この作品は前作の「孤高と孤独は同じ」の続編となります。
アリスはしばらくの間考えていた。
……紫の家で藍の作ったご飯を食べていた時のことを。
「じゃあアリスさんは紫様のことは何とも思ってないのですか?」
「ふぇ?!」
「ちょっと藍!」
いきなり?!
「何とも思ってないわよ」
アハハと笑いながら紫を見る。
けど…よくよく見たら紫って顔立ちは綺麗だし、スタイルは私よりも凄い良いし…胸とか、胸とか…胸とか。じゃなくって。
睫毛は長いし、髪はサラサラで手入れが行き届いてるし、肌とかもババァか言われてるけどマッサージしてもらった時は柔らかくって私と変わりない…複雑な気持ち…。匂いも加齢臭なんてもんじゃなくてドキドキするくらいいい匂いだし…
「アリス?」
「ん?」
「どうしたのよ急に黙り込んで?」
「あ…いや。紫ってお母さん見たいって考えてたの」
く、苦しい…。言い訳が苦しい。あぁもう…こんなの紫にすぐにバレちゃう!
「え…?あ、ありがと…」
紫が顔を隠しながら返事をした。
あ、あれ?
気まずい空気が部屋に流れる。
「あ、も、もうこんな時間。そろそろ御暇するね」
「え、えぇ。藍アリスの見送りを…」
「いや大丈夫だから」
早歩きで立ち去るような形で私は紫の家を後にした。明らかに私が可笑しな空気作ったせいなのに…。今度謝りに行かないと。
一人で自室のベッドに横たわって天井を見ながら紫の家であった事を考えていた。紫には寂しくないとは言ったけど実際に静かな空間に戻ると…
「寂しいな…」
明日にでも紫の所に行って謝らないと…。そんなことを考えながらアリスは寝てしまった。
―――紫家―――
「いや大丈夫だから」
アリス何だか焦ったように帰ったわね…。私何かマズイ事でもやらかしたのかしら?
アリスが帰ったあと自室に行きそんな事を繰り返し考えていた。
今日は結界の穴が最近増えたからって藍から報告を受けて結界の整備もかねて見周りに行って、霊夢に稽古をつけて、アリスに出会った。
宴会にも顔を出してなかったから会話でもしようと思ったら弾幕勝負になってアリスが負けて、聞いたら部屋に籠ってる。でマッサージでもしてあげようと思ったらアリスと良い会話が出来て…
「アリスが居なかったらまだ私は一人だったのね」
藍に誤解されたのが嫌だったのかしら?まぁ確かに私みたいな奴と勘違いされると嫌よね…
「………」
そこまで考えて急に胸が痛くなった。
妖力使いすぎた?いよいよ年ね…こんな日は思考しなくて済む眠りの世界にでも行きましょ…
「……………」
おかしいわね。何時もならすぐにでも眠れるはずなのに…。アリスのことが気になって…?いやいや流石に気持ち悪いわよ私。
明日もまた結界の見回りに行こうかしら。アリスに会えるかもしれないし。
そんな明日の予定を考えて少しワクワクしながら眠りについた。
―――アリス家―――
「げっ…もう昼じゃん」
壁に掛けてある時計に目を向けながらアリスは起床した。夏ももう終わりとはいえやはり昼は暑い。快晴の空を見ながら…
「お昼何にしよう」
冷蔵庫の中を見る。
「チーズとかあるからグラタンにでもしようかな」
手早くグラタン皿に材料を乗せオーブンの中に入れた。
「あぁ…昨日シャワーも浴びなかったんだ。浴びて来よ」
上海や蓬莱などの人形を使い着替えを用意する。こんな点で言えば人形使いは実に便利なのだ。
シャワーを浴びながら昨日の事を思い出す。
「紫か…今日の夕方にでも行ってみようかしら」
バスタオルで体を拭きながら食事の支度を人形にさせる。まぁ操ってるのは私だけど。
「あぁそうか…服最近洗ってないからいつものが無いんだっけ。ん~これとこれでいいや」
近くの棚に入っていた白いワンピースにカーディガンを羽織った。
「今日は洗濯物日よりね」
