注意:大崩壊紅魔館
吸血鬼には食事が必要無い。
正直、血さえ補給出来ればそのほかの雑多な物の摂取は必要ない。
だがそれではやはり味気が無い。人間で言う食欲は吸血鬼にもあるのだ。
だから紅魔館にも食事の時間が定められていて、夕食は午後の八時からと決まっていた。
それは館の主人が睡眠から目覚めて、丁度意識が程良く覚醒する時間だからだ。
目覚めたレミリアは何時もの様に食堂へと移動して、何時もの様に控えるメイド長に今夜のメニューを聞く。
「メイフラ丼でございます」
対してメイド長が告げたのはそんな言葉であった。
「……?」
言葉にレミリアは怪訝な顔をする事しか出来なかった。
「それが今夜のディナーか? 聞いた事が無い料理だな」
そう疑問を浮かべるレミリアにメイド長は澄まし顔のままで一言。
「実物を見ていただくのが一番かと」
そう言うのだった。彼女の表情からは何も読み取れない。いつも通りの澄まし顔。
メイド長十六夜咲夜。完全で瀟洒なメイド。人間でありながら誰よりも優秀で、紅魔館においてレミリアが最も信頼している者だ。
ただ変態である事がたまに傷であるがそちらはスイッチが入らない限り問題はない。
「そうか」
だからレミリアは特に疑問を挟まなかった。咲夜が用意する物でおおよそ間違いはあり得ない。
少なくともそれほどには信頼を置いていて、咲夜も信頼にたがえた事はなかった。
だからそれが出て来た時は何の冗談なのかとレミリアは言わざるを得なかった。
「冗談などではございません」
相変わらずの澄まし顔で咲夜がそう告げる。
レミリアの目の前に鎮座する物はどんぶりであった。それだけならおかしい訳ではない。
ただそのどんぶりは大きかった。外見幼児であるレミリアよりもはるかに大きい。
ただでさえ高い紅魔館の天井に届いてしまいそうな大きさで、数人ならすっぽり入ってしまいそうであった。
とりあえずレミリアは困惑し、それから飛翔してどんぶりの中を覗いてみる。
「………」
中を除いたレミリアはとりあえず反応に困るしかなかった。
畳が敷いてあった。そのスペース二畳ほど。そこに布団が敷いてあってその上に縛られ猿轡を噛まされた美鈴が転がっていた。
そしてその横に正座をしているフランドールがなんだか場違いな程に良い笑顔をレミリアに向けていた。
「何よこれ」
とりあえず中に降り立ち空いている場所に腰掛けると何処から取り出したのかフランドールがお茶碗一杯のご飯と箸を渡してくる。
「メイフラ丼だよ、姉さま」
レミリアは思わず受け取って、それから視線を巡らすと縛られ転がされている美鈴と目があった。
何やら怯えている様子でその視線は必死に助けを求めているようであった。
「説明するね」
「ああ」
とりあえずレミリアはフランドールにならって正座。
左手にお箸、右手に茶碗。そうともレミリアは左利きであったのだ。
「まずね、私と美鈴が此処でにゃんにゃんするの」
ともあれフランドールが説明を始める。
「……お姉さま?」
何故かげんなりした表情のレミリアにフランドールはしばし考え得心したようにぽんっと手を打つ。
「ああ、えっとね。にゃんにゃんと言うのはセック……」
「そこまでよ」
とりあえず妹の言葉を止めてレミリアは深いため息をつく。
レミリア自身、最近知った事なのだがフランドールは変態だったのだ。
その性癖は気が触れている、ではなく自制が切れている、であったのだ。
最近ではその対象は主に門番に向けられていて、今回の件もその延長なのだろう。
「やめなさい、と言うかどうして妹のセック……にゃんにゃんを見てご飯を食べなくてはいけないの?」
「おかずになるでしょう?」
「ならないわよ」
「興奮するでしょう?」
「しないわ」
フランドールは信じれらないかのように首を軽く左右に振る。
「お姉さまは不感症だったのね」
「違うわ!」
溜息をつくフランドールを見て呆れたのは此方だとレミリアが顔を歪める。
というか本当にこいつは、世間に広まる噂の通りに閉じ込めておくべきなんじゃ無いかとふと思った。
「じゃあ、にゃんにゃんを見てご飯を食べる事が出来るよね?」
「そういう問題じゃないでしょう、それに、美鈴は嫌がっているようだけど」
哀れにも縛られた美鈴は布団の上で芋虫よろしくもがいていた。
縄はあちこちに食い込んで、豊かな胸やむっちりとした太ももをことさら強調している。
