Coolier - 新生・東方創想話

霊と封の狭間の出来事

2011/07/17 01:41:50
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 霧雨家から勘当されてしばらく経ったある日、魔理沙の運命を大きく変える出来事があった。
 それは運命の出会いと言うに相応しく、今の魔理沙があるのは、この出会いがあったからである。


 その日、魔理沙はいつもの様にミニ八卦炉を使う練習をしていた。
 勘当された直後に霖之助から貰ったもので、とても便利な代物らしい。

「うーん、こうすれば火が出て…こうすれば風…」

 こんな事ができる、と説明された事を一つずつ試してみる。
 魔力を注ぎ込まないと発動しないので、魔力の使い方を覚える為だ。
 勘当される前から独学で覚えていた魔法を使う術を駆使して、何度もそれを繰り返す。

「思ったより難しいなぁ…大きな火とか、どうすれば出せるんだろ」

 霖之助が言うには、山一つくらい吹き飛ばせるほどの火力を発揮するらしいが、
 今の魔理沙がそれを行うにはまだまだ未熟で力不足であった。
 全力を出しても、身長と同じくらいの大きさが限界だ。

「…とにかく、練習あるのみね!よーし!」

 あれこれ悩んでいても仕方がないと、再び練習を再開する。
 そんな魔理沙の様子を、青い装束に身を包んた緑髪の女性がじっと見ていた。

「あの娘が持っている道具…アレさえあれば、今度こそ私の目的が…」

 狙っているのはミニ八卦炉のようで、それを所持している少女から奪う方法を考えている。
 力尽くで奪うのが一番早いが、相手が少女とは言え魔法使いである事に変わりはない。
 以前、あの少女と同年代と思われる巫女に封印されかけた事もあるので、
余計に慎重になっているのだ。

「思わぬ反撃は避けたいわね……来なさい、マリエル」

 暫く考えていると、良い案を思いついたようで、使い魔の名前を呼んだ。
 すると一瞬で、すぐ傍に天使の様な二枚の羽を生やした女性が現れる。

「お呼びですか、魅魔様」
「えぇ、あの子の持っている道具を手に入れるわ。手伝いなさい…作戦はこうよ、先ず私が……」

 そう言って、魅魔は自らの作戦を使い魔に話し始めた。
 その内容とは、力ずくで奪うのではなく、あの魔法使いを弟子にして信用を得た後、
隙を突いて奪い取ってから記憶を消してしまう、というものだ。
 あのような子供を騙すのは気が引けたが、どのような内容であろうと異論は唱えず、
使い魔であるマリエルは従うのみである。

