Coolier - 新生・東方創想話

下着のお話。

2011/08/17 20:18:10
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 霧雨魔理沙は魔法の森に住んでいる。

 幻覚キノコの瘴気漂う魔法の森に通常の人間が足を踏み入れることは珍しい。だからこの日魔理沙の家を訪
ねて来たのも通常の人間ではない、特殊な人間。

「はいはいはい、ちょっと待ってよー」

 ノックの音を聞き部屋に散らばるガラクタを飛び越えて玄関を開けた魔理沙の前に立っていたのは、彼女が
およそ想定していなかった人物。

「こんにちは魔理沙さん」

「あれ、早苗?なんだ珍しいな」

 魔理沙と対面してにっこりと微笑む緑髪の少女は東風谷早苗。普段、山の上の守矢神社で巫女をしている早
苗が魔理沙の家を訪れるのは確かに珍しいこと。というよりも訪れたのはこれが初めてであった。

「今、よかったですか」

「宗教勧誘じゃなければ歓迎だぜ。ま、とりあえず上がれよ」

「失礼します」

 魔理沙の家に早苗が立ち入ると、見計らったかのようにガラクタの山が音を立てて崩壊した。魔理沙はそれ
を気にせず、別のガラクタの山を掻き分けている。ほどなくしてガラクタの中から一人用のソファーが姿を現
す。

「ちょっといろいろ込み入ってるけど、まあそこに座ってくつろいでくれよ」

「……はい」

 そう告げて台所に飛んでいく魔理沙。途中でガラクタの山が新たに二つほど崩壊したが、気にする様子も無
い。
 魔理沙の家の様子は霊夢たちから聞いていたのだが、実情はその早苗の想像を上回っていた。ソファーに座
り所在なさげにガラクタの山を眺める早苗であったが、眺めただけで崩壊したので大人しく座っていることに
した。
 台所からはガラクタを捌くような賑やかな音が聞こえてきたが、しばらくしてそれが収まるとティーセット
を抱えた魔理沙が笑顔で帰ってきた。

「いくら探してもカップが一つしか無くってさ」

 魔理沙から渡された空のマグカップは場に似合わず清潔な物だった。マグカップに紅茶を注ぎ、自分のカッ
プにも同じように注ぐ魔理沙。
 早苗は思わず吹き出しそうになる。
 魔理沙が手に持つカップは、料理用の計量カップであった。


