全ては、最悪のタイミングだった。
メンバーが揃い、これから皆でやっていこう、という矢先での出来事だった。
フランドールチームのメンバー及び、今回現場に居合わせた輝夜、永琳、慧音の三名を小悪魔案内のもとそれぞれ来客用の個室へ送り届けた後、パチュリーは一人図書館の書斎で考えていた。
今後チームをどう纏め直すか、どうしたらフランドールを再びマウンドに立たせてあげる事が出来るか。
しかし、いくら考えても妙案は浮かんでこない。
というより、パチュリー本人も未だ受けた衝撃が抜け切らず、整理がつかないのである。
昨日のあの出来事はフランドールだけでなく、チーム全体にも多大なショックをもたらしてしまった。
ボールが跡形もなく消えてしまう程の、圧倒的『破壊』。そんなものを目の前で見せられてしまったら、如何にメンバー達が猛者ぞろいであっても、チームから去ろうとする者が出てくる可能性が高い。
しかし、もしそうなってもそのメンバーを責める事など出来ない。
当然である。何故なら、いつ『壊されても』おかしくない状況下でのプレーなど、強要出来るはずがないのだから。
「………」
そして何よりの問題は、フランドール本人だ。
元々、自分の力で誰かを傷つけるのが怖い、という自らの考えでフランドールは地下に籠もった。
そうしている内に段々と力の制御を憶え、ここ数十年で漸く落ち着かせる事が出来るようになっていた。
そんな中での、頼れるメンバー全員が見ている前で起こした、能力の暴発。
「――パチュリー様、コーヒーをお持ちしました」
「ええ……ありがとう」
思い返せば、この話が舞い込む前のフランドールは、どこか冷めた雰囲気のある少女だった。
常に一歩引いた物腰に、大人びた口調、それがパチュリーの知るフランドールだ。
しかし、ここ数日の彼女はどうだったか。
何をするにも好奇心を隠さず、嬉しい時は飛び上がって喜んで――そう、その姿は見た目相応の幼い少女そのもの。
その事に気付いていない訳ではなかった。
ただ、新しいものずくめのこの日々に対して、当然の反応か、と、特に気に留める事はなかった。
そしてその結果――
――あ……ああ……
――フラン、待って! 落ち着いて! フラン! フランっ!
――いやああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
止めることが出来た筈なのに……そんな考えが頭を巡り、パチュリーはぎゅっと拳を握り締める。
「パチュリー様、もうお休みになられた方がいいのでは」
「……ねえ、こあ」
「はい」
「私、レミィに何て言ったらいい……?」
「………」
「レミィに言われたの……。『フランの事、お願いね』って、そう言われたの……。でも、私は……!」
「パチュリー様」
「私は、フランが傷付くのを止められなかった! 能天気に自分も楽しんで、何もしてあげられなかった! 私のせい……私のせいで、あの子は……傷ついて……」
堰が切れたように、パチュリーは小悪魔に縋り付いて涙を流す。
様々な重圧や責任、積もりに積もったそれに圧し潰されかけていた。
かつて見たことのない弱々しい姿の主。自分も二筋の涙で頬を濡らしながら、小悪魔は言う。
「パチュリー様、例え世界中がパチュリー様の敵になったとしても、私は貴女の味方です」
「う……う……」
「大丈夫、きっと道はあります。だから、諦めないで一緒に頑張りましょう……!」
そして、か弱く震える主の体を、優しく抱き締めるのだった。
野球しようよ! SeasonⅦ
九人目のメンバー、橙の正式加入を盛大に祝った後、さとりとこいしは地霊殿への帰路についていた。
泊まっていかないか、と幽々子に誘われた二人だったが、これ以上ペット達に淋しい思いをさせられないから、と断り、こうして我が家に戻ってきたのである。
「ただい――」
「さとりさまあぁぁー!!」
「こいしさまあぁぁー!!」
「わっ!? ち、ちょっとお燐……!」
「ただいまお空ー! ほーら、泣かない泣かない!」
二人が玄関をくぐった瞬間、主人達に群がるお燐とお空を始めとするペット達。
というのも、こいしはともかくさとりが一日以上館を離れることが今まで殆どなかったため、捨てられたのではないか、と不安になっての行動だったようである。
第三の眼でそんな心情を読み取ったさとりは、あまりに予想どおりの反応に苦笑しながらペット達の頭を優しく撫でてやる。
「にゃ……」
「馬鹿ねえ、私があなた達を捨てる訳がないでしょう? ね、こいし」
「もっちろん!」
「うう~……」
「ほらお空、いつまで泣いてるの。それより、今日は久しぶりにみんな揃ってご飯にしましょう」
さとりの言葉にペット達の悲しげだった表情は消えてなくなり、一同は揃って笑顔で地霊殿の廊下を食堂へ向かって歩き始めた。
薄暗い空間の中にステンドグラスが張り巡らされた不気味な廊下だが、皆が笑顔だとそんな不気味さは薄まり、綺麗で幻想的な印象である。
「こいしさま、昨日今日の練習どうでしたー?」
「投げましたー?」
「さとりさま、勝ちましたかー?」
「儲かりまっかー?」
広い屋敷に比例して長い廊下の道中、姉妹は目まぐるしい質問攻めに晒される。
元々野球と付き合いが深かった地霊殿のペット達だから、二人から聞けるその手の話は何よりの楽しみなのだ。
加えて、今回はそれが二日分。期待する目の輝きも口数も二倍である。
「こらこらあんた達、さとり様とこいし様困ってるでしょ。そーいうのはご飯の後、わかった?」
一同「ブーブー」
「ブーブー、じゃない。あんまりしつこいとぶっ殺してあたいのコレクションにしちまうよ!」
そんな中、自身も色々聞きたい気持ちを抑えて、お燐が姉妹に群がるペット達を戒める。
放任主義のさとりや基本不在のこいしに代わって地霊殿のまとめ役を勤めるだけあって、牙と爪を立てた姿は物騒な言葉と相まって中々の迫力だ。
「お燐、いいのよ。何にも伝えずに丸一日家を空けた私のせいでもあるから」
「んー、そうですかねえ?」
「ええ。ね? こいし」
「そうそう! お姉ちゃんのせいだからいいのだー!」
「いいのだー!」
「こ、こらお空、調子に乗るんじゃないよ」
「ふふ、いいのいいの」
「にゃ……」
さしものお燐も、ご主人に優しく頭をなでなでされては頬を赤らめて引き下がるしかない。
そんなお燐の、さとり様大好き、という心の声と、私も私もー! というペット達の心の声に、さとりは嬉しそうな笑みを溢す。
そうこうしているうちに歩は進み、長かった廊下が目的地を見せはじめた、その時だった。
「――え……?」
何の前触れもなく反応した、第三の目。
お空と手をつないでスキップしていたこいしの動きがぴたりと止まる。
「――? こいし様?」
「………」
それは、紛れもない『心の声』だった。
ただ、それは声と呼ぶには余りに微小なものだったため、聞き取ることは出来なかった。
今の自分には聞けるはずのない、心の声。胸元の薄く閉じられた第三の目は、今はもう変わった様子を見せていない。
「こいし様、どこか痛いんですか……?」
「え? ああ、全然平気だよ! ほら、そんな顔しないの! 今日はたくさん食べるぞー!」
「おー!」
心配そうなお空に明るい笑顔を見せると、こいしは再びお空の手を取ってスキップを始めた。
さとりの方をちらと見ると、先程と変わらずペット達に囲まれて笑顔で食堂を目指している。
どうやら気付かれはしなかったようで、こいしは少し胸を撫で下ろした。これ以上自分の周りの誰かに、何よりお姉ちゃんに心配をかけるのは嫌だ――そんな思いからだった。
色々考えるのは後にしようと気を取り直し、皆と一緒にこいしも食堂を目指すのだった。
◆
小悪魔の手配で用意された寝室。
魔理沙はそこのベッドに横になり、考えていた。今自分に出来る事、そして、自分がどうしたいかを。
「………」
元々、熟考してから行動するタイプではない。こうだ、と思ったらとにかくやってみる。それが霧雨魔理沙だ。
しかし、今回ばかりはそんなに簡単なものではない。最悪、自分を含めた誰かの命が失われるかも知れないのである。
それに加えて、全てが上手くいく可能性は限りなく低いように思える。何せ、あの場にいた強大な力を有するメンバーの誰一人として対処できなかったのだ。自分一人で出来ることなど、たかが知れているというものだ。
そんな様々な考えに邪魔されて、魔理沙は皆の前で「フランドールを助けよう」という言葉を発する事が出来なかった。
そしてそれは、今も同じである。
目と鼻の先に、フランドールはいる。
それなのに何も出来ない、いや、何もしようとしない自分に苛立ち、魔理沙はここに来てから何回目か分からない舌打ちをした。
夜は少しずつ更けていくが、眠さはない。答えも出ない――そんな風に過ごしているうちに、かれこれベッドに入ってから一時間余りが経とうとしていた。
コンコン……
不意にドアから聞こえる、力ないノックの音。
「……アリスか」
その声に反応するかのようにドアは開き、そこには浮かない表情のアリスが立っている。
中々部屋に入ろうとしない彼女を、魔理沙は手招きして呼び入れた。
「よう。ま、座んなよ」
「ええ、ありがとう」
魔理沙に促されるままに、アリスはゆっくりとベッドに腰掛ける。
いつも伴っている上海人形は部屋に残してきたらしく、今は単身である。
「で、だ。話は何だ?」
「うん……」
「ん?」
「………」
座ったはいいものの、そこからアリスは何を喋るわけでもなく、相変わらず浮かない表情で黙りこくってしまう。
話したがっている内容は想像できたが、敢えて魔理沙は困ったような顔で笑いつつ言葉の先を催促した。
「おいおい、訪ねて来ておいて、だんまりはないだろ?」
「ん……うん」
「ま、何でもいいから言ってみろよ」
そんな魔理沙の心の動きを読み取ったのか、アリスは少し俯き、そして決心したかのように魔理沙の方を向く。
