遠くの景色が陽炎のせいでゆらゆらと歪んで見える。風鈴が涼しげな音を立て、そこら中で蝉が騒がしく鳴いている。
畳の上で口元に吐瀉物を付けた鬼が乙女らしさ0のお子様には刺激の強すぎる姿勢で横になっている。昨日は酷い目にあった。
変わった酒を飲んだような気がするが、あまり覚えていない。どうやら相当酔っぱらっていたらしい。
遊び疲れた氷精が静かに胸を上下させている。
夏場に氷精は便利ね。幽霊よりも優しい涼しさを提供してくれる。透き通るように青い髪を撫でてみる。
嬉しそうな表情を浮かべて寝がえりをうつ。 3対の氷で出来た羽が小刻みに震える。
以前あげた赤いリボンは気に入って貰えたらしい。最近よく付けている。
「うぉー、すげぇぇ。霊夢とお揃いだ!!あたい最強だ!!!! 」などと喜んでいたの思い出した。
ふと、障子の外に目をやる。青々とした空にポツンと黒点が見えた。
その黒点は星型の閃光を撒き散らしながらこちらに向かってきている。
徐々に大きくなってくるそれは魔理沙だと確認できた。薄着にすればいいのに何時もの黒装束のようだ。
やがて少しづつ高度と速度を落としてふんわりと境内に着地した。一瞬ドロワーズがチラリと覗く。
箒を適当な所に置いてこちらに歩いてくる。
しばし悩むような表情を浮かべていたが、直ぐに何時もの表情に戻った。
そういえば大事な話があるとか昨日言ってたわね。直後に宴会が始まってうやむやになったけど……。
「れいむー、そんなに暑いなら食べると涼しくなるキノコをあたしが都合してやるって何度も言ってるじゃないか」
「そんな得体の知らないキノコいらないわよ」
そんな話か……。昨日は楽しい気分になるキノコを勧められたわね。萃香が尋常じゃない酔い方してたような。
「れいむ~~~~~。宇宙が理解できたよ~~ 」とかなんとか……全裸で喚いていた。
「霖之助とこからクーラやら扇風機やら借りてくればいいじゃないか」
「電気が通ってないと使えないって話じゃない?」
電気屋さんが幻想郷にあればいいのにな~。で、いつになったら本題に入るのかしら?
氷でキンキンに冷えた麦茶を一口啜る。
「河童に頼めばいいじゃないか。それぐらいならキュウリで引き受けてくれるぜ」
「わたしがキュウリ食べたいわよ」
今月は久しぶりにピンチだ。異常な猛暑のせいでただでさえ少ない参拝客がもっと少なくなったのだ。
お賽銭が入らない。宴会も昨日やったばっかりで暫く宛がない。
家の周りの山菜はあらかた採ってしまったし、そろそろ雑草でも食べようかしら。
この前は早苗に「寄生虫が湧いているから煮ても焼いても駄目です」て止められたっけ……。
お粥美味かったと、いらぬ食欲を喚起する回想に耽っていると
「う、ぐぐぐぅ……じゃあ、萃香に冷気を集めて貰えばいいじゃないか?」
「チルノ呼んだ方が楽じゃない。ねぇ、萃香?」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「今日はやけにつっかかってくるわね。何が不満なの?」
「私は……ただ霊夢が心配なだけだ」
「何よ?」
しどろもどろになっている魔理沙はこう切り出した。
「お前が変な趣味に目覚めていなかどうか心配でならないんだ」
「はぁ? 」
魔理沙が何を言わんとしているのかいまいち読めない。
「一日中部屋に籠って人形と戯れたりなんてしてないわよ」
「高尚な学問的探求になんてこというんだ」
学問的だったのか。あの白魚のような綺麗な手で統率されている人形達の振る舞いは
もう病気認定で良いと思うけど。良い意味で。
「妖怪退治を理由に常識に囚われない奇行に走るとか?」
「うーん遠からず近からず? 」
一体何が言いたいのか?
「私は霊夢が……小さなお子様に良からぬ関心を抱いていないか心配なんだぜ? 」
「は?」
ほんとに今日の魔理沙はよくわからない。何やらもじもじしてて可愛いが。
大体私が興味を持っているのは……。
「具体的にいうと××××が××××で××××だということだ」
「はぁぁぁああぁぁ?」
うん、永遠亭に連れて行こう。
「その反応図星なのか霊夢!!!!霊夢はなんだかんだ理由をつけて幼女をはべらす趣味があったのか!!!!」
ちょっとその認識は二人に失礼なのではないか?まぁ、気にするとは思わないけど。
「それで? 寧ろこの幻想郷でおかしくない趣味もってる人のほうが少ないと思うけど」
紅魔の主とその従者、スキマ妖怪、七色の魔法使い、永遠亭主と頭脳、竹林の蓬莱人、人里に住むハクタク、ドM天人……枚挙にいとまがない。まるで喜劇ね。
「霊夢わたしは友達として真剣に心配しているんだぞ」
「そんな風な妄想するあんたを私は本気で心配するけど」
取り敢えずジト目で言ってみる。例の三人組の妖精は無事かしら?
「妄想なんかじゃない。このまえパチェから借りた本にお前と似た症例が載ってたんだ」
魔理沙がだんだん心配になってきた。怪しい本に載っている偏った知識で現実を認識しとる。
「あんたねぇ、考えすぎよ。萃香は友達以上の認識はないし、チルノは妹みたいなもんよ」
「いや、全然赤の他人を’妹みたい’て発想がおかしい」
「何が?かわいいじゃない。ていうか今日のあんた色々可笑しいわよ」
なんとなしにもちもちするほっぺを指でふにふにつつく。
氷精独特の肌の冷たさが水饅頭ぽくてたまらない。
氷でできた三対の羽を寝苦しそうにぶるるると震るわせる。
「とにかく、暫く萃華とチルノは家に借りてくぜ」
今日の魔理沙はいつもに輪をかけて意味不明だ。
まぁ、萃香連れてく分にはいいけど。食費浮くし。けどチルノは困るなー。
さて、退屈してたところだし……。
湯呑を静かに盆に戻し
「魔理沙、ちょっと表出ようか。…………冷房は渡さん」
ちょっとドスを含ませて言い放つ。
「望むところだぜ」
魔理沙がそれに応酬する。
私はふわりと宙に浮かび上がる。身体を楽な姿勢で身体を伸ばしつつ重力をカットする。
重力から解放されたリボンやスカートが少し浮き上がり揺らめく。
そのまま入道雲の浮かぶ夏の蒼の中へ飛翔する。
魔理沙も靴を履いて石畳の上に放置してあった箒に跨り輝く星屑を勢いよく噴射しながら機首を真上に向け急上昇する。神社を巻き込まない高度に達したところで散開する。
「あたしが勝ったら’焼肉おりんりん亭’で極上カルビコースね」
早速要求を述べる。ぎぶみーみーと。
「ついさっきは野菜食いたいて言ってたじゃないか」
魔理沙が嫌そうな顔してる。
「あら、チルノの価値はキュウリと等価?」
「私は3枚だ。勝ったらチルノは頂くぜ」
魔理沙はスペル宣言をする。
いや、ほんと何様なんだろうね。と取り敢えず自分のことは棚上げにしてそんなこと思った。
「3枚、暑いしお腹が空いたしね。とっとと終わらせるから財布の中身確認しておきなさい」
スペル枚数の宣言をしておく。うん、やっぱりこういうやり取りが気楽でいい。
魔理沙が通常弾をばら撒いてきた。それを水平に移動してかわす。
お返しにお札と陰陽玉をばら撒く。魔理沙は上半身を軽く傾けてかわす。依然射線はこちらに向いたままだ。
魔理沙の右斜め後方辺りに適当にワープ。一瞬浮き上がる感覚の後急降下するような感じがする。
魔理沙は明後日の方向に魔法弾をばら撒いている。
「そっちか」
魔理沙がこっちを向く。すかさず通常弾と大量のお札をばら撒いてワープ。
魔理沙の箒から溢れる光が激しくなった。加速する魔理沙。間合いをとるつもりらしい。
適当に魔理沙の周りをワープと高速移動を組み合わせてぐるぐる回りながら弾幕を張る。
掴みどころのない不規則な軌道で翻弄する。
