梨に葡萄、林檎に甘栗。甘く香る果物は秋そのものの彩りを持っている。
縁側に置かれた平籠いっぱいに盛られたそれらから柿をひとつ手に取り
すんと鼻を近付けると皮を剥かずとも芳醇な香りがした。
自分で皮を剥くつもりはないのでそっと元の場所に戻すと
果物の持ち主ははぁ、と盛大に溜息をついた。
「参っちゃうのよね、全く」
「どうして?あなた果物は嫌いだったかしら。」
「そんなことはないけど…」
どうやらこの秋の味覚の盛り合わせは芋の香りのする神様が力を奮った結果らしい。
「秋の味覚は美味しいけど、果物は飽きちゃうの」
「それは同意するわ」
そういえば、うちの猫もその辺から栗だの葡萄だの無闇に採っては来るけど
果物なんて数口食べればお腹も膨れるし飽きてしまう。藍は橙の頑張りも無下にできないと
レーズンやら甘栗やら保存が効くよう工夫をしているようだったが結局は余りそうだ。
この様子では我が家で持て余した秋の味覚をお裾分けしても
この子は喜んではくれないだろう。
「紫も少しでいいから消化していってよ、
もらったものを腐らせたんじゃもったいないおばけに憑かれちゃう」
「ずいぶんとピンポイントに出るお化けもいるものね」
霊夢が皮を剥いた梨に爪楊枝を刺して頂く。
一口齧れば口の中は瑞々しい甘さに満たされる。
だが、ひと切れ食べたらもう十分に満足してしまった。
秋の味覚を持て余しているのは何も霊夢だけではないのだから。
「…そういえば、さっきから葡萄ばかり食べてるのね」
「…ん」
先程からずっと気になっていた。霊夢は葡萄ばかり食べていたが、
その指摘を受けた霊夢は何故か視線を雲ひとつない秋空へと泳がせた。
「それは何か特別な葡萄なのかしら」
「いや、そんなことはないんだけ…ど…」
「そう言われたら気になるのが生き物の性ね」
そう言って身を乗り出し、うろたえた霊夢の隙を突いて葡萄を一粒奪った。
食べてみると至って普通の、芳醇な葡萄の味。
「…普通の葡萄じゃない」
「…普通の葡萄よ、でも」
霊夢は、そっぽを向いたままか細くつぶやいた。
「………むらさき色、だったから」
そう聞いただけでは、正直意味なんて判らなかったと思う。
だが、霊夢の染まった頬と私自身の名前さえ判っていれば簡単に推理は成り立つのだ。
自惚れているとでも、なんとでも。
「…ふふ」
私は無意識に、口元を相当だらしなく緩めていたようだった。
「…ああもう!違う!今はなんとなく無心で葡萄をつまんでいたい気分だったの!それだけよ!」
「そうね、そういう気分になる時もあるわよね」
「ええそうよ、そうなの、そうなんだってば」
苛めているつもりなど全くないのだが、どんどん顔を赤らめていく霊夢を見ていると
申し訳なく思う気持ちと同時に更に嗜虐心を刺激されていく自分がいることに気付く。
ああ、可愛い。でもあなたがこんなことをしていたというのに
自分は何もせずにいるだなんて私は満足できない。
それに自分でも思いつかなかったのだ、
こんな方法で秋の味覚を飽きずに消化するだなんて。
「じゃあ私も」
「へ」
延々と言い訳めいたことを並べ立てる霊夢を横目に
平籠に積まれた果物のひとつを手に取ったとき、
霊夢はその意味を一瞬で理解したようだった。
手に取ったそれに、音を立てて口付ける。
「ね、可愛いわよね。すべすべで、張りもある。新鮮な証だわ」
「な、なに…」
鼻を近づけ、その香りを鼻腔いっぱいに満たす。
「甘くて、良い香り。」
「……」
ぺろりと、舐め上げる。飽くまでも噛んだりはしない。
「食べちゃいたい」
「………ッッ」
ねえ、どうしてそんな顔をするの?
