まえがき
・この作品は「秋、おさいせん(前章)」の続編となっております。できれば前回の作品に目を通すことをお勧めします。
長月 二十二日
~幻想郷・命蓮寺~
「ナズ~ぬえたちにアイスを持ってきてくれないか~」
「あ、はいはい今直ぐ」
タッタッタッタッタ……
ガチャン
「…むぅ、あと三本か。おや、なぜこんな所に宝塔が冷えているのだ」
~幻想郷・博麗神社~
本日は宴会であった。
古今東西(というほど広くはないけど)幻想郷の重鎮とその付き人ぐらいしか集まらないその宴会は客からすればただ単に酒を飲むための会合といっても差支えないほどである。
しかし、本日は客が殆ど来なかった。
来たのは伊吹萃香と言う鬼ぐらいである。
…客が萃香のみというのは別段珍しいことではない。
以前も宴会の呼び出しをしたものの萃香以外全く来なかった事が何回かあった。
「…まぁったく!今日も誰も来んのかい!!」
萃香はただ一人怒鳴り散らしていた。
萃香と言うとかつて「百鬼夜行」を起こした人物で、その理由は「宴会を起こしたい」と言うほどの大の宴会好きなのである。
一応宴会を起こす理由として鬼を幻想郷に呼び戻すというものがあるが、彼女は単に皆と酒を交わし合うという宴会本来の目的を楽しむことを第一にこの宴会を楽しんでいるのである。
しかし、今回のように客が一人も来ないとなるとその宴会の本来の目的を果たすことができず、宴会としてもやたら寂しいものとなるため、彼女からすればひどく興ざめたものとなったのであろう。
「あ~も~つまんないの、霊夢?あんたも黙ってないでよ……ん!?」
萃香は仰天した。
萃香が見た霊夢は全身まっかっかで座っていながらも振り子のように左右に揺れていたのである。
何とも言えぬ表情をしているあたり相当酔っているのだろう。
「れ、れいむ?」
「……ん、なによぉ…」
「今日何か飲みすぎてない?何かあったの?」
「…んん、最近ねぇ……賽銭箱に色々入ってくんのよ……」
「お金?」
「違うのよ。…いや、違わないけど違うっちゅーんよ…… んぐ」
一杯飲む。
「ぶえ~…んで…何だったかしら。ああ、あれよ。巾着袋の中の碁石がさ…」
何の話だ。
……全く、こんなに酔った霊夢を見たのはひさしぶりだな…。
萃香は思った。
突然霊夢が中年のバンダナ男の玉ころ遊びがあーだこーだ言いだしたので萃香はそろそろまずいんじゃないかと思えた。
とりあえず萃香は霊夢から酒を取り上げ、外の空気を吸うよう勧めた。
……人間に優しくしたのはいつ以来だろうか。
外に出た霊夢は突然裸足で神社の境内を歩き回りだした。千鳥足で。
「おーい霊夢!どこへ行くんだーーー!……あ」
ドガシャッ
霊夢は転倒した。
しかし霊夢はさほど気にした様子でもなく、それどころか萃香の方へ転がって行ったのだ。
ゴ~ロゴ~~~ロゴゴロ~ロゴ~ロロロゴロゴロ・・・・・・・・・・・
このままぶつかってくるんじゃないかと萃香は身構えたが、霊夢は萃香の目の前で止まった。
巫女服は砂だらけになっていた。
あ~あ。みっともない格好になってやんの。
「…デジャヴ」
何を言ってるんだこの巫女は。
萃香はため息をついた。
今夜よりしばらくの間この神社に住みつこうかと萃香は考えたが、結局止めにすることにした。
次の日、二日酔いで気持ち悪くなって吐く巫女なんて見たくもなかった。
「…ふう…土ってあったかいのね…」
当の巫女は顔を赤くしながらまだ訳のわからぬことを呟いていた。
……楓の葉は今賽銭箱にしがみついている酔った巫女のように全身を紅潮させていた。
……そもそも今回の宴会に参加していたのは二人だけではい。
神社の周辺に存在している「それら」も二人のように酒気を帯びていた。
長月 二十三日
~幻想郷・博麗神社~
……
……
…
瞼が、
重い。
……何だ、この倦怠感は
そしてこの気持ち悪さは。
死にそう。
今日が命日かもしれん。
萃香の予想通り、霊夢は二日酔いになった。
酷い頭痛の中、霊夢は顔の左側面に痒みを感じた。
痒みと言ってもそれは微々たるものであったが、この死にそうなほどの頭痛と、全身の倦怠感とによってその痒みはまるで小さな蟻の大群が一斉に噛みついて来たかのような痛みのように感じられた。
やたら重く感じる左手で左の頬を掻いてみた。
指先に感じる違和感。
どうやら畳の跡が頬についたらしい。
………ふぅ~~~~。
霊夢は全身に喝を入れ、なんとか重い腰を上げて立つことができた。
…うう、とりあえず水が飲みたいわ。
ふらふらと歩きながら襖をあけた。
「……」
紅。
紅、紅、
紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、
………………。
……紅白の巫女は目の前の風景に思わず見とれた。
そこには紅のみの世界が広がっていたのだ。
「……」
……いつからこんなに変わってしまったのだろうか?