魔法研究が一段落済んだ後は毎度のごとく洗濯物、洗い物などなど。これは毎回嫌になるが終わった後の達成感をアリスは好いていた。一人で作業をしながら脳を切り替え少しリフレッシュさせることが出来るからだ。
「まずは洗濯物ね」
溜まっていた洗濯物を次々と洗っていく。魔法研究をしていても服は着替えたいし、シャワーも浴びたくなる。むしろ魔法研究中はそれくらいしか喜びがないのだ。魔法の演算、魔力の調節、水銀やヒ素、アンモニアも入れたりする。媒体の生成、魔法陣の組み換え。
汗こそかかないものの粉末や、臭いはどうしても身体に付いてしまう。それを洗い流して「今日はここまで」という区切りをつける。
「自分で言うのも何だけど匂うのよ…もう少しいい匂いの媒体とか材料ないのかな。臭いが取れないのあるのよね」
などと愚痴を言ったりしてたら洗濯物は終わった。
「干すのと洗い物は同時並行でいけるわね」
人形を操りながら本体は洗濯物を干す。アリスほどの人形使いはそうそう居ない。魔理沙のように魔力を媒体の中で圧縮、放射。またそのまま発射も高等技術であるがアリスのように全ての攻撃を人形で行うのも高等技術なのだ。戦いながら人形を操作し、人形で攻撃というのはとてつもないほどの演算が必要になってくる。
「蓬莱と上海はオーブンのグラタン出して」
もう終わり頃になると二つの人形に支持を出した。自分からは動かないけど命令があれば動いてくれる。
ちなみに私猫舌だからかなり冷まさないとグラタン食べれないの。
「いただきます」
生ぬるいよりも熱く、出来立てよりもかなり冷めた位が一番美味しい。
食べ終わったあと片付けをして外に置いてあるベンチに横になる。木の影のおかげでいい温度になっていた。木漏れ日やそよ風を肌で感じながら静かに目を瞑った。
「………ん…」
「あっ起きた?」
「ん~…って紫?!」
紫が膝枕をして髪を撫でていた。周りを見てみると夕暮れ時で大量にあった洗濯物は…
「洗濯物は家に入れておいたわよ」
「アハハ…ありがと」
恥ずかしいところ見られちゃった。
「ってか何で紫が此処に?」
「そうねぇ…まぁ着いてきて。話しするから」
「? えぇ…」
紫が散歩みたいなノリで誘ってきた。何だか紫がさっきからこっちを見てくれない。そんなに昨日の事怒ってるのかな…。
少ししょんぼりしながら紫の後をついて行った。
―――紫―――
アリスに謝らないといけないって思ってもどう謝れば…。
「とりあえず会ってみるしかないわね」
少し何時もよりもおめかしをして家を出る。紫なりに緊張してるのだ。
何かお土産とかあった方が…いやいや何かおかしい。
紫が緊張するのも無理はない。何かの否があるかないか明確になっていない状態で誰かに会うのは緊張する。それは否があれば嫌だし、否が無いのなら嬉しい。そんな複雑な気持ちで今から人に会いに行くのだ。
「アリス…」
アリスの家に着いた。
コンコン…
「………」
コンコン
「ア、アリス?」
い、居ないかしら…ん?
「夕方になるのに洗濯物が…買い物?」
洗濯物を取り込む。
何だか薬品の臭いがきついわね…。あぁ魔法研究してたって言ってたしそれかも…。
「今度いい匂いの香水でも買ってあげようかしら」
洗濯物を取り込み終わってベンチに座ろうと思ったら
「白い…アリス?」
白いワンピースにカーディガンという服装は人形のように整った顔立ちをするアリスには似合い過ぎるくらい似合っているのだ。
ほぼ直視は出来ないくらい可愛いし、綺麗。
「…髪少し枝毛が出てるわね。忙しいから手入れが出来ないのかしら」
アリスの近くに座る。
こうして見るとアリスってホント年頃の女の子にしか見えないわね。私はお母さんかしら。
勝手な想像で一人で嬉しくなる。
「ん…紫…」
「アリス?」
「…ごめん……」
「え?」
「スゥ…スゥ……」
「寝言?」
けど何でアリスが私に謝るのかしら?
