Coolier - 新生・東方創想話

大怪獣異変

2011/09/05 20:44:56
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*このSSは臭うシーンがあります。お食事中の方御注意を。例のごとく設定に妄想が入ってます。



 ・-・・  --・  -・-・-  -・・-  ----  ・・  -・・・  ・-・-・  ・-・-- 
 ・・  ---・-  -- --・--  ・・-・・  ----  ・・  --・・  ・-・-・  -・  ・・  -・--  -・・  ・・・ 
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--・--  --・--  -・・-・ ・・- 
-・-・・ -- ・・- -・・・  霊夢 -・-・- ・-・-・ ・・-・・ 
ひとざ ・・-・・ -・-・ --・-- ---・ --・・- ・・ -・-・ ・- ・・・- 
やくそくしていたでしょうが
ら・-・-・しゃまおなかすいた
--・-- --・--  ・・-・ -・--- ・-・-・ ゆでたまご見てきてくれ」
「あと一〇分寝かせ、うぐっ」
「いい加減にしろ。……加齢臭振り撒いてないでさっさと仕度しろババァ」


「よし、繋がったわ」
地面を蹴って跳躍する。飛来する光弾の群れに隙間を見つけて掻い潜る。ピストルの形にした手から弾丸型の妖力弾を発射する。
「藍さま? 藍さまのお箸どれでしたっけ?」
前方の妖精が一回休みになるのも確認せず円状に弾幕を張る。左右からやって来た増援がばたばた倒れる。傍受した八雲家内の音声を聞き取りながらマヨヒガ内の塀や廃屋の位置をスキャンし直す。今日の訪問はちょっとしたサプライズを演出したい。余り高く飛ぶと監視術式に引っ掛かるから飛行せず地を駆ける。つきあたりを壁を蹴って右に曲がる。飛び出した先に無数の紅い糸。アリス謹製のトリップワイヤーとその中を動き回る物体多数。
回避、回避、回避、回避、回避、回避……。
道行く先々でじゃれてくる妖精やら野良猫を次々に撃ち落とす。無駄に頑強な門が見えてきた。表面にはべったりと弾除けの札が貼られている。私の周りは無音だ。ブレザーのポケットから湿布状の装備を取り出して門に張り付ける。そのまま門を蹴り宙返りする。地上をマインドベンディングで爆撃、湿布に波長を飛ばす。のびてる妖精を踏みつけて吹き飛んだばかりの入口に突入する。
「こら、紫様。食べる前には」
「……わかったわよ」
わざわざ八雲家の屋根に登りアンカーを打ち込む。巻き取り装置とワイヤーの具合を手早く確かめ、後方に大きく跳んで勢いをつける。
「せーの」
ポケットから瓦斯織物の玉を取り出し安全ピンを銜えて引き抜く。右手をフルスイングして投げ込む。
「いただきま……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
障子を蹴破った先は緑色であった。ワイヤーを切り離し、咳き込む九尾に接近する。勿論、朝食は踏まないように気をつけた。振り上げた注射器は首筋に深々と刺さった。背後に手を回し腰のホルスターからやや長銃身の拳銃を抜く。スキマ妖怪に突き付ける。
「おはようございます。三ヵ月分の薬代徴収に参りました」
段々と緑色が薄くなってきた。左手を手櫛にして肩口辺りで乱れた長髪を梳かす。
「あら、そんな玩具が私に通用すると?」
ネグリジェ姿で寝癖で髪がぼさぼさのスキマ妖怪は怪しい笑みを湛えている。
「これはハンドレールガンです。そして限界までチューンナップして動作速度を上げています。この距離ならスキマより速いですよ?」
「ほう?」
猫に戻った燈が部屋の隅でぶるぶる震えている。彼女には悪いことをした。今度何か菓子を持って詫びを入れに来よう。
「今日は霊夢さんとデートでしたよね?」
頑張ってスキマ妖怪にも負けないような怪しい笑みを浮かべる。
「ダブルカアラム・マガジンの中身は全て毒薬弾、波長によって任意の距離で起爆できます。治るのに三日は掛る傷、作れますよ?」
グリップから露出するトリガー端子に指を掛ける。波長を指先で止めておく。
「紫さん、もう17歳なんですよ?」
スキマ妖怪は相も変わらず怪しげな笑みを浮かべている。
「半分大人な年齢なんですよ? ほら、そこで小さなお子さんも見ています」
刺々しいマズルガードをこめかみにゴリゴリ押しつける。
「大人として責任のある行動を」
他に伏兵が居ないか念のため周囲をスキャンし直す。
「…………一つ聞くわ」
「何かしら?」
凍り付いた湖の水底を想わせる酷薄な笑みを作りながら彼女は問いかけた。

「私からどんな香りがする?」

肩すかしをくらい思わず脱力してしまう。何を今更、人に聞くまでもなく自明のことじゃない。
「そりゃ決まってますよ」






**









道端で雀が呑気に地面とキスしている。和服と洋服がごちゃごちゃの子どもの群れがが笑いながら駆けていく。後に残ったのは雑木林の葉擦れの音と暖かくも冷たくもない微風だけだった。団子を一口齧る。口内に濃厚な蓬の香りと漉し餡の甘味が広がる。今日はちょっぴり贅沢して何時もより一〇銭程高い茶店でのんびり小休憩している。三ヵ月も滞納していた客が請求額の二倍のチップを何故か弾んでくれたからである。本当はもっと豪遊出来るのだけど何だか怖いお金なので自重して様子を見る事にしたのだ。緑茶を口に含む。香りを楽しみながら少しづつ喉に流し込む。データベースから滞納者リストをダウンロードして未回収者をリストアップする。貧しくて払えないなどのやむおえない事情を抱えている者を除外、該当一件。網膜に投影された顔写真は見るのも嫌だった。
「霧雨魔理沙、普通の魔法使い、四ヵ月分滞納」
以前上海人形の視界にバックドアからタダ乗りさせてもらったことがある。枕元に八卦炉を忍ばせたのは確認済み。ずぼらなようで結構用心深いのだ。
「ウサギちゃん発見!! 」
先程のように強襲しても返り討ちに遭うのは目に見えている。さて、どうしたものか……永遠亭から狙撃しようかしら?
「なめなめしますよー……ありゃ? そちらが本物でしたか。耳朶はむはむできませんね」
団子を頬張り幸せな気分になっておく。このまま帰りたいな。
「うぉ、なんですかその超かっちょいいやつ!! よく見せてください」
セーフティは波長干渉式だ。因幡以外には発砲できない。気にせず触らせておいて残りの団子を頬張る。
「え、何ですかこれ……デザートイーグル? スライドしないのですか? ビームライフルか何かですか?」
現人神が両手で構えて端子に指を掛ける。銃口の先で白黒の魔法使いが呑気に飛行していた。
「絶対に貴女には発射出来ませんがそういうものを人に向けない方がいいですよ。……ほら、言わんこっちゃない」
気付いた魔理沙が八卦炉を此方に向ける。腰を上げてマスパの射線上から退避する。