魔理沙は最小限の進路変更で札を回避している。
「 星符「ノンディレクショナルレーザー」 」
魔理沙が宣言とともにスペルを展開する。
それぞれ赤、青、黄、緑にぼんやりと輝く魔法具を射出し機体の周りに回転させる。今度はじりじりと魔理沙が距離を詰めてくる。
魔法具から光が迸るが、見切るまでもなく当たらない。
星形の光弾がクロスするように魔理沙から4方向に乱射される。
が、最小限の動きで躱せばどうということはない。
スペルカードが爆ぜる。魔法具も自爆する。
「星符 「ブレイジングスター」 」
何度もやり合っていれば覚えるわよ。
宙返りしてかわす。やや上方を逆さになりながら浮遊し、トレードマークのとんがり帽子を取り上げてみる。
「 夢境「二重結界・乱」」
逃げられる前にスペル宣言をする。
空間に立方体状の結界を二重に展開、魔理沙を挟撃する。
裏返った空間に仕切られた不可視の密室だ。全方位に扇状に札を射出する。
発射された札は私を覆ている箱に当たり魔理沙の背後めがけて飛んでいく。
札は背後から次々に現れ、密室を跳ね回る。魔理沙はカードを廃棄して絶妙な軌道でそれらの濃密な弾幕をかわす。
「帽子返せ!!」
帽子に目を落とす。そんなに大切なものなのかしら?なんとなく匂いを嗅いでみると柑橘類系のいい匂いがした。
「!!!」
動揺する魔理沙は避けたばかりの弾幕へ突っ込んだ。おちゃめさん。
時間切れでカードが爆ぜる。
「ぐ、まだだ!!」
球状のオプションを左右に展開してマジックミサイルを発射する。
人型に切り抜いたアミュレットを適当に撒いたら勝手に弾道が逸れた。遥か後方で炸裂し入道雲が裂ける。
「あーぁ。がっかりね。今日のあんた弱いわよ。キノコにあたった? 」
今日の魔理沙は控えめだ。何か遠慮している感じがする。
「う、うるさい。今日は調子が……ぇぇぇぇえええええ!!!!」
ワープして魔理沙のすぐ目の前に出てみる。箒に跨って魔理沙のおでこを触ってみる。うん、大丈夫熱は無い。
「具合悪いなら竹林に行くか自分家で寝てたほうがいいんじゃない? 」
魔理沙の身体が不要な力で強張り箒がブレイジングスター直前の速度まで加速する。
「えいや!」
「げふっ」
捕縛用の札を魔理沙の顔に張り付ける。
紫電を発し、表面の有難い言葉が発光する。札が起動したのだ。魔理沙は一度大きく身を震わせ動かなくなった。
妖怪用の強力なやつしか手元になかったけど気にしない。
この程度で致命傷になるようであれば紅霧異変の時にとっくにお別れになっていただろう。
力なくもたれ掛る魔理沙から箒のコントロールを奪う。
後方への推力を少しづつ減らし、最後に先端から強めに一噴きさせて安全に停止させる。
右手に箒、背に魔理沙。
魔理沙は思っていた以上に軽かった。
取り敢えず神社の様子を見に戻る。
「おヴぇぇぇぇぇ……げべぇぇぇぇげヴぇぇぇヴぇ……」
萃香がトイレで昨日食べたキノコを戻していた。酸っぱい匂いがする。
「萃香、留守番よろしく。ちょっと永遠亭行ってくるわ」
茶舞台に胃薬を置いて去ろうとすると
「おヴぇエエェ……ひどオグゥェ霊夢。全然心配してくれなおヴぇぇぇぇ……」
和式トイレに向かいながら萃香が喋る。
「心配も何も、昨日の夜中にも戻しているみたいだからあんたは大丈夫じゃない? 」
それだけ返して永遠亭に魔理沙を抱えていった。
「あんたでしょ?」
「銘酒・真月の雫」今朝片づけていた時に見つけた瓶だ。こんなものこの辺で流通しているところを見たことない。
「そうね。情緒不安定になる薬とモニタリング用のナノマシンを昨日の宴会で……」
永遠亭の頭脳が不敵な笑みをこぼす。
右手にはカルテ。左手で出来たばかりのコブを擦っている。
「臆病な少女の背中をひと押ししただけよ」などとのたまっている。
「おかしいと思ったのよ。今朝からロマンチックが止まらないし」
「そのわりにはあなたは普通ね。想像を絶するピンク色の世界が頭から離れない筈だけど?」
今朝から人妖問わず女の子を見ると異常に動悸が早くなるのだ。しかし、永琳の言う様な桃色の悪夢というのはいささか誇大表現だと感じた。
「薬学的には完璧なはずなんだけど……となると呪術的な構成から練り直しね。ますます貴女の身体に興味が湧いたわ」
「はた迷惑な探究心ね。身体に興味があんなら、あんたのとこの姫か因幡とかにすればいいじゃない」
少し不機嫌そうな声でいう。
「ふむ……、薬を飲んだ時点の状態を維持しようとする姫の身体じゃ実験できないし……月の因幡じゃ幻想郷向けの薬の被検体としては不適当なのよね」
「たまにうちの神社に兎権を主張する優曇華が泣きつきに来るわよ? あれなんなのよ? 晩御飯が兎鍋の日は発狂してめんどくさいのよ? 」
愉快な因幡について苦情を申し立ててみる。食べるものをえり好みしている経済的余裕はないのだ。断固抗議する。
「そう、今度あまり遠出できない仕掛けを下の穴に詰めておくわ」
などと永琳と話していると
「うにゃぁ? 霊夢」
ベットで眠っていた魔理沙が目を覚ました。
「はい、請求書」
永琳が魔理沙に請求書を渡す。
「ん、この宿泊費てなんだ? 私は大丈夫だぞ?」
魔理沙がぼやく。
「あんたさっきまで酷かったんだから今日はここに泊まっていきなさい」
「へ? てか霊夢、私の帽子と箒は? 」
「脱走すると思って預けてあるわ」
「うぐぅ……」
不満そうな魔理沙。
「入院生活なんて暇で暇でしょうがないんだぜ。霊夢、魔導書家から取ってきてくれないか?」
「ダメよ。火器厳禁」
永琳が注意する。まぁ、病人に爆発は毒だ。
「さて、部屋の準備と薬の調合をしてくるわ。……1時間くらいは掛りそうね」
永琳が部屋から出ていく。
魔理沙と二人きりになった。
「霊夢!!」
「魔理沙!!」
えらく胸がどきりとした。
「な、なんだ霊夢?」
「魔理沙からどどうぞ!! 」
しばし、沈黙が部屋を満たす。
「霊夢……本当はチルノも萃香もどうでもいいんだ。」
魔理沙が訥々と語りはじめる。そんなことわかっていた。
「私はただ……構ってほしかっただけなんだ」
知ってる。
けど、いつも素直になれないのだ。
「異変の時は一緒に暴れまわるじゃない? 」
ついぶっきらぼうに返してしまう。
「違う!!そういうことじゃない」
わたしも魔理沙と一緒にいると胸が暖かくなる。
手を握り締めたくなるし、鼓動を感じたい。
「なあ、霊夢……おまえは何処にも行かないよな?」
縋るような視線を感じる。無論だ。
「異変を解決するたびに霊夢の周りを賑わす妖怪がどんどん増えていく……普通の魔法使いなんて肩書きが霞むようなやつらが……」
「ばか」
魔理沙を抱きしめる。
「魔理沙の大莫迦!!」
きゅっと魔理沙が握り返してくる。
「霊夢?!」
ほんとうの大莫迦はわたしだ。こういう単純なことが何で今まで出来なかったのか。
魔理沙と視線が交差する。艶っぽい視線がわたしを見つめてくる。
心臓が大きく脈打っている。
「えーとね、魔理沙……目閉じててくれる?」
恥ずかしかったから……せめてもの照れ隠しのために。
「だぜ」
普段の彼女からは信じられないような従順さをみせた。
そっと唇を重ね、お互いを確かめ合う。
魔理沙に覆いかぶさり、魔理沙も手を背中にまわしてきて受け入れる。
綺麗なブロンドからは搾りたての柑橘類のような甘い匂いが、絡み合う舌はねっとりとしていて離れた唇からは糸が引き……
パックリと割れたスキマから濃厚な少女臭が伝わってくる。
「霊夢? 何した?何も見えないぜ? 」
紫色に鈍く光り、揺らめくスキマの下から魔理沙の声がする。
「んふふふふ、霊夢ったら大胆ね」
