ある日森の中を歩いておりますと、木のそばで何かが動いている事に気づきました。
近くによってみますと、食パン半斤ほどの大きさで、手足のない何やら変わった生き物でございます。
手で触ると柔らかく弾力性があり、やはり食パンのようです。
持ち上げてみますと意外と重く、辞書を持ち上げているかのように思います。
きっと、食パンとは違い中がすかすかではないためでしょう。
一端の魔法使いとして、このように不思議なものをほおっておくことは出来ません。
さっそくこの食パン型生物を家に持ち帰ることにしました。
特に何事もなく家に持ち帰ることが出来まして、まずはこの食パン型生物をテーブルにおいて観察してみます。
何事もまず観察することから始めるものでございます。
無警戒でキノコを拾い食いなどして、何日間も寝込むことになった人を私は知っているのです。
その人は「これが漢のロマンや。」などと言っておりましたが、私には一生理解出来ない思考でございましょう。
さて、しばらく観察をして見たもののこの食パン型生物はちっとも動く気配がありません。
動きのないものの観察ほどつまらないものはございませんのに。
そんな私の意思に動じることもなくゆったりとした表情でテーブルの上に鎮座しております。
まるでこのテーブルは私の物だと言わんばかりです。
このままでは人形作りをするスペースがなくなってしまいます。
テーブルを奪われるわけにはいけません。
威嚇として指でつついてみました。
すると、この食パン型生物は私の指を柔らかな弾力で押し返してくるではございませんか。
これは徹底抗戦の構えに違いありません。
そういうつもりならこちらにも考えがあります。
ぷにゅりと一部を摘み食べてしまいます。
もぐもぐと咀嚼してみますと、なかなかおいしゅうございました。
もう少し食べてみましょう。
もぐもぐもぐもぐ
食べ進めていると、なにやら別の食感がします。
甘くてのったりまったりとした、そう、昔食べたことのある、餡子というものに似ております。
いつまでも食パン型生物とよぶのは手間のかかるものですし、
餡子で食パンですから、これからこの生物はあんぱんと呼ぶことにしましょう。
名前も決まり、さてもう一口と手を伸ばしてみると、いつのまにかあんぱんの姿がありません。
全部食べてしまったようでございます。
幾つかに分けてもう少し味わって食べるべきだったと後悔してももう手遅れでございます。
残念だと思いましたが、おいしいものが食べられたのだからと自分を慰めました。
それから幾日か経ち、再び森の中を歩いておりますと、木のそばで再びあんぱんを見つけました。
大喜びで家に持ち帰り、早速もしゃもしゃといただきます。
すると不思議なことに、いつのまにかまたあんぱんが無くなっているではありませんか。
食べなければ食べ終わった事を悲しむこともございませんのに、食とは何とも儚いものでございます。
されど、悲しんでばかりのわたくしではありません。
二度あることは三度ある。また森で見つければよいのです。
予想通り、一週間ほどするとまたあんぱんを見つけることが出来ました。
今日はおいしいご飯を食べることが出来そうです。
意気揚々と家に着き、早速あんぱんを食べる準備をしましょう。
手洗いうがいをすませ、いただきますと手を合わせます。
と、
ドンドン
家のドアが叩かれる音がしました。
誰が来たのかドアを開けてみると、目の前に立っていたのは博麗の巫女です。
「ご飯おくれ。」
言うなり、づかづかと家の中に入って来るではありませんか。
なんと横柄でわがままな態度でございましょう。
こんな人に作るご飯などあるはずがありません。
そういいたいところですが、わたくしはご飯を作らなければなりません。
以前、嫌だと断ったら家にある食べ物を根こそぎ奪われてしまったのです。
抵抗しましたが、相手はあの乱暴者の巫女でございます。
簀巻きにされ、巫女に家が荒らされるのを涙ながらに見ることになりました。
今回も、私がご飯づくりを断ったら食べ物を奪うつもりに違いありません。
よよ、と涙を流しながらもご飯を作る準備を始めます。
それはそれとして、作る意気込みは別として、作るならば都会派として失礼のないものを作らねばなりません。
巫女に何か食べたいものがあるのか聞いてみます。
「うまいもの。たくさん。」
聞いたわたくしが愚かでございました。
きっと味覚などないのです。掃除機か何かなのでございます。
しかし、何を作ったものでしょうか。
10秒ほど悩んだのち、もったいないかとも思いましたが
ちょうどいいことですし、あんぱんを少し分けてやることにしました。
自慢してやるためにあんぱんを抱えて巫女の目の前に持って行きます。
