして、なんとかなるものだったよ」
「そ、そうですか……」
はっはと笑うナズーリンをよそに、妖夢はうろんな目になりながら呟く。
「冥界の結界って、ネズミでさえ通れるくらい曖昧になっちゃってるんだ……」
それでいいのだろうかと思わずにはいられなかった。
「では、私たちは帰りましょうか」
結局、白蓮に押し切られてしまい、妖夢は三人の住処、命蓮寺に世話になることとなった。まあ、あの手紙が確かに幽々子の下に届けられるというのであれば問題はないだろうが……
四人は寺に向かって空を行く。
「ナズーリン、他の皆は?」
「ムラサと御主人様もぬえを探しに出ているが、そちらにも伝令を送っておいた。もう寺に戻っているだろう」
「分かりました。ご苦労様です」
前を行く白蓮とナズーリンの会話をなんとなしに聞きながら、妖夢はちらりと隣のぬえに視線を向けた。
「…………なに?」
「いや、別に」
じろりと睨まれ、妖夢は慌てて視線を前に戻す。何故かぬえはご機嫌斜めの様子で、なんとなく居心地が悪い。
そんな妖夢に目を向けることなくぬえは口を開いた。
「別に、アンタのために聖を止めたわけじゃないわよ」
「え?」
「本気で怒った聖は怖いんだ……」
小声で呟き、ぬえはかたかたと震える。過去に何かあったのだろうか?
「いい? 絶対に私が仕掛けたいたずらのことは言うんじゃないわよ?」
「えー」
「命を助けてやったんだ。それくらいいいでしょ。あのまま放っておいたら、アンタ聖にボコボコにされてたのよ?」
「うっ……しょうがないわね」
確かに、あの時の白蓮には勝てる気がしなかった。身にまとう魔力に当てられただけで身が竦み、動けなくなった。敵に回さずに済んでよかったと心から思ったものだ。
妖夢の同意にぬえはようやく安堵の息を吐いた。と、今度は天を仰いで「あーあ」と大口を開ける。ころころと表情を変えて忙しないやつだ、と妖夢は苦笑した。
「まったく、あのまま続けてたら私の勝ちだったのに」
ぴくり。
妖夢の苦笑が引きつる。
「待て、それは聞き捨てならないな。どう見てもあれは私の勝ちだったわ。六根清浄斬は既に入っていた」
「なに言ってんの? あんな隙だらけの攻撃、避けられるに決まってんじゃん」
ぴぴくっ。
さらに引きつる。
「動きは封じていたはずよ」
「そんなの効いてませんー。ギリギリまで引き付けてただけですー」
「嘘付け」
「ウソじゃないし」
「ならばもう一度、喰らってみるか」
「ふふん、第二ラウンドってコトね。いいわよ、相手してあげる」
「ぬえ、魂魄さん」
ぞわり。
向き合って互いにスペルカードを取り出したところで、前を行く白蓮の声。
ぎぎぎ、と二人でそちらに顔を向けると、そこには笑顔の尼公、聖白蓮。しかし笑顔のままに発するは強大なプレッシャー。
『ゴメンナサイ』
二人は空中で土下座をした。肩を竦めながら溜め息を吐くナズーリンの視線がとても痛かった。
それから――
妖夢は命蓮寺の面々と夕食をいただき、風呂を借りて、少しの歓談の後、通された部屋に用意された布団に潜り込んだ。
日ごろから静寂に包まれている寺院であるが、夜ともなればそれは更に深みを増し。夜闇と相まって、まるで冥界のような死の静けさを感じさせる。墓地が近くにあることも関係しているのだろうか。
しかし……
「…………」
闇の中、妖夢はなかなか寝付くことが出来ずにぼんやりと天井を見つめていた。半霊を天井でくるくると飛ばしたりしてみるが、眠気は来ず。
そういえば、宴会の席で酔って――というより、酔わされて――博麗神社に雑魚寝同然で一夜を明かすことはあったが、こうした“普通のお泊り”と言うものは初めてだった気がする。なんとなく……こそばゆい。
ふと顔を横に向ける。微かな衣擦れの音。視線の先には正体不明の黒髪少女。
妖夢が通されたのはぬえの部屋だった。
布団を並べ、正体不明と半人、そしてふよふよと宙を漂う半霊が一つ。ぬえはこちらに背を向けて、すうすうと穏やかな呼吸を刻んでいる。
