魔理沙が三日ぶりに博麗神社を訪れると、霊夢は茶の間でチクチク縫い物をしていた。
「お、針仕事か」
魔理沙は隣に座りこんで、卓上に置いてあった柿の種をひとつまみする。
霊夢は魔理沙を無視して縫い物に没頭している。
退屈な魔理沙は、勝手にお茶を飲んだりブリッジをしたり、暑かったので風呂桶に井戸から水を汲み、水風呂をちゃぷちゃぷさせてみたり、やりたい放題やっていたのだが。
それでも突っ込みが入らないので、ついに工夫もへったくれもなく霊夢に後ろからのしかかった。
「退屈だぜー」
「はいはい。もうちょっと待っててね」
霊夢は針でチクリと魔理沙の手の甲を突き刺し、追い払う。
「いてて」魔理沙は手をぶらぶらさせて痛みを散らす。
仕方がないので縁側に出ると、箒に乗って空に飛び出す。
そのまま妖怪の山の川岸まで飛んで行き、スイスイ泳いでいる河童に声をかけて弾幕でやっつける。
「負けたついでに鮎を二匹採ってくれないか?」
首尾良く鮎を二匹手に入れた魔理沙は、「ついでついで」と鱗を落とさせ、笹の葉で上手にくるんでもらい、意気揚々と博麗神社に戻ってきた。
「ほら霊夢ー、旬の鮎だぞー。私に冷たくすると食わせてやらないぜ……って、おいおい」
霊夢は座布団を枕にして茶の間に突っ伏していた。針仕事は終わったらしく、畳の上には小さな巫女服がひと揃い広げられている。
「ふうん、夏服を作ったのか? 暑いからな」
魔理沙は霊夢の頬を鮎でぺちぺちし始める。
「起きろよー」
「……ううん」
「起きろー」
首筋をぬるぬるした鮎でつつつとなぞると、霊夢は眉根を寄せて苦しがった。
どうやら悪夢を見ているらしい。
「かわいそうに。放っておいてやるか」
魔理沙は鮎を一人で食べることに決めると、台所から七輪と炭とうちわを持ってきて、庭先でパタパタとやり始める。八卦炉は炭に火をつけるためにあるようなものだなと、出来の良さに満足する。
「あ、やべ……ごはんが欲しいぜ」
鮎はおやつのつもりだったのだが、体温の上昇に伴ってキンキンに冷えた麦茶に浸したお茶漬けが欲しくなってしまった。
「何処かの棚に炊けたごはんがないものか……」
――あった。
台所の棚に隠されていた。今朝の残りだったのか、少しごわごわしているが、米びつにはまだ一人分のごはんが残っていた。
「お茶はある。あとは――漬物だな」
ぬかみそ漬けの重石(おもし)を除けて、中に手を突っ込むと、きゅうりが何本か入っていた。端っこを少し齧ってみると、うまい具合に漬かっている。
「すごいな、完璧だぜ」
魔理沙は意気揚々と一本まるごと抜き出すと、水瓶から柄杓で水を汲んでぬかみそを洗い落とした。皿と茶碗と箸、醤油と塩の瓶と一緒に米びつに放り込んで、茶の間に持ち込む。
庭先に出て火の加減を見ると、ちょうどいい具合に熱くなっている。
「鮎、とうにゅーう」
網の上で二匹の鮎が焼けるのを、焦げ目に気を配りながらじーっと見つめる。
「塩、とうにゅーう」
パラパラと上から塩を振りかけて、ひっくり返してはまたパラパラと振りかける。
ジュワジュワと、脂の焼けるいい音といい匂いが漂ってくる。
「あとちょっとかなー、どうかなー」
魔理沙はウキウキしながら箸でつついて鮎の焼け具合を確かめる。
「……もう少し……もう少し? ……ここだぜ!」
絶妙のタイミングで網から掴みあげ、皿に移す。
「ふう……あっついな」
魔理沙は縁側に座ってお茶碗に冷や飯を入れ、ついでお茶を入れてお茶漬けにする。
鮎にはほんのり醤油をかけて、漬物を一口かじる。
「……んー、あとは大根おろしがあれば。いや、それは贅沢というものだぜ」
