作品集108の「Run away」(黒歴史)
作品集109の「Freeloader」(黒歴史)
を書き直して、再び投稿致しました。
良ければ見て言って下さい。
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「あ~もう、雨なんて大嫌い……」
ベッドに寝そべったフランは、溜め息混じりに言葉を吐き出した。
以前本を借りに来た(本人はそう言ってるものの、どうみても盗みにしか見えないけど)
魔理沙に今日この日、弾幕ごっこの約束を取り付けたのだが━━外は生憎の嵐。なんでも1000年に1度クラスだとか妖精が騒いでた気がする。よりにもよってこんな日に来て欲しくない。
それに風はうるさいし、雷の音も随分聞こえてくる。幾らパチュリーの魔法で紅魔館の周りには雨が降らないようになっていても、魔理沙の家の上空はきっと土砂降り。これじゃあ体の弱い人間はまず来れない。
不満をぶちまけるようにうめき声をあげ、足をバタバタと布団に叩きつける。
下着がちらほら見えるが、誰もいないのでお構い無しだ。心なしかカシャカシャ音が聞こえるが、多分幻聴だろう。
上下に動かした後は横に斜めにと縦横無尽に動かして……直ぐに力無くベッドに落ちた。この程度では暇つぶしにもならない。
あいつ━━レミリアお姉さまでもからかいに行こうかと思ったけど、残念ながら部屋で蹲っているのを思い出す。昔格好付けていたら特大の雷に打たれて死にかけたらしく、以降は雷の日になる度に部屋にずっと引きこもっている。所謂トラウマという奴だ。一応本人は隠しきっているつもりだが、もう妖精メイドでさえ全員知っているのだから救いようがなかったりする。
後であの速い天狗に教えてやろうと心に誓った後は、気を紛らわすように窓の外を見た。
窓がこの部屋に沢山あるのはあいつの嫌がらせである。
半年前にあいつのケーキのイチゴを食べたら泣きながら弾幕ごっこを挑んできたのだ。まぁ…普通に勝ったのだが、代償とし紅魔館が半壊、地下が全壊した (図書館は安定の無傷)。仕方なく部屋を変えたのだが……見事夕日が綺麗に見える特等部屋を用意された。当然再度叩き潰したけど。
何だかんだで律義に使ってる私も私だったりする。……因みに私の元部屋へと続く道は瓦礫の山で通れずまだ発掘されてない。
まぁ、そんな訳で今は丁度良いのだ。多少は気晴らしになる。そのまま暫く雷の鳴った回数を192まで数えたが止めた。何となくだがもう1つ数えたら負けな気がしたからだ。今日は何して遊ぼうかと天井を眺めながら考えて……窓をもう一度見た。なんかこう、もう1つ数えてほしいのか雷がさっきよりも激しくなってる気がする。アピールってやつ?自然現象なはずなのに、明確な意思があるようにみえるから困る。……きっと疲れているんだと決めつけ絶対数えないことを心に誓い、耳を塞いで窓に背中を向けた。
ほらっ、そうすればきっと心地良いベッドで安らぐ事が出来る。目を瞑れば後は簡単。布団も充実。枕もポンポン。ベッドもスカスカ……ってあれ?
地面が━━……━━無い!?