理由なんて見つかる訳がない。一人で考えていても見つかる訳がないのだ。そう考えながらアリスに膝枕をしてやる。
「これは早速アリスに頼らなくちゃいけなくなるわね」
クスクス笑いながらアリスの頭を撫でた。
「………ん…」
「あっ起きた?」
―――アリス―――
「そうだ紫」
「何?」
「えぇっと…」
なんて切り出せばいいんだろう…
「あぁ私に謝る必要は無くなったわよ」
「え?」
「もうあなたは謝ってくれたから」
「え? え? 何時?」
「さっきよ。何で謝ったかは不明だけどね」
「……昨日せっかく色々持て成してくれたのに私いそいそって早く帰っちゃったから…。それで紫怒ったかなって」
「怒らないわよ。そんな理由で」
紫はクスクス笑いながら返事をした。
「私もねアリスに謝らなきゃいけないことがあるの」
「何?」
「藍に私なんかと出来てるって勘違いされて気持ち悪かったでしょ? ごめんなさい」
「そんなことない」
「え?」
紫は驚いたような顔をしているが何だか嬉しかった。
お互いがお互いを傷つけてしまったのではと思っていたからだ。
「むしろ嬉しい方の部類に入ったかな?」
満面の笑み。紫は何も言わずに微笑みながらまた進み始めた。
「着いたわ」
「ここって幻想郷の結界じゃない」
「まぁ見てて」
紫はそう言うと結界の前に立ち修復を始めた。
何のために私を呼んだんだろ…
「アリスこっち」
「え? ちょっと」
手を引っ張られながら空を飛ぶ。
「何?」
「結界の方を見て」
「結界がどう…し……」
言葉が出てこなかった。さっきまでは何の変哲もないただの結界だったのに、今は蒼く光り結界が息づいているかのような神聖な光り。
「最近結界にガタが来てね、そろそろ張り替え時期だったのよ」
「……」
「張り替えた当初はこんな綺麗な光を出しながら前の結界を壊していくの」
「古いのは壊れるの?」
「壊すのよ」
「……」
悲しい気分だな。新しい物を作るには古いものは壊れちゃうのか。
「けどね」
紫が結界を見ながら語りかけてくる。優しく穏やかな声で…
「この古い結界は壊れても新しい結界の中に陣が組み込まれるの。新しいとは言っても出来立ての結界は全てが強い訳じゃない。古い結界の力を借りて子供が大人になるようにこの結界も大人になっていくのよ」
「子供が大人に…」
「光っているのは破壊の光だけでなく、創造の光もあるの」
「だからこんなにも綺麗なんだ…」
二人でこの光を見続けていた。
「ねぇアリス?」
「ん~?」
「私の悩み聞いてくれる?」
「いいよ」
「変かもしれないけど…昨日アリスに会ってアリスが帰った後からずっと私アリスのことばかり考えちゃうの。これって何かの病気?」
「………」
「?」
「…えぇぇ!!」
「きゃ!」
何なに?これって告白?!いやいや紫の顔を見限り本当に分かってない顔みたい…。そうか紫は今まで自分一人って思ってたから周りに興味がなかったんだ。だから気にかける人も居なければ恋をしたこともない。だから今の言葉に何の意味があるのか分かってないんだ。
「あ、あのさ紫」
「なに?」
「間違ってたら恥ずかしいけど私のこと好き?」
「好き嫌いで言えばかなり好きな方よ」
「それは誰かと比べたときに私はどのくらいの順位になる?」
「一番よ」
あぁ!恥ずかしい!けど…紫をみんな恋愛対象に出来なっかったんだろうな。孤高で最強で何一つ不自由ない紫が高嶺に思えたんだろうな。
「紫」
「何?」
「世間一般ではそれは恋よ」
「……」
「でさっきの紫のセリフは告白に近いものだったけど…」
紫の顔が赤面になりどうすればいいか分からないような顔をしている。
「紫って誰かを好きになったことないの?」
「な、無いわよ」
紫可愛いなぁ…
「ア、アリスは誰かを好きになったことは無いの?」
「あるわよ」
「えっ…だ、誰?」
「紫」
「…私?!」
「そうよ」
「何で?」
「だって紫って何だか危なっかしいんだもん」
「………」