「さて、わざわざこんなとこまで来た用件を聞こうか」

「はい、率直にいいますと魔理沙さんに相談があって」

「あ、わかった。ツチノコが見たいんだろ」

「いるんですかツチノコ!?」

「どっかそのへんに居ると思うけど、最近は見かけないな」

 謎に包まれた謎生物ツチノコへの好奇心に目を輝かせた早苗だったが、魔理沙の家を訪れた理由とは全く関
係ないため自重して、話を本題に戻す。

「ツチノコはぜひ見たいですけど、それはまた後日としまして。魔理沙さん、最近霊夢さんの様子がおかしい
なって思いませんか」

「ん、どうかなぁ?私にはいつも通りに見えるけど」

「大きな目立つ変化じゃなくても、なんか微妙な変化とかも感じませんか」

「んー、特には……感じないかな」

 真剣な表情だった早苗は大きく溜め息を吐くと、気まずそうに俯いて手元のマグカップを弄び始める。

「その霊夢がおかしいってのが相談事なのか」

「ええ、言いにくいんですけど……最近、霊夢さんに私、避けられてる気がするんです」

「霊夢が早苗を避けてる?」

「はい」

「早苗の気のせいなんじゃないか?あいつに人を避けるなんて器用な真似できるとは思えないんだが」

「で、でも、最近話しかけても目を合わせてくれませんし、その癖、霊夢さんから変な視線を感じることもあ
りますし」

「たまたま疲れてただけなんじゃないのか」

「前の命蓮寺のみなさんの歓迎会の時なんて、一言も話してくれなかったんですよ!私が料理やお酒を薦めて
も、いらないって言うだけで!」

 感情が昂ぶり目尻に涙さえ浮かべる早苗を見て、魔理沙は考え込む。

「もし早苗の言うとおりだとしたら、確かに様子が変だな」

「ええ」

「それで、早苗としては私にどうしてほしいんだ」

 魔理沙の問いに早苗は再び俯いてしまい、小声で呟きはじめる。

「原因が、わからないんです。私には心当たりが無くて。……なにか私が知らないうちに霊夢さんに嫌われる
ようなことをしてたのなら、直さないといけないですよね」

「なるほど、つまり私が霊夢にそれとなく、早苗を避けてる理由を聞けばいいんだな」

 早苗は俯いたまま力なく頷く。

「おまえと霊夢が仲違いしてるのは私としても気持ちがいいもんじゃない。この件は私が円く治めるから、早
苗は大船に乗ったつもりで安心してればいい」

 魔理沙の差し出したハンカチを受け取り、早苗は作り笑いで大きく頷いた。



 
 博麗霊夢は、いつもと同じ日常として居間で煎餅を齧りながら寛いでいた。神社の巫女といっても、境内の
掃除やおみくじの補充などといった通常業務が終わってしまえば、あとは漠然と参拝客を待つだけである。
 いつもと変わらず今日も博麗神社に参拝客は訪れないので、巫女としてはすることが無い。
 だから居間でごろごろしながら出涸らしのお茶を飲んだり醤油煎餅を齧ったりしていても、なんら問題は無
いわけである。
 居間では暇潰しに遊びに来た魔理沙が霊夢と同じようにごろごろしたりお茶を飲んだり煎餅を齧ったりして
いたが、こいつは参拝客じゃないのでこれも問題無し。むしろ日常に含まれる。

「……なあ、霊夢」

「なに」

「いや、何でもない」

 魔理沙は煎餅を齧りながら苦戦していた。それとなく聞いてやるからと早苗には大見得切ってしまったわけ
だが、いざ当人を目の前にするとこれがなかなか難しい。
 霊夢が早苗を避けてる事が早苗の思い過ごしじゃなく本当だったとすれば、霊夢が悪者になってしまい気ま
ずい空気で会話を進めることになるし、早苗の思い過ごしだったとすれば早苗が裏でコソコソするような真似
をしたと見られて心象が悪くなる。
 一番避けたいのが、霊夢にはぐらかされること。どうせ事を荒立てるのなら、はっきり白黒つけなければ遺
恨を残すことになる。
 そう考えだすと、なかなか切り出しにくくなってしまう。魔理沙は先ほどから言い出しては引っ込めと、か
れこれ小一時間ほども堂々巡りを繰り返している。

「……霊夢、あのさ」

「なによ」

「あ、いいや何でもない」

 ドンと大きな音が響いた。霊夢が手に持った湯飲みをちゃぶ台におもいきり打ちつけた音である。

「さっきから何なのよ、言い出しては引っ込め言い出しては引っ込め、言いたいことがあるならはっきり言い
なさいよ!そういうの本当イライラする!!」

「いや、そのぉ……」

「大体あんた、ここに来た時からずーっと何か言いたそうな顔してたじゃない!なにか言いに来たんでしょ?
聞いてあげるから言いなさいよ、ほら!」

「あ、う、うん、まぁ霊夢がそこまで言うなら」

 魔理沙は居住まいを正し、咳払いをしてから切り出す。

「おまえ最近、早苗のこと避けてないか」

 最初はきょとんとしていた霊夢だったが、やがて苦虫を噛み潰したような表情になり、やがて大きな溜め息
を吐いた。

「なにか様子がおかしいと思ったら、早苗に頼まれたのね」

「いや、決してそういうわけじゃなく私の判断で……」

「取り繕ったりしなくていいわ、悪いのは私なんだし」

 早苗をフォローしようと慌てる魔理沙だったが、浮かない顔の霊夢を見て動きを止める。

「え、じゃあ早苗を避けてるってのは」

「避けてたわ」

「そんな、知り合いを急に避けるなんておまえらしくないじゃないか、どうしたんだよ!」

 魔理沙に問い詰められた霊夢は、唇を噛んで不機嫌そうな顔をする。

「だって……悔しかったんだもん」

「はぁ?悔しいって、何が!?」

「……下着」

 魔理沙は腕を組んで考え込んでしまう。話が飛びすぎて理解できない。

「あのな霊夢、私にもわかるように順番に話してくれないか」

 霊夢はコクリと頷く。

「この冬に、間欠泉から温泉が湧いたからって、みんなで温泉に浸かりに行ったじゃない。魔理沙も居たわよ
ね」

「ああ」

「その時、魔理沙も早苗の下着見たでしょ」

「うーん、確か見たと思うが」

「……どう思った」

 霊夢に言われて魔理沙は思い返す。確か早苗は魔理沙たちと違って、外の世界の下着を身に着けてたはず。
 外の世界でショーツとかブラジャーとか呼ばれている、体にぴっちりしていて肌の露出が多いタイプの下着。
 魔理沙たちにとっては初めて見る下着だったので、ちょっとした騒ぎになったことは記憶している。