ただ、こう感じるしかなかった。
「…綺麗ね」
重い頭を抱えながらも、そう思った。
……楓の葉は完全な紅となり、今だ細い枝に付いていた。
しかし、長いこと枝に付いていたその葉は風に煽られ、
ついに、枝から離れてしまった。
その葉は空を舞い、何度も宙返りしながら元いた木から離れて行く…
~外の世界・京都~
「あ」
「ん?どうしたの?」
「自販機にあったかい缶コーヒーが売られてる。前無かったじゃん」
「そりゃあ…もう涼しくなったからね…」
~幻想郷・霧の湖~
「…寒い」
ヒュウー……
「…誰もいないから寒いのかしら…」
だーーーいちゃん!
…ピト。
「きゃ!…あ!チルノちゃん!久しぶり!」
~幻想郷・紅魔館門前~
「寒い…しかし、私は年中半袖だが、こんな寒さで倒れるようなら門番は務まらない!今日もいつも通りのメニューを実行するぞ!」
一時間後
「はぁ…門番が風邪で倒れるなんて…世も末ね。…ん?なんか図書館の辺りが騒がしいわ」
~幻想郷・マーガトロイド邸~
「まだシミが消えない…」
~幻想郷・命蓮寺~
「あら、皆どうしたのかしら?」
「ああはい。昨日アイスを食べた三人はその後腹を出して寝てしまって…今は布団の中で苦しんでいます」
「もぅ、これじゃぁ説法出来ないじゃない…」
~幻想郷・博麗神社~
幻想郷の東の端の端、そこに博麗神社があった。
神社というだけあってその周辺にはそれなりの木々が生い茂っていた。
博麗神社はいわゆる幻想郷と外の世界との境界に存在しており、そこには外の世界の木々も交じっていた。
この外の世界の木々が入り込んだ理由としてはかつて神社にはミズナラの木という境内の境界を構成するものが存在していたが、落雷による影響でそのミズナラの木が消滅し、それによって境界に穴が空いたことによって外の世界の木々が入り込んだからである。
さて、これら神社の周辺にある木々は秋になると紅葉となるものが殆どであり、秋の博麗神社は紅一色の色鮮やかな空間に包まれるのである。
――――――――――――――そして、幻想郷に再び秋が戻ってきた。
そのイロハカエデは鳥居のすぐ側にあった。
あちこちへと枝を伸ばしているその楓の葉はまだ青かった。
その楓は周囲の楓と比べると丈が大きかったが、その枝の中には一本だけまるで糸のような太さの枝があり、そしてその枝は細かったものの他の枝と比べるとそれなりに長さはあった。
その枝にはかつて先端に一つだけ、葉が付いていた。
そしてその葉は、もう、無い。
……葉は弧を描きながら賽銭箱の中に入って行った。
もう葉は風に煽られることは無い。
ただ、死んで行くのみだ。
…しかし、死んで行くはずであるその葉は賽銭箱に入ってしばらくした後、
まるで眠っているかのように寝息を立てていたんだとか。
~おしまい~
______エピローグ
長月 二十二日
~幻想郷・妖怪の山~
かくして、姉妹は勝利したのだ。
厳密には幽香は倒されたわけでなく、あまりに長い戦闘に幽香は戦線を離脱したのである。
体力の限界か、
飽きてきたのか、
自らの行為が無意味なことだと気付いたのか、
お腹が空いたのか、
置き去りにした花たちが心配になったのか、
如何なる理由で、如何なる時に戦線を離れたのかは本人以外誰も知らない。
…しかし、いずれせよ十数日に及ぶ戦闘はあまりにも長すぎた。
元々は幽香の気まぐれであったが、本来の「向日葵が見たいから」という目的だけではこうは長く続かないだろう。
戦闘が長引いた理由は穣子が死亡したからであった。
それは幽香が故意にやった事ではなく、事故によるものであった。
幽香の弾幕と穣子の弾幕がぶつかり合い、それによる爆発の衝撃を穣子は顔面から食らって気絶したらしく、そのまま頭から森の中へと落下していったということだ。