眼前の女がスキマから顔だけ出した状態でわたしに声をかける。
頭を鷲掴みにして抗菌素材の床に叩き付ける。
滲む視界が胡散臭く笑う少女の存在を認める。
目じりに浮かぶ涙は羞恥のためか、屈辱のためか……想像し得る範囲から最も残虐な手法でスキマ妖怪を退治した。
暇を持て余した永琳と一応病人の魔理沙の三人でお茶を啜っている。
魔理沙は顔紅潮させ俯き、永琳は何か残念なものを見る視線をこちらに向けてくる。
その視線には「1時間も何をしていた?」という非難が感じ取れる。
「し、師匠!! たたたた、大変です。心神喪失した大図書館と人形遣いが竹林の防衛網を抜けこちらに向かってきます」
着衣も乱れ、息も切れ切れに慌ただしくかけてきた鈴仙が報告をする。
永琳は整った鼻から盛大に零れる赤い雫も気にする風もなくパソコンを操作する。
モニターに鼻息荒く突撃する紫色の大図書館と、何事かを囁きながら複数の人形を縦横無尽に操り、制止する警備部隊を蹴散らす人形遣いが複数の視点から表示された。
たまたま居合わせた兎妖精達が巻き添えを食らい次々に一回休みとなっていく。
「ふむ……ということは……」
次に永琳が幻想郷の中の実時間映像を複数のウインドウに表示する。
人里で蓬莱人を追い回すハクタクは……全力で無視して博麗神社周辺の映像だけ拡大する。
うちの周りで昨日の宴会に参加したメンバーが何かを喚きながら弾幕ごっこをしている。妖力やら神力やらで形成された花火が夜の神社を昼間のように照らし出す。
「異変ね」
誰に言うでもなく囁く。原因は懲らしめた。が、腹の虫がおさまらない
「神社を壊されたらたまったものじゃないわ。ちょっと解決してくる!!」
部屋を出ようと歩みを進める。
「霊夢!!」
魔理沙も付いてこようとする。
因幡を愛撫している永琳が「頑張れ。少女」とこちらにウインクする。うざい。
「焼き肉」
ぼそりと先ほどの約束を蒸し返す。
「魔理沙にはわたしに焼き肉を奢るために早く元気になって貰わないと」
早口で捲し立てる。
「うーん、霊夢そこはもっと違うこというとこだぜ」
「どんなことよ?」
問い返す。すると魔理沙は
「霊夢、愛してる!!!」
魔理沙が叫ぶ。
リボンを何となしにいじる。小恥ずかしいくてどうしようもない。
さっき私が言えなかったことを平然と言える魔理沙が羨ましい。
野イチゴのように甘酸っぱい空気を感じる。
パンクしそうなほど胸の高鳴りが止まらない。
「ん……、わたしも魔理沙のこと……」
つらい、こんな気持ちになったことがないから。
星の魔法でも、恋の魔法でも、兎に角何でもいいから私に勇気を……。
心拍数がどんどん上がっていく。
今、ちゃんと言わないと絶対に後悔する。
「魔理沙のこと……」
律儀に魔理沙は私が言うのを待っていてくれる。
さあという時なのよ。今が。
ノイローゼなのかしら。私……。
パソコンをいじっている永琳が視界の端に留まる。何やら驚愕の表情を浮かべている。
ん、いけない。逃避しちゃだめよ。霊夢。
つい、逃げたくなる自分を叱咤する。
星のように眩しい瞳を見つめ返す。
死んじゃいそう……。うう、恥ずかしい……。
い、言わなきゃ。
「魔理沙……」
リボンの端を摘まむ。
さざ波が立つ程度だった心の湖は今や大波が荒れ狂っている。
ノリで言えばいいのよ。いや、ダメよ。そんな不粋な気持じゃ……。
ぱ
ん? 誰よ? さっきからぼそぼそ喋ってるのは?
「魔・理・沙・の・パ・ン・ツ・欲・し・い」
東風谷早苗は霊夢の耳元で囁いた。腹に肘鉄を喰らわせる。
「いはふぁい。ごほっっ、うぇほっ、へぇいむさぁん、ふぃどいへすぅ。」
お腹を擦る早苗。舌も噛んだらしい。
「……何しに来た?」
早苗はお腹摩るのをやめて床にのびている大図書館と人形遣いを踏みつけながら
「霊夢さん、愛してます!!!」
「……」
嗚呼、同じこと言われたのに全然心に響かない。
「霊夢さん!! 幻想郷をはんぶんこしましょう!!」
「……」
よし、決めた!!
魔理沙を抱きしめてキスする。
「わたしのことは無視ですかぁ?!」
ここにはわたしと魔理沙と、ジャガイモが転がっているだけよ。
「大好き。魔理沙……大好き!! 」
涙目の早苗を完全に無視して魔理沙をぎゅっと抱きしめる。
「酷いです……。神社の掃除もして、精力ビンビンになるご飯も用意したのに……オヨヨヨ」
早苗がぴくりとも動かない二人組を部屋の隅にやり、口に手を当て芝居の掛った仕草で床に倒れ伏す。
ご丁寧にも服のはだけた優曇華がストレッチャーに積み上げてどこかへ運んでいく。
早苗は床に倒れたまま動かない。
「霊夢、大好きだ」
「魔理沙、好きよ」
が、そんなものは見なかったことにする。
「うぇっ、ぐず、ぐしゅ、うう……」
倒れ伏した早苗が突然泣き出す。
「え、うそ。マジ泣き?! 」
早苗に駆け寄ろうとしたが、魔理沙がしっかり抱きしめていて離さない。
「霊夢ざんがぁ、霊夢ざんがあぁ……わだじをずでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」
「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
暫く泣いて落ち着いた早苗がぽつりと語りだす。
「引っ越し初日、宴会開いてくれましたよね。」
ああ、そんなこともあったわね。
「何処を見ても人外ばかりで、外の世界から来たばかりの私はどうしていいのかわからなかった」
借りてきた猫みたいな早苗を思い出す。
「けれども、霊夢さんがあの時声掛けてくれたから私、友達がいっぱい出来たんです」
飲ませ過ぎてとんでもないことになった気がする。
「諏訪子様と喧嘩した時泊めてくれて……夜中まで二人でお話しましたよね。あれ……すごく嬉しかったんですよ」
幻想郷に巫女がわたし以外いなかったからから普段話せないことも色々話せて楽しかった。
「この前雑草食べようとした時はさすがにびっくりしましたよ」
早苗のご飯は美味しかった。早苗の中から次々に思い出が紡ぎだされる。
「けれど、魔理沙さんと一緒にいる霊夢さんの笑顔は……私といる時よりも生き生きとしています」
魔理沙のこと大好きだから。けれども早苗、間違っている。あなたといるときも……。
「私のこと、もしかしてずっと邪魔だと……思ってたりしますか?」
早苗が切実な表情で訴えてくる。
「早苗……」
友達として安心させてやらなければ。
「あなたのことも好きよ。けれども、あなたをそういう関係に選べないわ」
「霊夢さん……」
「でも、邪魔だなんてこれっぽちも思ってないわ。早苗といると楽しいし」
捨て犬みたいな早苗の瞳に落ち着きの色が戻る。
「大体ね、あんた最近キャラ作りのために無理し過ぎなのよ」
「うっ、だってああでもしないと新参者は生き残れないような気がして……」
「わたしが魔理沙とくっ付いたからってあんたが友達じゃなくなる訳じゃないのよ?」
もう一押し。
「だから、ね、これまで通り良い巫女友達でいましょう?」
早苗の表情に明るさが戻る。よかった……。
「そうですね……わたし、どうかしていました。……今度また一緒に美味しいものでも食べに行きましょう。それで全部水に流して……。」
「いいや。お前にだけは霊夢を渡さない!!」
さっきまであっけにとられて黙っていた魔理沙が喋る。
「この2Pカラー!!!!」
皮肉を言い合うのは幻想郷ではさして珍しいことではない。しかし、早苗の生まれは外なのだ。幻想郷に来て暫く立つが根の部分は外来人なのだ。さて、今の早苗の精神状態で果たして分別は付くのか?