咄嗟に飛べたのは良かったけど、何が起きたかは理解できなかった。こんな事なら目と耳を塞がなければ良かった。そしたら焦ってる私の耳に
「何でぇ192回なんでふか~……後1回でしょうぉ?何でそこで諦めるんでふか!どうしてやめちゃうんでふかああ!」
と、覇気の無い声が聞こえた。振り返ると窓だった所に変な奴がいる。良くわからないが、随分とご乱心の様子。……もしかしたらさっきのアレはこいつのせいだったのかもしれない。…けど、別に何でも良いのだ。やる気満々のようだし少しは楽しめそうだ。一番の気晴らしとなる。だだ━……
「不意打ちってのはちょっとムカつくよね?この代償は割と高くつくよ━━……」
姉の真似をするんじゃなかったと心から思う。セリフの為に目を少し瞑ってみたのだが、言い切る前に特大の雷を撃ってきたのだ。
お蔭で直 撃し……て…
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私、宇佐見蓮子は今若干ピンチだった。
「あーもうっ!何でこういう時に限って傘忘れちゃうかな!?」
まぁ、言葉通り傘が無いのだ。ぎぶみーかさ。ギブミーカサ、give me an umbrella……さっきから何度頭の中で木霊してるだろうか、数えるのも面倒な程にピンチなのだ。
単純な話、私は雷の鳴る大雨の中全速力で走っているのだ。こうなると当然服も濡れる訳で、その、あの…eto…………うん、もう言いたくない。ここで聞いてくる奴がいたらもれなく顔面ドロップキックをプレゼントしてあげよう。
事の次第は……寝坊なのだが。いつも恒例の遅刻とは違い、海よりも深く山よりも重い理由がある。
昨日は少しばかり部屋を片付けていたら、なかなか良いお酒が出てきてしまった訳で……後はもう言うまい。それだけだったら良かったし、(多分)遅刻する事も無かったのだけど、事態を変えたのは1枚の紙が出てきてからだ。
提出日が”明日まで”のレポートをすっかり忘れていたという事。普通のレポートだったら諦めても良かったけど単位に響くという訳で…さっきまで酒を飲んで出来上がってしまった自分を恨みつつ泣きながら徹夜で仕上げたのだ。あの時は何度時間の神様を恨んで書き上げた事やら。
こうして何とか仕上げたのは良いが、はたまた出来上がった時間が悪かった。家を出るまで2時間ある。だから少し休憩しようとベッドに寝ころんだのだが再び気付いた時には……まぁ、完全に超遅刻というわけで……。良くあるよね?ね?
因みにベッドと布団に罪は一切無い。悪いのは時間の神様。これだけは譲れない。
という訳で、全速力で走ってタクシーも捕まえてと死力の限りを尽くした結果、一応時間ギリギリで提出に間に合い単位も安泰となったのだから良いのだが、他の授業は敢え無く部屋の隅で睡眠学習をする事になった。帰りの電車でも揺られて軽く寝ていたが寝過ごして降りる駅を通り越す始末。そして乗り換えた時には酷く心地悪い響く音。見上げると空は黒く大きな雲で覆われている。
嫌な予感を拭いきれず鞄を漁ってみると、案の定傘は無い。そういえば乗る時に子供が傘を持って騒いでいた気がする。男の子の一人が股間抑えて涙目になっていたけどナンデダロウネー。
コンビニに立ち寄って傘を買えば濡れる事は無いのだろうが、お財布にはアルミで出来た小銭が3枚のみ。タクシーで敢え無く消えてしまったのだ。
そして頼みの綱のメリーは風邪で休みとの事。もし風邪じゃなかったら“迎えに来て貰って一緒に傘をさして帰る“だなんて事を願望に思ったのは言うまでもない。まぁ、携帯のバッテリーがご臨終しているので意味無いけど。
別に便利屋と言う訳では無いが困った時はお互い様、持ちつ持たれつと言う奴だ。
思い出す限りではレポートとかで私が助けて貰ってばかりだが、気にしない。気にしてはいけない。
私もどっかできっと助けているハズ……だと思う……かな?
段々罪悪感が溢れてくるのもきっとキノセイ!