いただきますと手を合わせ、鮎の皮を剥ごうとしたその時だった。
「何をいただいちゃってるのかなー」
後ろから重たい何かがのしかかってくる。
「この生臭さ……さては霊夢か!」
「あんたが顔に鮎を塗りたくったからでしょーが!」
霊夢はぬるぬるとした頬を魔理沙の頬に擦り付ける。
「ひいいやめろ! 気持ち悪い!」
「私の貴重な食料を……」
「わかった、悪かったって、ちょっとしたジョークだぜ!」
魔理沙は顔にぬるぬるを移されて、せっかく仕上げた鮎定食を没収されてしまった。
「はいこれ」
皿に取り分けられたのは、鮎が一匹と漬物が三分の一。それだけである。
「ごはんが食べたかったのになぁ」
「私のだもん」
霊夢はさらさらとお茶漬けを掻き込んでは、鮎を素早い手さばきで食べ始める。どうやらお腹が空いていたらしい。
「……ん、内臓を取らないところは評価するわ」
「そりゃどうも……」魔理沙は慎重に鮎を食む。漬物とお茶でどう口の中を整えるか、バランスを探っているのだ。
霊夢は米びつをしゃもじでゴッゴと擦ると、
集まったごはん粒を「はい、あーん」と魔理沙に突き出した。
「……む」魔理沙は眉をひそめて面食らう。
「いらないの?」
「いや、いらないこともないが……」
「いらないんだ」
「……いる」
魔理沙は何度かためらいつつ、突き出されたしゃもじのごはん粒を舌先で掬い取り始めた。
「まあ、はしたない」
「……やらせておいて何を言う」
魔理沙がしゃもじを奪おうとすると、霊夢はひらりと躱して、残りのごはん粒をぺろぺろと素早く舐めとってしまった。
「……ごちそうさま」
「……くそう」
魔理沙は、熱くなった自分の頬が、汗と鮎でぬるぬるしているのが気になった。
「水風呂に入り直しだぜ……」
○
ぺちゃくちゃと口喧嘩で順番を決めて、水風呂でさっぱりした二人は、服を着直して茶の間で寝っ転がりながら、小さな巫女服に話題を移した。
「夏用か? 寝巻きに使う小袖って感じだけど」
「寝巻きは別のがあるわ」と霊夢は言った。「寝巻きだったら袖まで作る必要ないでしょう」
「確かにな。袖なしの巫女服に付属で袖をつけるのは、宗教的な理由に他ならないぜ」と言って、魔理沙は寝返りを打った。指で巫女服の袖をこしこしと引っかいている。
「これはね……宗教的な理由と金銭的な理由を兼ねた、素晴らしい一着なのよ」
「ふん……?」
「まあ聞きなさい」
――聞くに。
一向に増えない参拝客に業を煮やした霊夢は、作戦を考え直したらしい。
「博麗神社の人気を出そうとしたのが甘かったのよ。コンセプトが漠然としすぎていたの」
そんなものかなぁと思いながら、魔理沙はぼんやりと霊夢の話を聞いている。
霊夢は、神社という場を直接アピールするのではなく、もっとわかりやすいマスコットで客を釣る必要があると考え直したらしかった。
「お稲荷さんなら狐、みたいなわかりやすさが足りなかったのよ。狐は可愛いでしょう? うちにもそういうマスコットが必要なのよ」
「なるほどな……。それで、何をマスコットにするんだ? 兎と河童ならいくらでも余ってるぜ」
「私よ!」と霊夢は自分を指さした。
「……ん?」
「だから、私。この博麗霊夢こそ、博麗神社のマスコットにふさわしい」
魔理沙は悲しそうな目で霊夢を見つめた。
「それ、今までと何が違うんだよ」
「全然違うの。いい、夏のぼんやりした脳みそのためにかいつまんで説明するとね?」
――かいつまんで説明するに。
夏を利用し、人里の子供たちに涼しい巫女服を売りつける。
↓
なんだか巫女が流行っているらしいぞと評判になる。
