Coolier - 新生・東方創想話

幽香が咲かせ、幻想の花~アラタズキ~

2011/10/02 18:12:53
最終更新
サイズ
9.33KB
ページ数
1
閲覧数
1158
評価数
4/24
POINT
1320
Rate
10.76

分類タグ


 この話は、拙作、「ヤクモラン」から続く、「幽香が咲かせ、幻想の花」シリーズの設定を用いています。
 ですが、幽香が幻想郷の人物をモチーフにして植物を創っている、とういことを許容していただければ問題ありません。
 いいよ、気にしないよ、という方は、本文をお楽しみください













=========================================================================================



 空に浮かぶ月を見ていた。

 こんなにも月が円いから。その行為に特別な意味をつけるとすればそれくらい。たかが満月、されど満月。不思議と魅かれる魅力が、そこにはある。

 じっと見ていると、月の姿に変化があった。均整のとれた円い形が、徐々に欠けてきたのだ。月食…… ではないらしい。月食にしては、欠け方が不自然だ。月の大きさよりも、影の方が小さい。

 答えはすぐにわかった。そうだ、あれはルーミアだ。闇を纏ってふよふよと飛んでいたところなのだろう。その姿が月と重なって、さながら月食のような現象に見えただけ。月とルーミアがちょうど重なった時、ドーナツのような形が出来た。満月の夜、月を喰う宵闇の妖怪。その姿を、まるで新月のようだと喩えるのは美化しすぎかしら。

 眼を閉じて、小さく頷く。今宵は、いい花が創れそうだ。


=========================================================================================


 イメージが湧いてから花が完成するまで、それほどの時間は必要なかった。黒い袋状の萼に包まれた、光沢のある金色の果実。我ながら、闇を纏った時のあの子のイメージに合うと思う。名前は―――



どんっ



 外で鈍い音がした。何事だろうと外に出ると、家の壁に黒い闇がくっついていた。闇の中から声がする。

「あいたたた…… また何かにぶつかったのか。とりあえず、聞いてみようかな。ねぇ、あなたは食べてもいい人間?」

 だれかと話すときくらい、闇を解けばいいのに。

「私は、食べてはいけない妖怪よ。そもそも、あなたがぶつかったのは私の家の壁。よく見てみなさい。」

 闇が薄れ、頭を手で押さえたルーミアの姿が出てきた。少しだけ涙目になっているようだったが、一体どれほどの勢いでぶつかったのだろうか。

「相変わらず、闇の中からは外が見えないのね。せめて、自分では見えるくらいに力をつけないと、能力も生かしきれないわよ。」

 すると、ルーミアはしょんぼりとした表情で俯いてしまった。怒ってるわけでも、叱ってるわけでもないだけに、なんとなく罪悪感を感じてしまう。

「……えぇと、ほら、暗いところでもよく目が見えるようになれば、きっと大丈夫。あなたのお友達にいるでしょう、鳥目に効く食べ物を売ってる子が。」

 フォローしたつもりだったが、ルーミアの表情はますます暗くなってしまった。気のせいか、またうっすらと闇を纏おうとしているようだ。

「……どうしたのかしら? なんだか、元気がないみたいだけれど。悩みがあるなら、お友達に相談してみるとか……」

「……相談は、だめなの。」

「どうして?」

「お友達と…… みんなと、喧嘩しちゃったから。」

 ルーミアの姿が、闇に包まれる。すぐに、ぐすん、ぐすんという泣き声が聞こえてきた。もしかしたら、涙目になっていた理由はこっちなのかもしれない。……花が萎れる姿を見て、このまま放っておくわけにもいくまい。

「家にお上がりなさい、ルーミア。少しだけ、あなたを励ましてあげる事が出来るだろうから。」

 少しだけ闇が薄れ、手で目元を抑えるルーミアの姿が見えた。どのくらい効果があるかはわからないけれど、花を見れば少しは落ち着くだろう。家の入口に歩いていくと、ルーミアはちゃんとついて来てくれた。軽く微笑みを浮かべ、私はルーミアを家に招き入れた。


=========================================================================================


 しばらくの間、ルーミアは不思議そうな視線を花にむけていた。黒いホオズキ、というものを見たことがないのかもしれない。袋の一つを摘み取って中を開いてみせると、目を丸くして覗きこんできた。