「どうって、水着みたいだなって」

 煎餅が飛んできた。

「私は悔しかったの!だって下着姿の早苗ったらなんだか妙に色っぽくて、いかにも大人の女って感じだった
じゃない!!それに比べて私たちはカボチャみたいなパンツに何の変哲も無いシャツで、まるっきり子供みた
いで、それが負けたみたいで悔しくて……」

「いや、あの落ち着けって!」

 煎餅を次々投げながら心情を明かす霊夢を、魔理沙はなんとか宥めて落ち着かせた。

「つまりその下着が大人っぽかったから悔しくて、それで早苗を避けてたってわけか」

「……そうよ」

「何だよそれじゃ子供みたいじゃないか」

「どうせ子供ですよ」

 霊夢はプイっとそっぽを向く。

「早苗がこっち来てから、あの子わからない事だらけでよく私たちに相談してきたじゃない。だから無意識に
早苗を後輩みたいな目で見ちゃってたんだと思うの。それが下着になったら急に私のが負けてるってわかっち
ゃって、それできっと……余計に悔しかったんだと思う」

「それじゃあ早苗はなんにも悪くないんだな」

「まあ、そりゃ早苗に非は無いけど……」

「だってよ、聞いてたか早苗?」

 魔理沙に呼びかけられて、廊下の奥に隠れて聞き耳を立てていた早苗が晴れやかな笑顔で姿を現す。

「あ、早苗……」

「霊夢さん!」

 早苗は無邪気な笑顔を浮かべ、霊夢の手を両手で包み込んだ。

「霊夢さんの苦悩しかと聞かせていただきました。ここはこの現人神、東風谷早苗が一肌脱ぐべきではないか
と心得ます」

「そ、そう……」

「霊夢さん!!」

「は、はい!」

「作りましょう、下着!」

「下……えっ!?」

「幻想郷にはショーツもブラジャーも無いのですよね?だったら私たちで作りましょう!霊夢さんにぴったり
の可愛くて素敵な下着を!!」

 目を輝かせてガッツポーズで力説する早苗を見て、なんでこんなことになったんだろうかと乾いた笑いを浮
かべる霊夢であった。




 それから数時間後
 
 魔理沙、霊夢、早苗の三人の姿は魔法の森のアリス・マーガトロイド邸にあった。
 客間のテーブルを囲み魔理沙がアリスに経緯を説明する間、霊夢は居心地が悪そうにしながら黙って座って
おり、早苗は上海を捕まえようと奮闘していた。

「そこ、気が散るから止めなさい」

 怒られた早苗はしゅんとなって大人しくテーブルに着く。

「つまりその、早苗みたいな外の世界の下着を作ってくれってことね」

「ああ、その通りだ」

「私たちで作りましょうとか言って、結局アリスに頼むんだ……」

「それは仕方ないですよ、私も魔理沙さんもこんな複雑な裁縫できませんし、霊夢さんできますか?」

 ブラジャーを手に持った早苗に詰め寄られ、不満を漏らしたはずの霊夢はたじろいで黙ってしまう。

「ちょっと見せて」

 アリスは早苗から、参考資料のショーツとブラジャーを受け取って調べ始める。

「どうだ、出来そうか?」

「うーん、似たような物は作れそうだけど、ちょっと気分的に複雑なのよね」

「気分的に、ですか」

「ええ。これから霊夢と会うたびに、ああ私の作った下着を身に着けてるんだなぁって思っちゃうわけじゃな
い。なんだか落ち着かないわ」

「アリスさん、それは違います!」

 早苗はテーブルに手を突き、爛々と輝く瞳でアリスに訴えかける。

「これはビジネスです!!」

「ビジネス?」

「そうですビジネスです!そもそも霊夢さんの事と関係なく、ショーツやブラが幻想郷で調達できないと知っ
て私は困っていました。ドロワーズやシャツも試してみましたが、なにかこう無防備すぎるというかスースー
するというか、とにかく慣れ親しんだ感覚と違って馴染めませんでした。つまり霊夢さんだけでなく、私自身
もショーツやブラを必要としているのです。そして私だけでなく、外の世界の下着があるのなら身に着けてみ
たいと考えている方々は、潜在的にかなりの数になるかと予想されます!」