↓
霊夢、人里に降り立つ。
↓
あれがオリジナルか! なんて神々しいんだと評判になる。
↓
噂が噂を呼んで人気者になる。
↓
参拝客がたくさん来る。
――ということらしかった。
「霊夢……」
魔理沙は、こいつけっこう追い詰められているんだなと、心の深いところがチクリと痛んだ。
「どう、完璧な作戦でしょう?」
と霊夢は頬を上気させている。
「あ、ああ。……完璧な作戦だな。つまりこの小さな巫女服は、子供服だったというわけか」
「そうよ。そしてこれが野望の第一歩なの」と霊夢はふわふわ浮かび始めた。
「せっかくだから魔理沙も協力してよ。というか協力して」
「二度言わなくても協力ぐらいしてやるが」
魔理沙は頭を掻いて、ため息をついた。「と言っても、針仕事は商売にするほど得意じゃないし。人里にはあんまり近寄りたくないし。出来ることがない気がするぜ」
「そう……」霊夢はしょんぼりうつむいた。
「魔理沙は役立たずの無駄飯食らいなのね……」
「そういう言い方はやめろ」
魔理沙は起き上がって、霊夢の頬をつねりにいった。
「はによ。くやひかったらこの服着て幻想郷中を飛び回るぐらいの宣伝をしなはいよ」
「無茶苦茶だぜ」と魔理沙は霊夢に馬乗りになって言う。
「私が着てもつんつるてんになるだけだ」
「あら、だいじょぶよ、魔理沙ちっこいし」
「あんま身長変わらないだろ!」
「私のが高いわよ」
「……比べてみようぜ」
比べてみると魔理沙の方が少し低かった。
「負けたぜ……」
霊夢はうなだれる魔理沙の頭を撫でる。「今度魔理沙の巫女服も、ちゃんと寸法量って作ってあげるわ。負けたんだから、巫女の格好してこれみよがしに飛び回るのよ? いいわね?」
「そんなに重い勝負だったのかよ」と魔理沙はため息をついた。
「……仕方ない。香霖にでも話してみるぜ」
「霖之助さんに?」と霊夢は不満げだった。「それだったら私が自分で話つけるわよ。魔理沙が来なかったら今頃そうしてるはずだったんだから」
元々霊夢の着ている巫女服は霖之助の仕立てなのだ。無事に流行したら一緒に量産してもらおうという算段である。
「じゃ、私は何もしなくていいんだな。それはよかった」
魔理沙はごろりと横になって居眠りの態勢に入った。
「留守は任されたぜー」
「む……なんかそれもむかつくわね」
「どうせ私は役に立たないぜー」
魔理沙はうつぶせになってまぶたを閉じた。
「じゃあ、留守番しててもらおうかしら」
霊夢は綺麗に畳んだ巫女服を紙袋に詰めると、縁側に出てつま先立ちで伸びをした。
「七輪の片付けと洗い物、お願いね」
「……うへー」
と生返事をする魔理沙を残し、霊夢は日光を手で遮りながら、魔法の森の方面へとふわふわ飛んでいってしまった。
○
香霖堂は夏の暑さにも負けぬ古色蒼然とした建物で、魔法の森の近くにひっそりと立っている。
店内はマジック・アイテムの効力で夏は涼しく冬は暖かい。自然の厳しさに耐えかねたときには、ここにお茶を飲みに来るのが霊夢の日常の一部になっている。
店主の森近霖之助は飄々とした佇まいの半妖で、口当たりよく穏やかな性格をしている。求めれば、「いつまでだって喋ることができる」のではないかと思うほど喋り続けてくれるので、だらだらお茶を飲んでいるだけでも退屈はしない。
「――なるほど、信仰はまず巫女服からか」
と、霖之助はカウンターの向こうで腕を組む。
「発想は悪くないと思うんだけど、たぶん売れないと思うよ?」
「え、どうして?」と霊夢は色をなした。広げた巫女服をほらほらと見せつける。「ちゃんと子供サイズになってるのに」