「分かりました。お任せください、魅魔様」
「よし、ヘマしたら許さないからね。行くわよ」

 作戦の説明を終えて軽く準備を済ませると、早速行動に移す。
 そんな事を知る由もない魔理沙は、ひたすらミニ八卦炉の練習をしているのだった。




 練習を終えて休憩をしていると、不意に誰かに声を掛けられる。

「こんな所で子供が一人、何してるんだい?」

 驚きながら振り返ると、そこには見知らぬ人物が立っていた。
 魔理沙は少し警戒しながら、問い掛けに答えを返す。

「…魔法の練習。そういう貴方は誰で、何をしているの?」

 知らない相手はよく警戒するよう、霖之助に言われている。
 一定の距離を保ちながら、今度は魔理沙が相手に質問した。

「私は魅魔、普通の魔法使いってところかしら」
「…魔法使い…」

 魔法使いという単語を聞いて、魔理沙は驚いていた。
 目標としている存在が、突然目の前に現れたのだから、無理のない事だろう。

「そう、魔法使い。練習してる所、ずっと見てたのよ?気付いてなかったみたいだけど」
「れ、練習なんてしてないっ!そんな事しなくても、私は強いんだもん!」

 努力している姿を見られた事が恥ずかしいのか、慌てて魔理沙が否定する。
 人一倍努力家であるが、影で努力している事を知られるのは情けない事だと思っているからだ。

「へぇ、強い、ねぇ…なら、それを証明してくれるかしら」
「い、良いわよ、後悔したって知らないからね!」

 意地悪く笑いながら挑発すると、すぐにそれを証明しようと挑発に乗ってくる。
 やはりこの辺りはまだまだ子供のようで、魅魔は余裕たっぷりといった様子だった。

『魅魔様、予定と違いますが、よろしいのですか?』

 すぐ傍で姿を消しているマリエルが、念を送って魅魔に尋ねる。

『問題ないわ。合図するまで、出てくるんじゃないよ』
『…分かりました』

 念での会話を終わらせると、魔理沙も準備が出来たようでミニ八卦炉を構えていた。

「準備は出来た?なら見せてみなさい、貴方の力を」

 不適に笑って余裕を見せながら、魔法を放つように促す。
 準備万端だった魔理沙は、すぐに自分が出せる最大限の力を放った。

「見せてあげるわ…えぇーいっ!!」

 魔力を込めると同時に、等身大の大きさの炎がミニ八卦炉から吐き出される。
 魅魔に向けて一直線に飛んで行くが、いつの間にか取り出した杖を一振りすると、
魔法で呼び出された炎があっさりかき消されてしまう。

「こんな程度だなんてねぇ…ま、子供にしては上出来かしら」
「そ、そんな…まったく効かないなんて…」

 自分の力がまったく通用しない事に、魔理沙は大きなショックを受けた。
 今までも何度か妖怪に襲われかけた事はあり、その度にミニ八卦炉で撃退していたのだ。
 なのでそれなりの自信はあったのだが、目の前の相手にはそれが通用しなかった。

「残念だけど、そんな程度じゃ…ちょっと力のある妖怪に、あっさり負けてしまうんじゃない?」

 そう言いながら、魔理沙の首筋に杖を向ける。
 このままでは殺されてしまう、そう思って、必死で抵抗しようと力を振り絞る。
 もちろん魅魔は殺すつもりなどないが、恐怖に包まれている為そんな事が分かる筈もなかった。

「い、いやっ…いやあぁぁぁぁっ!」

 あまりの恐怖に大声で叫ぶと、ひたすらミニ八卦炉に魔力を込める。
 とにかく無我夢中で、目の前の敵を倒そうと必死だった。

「うわっ、ちょっ…じょ、冗談だって…!?」

 さすがにやり過ぎたか、と後悔しながら慌てて杖をしまう。

「うわぁぁぁぁっ!」

 しかし既に手遅れのようで、恐慌状態の魔理沙はミニ八卦炉に溜めた魔力を一気に解き放つと、
ミニ八卦炉からレーザーが発射される。

「魅魔様、危ないっ!」

 放たれたレーザーが襲い掛かろうとした瞬間、マリエルが咄嗟に割って入り結界を張った。
 レーザーは二人を飲み込むと、辺りの木々を薙ぎ倒した後に消滅した。




 予想以上の出来事に、魅魔は驚愕していた。
 あんな小さな子供のどこに、そんな力があったと言うのだろうか。

「驚いたわ、まさかこんな事になるとはね…大丈夫かい、マリエル」

 使い魔の姿を確認すると、傷を癒してやりながら声を掛ける。

「はい…勝手な行動を取ってしまい、申し訳ありません…」

 少しふらつきながらも立ち上がり、命令に背いた事を反省していた。

「ったく、あの程度でどうにかなる訳ないって言うのに…
ま、さすがの私も、アレには驚いたけどね」

 自分なんかをかばったマリエルに飽きれながら、改めて魔理沙の方を見る。
 大量の魔力を消費した所為か、気絶してしまったようだった。

「…どうするんですか?今なら、あの道具を奪うのも容易いですが…」

 ミニ八卦炉を握り締めたまま気絶している姿を見て、マリエルがそう提案する。
 しかし先程の出来事を目の当たりにした魅魔は、奪うのではなく利用しようと考えていた。

「いや、気が変わった。あの子を本当に、私の弟子にするわ」

 元々の作戦では、魔理沙を弟子にしてある程度の信頼を得てから、
ミニ八卦炉を奪ってしまうつもりだったのだ。だがミニ八卦炉の力を差し引いたとしても、
あれ程の潜在能力を持っているのなら話は別である。
 ちゃんとした魔法使いとして育て上げて、自分の計画に協力させれば良い、そう考えていた。