魔理沙の手から八卦炉が弾け飛んだ。

次いで雷鳴が轟いた。

跳弾が農地へ。隣接する肥溜めに水柱を作り上げる。
「…………」
バランスを崩した白黒が墜落する。

もう一度水柱が出来た。

「その辺りを漂う波長がたまたま意味を成したのでしょう。出鱈目な言葉を並べたててシェイクスピアになるようなものです」
雀たちが我先にと飛び立って行く。
「…………」
魔理沙さんの様子を確認しに墜落現場へ赴いた。

**


「ひでーめにあったぜぇ……」
「げぇ……」
余りの匂いに鼻を摘まむしかなかった。蠅が集っていて彼女が歩くたびにどろどろした茶色い液体がぼたぼた滴る。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
尻餅を突いて汁が飛ぶ。そんな彼女から妖力でスキップして二メートル程遠ざかる。
「待て待て待て待て待て待て待て待て、早苗待つんだぜ。この前の宴会は私が悪かった。本当に悪かった。酔った勢いとは言え霊夢の手作り鮭おにぎりお前の分も食べたのは揺るぎようのない事実で確かに私が悪かった。全部私に非がある。ゆ、許してくれ。土下座でもお賽銭でもなんでもしてまたお前の分作ってもらうから……そそそそそそそそそそれだけは洒落にならないぜ」
無機質な銃口は彼女の頭をしっかりと捉えている。
「見えなかった。死んじまう。頼むからそれをこっちに向けないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」
魔理沙さんが肥え貯めの中で泣き喚きながら土下座していた。

早苗はきょとんとしている。

両手で構えているそれがなければ何時も通りである。

表情から今何を思い、次に何をしようとしているのか全く読み取れない。

瞳に狂気の色はない。

殺気も放っていない。

先程嬉しそうに私をいじり回していた人懐っこい少女がそのままここにいるのだ。

魔理沙がとても臭う液体から顔を上げて此方を見る。
「鈴仙、悪かった。許してくれ。滞納した分は今ここで全部払う。そこの袋の中身も全部あげるぜ」
情けない声色でそう言って、懐から汚物まみれの蝦蟇口を道端に投げ捨てて濃厚な液体を垂らしながら離陸した。逃げ去るその姿に何時もの様なファンシーさは無かった。
「ごめんなさいだぜぇぇぇぇぇぇ…………」
綺麗な星屑を散りばめていても。
「…………」
「……散らかしたら片づけないといけませんね。はい、これ返します」
早苗から銃を受取りホルスターに戻した。現人神は袖から取り出した御幣を振り回しながら呪文を唱えた。
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」
畑や道端に付着していた茶色い液体が肥溜めに吸い込まれて行く。地平線からは戻ってこない。どうやら魔理沙さんはそのままのようだ。
「お掃除完了です」
道端に弾丸が一つ転がる。清潔になった蝦蟇口共々回収する。
「ひい、ふう、みい……」
中身を確かめると少し多かった。畑の中に放置された袋には誰のものなのか判らないマジックアイテムが沢山詰まっていた。
「どうした? 何事だ? 」
騒ぎを聞き付けた上白沢彗音が飛んできた。買い物帰りらしい。袋から葱やら一升瓶が覗いている。事の顛末を説明したら彼女は噴き出した。
「そうか…………明日から暫くあだ名は”うんこ”だな」
うわぁぁ……ひでぇ…………村社会。
「そうなると余計に悪さしそうですね」
「いや、そうでもないんじゃないか?」
ありゃ、意外だ。てっきり図書館の被害額が一桁増えるものと思っていた。
「彼女も乙女だ。繊細で傷つきやすい。暫くは家に閉じ籠って出てこないんじゃないか?」
そうなっても誰も困らないし寧ろ喜ぶ者の方が多そうだ。……少し彼女が可哀想になってきた。
「うーん、ちょっとやり過ぎてしまったのです……」
現人神がしょんぼりする。そんな彼女の背を彗音はぽんぽんと叩く。
「あんまり気にするな。喧嘩とはそういうものだ」
「はぁ……早苗はまだまだ未熟なのです」
彗音が買い物袋から一升瓶を取り出し現人神に差し出す。
「大丈夫、後は仲直りするだけだ。酒とツマミでも持って彼女の家に遊びに行ったらどうだ?」
「え、でもこれ彗音さんが買った……」
「いいから持ってけ。生憎ツマミは付いていないがな」
「……ありがとうございます」
彼女は礼を言って受取ろうとした。が、飛来した封魔針に阻まれる。
「ねぇ、魔理沙凄く臭かったんだけど……何があったのかしら?」
紅白が漂ってきた。彼女の周りで陰陽玉がくるくる回っている。陽炎が出来るような季節ではないのですが。……取り立ても終わったので帰っていいですか?
「んふふふふふ、やはり兎の抱き心地は最高なのです。マスタースパークしちゃいそうです」
早苗が抱きついてきた。現人神も状況を理解する事を止めたらしい。……詰んだなこれ。
「ちょうどいい。霊夢、勘の良い貴女に頼みたい事がある」
凄いです、ハクタク。こんな時に頼みごとなんかする貴女に痺れます。
「何かしら? 魔理沙を泣かせたことと関係あるのかしら?」
目は据わっているが営業スマイルだ。流石は異変解決のプロ。
「そうだ。魔理沙はどうやら八卦炉を回収しないで帰って行ったようだ。個人携行火器としては最強に部類する。何かと危険なんだ」
「……ふーん、ちょっと待ってね」
霊夢は目をつむり頭のリボンをみこみこと動かした。現人神が鼻血を垂らしたので止血してやる。
「……………………わかった!!」