「……ねえ、魔理沙。私、フランの為に何かしたい」
「何か、っていうと?」
「分からない。でも、何かしたいの……」
理論家の彼女には珍しい曖昧な言葉である。
そしてそれが、今ある状況がいかに難しいかを物語っている。
「そうか。で、結局その『何か』が見えなくて、私の所に来たってわけだな」
「ん……」
「でもさ、助けるっつっても結構ヘビーな話だぜ? レミリアやらパチュリーやらでも解決出来なかった問題を、フランと会ってそこそこの私らがどうにかしようってんだからな」
「難しいのは百も承知よ。ただ、何もしないでいるよりはいい……!」
そう、何もしないのは、諦めたのと一緒だ。
このまま何もしなければまず間違いなくバッドエンド、それは重々承知している。
一人ではどうしようも出来なくても、二人、三人と集まれば光明が見えるかもしれない、それも同じく承知している。
ただ、それだけでは足りない。
目の前にそびえ立つ壁は、数百年の長い間越えられる事のなかった壁である。下手な鉄砲をいくら乱射しても、到底どうにかなる物ではない。
百発百中、全員がそうあろうとしなければ、いや、それでも足りないかもしれないが、少なくともそれくらいの気持ちでいなければならない。今回の話は、それ程困難なものなのだ。
自分の覚悟は今決まった。
何があってもフランドールをあの地下から連れ戻すという、断固たる覚悟である。
あとは、同じように覚悟を決めたメンバーとともに、地下へと向かうだけだ。
「お前さんの気持ちはよく分かった。……でも、今回ばかりはお手上げだ」
「……!」
「さっき見たろ? ボールが跡形もなく消えちまったのをさ。あんなの拝まされちゃあ、とても私がどうにかできる問題とは思えない」
「じゃあこのままあの子を見捨てるっていうの……!?」
「見捨てるわけじゃない。ただ、今すぐどうこうするには難しすぎる問題だ、って言ってるのさ」
「っ……! わかった、もう貴女には頼まないわよ!」
語気を荒立て、アリスは腰掛けていたベッドから立ち上がる。その顔に浮かぶのは、苛立ちと失望とが混ざったような表情だ。
私だったらきっと力になってくれる――そう思われていたんだろうな、と少し嬉しさを感じつつも、表に出さずに魔理沙は言葉を続ける。
「どこ行くんだ? まさか一人でフランとこ行く気じゃないだろ?」
「そうよ。……何か問題でもある?」
「あるね。大いにある」
「言ってみなさいよ」
「――お前さんに私の見せ場を取られる」
そう言って悪戯っぽく笑い、魔理沙はゆっくりとベッドから立ち上がった。
「……試したわね?」
「何のことやら」
「当てはあるの?」
「残念ながら」
「じゃあ、どうするのよ?」
「分からん。だから、聞きに行くのさ。ここにいる奴ら全員に、な!」
うだうだ考えてから行動するより、こうだ、と思ったらとにかくやってみて、それでもし悪い結果が出ても、そこからいい方向に巻き返す道を探せばいい――かつて師匠から貰ったそんな言葉を思い出しながら、戸惑うアリスの手を掴んで魔理沙は部屋のドアを蹴り開けた。
◆
「紫様、お茶が入りましたよ」
迷い家のとある一室の前。湯気のたつ湯呑みが二つ乗ったお盆を手に、藍は室内の主に向かって声を掛けた。
「……?」
しかし、紫からの返事はない。
持ってきて、と頼んでおいての事だから、突然の外出とは思えず、寝てしまったというのも考えにくい。ましてや、体の変調などは更に考えられない。
となると、何か。
「紫さ――」
「ありがとう。入って頂戴」
「……!」
部屋の中から少し遅れて返ってきた一言。
それ自体は何気ない言葉だが、藍はそれに違和感を覚える。
長年行動を共にしたからこそ分かる些細な変化――声から、不安そうな揺らぎを感じたのだ。
これまでにも何度か似たような事はあったものの、ここまではっきりと分かるのは初めてだった。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「ええ、ありがとう」
普段と何ら変わらないこざっぱりとした部屋に紫はいる。微笑んで横に座るよう促す言葉も、普段と同じだ。先程感じたそれは、今は少しも感じられなかった。
しかし、聞き間違える筈などない。まして、取り違える筈など更にない。何故なら、八雲藍は八雲紫の式なのだから。
座るよう促す言葉を片膝立ちで受け、藍はじっと紫の目を見据える。
「……紫様、何か問題があったのですか?」
「ええ、あったわ。今からそれを伝えようと思っていた所よ」
「え? は、はあ……」
何としても聞き出そう、と、そんな風に考えていた藍をよそに、紫はあっさりと問題があった事を告白してしまう。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔の藍を見て、自分の式を信用するよう言ったのは誰だったかしら? と笑いながら、紫は落ち着いた顔で話し始めた。
「フランちゃんのチームが出揃った事、それはもう知っているわね?」
「はい」
「今日の午後、紅魔館でそのフランちゃんのチームが練習試合をした。対戦相手は紅魔ライブラリーガーディアンズ。これはまだ伝えていなかったわね」
「(ライブラリーガーディアンズ……?)はい」
「問題はそこから先。その試合の最中、フランちゃんが能力を暴発させてしまったわ」
「……!」
能力の暴発――それは、フランドールがキャプテンとしてチームを率いることになった当初より、レミリアが繰り返し気に掛けていた事だった。
フランドールの持つ、ありとあらゆる物を破壊する力。お世辞にも完全に制御出来ているとは言い難いこの力が、何かの拍子で暴発してしまうのではないか。そして、実際にそうなってしまった時、フランドールはもう野球を、いや、もう誰とも関わろうとしなくなってしまうのではないか――
だからこそレミリアは、自分を除いたうえで最もフランドールと親しく、且つ最も信頼しているパチュリーに彼女の事を頼んだのだった。
だがそれでもまだ不安は拭えず、紫に頼んで定期的に隙間経由でこっそり様子を見守ったりもしていた。
しかし、事は起きてしまった。
「……甘かったわ。最初にあの子の部屋へ行った時とこの数日間のあの子とでは少し印象が違うとは思っていたけど、その事にもっと注意を払うべきだった」
何か起こりそうになったら、今後いくら恨まれる事になろうとも私はフランを止める――そんなレミリアの言葉が思い出され、紫は少し俯く。
自分はそれ程の覚悟をもってこの問題に取り組んでいたか、どこか他人事だと思い楽観視していたのではないか――自責を始めたら、それこそきりがない。
しかし、起きてしまった事をいつまでも悔やんだ所で、状況が好転しないのを紫はよく心得ている。
すぐに顔を上げ、不安を表に出さないよう必死に平静を保っている藍に、穏やかな、同時に厳格な表情で言葉を続けた。
「この状況を何とかするとしたら今夜中が勝負よ」
「はい。しかし、手立てはあるのでしょうか?」
「正直、分からない。でも私達はつい最近、似たような状況を打破した事があるでしょう?」
「こいし、ですね?」
「ええ。誰か一人の力ではどうしようも出来なかった問題でも、皆が結束する事で解決できたわ」
そこで話を区切り、紫は立ち上がって目の前の空間に隙間を開く。
残された時間はあまりない。いや、もしかしたら既に手遅れかもしれない。
それでも、諦めようとは一切思わなかった。
何故なら、この幻想郷に住まう誰一人として、不幸になってほしくないからだ。
「藍、悪いけど、橙を起こしておいてくれるかしら?」
「承知しました。紫様、他にも何か力になれる事があったら、いつでもお申し付け下さい」
「ええ。ありがとう」
藍の言葉を受けてにこりと微笑むと、紫は隙間の中へと一人身を投じた。
◆
紅魔館の屋上、といっても、登るための場所ではない単純に屋根の一角にて、二つの影が月明かりの下で酒を酌み交わしている。風見幽香と伊吹萃香である。
酌み交わしている、とはいうものの、実際は一人で酒を飲んでいた萃香の所へたまたま幽香が現れ、結果共に飲むことになった、というだけの話で、そこに「親交を深めよう」だとか「今ある問題について話し合おう」というような何らかの意図があるわけではない。
現に二人で飲みはじめてから三十分ほど経つが、ここまでに具体的な会話は一切なく、ただただ無尽蔵に湧く酒を飲んでは注ぎ足し飲んでは注ぎ足し、そうして時を過ごしているのみである。
「ぷはあ……」
「………」
「おっと失礼。さあ」
空になった幽香の枡に、萃香は何度目か分からない酒を再びなみなみと注ぐ。そうしてからぐいっと自分の枡を空け、同じようになみなみと酒で満たした。
因みに二人が湯水のように飲むこの酒、その名を『鬼強し』といい、かなり強めの酒である。にもかかわらず、どちらも潰れそうな様子はなく、それどころか、酔っている様子さえ見て取れない。
本当にただの水を飲んでいるかのように、面白そうにも楽しそうにもせず、淡々と枡を空にする作業をただただ繰り返している。
「ぷはあ……」
「……フン」
「んん、早いねえ。さあ」
空いた枡を見て先程と同じように酒を注ごうとする萃香。
しかし幽香は右手をすっと翳してそれを制した。
「ん? もういいのかい?」
「フン……不味い酒にこれ以上付き合うのが馬鹿らしくなっただけよ」
「……なに?」
刺のあるその言葉に、萃香の目が鋭く尖る。
が、すぐに元のとろんとした目に戻り、少し淋しそうに笑いながら自分の空いた枡に酒を注いだ。
「ふざけんな! ……と言いたいとこだけど、事実じゃあ仕方ないな。酒がこんなに不味く感じたのは私も初めてだよ」
「フン……」
ぐいっと枡を呷って、徳利と一緒にそれを無造作に置くと、萃香はほうとため息を吐いた。
そこから二人は特に会話を交わすこともなく、満天の星空の下で吹き抜ける夜風にただ髪をなびかせる。