 猛烈な早苗のアジテーションに若干ヒキ気味のアリスだったが、ふと間欠泉温泉の脱衣場で見た早苗の下着
姿を思い出す。なるほど……ああいうのも悪くないかもしれない。とりあえず霊夢の下着で練習してみて、良
い感触だったら自分用に作ってみるのも、それはそれで楽しいのかもしれない。

「わかったわ、ビジネスは置いといて、とりあえず作ってみましょうか」

「作ってくれるか。助かるぜアリス!」

「じゃあ霊夢、寸法測るからあっちの寝室に来て」

「ふぇ!?」

 紅茶のカップに入れたスプーンをぐるぐる回してそれを眺めていた霊夢は、突然声をかけられて呆けた返事
を返しながら、促されるまま寝室に入っていった。

「下着なのに寸法測るの?」

「あなたと早苗じゃあ胸の大きさが違いすぎるのよ」

「うぐぐ」

「ほらさっさと服脱いで」

「え、服脱ぐって、全部?」

「下はいいわ」

「下着も脱ぐの?」

「ええ」

「……恥ずかしい」

「女の子同士でしょ、今さら恥ずかしがらない!」

「え、そうだけど、でも……」

 寝室から帰ってきた霊夢は、妙に焦燥した空気を漂わせていた。

「ううっ……胸を出して測られるとか、なんだか凄く屈辱を感じるんだけど」

「過ぎたことをとやかく言わない」

 ノートに数字を書き込んでいたアリスは、ショーツとブラを手に取る。

「ねえ早苗、この下着、採寸でバラバラにしちゃうけど良かった?」

「いいですよ、ビジネスのためですから」

「ビジネスねぇ……ま、いいわ。明日の今ぐらいの時間には出来てると思うから、適当に来て」

「わかった、期待してるぜ」

「なんか、玩具にされてる気分だけど」

「それじゃお邪魔しましたー」

 無邪気に手を振って帰ろうとする早苗はアリスに引き止められる。早苗の下げている巾着袋の中には、いつ
のまにか上海人形が詰められていた。




 そして翌日、再びアリス邸を訪れた三人。

「いらっしゃい、出来てるわよ」

 アリスの手によって完成したショーツとブラはとりあえずのところ上海の玩具となっていた。無言でそれを
上海から取り上げたアリスは、とりあえずと早苗に手渡す。

「ブラのホックのところはどうしようも無かったから、ボタンにしてみたわ」

「わー、一晩でここまでの物を作っちゃうなんて、アリスさん凄いです!」

 クリーム色のブラと、揃いのショーツ。細かい刺繍も施され、それぞれにワンポイントで小さな紅いリボン
が付けられている。霊夢の巫女服と同じ色の鮮やかな紅いリボン。

「下着にリボンなんて付けても、どうせ服着るんだから見えないじゃない」

 早苗の手にしたブラを横から眺めて不満を漏らす霊夢。アリスはそれに首を振って応える。

「お洒落は見えない所にこそ気を配るのが基本でしょ?霊夢も女の子だったらちゃんと気を配らないと」

「うぐぐ」

「それに誰かに見られないとは言い切れないですよ。霊夢さんに好きな男の人ができたら、あるいは……」

「へ?そ、そ、そんな!?」

 意地悪そうに微笑む早苗の言葉を聞いて、霊夢は耳まで真っ赤にして照れてしまう。
 
「まあ、とにかく霊夢に試着してもらおうぜ」

「え、ここで?」

「もちろん」

「も、持ち帰って一人で試着するからいいよ……」

「何を言ってるんですか!」

 憤慨した早苗がテーブルを叩く。

「霊夢さんのためにみんな動いて、アリスさんなんて徹夜で下着を作ってくれたんですよ」

「いや、普通に寝たけど……」

「とにかく、動いてくれたみんなのために、霊夢さんは新しい下着を着けてお披露目する義務があります!」

「ううっ、みんな悪ノリしてるだけでしょ……」

「まあまあ、元はと言えば霊夢が撒いた種だし」

「わかったわよ、もう!」

 半ばヤケクソになりながら、霊夢は下着を手に寝室へと消えていった。

「これ、どうすんのよ!背中にボタンがあったら留められないじゃない!」

「前で留めてから背中に廻すのよ」

「そういうのは先に説明してよ!」

「……」

「ねえ、これ……お尻が全部隠れないんだけど」

「それはそういうもんですよ」

「え、そういうもんなの!?」

「そういうもんです。というか試着終わりました?」