ならば、雨が降る前に走って帰れば大丈夫と言い聞かせて走ったものの現在に至る。今日という今日が本当に恨めしい。
そして春が近いこの時期にこんな天気にしてくれた神にもし会う事が出来たら、マウンドポジションを取ってタコ殴りしてやりたい。
そんな事を心の端に思いつつ、近道の公園を突っ切っている所で雷が激しく鳴った━……
「ッ!?」
イヤ、雷が落ちた━━のだと思う、多分。瞬間的に目を瞑ったから分からないし尻餅もついて見上げる事しか出来なかったけど、公園に生えていた大きな木が真ッ二つに割れて所々燃えていたり煙が上がったりしてるのだ。余裕の1つでもあったらドラマとかでよくある。とか笑い飛ばせたんだろうけど、下手したら私に当たってたかもしれない……まぁ、実際前に立ってみるともう怖くて無理だったりする訳で、普通ならそれだけで驚く……けどそれ以上に"木の割れ目に小さな金髪の子がいる"という事態が私を混乱させているんだと思う。
血も随分出ているし、所々黒く焦げてる。普通ならもう……そうなんだろうけど、それでも僅かに痙攣(?)しているのか時折動いてるのだ。
なら今すぐ119番に電話するべきだったんだろうけど、出来なかった。
なんせ綺麗な宝石のついた羽らしき突起物に見惚れていたから━━……
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「お邪魔するぜ~、タオルと温かい飲み物くれ!」
勢い良く扉を蹴飛ばして堂々と入ってきた。来て早々にこの態度である。
お蔭で紅茶が器官に入って思いっきりむせた。今日は体調が悪いというのにコレだ。
「だ、大丈夫ですか?パチュリー様…」
そういって小悪魔は背中を擦ってくれた。時々人間じゃないかと錯覚するぐらいには人間地味てる気がする。本当に悪魔なのかしらね?それとも美鈴の影響かしら?
かくいう白黒はずぶ濡れのせいかさっきから水を垂れ流している。絨毯が汚れるから勘弁して欲しい。
よく見ると濡れた子猫みたいにかわ……いや、なんでもない。本当に何でもない。顔なんて赤くなってないし、赤いのは元々むせて苦しいからだ。
頭を振って考えてる事を一旦リセットする。
「パチュリーも相変わらずだな、それと咲夜はいないのか?温かい紅茶とケーキも頂戴欲しいんだがな。」
睨みつけても軽くスルーな上、本当に図々しい限りだ、呆れて物も言えない。まぁいつも通りだから慣れた物だが。
「咲夜さんならお嬢様のお遣いとかで博麗神社に出払っていますよ。嵐が収まるまでの出張だそうです。」
変わりに小悪魔が答えた。タオルを律儀に渡している。
今紅茶を用意しますね、と準備しているが、いつから魔理沙の使い魔になったのか?
「それで……ゲホッ…何の、ようかしら? また━…盗みにきたの?」
折角収まったのにまた喘息の発作だ。お陰で、雨と雷除けの魔法も少し解いてしまった。
「盗みとは心外だな。アレは借りてるだけだ。
それと今回わざわざ嵐の中来たのはフランとの約束だよ。律義で優しい魔理沙さんだからな、こんな天気でもこうして出向いた訳だ。しかしこうもずぶ濡れだと少しばかり寒いし、動きにくいし。呼んでも探しても妖精しか来ないから仕方無くこっち来てな」
そのまま小悪魔が持って来た紅茶を貰ってはそうは答える。おお悪いな、と言葉を付け加えて一気に飲みだ。
何が仕方なく、だ。それに律義なら本も返して欲しい所だけど、言っても聞かないのは分かっているので軽く流してしまうのが良いだろう。正直喋るのも辛い。
それに図書館の本に影響が出ないのであれば特に気にする必要も無い。
「……そう」
「そうなんだぜ☆」
訂正。今少しだけ目が光った気がする。後で防犯用の魔術とか準備しておいた方が良いかもしれない。
重い溜息をした後は本に目を戻す。さっきから小悪魔がこちらに気持ち悪い笑顔を向けてくるのが癪に障るからだ。何を勘違いしてるのか、魔理沙がやってくる度に色々とやらかしてくる。そろそろはっきりさせた方がいいかもしれない。
「しかしやっぱ重い……しょうがない、一旦脱ぐか」
「ぇ……あ、ああ そ、そうね…そうした方がいいんじゃないイイナジャナイ…?」
……うん、ノーコメント。遠くから親指立てて笑顔を向けてくるから非常にうざい。暫く無視してたら何故か耳元に近付いて来て、
「パチュリー様、ただただ欲情するだけではダメです。今なら邪魔者なんていませんし押しの一手、いきなり襲って無理矢理唇をうば…ヴァ!?」
なんて変な事を言ってくるので返事の代わりに本の角をくれてやった。
コレがなければ優秀の印を押してあげるのだけどね。やっぱり新たに喚んで契約でも結ぶべきかしらね?