「嫌よ嫌よも好きのうち、だよ。清楚で可愛い美鈴が私の手によって発情した雌犬に変えられていく様を楽しんでよ」
「あんた無邪気な顔してなんて事ぬかしてるのよ」
「あ、ご飯冷めちゃうよ、さあさっそく」
フランドールが美鈴にのしかかりその服を脱がそうとする。
「……ふふ、美鈴、堕としてあげる。もう私しか見えなくなってしまう様に」
妖しい笑みのフランドールが美鈴の耳元でそう囁く。美鈴は体を震わせてむーむーと呻き声をあげていた。
目の前に広がる惨状を受けて、流石に看過できないと助けるべくレミリアが立ち上がりかけて……。
突然、フランドールの姿が消滅した。
「失礼いたしました」
傍に控えるは咲夜。彼女の声は何時も通りに平坦。
「メイフラ丼は好みに合わなかったようですね。この咲夜一生の不覚」
「まったくよ……」
レミリアが胡乱気な目を向けるも咲夜は相変わらず澄ましたままだ。
「さっそく代わりの物を用意いたします」
「ああ、とりあえず美鈴の縄をほどい……」
言葉が言い終わる前に咲夜の姿が消える。
「ふふ、美鈴……」
レミリアが視線を巡らすと、既に咲夜は布団に座り込み、美鈴に優しく手を這わせていた。
なかなかのテクニシャンらしく先ほどとは違いぴくんぴくんと美鈴が体を振るわせていた。
「おい……」
レミリアが再びげんなりした表情を浮かべた。
ああ、こいつ変態やる気スイッチが入ってしまったかと。
「メイフラ丼ではなくめーさく丼がお好みでしたのでしょう。やはりじゃんけんで負けたからと妥協すべきではありませんでした」
「じゃんけん……いやいやそうではなくてね」
「ご安心を、私は妹様の様に強引に美鈴を奪ったりはしません。
優しく愛をささやいて、恋人の様に甘い愛撫の果てに、徐々に堕としていきますから」
咲夜は珍しくにこりと笑顔を浮かべると宣言する。
「さあ、紅魔が誇る紅と銀の狂乱。とくとお楽しみを」
「とくとお楽しみをじゃないわぁぁぁぁ!」
咄嗟にレミリアの投げつけた生温くなったご飯が、咲夜の顔面に炸裂した。
とりあえずどんぶりから出たレミリアは眉根をほぐす様に指をあてる。
彼女の近くにはつまらなそうなフランドールが座り込み澄まし顔の咲夜が控えている。
ちなみに美鈴は縄こそほどいたが未だにどんぶりの中だ。
どうも誰かと一緒に一時間中で過ごさないと出れない呪縛が掛けられているらしい。
美鈴も美鈴で関節を外したり、あやしい妖術を使って逃げ出そうとしたらしく防止策を掛けられてしまったそうだ。
「貴方達ねえ」
重々しい声でレミリアが告げる。
「もうちょっと常識を考えて欲しいわ」
そう言いつつおかしくなってしまったとレミリアは嘆く。私の紅魔館がおかしくなってしまったと。
それはいつからだと。ああ、それは少し前の事。
美鈴は実は烏龍茶の妖怪だ。元の姿はペットボトル烏龍茶。中身を飲めばその量に応じて姿を変える。つまりは幼くなる。
先日、幼くなった美鈴を前にしたこの二人がおかしくなって以来、その状態は続いていた。
「申し訳ありません」
「うむ……」
咲夜が首を垂れる。
彼女にしては珍しく後悔と戸惑いの混じるその様子にレミリアは頷いた。
反省したのであれば許そうと。過ちは繰り返さなければ良いのだと。
「ですが、美鈴のカップリングはメイフラ及びめーさくがメジャーでありそれ以外は」
そして心底困惑した様子で咲夜がそう言葉を続けた。
「ちょっと貴方が何を言っているのかが分からないわね」
違うだろうと内心レミリアは突っ込み、それを知ってか知らずかフランドールが口を挟む。
「もしかしてお姉さまは自分が美鈴とにゃんにゃんしたかったの?確かにめーレミは……」
「違うから、あのね……」
「任せて!理解したわ」
何かを言いかけたレミリアを誰かの声が遮る。
「パチェ……」
何時の間にやらそこにいたのは魔女だ。レミリアの親友であり大図書館の主。
知識と日陰の少女パチュリー・ノーレッジ。
「めーパチェをお望みなのね。美鈴はあまり好みじゃないけどレミィの頼みなら……」
両手を頬にあて照れたように体を揺らす大図書館。
「まさかレミィがNTRをお望みだったなんて……」
その姿はかつての常に冷静で淡白な、だが何よりも頼りがいのあった姿からはほど遠い物だった。
そう、あの日以来、彼女も変態となり果ててしまっていたのだ。
「燃えるじゃない!」
「はいはい、もう図書館に帰ってね」