「今まで一人で居た紫にもっと色々な世界を見せてあげたい」
「…けど私は」
「私は紫がいいの。ううん。紫じゃなきゃ嫌なの」
「…………」
「紫が言ってくれなきゃ私はきっと紫に告白なんてしてなかった。出来なかった。私はいつも自信がなくって頭より体で示しちゃう。だから余計に紫が羨ましかった。紫に憧れた。けど紫も私みたいに少しは悩むんだって分かって嬉しかった。紫が一人って分かった時に何とかしてあげたいって思った。気付いたら紫が好きになってた」
「私は…アリスが居なかったらきっとまだ一人だったわ。けどアリスが居たからまた今日も結界の様子見に来ようって思えた。始まってもいなかった私に火をつけてくれた。初めて人の事で真剣に悩んだ。アリスのことだから真剣になれた。アリスの事考えて嫌われてたらって考えたら胸が痛くなった」
お互いにお互いを見つめる。
「だからアリス」
「うん」
「よかったら私と付き合ってくれない?」
「もちろん」
「こんな時はキス?」
「ムードがちょっと違うかな?」
「じゃあどんな時?」
「こうやるの」
紫の頬にキスをする。
「アハハ…今はこれが精一杯」
「アリス顔真っ赤」
「う、うるさいわね」
「可愛い」
しばらくの間二人で冗談を言ったり、抱きついたり、スキンシップをとった
「もう結界がうまく作動するわね」
「終わりか…」
「終わりって先がみえるけど…始まることに始まりはないのよ」
「人間の終わりは見えないわよ?」
「死という終わりはいつもあるの。けど生は与えてもらって初めて始まるの。その始まりには始まりなんてないわ」
「恋に始まりはないと?」
「そゆこと」
光が段々消えていく中
「そう言えば何であんまり目を合わせてくれないの?」
「え?いや…」
「ジー…」
「……」
すると紫は急に私の腰に腕を絡めてきた。
「アリスがいつもと違う服装だから恥ずかしくて目が合わせられないの!アリスが可愛い過ぎるのがいけないのよ」
「ふぇ…」
さっきとは裏腹に目を合わせてそんなセリフを言ってくる。
やばいやばい!
顔が赤くなってるのが自分でも分かる。恥ずかしい…けど紫から目が離せられない…
次第に縮まる二人の距離
消えゆく光の中二人は暑い口付けを交わした。
アリスはしばらくの間考えていた。
……紫の家で藍の作ったご飯を食べていた時のことを。
「じゃあアリスさんは紫様のことは何とも思ってないのですか?」
「ふぇ?!」
「ちょっと藍!」
いきなり?!
「何とも思ってないわよ」
アハハと笑いながら紫を見る。
けど…よくよく見たら紫って顔立ちは綺麗だし、スタイルは私よりも凄い良いし…胸とか、胸とか…胸とか。じゃなくって。
睫毛は長いし、髪はサラサラで手入れが行き届いてるし、肌とかもババァか言われてるけどマッサージしてもらった時は柔らかくって私と変わりない…複雑な気持ち…。匂いも加齢臭なんてもんじゃなくてドキドキするくらいいい匂いだし…
「アリス?」
「ん?」
「どうしたのよ急に黙り込んで?」
「あ…いや。紫ってお母さん見たいって考えてたの」
く、苦しい…。言い訳が苦しい。あぁもう…こんなの紫にすぐにバレちゃう!
「え…?あ、ありがと…」
紫が顔を隠しながら返事をした。
あ、あれ?
気まずい空気が部屋に流れる。
「あ、も、もうこんな時間。そろそろ御暇するね」
「え、えぇ。藍アリスの見送りを…」
「いや大丈夫だから」
早歩きで立ち去るような形で私は紫の家を後にした。明らかに私が可笑しな空気作ったせいなのに…。今度謝りに行かないと。
一人で自室のベッドに横たわって天井を見ながら紫の家であった事を考えていた。紫には寂しくないとは言ったけど実際に静かな空間に戻ると…
「寂しいな…」
明日にでも紫の所に行って謝らないと…。そんなことを考えながらアリスは寝てしまった。
―――紫家―――
「いや大丈夫だから」
アリス何だか焦ったように帰ったわね…。私何かマズイ事でもやらかしたのかしら?