「ホオズキみたいに紅い、なんて表現をするくらい、紅い実の植物として知られているホオズキだけど、これは金色の実を黒い袋が包んでいるの。」

「うん。私、こんなホオズキ見たのは初めて。どこに咲いていたの?」

「言うなれば…… 今夜、夜の空に咲いていたところを、ここに持ってきたというところかしら。」

「……空に、花なんて咲くのか?」

「ふふふ、物の喩えというものよ。」

 ルーミアの問いかけに応えながら、金色の実に針を刺し、中にある種を取り出していく。空になった事を確認してから、その実を口の中にいれた。

「あーっ、それ、食べられるの? 私にもちょうだい。」

「うん、食べても害はないんだけど、面白い遊びが出来るのよ。こんな…… かんじで……」



ぎゅっ ぎゅっ



「うん、うまくいった。」

「なに!? 今の音、面白い! どうやったのか教えて!」

「はいはい。じゃあ、この袋の中の実を取り出して―――」

 さっきまでの泣き顔が嘘のように、ルーミアは好奇心にあふれた明るい笑顔を浮かべている。うまく種を取り出せるか心配だったが、針を扱う手つきは意外と器用だった。

「お裁縫とか、得意そうね。」

「うん。私、自分の服は自分で仕立てるから、こういうことは得意なの。」

「そーなのかー。」

「そーなのですー。」

 軽い冗談を交えると、ちゃんと応えてくれた。種を取り出した実を口に含んだルーミアは、次はどうするのかという視線を向けてくる。

「口の中で実の中に空気をいれて、針で開けた穴を舌で潰すように圧迫してあげるの。そうすると……」



ぎゅっ ぎゅっ



「鳴った!」

「上手上手。初めてなのに、よく音が鳴らせたわね。」

 褒めてあげると、胸を張ってえっへんという仕草を見せた。これくらい調子に乗れるなら、充分元気が戻ってきたといっていいだろう。それからしばらくの間、家の中にはホオズキの音色が響き続けた。


=========================================================================================


「じゃあ、そろそろ、お友達と喧嘩した理由を教えてもらえるかしら。」

 その質問に対して、少しだけ、ルーミアの表情が曇った。いくら元気を取り戻したといっても、思い出すと辛い事なのだろう。それでも、外で話した時とは違って、ちゃんと答えが返ってきた。

「……あのね、みんなで、遊んでたんだ。」

「うん。遊んでたの。……どんな遊びだった?」

「かくれんぼ。」

 幻想郷の遊びと言えばかくれんぼなのだろうか。少し前に、かくれんぼをしていた妖精が入り込んできたことがあったが…… そのことは置いておいて、今はルーミアの話を聞かないと。

「かくれんぼをしていて、喧嘩しちゃったの?」

「かくれんぼが悪いわけじゃないの。その…… 隠れる場所に困って、闇を広げて隠れてたんだけど、すぐに見つかっちゃったんだ。」

「うん。闇があれば、あなたがいるってすぐにわかるからね。」

「私は、これで大丈夫って思ってたの。だって、闇の外からは、私の姿は見えないでしょう。だったら、隠れてるってことになるじゃない。でも、何度やってもすぐに見つかっちゃって……」

「ずっと鬼の役をやってた、ということね。」

「それで、なんだか嫌になっちゃって、こう言ったの。かくれんぼなんか、つまんない、って。そしたら、もっと面白い遊びがあるの、って言われて、でも、私は……」

「答えられなかった。」

「それで、どうしていいのかわからなくなっちゃって、もう、みんなとは遊ばないって、そう言って、逃げてきちゃった……」

 理由を聞くと、なんというか、単純な話だ。喧嘩と言ってはいるが、口論を繰り広げたとか、殴り合ったとか、そんなことではない。問いかけに対して、上手に答えられなかっただけ。それを引け目に感じて、会いに行きづらくなっているだけなのだ。