瞳をカッと見開いて妖怪の山の方を指差した。

地響きを立てて大地が割れた。

「……早苗、悪ふざけはやめなさい」

陰陽玉を圧縮収納した霊夢が着地して早苗を問い詰める。

「私は何もしてませんよ。……何か出てきます」

表面に投影されていた風景が少しづつ薄灰色の低視認色へ置き換わる。

オプティカルカモフラージュが解除されたそれは機械仕掛けの巨大ミズカマキリだった。

脚を伸ばしていてちょっとした山よりも高い。刺々しい造形の口が開閉し光が集まる。

瞬間、マスタースパークが地を薙ぎ払った。遠くの山々から煙が上がる。

「あれ……八卦炉なんですか。霊夢さん? 」
「知らないわよ。私の勘だとあっちの方にあるってだけで何処なのかは分らないわ」
内燃機関の喧しい音が近づいてきた。全身に札の張られた戦闘車両が無限軌道で畑を踏み荒らしながら走り去る。
「なんですかあれ」
「自警団の自動機甲部隊、製作元は川城重工だ。苦情はそこに頼む」
拡声器で増音された河童の陽気な声が聞こえてきた。
「やぁ、盟友たち」
砲声があちらこちらで上がる。標的の表面で何発か煙を上げるがいまいち効果が無いようだ。
「今日の異変は我が親友に捧げる」
同じく札を張られたCOIN機が編隊を組んで青空を飛翔する。対地ロケット弾、対艦ミサイル、赤外線誘導爆弾が昆虫に殺到した。
鋼鉄の雨が降り注ぎ巨躯を爆炎が包み込む。
「全力で手加減するから全力で解決してくれ」
が、巨体は長くしなやかな脚で黒煙の中から歩み出てきた。
「こいつは人里までのんびり歩いて行く。ああ、攻撃しなければ余計な所に被害は行かないから大丈夫だ。問題ない」
双眸から細い光線が走る。機甲部隊ごと大地を燃やした。背部のVLS群から活火山が噴火したような煙が出る。対空ミサイルの群れが炸裂して散弾の雲が出来た。
「以上、諸君等の武運を祈る……通信終了」
航空部隊は火を噴きながら墜落した。
「ひゃー、怪獣映画そのまんまの光景ですね」
現人神が豪く興奮しながら口を開いた。
「ふむ……河童には安物を掴まされたようだ。今度抗議するとしよう」
河童の発明品か……なら簡単に情報が手に入りそうね。波長を操り長距離通信を開始する。
天狗の携帯電話に仕掛けておいたバックドアから妖怪の山のインターネットに侵入する。そこからとある小売業者のホームページのセキュリティーホールを突く。施設内の在庫管理票を見つけそこから自動販売機のネットワークへ侵入。管理システムを辿って行き自動販売機製造元の顧客情報を引き出す。情報を元に河童の研究所にある自動販売機を経由して施設の総合管理システムにアクセス。人間が情報機器使わないからといってこの保安体制はかなり問題があるような……まあいい、監視カメラの映像を元に探し物をする。
「見つけた」
湯沸かしポットのような間抜けなデザインの機械を見つける。以前、文々。新聞で紹介されていた試作型汎用お手伝いロボットだ。起動させ地下一二階のにとり博士のプライベートラボへ移動。ワークスペースにロボットを直接接続。錠前破りで強制ログインする。個人用データバンクを探索開始、検索ワードを巨大戦艦、巨大ロボットに限定。……該当六件、何れも非想天則や御柱ロケット。甲虫型ロボットで再検索……該当四件。研究資金が多い順に再配列。先頭に来たファイルを開く。現在、山々を踏み越えながら人里を目指しているあれの三面図が呼び出される。
「ふふふふ」
「さっきからにやにやしてどうしたのよ? ……気持ち悪い」
気にせず手早く設計図、仕様書、その他関連データをダウンロード。中継したコンピューターのうち幾つかをバッファオバーフローさせて焼き切る。最後に携帯電話との接続が切れてハッキングは終了した。
「……さて」
サブメモリーに一時保存したファイルを開く。成程……性能だけ見れば幻想郷全土どころか外界も自由に攻撃できる能力を擁す。しかし、制御AIの仕様書に目を通して見ると先程述べられたように攻撃は限定した範囲及び敵対オブジェクトのみに限られているようだ。今回の異変向けの一発兵器らしい……勿体無い。
「ちょっと、何一人で納得してるのよ? 私たちにも説明しなさい」
幻影を作る要領で網膜に投影されているものと同じ窓を空間上に映す。
「……あんた、本当はアンドロイドなんじゃない?」
「いいえ、ただの因幡です」
生身ですよ。だから兎鍋やめてください。
「専門用語だらけで要点が判りません」
「これは何語で描かれているのだ? 」
皆理解できていないようなので口頭で説明する。
「いいですか? この兵器は強力な妖力シールドで物理的な攻撃をシャットアウトすると同時に自重を支えています」
「へー、結界てそういう使い方もできるのね。ゴリアテの参考にするわ」
人当たりの良さそうな笑顔でアリスは現人神の背後に立っていた。気にせず話を進める。
「外部から攻撃しても効果は無いです。良くて足止め程度です。そもそも遠距離戦は論外です。火力は無論、手数でも相手になりません」
先程の攻撃の様子を見せる。幻想郷上空を巡回し続けているステルス偵察機が撮ったものだ。
「八卦炉から無尽蔵に供給される星の魔法で稼働しているようです。八卦炉さえ回収してしまえばあの兵器は自重で崩壊するはずです」
サブシステムは無し。初めから兵器として真面目に設計する気が無かったのであろうことが窺える。本当に勿体無いな。
「そこで、内部からの破壊を提案します。侵入経路は……側面に設けられた艦載機用のカタパルトが良いでしょう。低空から接近して垂直に侵入します」
艦載機が飛び出す瞬間を狙えばいいし、そうでなければ非常開閉装置で抉じ開けるまでだ。
「……ちょっといいですか? 」
現人神が突っ込みを入れた。
「図面があるのなら霊夢さんにワープしてもらったらどうでしょうか? 」
しかし、脇巫女は即座に拒否した。
「無理だわ。動かない金庫の中だったらまだしもあれは高速で移動する複雑な構築物なのよ? 壁にめり込むなんて嫌よ」
「霊夢さんの壁尻……それはそれで見てみたいですね」
現人神が脇巫女に関節を決められて地面をタップしている。
「じゃあ、爆弾をワープさせて内部から爆破する……という作戦はどうだ?」