そうして、幾らかの時間が経った頃だった。
ふいに幽香が無表情のまま視線を萃香の方へと向けた。
「……一つ答えて頂戴」
「ん? どしたい?」
「貴女はあの子と一打席の勝負をした、それは間違いないわね?」
「ああ、したよ。そんで負けた。ははっ、バットへし折り、いや、バットへし砕きやがんの」
「思い出話に興味はない。問題はその時にあの子が投げた球の速さよ」
そう言うと幽香は立ち上がり、真上の星空に向けて傘を構えた。
「貴女の目を信用する。刮目なさい」
「ああ。任せな」
幽香が何をしようとしているのか萃香はすぐに理解し、同じく立ち上がる。
それを横目で確認した幽香。次の瞬間、紅魔館の屋上に一瞬の轟音が鳴り響き、一閃の光が星空へと吸い込まれていった。
「今のが今日見せたあの子の速さ。さあ、答えなさい。貴女が体感したそれは今の速さよりも上か、それとも下か」
「うーむ」
「………」
「ふむ」
「勿体ぶる気? 下らない。さっさと――」
「――眩しくて何が何やら分からなかった!」
「………」
「ははっ、悪いね!」
「ちッ……」
呆れたような顔で舌打ちをすると、幽香は再び傘を上に構えている。
こりゃあしっかりした答えが得られるまで何回でも付き合わせる気だな――そう予感して苦笑し、萃香はどかっとその場に胡坐をかいて徳利と枡を手に取り、先程までと同じくなみなみと酒を注いだ。
「……答える気はないと?」
そんな態度に、露骨に苛立ちの表情を浮かべた幽香が突き刺すような鋭い視線を向けるが、それを特に気にすることなく萃香はぐいっと枡を傾ける。
「ぷはあ……。いいや、そうじゃないさ。要はあんた、フランの全力を知らないままじゃ納得いかないって、そういう事だろ?」
「フン……いけないかしら?」
「結論から言えば、打席に立ってみないとはっきりとは分からないよ」
「………」
「だから、さ!」
空になった自分の枡に酒を注ぎ、置かれたままのもう一つの枡を同じように酒で満たすと、萃香は再び立ち上がり、にかっと笑ってそれを幽香に渡した。
「何とかしてみようじゃんか! このまま負けっぱなしなんて御免だからさ!」
「……フン」
差し出されたそれを受け取り、幽香はにやりと笑う。
「負けっぱなしは納得いかない、その一点だけは同感よ」
「ははっ! だよなあ!」
そして二人は枡をこつんとぶつけ合い、同時にそれを呷った。
と、そんな中、屋根に上がってくる新たな人影が二つ。
「――なんだなんだ、こいつは珍しい組み合わせだな」
「しかもお酒飲んでるし」
魔法使いコンビ、魔理沙とアリスの登場である。
ちなみに二人がここへ来た経緯は、フランドールを助けるという決意のもと部屋を出た瞬間に、外から激しい光と爆音が鳴り響いたので、驚いてスッ飛んできた、との事。
「そうかそうか! はっはっは!」
「フン……普通の脳をした奴なら、逆に館内に残ると思うけどね」
「ん? どういう意味だよ?」
「貴女達の脳がとち狂ってる、という意味よ」
「な、何ですって!? 魔理沙はともかく私は正常よ!」
「お、おいアリス! そりゃないぜ!」
「はっはっはっは! ま、せっかくだから景気付けにあんたらも一杯やろうや!」
先程までの静かな夜とは打って変わり、賑やかになる紅魔館の屋上。
しかし、話はそれでは終わらない。
「ほらほら! 固い事言わず――おっ?」
「飲まないって言って――ん?」
幽香が言う『脳がとち狂ってる』のは、二人だけではなかった。
「コラ馬鹿共。人がせっかく気合い入れていこうとしてるのに水差すんじゃないわよ」
「それに、花火は少し季節外れってモンじゃないかい?」
不機嫌そうな霊夢、呆れ顔で笑う妹紅。
「全く、こんな真夜中というのに……」
「ふふ、力が有り余っているのは悪い事じゃないわ」
苦笑する慧音、優しく微笑む永琳。
「私の眠りを妨げるものは何人たりとも許さん!」
「いやいや、姫様寝てなかったじゃないですか」
激怒したような輝夜、それに突っ込む鈴仙――
初めは萃香一人だった屋上は、今や十を数えるメンバーが『萃まった』のだった。
「フン……おせっかいだこと」
「はは、誤解だよ。私が萃めたのはあんただけさ」
「……ちっ」
奇跡を起こすための運命の歯車は、ゆっくりと噛み合い始めていた。
◆
運命を操る――それがレミリア・スカーレットの持つ力である。
言葉にしてみれば至極簡単なものだが、その力の詳細は彼女の従者である咲夜ですら知るところではない。
中には、ただ格好付けたいが為のはったりではないかと言う者もいるが、咲夜は信じて疑わなかった。
そう、自分を含めた誰もが見ることの出来ない運命を、主はしっかり見据えているのだと。
「――……というのが今の状況よ」
「フラン様が……そんな……!」
時刻は深夜。
白玉楼の離れに寝泊まりしていたレミリアと咲夜は、前触れなく現れた紫に今日紅魔館でフランドールの身に起きたことを聞かされた。
その余りにも衝撃的な内容に、普段は常に冷静な咲夜も今は動揺を隠せず、眉間にしわを寄せて力ない声を洩らす。
「ごめんなさい。私がもっと注意を払っていれば、防げたかもしれない」
同じく、普段はどこか掴み所のない余裕を持っている紫も今回ばかりは焦燥している様子で、表情は固く声も重い。
それだけでも、今ある状況がいかに困難なものなのかが分かる。
「………」
そんな中、レミリアだけが表情を崩さない。口を開かず、薄く目を閉じている。
だがそれは、無理に平静を装っている風には見えない。ましてや憤っていたり、絶望しているわけでもないようである。
思案――それも、あらかじめ纏められていた、これからやるべき事の順序を確認しているような、そんな印象を咲夜は持った。
そして主のその姿が非常に心強く感じられ、動揺に揺れていた心が少しずつ平静を取り戻していく。
「これは私の勝手な考えだけど、これから私達のチームのメンバーを集めて紅魔館に向かおうと思っているわ。勿論、当主である貴女の許可をとる必要があるけれど」
そんなレミリアの姿は、紫の目にはどう映っただろうか。
幾らか普段に近い表情で二人にそう告げると、先程現れたのと同じ場所に隙間を開いた。
「藍と橙、それと幽々子と妖夢を連れてくる。その時にまた、答えを聞かせて頂戴」
そして一言「悪いわね……」と呟くように言い、隙間の中へと消えていった。
紫が去った後の寝室。
一刻を争うであろう状況にも関わらずやけに静かで、夜風が軽く戸口を叩く音ですらよく聞こえる。
咲夜は口を開かず、ただ頼れる主の言葉を待った。それがどんな言葉であっても、それに従おう――そう心に決めて。
長いような、短いような、そんな時間が流れる。急かすように、戸口を叩く風の音が響く。
「――パチェは責任を感じてしまっているでしょうね」
それはまるで周囲の音と同調しているかのような自然な、そして優しい声だった。
そして同時に、誰のどんな場面での言葉より頼もしい、そんな一言だった。
「はい。責任感の強い御方です」
頼もしさと同時に咲夜の中で湧き上がる、言いようもない嬉しさ。
この方に仕える事が出来て、今後も仕える事が出来て、本当によかった――そんな心情を読み取ってか、レミリアもまた少しだけ嬉しそうに笑った。
「紅魔館へ戻る。貴女の力を借りるわ」
「仰せのままに――」
同時刻の、紅魔館内魔法図書館。
その書斎にて、山のように机に積まれた魔導書を、普段はやらない速読でパチュリーは次々に読み漁っていた。
目的は一つ。かつて一度は諦めた『フランドールの力を抑える』手立てを探しているのだ。
傍らには小悪魔がいて、目ぼしい魔導書を探しては机に置き、また既に読み終えられたものを片付ける作業を繰り返している。
「ふう……」
「はー、はー……」
この作業を始めてからかれこれ五時間あまりが経ち、パチュリー、小悪魔ともに疲れの色が見え始めているが、二人は一時も休もうとはしない。
覚悟を決めたのだ。どんなことがあってもフランドールを助けるという、確固たる覚悟である。
ここまでの成果で、試すに値すると見た術式は今のところ二つ。どちらも完成とはとても言えない代物だが、それでも何かしら進展があるかもしれない。
最初からこうやって死に物狂いでやっていれば、とっくに解決できていたのかも知れないわね――読み終わった本をどかす傍ら、ふと頭をよぎったそんな考えに自嘲気味に笑うと、パチュリーは再び新たな本を手に取った。
「こあ、少し休みなさい。作業の再開は今あるやつが無くなってきたらでいいから」
「なんのこれしき! それに、これは私が勝手にやってることですからパチュリー様はお気になさらず!」
気遣いありがとうございます! と一言付け足し、にこっと笑って小悪魔は再び本棚の海へと戻っていく。
その姿を見て、私も頑張らなくては、とパチュリーが手元の本を開こうとしたその時、分厚い図書館の扉が開く音が耳に飛び込んできた。
「………」
気配は一人分。
大方魔理沙かアリスのどちらかだと思いつつ、図書館の各所に設置されている監視用の水晶玉を通して映像を手元の水晶玉に映し、姿を確認する。
「……!」
だがそこには、ここにいるはずのない人物が映し出されていた。
今は白玉楼にいるはずの紅魔館当主、レミリア・スカーレットである。
手元の魔導書をぱたりと閉じてパチュリーは立ち上がり、そして、延々と続く本棚の羅列の先にその姿を確認すると、佇まいを正す事も忘れて駆け寄った。
「レミィ……!」
「こんばんは、パチェ」
普段この時間に顔を合わせるのと変わらない態度でレミリアは挨拶をする。そこには一切の淀みもなく、無理に感情を押し殺している様子はない。
しかし、レミリアが今日ここに帰ってくる理由を、フランドールの身に起きた事を知った、という以外パチュリーは思い当たらなかった。