「……白黒の魔法使い」
「どきどき魔女裁判ですよおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
発狂した早苗が大量の五芒星を飛ばしてくる。
静かに見守っていた永琳が巻き添えを食らう。直撃を受け気絶し鈴仙に覆いかぶさる。
魔理沙をお姫様抱っこして蛇行移動で回避する。そのまま天井にきれいに開いた穴から満月に向かって飛行する。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!!!!!!!! 白黒おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!!」
早苗が風を呼び追いかけてくる。
「うへ~。あぶねぇな……」
「魔理沙、少しは空気読みなさいよ……」
後ろを軽く見やる。いつの間にか早苗は巨大なオプションにドッキングしていた。
嗚呼、ああいうの外界製SFアニメに出てたわ。
長い筒が突き出ている。恐らく強力な火器の類であろう。巨大なコンテナと後方に長く伸びている大出力のスラスターが特徴的だ。
下部には航空機のエンジンのような装置と折りたたまれたクローアームがついている。早苗が乗っているという表現よりも、武装に埋もれていると表現したほうが適切かもしれない。
クローアームが展開される。ハサミが開き、地平線の彼方まで伸びる光線を横に一閃する。高度を上げてかわす。
雲海を貫く妖怪の山を薙いだ。山頂がずり落ちる。
「……結構洒落にならない威力ね」
コンテナハッチが開き鋼鉄の箱が幾つも射出される。白煙を吐きながら飛んでくる箱は小弾を乱射し、白い網目を描く。
「霊夢……あれ全部飛んでくるんじゃ……」
引きつった顔の魔理沙が言葉を漏らす。
「HAHAHAHAHAHAHAHA……死ぬがよい。……白黒おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
鉄で出来た小弾は複雑な軌道を描きながらこちらに向かってくる。抱きかかえた魔理沙の感触を確かめ、飛行する速度を上げた。
魔理沙が腕右手を私の後ろにまわしスペル宣言する。
恋符「マスタースパーク」
八卦炉から勢いよく光が溢れだす。夏の夜空を光と爆炎が彩る。
光はそのまま早苗のところまで直進する。が……。
「無駄です!! Iフィールド・ジェネレーター、起動!!!!」
早苗の前方に巨大な青白いがバリアが展開された。盛大な光の飛沫を上げてマスタースパークは消失した。
「ふへぇっ!?」
魔理沙が驚愕のあまりおかしな声を出した。
バリアが消え、コンテナに転送されてきた新品の箱が射出され、再び夜空に網目模様を描く。
ワープ移動とランダムな欺瞞軌道を組み合わせ回避する。天と地がぐるぐる回り、大型ビームサーベルが頭上や足元を通り過ぎる。
「私はぁあぁ風祝の東風谷早苗だぁぁぁぁ!!!!!霊夢さんの模造品じゃなあぁぁぁぁぁい!!!!!!」
早苗の咆哮が耳をつんざく。
すると大きく突き出ていた砲身が過熱し、
世界を光が覆った。
「ひぃっ!」
短距離ワープから超距離ワープに切り替えて回避する。
「おいおい…幻想郷滅ぶんじゃねぇか…」
ビームは博麗大結界にぶち当たり、そのまま突き破り夜空に穴が開く。そこだけまるで闇というものを体現したような漆黒が広がっていた。
「霧雨魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!私を見ろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
早苗は叫ぶ。再びメガ・ビーム砲が熱を帯び始める。
まずい、こんなものを何発も撃たれては本当に幻想郷が滅んでしまう。
「ごめんなさい!!」
嵐のような攻撃がピタリと止まる。
なんと魔理沙が謝ったのだ。今世紀最大の衝撃である。
闇の中に大出力の大型スラスターの唸りだけが轟く。
「早苗!! 話がしたい!! 聞いてくれるか?」
魔理沙が大声で呼びかける。
「……」
暫しの間があり、開いたままだった大型コンテナのハッチ閉じ、ビームサーベルが消え、クローアームが収納される。
早苗はオプションから分離した。早苗がこちらに飛んでくる。
オプションには自動帰還システムが付いていたらしい。暫く留まった後、自動的に妖怪の山への航路をとった。やがてその巨体は深い夜へ消えていった。
森の中に適当な広場があったのでそこに一緒に降りる。
「魔理沙さんはずるいです。ここで謝られたら貴女を怨めないし、嫉めないじゃないですか……」
早苗が悲しげに言う。
「それは好都合だぜ」
魔理沙が言う。
「先ほどもお二人ともすごく仲良さそうでしたね? いいですね。月夜にお姫様二人。良い画になりますよ」
早苗が今にも消えてしまいそうに言う。
魔理沙が口を開く。
「早苗、お前は霊夢を諦めなくていい。」
「なんですかそれ? 同情してわたしに霊夢さんを譲るっていうんですか?」
早苗の感情に静かな怒りが沸き起こるのを感じる。
「やなこった。私は霊夢を愛しているんだ。誰にどういわれようと譲れない」
魔理沙は軽く返す。
「一体なんなんですか!!」
怒気を滲ませ早苗は言う。魔理沙が真剣な表情で返す。
「早苗、好きだ!!愛している!!」
「はあぁぁぁぁぁ?!」
私と早苗は思わず素っ頓狂な声を出す。
「な、何言ってるんですか!? 確かに魔理沙さんも凄く素敵な方ですけど……今、霊夢さんのこと好きて言ったばっかじゃないですか!?」
調子を崩された早苗がオロオロしながら言う。
「え、ちょっと……っんん!!」
魔理沙が早苗にキスをする。早苗の顔がみるみるうちに紅く染まっていく。
「ちょっ、魔理沙あんた何考えてんのよ!?」
抗議の声をあげる。キスを終えた魔理沙がこちらに向き直って口を開く。
「私だけが霊夢の愛人で早苗が霊夢の友達なんて関係、絶対続かない」
それは薄々感じていたし、後になって早苗には酷いことを言ったと後悔した。けれども魔理沙を選んだのだ。そのことには後悔はない。
「つまりだな霊夢……」
魔理沙はとんでもないことを言った。
「三人で幸せになればいい」
絶句する。
「霊夢は私を愛しているし、早苗も愛している。私は霊夢を愛しているし、早苗も愛している。」
なにやら魔理沙が屁理屈を語りはじめた。
「で、早苗どうなんだ? 私のこと心の底から嫌悪しているのか?」
放心していた早苗に魔理沙が問いかける。
「そんなことないです。むしろ私にちゃんと向き合ってくれて……嬉しいです」
早苗が顔を赤らめながら囁く。
「なら話は早い。早苗は霊夢のことを愛していて、わたしのことも愛している」
「ちょ、ちょっと待って。何を言わんとしていることは解ったわ。……けれども、そんなことが倫理的に許されると思うの?」
いくらなんでもその理屈は滅茶苦茶すぎる。
「霊夢、あのな……殺しても死なない人間がいる。神も悪魔も妖怪も人間も入り乱れて宴会する。少女は人間の飲めない濃度のアルコールで笑い転げ、異能の力を操り、弾幕という名の破壊を撒き散らす。
ここはそんなぶっとんだ世界だぜ?今更倫理やら道徳やら問うことに意味あるか?」
うーん、確かにそうだけど……。
「すごいです!! 魔理沙さん!! やはり幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!!」
早苗が歓喜する。弾けんばかりの笑顔だ。
「そして、幻想郷は全てを受け入れる」
神も悪魔も妖怪も善も悪も……全てを赦し、受け入れる。
「けど、……平等に愛するなんて不可能よ!!」
「そうですね。……けど、問題ないですよ」
早苗が言う。
「ああ、大丈夫だ」
魔理沙が続く。
「そんな時は、弾幕ごっこです!!」
「そん時は、弾幕ごっこだぜ!!」
魔理沙が問いかける。
「霊夢、おまえはどうしたい?」
私は……。
「魔理沙も、早苗も、私にとって大切よ……だから、どちらか片方が寂しい思いをいているなんて嫌。……私は二人とも幸せにしてみせる!!」
三人で抱き合う。そういえば昔から、三位一体ていい言葉があったわね。
「そうこなくちゃ霊夢!!」
「ふふふ、結局なんだかいつもと大して変わりませんね」
早苗が嬉しそうに言う。
「こういう関係の方が長続きするんだぜ?」
にこやかな魔理沙が返す。
「そうね。こういう関係が一番楽しくていいわ」
私も同意する。
ふと、森の奥から香ばしい匂いが漂ってくる。耳障りな歌声も聞こえてくる。
「あら、好いわね。ウナギ屋か……」
屋台の明かりが段々と近づいてくる。
「飲もうぜ!! 今日は私の奢りだ!!」
魔理沙が反応する。そういえば幻想郷の平和を守っていたらお腹すいた。もうあんな最後の審判みたいなのは金輪際ごめんだ。
「いいですね。ぱーっと、飲みましょう!!」
三人の少女は夜雀のウナギ屋へ向かって駆け出す。たちまち森中に少女達の笑い声と、陽気な夜雀の下手くそな歌声が響く。
その莫迦騒ぎは夜が更けるまで続いたという。
その後博霊大結界と主人の心の修復のために、八雲藍は幻想郷を満身創痍になるまで走り回ったということは彼女らの知ることではなかった。
畳の上で口元に吐瀉物を付けた鬼が乙女らしさ0のお子様には刺激の強すぎる姿勢で横になっている。昨日は酷い目にあった。
変わった酒を飲んだような気がするが、あまり覚えていない。どうやら相当酔っぱらっていたらしい。
遊び疲れた氷精が静かに胸を上下させている。
夏場に氷精は便利ね。幽霊よりも優しい涼しさを提供してくれる。透き通るように青い髪を撫でてみる。
嬉しそうな表情を浮かべて寝がえりをうつ。 3対の氷で出来た羽が小刻みに震える。
以前あげた赤いリボンは気に入って貰えたらしい。最近よく付けている。
「うぉー、すげぇぇ。霊夢とお揃いだ!!あたい最強だ!!!! 」などと喜んでいたの思い出した。
ふと、障子の外に目をやる。青々とした空にポツンと黒点が見えた。
その黒点は星型の閃光を撒き散らしながらこちらに向かってきている。
徐々に大きくなってくるそれは魔理沙だと確認できた。薄着にすればいいのに何時もの黒装束のようだ。
やがて少しづつ高度と速度を落としてふんわりと境内に着地した。一瞬ドロワーズがチラリと覗く。
箒を適当な所に置いてこちらに歩いてくる。
しばし悩むような表情を浮かべていたが、直ぐに何時もの表情に戻った。
そういえば大事な話があるとか昨日言ってたわね。直後に宴会が始まってうやむやになったけど……。
「れいむー、そんなに暑いなら食べると涼しくなるキノコをあたしが都合してやるって何度も言ってるじゃないか」
「そんな得体の知らないキノコいらないわよ」
そんな話か……。昨日は楽しい気分になるキノコを勧められたわね。萃香が尋常じゃない酔い方してたような。
「れいむ~~~~~。宇宙が理解できたよ~~ 」とかなんとか……全裸で喚いていた。
「霖之助とこからクーラやら扇風機やら借りてくればいいじゃないか」
「電気が通ってないと使えないって話じゃない?」
電気屋さんが幻想郷にあればいいのにな~。で、いつになったら本題に入るのかしら?