「うーん、いや、よく仕立て直しているなと感心してるんだけど。元のデザインが万人ウケするかどうか」
「私は気に入ってるわ」
「そう言ってくれるとありがたいね」と霖之助は頭を掻いた。
「……着物よりも安価な晴れ着、というポジションでならなんとか売れるかな」
「弱気は捨てて、霖之助さん」霊夢は紅茶を飲みつつ苦言を呈した。「日常的に着させないと意味がないのよ。もっと自分の仕事に自信を持ってください」
「……うん、そうだね」と霖之助は苦笑する。「わかった。やる前から諦めるのもなんだし、僕から人里の呉服屋に売り込んでみるよ」
霖之助は巫女服を受け取ると、表と裏を交互に見つつ、細かな部分の出来栄えを点検し始めた。
チリンチリンと入口の風鈴が鳴る。
「邪魔するぜー香霖」と箒を担いだ魔理沙が店にやってきた。
「結局来るんじゃない」と霊夢は笑った。「洗い物しといてくれた?」
「隅から隅まで洗ったぜ」と言って、魔理沙は霊夢の向かいの席に座った。
「焼き魚でも食べてたのかい?」と巫女服を手に霖之助が言う。「服に、少し香ばしい匂いが移ってる」
「あら、しまったわね」と霊夢は眉をひそめた。「魔理沙、今度から鮎を持ってくるときにはタイミングを考えなさいね」
「ご飯をたっぷり用意してくれたら考えてやるぜ」と魔理沙は笑った。
「それで、霊夢の思いつきはどうなったんだ? 量販できる見込みはあるのか?」
「オーダーメイドにしよう」と、袖を絞る部分を確かめながら霖之助が言う。「これは見本として呉服屋に飾ってもらって、注文がついたら寸法をきちんと測って作るんだ」
「賢明ねぇ」と霊夢はうんうん頷いている。
「デモンストレーションが必要かもね。悪い魔法使いをかっちょいい巫女が退治するごっこ、とかどうよ?」
「あいにく私は普通の魔法使いだ」と魔理沙は首を振った。「悪い妖怪ならそのへんに転がってるぜ?」
「そのへんに転がってるものじゃ価値がないのよねぇ」と、霊夢は唇に指をあてて考え込み始める。
霖之助は服の点検に余念がない。魔理沙は退屈しのぎに、何か珍しい品はないかと店の中を見回した。
物は多いが乱雑ではない。棚に置かれているものに統一性が全くないので、なんとなく怪しげな雰囲気がする。伏せられた紫縁(しえん)の鏡、鈍色のオルゴール箱、「一子相伝」と書かれた巻物が転がっている。列挙していくと切りがない。
「あ、巻物の辺りのは触っちゃダメだよ」と霖之助が忠告した。
「こないだ倉庫から引っ張り出してきたんだけど。そろそろ付喪神(つくもがみ)になりかけてるのばかりなんだ。扱いは慎重にしないといけない」
「九十九年も売れてないのかよ」魔理沙は恐れ入り、ついでに紫縁の鏡を手に取って、前髪をささっと直した。「来年は売れるといいな」
棚の下の方は地震対策で重たいものや大きめの本が揃えて置いてある。「文庫が出るとハードカバーやノベルス版は幻想入りするんだ」と霖之助は言うが、魔理沙には今ひとつ理解できない文化だった。
「なんで最初から小さいのを出さないんだろうな」
「ん?」と霊夢が反応する。「何か言った?」
「小さな方がポケットによく入るって言った」
「そうか! ポケット」と霊夢が両手を打ち合わせる。
「子供服ならポケットがたくさん必要だわ!」
「ポケットね。悪くない」と霖之助は言った。服の点検は終わったらしく、丁寧に畳み始めている。
「付けるのは簡単だけど、一度子供に試着してもらって、具合を確かめないとダメだね。動くとすぐに溢れるようなポケットじゃ付けても無駄だ」
「やっぱり魔理沙が着ないとダメね」と霊夢は茶化す。
