「私のこの手が真っ赤に燃える!信仰を掴めと轟き叫ぶ!!現人神フィンガァァァァァァァァァァッッッ!!!」
早苗が、暴走していた。
「おーおー、相変わらずよく分からんがすごい迫力だな」
思わずそう呟きつつ、杯を呷る。
「人事じゃないでしょう、全く。焚き付けたのは貴女でしょうに」
そうぼやきつつも、咲夜の口元には微かな笑みが浮かんでいた。
ここは守矢神社。そして、今は宴会場である。
「焚き付けてなんかいないぜ?ただ、久しぶりの大規模な宴会だから誰か一発かましてほしいなーと、それとなく伝えただけだ」
「それを焚き付けてるって言うんじゃない」
「まぁ、細かいことはいいじゃないか。盛り上がってるんだから」
事実、早苗のよく分からない熱気にあてられたのか、これ以上ないほど宴会は盛り上がっている。
「それより、いいのか、咲夜。レミリアの側についてなくても」
ふと思い出したことを尋ねてみる。
「いいのよ。私が側にいてもお邪魔虫ですわ」
そう言って、咲夜はグラスの中のワインを飲みつつ流し目でチラリと目を向ける。そこには、
「うー、れいむ、れいむー♪」
「あぁ、もううっとうしい!!離れなさい!!」
「やぁだーれいむといっしょがいいー」
「ええい、引っ付くな!夢想封印かますわよ!!」
「れいむ、いいにおいするー………ふぁー…………」
「匂いを嗅ぐなこの変態幼女!!顔を近づけるな酒臭い!」
「れいむ、ちゅー。ちゅーして」
「……はいぃ!?いきなりなに言ってんのよ!?って、うわっ!!お、押し倒すな!どきなさい!!」
「んふふー、ちゅー……」
「や、ちょ、ちょっと、どきなさいって……」
「…………………」
「…………………」
「………………………すぅ……」
「……………………?」
「むにゃむにゃ……ぎゃおー、れいむたべちゃうぞー、えへへー」
「………………………ッッ!!!」プチン
霊符『夢想封印』
ドッカーン!
スペカの爆発が霊夢とレミリアを包む。そして、結果としてヤムチャ倒れしているレミリアと、真っ赤な顔で荒い息をついている霊夢を生んだ。…相変わらずだなぁ、あの二人は。
「相変わらず、ですわね」
同じことを思ったのか、咲夜もそう呟いていた。鼻から忠誠心を垂れ流しながら。
「鼻血出てるぜ。てか、助けに行かなくていいのか?」
「お嬢様は言いました。「しゃくやはどっか行っててー!わーたーしーがーふたりっきりでれいむとのむのー!」と。つまり、今の私は暇を出されている状態なのですわ」
鼻血を拭きながらしれっと言う。無駄に声真似上手いな。
「それに、二人の問題ですから。馬に蹴られて死ぬのはスキマ妖怪だけで十分よ」
……そう言った咲夜の顔は、少し寂しげだった。と、
「あら、私を邪魔者呼ばわりとはいい度胸じゃないの。めくるめくスキマの世界にご招待しましょうか、悪魔のワンちゃん?」
「げぇっ、紫!?」
ジャーンジャーンジャーンと効果音が流れそうな感じに突如現れたのは、今日も今日とて胡散臭げな気配を発する妖怪の賢者、八雲紫だった。
「まったく、神出鬼没だな、おい」
「それが私のアイデンティティーですわ。で、誰が馬に蹴られて死ぬのかしら?」
扇子で口元を隠し、紫は咲夜をねめつける。
「貴女に決まってるでしょう、八雲紫。散々お嬢様の邪魔をしておいて、一体どういうつもりかしら?」
スッと咲夜が目を細める。そのまま睨み合う二人。おおぅ、空気がピリピリするぜ。
「どういうつもりもなにも、私は管理者としての仕事を全うしているだけですわ」
「へぇ、お嬢様が霊夢にプレゼントしようとクッキーを作っている時に、塩と砂糖を入れ替えることが管理者の仕事なのですか。随分と浅ましい仕事ね、老骨に鞭打ってまでやることじゃないでしょうに」
「そんな私の仕事に気付く程、自らの主をおはようからおやすみまで視姦し続けているのはどこのどちら様だったかしら?あーやだやだ、そんな従者は従えたくないわねぇ」
「……例え私がそんなことをしていたとしても、それを受け入れているお嬢様と否定している貴女では、主としての器に圧倒的な差がある、ということ。自ら敗北宣言なんて殊勝な心がけですね、肩でも揉んで差し上げましょうか?」
「お気遣いなく、体はいたって健康ですわ。…あぁ、でもやっぱり肩は揉んでもらおうかしら。胸が大きいと肩が凝って大変なのよねぇ」
「それは、それは。大きい分年を重ねて醜く垂れ下がってしまったのですね。涙を禁じえませんわ」
「…………………」
「…………………」
「久々に、切れちまった……!!」
「テメェは私を怒らせた……!!」
二人はふわり、と浮かび上がり、スペルカードを掲げる。
「何も分かってないまな板は引っ込んでなさい!!紫奥義『弾幕結界』!!!」
「さっさと隠居でもして煎餅でもかじってるのが貴女にはお似合いですわ!!幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!!!」
そうして、守矢神社ぼ上空に、それはそれは綺麗な弾幕の花が咲いた。流れ弾が多いのはご愛嬌だぜ。
「にしても、今日の紫は随分と感情的だったな、なんかあったのか?」
ポツリと呟いた私の言葉は、激しい弾幕の音にかき消された。
夜が白み始め、あれだけ騒がしかった酔いどれ共も結構な数が脱落し、守矢神社にはお開きのムードが漂い始めていた。
ぐるり、と辺りを見回してみる。
「……ん……メディスンの球体関節……ふふふ…うっ……ふぅ……」
「んぐーくーるーしーいー!!」
アリスがメディスンに抱きついたまま寝こけていたり。
「妖夢ー、片付け押し付けられる前に帰るわよー。いい加減正気に戻りなさい」
「なーに言ってるんですか幽々子様。私はいたって正気…むむっ!あちらから剣客の気配!いざ尋常に勝負!悪・即・斬!!」
「あらあら。もう、酒癖の悪さは妖忌譲りなんだから」
酔っぱげてる妖夢を懐かしい目で幽々子が見ていたり。
「だからぁ、わたしはえらくてぇ、てんにんでぇ、もうすごいんだからね~…ヒック」
「にゃにおー、あたいのほうがさいきょーなんだからぁ。カエルといっしょにこおりづけにするわよー…ウィック」
「私は~酒漬け夜雀~♪宴会の歌姫~♪もう焼き鳥とは言わせない~♪」
「もう、チルノちゃん。みんなも、そろそろ帰ろう?夜が明けちゃうよ?」
「SO-NANOKAAAAAAAAAAAA!!!]