彗音が代案を提案する。しかし、図面を睨んだ霊夢はやはり首を横に振った。
「これ、結構堅牢な構造じゃない。何発運ばせる気? お腹を空かせた可弱い女の子に死ねというのかしら? 」
「……いや、ご飯なら後で御馳走する」
「それに瞬殺したら異変の意味がないじゃない? 何よりも解決後に酒の肴にならないことが問題よ? …………ご飯くれるの? 」
脇巫女は腰に手を当ててぷんすか怒るのをやめて捨てられた子犬の様な瞳で彗音を見つめる。
「止しなさい。貴女に倒れられると色々困るわ」
突如現れたスキマ妖怪が袋詰めにした鯛焼きを霊夢に渡す。
「むぐ!! ……これ、尻尾にも餡子が入ってるわ」
脇巫女は幸せそうに甘味を賞味する。
「続けて頂戴。好きにするといいわ」
…………彼女の言うとおり折角の異変だ。楽しむことにしよう。
「まぁ、そういうわけです。お二方には次回までにもっとお賽銭を入れに行くことをお勧めします。では、説明を続けますね? 」
図面が立体モデルに切り替わり立案したての作戦に沿ってマーカーが動く。
「船体下部は地上攻撃兵器で埋め尽くされています。そしてシールドは爆弾を投下する時に穴が開く筈です。此処から上がります。CIWSをはじめとした対空、対地兵器による接近戦防衛網が構築されていますが、十分に接近すれば全部が飛んでくる訳ではないので問題ないでしょう」
画面が切り替わって先程のよりもぐちゃぐちゃでよくわからない内部構造モデルが呼び出される。
「内部は付喪神化を防ぐために整備性を度外視した迷路化が為されています。随時ナビゲートするので特に覚えなくていいです。動力炉は……ここです」
球状の密室であった。
「逃げるときはどうするのよ?」
「恋色マスタースパークです。図書館の壁をぶち破れる威力なので十分です」
ミサイルが飛んできて水車小屋が燃え上がった。
「そういう訳です。くれぐれも十分に接近するまで高度は上げないでください」
スタンドオフディスペンサーが頭上を通過する。散布された小型爆弾が降りかかる。
「 神技「八方龍殺陣」 」
空が茜色に染まった。
「彗音、貴女は村人たちを避難させて」
「承知した。あれはプロに任せるとしよう」
紅白がスペルを解除して浮き上がる。
「ほら、ぼさっとしてないで退治しに行くわよ? 」
幻想郷の秩序は飛び去った。現人神共々慌てて後に続く。ちらほらと飛んでくる砲弾を軽くずれて回避しながら徐々に距離を詰めて行く。またもや巨体の背部から煙が上がる。今度は上空で炸裂せず方向を変え此方へ飛んでくる。三人分の幻影を量産し欺瞞……駄目だ、数が多すぎる。
「フレアを撒けば良いのですね?」
現人神が簡単な印を結ぶ。人形に切り抜いた和紙が乱舞する。
「形代です」
弾幕はトンチンカンな方角へ飛んで行き爆散した。
「どでかいわね」
散開する。ビルほどの太さの脚が地面を抉った。此処だけ夜を切り取ってきたような有様だ。再び集合、円陣を組んで弾幕を張る。包囲、殲滅しようと寄ってきた妖精が堕ちて行く。直上から騒々しい駆動音。大量の殺意が火を噴く。赤熱する雨が降り注ぎ破砕した地上が空を飛ぶ。連なる爆弾庫が口を開ける。同時に巨体を隔てていた障壁に穴が開いた。鋼鉄の森へ向けて前進する。鉄塊の脇を擦り抜け、船体側面に回り込む。山ほどの敵意が此方を認識する。
「 迫符「脅迫幻覚」 」
「 夢符「封魔陣」 」 
「 奇跡「ミラクルフルーツ」 」
煌めく暇すら与えない。武器で出来た外壁を削り取りながら加速する。一度眼前を横断するカタパルトを通り過ぎる。太陽が眩しい。VLSの噴煙、世界は灰色だ。
「換気します」
突風が吹き荒れ視界が鮮明になる。頭上より鉄の壁がUターンする。
「 宝符「陰陽宝玉」 」
紅白が管制塔をへし折る。ミサイルは散弾せず甲板に甚大な被害をもたらした。
船体の側面から電磁カタパルトで複数の機影が射出される。打ち出された後、収納容積を工夫した箱型から人型に変形する。以前のあれが張りぼてだとすると今度のは骨組に武器と装甲がくっ付いたようなものだ。
「量産型非想天則です。気をつけて」
「……名前だけで全然別物ですね」
腕部に懸架されているパイルバンカーを突きだす。現人神は足蹴にして逸らした。御幣を一閃。未練がましくアフターバーナを燃焼していたが爆ぜた。
「頭部が昨今流行りの二重顎になってたりと最早原形を留めていませんね」
遠方から複数機が一二〇ミリ御柱キャノンを掃射する。
「御柱は機関銃ではないのです。必殺技で然るべきです」
ジャイロ効果の付いた五芒星が弾幕ごと消し飛ばした。背後に回り込んだ機体がスプレッド御柱キャノンをコッキングする。
「 乾神招来 御柱 」
全身をぼこぼこ凹まされ墜落した。鬨の声を上げる早苗さん。要はファースト信者らしい。
「まだまだ語り足りないのです!! 霊夢さん達は先に進んでください!!」
増援が打ち出される。変形した脅威を人形達が追撃する。ここは現人神の自由にさせておいて格納庫へ進路を変更した。防弾シャッターが引き上がる。既に変形を済ませた天則が銃身を回転させる。
「 魔符「アーティフルサクリファイス」 」
取り付いた人形が爆発し突破口を開いた。敵は銃をパージして応戦しようとする。
突入した霊夢が張り倒す。踵落としで粉砕した。一番頑強な筈の胸部エンジンブロックを。何時ぞやの終わらない夜そのままのクオリィティーだ。
「熱源多数。霊夢さん、来ます!! 」
ハンガー内に立ち上がる人を模した者達。高温発光する飛沫、散開し左右同時に殲滅する。
指先に集中した妖力が防火シャッターを突き破る。合流して先へ進んだ。ミリタリーチックな外観とは裏腹に内部は怪しい装飾で埋め尽くされていた。
「鈴仙、ナビゲートお願い」
唇に脚が生えていて踊りまわっている。瞳が泳ぎ、キュウリが燃えている。
「次を左です」
壁や床は緑色のチョコレートやらクッキーやらで出来ていてそれをホイップクリームやミックスベリーが飾り立てている。時たま点在する有刺鉄線や鋏が自傷的な空気を醸し出す。さながら薬中のイメージビデオである。
「二つ先の交差点を上……?」
おかしい、通路の特徴と設計図を照らし合わせてみる。