身も蓋もなくレミリアは親友をあしらってどうしたものかと視線を再び戻す。
見やると咲夜が手元で何かをいじっていた。
「携帯電話?」
不思議そうなレミリアの声に咲夜が応じる。
「はい、そうでございますわ」
「何時の間にそんなものを……と言うか幻想郷で使えるの?」
レミリア達が幻想郷にやってきたのはほんの数年前だ。
故に携帯電話の事は知っていたが、それは外の世界の物。
電波の関係で此方で使える訳ではないはずだと言う事も知っていた。
「最近では河童達が電波塔をたてているのです、外の世界とも通信できるのですよ」
「あら、そうだったの」
「メル友もできたのです、今その方達に相談しているのですよ」
「へぇ……メル友ねえ」
「はい、うさぎレンコンさんと前張りーあは~ん♪さんです」
「本当にそんな名前の奴がいるのか?」
レミリアの疑問に答えずに咲夜は、返事が来ましたと告げる。
しばらく画面をいじると彼女は告げた。
「雲霖丼などお勧めだそうです」
「またどんぶり? なによ、その雲霖丼と言うのは?」
「はい、説明しますと。香霖堂の店主と命蓮寺の入道のねっちょ……」
「ああ、もう説明しなくていい、却下……」
「異議あり!私は霖雲丼を提案……」
「パチェは黙ってて!」
「腐ってやがる……早すぎたんだ……」
「何か知らないけどしたり顔はやめなさいフラン!」
好き勝手に喚き始める面子に頭痛を感じたレミリアは頭を抱えて蹲る。
「カリスマガードですわね」
「違うわ!」
とりあえず、まずは美鈴を助け出そうと。せめてまともに話の通じる誰かが味方に欲しいと。
話し合うのはその後でいい。だが、助けるにしてもこの中の誰とでも一緒に入れてしまうと彼女が危ない様な気がした。
「ちょっと美鈴を助けてくるわ」
それ故にレミリア自身が入るというのは当然の決断。
「お嬢様」
ふわりと飛翔するレミリアに咲夜が驚愕したような声をあげる。
「やはりお嬢様も美鈴を狙って……」
「違うわ」
「お姉さまだけずるい!私も美鈴の豊満な体を弄びたいよ」
「違うって言ってるでしょ!」
「じゃあ、合間を取ってなかよく5Pで……」
「黙っててって言ってるでしょ!?」
思わず声を荒げレミリアは飛翔を解除する。
それからぐりぐりとこめかみを指で押さえながら三人へと告げた。
「そんなに持て余しているのならば三人でにゃんにゃんしていればいいでしょうに、誰も止めないわよ」
言葉にパチュリーとフランドール、咲夜が眉をひそめる。
「な、何よ」
その様子にレミリアは怪訝そうな様子を見せた。
彼女らはそれぞれ呆れたように呟く。
「誰が変態など望むというのですか?」
「変態なんかごめんだよ、あたりまえじゃん?」
「変態はちょっと、ねえ分かるでしょうレミィ?」
「お前らもう部屋に帰れよ!」
とレミリアの絶叫が響き渡った。
レミリアが再びどんぶりの中へ降り立つと、美鈴は布団の上で正座をしたままだった。
俯いたまま顔を上げずに微かに震えている。
無理もないとレミリアは思う。あんな仕打ちを受けたのだ。
彼女の受けた心的苦痛は同じ女性として痛いほどに理解できた。
「美鈴……」
レミリアは美鈴を刺激しないように控えめに声をかける。これから一時間共に過ごさねばならない。
その間は彼女の主人として、美鈴を慰めて少しでも心を癒すのが務めだと思った。
「美鈴、私よ、顔を上げて」
「………」
声にも反応する事無く美鈴は俯いたままだ。
そんな美鈴にレミリアはゆっくりと近づいて行く。
そしてその顔を覗きこんだ。
「~zzz」
「寝てるのかよ!?」
「ふぁ…!?」
レミリアが思わず声を上げて、それに反応したのか美鈴が寝ぼけ眼を開く。
「あ、お嬢様」
「はぁ……」
レミリアは溜息をつくと美鈴の傍へと無造作に腰かける。
「その様子なら大丈夫みたいね」
「え?」
呆れたように笑みを浮かべてレミリアが続ける。
「さっきの事よ。酷い事をされてショックを受けていないか心配だったのよ」
「お嬢様、心配して下さったのですか?」
「まあね」
美鈴が感動の面持ちをレミリアに向ける。
お優しいのですねと嬉しそうに笑みを見せた。
それから右手で心配無いとでも言うようにガッツポーズを作る。
「大丈夫です。あれくらい日常的な物ですから」
「それもどうかと思うけど……まったく」
何かおかしくてレミリアが自然と笑みをこぼす。
和やかな空気が流れてレミリアは体の力を抜いた。