「…なるほど。では、連れて帰るのですね」
「えぇ。ゆっくり休ませてやった方が良いだろうしね」

 主が決めた事に逆らう理由もないので、マリエルは何も言わずに従った。
 気絶している魔理沙を抱き上げた事を確認して、魅魔は虚空に向けて杖を振るう。
 するとそこに、空間の裂け目が現れて宇宙空間のような世界が広がっていた。

「思わぬ収穫だわ…ふふ」

 自分の計画の役に立つ事を確信し、不適に笑いながら幻夢界へと戻っていく。
 その後を追って、魔理沙を連れたマリエルも空間の裂け目へと帰って行った。




 魔理沙が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
 戸惑いながら辺りを見回すが、まったく知らない場所だ。

「なんでこんな所に…?」

 一先ず状況を整理する為、気を失う前に起きた出来事を思い出そうとする。
 休憩中に魔法使いと名乗る人物が現れて、それから──何があったんだろう。
 必死で思い出そうとしているが、思い出せずに頭を抱えていると、
マリエルが様子を見るために部屋に入ってきた。

「…あ、気がついたようですね。大丈夫ですか?どこか痛いとか、
具合が悪いとかはありませんか?」

 魔理沙が目を覚ました事に気付くと、駆け寄ってきて容態を確認する。
 何者なのか分からないが、容態を心配するという事は悪い者ではないだろう。
 そう判断すると、先ずはこの場所の情報と何者なのか、情報を得ようとした。

「…うん、大丈夫。それより、ここはどこで、貴方は誰なの?」
「あぁ、言ってませんでしたね。私はマリエル、魅魔様…先程貴方に声をかけた…
その方の使い魔です。そしてここは、魅魔様の創り出した世界、幻夢界にある霊魔殿ですよ」

 笑顔で答えるマリエルだったが、それを聞いて、魔理沙は気絶する前の出来事を思い出した。
 普通の魔法使いと名乗った魅魔に、自分の全力の魔法が一切通じなかったのだ。
 ほとんど無意識だった所為か、気絶する直前に放った魔法の事は一切覚えていない。

「そういえば、まだ名前を聞いていませんでした。貴方のお名前は、なんと言うのですか?」

 警戒するのも無理はないと思ったマリエルは、恐がらせないように優しく尋ねる。

「私は…えっと…霧雨魔理沙。魔法使いの魔理沙よ」

 霧雨の姓を名乗るか少し迷ったが、結局名乗る事にした。
 勘当された身ではあるが、これが自分の名前なのだから、名乗るのは当然の事だと思いながら。

「魔理沙、って言うんですね。これから、よろしくお願いします」

 恭しく頭を下げると、マリエルは嬉しそうに微笑んだ。
 しかし、魔理沙はその言葉に少し引っ掛かる。

「これから…?」

 不思議そうに尋ねられて、マリエルは大事な事を言い忘れていた事に気付いた。

「あぁ、言ってませんでしたね…魔理沙、貴女はこれから…」
「そこから先は、私が説明するわ」

 言いかけたところで、部屋に魅魔が入ってくる。
 魔理沙が目を覚ましている事は念話で伝えていたので、入るタイミングを伺っていたのだろう。

「っ…!」

 魅魔の姿を確認して、怯えた様子で後ずさった。
 その行動に魅魔は多少ショックを受けたようで、
やはりやり過ぎてしまったか、と後悔していた。

「あー…そう怯えないでよ。別に取って食ったりはしないから」

 困った様子で頭を掻きながら、警戒を解こうと歩み寄る。
 だが魅魔が近付けば魔理沙は後ずさり、次第に追い詰めるような状況になってしまう。

「えっと…逆効果みたいですが…」

 少し躊躇いながらも、このままでは話が進まないと思ったマリエルが意見する。

「みたいねぇ…困ったもんだわ」

 確かにその通りだったので、素直に意見を聞き入れてマリエルの隣に立つ。
 魔理沙はまだ警戒している様子だったが、これ以上警戒を解くのは困難だと思い、
諦めて事情を説明する事にした。