「 復元「シャドウ・コピー」 」

此処は後四三秒飛行しないと到着しない筈だ。……迷路自体が縮んでいる?

「危ない!! 」

突然霊夢に抱えられ加速する。

<< トランス ”恋符「マスタースパーク」”>>

刹那、水平に薙ぎ払われた物騒な光線が通路を破壊した。
「……結構近かった筈なんだけどねぇ」
スキマを伝って小豆色の霧雨魔理沙が飛んできた。霧散して黒い靄に……違う少女の形を取った。青藤色の浴衣を着たダイダラボッチの少女であった。種族の割には小柄である。空色の髪はお尻の付け根まで伸びている。羽や角を彷彿させるツインテールが特徴的だ。横並びに飛行する。
「わらわは左城宮 則紗……当艦の臨時艦長なり」
再び少女は霧雨魔理沙と成る。今度は紫色だ。八卦炉が再燃する。散開して急上昇、急降下を繰り返してやり過ごす。曲がりくねった迷路が豪快に削り取られた。
「ちょっと、八卦炉取ったらこの怪物止まるんじゃなかったの?」
「そうさ、八卦炉はそのままだぜ」
そういって彼女は掌で黒い塊を弄ぶ。八卦炉が霧散する。黒い靄の様なものが少女の周りを漂ってる。
「物事には二面性があるの。私は影を自由に操れるの」
彼女は銀髪のアリス。靄は人形達を模っている。
<< トランス ”魔符「アーティフルサクリファイス」」”>>
狭所を爆炎が制圧した。霊夢が大きめの結界を張らなければ駄目だった。
「これは借り物よ」
金髪の因幡がスペル宣言する。
<< トランス  ”散符「朧月花栞」”>>
通路内を弾幕と幻影が滅茶苦茶に跳ねまわる。波長を飛ばして幻影を相殺、残った弾幕を回避する。
「何事かを為すと何事かが残るのよ」
弾幕を張って反撃する。人の形が弾け飛ぶ。幻影か……本物が扇状に弾を張ってきた。霊夢が陰陽玉を展開する。
「それは貴女方の背後に何時も在る。痕跡は連綿と続いているの。私はそれを使ってやってるのよ」
球状のただっ広い部屋に出た。中央に聳え立つ塔が眩く輝いている。縦横に飛びまわりながら撃ち合う。霊夢が口を開く。
「ふーん、モノマネ芸人てとこかしら? 」
偽の因幡は針山にされた。
「何でもいいから退治されなさい。……鈴仙、援護よろしく」
霧散して空色の少女に戻る。ダイダラボッチは語りかける。
「博麗霊夢。博麗の巫女として、弾幕少女として、お主等が守ろうとしとるのは何なんじゃ?」
ホーミングアミュレットが雪崩れ込み少女は加速した。
「 狂視「狂視調律」 」
スペルを展開して牽制する。だが、少女は意に介さず弾幕の間を飛びまわる。
「外の世界から隔離され数百年。わらわもお主も生まれてこの方、戦争なんてものは経験せずに生きてきた」
靄が巨人の拳を模倣する。
「……平和、お前達が守るべき平和」
迫りくる脅威を光線で消し飛ばす。
「だが幻想郷の平和とは一体何かしらねぇ? 」
若緑色の吸血鬼が弾幕を展開する。
<< トランス  ”天罰「スターオブダビデ」”>>
紅い星影が飛び交う。アミュレットは全滅した。
「科学文明への敗北。八雲の移民政策。ついこの間まで続いていた村人に対する捕食活動」
弾の雨は降りやまない。
「そして今も外界で繰り返されている殺人、自殺、失踪。そういった無数の歪によって合成され支えられてきた」
霊夢のスペル宣言。
「 夢符「封魔陣」 」
結界が豪雨を押し返す。
「血塗れの繁栄。それが私達の平和の中身。闘争への恐怖に基づくなりふり構わぬ平和」
吸血鬼は攻撃を結界に集中させた。さしずめ「ガラスが砕けるような」といった表現が適当か。敵は健在だ。
「正当な代価を余所の民の血で支払い、その事から目を逸らし続ける不正義の平和」
黒い吸血鬼は不敵な笑みを浮かべながら振りかぶる。
<< トランス  ”神槍「スピア・ザ・グングニル」”>>
幻影の因幡を突き抜けて敵意は巫女に直進する。紅白の少女はきっぱりと言い切った。
「そんなきな臭い平和でも」
真っ赤な肉の花が咲いた。しかし、幻想郷の秩序は何事もなかったかのように空を飛び続ける。
「それを守るのが私の役目よ。不正義の平和だろうと、正義の戦争より余程ましよ」
霊夢の側らに針が一本だけ浮き上がる。それに霊力が集まっていく。妖怪は尚も語る。
「貴女が正義の戦争を嫌うのはよく分かる。かつてそれを口にした連中にろくな奴はいなかった」
分身を四人作り出し吸血鬼を取り押さえる。
「その口車に乗って酷い目にあった人、妖のリストで歴史は一杯だから」
敵意には敵意でもって返した。特大の封魔針が吸血鬼を串刺しにする。
「だがお前は知っている筈だ。正義の戦争と不正義の平和の差はそう明瞭なものじゃない」
星弾が拡散して幻影を吹き飛ばす。大推力でもって敵は空中戦に復帰した。
「平和という言葉が嘘吐き達の正義になってから、私達は私達の平和を信じることができずにいるんだ」
赤い魔法使いが強力な引力を発生させる。
<< トランス ”黒魔「イベントホライズン」”>>
破壊の嵐に引き寄せられる。空を飛ぶ少女に引き上げられた。光束が通過する。危ない所だった。
「戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む」
妖怪バスターが蜂の巣にする。次いでマインドベンディングが魔法使いに直撃する。
「単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる」
残留する狂気を裂いて漆黒の拳が掠める。表面に張り付けられた札が炸裂し巨人は崩壊した。
「そう思ったことはありませんか? 」
モノクロの半人半霊が疾駆する。
<< トランス ”幽鬼剣「妖童餓鬼の断食」”>>
技という技が殺しにかかる。幻影の首が飛んだ。
「その成果だけはしっかりと受け取っておきながら大結界の向こうに戦争を押し込め、ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる」
紅白が一色へ。
「いや、忘れた振りをし続ける」
しかし少女は毅然と空を飛び続ける。高速回転する陰陽玉が剣豪を削り取る。靄が人の形に戻ろうと集まる。
「そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下されるのです」
蒼い髪を靡かせながら現人神は金色に輝いた。
<< トランス ”秘術「グレイソーマタージ」”>>
咲き乱れた奇跡が滅ぼしに襲来する。陰陽玉がばらばらに砕け散った。巫女は口を挟んだ。
「罰? 誰が下すのよ。神は何もしないわ」
正面から退けてやる。スペル宣言。
「 霊符「夢想封印 集」」
「 「幻朧月睨」 」
奇跡が結界と狂気に弾かれる。間を縫うように凶器が飛来した。偽の現人神は尚も口を開く。
「誰もやらなければ誰かがそれを埋め合わせなければならないのです。そうやって歴史は積み上げられていくのです」
再展開された陰陽玉が霊夢の周りを回転。鉄の輪を叩き落とす。
「人間から信仰を集めない神は神と言えるのでしょうか? 」
現人神が怪しい微笑みを浮かべる。スペル宣言。
<< トランス ”秘法「九字刺し」”>>
空間に光の格子が現れ進路を妨害する。霊夢は皮肉を込めて返した。
「張りぼては不要だと? だから妖怪自身で代行したいと? 」
現人神の形が崩れる。彼女の周囲に霊力が漂い、空間が歪みだす。紛い物は訴えた。
「そうよ、私が代りに白昼夢を終わらせる。喜びなさい。健全な関係に戻れるわ」
位相のずれた燈色の霊夢が目を瞑る。
<< トランス  ”「夢想天生」”>>
光に包まれた。札と光弾が乱舞する。霊夢は言葉をとうとうと並べ立てる。
「なかなか面白い話ね。欺瞞に満ちた平和と真実としての戦争」
位相を合わせた霊夢がホーミングアミュレットを撃ち出す。直撃した燈色が錐揉みしながら墜落する。
「けれども貴女の言う通りこの郷の平和が偽物だとするなら、そこに作りだされる戦争もまた偽物に過ぎない」
靄をクッションに空色の少女が体勢を立て直す。
「この郷はリアルな戦争には狭すぎるのよ」
陰陽玉を引き連れて霊夢は追撃に向かった。狂気を増幅しながら後に続く。ダイダラボッチはスペル宣言した。
「 大往生「サイクロプスアイズ」 」
大きな眼球達が空間に波紋を残しながら浮き上がり室内をレーザーで舐めまわす。塔が崩れバラけた外壁が降り注ぐ。回避しながらスペルを叩き込む。
「 霊符「夢想封印」 」
「 赤眼「望見円月」 」
少女は靄に戻らなかった。スペルが爆裂する。兵器が崩壊して幻想郷の空に出た。
「ここからだと……………あの村が蜃気楼の様に見える。……そう思わぬか?」
少女が吐血しながら喋る。どうやら大分消耗しているらしい。紅白の少女は切り返す。
「例え幻であろうと、あの村ではそれを現実として生きる者達がいる」
逃げ回るダイダラボッチを追い回す。天地が逆転し続け飛翔する弾幕が確実に彼女を消耗させていく。
「それともあなたにはその者達も幻に見えるのかしら?」
少女から黒い靄が噴き出す。ダイダラボッチは言い捨てた。
「幻さ……全部嘘っぱちじゃ」
少女が反転し、スペル宣言。減速して距離を取る。霊夢はそのまま追撃する。