「あ~…もうびしょ濡れだ。」
声に反応して向くと、魔理沙は既に下着姿で服を無造作に脱ぎ捨てていた。イヤだから絨毯が汚れると……汚れ…シタギスガタデスネ。
「な、ならパチュリー様が魔法で乾かしてくれますよ。優しいですからね~?」
めげずに再び親指を立ててくる。何、ケンカ売ってんの?大体魔理沙だって、熱の魔法を使えるのだから自分でやれば良いの……
「お、それはありがたいな。ここは一つ頼んで良いか?」
あ、笑ってる姿もカワ……うん、その……なんというか……///
「……わ、分かったわよ、やれば良いんでしょ!服貸しなさい。乾かしてあげるから!それにそんな湿気の塊を持ち込まれたらまだ術を施してないこの本が痛むの。さっさと風呂にでも入って来なさい。」
言葉に詰まりかけたので何故か自棄になってる。どれもこれも小悪魔のせいだ。さっきから変なことを言ってくるから妙に意識している。きっと小悪魔の遠い親戚にサキュバスとかいるからこうなってるのだ、絶対そうである。
「パチュリー様、ダメですよツンデレは!?アリスさんがいますしキャラ被りは宜しくないのです!やはりパチュリー様に合うのはしっかり者だけど純情で乙女チックなキャラ!『代わりに本を返してくれたらね』とか言っていつもの返しをして…でぶぶっ!?
……ッ~!?、だ、弾幕ぐらいじゃめげませんよ? シャワーから帰ってくるまで魔理沙さんの服をギュッと抱いて待っている。戻ってきたら『随分待たせるのね』とか言って2人は急接近を……って、ちょっ!?待って待って待ってください!弾幕ならいざ知らずスペルカードは止めて止めて!やめてええええええええええ!!!!!!」
「……覚悟は良いかしら?月符『サイレントセレナ』!」
天誅!
「ふぅ……ごめんなさいね。アレは本当に気にしないで頂戴、特有の病気だから。」
「……大変だな」
全くだ。これで変に勘違いして貰っては困……るる?
ふむ、モヤモヤして良くわからないから取り敢えず小悪魔にもう一度同じスペルをぶつけておいた。7割はスッキリ爽快。
「……シャワーなら私用部屋にあるからそこを使うと良いわ。」
「おぅ、悪いな♪」
背中を見送った後は、面倒だが服を拾い上げた。何だかんだで小悪魔の思い通りになっているのだから腹立つ。
「さて、さっさと乾かして……」
…………
…………
「と。これで良いわね。」
……何でわざわざ私は服を乾かしているのだろうか?本を盗られて、本を読むのも邪魔されて、時間も潰されて、一体何の得があるのやら…。なのに服をしっかりと乾かした自分が可笑しくて笑えてくる。
果たして昔の自分だったらこんな事をしただろうか……自問自答しておいて、実はもう答えが出てたりする。おかしなものだ。
軽く苦笑した後は乾いた服を無造作に椅子に掛けて、読書に戻る事にしよ……
「あるぇ~?肌が綺麗になっていますよね。ちょっと頬も赤いですし、やっぱり私が気絶している間に魔理沙さんの服で何か御用達でもし…しゅばっ!?」
いつの間にか復活していた小悪魔が体をくねりながら囁いてきた。驚いて咄嗟にさっきと同じスペルをぶつけたのだが今のはしょうがない。
「……ったく。」
本当にうるさい悪魔だ。
△▼△▼△▼△
「さっぱり快調、魔理沙さん復活だぜ!」
乾いた服を着込んではアピールするように叫んだ。別にアピールした所で……アピールルルル……のー…こめんと。
因みに服はギュッと抱きしめる……なんて事はしてない。断じてしてない。乾かすためにちょっと両手を胸とお腹と膝と顔をうまく使っただけだ。反論がある奴はちょっと『賢者の石』使うからネ?
それを知ってか知らずか分からないが、懲りもせず笑顔を向けてくる小悪魔。折檻しようにも魔理沙の後ろにいるので撃つのを躊躇った。後でオボエテナサイ?