アリスが帰ったあと自室に行きそんな事を繰り返し考えていた。
今日は結界の穴が最近増えたからって藍から報告を受けて結界の整備もかねて見周りに行って、霊夢に稽古をつけて、アリスに出会った。
宴会にも顔を出してなかったから会話でもしようと思ったら弾幕勝負になってアリスが負けて、聞いたら部屋に籠ってる。でマッサージでもしてあげようと思ったらアリスと良い会話が出来て…
「アリスが居なかったらまだ私は一人だったのね」
藍に誤解されたのが嫌だったのかしら?まぁ確かに私みたいな奴と勘違いされると嫌よね…
「………」
そこまで考えて急に胸が痛くなった。
妖力使いすぎた?いよいよ年ね…こんな日は思考しなくて済む眠りの世界にでも行きましょ…
「……………」
おかしいわね。何時もならすぐにでも眠れるはずなのに…。アリスのことが気になって…?いやいや流石に気持ち悪いわよ私。
明日もまた結界の見回りに行こうかしら。アリスに会えるかもしれないし。
そんな明日の予定を考えて少しワクワクしながら眠りについた。
―――アリス家―――
「げっ…もう昼じゃん」
壁に掛けてある時計に目を向けながらアリスは起床した。夏ももう終わりとはいえやはり昼は暑い。快晴の空を見ながら…
「お昼何にしよう」
冷蔵庫の中を見る。
「チーズとかあるからグラタンにでもしようかな」
手早くグラタン皿に材料を乗せオーブンの中に入れた。
「あぁ…昨日シャワーも浴びなかったんだ。浴びて来よ」
上海や蓬莱などの人形を使い着替えを用意する。こんな点で言えば人形使いは実に便利なのだ。
シャワーを浴びながら昨日の事を思い出す。
「紫か…今日の夕方にでも行ってみようかしら」
バスタオルで体を拭きながら食事の支度を人形にさせる。まぁ操ってるのは私だけど。
「あぁそうか…服最近洗ってないからいつものが無いんだっけ。ん~これとこれでいいや」
近くの棚に入っていた白いワンピースにカーディガンを羽織った。
「今日は洗濯物日よりね」
魔法研究が一段落済んだ後は毎度のごとく洗濯物、洗い物などなど。これは毎回嫌になるが終わった後の達成感をアリスは好いていた。一人で作業をしながら脳を切り替え少しリフレッシュさせることが出来るからだ。
「まずは洗濯物ね」
溜まっていた洗濯物を次々と洗っていく。魔法研究をしていても服は着替えたいし、シャワーも浴びたくなる。むしろ魔法研究中はそれくらいしか喜びがないのだ。魔法の演算、魔力の調節、水銀やヒ素、アンモニアも入れたりする。媒体の生成、魔法陣の組み換え。
汗こそかかないものの粉末や、臭いはどうしても身体に付いてしまう。それを洗い流して「今日はここまで」という区切りをつける。
「自分で言うのも何だけど匂うのよ…もう少しいい匂いの媒体とか材料ないのかな。臭いが取れないのあるのよね」
などと愚痴を言ったりしてたら洗濯物は終わった。
「干すのと洗い物は同時並行でいけるわね」
人形を操りながら本体は洗濯物を干す。アリスほどの人形使いはそうそう居ない。魔理沙のように魔力を媒体の中で圧縮、放射。またそのまま発射も高等技術であるがアリスのように全ての攻撃を人形で行うのも高等技術なのだ。戦いながら人形を操作し、人形で攻撃というのはとてつもないほどの演算が必要になってくる。
「蓬莱と上海はオーブンのグラタン出して」
もう終わり頃になると二つの人形に支持を出した。自分からは動かないけど命令があれば動いてくれる。
ちなみに私猫舌だからかなり冷まさないとグラタン食べれないの。
「いただきます」
生ぬるいよりも熱く、出来立てよりもかなり冷めた位が一番美味しい。
食べ終わったあと片付けをして外に置いてあるベンチに横になる。木の影のおかげでいい温度になっていた。木漏れ日やそよ風を肌で感じながら静かに目を瞑った。
「………ん…」
「あっ起きた?」
「ん~…って紫?!」
紫が膝枕をして髪を撫でていた。周りを見てみると夕暮れ時で大量にあった洗濯物は…
「洗濯物は家に入れておいたわよ」
「アハハ…ありがと」
恥ずかしいところ見られちゃった。
「ってか何で紫が此処に?」
「そうねぇ…まぁ着いてきて。話しするから」
「? えぇ…」
紫が散歩みたいなノリで誘ってきた。何だか紫がさっきからこっちを見てくれない。そんなに昨日の事怒ってるのかな…。
少ししょんぼりしながら紫の後をついて行った。
―――紫―――
アリスに謝らないといけないって思ってもどう謝れば…。
「とりあえず会ってみるしかないわね」
少し何時もよりもおめかしをして家を出る。紫なりに緊張してるのだ。
何かお土産とかあった方が…いやいや何かおかしい。
紫が緊張するのも無理はない。何かの否があるかないか明確になっていない状態で誰かに会うのは緊張する。それは否があれば嫌だし、否が無いのなら嬉しい。そんな複雑な気持ちで今から人に会いに行くのだ。
「アリス…」
アリスの家に着いた。
コンコン…
「………」
コンコン
「ア、アリス?」
い、居ないかしら…ん?