「 幻影「草薙の剣」 」

彼女の手中に伝説の紛い物が現れた。剣から光波が湧き出て大蛇のようにのたくる。

紛い物とはいえ伝説は伝説だ。波長を操り潜在能力をギリギリまで引き出して支援する。

霊夢を爆心地に力が溢れた。霊力を流されたお祓い棒から光が噴出する。

幻想郷の空で紅と蒼が切り結ぶ。

体裁はあくまで弾幕ごっこ。

刀が薙ぎ払われる度に可憐な花火が空を彩る。

だが、それもここまで来ると単純な暴力と暴力とのぶつかり合いにしかならなかった。

「はあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

咆哮する博麗、砕け散る偽物の伝説。

光の刃は深々と胸を貫いた。

「今こうしてあなたの前に立っている私は……幻ではないわ」

霊夢は静かに身を引いた。

どす黒い粒子が噴き出し、虚構の巨人は地へ堕ちた。



**



「あー疲れた」
舞い降りた紅白の少女は軽く身体を伸ばした。地上は酷い有様だった。大量破壊兵器だった残骸が木々を薙ぎ倒し所々でまだ火が燻ぶっている。動けるものは既に逃げ出した後だ。
空で現人神がロボットとドッグファイトしている事を除けば微風が静かに吹くだけである。
いや、動くものがまだ存在した。地面に生えた脚がばたばたと動いている。
「情けないわね」
霊夢は地面に頭から刺さっているちんまい少女を両手で引き抜いた。
「どうした? さっさと止めを刺せ!!」
霊夢は心底めんどくさいといった表情で此方を向いた。知らんがな。
「巨人を倒したと知れたらちょっとした伝説になるぞ? 貧乏巫女」
手を離された少女が惨めな悲鳴を上げる。霊夢は瓦礫の山へとことこ歩いて行く。
「さぁ宴会よ。今日は魔理沙の家ね。あんたの歓迎会もこみで」
霊夢は八卦炉を拾い上げた。袖の中に大事そうに仕舞いこむ。
「じゃが……」
「異変は終わったの。四の五言わず飲みなさい」
小さな巨人はしゃがみ込んで唇を尖らせて拗ねている。こうなるとただの子供である。
「敗北者は潔く勝者の流儀に従いなさい」
霊夢にお祓い棒で頭を小突かれ目をぎゅっと瞑っている。
「うぅ……あれだけの大口叩たのだぞ? お主はそれでも全て水に流すというのか?」
楽園の素敵な巫女さんはきょとんとしている。
「知らないわ。全部偽りなんでしょ? 幻なんでしょ? ……それよりも」 
博麗の巫女はとても晴れ晴れとした笑顔且つ、ぞっとする威圧感を振りまきながら口を開いた。
「ぶっ倒れるまで飲ませてやるんだから。……覚悟しなさい?」
「……えー」
手早くスキャンして健康状態を確認する。流石はダイダラボッチ。鬼と飲み比べても大丈夫だ。
最後のロボットを撃墜した早苗が手を振りながら飛んでくる。新しい玩具を見つけた子供の様な表情だ。
何か不服そうな少女は相変わらずへそを曲げている。