「友達……」
「悪かったわね」
「みょっ?」
唐突に投げかけられた声に、妖夢はびくりと身を震わせた。
「変な声」
くすくすと笑いながらぬえはこちらに身体を向けた。まだ寝ていなかったようだ。
「ほっといて。……で、『悪かった』って?」
「いや……ほら、私のせいで家に帰れなくなっちゃったし。そこまでするつもりはなかったから、さ……」
「ああ……」
「うちで待ってる人がいるんでしょ?」
そう言ってこちらを伺うぬえは、弾幕ごっこをしてた時の天真爛漫さはなく、妖夢の言葉を不安げに待っているようだった。その様子に妖夢は呆気に取られ、しばし言葉を失ってぬえを見つめた。
「…………」
闇の中、交差する視線。やがて妖夢は深く息を吐きながらぬえの頭に半霊を乗せた。
「ぬ?」
「まったく、何を言い出すかと思えば……らしくないわね」
「で、でも」
半霊を上下に動かしてぬえの頭をぽんぽんと叩きながら、
「うちのことは大丈夫よ。あなたがそんなこと気にする必要はないわ」
「そう……?」
「そう。だって、私たちは“友達”なんだから」
「え?」
さらりと言ってやると、ぬえは驚愕の表情を見せた。今夜は驚かされてばかりだった妖夢は、してやったりと思わず顔を綻ばせる。
「あなたが言ったことでしょ。もう忘れちゃった?」
「…………」
しんと静かな命蓮寺の一室。ぽかんとする正体不明とほんのり笑みを浮かべる半人半霊は再び見つめ合い。
「…………そう、そうだったわね。すっかり忘れてたわ」
「そう。だから気にする必要なんてないのよ」
やがて楽しげに笑うぬえを見て、妖夢も更に笑みを深めた。
…………
深夜の命蓮寺。その一室で妖夢とぬえは他愛のない話をしていた。自分のことや家のこと、関わった異変のことなど。
「また弾幕ごっこするわよ」
勝気な笑みで言うぬえに、妖夢も不敵な笑みを返してやった。
「まだ斬られ足りないの?」
「……“自分が弾幕”はなしでっ」
「ふふ、いいわよ。次も勝たせてもらうけどね」
その言葉にぬえの表情がぴくりと引きつる。
「『も』? それは今回の話じゃないわよね?」
「今回の話『も』よ」
「いやいや、今回は邪魔が入ったからノーカンでしょ」
「いいえ、水入りにはなったけど私の勝ちだったわ。もう六根清浄斬は決まってたもの」
「だからあんな技が当たるわけないでしょって言ったじゃない」
ぴくっ。
「……ふっ。負け惜しみは見苦しいわよ」
「ぬな!? 負け惜しみですって!?」
「そうでしょう? 六根清浄斬は初手が入れば回避不能の必殺剣よ」
「あんな見掛け倒しの技が必殺剣ですって? はっ! お笑いだわ」
ぴぴくっ。
「ふ、ふふ……やっぱりまだ斬られたりないみたいね」
「上ぉ等よ! 表でなさい! 今度こそ正体不明の飛行物体(だんまく)でぶっ飛ばしてやるわ!」
ぐあぁば! と布団を跳ね上げて立ち上がったぬえは、鼻息荒く庭に面する襖へと歩いていく。
「いいわよ。楼観剣の錆にしてあげる」
妖夢も身を起こし、楼観剣と白楼剣を携えてぬえの後に続いた。
ぬえが勢いよく襖をすぱんと開け放つ。
「あらあら。二人揃ってお出かけ? こんな真夜中に」
「…………」
「…………」
襖を開け放った先、二人の目の前におわすは笑顔の尼公、聖白蓮。その身が放つは、気の弱い妖怪ならば消滅しかねないほどのプレッシャー。
「お出かけ?」
翌日、昼ごろに白玉楼に帰ってきた妖夢はそれから数日、時折うわごとのように「南無三が……南無三が……」と呟くようになっていたという。
了
半分生き残れ妖夢。
>>1
b
>> 奇声を発する程度の能力 さん
生真面目妖夢と気まぐれぬえちゃん、衝突も多いけどきっと仲良しになれると思うのです。
>> 15
これ以上妖夢を怖がらせるのは良心の呵責が(ry
掘り下げ不足でしたか。ダイジェスト的な感じでも妖夢の魔法の森探索を描いてあげればよかったですかねー。
>> 名前が正体不明である程度の能力
妖夢の怖いものに“怒った聖白蓮”が追加されました。