「夕方になるのに洗濯物が…買い物?」
洗濯物を取り込む。
何だか薬品の臭いがきついわね…。あぁ魔法研究してたって言ってたしそれかも…。
「今度いい匂いの香水でも買ってあげようかしら」
洗濯物を取り込み終わってベンチに座ろうと思ったら
「白い…アリス?」
白いワンピースにカーディガンという服装は人形のように整った顔立ちをするアリスには似合い過ぎるくらい似合っているのだ。
ほぼ直視は出来ないくらい可愛いし、綺麗。
「…髪少し枝毛が出てるわね。忙しいから手入れが出来ないのかしら」
アリスの近くに座る。
こうして見るとアリスってホント年頃の女の子にしか見えないわね。私はお母さんかしら。
勝手な想像で一人で嬉しくなる。
「ん…紫…」
「アリス?」
「…ごめん……」
「え?」
「スゥ…スゥ……」
「寝言?」
けど何でアリスが私に謝るのかしら?
理由なんて見つかる訳がない。一人で考えていても見つかる訳がないのだ。そう考えながらアリスに膝枕をしてやる。
「これは早速アリスに頼らなくちゃいけなくなるわね」
クスクス笑いながらアリスの頭を撫でた。
「………ん…」
「あっ起きた?」
―――アリス―――
「そうだ紫」
「何?」
「えぇっと…」
なんて切り出せばいいんだろう…
「あぁ私に謝る必要は無くなったわよ」
「え?」
「もうあなたは謝ってくれたから」
「え? え? 何時?」
「さっきよ。何で謝ったかは不明だけどね」
「……昨日せっかく色々持て成してくれたのに私いそいそって早く帰っちゃったから…。それで紫怒ったかなって」
「怒らないわよ。そんな理由で」
紫はクスクス笑いながら返事をした。
「私もねアリスに謝らなきゃいけないことがあるの」
「何?」
「藍に私なんかと出来てるって勘違いされて気持ち悪かったでしょ? ごめんなさい」
「そんなことない」
「え?」
紫は驚いたような顔をしているが何だか嬉しかった。
お互いがお互いを傷つけてしまったのではと思っていたからだ。
「むしろ嬉しい方の部類に入ったかな?」
満面の笑み。紫は何も言わずに微笑みながらまた進み始めた。
「着いたわ」
「ここって幻想郷の結界じゃない」
「まぁ見てて」
紫はそう言うと結界の前に立ち修復を始めた。
何のために私を呼んだんだろ…
「アリスこっち」
「え? ちょっと」
手を引っ張られながら空を飛ぶ。
「何?」
「結界の方を見て」
「結界がどう…し……」
言葉が出てこなかった。さっきまでは何の変哲もないただの結界だったのに、今は蒼く光り結界が息づいているかのような神聖な光り。
「最近結界にガタが来てね、そろそろ張り替え時期だったのよ」
「……」
「張り替えた当初はこんな綺麗な光を出しながら前の結界を壊していくの」
「古いのは壊れるの?」
「壊すのよ」
「……」
悲しい気分だな。新しい物を作るには古いものは壊れちゃうのか。
「けどね」
紫が結界を見ながら語りかけてくる。優しく穏やかな声で…
「この古い結界は壊れても新しい結界の中に陣が組み込まれるの。新しいとは言っても出来立ての結界は全てが強い訳じゃない。古い結界の力を借りて子供が大人になるようにこの結界も大人になっていくのよ」
「子供が大人に…」
「光っているのは破壊の光だけでなく、創造の光もあるの」
「だからこんなにも綺麗なんだ…」
二人でこの光を見続けていた。
「ねぇアリス?」
「ん~?」
「私の悩み聞いてくれる?」
「いいよ」
「変かもしれないけど…昨日アリスに会ってアリスが帰った後からずっと私アリスのことばかり考えちゃうの。これって何かの病気?」
「………」
「?」
「…えぇぇ!!」