「諦めないで一緒に考えて行きましょう?」

小柄だが精一杯背伸びしていた少女に手を差し出す。

彼女が顔を上げる。

「ここは幻想郷よ。奇跡も魔法もあるんだから」

暫く視線を彼方此方に泳がして精一杯唸りながら悩んでいた。

「……………………わかった」

少女は掴んだ。

前に萎びたウサ耳を。

それが幻でないかどうか確かめるように。




**

-・・ ・・・ -・・・- ・- -・・-- ・・- -・-- ・・ ・-・-・ -・-・・ ・--- -・ ・・ --・-・ 
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途中で通信を切断した。虫の声と洗濯ものがはためく音だけがする。
「あの……どうですか?」
早苗が不安げに聞いてきた。
「元気な河童と一緒にいるみたいです。……女の子らしさについて悩んでいるそうです。男の子みたいな自分が嫌だとか」
「むむ、見た目女の子でボーイッシュな所が魅力的なんですがね。今更”うふふ”に戻らなくても……」
ますます早苗は難しそうに眉を歪める。後押しするつもりで引き受けたが逆効果だったようだ。面目ない。
「はいはい、うじうじしてないでとっとと歩く」
脇巫女が早苗を強引に引っ張る。呼び鈴もノックもせず勢い良く扉を開けた。
「魔理沙、宴会よ!!」
魔理沙はソファーの上に下着姿で毛布にくるまっていた。河童は第一ボタンを外して息を荒げていた。
「なっ、ベルぐらい鳴らせ!!!!」
魔理沙が顔を真っ赤にして怒鳴り河童が舌打ちする。鍵ぐらい掛けとけばいいのに。家の中は珍しく綺麗に片づけられている。
まるで私たちが来ることを予見していかのように椅子とテーブルが追加されていた。
「いいじゃん、女の子同士だし」
霊夢は遠慮なく入って行き乙女の前に早苗を突き出す。現人神は暫く口をパクパク動かしていた。
「あの、魔理沙さん。昼間はその……」
「いや、それはもういいんだ。あれは本当にわたしが悪かった」
「いえいえ、いくらなんでも汚物まみれにしたのはやりすぎでした。ごめんなさい」
「いやいや、幻想郷の国宝を独り占めしてしまったんだ。あれぐらいの罰、当然だ。ごめん」
「駄目です。女の子にしてはいけない事をしてしまったのです。罪は全部早苗にあるのですよ」
「待て、早まるな。わたしは男なんだぜ」
「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」
会話がどんどん変な方向へ進んでいく。呆れた霊夢が仲裁に入る。
「おにぎりなんて幾らでも作ってあげるわ。………………お米があればね」
途端になんだか気の毒な空気が出来上がる。
「あら、お米なら蓄えがあるわよ。鮭は……燻製ならあるわね」
アリス、貴女は空気を読める女でしたか。グッジョブ。そして貴女は魔理沙の何なんですか?
「お米、早苗が炊きます。神様直伝の美味しい炊き方を知ってるのですよ」
「よし。霊夢、脇おにぎりは任せたぜ」
「何それ? よく解らないけど任せなさい!!」
人形遣いと現人神と脇巫女がきゃっきゃ騒ぎながら台所へ入った。やることもないので椅子に腰かけた。
ティーセットが広げぱなしで天狗の新聞が散らかっている。どの新聞も先の大怪獣異変に関する記事で埋め尽くされている。
則紗は本棚を勝手に物色している。腹の虫が鳴いた。お腹すいたな。
「お一つ下さいな? 」
「どうぞ。じゃんじゃん食ってくれ。作ったのは私じゃないが」
籠の中のクッキーを失敬する。サクサクふわふわで幸せな気分になる。
「糞文屋いない? 」
「呼び鈴というものがこの家にも付いてるんだぜ?」
呼び鈴も押さずノックもしないで天狗の少女が入ってきた。
「どうしたんですか? 」
「折角どでかい異変が起こったのに……ケータイに悪戯されたせいで何も撮れなかったのよ」
ごめんなさい。だけど、普段から疑われるようなことばかりしている文屋も悪いですよね? 
「あの糞文屋、絶対絶対絶対許さないんだから。……え? …………へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」
椅子に腰かけて物珍しそうに魔導書を読みふける少女を認め彼女は奇声を上げた。
「……ダイダラボッチさん?」
小さな巨人は頷いた。忙しいから話しかけるな、といったオーラをむんむん出している。
「まじで? まじで? やった、超ラッキーじゃん!! ありがとう、糞文屋。魔理沙、そこのポロライドカメラ死ぬまで借りるわよ?」
「お前、絶対返す気ないだろ……」
早口で捲し立てた後天狗特有の曲芸的な身のこなしでシャッターを切り始めた。カメラから吐き出される写真は不思議なことに全くぶれていない。
「こらこら、私を撮るな!!」
「いいじゃない、寧ろこれは広めるべき事象よ。カメラのお礼に次の号外のグラビアに使ってやるわ!! 喜びなさい、人里から求婚者が押し寄せて来るわよ!!」
「ホーライ!! 」
人形がカメラガールのポケットに紙幣を捻じ込み、代りに写真を一枚持ち去った。まぁ、結果オーライということで。
「宴の匂いを嗅ぎつけてやって参りました」
いつの間にかやってきていた鬼娘に杯を勧められる。
「あ、どうもです」
お礼を言って喉に液体を流し込む。胸が熱くなって良い気分になった。