「私が着てもつんつるてんだと言ってるだろ」魔理沙は口を尖らせる。
「いいんじゃないかな。多少つんつるてんでも、可愛いと思うよ」と霖之助が乗っかると、魔理沙はすっかり憮然として、本棚から分厚い本を引っ張りだし始めるのだった。
「死ぬまで借りてやる!」
○
数日後。
分厚い本を読んでいたらなんだか目が冴えてしまった魔理沙は、白いパジャマにサンダルという出でたちで、ランプの炎を手に深夜の森を散歩していた。護身のために八卦炉とスペルカードを何枚かポケットに入れているだけだ。
「あーあ、年を取らないで身長だけ伸ばす魔法はないもんかなぁ」
目は冴えているが、頭はぼんやりとしている。脳みそがむず痒いような、妙な精神状態だった。
「背が伸びるお酒とか……うーん、悩ましい」
いつもの習慣で、視界はきのこのありそうな木の根元をさ迷っている。焼いたしめじが食べたいなと腹の虫が告げるが、そううまくは見つからない。
「永遠亭にでも忍び込んでみるかな……。何かしら手掛かりがありそうな気がするぜ。しめじとか」
今夜の月はどんな具合かと空を見上げた、その際(きわ)に。
――視界の端に、妙なヒラヒラを見たような気がした。
魔理沙はピタリと動きを止めて、足音を立てないように、地上スレスレに浮き上がる。機動力は落ちるが、箒なしでも空は飛べる。
(――今の紅白の袖、霊夢か? こんな夜中に何をしに来たんだろう)
ランプの炎を吹き消し、袖が見えた方へとゆっくり移動しつつ、目が暗闇に慣れるのを待つ。幸い夜空は晴れていて、上弦の月がそこそこ頼りになりそうだった。
魔理沙は微かな物音と、長年この森をさまよった経験からなる直感を頼りに、静かに袖を追っていく。
始めてみるとおもしろい遊びだった。
おもしろさを通り越して、緊張すらしている。魔理沙は、メイド長に見つからずにフランの部屋に忍び込む時ほどのスリルを感じている自分に戸惑いを覚えた。
(――おいおい、霊夢相手に、なんでこんなに緊張しなきゃならないんだよ)
次第に距離が近づいて、袖もはっきりと見えてくる。
……なんだか、見え方がおかしいことに気付く。
霊夢の背は、あんなに高くない。
袖はあんなに短くない。
まるで子供用の服を大人が無理やり来ているような、違和感。
ぞっとする直感。
「だ、誰だ!」と叫んで、魔理沙は思い切り飛び出した。レーザーで足止めしつつ、木の幹を蹴って方向を変えながら謎の巫女服の前に回り込む。
八卦炉でランプに再び点火すると――。
「……嘘だろ」
――そこにあったのは、上から下までぴっちぴちの巫女服を着て、ニヤニヤと微笑む森近霖之助の姿だった。
「ま……り……さ……」
かすれた声で囁きながら、両腕をぶんぶんと振り回す。袖がビタビタとしなり、丸出しの両脇には黒々とした影が見える。
腹は今にもはちきれそうに締め付けられ、太ももはほとんど丸見えで、動くたびに白いふんどしがチラリチラリと輝きを放っている。
「う、嘘だ」
魔理沙はにじり寄ってくる霖之助に、ほとんど無意識のうちに八卦炉を向けた。
「まりさぁ」
「嘘だあああああ!」
出力最大のマスタースパークが、霖之助を後ろの大木ごと焼き飛ばす。
ズドオオオオンと巨木の倒れる音がして、彗星の如き光が収まったあと、正気を取り戻した魔理沙の全身をえぐるような後悔が襲った。
「こ、香霖!」
魔理沙はランプを振りかざして、目を皿のようにしてマスパが焼き払った地面の上を探す。
「香霖! 生きてるよな! 返事してくれよ!」
倒れた巨木の先、次の巨木の表皮が焦げているところまで、這いつくばって調べまわる。