 魅魔は自分が幽霊である事なども含めて、自己紹介を済ませる。
 それを聞いてようやく信用するようになったが、魅魔は計画の事をまだ話していなかった。

「で、あんた…魔理沙って言ったわね。もっと強くなりたいでしょう?」
「……うん」

 魅魔の問い掛けに、魔理沙は素直に頷く。
 悔しいが自分はまだ魔法を使えるようになっただけで、使いこなせてはいないのだ。
 独学でここまで身につけてきたが、
ここから先はどうすれば良いのか分からず、行き詰っていた。

「そこで、よ。私の弟子になる気はないかしら?」

 それは魔理沙にとって、願ってもない申し出だった。
 自分を遥かに超える実力を持っている上に、
天使を使い魔に出来るような魔法使いの弟子になれば、
間違いなく今以上の強さを手に入れる事は出来るだろう。

「……でも、どうして私なんかを…」

 ほんの少し前に初めて会った相手が、突然自分を弟子にすると言い出したのだから、
魔理沙が不思議がってしまうのも無理はない事だった。

「そりゃ、私の計画の為……じゃなくて、才能を感じたからよ。貴方に」

 少し本音を漏らしてしまい、慌てて取り繕いながら答える。
 もっとも、才能を感じたと言うのも嘘ではないので、魅魔は真剣に魔理沙を鍛えるつもりでいた。

「才能?じゃあ、私はもっと強くなれるの?」

 強くなれると聞いて、先程までの警戒心など忘れた様子で目を輝かせている。
 どんな理由があるのか知らないが、余程強さを求めているのだろう。

「私が言うんだから、間違いはないわよ。さ、どうする?」

 話に乗り気になってきていたので、もう一度、弟子になるかどうかを尋ねる。
 先程と違い、既に答えが決まっているようだった。

「私を、弟子にしてください!」
「良いでしょう。そうと決まれば、色々と準備しないとね」

 固い決意をして答えた魔理沙を見て、満足そうに笑う。
 マリエルに部屋を用意してくるように指示を出すと、弟子となった魔理沙に基本を教える。

「さて…先ず、私の事は魅魔様と呼ぶ事。良いわね?」
「はいっ、魅魔様!」

 素直に従うと、元気よく返事をした。
 別に呼ばせる事に深い意味などはなく、ただ師匠などと呼ばれるのがイヤだっただけである。

「で、次に、泣き言は禁止。そんな事を言う暇があったら、知識を身につけなさい」

 これに戸惑う事もなく、魔理沙は頷き返した。
 元より泣き言を言うつもりはない、という事だろうか、相当な自信だ。
 だが、それくらいの気概でなければ、鍛え甲斐がないというものである。

「後は…常に、私を超えてやるって心構えで修業に臨みなさい」
「はいっ!」

 そんなのは当然だ、と言わんばかりの勢いで返事を返した。
 強気な態度も素質も魅魔好みで、間違いなく強い魔法使いになると改めて思った。

「よし、良い返事ね。それじゃあ早速始めるわ、ついてきなさい」
「分かりました、魅魔様!」

 善は急げとばかりに、魅魔は魔理沙を連れて早速修業を行いに行く。
 こうして、魔理沙が強い魔法使いになる為の修業が幕を開けたのである。




 修業を開始してから暫く経って、魔理沙は修業をする前と比べて遥かに強くなっていた。
 魅魔が課した修業は雑用から魔法を用いた実戦まで様々な物があり、
中には本当に修業と呼べるのか分からない物も多くあったが、
時には挫けそうになりながらも強くなれると信じて、ひたむきに努力を重ねて乗り切っている。
 もちろんずっと霊魔殿にいた訳ではなく、空いた時間には香霖堂や神社へ行くなど、
修業をしている事がバレないように気をつけながら日々を過ごしているのだった。