何故なら、全体練習を始める前に妖精メイドを白玉楼に送って旨を伝えたところ、それなら今日は帰らない、というレミリア自身の言伝を受け取っていたからだ。
「レミィ、あの……」
混乱を隠せないパチュリー。心の準備が、出来ていない。
頭に浮かぶのは、取り返しの付かない事をしてしまった、いう罪悪感と、失望されるのではないか、という不安感である。
「パチェ」
貴女を信頼した私が間違っていた――
貴女には荷が重かった――
親友が次に口を開く時、どんな罵声が飛んでくるのか。そう考えると、パチュリーの体は自然と震えてくる。
「レミィ……私――」
しかし、そんなパチュリーの不安をよそに、罵声など、いや、言葉すらありはしなかった。
「……!」
その代わりに、ふわりとした水色の髪の感覚を、パチュリーは右頬へと受けていた。
「ごめんね、パチェ。辛い思いをさせてしまって」
そして、嘘偽りの一切無い、心から労う言葉――親友の口から出たその一言にパチュリーの体の震えが、その意味を変える。
「でも……私は……」
「いいの。誰にも貴女を責めさせなんてしない。大切な親友にそんな事をする奴がいたら、誰であろうと私が許さない」
「レ……ミィ……」
「だから、泣かないで。大丈夫、この数日で成長したあの子なら乗り越えられる。長い間あの子の前に立ち塞がっていた壁を、乗り越えられるわ。パチェ、貴女のおかげよ」
「うっ……うっ……」
こいしは乗り越えた。次はフラン、貴女の番よ――心の中で呟き、レミリアはか弱く震える親友の体を優しく抱き締めるのだった。
◆
食事、入浴と済ませ、お気に入りの寝間着を着てベッドに横になったこいしは、先程の『声』の事を考えていた。
聞き取れなかった内容はともかくとして、微かに聞こえたそれは、どこかで聞いた覚えがあるような気がするのだ。
それも、比較的最近聞いた、そして親密な誰かのものであると、覚妖怪の本能(というよりこいしの勘)が告げている。
最近且つ親密と言えば、真っ先に思いつくのはチームメイト達。
だがその顔触れを想像してみても、思い当たる節は一切ない。第一、傍にいる時ですら何の変化も無かったものが、わざわざ遠く離れた場所にいる今、あろうはずもないというものだ。
しかし、それ以上にこいしは『心の声が自分に聞こえた』という事実に対して頭を捻っていた。何せ、遥か昔に胸元の眼を閉じて以来、そんなことは一度たりともなかったのである。
ただ、さっきのそれが聞き間違えでない事だけははっきりと分かった。
例え聞き取れないような微かなものでも、確かに第三の眼は反応したのだ。覚妖怪であるこいしが、心の声かそうでないかを違える事は絶対にない。
だからこその、戸惑いなのである。
(やっぱり、お姉ちゃんに相談した方がいいのかなあ……)
こういう状況で頼りになるのは、やはり姉のさとり。というより、心の声に関する相談相手は他にはいない。
しかし、先程そう思ったように、こいしは出来る限り大好きな姉に心配を掛けたくなかった。
優しい姉はきっと、心配掛けるだなんてとんでもない、と言って助けてくれるのだろうが、自分の問題は自分の力で解決したいのである。
とはいうものの、今はもう第三の目に特別な変化はなく、となれば当然『声』が聞こえてくる事もない。
とどのつまり解決もなにも、既に終わった話という可能性すらあるのである。
「んー……考えても仕方ない、か」
自分に言い聞かせるように呟き、こいしはくるんとその場で寝返りをうった。
ベッドでごろごろしながら、以前フランドールに貰った本『そして誰もいなくなった』を読んでいると、段々目蓋が重くなってくる。
ページにびっしりと記されている文字が少しずつ歪み、仰向けの顔の上に位置付けた本が段々と鼻先に向かって高度を下げてきた。
このまま顔に本を落として寝てしまおう――そう思ってこいしが目を閉じた、その時だった。
――………
「……!」
それは、紛れもない『声』。
第三の眼が強く反応している。緩く閉ざされていた目蓋がさらに緩む。
それと同時にこいしの意識は少しずつ閉ざされていく。今まで幾度となく経験してきた感覚――そう、無意識の力である。
「……駄目……っ!」
しかし、包み込むようなその無意識に対し、こいしは必死に抗っていた。
と言うのも、ひとたび意識を委ねてしまうと、次に意識を取り戻すのがいつになるか分からない(記憶に残っている最も長いもので、実に半年近くも時間が経っていた事がある)からだ。
もし平時であれば、何ら考えることもなくそれに身を任せる所だが、現在こいしはチームのキャプテンという立場にある。そんな中で自分が何をしているかも分からない無意識に身を委ねる事、それは下手をするとようやく形が出来てきた今回の野球の話を台無しにしてしまう可能性があった。
当然だが、そんな事態には何があってもさせられない。
「っ……!」
さらに強まるかつてないほどの無意識の干渉に必死に堪えるこいし。しかしそんな中で彼女は、今まで感じたことのない、とある違和感を覚えていた。
この無意識は、これまでのような漠然としたものではない――どこか急かしているような、さらには訴えかけるような、そんな強い意志があるように思えるのだ。
そして、未だはっきり聞こえない『声』。第三の眼は、苦しそうに目蓋を震わせている。
(ん……分かってる。分かってるよ)
薄々、感付いていた。
声が届かないのは、音が小さいせいでも雑音が混じるせいでもない。
自分が、そう、自分自身が心を開こうとしないから、恐がっているから、だから、いつまでも声が聞こえないんだ――
強い干渉が、僅かずつではあるが、弱まってきているのが分かる。
きっとこのまま拒絶していたら、自然にこの干渉は納まり、声も聞こえなくなるだろう。
それが一番いいのかもしれない。そうすれば何も心配することなく、また明日から野球に汗を流せる、そんな楽しい日々が待っている筈だ。
でも、私は決めたんだ。私は……
「もう、逃げない……!」
深く呼吸をして目を閉じ、こいしはゆっくりと無意識に身を、『声』に心を委ねた。
すると、どこか強引だった干渉は鎮まり、まるでこいしを気遣うように優しく、徐々に彼女の意識を薄れさせていく。
――……こ…い…し……
そんな中で、はっきりとこいしの心に届いた、親友の『声』。
殆ど消えかけた意識の中、一瞬だけ薄く開いた両目は、その奥に強い決意をしっかりと灯していたのだった。
「すぐ行くから……待っててね、フラン……!」
■暫定メンバー
《アルティメットブラッディローズ》
投手:古明地 こいし(左投左打)
捕手:古明地 さとり(右投左打)
一塁手:八雲 紫(右投両打)
二塁手:十六夜 咲夜(右投右打)
三塁手:レミリア・スカーレット(右投右打)
遊撃手:西行寺 幽々子(右投右打)
右翼手:橙(右投右打)
中堅手:魂魄 妖夢(左投左打)
左翼手:八雲 藍(右投両打)
《フランドールチーム》
投手:フランドール・スカーレット(右投右打)
捕手:パチュリー・ノーレッジ(右投右打)
一塁手:伊吹 萃香(右投右打)
二塁手:紅 美鈴(右投右打)
三塁手:霧雨 魔理沙(右投右打)
遊撃手:鈴仙・優曇華院・イナバ(右投左打)
右翼手:アリス・マーガトロイド(左投左打)
中堅手:風見 幽香(右投左打)
左翼手:藤原 妹紅(右投右打)
マネージャー:博麗 霊夢(右投右打)
臨時コーチ:上白沢 慧音(右投両打)
《図書館防衛隊チーム》
投手:八意 永琳(右投両打)
捕手:蓬莱山 輝夜(右投右打)
一塁手:小悪魔(右投右打)
二塁手:隊員A(右投右打)
三塁手:副隊長B(右投右打)
遊撃手:隊員F(右投右打)
右翼手:隊員B(左投左打)
中堅手:副隊長A(左投左打)
左翼手:隊員D(右投右打)
続く
メンバーが揃い、これから皆でやっていこう、という矢先での出来事だった。
フランドールチームのメンバー及び、今回現場に居合わせた輝夜、永琳、慧音の三名を小悪魔案内のもとそれぞれ来客用の個室へ送り届けた後、パチュリーは一人図書館の書斎で考えていた。
今後チームをどう纏め直すか、どうしたらフランドールを再びマウンドに立たせてあげる事が出来るか。
しかし、いくら考えても妙案は浮かんでこない。
というより、パチュリー本人も未だ受けた衝撃が抜け切らず、整理がつかないのである。
昨日のあの出来事はフランドールだけでなく、チーム全体にも多大なショックをもたらしてしまった。
ボールが跡形もなく消えてしまう程の、圧倒的『破壊』。そんなものを目の前で見せられてしまったら、如何にメンバー達が猛者ぞろいであっても、チームから去ろうとする者が出てくる可能性が高い。
しかし、もしそうなってもそのメンバーを責める事など出来ない。
当然である。何故なら、いつ『壊されても』おかしくない状況下でのプレーなど、強要出来るはずがないのだから。
「………」
そして何よりの問題は、フランドール本人だ。
元々、自分の力で誰かを傷つけるのが怖い、という自らの考えでフランドールは地下に籠もった。
そうしている内に段々と力の制御を憶え、ここ数十年で漸く落ち着かせる事が出来るようになっていた。
そんな中での、頼れるメンバー全員が見ている前で起こした、能力の暴発。
「――パチュリー様、コーヒーをお持ちしました」
「ええ……ありがとう」
思い返せば、この話が舞い込む前のフランドールは、どこか冷めた雰囲気のある少女だった。
常に一歩引いた物腰に、大人びた口調、それがパチュリーの知るフランドールだ。
しかし、ここ数日の彼女はどうだったか。
何をするにも好奇心を隠さず、嬉しい時は飛び上がって喜んで――そう、その姿は見た目相応の幼い少女そのもの。
その事に気付いていない訳ではなかった。
ただ、新しいものずくめのこの日々に対して、当然の反応か、と、特に気に留める事はなかった。
そしてその結果――
――あ……ああ……
――フラン、待って! 落ち着いて! フラン! フランっ!
――いやああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
止めることが出来た筈なのに……そんな考えが頭を巡り、パチュリーはぎゅっと拳を握り締める。
「パチュリー様、もうお休みになられた方がいいのでは」
「……ねえ、こあ」
「はい」
「私、レミィに何て言ったらいい……?」
「………」
「レミィに言われたの……。『フランの事、お願いね』って、そう言われたの……。でも、私は……!」
「パチュリー様」
「私は、フランが傷付くのを止められなかった! 能天気に自分も楽しんで、何もしてあげられなかった! 私のせい……私のせいで、あの子は……傷ついて……」
堰が切れたように、パチュリーは小悪魔に縋り付いて涙を流す。
様々な重圧や責任、積もりに積もったそれに圧し潰されかけていた。
かつて見たことのない弱々しい姿の主。自分も二筋の涙で頬を濡らしながら、小悪魔は言う。
「パチュリー様、例え世界中がパチュリー様の敵になったとしても、私は貴女の味方です」
「う……う……」
「大丈夫、きっと道はあります。だから、諦めないで一緒に頑張りましょう……!」
そして、か弱く震える主の体を、優しく抱き締めるのだった。
野球しようよ! SeasonⅦ
九人目のメンバー、橙の正式加入を盛大に祝った後、さとりとこいしは地霊殿への帰路についていた。
泊まっていかないか、と幽々子に誘われた二人だったが、これ以上ペット達に淋しい思いをさせられないから、と断り、こうして我が家に戻ってきたのである。
「ただい――」
「さとりさまあぁぁー!!」
「こいしさまあぁぁー!!」
「わっ!? ち、ちょっとお燐……!」
「ただいまお空ー! ほーら、泣かない泣かない!」
二人が玄関をくぐった瞬間、主人達に群がるお燐とお空を始めとするペット達。
というのも、こいしはともかくさとりが一日以上館を離れることが今まで殆どなかったため、捨てられたのではないか、と不安になっての行動だったようである。
第三の眼でそんな心情を読み取ったさとりは、あまりに予想どおりの反応に苦笑しながらペット達の頭を優しく撫でてやる。
「にゃ……」
「馬鹿ねえ、私があなた達を捨てる訳がないでしょう? ね、こいし」
「もっちろん!」
「うう~……」
「ほらお空、いつまで泣いてるの。それより、今日は久しぶりにみんな揃ってご飯にしましょう」
さとりの言葉にペット達の悲しげだった表情は消えてなくなり、一同は揃って笑顔で地霊殿の廊下を食堂へ向かって歩き始めた。
薄暗い空間の中にステンドグラスが張り巡らされた不気味な廊下だが、皆が笑顔だとそんな不気味さは薄まり、綺麗で幻想的な印象である。
「こいしさま、昨日今日の練習どうでしたー?」
「投げましたー?」
「さとりさま、勝ちましたかー?」
「儲かりまっかー?」
広い屋敷に比例して長い廊下の道中、姉妹は目まぐるしい質問攻めに晒される。
元々野球と付き合いが深かった地霊殿のペット達だから、二人から聞けるその手の話は何よりの楽しみなのだ。
加えて、今回はそれが二日分。期待する目の輝きも口数も二倍である。
「こらこらあんた達、さとり様とこいし様困ってるでしょ。そーいうのはご飯の後、わかった?」
一同「ブーブー」
「ブーブー、じゃない。あんまりしつこいとぶっ殺してあたいのコレクションにしちまうよ!」
そんな中、自身も色々聞きたい気持ちを抑えて、お燐が姉妹に群がるペット達を戒める。
放任主義のさとりや基本不在のこいしに代わって地霊殿のまとめ役を勤めるだけあって、牙と爪を立てた姿は物騒な言葉と相まって中々の迫力だ。
「お燐、いいのよ。何にも伝えずに丸一日家を空けた私のせいでもあるから」
「んー、そうですかねえ?」
「ええ。ね? こいし」
「そうそう! お姉ちゃんのせいだからいいのだー!」
「いいのだー!」
「こ、こらお空、調子に乗るんじゃないよ」
「ふふ、いいのいいの」
「にゃ……」
さしものお燐も、ご主人に優しく頭をなでなでされては頬を赤らめて引き下がるしかない。
そんなお燐の、さとり様大好き、という心の声と、私も私もー! というペット達の心の声に、さとりは嬉しそうな笑みを溢す。
そうこうしているうちに歩は進み、長かった廊下が目的地を見せはじめた、その時だった。
「――え……?」
何の前触れもなく反応した、第三の目。
お空と手をつないでスキップしていたこいしの動きがぴたりと止まる。
「――? こいし様?」
「………」
それは、紛れもない『心の声』だった。
ただ、それは声と呼ぶには余りに微小なものだったため、聞き取ることは出来なかった。
今の自分には聞けるはずのない、心の声。胸元の薄く閉じられた第三の目は、今はもう変わった様子を見せていない。
「こいし様、どこか痛いんですか……?」
「え? ああ、全然平気だよ! ほら、そんな顔しないの! 今日はたくさん食べるぞー!」
「おー!」
心配そうなお空に明るい笑顔を見せると、こいしは再びお空の手を取ってスキップを始めた。
さとりの方をちらと見ると、先程と変わらずペット達に囲まれて笑顔で食堂を目指している。
どうやら気付かれはしなかったようで、こいしは少し胸を撫で下ろした。これ以上自分の周りの誰かに、何よりお姉ちゃんに心配をかけるのは嫌だ――そんな思いからだった。
色々考えるのは後にしようと気を取り直し、皆と一緒にこいしも食堂を目指すのだった。
◆
小悪魔の手配で用意された寝室。
魔理沙はそこのベッドに横になり、考えていた。今自分に出来る事、そして、自分がどうしたいかを。
「………」
元々、熟考してから行動するタイプではない。こうだ、と思ったらとにかくやってみる。それが霧雨魔理沙だ。
しかし、今回ばかりはそんなに簡単なものではない。最悪、自分を含めた誰かの命が失われるかも知れないのである。
それに加えて、全てが上手くいく可能性は限りなく低いように思える。何せ、あの場にいた強大な力を有するメンバーの誰一人として対処できなかったのだ。自分一人で出来ることなど、たかが知れているというものだ。
そんな様々な考えに邪魔されて、魔理沙は皆の前で「フランドールを助けよう」という言葉を発する事が出来なかった。
そしてそれは、今も同じである。
目と鼻の先に、フランドールはいる。
それなのに何も出来ない、いや、何もしようとしない自分に苛立ち、魔理沙はここに来てから何回目か分からない舌打ちをした。
夜は少しずつ更けていくが、眠さはない。答えも出ない――そんな風に過ごしているうちに、かれこれベッドに入ってから一時間余りが経とうとしていた。
コンコン……
不意にドアから聞こえる、力ないノックの音。
「……アリスか」
その声に反応するかのようにドアは開き、そこには浮かない表情のアリスが立っている。
中々部屋に入ろうとしない彼女を、魔理沙は手招きして呼び入れた。
「よう。ま、座んなよ」
「ええ、ありがとう」
魔理沙に促されるままに、アリスはゆっくりとベッドに腰掛ける。
いつも伴っている上海人形は部屋に残してきたらしく、今は単身である。
「で、だ。話は何だ?」
「うん……」
「ん?」
「………」
座ったはいいものの、そこからアリスは何を喋るわけでもなく、相変わらず浮かない表情で黙りこくってしまう。
話したがっている内容は想像できたが、敢えて魔理沙は困ったような顔で笑いつつ言葉の先を催促した。
「おいおい、訪ねて来ておいて、だんまりはないだろ?」
「ん……うん」
「ま、何でもいいから言ってみろよ」
そんな魔理沙の心の動きを読み取ったのか、アリスは少し俯き、そして決心したかのように魔理沙の方を向く。
「……ねえ、魔理沙。私、フランの為に何かしたい」
「何か、っていうと?」
「分からない。でも、何かしたいの……」
理論家の彼女には珍しい曖昧な言葉である。
そしてそれが、今ある状況がいかに難しいかを物語っている。
「そうか。で、結局その『何か』が見えなくて、私の所に来たってわけだな」
「ん……」
「でもさ、助けるっつっても結構ヘビーな話だぜ? レミリアやらパチュリーやらでも解決出来なかった問題を、フランと会ってそこそこの私らがどうにかしようってんだからな」
「難しいのは百も承知よ。ただ、何もしないでいるよりはいい……!」
そう、何もしないのは、諦めたのと一緒だ。
このまま何もしなければまず間違いなくバッドエンド、それは重々承知している。
一人ではどうしようも出来なくても、二人、三人と集まれば光明が見えるかもしれない、それも同じく承知している。
ただ、それだけでは足りない。
目の前にそびえ立つ壁は、数百年の長い間越えられる事のなかった壁である。下手な鉄砲をいくら乱射しても、到底どうにかなる物ではない。