氷でキンキンに冷えた麦茶を一口啜る。
「河童に頼めばいいじゃないか。それぐらいならキュウリで引き受けてくれるぜ」
「わたしがキュウリ食べたいわよ」
今月は久しぶりにピンチだ。異常な猛暑のせいでただでさえ少ない参拝客がもっと少なくなったのだ。
お賽銭が入らない。宴会も昨日やったばっかりで暫く宛がない。
家の周りの山菜はあらかた採ってしまったし、そろそろ雑草でも食べようかしら。
この前は早苗に「寄生虫が湧いているから煮ても焼いても駄目です」て止められたっけ……。
お粥美味かったと、いらぬ食欲を喚起する回想に耽っていると
「う、ぐぐぐぅ……じゃあ、萃香に冷気を集めて貰えばいいじゃないか?」
「チルノ呼んだ方が楽じゃない。ねぇ、萃香?」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「今日はやけにつっかかってくるわね。何が不満なの?」
「私は……ただ霊夢が心配なだけだ」
「何よ?」
しどろもどろになっている魔理沙はこう切り出した。
「お前が変な趣味に目覚めていなかどうか心配でならないんだ」
「はぁ? 」
魔理沙が何を言わんとしているのかいまいち読めない。
「一日中部屋に籠って人形と戯れたりなんてしてないわよ」
「高尚な学問的探求になんてこというんだ」
学問的だったのか。あの白魚のような綺麗な手で統率されている人形達の振る舞いは
もう病気認定で良いと思うけど。良い意味で。
「妖怪退治を理由に常識に囚われない奇行に走るとか?」
「うーん遠からず近からず? 」
一体何が言いたいのか?
「私は霊夢が……小さなお子様に良からぬ関心を抱いていないか心配なんだぜ? 」
「は?」
ほんとに今日の魔理沙はよくわからない。何やらもじもじしてて可愛いが。
大体私が興味を持っているのは……。
「具体的にいうと××××が××××で××××だということだ」
「はぁぁぁああぁぁ?」
うん、永遠亭に連れて行こう。
「その反応図星なのか霊夢!!!!霊夢はなんだかんだ理由をつけて幼女をはべらす趣味があったのか!!!!」
ちょっとその認識は二人に失礼なのではないか?まぁ、気にするとは思わないけど。
「それで? 寧ろこの幻想郷でおかしくない趣味もってる人のほうが少ないと思うけど」
紅魔の主とその従者、スキマ妖怪、七色の魔法使い、永遠亭主と頭脳、竹林の蓬莱人、人里に住むハクタク、ドM天人……枚挙にいとまがない。まるで喜劇ね。
「霊夢わたしは友達として真剣に心配しているんだぞ」
「そんな風な妄想するあんたを私は本気で心配するけど」
取り敢えずジト目で言ってみる。例の三人組の妖精は無事かしら?
「妄想なんかじゃない。このまえパチェから借りた本にお前と似た症例が載ってたんだ」
魔理沙がだんだん心配になってきた。怪しい本に載っている偏った知識で現実を認識しとる。
「あんたねぇ、考えすぎよ。萃香は友達以上の認識はないし、チルノは妹みたいなもんよ」
「いや、全然赤の他人を’妹みたい’て発想がおかしい」
「何が?かわいいじゃない。ていうか今日のあんた色々可笑しいわよ」
なんとなしにもちもちするほっぺを指でふにふにつつく。
氷精独特の肌の冷たさが水饅頭ぽくてたまらない。
氷でできた三対の羽を寝苦しそうにぶるるると震るわせる。
「とにかく、暫く萃華とチルノは家に借りてくぜ」
今日の魔理沙はいつもに輪をかけて意味不明だ。
まぁ、萃香連れてく分にはいいけど。食費浮くし。けどチルノは困るなー。
さて、退屈してたところだし……。
湯呑を静かに盆に戻し
「魔理沙、ちょっと表出ようか。…………冷房は渡さん」
ちょっとドスを含ませて言い放つ。
「望むところだぜ」
魔理沙がそれに応酬する。
私はふわりと宙に浮かび上がる。身体を楽な姿勢で身体を伸ばしつつ重力をカットする。
重力から解放されたリボンやスカートが少し浮き上がり揺らめく。
そのまま入道雲の浮かぶ夏の蒼の中へ飛翔する。
魔理沙も靴を履いて石畳の上に放置してあった箒に跨り輝く星屑を勢いよく噴射しながら機首を真上に向け急上昇する。神社を巻き込まない高度に達したところで散開する。
「あたしが勝ったら’焼肉おりんりん亭’で極上カルビコースね」
早速要求を述べる。ぎぶみーみーと。
「ついさっきは野菜食いたいて言ってたじゃないか」
魔理沙が嫌そうな顔してる。
「あら、チルノの価値はキュウリと等価?」
「私は3枚だ。勝ったらチルノは頂くぜ」
魔理沙はスペル宣言をする。
いや、ほんと何様なんだろうね。と取り敢えず自分のことは棚上げにしてそんなこと思った。
「3枚、暑いしお腹が空いたしね。とっとと終わらせるから財布の中身確認しておきなさい」
スペル枚数の宣言をしておく。うん、やっぱりこういうやり取りが気楽でいい。
魔理沙が通常弾をばら撒いてきた。それを水平に移動してかわす。
お返しにお札と陰陽玉をばら撒く。魔理沙は上半身を軽く傾けてかわす。依然射線はこちらに向いたままだ。
魔理沙の右斜め後方辺りに適当にワープ。一瞬浮き上がる感覚の後急降下するような感じがする。
魔理沙は明後日の方向に魔法弾をばら撒いている。
「そっちか」
魔理沙がこっちを向く。すかさず通常弾と大量のお札をばら撒いてワープ。
魔理沙の箒から溢れる光が激しくなった。加速する魔理沙。間合いをとるつもりらしい。
適当に魔理沙の周りをワープと高速移動を組み合わせてぐるぐる回りながら弾幕を張る。
掴みどころのない不規則な軌道で翻弄する。
魔理沙は最小限の進路変更で札を回避している。
「 星符「ノンディレクショナルレーザー」 」
魔理沙が宣言とともにスペルを展開する。
それぞれ赤、青、黄、緑にぼんやりと輝く魔法具を射出し機体の周りに回転させる。今度はじりじりと魔理沙が距離を詰めてくる。
魔法具から光が迸るが、見切るまでもなく当たらない。
星形の光弾がクロスするように魔理沙から4方向に乱射される。
が、最小限の動きで躱せばどうということはない。
スペルカードが爆ぜる。魔法具も自爆する。
「星符 「ブレイジングスター」 」
何度もやり合っていれば覚えるわよ。
宙返りしてかわす。やや上方を逆さになりながら浮遊し、トレードマークのとんがり帽子を取り上げてみる。
「 夢境「二重結界・乱」」
逃げられる前にスペル宣言をする。
空間に立方体状の結界を二重に展開、魔理沙を挟撃する。
裏返った空間に仕切られた不可視の密室だ。全方位に扇状に札を射出する。
発射された札は私を覆ている箱に当たり魔理沙の背後めがけて飛んでいく。
札は背後から次々に現れ、密室を跳ね回る。魔理沙はカードを廃棄して絶妙な軌道でそれらの濃密な弾幕をかわす。
「帽子返せ!!」
帽子に目を落とす。そんなに大切なものなのかしら?なんとなく匂いを嗅いでみると柑橘類系のいい匂いがした。
「!!!」
動揺する魔理沙は避けたばかりの弾幕へ突っ込んだ。おちゃめさん。