「今日も一日、お疲れ様でした。修業の調子はどうですか?」

 部屋の掃除をしていたマリエルが、修業を終えて戻ってきた魔理沙に尋ねると、
元気のいい答えが返ってきた。

「ちょっと大変だったけど、ちゃんと出来たぜ!空を飛ぶのって楽しいんだな」

 新しい事を学んで、実際に出来るようになるのが余程楽しいようで、興奮気味に答える。
 どこで覚えてきたのか、魔理沙はいつの間にか
女の子らしくない言葉遣いをするようになっていて、マリエルは頭を悩ませていた。
 もう少し、女の子らしい言葉遣いは出来ないのだろうか。

「それに、このミニ八卦炉の使い方も分かってきたしな」

 常に携帯しているミニ八卦炉を得意気にかざしながら、魔理沙が言った。
 修業の方は順調のようで安心していたが、
すぐに自分なんかは追い越されてしまうだろうと思うと、嬉しい反面少し複雑な気持ちもあった。
 元々マリエルは使い魔である為、主のサポートを行う事に長けているが、
その代わりに戦闘能力は高くない。
 それに対して、魔理沙は戦闘向きの魔法を多く教わっている為、
戦闘に特化した魔法使いになりつつある。

「もう自由に空を飛べるまでになったんですね。きっと、魅魔様も喜んでいるでしょう」

 短期間でどんどん成長していく魔理沙に驚きながら、嬉しそうに言うと頭を撫でてあげた。
 魅魔から才能があるとは聞かされていたが、マリエルはここまでだとは思っていなかったのだ。

「この調子で、魅魔様も追い越して最強の魔法使いになってやるんだ!」
「それはそれは、頼もしいわねぇ」

 力強く言い放って得意気に胸を張っていると、意地悪く言いながら魅魔も部屋に入ってくる。

「わっ、み、魅魔様!?」

 突然の登場に驚いた魔理沙は、慌ててマリエルの後ろに隠れてしまった。
 口ではああ言っていても、やはり師匠である魅魔には畏怖と尊敬の念を持っているようだ。

「ま、それでこそ私の弟子ってね。ほらほら、いつまでも隠れてるんじゃないの」

 すぐに隠れてしまったのは減点だが、それは自分の実力を理解しているという事でもある。
 その事に安心しながら、一瞬で隠れている魔理沙の後ろに回って、
猫を掴むようにして持ち上げるとベッドに座らせた。

「うー…びっくりした…」

 怒られると思っていたが違ったようで、安心して胸を撫で下ろしている。
 そんな魔理沙の様子を楽しそうに眺めながら、思い出したように魅魔が言った。

「あぁ、そういえば、もうすぐだったわね。魔理沙が星を見に行く日」

 それは香霖堂へ行った時に、魔理沙が聞いてきた話である。
 なんでもその日は大量の流れ星を見る事が出来る様で、
流れ星が好きな魔理沙はとても楽しみにしていた。

「うん、第一回、流星祈願会!楽しみだなぁ」

 話を振られると、待ちきれないと言った様子で魔理沙が答える。
 魅魔もマリエルも、星を見る事がそんなに楽しみになるような事なのかは分からなかったが、
少なくとも魔理沙にとっては一大イベントの様だったので、少し心配だが行く事を許可していた。

「本当に流れ星が好きなんですね、魔理沙は」

 つられて笑顔を浮かべながら、マリエルは感心していた。
 ここまで夢中になるという事は、よほど流れ星が好きなのだろう。

「まったくだ、まぁ悪い事ではないし…それに、丁度いいわね」

 楽しそうな魔理沙を横目で見ながら、マリエルに向けて言った。
 魔理沙も十分な実力をつけてきた事を確認した魅魔は、
もうじき計画を実行に移すつもりのようだ。

「…確かに、そうですね」

 少し躊躇いながら、マリエルも頷き返した。
 このまま三人で穏やかに暮らす事も出来るだろうが、
主がそれを選ぶはずはないという事も分かっている。
 だからこそ、使い魔であるマリエルは何も言わず、ただ主と共に進む道を選ぶ。