「香霖……」
焦燥に取りつかれ、周囲の暗がりも四つん這いになって這いずりまわる。爆発音に驚いて様子を見に来た妖精たちに頼み込み、霖之助の姿を探してもらう。
――なのに。
見逃しようもないあの奇怪な姿の、袖の切れ端すら見つけることができなかった。
「……炭に、なっちまったってのか」
魔理沙はペタンと、糸が切れた人形のように地べたに座り込んだ。
「なんなんだ……こんな……こんな終わり方があるかよ……」
胸が裂けそうなほど苦しいのに、涙がうまく出てこない。
まぶたの裏には、まだこの世のものとも思えないようなピチピチ姿が焼き付いている。
「なんで……なんで……」
泣くことも、笑うことも、突っ込むことすらできそうにない。
おかしくなってしまいそうなほど、ココロとカラダがクルオシイ。
――カラン。
空っぽになりかけた魔理沙の心に、ぎりぎりのところでその音は届いた。
「――今の、は?」
振り向くと、妖精たちが恐る恐るといった様子で、一枚の鏡を持ってくる。
「これは……?」
ランプで照らせば、何処かで見たような覚えのある、紫縁(しえん)の鏡……。
その鏡面には、魔理沙の惚けた顔ではなく。
香霖堂の自室でスヤスヤと眠っている、森近霖之助の姿があった。
○
「香霖!」
「げほお!」
霖之助は腹への重い衝撃でたたき起こされた。
「げほごほ……いったい何が……」
枕元のメガネをかけると、ふとんの上に、白のパジャマ姿で手足をドロドロにした半泣きの魔理沙が飛び乗っていた。
「ま、魔理沙……どうしたんだ、そんな格好で」
「生きてたんだな! 本物か!」
泥だらけの手で頬をぐいぐい抓ってくる魔理沙に、霖之助はたまらずふとんから転がり出た。
「魔理沙。落ち着いて。落ち着くんだ、魔理沙!」
霖之助は興奮のあまり過呼吸気味になっている魔理沙の肩を抱いて落ち着かせると、台所に連れていって手を洗ってやり、コップで水を飲ませた。
「……ん……ん……ごほごほ」
魔理沙は勢い良く飲み干しては咳き込んでいたが、三杯目でようやく落ち着いたのか、コップを置いて何度か深呼吸をした。
「……あぁ。落ち着いたらおぞましくなってきたぜ」
寒気がするのか、震える肩を抱いている。
「どうしたんだ、魔理沙」霖之助が声をかけると、魔理沙は怯えた表情で距離を取った。
「ち、近づくなだぜ!」
「あのな……。君から飛びかかってきたんだろう?」
「まだまぶたの裏にえげつないのが焼き付いてるんだ……」魔理沙はずるずると棚にもたれて、ペタンと腰を落とした。
霖之助はどうしたものかと顎をさする。
「その、まぶたの裏のえげつないものと……僕に関係があるのか?」
「あ……いやそのな……」
魔理沙が言葉を濁すうちに、カランとテーブルの上で音がした。
霖之助は、棚に置いてあったはずの紫縁の鏡がテーブルの上に移動していることに気づいた。
「……あぁ、なるほど。こいつに化かされたのか」
霖之助は鏡を手に取ると、そこに自分の顔を映した。――眠そうな目をしている。
「魔理沙に見せたものを、僕にも見せろ。でないと、名前を付けてやる約束は破棄だ」
鏡はカタカタと震えている。
「こ、香霖、それはやめといた方がいいぜ」と魔理沙が慌てて声を上げる。
「絶対後悔するから……だから……」
「いや、見るね。魔理沙がここまで怯える映像とは一体何なのか、このままじゃ気になって寝られない」霖之助は椅子に座って鏡を睨みつける。
「――さあ、見せろ、雲外鏡。大丈夫だ、見せてくれたら、どんなにひどい映像でも怒らないと約束しよう」
――そして霖之助は、自分のあられもないピチピチ巫女服姿と向き合った。