天人と⑨達が戯れてたり。
「ほぉら、幽香、私のことは、リグル様、と呼ぶんだ。いいね…?」
「な、なによ、リグルの癖して……マスパで吹き飛ばすわよ!ってひゃう!?」
「ちゅっ……ふふ、言うことを聞けない悪い子にはお仕置きしないとね……」
「ちょ、やめなさいリグひゃあうんっ!?く、首筋にキスなんて、んっ、やめっあぁっ!!」
立場が逆転していたり。
……なんともまぁ、混沌としていた。と、
「おぅ、魔理沙。どうだい、一杯」
「萃香か。いや、遠慮しておくぜ。正直結構限界だ」
「まぁまぁ、そう言わずにさ」
なんだかんだで鬼の酒は断れない。私は苦笑しながら萃香から酒を受け取る。
そのまま、二人でしばらくチビチビと飲んでいると、不意に萃香がポツリと呟いた。
「いやぁ、楽しいねぇ」
「ん?なにがだ?」
脈絡の無いセリフに、思わず聞き返す。
「なにもかも、さ。昔は、こんなこと無かったからねぇ」
「あー?宴会なんざ、昔からやってたんじゃないのか?」
「あぁ、いや、いや。そういうことじゃないんだ。こうして、人、妖怪、妖精、天人……種族問わず、飲んで騒いで笑える宴会なんて、ここ最近のことだ。それもこれも、霊夢のおかげ、ってとこかねぇ」
そう言って、萃香はぐいっと徳利を呷る。そして、続ける。
「博麗の巫女といえば、人外にとっては恐怖の象徴、自分から近づくやつなんて紫ぐらいしかいなかった。それがどうだい、今日なんざ、吸血鬼と初々しく戯れてるじゃないか。もうにやけっぱなしだったよ」
「その点については同意だぜ。慌てふためいている霊夢を見るのは楽しいからな」
そう言って私が頷くと、萃香はニヤリと笑ってこちらを指差してきた。
「そう、それだ。昔の霊夢は全然感情を面に出さない……というか、そもそも感情の起伏が薄い子供だった。見ているこっちが心配になってくるくらいにね。でも、少しずつ、霊夢は変わっていった。弾幕ルールを制定した辺りから、霊夢は少しずつ感情を見せるようになっていったんだ」
「そうだったか?」
「そうだよ。……きっと、霊夢は、魔理沙と会ってから変わったんだ」
「あー?」
言われて、少し思い出してみる。
霊夢と初めて会った頃は、実はあまり覚えていない。ただ、私が突っかかって、それを霊夢がいなしていたような感じだったと思う。
突っかかっていなされて。そんなことを繰り返していると、私は段々と怖くなってきた。
―――――ひょっとして、私は相手にもされてないんじゃないか―――――?
人に興味さえ持たれない恐怖ってのを、あの時初めて味わった気がする。
それで、臆病な私は、こっそりと、物陰から霊夢のことを観察してみることにした。
一日、二日、三日と観察を続けても、霊夢にはなんの変化も無い。毎日のように来ていた私が、三日も来ていないのに。
私のことなんて、もう覚えてないのかな?そう思いながら、枕を濡らした記憶もある。
自分でも、自意識過剰だとは思う。でも、その頃は、本当に怖かったんだ。
そして、四日目。この日も、霊夢はいつも通りだった。
―――今日も駄目か…
そう思いながら、そっとその場を後にしようとすると。
ポツリ、と。
「今日も来ないのかな…」
辛うじて聞こえるほどの微かな声で、霊夢は呟いた。
私の、ことを。
「……うーん、よく分からんぜ」
目深に帽子を被り、とりあえずそう言っておく。
「はっはっは、謙遜しなくてもいいのにねぇ。魔理沙のおかげで霊夢は変わって、そして今日も酒が美味い!うんうん、素晴らしいねぇ」
「うっせ」
顔が少し熱くなる。と、
「お、日の出かい」
いつの間にか、日が昇り始めていた。
「んじゃ、最後に乾杯でもしようか」
「………あぁ」
私と萃香の杯が、交じり合う。
「「幻想郷に、乾杯」」
欲を言えば魔理沙がスポットなんだろうけどちょっと薄かったかなという印象。
今のままでもホンワカする話ではあるんですけど、
更に霊夢との關係に突っ込めばもっと良くなるかと思います。