百発百中、全員がそうあろうとしなければ、いや、それでも足りないかもしれないが、少なくともそれくらいの気持ちでいなければならない。今回の話は、それ程困難なものなのだ。
自分の覚悟は今決まった。
何があってもフランドールをあの地下から連れ戻すという、断固たる覚悟である。
あとは、同じように覚悟を決めたメンバーとともに、地下へと向かうだけだ。
「お前さんの気持ちはよく分かった。……でも、今回ばかりはお手上げだ」
「……!」
「さっき見たろ? ボールが跡形もなく消えちまったのをさ。あんなの拝まされちゃあ、とても私がどうにかできる問題とは思えない」
「じゃあこのままあの子を見捨てるっていうの……!?」
「見捨てるわけじゃない。ただ、今すぐどうこうするには難しすぎる問題だ、って言ってるのさ」
「っ……! わかった、もう貴女には頼まないわよ!」
語気を荒立て、アリスは腰掛けていたベッドから立ち上がる。その顔に浮かぶのは、苛立ちと失望とが混ざったような表情だ。
私だったらきっと力になってくれる――そう思われていたんだろうな、と少し嬉しさを感じつつも、表に出さずに魔理沙は言葉を続ける。
「どこ行くんだ? まさか一人でフランとこ行く気じゃないだろ?」
「そうよ。……何か問題でもある?」
「あるね。大いにある」
「言ってみなさいよ」
「――お前さんに私の見せ場を取られる」
そう言って悪戯っぽく笑い、魔理沙はゆっくりとベッドから立ち上がった。
「……試したわね?」
「何のことやら」
「当てはあるの?」
「残念ながら」
「じゃあ、どうするのよ?」
「分からん。だから、聞きに行くのさ。ここにいる奴ら全員に、な!」
うだうだ考えてから行動するより、こうだ、と思ったらとにかくやってみて、それでもし悪い結果が出ても、そこからいい方向に巻き返す道を探せばいい――かつて師匠から貰ったそんな言葉を思い出しながら、戸惑うアリスの手を掴んで魔理沙は部屋のドアを蹴り開けた。
◆
「紫様、お茶が入りましたよ」
迷い家のとある一室の前。湯気のたつ湯呑みが二つ乗ったお盆を手に、藍は室内の主に向かって声を掛けた。
「……?」
しかし、紫からの返事はない。
持ってきて、と頼んでおいての事だから、突然の外出とは思えず、寝てしまったというのも考えにくい。ましてや、体の変調などは更に考えられない。
となると、何か。
「紫さ――」
「ありがとう。入って頂戴」
「……!」
部屋の中から少し遅れて返ってきた一言。
それ自体は何気ない言葉だが、藍はそれに違和感を覚える。
長年行動を共にしたからこそ分かる些細な変化――声から、不安そうな揺らぎを感じたのだ。
これまでにも何度か似たような事はあったものの、ここまではっきりと分かるのは初めてだった。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「ええ、ありがとう」
普段と何ら変わらないこざっぱりとした部屋に紫はいる。微笑んで横に座るよう促す言葉も、普段と同じだ。先程感じたそれは、今は少しも感じられなかった。
しかし、聞き間違える筈などない。まして、取り違える筈など更にない。何故なら、八雲藍は八雲紫の式なのだから。
座るよう促す言葉を片膝立ちで受け、藍はじっと紫の目を見据える。
「……紫様、何か問題があったのですか?」
「ええ、あったわ。今からそれを伝えようと思っていた所よ」
「え? は、はあ……」
何としても聞き出そう、と、そんな風に考えていた藍をよそに、紫はあっさりと問題があった事を告白してしまう。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔の藍を見て、自分の式を信用するよう言ったのは誰だったかしら? と笑いながら、紫は落ち着いた顔で話し始めた。
「フランちゃんのチームが出揃った事、それはもう知っているわね?」
「はい」
「今日の午後、紅魔館でそのフランちゃんのチームが練習試合をした。対戦相手は紅魔ライブラリーガーディアンズ。これはまだ伝えていなかったわね」
「(ライブラリーガーディアンズ……?)はい」
「問題はそこから先。その試合の最中、フランちゃんが能力を暴発させてしまったわ」
「……!」
能力の暴発――それは、フランドールがキャプテンとしてチームを率いることになった当初より、レミリアが繰り返し気に掛けていた事だった。
フランドールの持つ、ありとあらゆる物を破壊する力。お世辞にも完全に制御出来ているとは言い難いこの力が、何かの拍子で暴発してしまうのではないか。そして、実際にそうなってしまった時、フランドールはもう野球を、いや、もう誰とも関わろうとしなくなってしまうのではないか――
だからこそレミリアは、自分を除いたうえで最もフランドールと親しく、且つ最も信頼しているパチュリーに彼女の事を頼んだのだった。
だがそれでもまだ不安は拭えず、紫に頼んで定期的に隙間経由でこっそり様子を見守ったりもしていた。
しかし、事は起きてしまった。
「……甘かったわ。最初にあの子の部屋へ行った時とこの数日間のあの子とでは少し印象が違うとは思っていたけど、その事にもっと注意を払うべきだった」
何か起こりそうになったら、今後いくら恨まれる事になろうとも私はフランを止める――そんなレミリアの言葉が思い出され、紫は少し俯く。
自分はそれ程の覚悟をもってこの問題に取り組んでいたか、どこか他人事だと思い楽観視していたのではないか――自責を始めたら、それこそきりがない。
しかし、起きてしまった事をいつまでも悔やんだ所で、状況が好転しないのを紫はよく心得ている。
すぐに顔を上げ、不安を表に出さないよう必死に平静を保っている藍に、穏やかな、同時に厳格な表情で言葉を続けた。
「この状況を何とかするとしたら今夜中が勝負よ」
「はい。しかし、手立てはあるのでしょうか?」
「正直、分からない。でも私達はつい最近、似たような状況を打破した事があるでしょう?」
「こいし、ですね?」
「ええ。誰か一人の力ではどうしようも出来なかった問題でも、皆が結束する事で解決できたわ」
そこで話を区切り、紫は立ち上がって目の前の空間に隙間を開く。
残された時間はあまりない。いや、もしかしたら既に手遅れかもしれない。
それでも、諦めようとは一切思わなかった。
何故なら、この幻想郷に住まう誰一人として、不幸になってほしくないからだ。
「藍、悪いけど、橙を起こしておいてくれるかしら?」
「承知しました。紫様、他にも何か力になれる事があったら、いつでもお申し付け下さい」
「ええ。ありがとう」
藍の言葉を受けてにこりと微笑むと、紫は隙間の中へと一人身を投じた。
◆
紅魔館の屋上、といっても、登るための場所ではない単純に屋根の一角にて、二つの影が月明かりの下で酒を酌み交わしている。風見幽香と伊吹萃香である。
酌み交わしている、とはいうものの、実際は一人で酒を飲んでいた萃香の所へたまたま幽香が現れ、結果共に飲むことになった、というだけの話で、そこに「親交を深めよう」だとか「今ある問題について話し合おう」というような何らかの意図があるわけではない。
現に二人で飲みはじめてから三十分ほど経つが、ここまでに具体的な会話は一切なく、ただただ無尽蔵に湧く酒を飲んでは注ぎ足し飲んでは注ぎ足し、そうして時を過ごしているのみである。
「ぷはあ……」
「………」
「おっと失礼。さあ」
空になった幽香の枡に、萃香は何度目か分からない酒を再びなみなみと注ぐ。そうしてからぐいっと自分の枡を空け、同じようになみなみと酒で満たした。
因みに二人が湯水のように飲むこの酒、その名を『鬼強し』といい、かなり強めの酒である。にもかかわらず、どちらも潰れそうな様子はなく、それどころか、酔っている様子さえ見て取れない。
本当にただの水を飲んでいるかのように、面白そうにも楽しそうにもせず、淡々と枡を空にする作業をただただ繰り返している。
「ぷはあ……」
「……フン」
「んん、早いねえ。さあ」
空いた枡を見て先程と同じように酒を注ごうとする萃香。
しかし幽香は右手をすっと翳してそれを制した。
「ん? もういいのかい?」
「フン……不味い酒にこれ以上付き合うのが馬鹿らしくなっただけよ」
「……なに?」
刺のあるその言葉に、萃香の目が鋭く尖る。
が、すぐに元のとろんとした目に戻り、少し淋しそうに笑いながら自分の空いた枡に酒を注いだ。
「ふざけんな! ……と言いたいとこだけど、事実じゃあ仕方ないな。酒がこんなに不味く感じたのは私も初めてだよ」
「フン……」
ぐいっと枡を呷って、徳利と一緒にそれを無造作に置くと、萃香はほうとため息を吐いた。
そこから二人は特に会話を交わすこともなく、満天の星空の下で吹き抜ける夜風にただ髪をなびかせる。
そうして、幾らかの時間が経った頃だった。