「おめでとう、君で二人目だ。ほらほら、飲めや飲めや」
萃華は伊吹瓢箪から飲みかけのコーヒーにがぼがぼと液体を注ぎ込む。河童に差し出した。
「はぁ……ありがとうございます」
河童は勧められるままグイッと一飲みした。
「HAHAHA、硬いぞ、硬いぞ、もっとフランクに行こうぜ。マイブラザー!!!! 」
鬼娘は酒臭い息を撒き散らしながら河童の背中をばしばし叩いている。
「シャンハーイ!! 」
買い物袋に酒瓶とツマミを一杯詰め込んで人形が帰ってきた。もうお店開いてるのか……逞しいな幻想郷。
「はいはい、ツマミできたわよ」
霊夢がおにぎりやらキノコの炒め物やらが満載されている皿を両手に抱えてやって来た。
「……脇おにぎり」
「手で握ったわ。早苗の分は別にキープしてあるから大丈夫……どうした? 」
金髪の少女はこの世の全てに絶望したような諦めの表情を浮かべた。
「……脇おにぎり」
「お腹壊すわよ? やめときなさい」
皿をテーブルに置いた霊夢が魔理沙の頭をなでなでする。飼い猫みたいになった魔法使いに天狗がシャッターを連射する。
人形が紙幣を数枚ポケットに捻じ込んで何枚か持ち去った。適当なお酒を喉に流し込む。
「ほう、お主結構いける口か? 」
「ダイダラボッチじゃ。鬼よ、舐めるな? わらわの方が乳もでかいぞ?」
ちんまい少女同士飲み比べている。両者、共に譲らない。天狗が写真を撮ってメモ帳に何か走り書きしている。
「シャンハーイ!! 」
窓の外を見やるとAK-47を携えた人形達が木とか鉄骨でバリケードを築いて塹壕を掘っていた。
「オルレアーン!! 」
あれはクレイモアか……見なかったことにしよう。
「結構酔ってるみたいだけど大丈夫? 」
人形遣いが心配そうに声を掛けてきた。
「らいじょうぶですよ。きょうはここにとまっていきますきゃらぁ」
「いいですね。お泊まり会ですか。早苗、お布団用意してきます」
頬が上気している現人神が二階に上がって行った。この家ベッドじゃなかったけ? あ、布団抱えて戻ってきた。
なんかアリスの手縫い品ぽいような……。
「あははははは……うどんげ、あんた今日大活躍したんだからもっと飲め、飲め!! 」
脇巫女にアルコールを流し込まれた。飲んでばかりだと胃に悪いからおにぎりを齧る。うめー、脇おにぎり。
「へいむこそ、もっとのむへきれすよぅ」
お返しに酒瓶をひっつかんで流し込んでやった。
「ぷはっ、……面白い。弾幕ごっこよ!! 」
巫女にコップを差し出した。並々と緑色の液体が注ぎ込まれる。
「ほら、注ぎなさい!!」
空のグラスが差し出される。紫色の液体を注いでやった。
一気に飲み干した。
博麗の巫女がグラスを差し出す。飲みたそうだったので緑色の酒を注いでやる。空のグラスを差し出す。紫色の液体が満ちる。
一気に飲み干した。
新しい瓶を開ける。青色の液体を注いでやる。無色透明の液体が注ぎ込まれる。
一気に飲み干した。
青色の液体が注ぎ込まれる。無色透明の液体を注いでやる。
一気に飲み干した。
新しい瓶を開ける。黄色い液体を注ぎ込む。伊吹瓢箪から無色透明の液体が注ぎこまれる。
一気に飲み干した。
伊吹瓢箪で無色透明の液体を注ぐ。伊吹瓢箪から無色透明の液体が注がれる。
一気に飲み干した。
伊吹瓢箪で無色透明の液体を注ぐ。伊吹瓢箪から無色透明の液体が注がれる。
一気に飲み干した。
伊吹瓢箪から無色透明の液体が注がれる。
飲み干した。
伊吹瓢箪で無色透明の液体を注ぐ。伊吹瓢箪から無色透明の液体が注がれる。
飲み干した。
伊吹瓢箪から無色透明の液体が注がれる。
飲んだ。
伊吹瓢箪から無色透明の液体が注がれる。
飲んだ。

のんだ。

「……っう」
















**





後日、無断外泊したうどんげは八意医師にこっ酷くお仕置きされたのであった。

三週間は意識が戻らなかったそうだ。
「どうしたの?」

「ここから引き返してもいいんだぞ。正規の異変じゃない。行けば博麗の巫女の資格は勿論、弾幕少女の資格剥奪ってこともあり得る。それでもいいのか?」

「私より魔理沙の方が迷ってるみたい」

「迷うだろ普通」

「私、いつまでも弾幕が好きなだけの女の子でいたくない。弾幕が好きな自分に甘えていたくないの…………お願い。箒出して」


――――奇導警察パトレイムー2 the Movie より抜粋――――
orosiwasabi
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コメント



0.210簡易評価
15.100名前が無い程度の能力削除
永琳「だから・・・(帰ってくるのが)遅すぎたと言ってるんだ!!」
16.80コチドリ削除
見事なほどに読者を置き去りにするその姿勢。
清々しいほどに己の趣味嗜好を貫くその作風。

まったくもって嫌いじゃない。

真に語りたい事柄がそこにあったのか。
それとも単なる虚仮威しのはりぼてなのか。

どちらでもいい。どちらも許容する。

久方振りに俺の左手を疼かせる作品に出会えた。
そういや、『左城宮則紗』って〝サギのみや、ノリさ〟とも読めますよね。
17.無評価orosiwasabi削除
レスありがとうございます。修正しました。
18.100名前が無い程度の能力削除
鈴仙の能力の使い方がツボ
流れがよく解らない部分がありましたがセンスを感じました