時間切れでカードが爆ぜる。
「ぐ、まだだ!!」
球状のオプションを左右に展開してマジックミサイルを発射する。
人型に切り抜いたアミュレットを適当に撒いたら勝手に弾道が逸れた。遥か後方で炸裂し入道雲が裂ける。
「あーぁ。がっかりね。今日のあんた弱いわよ。キノコにあたった? 」
今日の魔理沙は控えめだ。何か遠慮している感じがする。
「う、うるさい。今日は調子が……ぇぇぇぇえええええ!!!!」
ワープして魔理沙のすぐ目の前に出てみる。箒に跨って魔理沙のおでこを触ってみる。うん、大丈夫熱は無い。
「具合悪いなら竹林に行くか自分家で寝てたほうがいいんじゃない? 」
魔理沙の身体が不要な力で強張り箒がブレイジングスター直前の速度まで加速する。
「えいや!」
「げふっ」
捕縛用の札を魔理沙の顔に張り付ける。
紫電を発し、表面の有難い言葉が発光する。札が起動したのだ。魔理沙は一度大きく身を震わせ動かなくなった。
妖怪用の強力なやつしか手元になかったけど気にしない。
この程度で致命傷になるようであれば紅霧異変の時にとっくにお別れになっていただろう。
力なくもたれ掛る魔理沙から箒のコントロールを奪う。
後方への推力を少しづつ減らし、最後に先端から強めに一噴きさせて安全に停止させる。
右手に箒、背に魔理沙。
魔理沙は思っていた以上に軽かった。
取り敢えず神社の様子を見に戻る。
「おヴぇぇぇぇぇ……げべぇぇぇぇげヴぇぇぇヴぇ……」
萃香がトイレで昨日食べたキノコを戻していた。酸っぱい匂いがする。
「萃香、留守番よろしく。ちょっと永遠亭行ってくるわ」
茶舞台に胃薬を置いて去ろうとすると
「おヴぇエエェ……ひどオグゥェ霊夢。全然心配してくれなおヴぇぇぇぇ……」
和式トイレに向かいながら萃香が喋る。
「心配も何も、昨日の夜中にも戻しているみたいだからあんたは大丈夫じゃない? 」
それだけ返して永遠亭に魔理沙を抱えていった。
「あんたでしょ?」
「銘酒・真月の雫」今朝片づけていた時に見つけた瓶だ。こんなものこの辺で流通しているところを見たことない。
「そうね。情緒不安定になる薬とモニタリング用のナノマシンを昨日の宴会で……」
永遠亭の頭脳が不敵な笑みをこぼす。
右手にはカルテ。左手で出来たばかりのコブを擦っている。
「臆病な少女の背中をひと押ししただけよ」などとのたまっている。
「おかしいと思ったのよ。今朝からロマンチックが止まらないし」
「そのわりにはあなたは普通ね。想像を絶するピンク色の世界が頭から離れない筈だけど?」
今朝から人妖問わず女の子を見ると異常に動悸が早くなるのだ。しかし、永琳の言う様な桃色の悪夢というのはいささか誇大表現だと感じた。
「薬学的には完璧なはずなんだけど……となると呪術的な構成から練り直しね。ますます貴女の身体に興味が湧いたわ」
「はた迷惑な探究心ね。身体に興味があんなら、あんたのとこの姫か因幡とかにすればいいじゃない」
少し不機嫌そうな声でいう。
「ふむ……、薬を飲んだ時点の状態を維持しようとする姫の身体じゃ実験できないし……月の因幡じゃ幻想郷向けの薬の被検体としては不適当なのよね」
「たまにうちの神社に兎権を主張する優曇華が泣きつきに来るわよ? あれなんなのよ? 晩御飯が兎鍋の日は発狂してめんどくさいのよ? 」
愉快な因幡について苦情を申し立ててみる。食べるものをえり好みしている経済的余裕はないのだ。断固抗議する。
「そう、今度あまり遠出できない仕掛けを下の穴に詰めておくわ」
などと永琳と話していると
「うにゃぁ? 霊夢」
ベットで眠っていた魔理沙が目を覚ました。
「はい、請求書」
永琳が魔理沙に請求書を渡す。
「ん、この宿泊費てなんだ? 私は大丈夫だぞ?」
魔理沙がぼやく。
「あんたさっきまで酷かったんだから今日はここに泊まっていきなさい」
「へ? てか霊夢、私の帽子と箒は? 」
「脱走すると思って預けてあるわ」
「うぐぅ……」
不満そうな魔理沙。
「入院生活なんて暇で暇でしょうがないんだぜ。霊夢、魔導書家から取ってきてくれないか?」
「ダメよ。火器厳禁」
永琳が注意する。まぁ、病人に爆発は毒だ。
「さて、部屋の準備と薬の調合をしてくるわ。……1時間くらいは掛りそうね」
永琳が部屋から出ていく。
魔理沙と二人きりになった。
「霊夢!!」
「魔理沙!!」
えらく胸がどきりとした。
「な、なんだ霊夢?」
「魔理沙からどどうぞ!! 」
しばし、沈黙が部屋を満たす。
「霊夢……本当はチルノも萃香もどうでもいいんだ。」
魔理沙が訥々と語りはじめる。そんなことわかっていた。
「私はただ……構ってほしかっただけなんだ」
知ってる。
けど、いつも素直になれないのだ。
「異変の時は一緒に暴れまわるじゃない? 」
ついぶっきらぼうに返してしまう。
「違う!!そういうことじゃない」
わたしも魔理沙と一緒にいると胸が暖かくなる。
手を握り締めたくなるし、鼓動を感じたい。
「なあ、霊夢……おまえは何処にも行かないよな?」
縋るような視線を感じる。無論だ。
「異変を解決するたびに霊夢の周りを賑わす妖怪がどんどん増えていく……普通の魔法使いなんて肩書きが霞むようなやつらが……」
「ばか」
魔理沙を抱きしめる。
「魔理沙の大莫迦!!」
きゅっと魔理沙が握り返してくる。
「霊夢?!」
ほんとうの大莫迦はわたしだ。こういう単純なことが何で今まで出来なかったのか。
魔理沙と視線が交差する。艶っぽい視線がわたしを見つめてくる。
心臓が大きく脈打っている。
「えーとね、魔理沙……目閉じててくれる?」
恥ずかしかったから……せめてもの照れ隠しのために。
「だぜ」
普段の彼女からは信じられないような従順さをみせた。
そっと唇を重ね、お互いを確かめ合う。
魔理沙に覆いかぶさり、魔理沙も手を背中にまわしてきて受け入れる。
綺麗なブロンドからは搾りたての柑橘類のような甘い匂いが、絡み合う舌はねっとりとしていて離れた唇からは糸が引き……
パックリと割れたスキマから濃厚な少女臭が伝わってくる。
「霊夢? 何した?何も見えないぜ? 」
紫色に鈍く光り、揺らめくスキマの下から魔理沙の声がする。
「んふふふふ、霊夢ったら大胆ね」
眼前の女がスキマから顔だけ出した状態でわたしに声をかける。
頭を鷲掴みにして抗菌素材の床に叩き付ける。
滲む視界が胡散臭く笑う少女の存在を認める。
目じりに浮かぶ涙は羞恥のためか、屈辱のためか……想像し得る範囲から最も残虐な手法でスキマ妖怪を退治した。
暇を持て余した永琳と一応病人の魔理沙の三人でお茶を啜っている。
魔理沙は顔紅潮させ俯き、永琳は何か残念なものを見る視線をこちらに向けてくる。
その視線には「1時間も何をしていた?」という非難が感じ取れる。
「し、師匠!! たたたた、大変です。心神喪失した大図書館と人形遣いが竹林の防衛網を抜けこちらに向かってきます」