高度690メートル、助かるはずがない。
もう一度言うが、これは幽香が故意にやったことではない。しかし、姉である静葉は妹が死亡したことによって怒り狂い、本来の彼女なら信じられない量の弾幕を幽香に向けて放ったのである。
幽香が去って数刻後、静葉は森の中でうずくまって泣いていた。
「…く…穣子……何で死んじゃうんのよぉ……えっぐ…っ…」
…妖怪の山は一夜にしてその半数の木々が紅葉づいていた。
しかし、その紅葉の頂点に座する紅葉の神は数少ない家族の一人を失ったことにより、秋の訪れをその身で感じ取ることができなかった。
…ザッ…ザッ…ザッ…
足音はその静寂の空間に低く木霊した。
『妖怪の山で足音が聞こえたら気ぃつけんさいよぉ…。その足音はのぉ、妖怪の足音じゃてぇ、早く逃げないと、ぱくり!っと喰われるけぇねぇ…ひぇっひぇっひぇ…』
……なんてものが人間の里には言い伝えられている。
子どもにも分かりやすいその警告は当然のことながら人間の里に根付きやすく、妖怪の山に人間が寄らない要因の一つを型作っているのである。
…ザッ…ザッ…ザッ…
その足音の主の視界には一人の少女が映っていた。
その少女はうずくまっていた。
足を強く抱えていた。
体中が震えていた。
嗚咽を漏らしていた。
よく見ると涙を流していた。
…足音の主は何も言わずに少女の元へと近づいていった。
…ス……ス……ス…ザ…ス……
出来るだけ足音を立てないように
……ス…ス………ザ……ス……
息を殺して
…ス……ス…ザ…カッ……ス…
少女だけを見つめて
……ス…スザッ…ダッ!
ガバァッ
強く、抱きついた。
「ただいま」
彼女はそっと、それだけを言った。
――――――――――――――そして、幻想郷に再び秋が戻ってきた。
~完~
・この作品は「秋、おさいせん(前章)」の続編となっております。できれば前回の作品に目を通すことをお勧めします。
長月 二十二日
~幻想郷・命蓮寺~
「ナズ~ぬえたちにアイスを持ってきてくれないか~」
「あ、はいはい今直ぐ」
タッタッタッタッタ……
ガチャン
「…むぅ、あと三本か。おや、なぜこんな所に宝塔が冷えているのだ」
~幻想郷・博麗神社~
本日は宴会であった。
古今東西(というほど広くはないけど)幻想郷の重鎮とその付き人ぐらいしか集まらないその宴会は客からすればただ単に酒を飲むための会合といっても差支えないほどである。
しかし、本日は客が殆ど来なかった。
来たのは伊吹萃香と言う鬼ぐらいである。
…客が萃香のみというのは別段珍しいことではない。
以前も宴会の呼び出しをしたものの萃香以外全く来なかった事が何回かあった。
「…まぁったく!今日も誰も来んのかい!!」
萃香はただ一人怒鳴り散らしていた。
萃香と言うとかつて「百鬼夜行」を起こした人物で、その理由は「宴会を起こしたい」と言うほどの大の宴会好きなのである。
一応宴会を起こす理由として鬼を幻想郷に呼び戻すというものがあるが、彼女は単に皆と酒を交わし合うという宴会本来の目的を楽しむことを第一にこの宴会を楽しんでいるのである。
しかし、今回のように客が一人も来ないとなるとその宴会の本来の目的を果たすことができず、宴会としてもやたら寂しいものとなるため、彼女からすればひどく興ざめたものとなったのであろう。
「あ~も~つまんないの、霊夢?あんたも黙ってないでよ……ん!?」
萃香は仰天した。
萃香が見た霊夢は全身まっかっかで座っていながらも振り子のように左右に揺れていたのである。
何とも言えぬ表情をしているあたり相当酔っているのだろう。
「れ、れいむ?」