「何の話?」

二人のやり取りが気になった魔理沙が、不思議そうに尋ねてくる。

「なんでもないわ。それより、行くからにはちゃんと何かを学んでくるのよ」
「そうですよ、日々の生活は全て修業の一環なんですから」

 まだ魔理沙に話すべきではないと判断して、二人はすぐに話題を逸らして誤魔化した。

「は、はいっ!」

 しかし本人は誤魔化された事に気付いていないようで、言われた事を純粋に受け止めるのだった。




 そして、第一回流星祈願会当日、霊魔殿では魅魔が計画を実行に移す最後の準備に取り掛かろうとしていた。

「事を起こすのは、一週間後…里香の方の準備は完了しているかしら」

 日取りを確定させると、密かに頼んでいた事の成果をマリエルに確認する。

「はい、里香さんは既にバケバケの増産を行っています。いつでも実戦に投入できるそうですよ」

 里香はこの辺りでは一部に名の知れた戦車技師で、戦車以外にも様々な物を造り出している。
 主に戦闘用の物だが、この平和な幻想郷ではそれらを試す機会もなく、
常日頃から自分の造った物を試す場所を求めていた。
 そんな里香に目をつけた魅魔は、マリエルを使いに出して、
計画に協力するように頼んでいたのである。

「少し心配だったけど、中々良い働きをしてくれるじゃないの」

 予想外の仕事ぶりに驚きながら、自分の目は確かだったと頷いた。

「既に防衛装置の設置も終わっていますから、準備は万端と言って良いでしょう」

 こちらも里香が造った物で、五つの球体が設置された台座により様々な弾幕を張る事が出来る。
 どれほどの性能があるのかはよく分からないが、あって損はないだろうと思って設置させたのだ。

「上々ね…後は魔理沙がどれだけ実力をつけられるか…楽しみだけど、不安要素ではあるわね」

 短期間で相当の実力をつけた魔理沙だが、それでも魅魔にとっては不安が残っているようだった。
 万が一にでも大怪我をしたらと気が気でないようで、思った以上に過保護な主に、
マリエルは少し驚いていた。
 人間に復讐すると言っていたにも関わらず、
ここまで人間の少女に入れ込んでいるとは思わなかったからだ。

「そんなに心配ですか?魔理沙の事」
「弟子の心配をしてやらないのは、師匠として失格でしょ。もちろん、あんたも心配だけど」

 何を今更、と言った態度で魅魔が答える。
 魔理沙と共に過ごす内に、人間に対する復讐心は大分薄れてしまったようで、
以前と比べて随分と丸くなっている事はマリエルも薄々感じていた。
 それでも行動を起こすのは、彼女なりのけじめなのかも知れない。

「…ありがとうございます」

 自分の心配までしてくれている事を嬉しく思いながら、マリエルは礼を言った。
 そして、それとは別にもう一つ気になった事を魅魔に尋ねる。

「ところで、魅魔様…博麗の巫女は、魔理沙の友人みたいですけど…どうするんですか?」

 それは、少し前に魔理沙が人間界の話をした時の事だった。
 話の途中に出てきた魔理沙の友人が、現博麗の巫女である霊夢であった為、
知り合いだとは夢にも思わなかった二人はひどく驚いたものである。

「それなら適当に変装させて、口調も変えさせれば誤魔化せるわよ。霊夢は鈍そうだし」

 もっと悩むかと思っていたマリエルだが、
意外にもあっさりと答えが返ってきて拍子抜けしてしまう。
 だが確かに、変装という手段は悪くないかも知れない、と思っていた。

「気付かれないと良いですけど…」
「もし気付かれたら、私が何とかするわよ」

 変装がどのような物になるのかは分からないが、マリエルは多少心配しているようだった。
 しかし魅魔は、バレたらその時はその時と思っているようだ。

「それに、口調を正すきっかけになるかも知れないしね」

 魔理沙の話し方を気にしているのは魅魔も同じだったのか、更にそう付け足した。

「…確かに、それなら悪くありませんね」
「でしょ?さて、それじゃあ話を戻すけど…」

 そこで魔理沙の話は一旦終わりにして、計画の話を再開する。
 計画の結果はどちらでも良いのだが、弟子に格好悪いところは見せられない。
 魅魔は一層気合を入れて、計画の中身を詰めるのだった。