ふいに幽香が無表情のまま視線を萃香の方へと向けた。
「……一つ答えて頂戴」
「ん? どしたい?」
「貴女はあの子と一打席の勝負をした、それは間違いないわね?」
「ああ、したよ。そんで負けた。ははっ、バットへし折り、いや、バットへし砕きやがんの」
「思い出話に興味はない。問題はその時にあの子が投げた球の速さよ」
そう言うと幽香は立ち上がり、真上の星空に向けて傘を構えた。
「貴女の目を信用する。刮目なさい」
「ああ。任せな」
幽香が何をしようとしているのか萃香はすぐに理解し、同じく立ち上がる。
それを横目で確認した幽香。次の瞬間、紅魔館の屋上に一瞬の轟音が鳴り響き、一閃の光が星空へと吸い込まれていった。
「今のが今日見せたあの子の速さ。さあ、答えなさい。貴女が体感したそれは今の速さよりも上か、それとも下か」
「うーむ」
「………」
「ふむ」
「勿体ぶる気? 下らない。さっさと――」
「――眩しくて何が何やら分からなかった!」
「………」
「ははっ、悪いね!」
「ちッ……」
呆れたような顔で舌打ちをすると、幽香は再び傘を上に構えている。
こりゃあしっかりした答えが得られるまで何回でも付き合わせる気だな――そう予感して苦笑し、萃香はどかっとその場に胡坐をかいて徳利と枡を手に取り、先程までと同じくなみなみと酒を注いだ。
「……答える気はないと?」
そんな態度に、露骨に苛立ちの表情を浮かべた幽香が突き刺すような鋭い視線を向けるが、それを特に気にすることなく萃香はぐいっと枡を傾ける。
「ぷはあ……。いいや、そうじゃないさ。要はあんた、フランの全力を知らないままじゃ納得いかないって、そういう事だろ?」
「フン……いけないかしら?」
「結論から言えば、打席に立ってみないとはっきりとは分からないよ」
「………」
「だから、さ!」
空になった自分の枡に酒を注ぎ、置かれたままのもう一つの枡を同じように酒で満たすと、萃香は再び立ち上がり、にかっと笑ってそれを幽香に渡した。
「何とかしてみようじゃんか! このまま負けっぱなしなんて御免だからさ!」
「……フン」
差し出されたそれを受け取り、幽香はにやりと笑う。
「負けっぱなしは納得いかない、その一点だけは同感よ」
「ははっ! だよなあ!」
そして二人は枡をこつんとぶつけ合い、同時にそれを呷った。
と、そんな中、屋根に上がってくる新たな人影が二つ。
「――なんだなんだ、こいつは珍しい組み合わせだな」
「しかもお酒飲んでるし」
魔法使いコンビ、魔理沙とアリスの登場である。
ちなみに二人がここへ来た経緯は、フランドールを助けるという決意のもと部屋を出た瞬間に、外から激しい光と爆音が鳴り響いたので、驚いてスッ飛んできた、との事。
「そうかそうか! はっはっは!」
「フン……普通の脳をした奴なら、逆に館内に残ると思うけどね」
「ん? どういう意味だよ?」
「貴女達の脳がとち狂ってる、という意味よ」
「な、何ですって!? 魔理沙はともかく私は正常よ!」
「お、おいアリス! そりゃないぜ!」
「はっはっはっは! ま、せっかくだから景気付けにあんたらも一杯やろうや!」
先程までの静かな夜とは打って変わり、賑やかになる紅魔館の屋上。
しかし、話はそれでは終わらない。
「ほらほら! 固い事言わず――おっ?」
「飲まないって言って――ん?」
幽香が言う『脳がとち狂ってる』のは、二人だけではなかった。
「コラ馬鹿共。人がせっかく気合い入れていこうとしてるのに水差すんじゃないわよ」
「それに、花火は少し季節外れってモンじゃないかい?」
不機嫌そうな霊夢、呆れ顔で笑う妹紅。
「全く、こんな真夜中というのに……」
「ふふ、力が有り余っているのは悪い事じゃないわ」
苦笑する慧音、優しく微笑む永琳。
「私の眠りを妨げるものは何人たりとも許さん!」
「いやいや、姫様寝てなかったじゃないですか」
激怒したような輝夜、それに突っ込む鈴仙――
初めは萃香一人だった屋上は、今や十を数えるメンバーが『萃まった』のだった。
「フン……おせっかいだこと」
「はは、誤解だよ。私が萃めたのはあんただけさ」
「……ちっ」
奇跡を起こすための運命の歯車は、ゆっくりと噛み合い始めていた。
◆
運命を操る――それがレミリア・スカーレットの持つ力である。
言葉にしてみれば至極簡単なものだが、その力の詳細は彼女の従者である咲夜ですら知るところではない。
中には、ただ格好付けたいが為のはったりではないかと言う者もいるが、咲夜は信じて疑わなかった。
そう、自分を含めた誰もが見ることの出来ない運命を、主はしっかり見据えているのだと。
「――……というのが今の状況よ」
「フラン様が……そんな……!」
時刻は深夜。
白玉楼の離れに寝泊まりしていたレミリアと咲夜は、前触れなく現れた紫に今日紅魔館でフランドールの身に起きたことを聞かされた。
その余りにも衝撃的な内容に、普段は常に冷静な咲夜も今は動揺を隠せず、眉間にしわを寄せて力ない声を洩らす。
「ごめんなさい。私がもっと注意を払っていれば、防げたかもしれない」
同じく、普段はどこか掴み所のない余裕を持っている紫も今回ばかりは焦燥している様子で、表情は固く声も重い。
それだけでも、今ある状況がいかに困難なものなのかが分かる。
「………」
そんな中、レミリアだけが表情を崩さない。口を開かず、薄く目を閉じている。
だがそれは、無理に平静を装っている風には見えない。ましてや憤っていたり、絶望しているわけでもないようである。
思案――それも、あらかじめ纏められていた、これからやるべき事の順序を確認しているような、そんな印象を咲夜は持った。
そして主のその姿が非常に心強く感じられ、動揺に揺れていた心が少しずつ平静を取り戻していく。
「これは私の勝手な考えだけど、これから私達のチームのメンバーを集めて紅魔館に向かおうと思っているわ。勿論、当主である貴女の許可をとる必要があるけれど」
そんなレミリアの姿は、紫の目にはどう映っただろうか。
幾らか普段に近い表情で二人にそう告げると、先程現れたのと同じ場所に隙間を開いた。
「藍と橙、それと幽々子と妖夢を連れてくる。その時にまた、答えを聞かせて頂戴」
そして一言「悪いわね……」と呟くように言い、隙間の中へと消えていった。
紫が去った後の寝室。
一刻を争うであろう状況にも関わらずやけに静かで、夜風が軽く戸口を叩く音ですらよく聞こえる。
咲夜は口を開かず、ただ頼れる主の言葉を待った。それがどんな言葉であっても、それに従おう――そう心に決めて。
長いような、短いような、そんな時間が流れる。急かすように、戸口を叩く風の音が響く。
「――パチェは責任を感じてしまっているでしょうね」
それはまるで周囲の音と同調しているかのような自然な、そして優しい声だった。
そして同時に、誰のどんな場面での言葉より頼もしい、そんな一言だった。
「はい。責任感の強い御方です」
頼もしさと同時に咲夜の中で湧き上がる、言いようもない嬉しさ。
この方に仕える事が出来て、今後も仕える事が出来て、本当によかった――そんな心情を読み取ってか、レミリアもまた少しだけ嬉しそうに笑った。
「紅魔館へ戻る。貴女の力を借りるわ」
「仰せのままに――」
同時刻の、紅魔館内魔法図書館。
その書斎にて、山のように机に積まれた魔導書を、普段はやらない速読でパチュリーは次々に読み漁っていた。
目的は一つ。かつて一度は諦めた『フランドールの力を抑える』手立てを探しているのだ。
傍らには小悪魔がいて、目ぼしい魔導書を探しては机に置き、また既に読み終えられたものを片付ける作業を繰り返している。
「ふう……」
「はー、はー……」
この作業を始めてからかれこれ五時間あまりが経ち、パチュリー、小悪魔ともに疲れの色が見え始めているが、二人は一時も休もうとはしない。
覚悟を決めたのだ。どんなことがあってもフランドールを助けるという、確固たる覚悟である。
ここまでの成果で、試すに値すると見た術式は今のところ二つ。どちらも完成とはとても言えない代物だが、それでも何かしら進展があるかもしれない。
最初からこうやって死に物狂いでやっていれば、とっくに解決できていたのかも知れないわね――読み終わった本をどかす傍ら、ふと頭をよぎったそんな考えに自嘲気味に笑うと、パチュリーは再び新たな本を手に取った。
「こあ、少し休みなさい。作業の再開は今あるやつが無くなってきたらでいいから」
「なんのこれしき! それに、これは私が勝手にやってることですからパチュリー様はお気になさらず!」
気遣いありがとうございます! と一言付け足し、にこっと笑って小悪魔は再び本棚の海へと戻っていく。
その姿を見て、私も頑張らなくては、とパチュリーが手元の本を開こうとしたその時、分厚い図書館の扉が開く音が耳に飛び込んできた。