すると、どうしたことでしょう。
巫女はなんと、怒り顔で私に詰め寄ってきたではありませんか。
「どこからこれをとってきたの。」
そう言って胸倉を掴んできました。
痛いです。
これが施しをされる人が施しをする人に対する態度でしょうか。
きっとあんぱんを見つけた場所を聞いたら独り占めするつもりなのでしょう。
知らぬ存ぜぬといってやりました。
ざまあみろでございます
いつまでも言う事を聞いていると思ったら間違いです。
「一回断るごとに人形を引き裂いていくわよ。」
巫女の前ではむなしくささやかな抵抗でございました。
泣く泣く森の中であんぱんを見つけた事を教えます。
「それだけじゃわからん、一緒に来い。」
首根っこを掴まれて引き摺られていきました。
あんぱんを見つけた木のところに行くと、男の人が一人木のそばに立っておりました。
スコップを持っていて、穴を掘っている様でございます。
傍には掘り起こされた土と、それに、ゴボウか黒いジャガイモのような物が見えます。
巫女は私を離して男性の傍に近づいていきました。
私は行きません。
首根っこを離されたという事は私は行く必要はないという事です。
わざわざ災難に飛び込む事もないでしょう。
触らぬ巫女に祟りなしでございます。
巫女と男性が何かを話し始めました。
男性と巫女の様子からすると、男性は巫女に怒られている様です。
触らぬとは言いつつも、何を話しているのかは気になるものでございます。
人形を飛ばして会話を聞いてみましょう。
へぇ、いや、そのでございますね。あっしを責めようとするお気持ちはよぉく分かります。
しかしながらですね。あっしはただ命令されただけなんでございますよ。
いや、少し聞いてくださいましよ。あっしはただの雇われ者でして、あっしだって実際こんな事したくありやせんし、
妖怪のいる森にわざわざ来たくなんてなかったんでございやす。
ただ、あっしにも生活がありやすし、養わないといけない妻も子供もおりまして。
いや、そうは言われましてでもですねぇ。まっとうな仕事であっしを雇う場所なんてありやせんで。
それに、あっしは本当に無関係なんでございやす。それどころか被害者でございやすよ。
禁止されているのに無理矢理やる客も、旦那様のお遊びも。自分の身分を知っていながら恋だなんだと子供を作ろうとする女も、
作ったら廃棄させられるなんて事、分っているでしょうに。
あっしとはなんの関係もない事でこんな縁起でもないことをさせられるんですから、本当にあっしは被害者ございやすよ。
いや、そりゃあ、しかしながら、実行に移すなんてとてもとても、
あっしがやめろと言って変わるならとっくにやめているでしょうよ。
やめろと言って仕事をなくすのはあっし、ほかにかわることはな~んにもありやせんでしょうや。
へぇ、案内でございやすか?いや、断りなんてしやせん。
ただ、あっしのことは黙っておいていただけると・・・いや、なんでもございやせんで。
二人が歩き出しました。
どこかへ行くようです。
これ以上私に用もないようですし、おもしろくもなさそうなので私は帰ることにしましょう。
見ざる聞かざる触らずです。
それからしばらくして、森の中であんぱんを見つけることはなくなりました。
なんでも、私の見つけたあんぱんは死んだ子供の亡霊のようなものだったのだそうです。
とても子供と関係ありそうには思えませんでしたが、まぁ、そういうものなのでございましょう。
わたくしとしてはあんぱんが食べられなくなって残念でございます。
とは言うものの、最近の悩みは家に一つあんぱんが残っていて、私を監視すると言って巫女が毎日ご飯をたかりに来ることと、
あんぱんを食べると怒られそうなので食べることも出来ず、テーブルが占領されて裁縫がやりにくいという事なわけでございますが。
あんぱんの呪いでも受けてしまったのでございましょうかと思うばかりでございます。
口調のせいかペルソナのアイギスの格好をしたアリスが頭の中で再生されたw
今回も独特の世界観楽しませていただきました。
監視なんてしなくても事件の証拠物として押収すればいいのに、飯を食べにくる口実に使う霊夢ェ……
つまり、遊び好きな旦那が女との間に作ってしまった赤ん坊を魔法の森の特定の木の周りに"あっし"に埋めさせていたのかな?
それで、子どもの亡霊があんぱんになってしまったということですか?供養のために"あっし"があんぱんを置いていたのかな?
僕は「大福のようなあんぱん」シリーズが大好きです。あれは山崎製パンから出ていたっけなぁ...おいしいよね。
面白かったです。
なんだかよくわからないうちに終わってしまった。面白かったけど。