着衣も乱れ、息も切れ切れに慌ただしくかけてきた鈴仙が報告をする。
永琳は整った鼻から盛大に零れる赤い雫も気にする風もなくパソコンを操作する。
モニターに鼻息荒く突撃する紫色の大図書館と、何事かを囁きながら複数の人形を縦横無尽に操り、制止する警備部隊を蹴散らす人形遣いが複数の視点から表示された。
たまたま居合わせた兎妖精達が巻き添えを食らい次々に一回休みとなっていく。
「ふむ……ということは……」
次に永琳が幻想郷の中の実時間映像を複数のウインドウに表示する。
人里で蓬莱人を追い回すハクタクは……全力で無視して博麗神社周辺の映像だけ拡大する。
うちの周りで昨日の宴会に参加したメンバーが何かを喚きながら弾幕ごっこをしている。妖力やら神力やらで形成された花火が夜の神社を昼間のように照らし出す。
「異変ね」
誰に言うでもなく囁く。原因は懲らしめた。が、腹の虫がおさまらない
「神社を壊されたらたまったものじゃないわ。ちょっと解決してくる!!」
部屋を出ようと歩みを進める。
「霊夢!!」
魔理沙も付いてこようとする。
因幡を愛撫している永琳が「頑張れ。少女」とこちらにウインクする。うざい。
「焼き肉」
ぼそりと先ほどの約束を蒸し返す。
「魔理沙にはわたしに焼き肉を奢るために早く元気になって貰わないと」
早口で捲し立てる。
「うーん、霊夢そこはもっと違うこというとこだぜ」
「どんなことよ?」
問い返す。すると魔理沙は
「霊夢、愛してる!!!」
魔理沙が叫ぶ。
リボンを何となしにいじる。小恥ずかしいくてどうしようもない。
さっき私が言えなかったことを平然と言える魔理沙が羨ましい。
野イチゴのように甘酸っぱい空気を感じる。
パンクしそうなほど胸の高鳴りが止まらない。
「ん……、わたしも魔理沙のこと……」
つらい、こんな気持ちになったことがないから。
星の魔法でも、恋の魔法でも、兎に角何でもいいから私に勇気を……。
心拍数がどんどん上がっていく。
今、ちゃんと言わないと絶対に後悔する。
「魔理沙のこと……」
律儀に魔理沙は私が言うのを待っていてくれる。
さあという時なのよ。今が。
ノイローゼなのかしら。私……。
パソコンをいじっている永琳が視界の端に留まる。何やら驚愕の表情を浮かべている。
ん、いけない。逃避しちゃだめよ。霊夢。
つい、逃げたくなる自分を叱咤する。
星のように眩しい瞳を見つめ返す。
死んじゃいそう……。うう、恥ずかしい……。
い、言わなきゃ。
「魔理沙……」
リボンの端を摘まむ。
さざ波が立つ程度だった心の湖は今や大波が荒れ狂っている。
ノリで言えばいいのよ。いや、ダメよ。そんな不粋な気持じゃ……。
ぱ
ん? 誰よ? さっきからぼそぼそ喋ってるのは?
「魔・理・沙・の・パ・ン・ツ・欲・し・い」
東風谷早苗は霊夢の耳元で囁いた。腹に肘鉄を喰らわせる。
「いはふぁい。ごほっっ、うぇほっ、へぇいむさぁん、ふぃどいへすぅ。」
お腹を擦る早苗。舌も噛んだらしい。
「……何しに来た?」
早苗はお腹摩るのをやめて床にのびている大図書館と人形遣いを踏みつけながら
「霊夢さん、愛してます!!!」
「……」
嗚呼、同じこと言われたのに全然心に響かない。
「霊夢さん!! 幻想郷をはんぶんこしましょう!!」
「……」
よし、決めた!!
魔理沙を抱きしめてキスする。
「わたしのことは無視ですかぁ?!」
ここにはわたしと魔理沙と、ジャガイモが転がっているだけよ。
「大好き。魔理沙……大好き!! 」
涙目の早苗を完全に無視して魔理沙をぎゅっと抱きしめる。
「酷いです……。神社の掃除もして、精力ビンビンになるご飯も用意したのに……オヨヨヨ」
早苗がぴくりとも動かない二人組を部屋の隅にやり、口に手を当て芝居の掛った仕草で床に倒れ伏す。
ご丁寧にも服のはだけた優曇華がストレッチャーに積み上げてどこかへ運んでいく。
早苗は床に倒れたまま動かない。
「霊夢、大好きだ」
「魔理沙、好きよ」
が、そんなものは見なかったことにする。
「うぇっ、ぐず、ぐしゅ、うう……」
倒れ伏した早苗が突然泣き出す。
「え、うそ。マジ泣き?! 」
早苗に駆け寄ろうとしたが、魔理沙がしっかり抱きしめていて離さない。
「霊夢ざんがぁ、霊夢ざんがあぁ……わだじをずでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」
「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
暫く泣いて落ち着いた早苗がぽつりと語りだす。
「引っ越し初日、宴会開いてくれましたよね。」
ああ、そんなこともあったわね。
「何処を見ても人外ばかりで、外の世界から来たばかりの私はどうしていいのかわからなかった」
借りてきた猫みたいな早苗を思い出す。
「けれども、霊夢さんがあの時声掛けてくれたから私、友達がいっぱい出来たんです」
飲ませ過ぎてとんでもないことになった気がする。
「諏訪子様と喧嘩した時泊めてくれて……夜中まで二人でお話しましたよね。あれ……すごく嬉しかったんですよ」
幻想郷に巫女がわたし以外いなかったからから普段話せないことも色々話せて楽しかった。
「この前雑草食べようとした時はさすがにびっくりしましたよ」
早苗のご飯は美味しかった。早苗の中から次々に思い出が紡ぎだされる。
「けれど、魔理沙さんと一緒にいる霊夢さんの笑顔は……私といる時よりも生き生きとしています」
魔理沙のこと大好きだから。けれども早苗、間違っている。あなたといるときも……。
「私のこと、もしかしてずっと邪魔だと……思ってたりしますか?」
早苗が切実な表情で訴えてくる。
「早苗……」
友達として安心させてやらなければ。
「あなたのことも好きよ。けれども、あなたをそういう関係に選べないわ」
「霊夢さん……」
「でも、邪魔だなんてこれっぽちも思ってないわ。早苗といると楽しいし」
捨て犬みたいな早苗の瞳に落ち着きの色が戻る。
「大体ね、あんた最近キャラ作りのために無理し過ぎなのよ」
「うっ、だってああでもしないと新参者は生き残れないような気がして……」
「わたしが魔理沙とくっ付いたからってあんたが友達じゃなくなる訳じゃないのよ?」
もう一押し。
「だから、ね、これまで通り良い巫女友達でいましょう?」
早苗の表情に明るさが戻る。よかった……。
「そうですね……わたし、どうかしていました。……今度また一緒に美味しいものでも食べに行きましょう。それで全部水に流して……。」
「いいや。お前にだけは霊夢を渡さない!!」
さっきまであっけにとられて黙っていた魔理沙が喋る。
「この2Pカラー!!!!」
皮肉を言い合うのは幻想郷ではさして珍しいことではない。しかし、早苗の生まれは外なのだ。幻想郷に来て暫く立つが根の部分は外来人なのだ。さて、今の早苗の精神状態で果たして分別は付くのか?