「………」
気配は一人分。
大方魔理沙かアリスのどちらかだと思いつつ、図書館の各所に設置されている監視用の水晶玉を通して映像を手元の水晶玉に映し、姿を確認する。
「……!」
だがそこには、ここにいるはずのない人物が映し出されていた。
今は白玉楼にいるはずの紅魔館当主、レミリア・スカーレットである。
手元の魔導書をぱたりと閉じてパチュリーは立ち上がり、そして、延々と続く本棚の羅列の先にその姿を確認すると、佇まいを正す事も忘れて駆け寄った。
「レミィ……!」
「こんばんは、パチェ」
普段この時間に顔を合わせるのと変わらない態度でレミリアは挨拶をする。そこには一切の淀みもなく、無理に感情を押し殺している様子はない。
しかし、レミリアが今日ここに帰ってくる理由を、フランドールの身に起きた事を知った、という以外パチュリーは思い当たらなかった。
何故なら、全体練習を始める前に妖精メイドを白玉楼に送って旨を伝えたところ、それなら今日は帰らない、というレミリア自身の言伝を受け取っていたからだ。
「レミィ、あの……」
混乱を隠せないパチュリー。心の準備が、出来ていない。
頭に浮かぶのは、取り返しの付かない事をしてしまった、いう罪悪感と、失望されるのではないか、という不安感である。
「パチェ」
貴女を信頼した私が間違っていた――
貴女には荷が重かった――
親友が次に口を開く時、どんな罵声が飛んでくるのか。そう考えると、パチュリーの体は自然と震えてくる。
「レミィ……私――」
しかし、そんなパチュリーの不安をよそに、罵声など、いや、言葉すらありはしなかった。
「……!」
その代わりに、ふわりとした水色の髪の感覚を、パチュリーは右頬へと受けていた。
「ごめんね、パチェ。辛い思いをさせてしまって」
そして、嘘偽りの一切無い、心から労う言葉――親友の口から出たその一言にパチュリーの体の震えが、その意味を変える。
「でも……私は……」
「いいの。誰にも貴女を責めさせなんてしない。大切な親友にそんな事をする奴がいたら、誰であろうと私が許さない」
「レ……ミィ……」
「だから、泣かないで。大丈夫、この数日で成長したあの子なら乗り越えられる。長い間あの子の前に立ち塞がっていた壁を、乗り越えられるわ。パチェ、貴女のおかげよ」
「うっ……うっ……」
こいしは乗り越えた。次はフラン、貴女の番よ――心の中で呟き、レミリアはか弱く震える親友の体を優しく抱き締めるのだった。
◆
食事、入浴と済ませ、お気に入りの寝間着を着てベッドに横になったこいしは、先程の『声』の事を考えていた。
聞き取れなかった内容はともかくとして、微かに聞こえたそれは、どこかで聞いた覚えがあるような気がするのだ。
それも、比較的最近聞いた、そして親密な誰かのものであると、覚妖怪の本能(というよりこいしの勘)が告げている。
最近且つ親密と言えば、真っ先に思いつくのはチームメイト達。
だがその顔触れを想像してみても、思い当たる節は一切ない。第一、傍にいる時ですら何の変化も無かったものが、わざわざ遠く離れた場所にいる今、あろうはずもないというものだ。
しかし、それ以上にこいしは『心の声が自分に聞こえた』という事実に対して頭を捻っていた。何せ、遥か昔に胸元の眼を閉じて以来、そんなことは一度たりともなかったのである。
ただ、さっきのそれが聞き間違えでない事だけははっきりと分かった。
例え聞き取れないような微かなものでも、確かに第三の眼は反応したのだ。覚妖怪であるこいしが、心の声かそうでないかを違える事は絶対にない。
だからこその、戸惑いなのである。
(やっぱり、お姉ちゃんに相談した方がいいのかなあ……)
こういう状況で頼りになるのは、やはり姉のさとり。というより、心の声に関する相談相手は他にはいない。
しかし、先程そう思ったように、こいしは出来る限り大好きな姉に心配を掛けたくなかった。
優しい姉はきっと、心配掛けるだなんてとんでもない、と言って助けてくれるのだろうが、自分の問題は自分の力で解決したいのである。
とはいうものの、今はもう第三の目に特別な変化はなく、となれば当然『声』が聞こえてくる事もない。
とどのつまり解決もなにも、既に終わった話という可能性すらあるのである。
「んー……考えても仕方ない、か」
自分に言い聞かせるように呟き、こいしはくるんとその場で寝返りをうった。
ベッドでごろごろしながら、以前フランドールに貰った本『そして誰もいなくなった』を読んでいると、段々目蓋が重くなってくる。
ページにびっしりと記されている文字が少しずつ歪み、仰向けの顔の上に位置付けた本が段々と鼻先に向かって高度を下げてきた。
このまま顔に本を落として寝てしまおう――そう思ってこいしが目を閉じた、その時だった。
――………
「……!」
それは、紛れもない『声』。
第三の眼が強く反応している。緩く閉ざされていた目蓋がさらに緩む。
それと同時にこいしの意識は少しずつ閉ざされていく。今まで幾度となく経験してきた感覚――そう、無意識の力である。
「……駄目……っ!」
しかし、包み込むようなその無意識に対し、こいしは必死に抗っていた。
と言うのも、ひとたび意識を委ねてしまうと、次に意識を取り戻すのがいつになるか分からない(記憶に残っている最も長いもので、実に半年近くも時間が経っていた事がある)からだ。
もし平時であれば、何ら考えることもなくそれに身を任せる所だが、現在こいしはチームのキャプテンという立場にある。そんな中で自分が何をしているかも分からない無意識に身を委ねる事、それは下手をするとようやく形が出来てきた今回の野球の話を台無しにしてしまう可能性があった。
当然だが、そんな事態には何があってもさせられない。
「っ……!」
さらに強まるかつてないほどの無意識の干渉に必死に堪えるこいし。しかしそんな中で彼女は、今まで感じたことのない、とある違和感を覚えていた。
この無意識は、これまでのような漠然としたものではない――どこか急かしているような、さらには訴えかけるような、そんな強い意志があるように思えるのだ。
そして、未だはっきり聞こえない『声』。第三の眼は、苦しそうに目蓋を震わせている。
(ん……分かってる。分かってるよ)
薄々、感付いていた。
声が届かないのは、音が小さいせいでも雑音が混じるせいでもない。
自分が、そう、自分自身が心を開こうとしないから、恐がっているから、だから、いつまでも声が聞こえないんだ――
強い干渉が、僅かずつではあるが、弱まってきているのが分かる。
きっとこのまま拒絶していたら、自然にこの干渉は納まり、声も聞こえなくなるだろう。
それが一番いいのかもしれない。そうすれば何も心配することなく、また明日から野球に汗を流せる、そんな楽しい日々が待っている筈だ。
でも、私は決めたんだ。私は……
「もう、逃げない……!」
深く呼吸をして目を閉じ、こいしはゆっくりと無意識に身を、『声』に心を委ねた。
すると、どこか強引だった干渉は鎮まり、まるでこいしを気遣うように優しく、徐々に彼女の意識を薄れさせていく。
――……こ…い…し……
そんな中で、はっきりとこいしの心に届いた、親友の『声』。
殆ど消えかけた意識の中、一瞬だけ薄く開いた両目は、その奥に強い決意をしっかりと灯していたのだった。
「すぐ行くから……待っててね、フラン……!」
■暫定メンバー
《アルティメットブラッディローズ》
投手:古明地 こいし(左投左打)
捕手:古明地 さとり(右投左打)
一塁手:八雲 紫(右投両打)
二塁手:十六夜 咲夜(右投右打)
三塁手:レミリア・スカーレット(右投右打)
遊撃手:西行寺 幽々子(右投右打)
右翼手:橙(右投右打)
中堅手:魂魄 妖夢(左投左打)
左翼手:八雲 藍(右投両打)
《フランドールチーム》
投手:フランドール・スカーレット(右投右打)
捕手:パチュリー・ノーレッジ(右投右打)
一塁手:伊吹 萃香(右投右打)
二塁手:紅 美鈴(右投右打)
三塁手:霧雨 魔理沙(右投右打)
遊撃手:鈴仙・優曇華院・イナバ(右投左打)
右翼手:アリス・マーガトロイド(左投左打)
中堅手:風見 幽香(右投左打)
左翼手:藤原 妹紅(右投右打)
マネージャー:博麗 霊夢(右投右打)
臨時コーチ:上白沢 慧音(右投両打)
《図書館防衛隊チーム》
投手:八意 永琳(右投両打)
捕手:蓬莱山 輝夜(右投右打)
一塁手:小悪魔(右投右打)
二塁手:隊員A(右投右打)
三塁手:副隊長B(右投右打)
遊撃手:隊員F(右投右打)
右翼手:隊員B(左投左打)
中堅手:副隊長A(左投左打)
左翼手:隊員D(右投右打)
続く
入れ込みすぎず、今の高いクオリティのまま、時間が掛かってもいいから、じっくり完成を目指してくれたら俺は満足です。