 翌朝、霊魔殿に帰ってきた魔理沙は、いつも以上に元気が溢れていた。

「ただいまー!」

 元気良く挨拶をすると、その声に気付いて魅魔とマリエルがやってくる。

「おかえり、どうだった?」
「おかえりなさい、魔理沙」

 揃って出迎えると、魅魔が流星祈願会で何を学んだかを尋ねた。
 魔理沙は待ってましたとばかりに、自信たっぷりに言い放つ。

「すっごく綺麗で、とにかく凄かったぜ!だから決めた、私もああいう星の魔法を使う!」

 胸を張りながらそう宣言すると、早速小さな星型の弾を呼び出した。
 どうやら、魔法は全て星をモチーフにするつもりのようだ。

「ふむ、星の魔法、ね…確かに魔理沙らしいし、良いでしょう」

 独自のスタイルを見つけてきた事に密かに感心しながら、魅魔は星の魔法に許可を出す。
 こういう所から、新たな魔法習得への活路が見出せる事もあるので、
それを無自覚であっても学んできた事は、素直に褒めても良いくらいだった。

「きっと綺麗なんでしょうね。ふふ、完成したら見せてくださいね」

 星型の弾幕と言う、女の子らしいロマンチックな魔法になった事を喜び、
嬉しそうに微笑みながらマリエルが言った。

「やったぜ!よーし、それじゃあ早速練習よ、練習!」

 魅魔からの許可も下りて、マリエルにも期待されている事から、
俄然やる気を出した魔理沙は早速練習に繰り出そうとする。

「朝御飯できてるから、先に食べなさい」

 興奮気味に修業へと繰り出そうとする魔理沙を、
落ち着かせる事も兼ねて朝食を食べるように勧める。

「はーい…」

 少し不満そうだったが、お腹が空いているのか素直に従うのだった。




 朝食を終えて魔法の練習をしようと息巻く魔理沙を、魅魔が呼び止めた。
 いつもの飄々とした態度ではなく、珍しく真剣な様子だ。

「待ちなさい、魔理沙。話があるわ」
「話…?」

 いつになく真剣な様子に戸惑いながら、不思議そうに尋ね返す。
 もしかしたら、何か悪い事をしてしまって、怒られるのかも知れない。
 そう思うと自然と全身に緊張が走り、少しだけ身構えてしまう。

「一週間後…博麗神社に攻撃を仕掛けるわ」

 少しだけ溜めてから、魅魔がそう告げた。

「へ…?博麗神社…?」

 怒られると思っていた為、予想外の返答を返されて思わず聞き返してしまった。
 自分の聞き間違いでなければ、博麗神社を攻撃する、と言ったはずだ。

「そうよ、あんたも知ってるでしょう。博麗霊夢、あの子と戦う機会を作ってあげるって事よ」

 淡々と言葉を続ける魅魔に対し、魔理沙はまだ自体が飲み込めていないといった様子だった。
 確かに霊夢と戦ってみたいと考えていたが、まさかこんな形で実現するとは思っておらず、
その上一週間後という急すぎる事もあるのですぐに理解できなくても無理のない事である。

「魅魔様、もう少し詳しく説明してあげた方が良いのでは…」

 端的にしか説明しない魅魔を見かねて、たまらずマリエルが横から口を挟む。

「ん、あぁ…悪い悪い、ついね。けど、難しい話しても仕方ないでしょ」

 ようやく魔理沙が戸惑っている事に気付いて、頭を掻きながらそう言い返した。
 既に魔理沙を弟子にした時のような、人間への復讐と言う目的は薄れていたのだが、
それでもあまり深くは話したくないようだった。

「まぁ、とにかく…平和すぎるのも退屈だし、一騒動起こしてやろうって事よ。

魔理沙もこういうの好きでしょう?修業の成果も試せるし…どうかしら、魔理沙?」
 相変わらず簡単に理由を説明すると、改めて魔理沙の意思を確認する。
 もちろん、断るはずがないという事を確信していながら、あえて確認したのだ。