「ん……なんだかきゅうきゅう締め付けられるみたいで変な感じなんだけど」

「そういうもんですよ」

 暢気に言いながら早苗が寝室のドアを開けると、霊夢が「きゃっ!」と短い悲鳴を上げてしゃがみ込む。

「きっ、急に開けないでよ!」

「わ!すごく可愛いですよ霊夢さん!」

 早苗がぱたぱたと近寄って、霊夢の肩を持って立ち上がらせる。

「ちゃんと立ってみんなに見せないと駄目ですよ」

「体の線が見えちゃって、すごい恥ずかしいんだけど……」

「なに言ってるんですか、女は見られて綺麗になるんですよ」

 顔を真っ赤にしながら、もじもじと居心地悪そうに立ち上がる霊夢。
 小柄な体を柔らかく包む布地は最低限の面積しかなく、裸を晒しているのと大差ない。そのことが余計に意
識されてしまい、霊夢は強い羞恥を感じていた。

「おっ、なんか見違えたな」

「サイズも丁度いいみたいね」

「なんか、胸が窮屈な感じなんだけど……」

「慣れてないだけなんじゃない?胸が大きく見えて、似合ってるわよ」

「そ、そう?」

「ああ、急に大人っぽくなったみたいで綺麗だぜ」

「あ、ありがとぅ……」

 魔理沙とアリスに誉められて、霊夢は俯きながら照れ笑いを浮かべる。

「外の世界の下着が手に入って、これで霊夢も早苗に引け目を感じることもない。一件落着だな」

「いいえ、まだです!」

 早苗の強い語気に、アリスと魔理沙が向き直る。

「一回り大人になった霊夢さんの魅力を殿方に見せ付けて、魅了してやるんですよ」

「は?なにを言ってるのかよくわかんないんだけど」

「いいから服を着てください霊夢さん。準備ができたら香霖堂に行きますよ」

「え……えぇっ!霖之助さんと会うの!?」

「はい、会うんです!」



 
 魔法の森の入り口に店を構える香霖堂。滅多に人の訪れないこの店の前に、四人の少女が集まっていた。

「がんばってくださいね霊夢さん」

「そんなこと言ったって……ねぇ、服着たら同じじゃない?」

「そんなことないぜ!なんだかいつもより色っぽい」

「そう?本当に?」

「自信を持ちなさいよ」

 一同に励まされて、霊夢は店の入り口を開ける。ガラガラという引き戸の音に反応して、カウンターで読書
に耽っていた霖之助が顔を上げて、恐る恐る入ってくる霊夢と目を合わせる。

「霊夢か、いらっしゃい」

「こ、こんにちは」

 香霖堂に来たのはいいが、霖之助は霊夢を認めると再び手元の書物に目を落としてしまい、霊夢は所在無く
ただ立ち尽くすしかなかった。

「……」

「……」

「……」

「……あ」

 長い沈黙の時間を終わらせたのは霖之助だった。

「お茶を出さないとね、霊夢も麦茶でよかった」

「は、はい」

 奥の台所から薬缶を持ち出し、湯飲みに注いだ麦茶を手渡す霖之助。

「それで、今日は何か用だった」

「いえ、用ってわけじゃ……」

 この時になってようやく、霖之助は霊夢の様子がいつもと違うことに気がつく。顔は上気して俯き気味、落
ち着き無く浮ついた様子で、好意的に捉えればいつもより幾分しおらしい。

「あの、霖之助さん」

「なに?」

「…………ぅ」

 聞き取れないほどの小声だった霊夢の呟きは、霖之助には聞き取れなかった。

「よく聞こえなかったよ、もう一回言ってくれないかな」

「私……どこかいつもと……違って見えませんか?」

 消え入りそうな霊夢を眺めて霖之助は考える。こういうのは確か書物で読んだことがある。直接にこれこれ
こういう変化があったと告げるのではなく、あえて正解を伏せて異性に気がついて欲しいという複雑な女性心
理の表れだとかなんとか。こういう場合、もし変化に気づけて正解を言い当てれば女性は機嫌が良くなるが、
万が一にも正解を言い当てられなければ、その女性の心は深く傷つくことになる。
 霖之助としても他ならぬ霊夢の心を傷つけるのは不本意だ、できることなら上機嫌でいてほしい。それ故に
返答には細心の注意を払う必要があった。
 しかし勤勉な霖之助は、先んじて書物から正解を得ていた。このような場合、どう答えればいいか既に知っ
ていた。備えあれば憂いなしである。