「さて、当初の目的だが、当のフランはどこにいるんだ?」
「妹様は御自身の部屋にいらっしゃいますよ。今日を楽しみにしていらっしゃいました。この嵐の中で来る事は無いと仰っていたのできっと大喜びますよ~」
自分の事のように言う悪魔。うん、悪魔のコスプレをした人間と暴露されても全然驚かないくらいには自信はある。だって、全くもって悪魔らしくない。
「そうか。それじゃ案内してくれ」
言うが早いか、小悪魔が答えるより先に手を引っ張ってあろうこと全速力で飛んで行った。
廊下から悲鳴が聞こえたのはきっと気のせいだろう。ザマーミロ。
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「疲れた……死ぬ……」
実際に死ぬ訳じゃないけど、倒れ込むように部屋に戻って来た。
普段使わない裏路地を駆使したお陰で、人とすれ違わなかったのは幸運と言える。もし異性に出会ったら……そこで考えるのを止めた。代わりに帰るのに1時間近くも掛かったが……。
とりあえず明日の筋肉痛は覚悟しておいたほうがいいかも。高校のマラソン大会でもこんな苦労はしなかったと思う。なんせ服が水を吸って重いのだ。か弱い女性(←ここすごく重要、テストに出るよ)には重労働である。
それに頭がガンガン痛い。風邪薬はあっただろうか?
明日は金曜日だがサボ……じゃなくて休みたいけど、こういう時に限ってまたレポート提出しなければならない。誰かが狙ってるんじゃないかと思うぐらいに不運の連続。今日は神を呪ってばかりだ。
まぁ、こっちは随分前に仕上げているから提出するだけで良いのが救いであるけど。
取り敢えず明日の事は後で考えるとして……
"今はこの女の子である。"
どっかにドッキリのプレートを持った人がいて、その辺から出て来てくれたのならある意味良かったんだけどね。もしくはお人形だったでも可。と、現実逃避してる場合じゃなくて、
出会った時には酷い火傷を負ってたし、出血も酷かった『はず』なのだ。なのに逆再生のようにみるみる怪我が治っていき綺麗な肌だけが残った。再生能力って奴?それとも自己再生?無意識で発動出来る分PPは大丈夫だろうか?
それにしても肌が白くて羨ましい……じゃなくて!明らかに人ではない。
咄嗟に背負って家まで帰るという判断は正解だったと思う。もしかしたら”境界の向こう側”に関係があるかもしれないし。まぁ、そうじゃなくても知的好奇心やらサークル方針から家に持ち帰ったと思う。
生き物を持ち帰るというのも変な表現だけど、あのまま放置して帰ったら人として絶対間違ってると断言出来る。
取り敢えず今すべき事は……
「クシュンッ!」
……
今すぐにシャワーに入る事。冬ももう終わりだけど、このままだったら確実に風邪が悪化するだろう。冷えた体では絶対寝たくないし、後で温かい物も飲みたい。それに心なしか女の子も少し冷たい。
携帯をささっとコードにつないで充電し起動。メリーに軽くメールを打った後は、女の子を連れて風呂場に直行した。
△▼△▼△▼△
「さて……」
服を脱ごうかと思ったけど今更濡れた所で変わらない。というより脱ぐまでの時間が寒くて辛いので、そのまま着て入った。
座り込んで女の子を抱き寄せてる体制だが、栓を全快にして浴びるシャワーのお湯の気持ちよさと来たらもう……最高である。そうまだいえば昔、従妹お姉さんにこうやって入れて貰ったっけ。小っちゃかったからきっと今のこの状況と同じなんだろうとぼのぼの思う。
少し辛い体制だが、暫くはこのままでいよう━━━……━━━━ちょっとの休憩……だ?
「やっと起きたのね。こんな所で寝ちゃって……しかも服着てシャワーだなんて……」
目を開けると、何故か目の前に親友がいた。腰に手を当て前屈みになっているが、胸が強調して見せているのは嫌みが何かだろうか?
「え……えと…?」
私の親友はとうとう時空を超える瞬間移動術でも覚えたのか?