「……ん、なによぉ…」
「今日何か飲みすぎてない?何かあったの?」
「…んん、最近ねぇ……賽銭箱に色々入ってくんのよ……」
「お金?」
「違うのよ。…いや、違わないけど違うっちゅーんよ…… んぐ」
一杯飲む。
「ぶえ~…んで…何だったかしら。ああ、あれよ。巾着袋の中の碁石がさ…」
何の話だ。
……全く、こんなに酔った霊夢を見たのはひさしぶりだな…。
萃香は思った。
突然霊夢が中年のバンダナ男の玉ころ遊びがあーだこーだ言いだしたので萃香はそろそろまずいんじゃないかと思えた。
とりあえず萃香は霊夢から酒を取り上げ、外の空気を吸うよう勧めた。
……人間に優しくしたのはいつ以来だろうか。
外に出た霊夢は突然裸足で神社の境内を歩き回りだした。千鳥足で。
「おーい霊夢!どこへ行くんだーーー!……あ」
ドガシャッ
霊夢は転倒した。
しかし霊夢はさほど気にした様子でもなく、それどころか萃香の方へ転がって行ったのだ。
ゴ~ロゴ~~~ロゴゴロ~ロゴ~ロロロゴロゴロ・・・・・・・・・・・
このままぶつかってくるんじゃないかと萃香は身構えたが、霊夢は萃香の目の前で止まった。
巫女服は砂だらけになっていた。
あ~あ。みっともない格好になってやんの。
「…デジャヴ」
何を言ってるんだこの巫女は。
萃香はため息をついた。
今夜よりしばらくの間この神社に住みつこうかと萃香は考えたが、結局止めにすることにした。
次の日、二日酔いで気持ち悪くなって吐く巫女なんて見たくもなかった。
「…ふう…土ってあったかいのね…」
当の巫女は顔を赤くしながらまだ訳のわからぬことを呟いていた。
……楓の葉は今賽銭箱にしがみついている酔った巫女のように全身を紅潮させていた。
……そもそも今回の宴会に参加していたのは二人だけではい。
神社の周辺に存在している「それら」も二人のように酒気を帯びていた。
長月 二十三日
~幻想郷・博麗神社~
……
……
…
瞼が、
重い。
……何だ、この倦怠感は
そしてこの気持ち悪さは。
死にそう。
今日が命日かもしれん。
萃香の予想通り、霊夢は二日酔いになった。
酷い頭痛の中、霊夢は顔の左側面に痒みを感じた。
痒みと言ってもそれは微々たるものであったが、この死にそうなほどの頭痛と、全身の倦怠感とによってその痒みはまるで小さな蟻の大群が一斉に噛みついて来たかのような痛みのように感じられた。
やたら重く感じる左手で左の頬を掻いてみた。
指先に感じる違和感。
どうやら畳の跡が頬についたらしい。
………ふぅ~~~~。
霊夢は全身に喝を入れ、なんとか重い腰を上げて立つことができた。
…うう、とりあえず水が飲みたいわ。
ふらふらと歩きながら襖をあけた。
「……」
紅。
紅、紅、
紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、紅、
………………。
……紅白の巫女は目の前の風景に思わず見とれた。
そこには紅のみの世界が広がっていたのだ。
「……」
……いつからこんなに変わってしまったのだろうか?
ただ、こう感じるしかなかった。
「…綺麗ね」
重い頭を抱えながらも、そう思った。
……楓の葉は完全な紅となり、今だ細い枝に付いていた。
しかし、長いこと枝に付いていたその葉は風に煽られ、
ついに、枝から離れてしまった。
その葉は空を舞い、何度も宙返りしながら元いた木から離れて行く…
~外の世界・京都~
「あ」
「ん?どうしたの?」
「自販機にあったかい缶コーヒーが売られてる。前無かったじゃん」
「そりゃあ…もう涼しくなったからね…」
~幻想郷・霧の湖~
「…寒い」
ヒュウー……
「…誰もいないから寒いのかしら…」
だーーーいちゃん!