「霊夢と戦えるなら、もちろん賛成だぜ!」

 魅魔の思ったとおり、魔理沙は悩む事なくすぐに賛成する。
 修業の成果が試せる上に、霊夢と戦えるのだから、断る理由など一切なかった。

「ふ、良い返事よ。そうと決まれば、今まで以上に気合入れていくから、覚悟しなさい!」
「はいっ!」

 良い返事が聞けたことに満足しながら頷き、力強く言い放つと、
早速魔理沙を連れて修業に向かった。
 そんな師弟を、マリエルは飽きれながら見送る。

「魔理沙が、魅魔様に似てきたような…」

 女の子らしさとは縁遠くなっていく魔理沙を心配しながら、そんな事を呟いていた。




 一週間後、遂にその時は来た。

「さて、いよいよね…マリエル、魔理沙の方は終わったのかしら」

 魔理沙の変装を任せていたマリエルに、様子を尋ねる。

「はい、終わりました」

 丁度終わったらしく、正装に着替えたマリエルと変装を済ませた魔理沙がやって来た。

「へ、変じゃない?これ」

 赤く染められた髪と少し尖った耳、そして服装はいかにも魔女と言わんばかりの
黒いローブに身を包んだ魔理沙は、恥ずかしそうに顔を赤くしながら魅魔に尋ねた。
 髪型もおかっぱの様になっていて、ぱっと見ただけでは魔理沙だと分からないだろう。

「うん、悪くないじゃない。これなら魔理沙って気付かれないでしょ」

 これなら問題ないと、魅魔が太鼓判を押すと魔理沙は安心して胸を撫で下ろしていた。

「良かったですね、魔理沙」
「うん、良かったぜ…じゃない、良かったわ」

 マリエルに言われて、うっかりいつもの調子で話してしまい、慌てて言いなおす。
 少し前から口調を変えて話す練習はしていたのだが、それでも時々、
こんな風に口調が戻ってしまうのだった。

「気をつけなさいよ、まったく…バレたら変装の意味がなくなるんだから」

 口調だけは心配だったが、まぁ多少ボロが出ても大丈夫だと思い、注意するだけにしておく。

「は、はいっ、魅魔様!」
「魔理沙ならきっと出来ます、頑張りましょう」

 慌てて頷く魔理沙と、それを元気付けるマリエルを見て、魅魔は微笑んでいた。
 随分と頼もしい、弟子と使い魔だ。そう思いながら。

「さて、それじゃ…そろそろ行くわよ、二人とも」
『はい!』

 改めて気を引き締めると、二人にそう告げて歩き出す。
 魅魔の後を追い掛けながら、魔理沙は学んだ事を実践する時を楽しみにしている。
 マリエルは、そんな二人が怪我をしないように祈りながら、後を追うのだった。



To be continued "the Story of Eastern Wonderland"
 魅魔の起こした騒動は、霊夢の手によって失敗に終わってしまった。
 結果的には負けてしまったが、魅魔は満足そうに笑っている。
「予想以上に楽しませてくれるわ、まったく…そうでなきゃ、張り合いもないけれど」
 服はボロボロで力もほとんど出し切り、暫くは動けそうにない。
 そんな魅魔の様子を察知したのか、魔理沙とマリエルが駆けつけてくる。
「魅魔様ーっ」
「大丈夫ですか、魅魔様!?」
 その声に片手を上げる動作だけで答えながら、ゆっくりと身体を起こす。
「良かった…大した怪我もないようですし…」
 魅魔の容態を確認して、大した事はないと分かると、マリエルは安堵した。
 一方の魔理沙は、帽子を深くかぶって目を合わせないようにしている。
「ごめんなさい、魅魔様…負けちゃいました」
 よほど悔しかったようで、悔し涙が頬を伝っていくのが見えた。
 そんな弟子の姿を見て、魅魔は元気付けるように言った。
「そうね、これからもっと修業して…今度こそ、負けないようにしなきゃね」
 そして二人を抱き寄せると、魅魔は楽しそうに微笑むのだった。
秋阿鐘
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コメント



0.270簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
面白い解釈だったと思います。
ただ魅魔さまと魔理沙の関係が変わっていく様子をもうちょっと描写してほしかったかな。
ほのぼのした家族みたいな三人がとても良かったです。
7.40名前が無い程度の能力削除
こういう妄想は二次の醍醐味だね