「……白黒の魔法使い」
「どきどき魔女裁判ですよおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
発狂した早苗が大量の五芒星を飛ばしてくる。
静かに見守っていた永琳が巻き添えを食らう。直撃を受け気絶し鈴仙に覆いかぶさる。
魔理沙をお姫様抱っこして蛇行移動で回避する。そのまま天井にきれいに開いた穴から満月に向かって飛行する。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!!!!!!!! 白黒おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!!」
早苗が風を呼び追いかけてくる。
「うへ~。あぶねぇな……」
「魔理沙、少しは空気読みなさいよ……」
後ろを軽く見やる。いつの間にか早苗は巨大なオプションにドッキングしていた。
嗚呼、ああいうの外界製SFアニメに出てたわ。
長い筒が突き出ている。恐らく強力な火器の類であろう。巨大なコンテナと後方に長く伸びている大出力のスラスターが特徴的だ。
下部には航空機のエンジンのような装置と折りたたまれたクローアームがついている。早苗が乗っているという表現よりも、武装に埋もれていると表現したほうが適切かもしれない。
クローアームが展開される。ハサミが開き、地平線の彼方まで伸びる光線を横に一閃する。高度を上げてかわす。
雲海を貫く妖怪の山を薙いだ。山頂がずり落ちる。
「……結構洒落にならない威力ね」
コンテナハッチが開き鋼鉄の箱が幾つも射出される。白煙を吐きながら飛んでくる箱は小弾を乱射し、白い網目を描く。
「霊夢……あれ全部飛んでくるんじゃ……」
引きつった顔の魔理沙が言葉を漏らす。
「HAHAHAHAHAHAHAHA……死ぬがよい。……白黒おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
鉄で出来た小弾は複雑な軌道を描きながらこちらに向かってくる。抱きかかえた魔理沙の感触を確かめ、飛行する速度を上げた。
魔理沙が腕右手を私の後ろにまわしスペル宣言する。
恋符「マスタースパーク」
八卦炉から勢いよく光が溢れだす。夏の夜空を光と爆炎が彩る。
光はそのまま早苗のところまで直進する。が……。
「無駄です!! Iフィールド・ジェネレーター、起動!!!!」
早苗の前方に巨大な青白いがバリアが展開された。盛大な光の飛沫を上げてマスタースパークは消失した。
「ふへぇっ!?」
魔理沙が驚愕のあまりおかしな声を出した。
バリアが消え、コンテナに転送されてきた新品の箱が射出され、再び夜空に網目模様を描く。
ワープ移動とランダムな欺瞞軌道を組み合わせ回避する。天と地がぐるぐる回り、大型ビームサーベルが頭上や足元を通り過ぎる。
「私はぁあぁ風祝の東風谷早苗だぁぁぁぁ!!!!!霊夢さんの模造品じゃなあぁぁぁぁぁい!!!!!!」
早苗の咆哮が耳をつんざく。
すると大きく突き出ていた砲身が過熱し、
世界を光が覆った。
「ひぃっ!」
短距離ワープから超距離ワープに切り替えて回避する。
「おいおい…幻想郷滅ぶんじゃねぇか…」
ビームは博麗大結界にぶち当たり、そのまま突き破り夜空に穴が開く。そこだけまるで闇というものを体現したような漆黒が広がっていた。
「霧雨魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!私を見ろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
早苗は叫ぶ。再びメガ・ビーム砲が熱を帯び始める。
まずい、こんなものを何発も撃たれては本当に幻想郷が滅んでしまう。
「ごめんなさい!!」
嵐のような攻撃がピタリと止まる。
なんと魔理沙が謝ったのだ。今世紀最大の衝撃である。
闇の中に大出力の大型スラスターの唸りだけが轟く。
「早苗!! 話がしたい!! 聞いてくれるか?」
魔理沙が大声で呼びかける。
「……」
暫しの間があり、開いたままだった大型コンテナのハッチ閉じ、ビームサーベルが消え、クローアームが収納される。
早苗はオプションから分離した。早苗がこちらに飛んでくる。
オプションには自動帰還システムが付いていたらしい。暫く留まった後、自動的に妖怪の山への航路をとった。やがてその巨体は深い夜へ消えていった。
森の中に適当な広場があったのでそこに一緒に降りる。
「魔理沙さんはずるいです。ここで謝られたら貴女を怨めないし、嫉めないじゃないですか……」
早苗が悲しげに言う。
「それは好都合だぜ」
魔理沙が言う。
「先ほどもお二人ともすごく仲良さそうでしたね? いいですね。月夜にお姫様二人。良い画になりますよ」
早苗が今にも消えてしまいそうに言う。
魔理沙が口を開く。
「早苗、お前は霊夢を諦めなくていい。」
「なんですかそれ? 同情してわたしに霊夢さんを譲るっていうんですか?」
早苗の感情に静かな怒りが沸き起こるのを感じる。
「やなこった。私は霊夢を愛しているんだ。誰にどういわれようと譲れない」
魔理沙は軽く返す。
「一体なんなんですか!!」
怒気を滲ませ早苗は言う。魔理沙が真剣な表情で返す。
「早苗、好きだ!!愛している!!」
「はあぁぁぁぁぁ?!」
私と早苗は思わず素っ頓狂な声を出す。
「な、何言ってるんですか!? 確かに魔理沙さんも凄く素敵な方ですけど……今、霊夢さんのこと好きて言ったばっかじゃないですか!?」
調子を崩された早苗がオロオロしながら言う。
「え、ちょっと……っんん!!」
魔理沙が早苗にキスをする。早苗の顔がみるみるうちに紅く染まっていく。
「ちょっ、魔理沙あんた何考えてんのよ!?」
抗議の声をあげる。キスを終えた魔理沙がこちらに向き直って口を開く。
「私だけが霊夢の愛人で早苗が霊夢の友達なんて関係、絶対続かない」
それは薄々感じていたし、後になって早苗には酷いことを言ったと後悔した。けれども魔理沙を選んだのだ。そのことには後悔はない。
「つまりだな霊夢……」
魔理沙はとんでもないことを言った。
「三人で幸せになればいい」
絶句する。
「霊夢は私を愛しているし、早苗も愛している。私は霊夢を愛しているし、早苗も愛している。」
なにやら魔理沙が屁理屈を語りはじめた。
「で、早苗どうなんだ? 私のこと心の底から嫌悪しているのか?」
放心していた早苗に魔理沙が問いかける。
「そんなことないです。むしろ私にちゃんと向き合ってくれて……嬉しいです」
早苗が顔を赤らめながら囁く。
「なら話は早い。早苗は霊夢のことを愛していて、わたしのことも愛している」
「ちょ、ちょっと待って。何を言わんとしていることは解ったわ。……けれども、そんなことが倫理的に許されると思うの?」
いくらなんでもその理屈は滅茶苦茶すぎる。
「霊夢、あのな……殺しても死なない人間がいる。神も悪魔も妖怪も人間も入り乱れて宴会する。少女は人間の飲めない濃度のアルコールで笑い転げ、異能の力を操り、弾幕という名の破壊を撒き散らす。
ここはそんなぶっとんだ世界だぜ?今更倫理やら道徳やら問うことに意味あるか?」
うーん、確かにそうだけど……。
「すごいです!! 魔理沙さん!! やはり幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!!」
早苗が歓喜する。弾けんばかりの笑顔だ。
「そして、幻想郷は全てを受け入れる」
神も悪魔も妖怪も善も悪も……全てを赦し、受け入れる。
「けど、……平等に愛するなんて不可能よ!!」
「そうですね。……けど、問題ないですよ」
早苗が言う。
「ああ、大丈夫だ」
魔理沙が続く。
「そんな時は、弾幕ごっこです!!」
「そん時は、弾幕ごっこだぜ!!」
魔理沙が問いかける。
「霊夢、おまえはどうしたい?」
私は……。
「魔理沙も、早苗も、私にとって大切よ……だから、どちらか片方が寂しい思いをいているなんて嫌。……私は二人とも幸せにしてみせる!!」
三人で抱き合う。そういえば昔から、三位一体ていい言葉があったわね。
「そうこなくちゃ霊夢!!」
「ふふふ、結局なんだかいつもと大して変わりませんね」
早苗が嬉しそうに言う。
「こういう関係の方が長続きするんだぜ?」
にこやかな魔理沙が返す。
「そうね。こういう関係が一番楽しくていいわ」
私も同意する。
ふと、森の奥から香ばしい匂いが漂ってくる。耳障りな歌声も聞こえてくる。
「あら、好いわね。ウナギ屋か……」
屋台の明かりが段々と近づいてくる。
「飲もうぜ!! 今日は私の奢りだ!!」
魔理沙が反応する。そういえば幻想郷の平和を守っていたらお腹すいた。もうあんな最後の審判みたいなのは金輪際ごめんだ。
「いいですね。ぱーっと、飲みましょう!!」
三人の少女は夜雀のウナギ屋へ向かって駆け出す。たちまち森中に少女達の笑い声と、陽気な夜雀の下手くそな歌声が響く。
その莫迦騒ぎは夜が更けるまで続いたという。
その後博霊大結界と主人の心の修復のために、八雲藍は幻想郷を満身創痍になるまで走り回ったということは彼女らの知ることではなかった。
弾幕ごっこの描写はもう少しタイトのが好きだな。
パチェとアリスが気になった。
次回作も楽しみにしています。
楽しめました
特にゆかりん何してるw