「ところでお嬢様」
「何よ?」
「貴方が此処に来たという事はつまり……」
なんだろう、嫌な予感がするとレミリアは思う。
「めーレミ丼に変更になったのですね」
「いやまて」
「わ、わたしお嬢様相手であれば……」
「お、落ち着け!?」
咄嗟の事に対処が遅れたレミリアに美鈴が四つん這いで近づく。
「お嬢様、私、貴方に中身を飲まれた時から実は……」
「瞳を潤ませないで!?熱っぽい吐息を吹きかけないで!?胸を押しつけないで!?」
「お嬢様ぁ……」
「貴方だけはお願いだからまともでいてよぉ!?」
もはや陶酔した様子の美鈴にレミリアの言葉は届かない。
美鈴から漂う酷く甘い血の匂いがレミリアの本能を刺激し、自由を奪う。
必死に吸いたいという欲求に抗ってレミリアは何とかその身を押し返した。
それから飛翔。一目散にどんぶりから外へと出る。
瞬間に……。
「やっぱり美鈴はやらせない!きゅっとしてドカーン!」
どんぶりが粉々に粉砕する。見やれば眼下には手を握ったフランドール。
「お嬢様、やはり美鈴に手を出そうとしていたのですね?」
粉砕したどんぶりの跡地の美鈴の様子を見て澄まし顔だがどこか剣呑な咲夜。
「お嬢様ぁ……」
どこか恍惚としていて、ふらふらと立ち上がる美鈴。
「ああ、やはり5Pなのね?」
うっとりとしたパチュリー。
それらがレミリアを囲むように飛翔する。
「お、お前達……」
レミリアが顔をひきつらせる。
どうしようもないと、レミリアは思った。
こいつらはもうどうしようもない、彼女の知っていた紅魔館は無くなってしまった。
ならばやる事は一つ。主人として皆を更生してやるだけだ。逃げるつもりなどさらさらない。
高まる緊張感の中、咲夜が口を開いた。
「お嬢様、戦う前に一つ言っておくことがあります。貴方は私達が美鈴だけを狙っていると思っているようですが別にお嬢様でも大丈夫です」
「な、何だって……」
「そして、図書館の小悪魔は事態を察知して魔界に逃げ帰ってしまいました、あとは私達を倒すだけですね、ふふふ……」
(ゴゴゴッ……)
「フ……上等だ……私も一つ言っておくことがある。この話は美鈴をいじる話の様な気がしていたがそんなことはなかったわ……」
「そうですか」
そしてレミリアは腰を落とし臨戦態勢を取った。
応じて四人もそれぞれの構えを取る。
「さあ来てください、お嬢様!」
「さあ掛かってきなよお姉様!」
「さあ熱い夜を過ごしましょうレミィ!」
「さあ想いを受けとめてくださいお嬢様!」
「いくぞぉ!うぉぉぉぉぉ!」
「よっしゃぁ!!THE ENDォォォォ!!」
-終-
レミィの勇気が紅魔館を救うと信じて。
………ご愛読ありがとうございました。
2度目までは許されるが一つ文句がある
触手持ちの小悪魔さん大活躍の機会を省くのはダメだろうと
あと咲マリ丼をもらえないか?
ところでゆーめい丼はないんですか?
ふぅ……さて、咲みょんってのはないですかね?
ところで・・・めいゆか丼はまだなのかね?
触手小悪魔は魔界で魔理沙と幸せになるんだよきっと
いや、マジでみたらし餡を飲んで(食って)しまいましたよ。
みたらしいお団子様 何か嫌なこととか疲れるようなことがあったのかと心配なのですが、大丈夫ですか。
作品は相変わらずお茶を吹k ではなくてみたらし餡を吹くような面白さでした。
あ、みたらし餡を2人前ほどくださいな。
小悪魔何故逃げたし。
こういうHENTAIな話も好きですけど、真面目な話も読みたいです。みたらし先生!
そしてソードマスターオチかと思いきや、タカヤが混じってるだとww
こ れ は ひ ど い
私にもめいゆか丼を一杯頼む
最近は夏なのに気温が低めなので、出来れば早めにお願い致します
>>美鈴が感動の面持ちを美鈴に
フランの「腐ってやがる」で吹いてしまった悔しいw
ちなみに俺はめーちる丼でヽ(´∀`)ノ
今日の夕方、人が結構いる電車の中、ケータイでこの作品を読んでたわけですよ
画面を見ながら妙に顔がにやけていた私が、突然「ぶふっ」と吹き出した時の周りの視線はどういうものだったか察して下さい
要するに、絶 対 許 早 苗
ちなみに私はメイフラ、というよりフラメイでご飯何杯でもいけます
「うさぎレンコンさんと前張りーあは~ん♪」さん、外の世界には雲霖というものがあるのですかww
よっしゃぁじゃねぇよw
ええい、お嬢様もそのまま堕ちてしまえっ!