…ピト。
「きゃ!…あ!チルノちゃん!久しぶり!」
~幻想郷・紅魔館門前~
「寒い…しかし、私は年中半袖だが、こんな寒さで倒れるようなら門番は務まらない!今日もいつも通りのメニューを実行するぞ!」
一時間後
「はぁ…門番が風邪で倒れるなんて…世も末ね。…ん?なんか図書館の辺りが騒がしいわ」
~幻想郷・マーガトロイド邸~
「まだシミが消えない…」
~幻想郷・命蓮寺~
「あら、皆どうしたのかしら?」
「ああはい。昨日アイスを食べた三人はその後腹を出して寝てしまって…今は布団の中で苦しんでいます」
「もぅ、これじゃぁ説法出来ないじゃない…」
~幻想郷・博麗神社~
幻想郷の東の端の端、そこに博麗神社があった。
神社というだけあってその周辺にはそれなりの木々が生い茂っていた。
博麗神社はいわゆる幻想郷と外の世界との境界に存在しており、そこには外の世界の木々も交じっていた。
この外の世界の木々が入り込んだ理由としてはかつて神社にはミズナラの木という境内の境界を構成するものが存在していたが、落雷による影響でそのミズナラの木が消滅し、それによって境界に穴が空いたことによって外の世界の木々が入り込んだからである。
さて、これら神社の周辺にある木々は秋になると紅葉となるものが殆どであり、秋の博麗神社は紅一色の色鮮やかな空間に包まれるのである。
――――――――――――――そして、幻想郷に再び秋が戻ってきた。
そのイロハカエデは鳥居のすぐ側にあった。
あちこちへと枝を伸ばしているその楓の葉はまだ青かった。
その楓は周囲の楓と比べると丈が大きかったが、その枝の中には一本だけまるで糸のような太さの枝があり、そしてその枝は細かったものの他の枝と比べるとそれなりに長さはあった。
その枝にはかつて先端に一つだけ、葉が付いていた。
そしてその葉は、もう、無い。
……葉は弧を描きながら賽銭箱の中に入って行った。
もう葉は風に煽られることは無い。
ただ、死んで行くのみだ。
…しかし、死んで行くはずであるその葉は賽銭箱に入ってしばらくした後、
まるで眠っているかのように寝息を立てていたんだとか。
~おしまい~
______エピローグ
長月 二十二日
~幻想郷・妖怪の山~
かくして、姉妹は勝利したのだ。
厳密には幽香は倒されたわけでなく、あまりに長い戦闘に幽香は戦線を離脱したのである。
体力の限界か、
飽きてきたのか、
自らの行為が無意味なことだと気付いたのか、
お腹が空いたのか、
置き去りにした花たちが心配になったのか、
如何なる理由で、如何なる時に戦線を離れたのかは本人以外誰も知らない。
…しかし、いずれせよ十数日に及ぶ戦闘はあまりにも長すぎた。
元々は幽香の気まぐれであったが、本来の「向日葵が見たいから」という目的だけではこうは長く続かないだろう。
戦闘が長引いた理由は穣子が死亡したからであった。
それは幽香が故意にやった事ではなく、事故によるものであった。
幽香の弾幕と穣子の弾幕がぶつかり合い、それによる爆発の衝撃を穣子は顔面から食らって気絶したらしく、そのまま頭から森の中へと落下していったということだ。
高度690メートル、助かるはずがない。
もう一度言うが、これは幽香が故意にやったことではない。しかし、姉である静葉は妹が死亡したことによって怒り狂い、本来の彼女なら信じられない量の弾幕を幽香に向けて放ったのである。
幽香が去って数刻後、静葉は森の中でうずくまって泣いていた。
「…く…穣子……何で死んじゃうんのよぉ……えっぐ…っ…」
…妖怪の山は一夜にしてその半数の木々が紅葉づいていた。
しかし、その紅葉の頂点に座する紅葉の神は数少ない家族の一人を失ったことにより、秋の訪れをその身で感じ取ることができなかった。
…ザッ…ザッ…ザッ…
足音はその静寂の空間に低く木霊した。
『妖怪の山で足音が聞こえたら気ぃつけんさいよぉ…。その足音はのぉ、妖怪の足音じゃてぇ、早く逃げないと、ぱくり!っと喰われるけぇねぇ…ひぇっひぇっひぇ…』
……なんてものが人間の里には言い伝えられている。
子どもにも分かりやすいその警告は当然のことながら人間の里に根付きやすく、妖怪の山に人間が寄らない要因の一つを型作っているのである。
…ザッ…ザッ…ザッ…
その足音の主の視界には一人の少女が映っていた。
その少女はうずくまっていた。
足を強く抱えていた。
体中が震えていた。
嗚咽を漏らしていた。
よく見ると涙を流していた。
…足音の主は何も言わずに少女の元へと近づいていった。
…ス……ス……ス…ザ…ス……
出来るだけ足音を立てないように
……ス…ス………ザ……ス……
息を殺して
…ス……ス…ザ…カッ……ス…
少女だけを見つめて
……ス…スザッ…ダッ!
ガバァッ
強く、抱きついた。
「ただいま」
彼女はそっと、それだけを言った。
――――――――――――――そして、幻想郷に再び秋が戻ってきた。
~完~
色々と試みる前に他の方の作品と自分の作品を見比べて何が悪いか、何が自分の長所なのか考えてみては如何でしょう?
次回の作品に期待します。