 霖之助は霊夢の目を見つめて、唯一無二の理想的な回答を答える。

「髪、切ったんだね、似合ってるよ」

「……へぇ!?」

 次の瞬間、おびただしい数の陰陽玉が霖之助に降り注いだ。霖之助の視界は一瞬にして陰陽玉に覆われ、悲
鳴を上げる間も無く霖之助の意識は途絶えた。

 泣きながら香霖堂を走り去った霊夢を魔理沙と早苗が必死で宥めたことなんて、もちろん知る由も無い。




 その後、どうなったかというと。

「なあ霊夢、今もアリスの作った下着つけてるのか?」

「うーん、あれも悪くないんだけどちょっと窮屈でね。普段はいつもどおりの下着にしてるわ」

「ふーん、そうか」

 紆余曲折あったが、結局のところ霊夢の下着騒動は元々の状態に収まった様であった。大人っぽい下着に憧
れるものの、やはり普段は慣れたいつもの下着がいい。少しだけの時間大人の気分に浸れた、霊夢はそれだけ
で満足だった。
 アリスが霊夢のために作った下着は、いざという時のために取っておく下着として、箪笥の奥に大切に仕舞
われている。どんな時がいざという時なのかまでは考えていないようだが、このような下着のことを外の世界
では「勝負下着」と呼ぶということも、霊夢はもちろん知らない。

 魔理沙にも霊夢と同様に、大人っぽい下着への興味があった。正確には霊夢の下着姿を見て興味が芽生えた
わけだが。
 しかし興味があっても、気恥ずかしさがあって切り出せないでいた。顔なじみのアリスにそれを頼むことが
どうにも踏ん切れない。もし頼めば着せ替え人形のように遊ばれてしまうんじゃないかという懸念があった。
 実のところ気恥ずかしさの根底には大人に近づくことへの恐怖心があるのだが、魔理沙本人はそのことには
気づいていなかった。


「アリスさん、こんな感じの考えたんですけど」

「あ、可愛いわね。でも刺繍が難しいかも」

「できないですか?」

「ん、少し時間を貰えれば大丈夫だと思う」

 早苗とアリスは見えないお洒落を楽しんでいた。早苗は正式にお客さんとしてアリスに下着を頼むようにな
り、様々なデザインを持ち込んでアリスに製作してもらっていた。
 もちろん妥当な代金を支払っているので、アリスとしても手軽な副業といった感覚で楽しめていた。
 もし今後、外の世界の下着が流行るようなことになればアリス一人が手作業で作っていては供給が間に合わ
なくなるのかもしれない。だが、それはその時になってから考えればいいとアリスは思っていた。
 また、アリス自身も自作のショーツとブラを身に付けるようになっていた。見えないお洒落として。

「じゃあ一週間後でいいかしら」

「ええ、お願いします。それじゃあ」

「あ、巾着の中身は置いていってね」

 早苗の下げている巾着袋の中には上海人形が詰められていた。




 終








 
発作的にこういうのが書きたくなる夜。
生煮え
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コメント



0.1640簡易評価
2.80ぺ・四潤削除
霊夢があんなにしおらしくなるなんて下着の効果すげぇ。
下着は乙女の戦闘服。防御力を攻撃力へと振り替えるのです。
しかし香霖が不憫だww
あと早苗さんは上海一体作ってもらえww
3.80コチドリ削除
霊夢がさらしとドロワ以外を身に着ける? 宇宙の法則が乱れるぜ。

そう思っていた時期が俺にもあったんだが、恥らう彼女を見るのは悪くない。うん、全然悪くない。
ただ何というかな、非常に抽象的な物言いで申し訳ないんですけど、
こう、イヤらしくなくそれでいてねっとりとした甘酸っぱい成分が若干足りない気がするんですよ。

同志霖之助は良い。女性から見たらあほんだらな反応なんだろうけど、とっても共感を覚えます。
5.80奇声を発する程度の能力削除
このドタバタ感が面白かったです
7.90名前が無い程度の能力削除
変形して下着になる上海とか作ってもらえばいいんだよ早苗さん!
15.無評価名前が無い程度の能力削除
霊夢さんがかわいいです
16.80名前が無い程度の能力削除
点数忘れ
22.100名前が無い程度の能力削除
上海、、、、、