 ルーミアの顔を見ると、目には涙を浮かべている。ここまで来たら、仲直りをするまで面倒を見てやろう。

「つまり、みんなと遊ぶための、面白い遊びがあればいいのね。」

「そうなの。でも、私、そんなにたくさん面白い遊びなんて知らないし……」

「ほら、さっき教えてあげたじゃないの。」

 そう言って、例の花を指さす。顔を向けたルーミアは、最初はどういうことか良くわからなかったようだったが、すぐに納得したようで声を張り上げた。

「音を鳴らす遊びをすれば!」

「もしかしたら、ね。」

 仲直り出来るかもしれない。どうなるかは責任を持てないけれど、今の私から送れる助け舟は、これくらいだ。

「ねえ、この花、えぇと、なんて名前なのかわからないけど、もらってっていい?」

「えぇ、明日にでも、みんなと一緒に遊んで御覧なさい。」

 花を抱えて飛んでいくルーミアの姿を見ながら、花の名前をつけ忘れていたことを思い出した。いや、夜空に浮かんだドーナツを見た時から、その名前は既に決まっていたのだ。

「アラタズキ。」

 宵闇に浮かぶ新月の名を、一人、呟いた。


=========================================================================================


 翌日、ルーミアの様子が気になった私は霧の湖の近くの森に来ていた。友達の顔ぶれを考えると、この辺りを遊び場所にしていると思ったからだ。彼女達の姿は、比較的早く見つかった。ぎゅっ、ぎゅっ、という、ホオズキの音色が聞こえてきたから。

「面白―い。なんだろ、この音。私の歌声とはなんか違う、不思議な音。」

「でしょ? ホオズキの音遊び、昨日教えてもらったんだ。」

「ねぇ、なんか、種がうまくとれないんだけど。」

「チルノちゃんはお裁縫とか苦手だもんね。でも、慣れればこれくらい、すぐにとれ…… いつっ!」

「よそ見してるからだよ、リグルちゃん。……っと、こっちも出来た。よっと。」

ぎゅっ ぎゅっ

 なんとも微笑ましい光景だ。この子たちは、本当に昨日喧嘩などしていたのだろうか。鳴り響く音を聞いていると、なんだか一句読みたくなってきた。

「宵闇の、花弁纏いし、鬼灯の、響く音色は、友との戯れ。」

 ……呟いて、私らしくないかもしれないと思ったりする。こんな風に、力の弱い妖怪の様子を気にするなんて。とりあえず、円満に事を運んでいるのならいいだろう。彼女達に背を向けて、その場を立ち去ろうとした。その時―――

「あ! 来てくれたんだ! ねぇ、一緒に音を鳴らして遊ぼうよ。」

 どうやら、見つかってしまったらしい。

「へぇー、この遊び、幽香さんに教えてもらったんだ。」

「ねぇ、幽香さん、この音の出し方、詳しく教えてちょうだい。」

「っていうか、あたい、全然音鳴らせないんだけど。どうして?」

「チルノちゃん、せっかくだから教えてもらったら? ホオズキの師匠に。」

 ……なんだか妙な称号をつけられてしまった。呆れて溜め息をつく反面、こういうのも悪くないと思ったりする。

「……それじゃあ、今日は徹底的に教えてあげるから、ちゃんと綺麗な音を鳴らすのよ。」

 はーい、なんて、4人の声が返ってくる。私は先生じゃないんだけれど…… いや、この時だけは、先生になってみるのも面白いかもしれない。私は、4人の輪の中に歩いていくのだった。
Physalis Rumiata
 ホオズキの一種、実は光沢のある金色で、発達した袋状の黒い萼に包まれる
 その姿は、宵闇に包まれる妖怪の姿を模倣させる


 ということで、kirisameです。これまでの「幽香が咲かせ」シリーズは創られる側の視点でしたが、幽香視点だとどうなるだろうということで試してみました。
 花の選択については、紅魔郷1ステージの道中曲「ほおずきみたいに紅い魂」からインスピレーションを頂きました。

 余談ですが、実在のホオズキの花ことばは「心の不安」だとか

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
kirisame
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.950簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
読んでて微笑ましくなれるお話でした
5.100名前が正体不明である程度の能力削除
全作読んでます。
これはいいルーミア。
…フランの花だったらどうなるか、フラン好きの私として気になる。
次も楽しみにしてます。
6.100名前が無い程度の能力削除
分けてあげた話の種が上手く実を結んでいく様子、堪能させてもらいました。

新種の花の名前もいいですね、新た月。
13.80名前が無い程度の能力削除
ゆうかさんドS(親切)