「そんな訳無いでしょ。」
頭に軽いチョップを貰った。
口に出てたみたいだ。それ程私は呆けたのだろうか?それとも、
「……夢?」
「あらそう、夢なら別に……」
一旦言葉を区切るとにっこり微笑んで、ゆっくり手を伸ばしてきた。その笑顔だけで世界を救えるのでは?と誰もが思える程可憐なのだけど、いつも一緒にいる私からすれば大抵は嫌な目にあう兆候と見ていい。
「こんな事したって構わないわよね~?」
思った通りぎっしり頬をつねって来た。
当然後ろに逃げようとしたけど壁があってはまず逃げられない。
「痛い痛い!?痛いってば~!!?」
上上下下…と、実に子供の遊びのように抓られて、暫く悲鳴を上げるハメになった。
△▼△▼△▼△
「ごめんなさい、やりすぎたわ♪」
「そう笑顔で言われてもね……」
あれから1分程みっしり抓られたのでかなり痛い。頬も真っ赤だ。ギブアップ!待った!と何度叫んだか…
因みに私は風呂場で1時間寝てたらしい。
「メールの返事は返って来ないし電話も出ない。わざわざ来て呼びベルを鳴らしても誰も出ないし、鍵が開いていたから悪いとは思ったけど入ったの。そしたらバスルームから音がするから覗いたのだけど、凄く驚いたのよ?最初見たときは死んでいるのかと思って泣きだしちゃったんだかね?私。」
3秒くらいだけと、と付け足した
一緒に気付きあげて来た友情は3秒程度の涙しか得られなかったのかと思うと非常に残念だ。少し接する距離を考えたほうが良いかもしれない…嘘だけど。
しかし全く持って嬉しくない。勝手に勘違いした挙句、私の両ほっぺは酷いダメージを受けたのだ。ケーキぐらいは奢ってもらわないと割に合わない。
「あら、それはそれはごめんなさいね。お詫びに今度美味しいケーキ奢るから許して。」
また口に出てたらしい…。
こう意地悪してくるとその後に物で釣ってくる。実にうまい戦術だ。
こうやって最近メリーに遊ばれている。絶対漫画かドラマの影響でも受けたのだろう。
「なら飛びきり美味しいのを頼むわよ?マエリベリー・ハーンさん?」
「御任せて下さいませ、宇佐見蓮子さん」
ふざけたやり取りをして何時ものペースに戻す。これ以上弄られ続けるのは勘弁だ。
いい加減座ってる訳にもいかないので立ち上がるが……違和感を感じた。
そういえば何で服来てシャワー浴びたんだっけ…………確か傘を忘れて……………あっ!?
「女の子は!?」
膝の上所か周りにもいない。脱衣場も覗いて見たが見当たらないのだ。
「え…女の子?私が来た時は誰もいなかったけど?」
「嘘!!?」
私の意識が無かった間に目を覚ましたのだろうか!?まだ遠くに行ってないかも……
「うん、嘘よ?」
再びあの全世界を救える笑顔で言ってくれた。
奢って貰う時、飛びっきり高いケーキを頼んでやろうと心に誓った日だった。
△▼△▼△▼△
「『境界の向こう』とか、人間じゃない女の子とか、興味をそそる内容だったからね。少し辛いけど急いで来てみたら、親友は女の子を抱えてシャワーを浴びながら寝ていたから驚いたわ……呆れを通り越してね。ちょっと悔しいからあの子だけ運んだの。」
ドア越しから声が響く。私は体を拭いて着替え中だ。
「運んだって……酷いなぁ~もう。それにしょうがないじゃない?寝不足だったし、傘無しであの子背負って帰って来たんだから。1時間掛かったのよ?下着見られたく無かったし。」
脱いだ服をカゴに入れていく。その中にはあの子の服も入ってる。
「傘無しって……天気予報見てなかったの?雷を伴う大雨になるって3日前から報道していたのに。傘を買いもしないで……」
「うぐっ……し、仕方が無いでしょ。朝は急いでたし、お金は使っちゃって小銭しか入ってなかったんだから!」
はぁ、やっぱり。と聞こえてくる。流石親友。私の事を良くわかっていらっしゃる。
だがしかし、こればっかりはしょうがない。神様が悪いのだから。