私がこうしているのは、ただの―――――あかい林檎じゃない。
「でも、中は白いのよね」
この時の私は自分でも相当に意地の悪い顔をしていたと思う。
ああ、またやってしまった。可愛いものは苛めたくなってしまう私の悪い癖。
霊夢は、涙目になりながら林檎と同じくらいに顔を赤くしていた。
「どうしたの?霊夢。それともこれは食べちゃいけない林檎だったのかしら。」
なんとも安っぽい禁じられた果実だ。私はわざとらしく霊夢に尋ねた。
霊夢は最初口ごもったが顔を赤らめたまま言い放った。
「………さいよ」
「…なぁに、もっとはっきり言って頂戴な」
「…さっさと食べればいいじゃない!」
私は口の端を吊り上げて、弄んだ林檎をそっと平籠に戻した。
「言われなくとも。」
そう告げて私は柔らかく霊夢にくちづける。彼女からの抵抗はない。
葡萄の味はまだ残っていた。
味わうは秋の味覚。林檎に葡萄、紅白の巫女。
縁側に置かれた平籠いっぱいに盛られたそれらから柿をひとつ手に取り
すんと鼻を近付けると皮を剥かずとも芳醇な香りがした。
自分で皮を剥くつもりはないのでそっと元の場所に戻すと
果物の持ち主ははぁ、と盛大に溜息をついた。
「参っちゃうのよね、全く」
「どうして?あなた果物は嫌いだったかしら。」
「そんなことはないけど…」
どうやらこの秋の味覚の盛り合わせは芋の香りのする神様が力を奮った結果らしい。
「秋の味覚は美味しいけど、果物は飽きちゃうの」
「それは同意するわ」
そういえば、うちの猫もその辺から栗だの葡萄だの無闇に採っては来るけど
果物なんて数口食べればお腹も膨れるし飽きてしまう。藍は橙の頑張りも無下にできないと
レーズンやら甘栗やら保存が効くよう工夫をしているようだったが結局は余りそうだ。
この様子では我が家で持て余した秋の味覚をお裾分けしても
この子は喜んではくれないだろう。
「紫も少しでいいから消化していってよ、
もらったものを腐らせたんじゃもったいないおばけに憑かれちゃう」
「ずいぶんとピンポイントに出るお化けもいるものね」
霊夢が皮を剥いた梨に爪楊枝を刺して頂く。
一口齧れば口の中は瑞々しい甘さに満たされる。
だが、ひと切れ食べたらもう十分に満足してしまった。
秋の味覚を持て余しているのは何も霊夢だけではないのだから。
「…そういえば、さっきから葡萄ばかり食べてるのね」
「…ん」
先程からずっと気になっていた。霊夢は葡萄ばかり食べていたが、
その指摘を受けた霊夢は何故か視線を雲ひとつない秋空へと泳がせた。
「それは何か特別な葡萄なのかしら」
「いや、そんなことはないんだけ…ど…」
「そう言われたら気になるのが生き物の性ね」
そう言って身を乗り出し、うろたえた霊夢の隙を突いて葡萄を一粒奪った。
食べてみると至って普通の、芳醇な葡萄の味。
「…普通の葡萄じゃない」
「…普通の葡萄よ、でも」
霊夢は、そっぽを向いたままか細くつぶやいた。
「………むらさき色、だったから」
そう聞いただけでは、正直意味なんて判らなかったと思う。
だが、霊夢の染まった頬と私自身の名前さえ判っていれば簡単に推理は成り立つのだ。
自惚れているとでも、なんとでも。
「…ふふ」
私は無意識に、口元を相当だらしなく緩めていたようだった。
「…ああもう!違う!今はなんとなく無心で葡萄をつまんでいたい気分だったの!それだけよ!」
「そうね、そういう気分になる時もあるわよね」
「ええそうよ、そうなの、そうなんだってば」
苛めているつもりなど全くないのだが、どんどん顔を赤らめていく霊夢を見ていると
申し訳なく思う気持ちと同時に更に嗜虐心を刺激されていく自分がいることに気付く。
ああ、可愛い。でもあなたがこんなことをしていたというのに
自分は何もせずにいるだなんて私は満足できない。
それに自分でも思いつかなかったのだ、
こんな方法で秋の味覚を飽きずに消化するだなんて。
「じゃあ私も」
「へ」
延々と言い訳めいたことを並べ立てる霊夢を横目に
平籠に積まれた果物のひとつを手に取ったとき、
霊夢はその意味を一瞬で理解したようだった。
手に取ったそれに、音を立てて口付ける。
「ね、可愛いわよね。すべすべで、張りもある。新鮮な証だわ」
「な、なに…」
鼻を近づけ、その香りを鼻腔いっぱいに満たす。
「甘くて、良い香り。」
「……」
ぺろりと、舐め上げる。飽くまでも噛んだりはしない。
「食べちゃいたい」
「………ッッ」
ねえ、どうしてそんな顔をするの?
私がこうしているのは、ただの―――――あかい林檎じゃない。
「でも、中は白いのよね」
この時の私は自分でも相当に意地の悪い顔をしていたと思う。
ああ、またやってしまった。可愛いものは苛めたくなってしまう私の悪い癖。
霊夢は、涙目になりながら林檎と同じくらいに顔を赤くしていた。
「どうしたの?霊夢。それともこれは食べちゃいけない林檎だったのかしら。」
なんとも安っぽい禁じられた果実だ。私はわざとらしく霊夢に尋ねた。
霊夢は最初口ごもったが顔を赤らめたまま言い放った。
「………さいよ」
「…なぁに、もっとはっきり言って頂戴な」
「…さっさと食べればいいじゃない!」
私は口の端を吊り上げて、弄んだ林檎をそっと平籠に戻した。
「言われなくとも。」
そう告げて私は柔らかく霊夢にくちづける。彼女からの抵抗はない。
葡萄の味はまだ残っていた。
味わうは秋の味覚。林檎に葡萄、紅白の巫女。
やばい、妄想が止まらない
もっとゆかれいむしてもいいんじゃよ?
文章も読みやすくてサラっと読めました。
素晴らしいゆかれいむ、ごちそうさまでした。
ところで、藍色の果物を探しているのですが……
巨峰が食べたいです。あとジョナゴールド。
是非とも、この作品を動画化して、ニコ動にあげて欲しいものです。
今後のゆかれいむ作品を楽しみにしています。
に過剰に反応してしまったのは私だけでいい……