「きゃ!」
何なに?これって告白?!いやいや紫の顔を見限り本当に分かってない顔みたい…。そうか紫は今まで自分一人って思ってたから周りに興味がなかったんだ。だから気にかける人も居なければ恋をしたこともない。だから今の言葉に何の意味があるのか分かってないんだ。
「あ、あのさ紫」
「なに?」
「間違ってたら恥ずかしいけど私のこと好き?」
「好き嫌いで言えばかなり好きな方よ」
「それは誰かと比べたときに私はどのくらいの順位になる?」
「一番よ」
あぁ!恥ずかしい!けど…紫をみんな恋愛対象に出来なっかったんだろうな。孤高で最強で何一つ不自由ない紫が高嶺に思えたんだろうな。
「紫」
「何?」
「世間一般ではそれは恋よ」
「……」
「でさっきの紫のセリフは告白に近いものだったけど…」
紫の顔が赤面になりどうすればいいか分からないような顔をしている。
「紫って誰かを好きになったことないの?」
「な、無いわよ」
紫可愛いなぁ…
「ア、アリスは誰かを好きになったことは無いの?」
「あるわよ」
「えっ…だ、誰?」
「紫」
「…私?!」
「そうよ」
「何で?」
「だって紫って何だか危なっかしいんだもん」
「………」
「今まで一人で居た紫にもっと色々な世界を見せてあげたい」
「…けど私は」
「私は紫がいいの。ううん。紫じゃなきゃ嫌なの」
「…………」
「紫が言ってくれなきゃ私はきっと紫に告白なんてしてなかった。出来なかった。私はいつも自信がなくって頭より体で示しちゃう。だから余計に紫が羨ましかった。紫に憧れた。けど紫も私みたいに少しは悩むんだって分かって嬉しかった。紫が一人って分かった時に何とかしてあげたいって思った。気付いたら紫が好きになってた」
「私は…アリスが居なかったらきっとまだ一人だったわ。けどアリスが居たからまた今日も結界の様子見に来ようって思えた。始まってもいなかった私に火をつけてくれた。初めて人の事で真剣に悩んだ。アリスのことだから真剣になれた。アリスの事考えて嫌われてたらって考えたら胸が痛くなった」
お互いにお互いを見つめる。
「だからアリス」
「うん」
「よかったら私と付き合ってくれない?」
「もちろん」
「こんな時はキス?」
「ムードがちょっと違うかな?」
「じゃあどんな時?」
「こうやるの」
紫の頬にキスをする。
「アハハ…今はこれが精一杯」
「アリス顔真っ赤」
「う、うるさいわね」
「可愛い」
しばらくの間二人で冗談を言ったり、抱きついたり、スキンシップをとった
「もう結界がうまく作動するわね」
「終わりか…」
「終わりって先がみえるけど…始まることに始まりはないのよ」
「人間の終わりは見えないわよ?」
「死という終わりはいつもあるの。けど生は与えてもらって初めて始まるの。その始まりには始まりなんてないわ」
「恋に始まりはないと?」
「そゆこと」
光が段々消えていく中
「そう言えば何であんまり目を合わせてくれないの?」
「え?いや…」
「ジー…」
「……」
すると紫は急に私の腰に腕を絡めてきた。
「アリスがいつもと違う服装だから恥ずかしくて目が合わせられないの!アリスが可愛い過ぎるのがいけないのよ」
「ふぇ…」
さっきとは裏腹に目を合わせてそんなセリフを言ってくる。
やばいやばい!
顔が赤くなってるのが自分でも分かる。恥ずかしい…けど紫から目が離せられない…
次第に縮まる二人の距離
消えゆく光の中二人は暑い口付けを交わした。
でも、少し展開が早い部分もあったかなと思います
紫アリ……アリですね。
朝からいい気分になりました。ありがとうございます。
続編期待(・ω・)b