「なら次は布団無しで寝てみたら?」
クスクスと笑い声が聞こえる。こんな肌寒い時にそんな事はごめんである。
「今度夏にそうしてみるわ、冷房でも掛けてね。扇風機のオマケ付き。…それで女の子は?」
体の水気を拭き終える。タオルが実に気持ち良い。
「悪いとは思ったけど、蓮子のベッドに寝かしているわ。着せる服がなかったからとりあえず布団をかけたけど。」
つまり裸だ。何か変な感じである。
「じゃあ見たんでしょ?あの羽っぽいの何だと思う?」
メリーに持って来て貰った服に着替える。青と藍で彩られた水玉模様の可愛いパジャマだ。子供っぽいと言われるがお気に入りであるので気にしない。
「鳥の骨みたいなアレ?宝石が付いていたし案外オシャレで羽を付けたんじゃないかしら?」
軽くコケそうになった。私の親友は時々こうズレた発言をする。背中からあの羽らしき突起物が完全に繋がっていたのは何度も確認しているからからまず有り得ない。
「まぁ、あれが飾りかそうじゃないかは兎も角、ちゃんと調べてみる必要があるわね。後本人からもちゃんと聞いてみたいし。」
言い切ると同時にドアを開けて、女の子が寝ている元へと私達は向かった。
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「こ、この部屋です……」
もう髪がボサボサで酷い事になってると思う。必死の抵抗も虚しく部屋へと着いた。
片手だけを引っ張り、道を聞くたびには止まっては、また飛んでいく。お陰で少しばかり千鳥足なのはしょうがないですよね。何度か壁にぶつかったし所々体も痛い。
ここから図書館までこの状態で行くのはちょっと辛い……
「助かったぜ。フラ~ン?入るぞ?」
ノックも無しに開ける。返事を待たないのも流石というべきか。
この堂々ぶりがパチュリー様を幾度となく困らせている(本人は否定しているけど、私から見るとパチュリー様はちょっと楽しそうにしている)のだ。
「それじゃあ、私はこれで……」
戻ったら髪の手入れをしよう。女性なだけに身だしなみには人(?)一倍気を付けている方だ。
ついでに後でパチュリー様にも髪の手入れをしてあげると良いだろう。
使い魔としては実験ばかりで身だしなみに気をつけない主人には困ってばかりだ。(アレ、使い魔ってこういうものだっけ?秘書として喚ばれた気がするのだが)
そういえばと思い出すが、さっき服を乾かした後不意打ちで声を掛けた時に頬を染めていた。そんなおいしい……じゃなかった。恋する女性のような甘い顔を見逃す程ぬるい悪魔ではない。きっと何かあったに決まっている。後で誘惑がてら多少化粧でパチュリー様を色気づけてみるのも楽しいかもしれない。いつもは無反応の主人でも、こういう時はウブなのだ。折檻を受けない程度にからかって楽しもう。
前にやりすぎて契約破棄寸前、さよなら紅魔館まで行きかけた事もあるけど、逃げない。めげない。ヤリとげる!だって悪魔ですもの♪
あ、ちょっとやる気出てきた。ちょっと急いで戻りましょ……
「待った!」
「ひゃう!?」
いきなり尻尾を掴まれて取れるかと思った。尻尾は敏感でちょっと弱いから勘弁して欲しい。
「匠にでも頼んだのだろうか、随分風好みにリフォーして貰った部屋だと感心するが、当のフランがいないぞ?」
「…え?…風好みって?」
恐る恐る覗いて見ると、なんという事でしょう。(脳内BGM再生中…)
部屋全体を紅一色できめていた壁の塗装は見事に剥がれ小さなクレーターが壁にちらほら。吹き飛んで散らばっているコンクリートは絶妙な位置をキープ。部屋の中央付近までが綺麗になくなっており、ここから見える景色は抜群で見る者の心を奪うものでしょう。
気になる下を見るとそこには所狭しと置いてあった邪魔な家具やらベッドがすっきり片付いていて、燃えていたり焦げていたりと匠の御茶目な心意気差がうかがえます。
両隣の部屋は開通しており、解放感に浸れて言う事なし。これで部屋の住人も一安心。お値段なんと…………………………うん、現実逃避するのも止めましょうか。
「何ですか……コレ?」
「ふむ、見た感じ雷が直撃でもしたんじゃないか?さっきパチュリー咳き込んでたし。
……滅多な事じゃ死にはしないから大丈夫だとは思うけど、一その辺応探してみるさ。もしかして緑の匠だったりな☆」
そう言って、解放感あふれる(元)部屋から飛んでどこかに飛んで行ってしまいました。
って、イヤイヤ…緑色の爆発物生命体クリーパーとかだったら勘弁ですよ?頼んでもいないのに部屋をリフォームする皆のトラウマですし、あの『ジュウ』という音を聞くたび恐怖感が……
「了解いたひました。空気を読んで盛大に爆発したいと思いまふ。」
「はい……?」
気付いたら、部屋だった所に何故か両手に緑たっぷりの苗木を持って浮いている方がいましt━━……
~~~~~~~~~オマケ~~~~~~~~~
「ちょっと!?それ私のイチゴォ!?」
皿の端に寄せたイチゴは銀のフォークが無情にも奪っていった。最後に食べようと思ってたのに……。
「んっ♪ごちそうさま、美味しかったよ。」
イチゴを奪っていったそのフォークは、妹の口へと消えていった……。
「わ、私のイチゴがあぁぁ!!?」
実に憎たらしく食べている。
あの美味しそうに食べてる笑顔は人を萌え殺せる威力があるのでは?と、錯覚するが、
生憎と私は吸血鬼なので(ギリギリ)萌え殺されはしないし、何よりイチゴを食べられた恨みもある。
「端に置いたから、てっきりいらないのかと思ったのだけど?」
あ、今の笑顔ちょっと可愛い……………じゃなくてっ!
「そんな訳無いでしょ!?最後に食べようと思ったのよ!」
仕返しにフランのケーキを奪ってやろうかと思ったが、お皿は既に空っぽである。
「お粗末様でした。美味しかったのなら何よりです♪」
横にいる有能なメイドは何故かこう言いやがった。
かなり鼻血を出してるのは突っ込まない。
「イ…イチゴ……イチゴは無いの!!?このケーキにはあの甘酸っぱいイチゴが必要なのよ!?」
このふざけたメイドにイチゴを要求してみるが、
「すいませんお嬢様、先程ので最後です。」
実に申し訳なさそうに言ってくれた。
うん、言い終えた後も口が忙しそうに動いているのが何なのか問い詰めたい所だけど、先にやる事がある。
「……フランドール・スカーレット、立ちなさい。イチゴの恨みは何よりも恐ろしいのよ?」
ケーキを無理矢理口に詰め込んだ後、ドス黒い感情を吐き出して椅子の上に立ち上がる。
ちょっとバランスを崩しそうになって、落ちそうになったのは内緒である。
「イチゴ一つで見っとも無い…。まぁ、遊べるんなら良いけどね?」
妹も好戦的に獲物を構えて椅子の上へと立ち上がる。
ここで転び落ちる事を期待したが、空振りだった。
「イチゴの恨みぃ!
神槍『スピア・ザ・グングニル』」
「ケーキの食べカス付いてる奴なんかに負けないよ!
禁忌『レーヴァテイン!』」
二人がスペルカードを唱えた手前、咲夜が黙ってレミリアの口を拭いてくれた。暫く時が止まったような気がしたが、フランが笑いを堪えてる辺りただの錯覚だ。
顔が真っ赤になるのと同時に怒りはまさに有頂天である。お互い獲物を持ったスペルカードを構え、同時に飛び出した。
因みに、ここでもこけそうになったのは内緒。
「後片付けが大変そうですね…はぁ。」
つづけ
誤字報告 サイレントエレナ→サイレントセレナ
続きに期待します
いいぞもっと続け!
また読めて嬉しいです
続きも楽しみにしてます!!
誤字すいません。教えていただき感謝
期待しています
フラン、雨に打たれる+吸血鬼は流れ水を渡れない(雨に打たれると死ねる)
後は、分かるな?
でも、それを抜きにしたら非常にコミカルで読んでて楽しかったです。
小悪魔wwww