「……っは」
一分ほど息をするのを忘れていた彼は、鏡を乱暴に放り投げ、頭を抱えて棚から酒を取り出した。
「くそ、夢に出そうだ。魔理沙、君も飲め。シラフだと頭がおかしくなるぞ」
「う、うん……」
霖之助は日本酒の一升瓶を開け、二つのお猪口に並々と注いだ。
魔理沙は隣に座って、ぐいぐいと何杯か飲み干す。
「……ふう。酒はいいものだぜ」
「まったくだ……」霖之助はこめかみを押さえながら、魔理沙よりも速いペースでぐいぐいと飲んでいる。
紫縁の鏡はテーブルの隅っこで所在無さげにしている。
「あの鏡、元は「照魔鏡(しょうまきょう)」と言ってね」と霖之助は解説を始めた。「映したものの魔を暴く聖なる道具だったんだ。だが、長い間使われないうちに、その鏡自体が妖怪化を始めてしまった。今ではもうほとんど、「雲外鏡」という付喪神になりかけている」
「うんがいきょう?」
「雲の外の鏡と書く。曇らない鏡、という洒落さ。名付けた人が粋だったんだね」と言って、霖之助は日本酒を煽る。まだまだ飲まないと酔えそうになかった。
「雲外鏡は、映した者が何を恐れているのかを読み取って、それを見せつけて驚かすという性質を持っている。サトリと似ているが、サトリと違って意識無意識お構いなしだ。魂を読み取った上で、計算高く「相手がもっとも驚く光景」を作り出して喜ぶんだよ」
「……なんでそんな危ないものを売り物にするんだ!」
と魔理沙は霖之助の腹をつねった。
「痛い。……こいつが付喪神になりきるまで、あと三年の猶予があるんだよ。それまでに誰かに買われて大切に使われたら、本来の「照魔鏡」としての輝きを取り戻せる。八咫の鏡とまではいかないが、こいつだって天照の眷属だ。ここで腐らせておくのはもったいないだろう。……と思い直して棚に並べたんだ。魔理沙こそ、僕の忠告を無視して勝手に覗きこんだろう? 顔を覚えられて、ひどい目にあったのも自業自得というものだ」
「ちょっと前髪直しただけだぜ!」
「そのちょっとのせいであの様だ……。だいたい、なんで僕がピチピチの巫女服を着ている光景が一番怖いものなんだよ。おかしいだろう」
「私に聞かれたって知らないぜ」と魔理沙は色をなした。「私だって見たくて見たわけじゃない!」
「どうだかね」と八つ当たり気味に言って、霖之助は魔理沙のお猪口に酒を注ぐ。
「白状しろよ。霊夢と二人で、僕がピチピチの巫女服を着る話で盛り上がってたんだろう」
「盛り上がるか、そんな話」魔理沙は酒を煽って、霖之助のお猪口に酒を注ぐ。
「香霖こそ、ほんとはちょっと着てみたいとか思ってたんじゃないのか?」
「そんなわけないだろ。言いがかりはやめろ」
二人は悪酔いを重ねながら、二本目の一升瓶を開ける。
「だいたい僕はあんなに毛深くない」
「どうだかなー。ってかもう私の中で香霖は、けむくじゃらでピチピチの服を着てる人になっちゃったぜ。腋毛ボーボーだぜ」
「そりゃ剃ってはいないが……。それにしたってあんまりだろう。妖怪が勝手に作ったイメージを僕に重ねないでくれ」
「やーいやーいピチピチ香霖。ピチ霖だな。あっちいけよ!」
「……雲外鏡」霖之助は鏡を手に取って、赤くなった自分の顔を映す。「魔理沙がつんつるてんの巫女服着て踊ってる映像見せろよ。腋毛ましましで」
「あ、やめろバカ! やったら叩き割るぞ!」魔理沙は霖之助から鏡を奪おうと躍起になる。
「残念だったな魔理沙」と霖之助は腕を突っ張ってガードしながら言った。「こいつにはマスタースパークにも耐え切れるほどの厄介な霊格が備わっているんだ。叩いたぐらいで割れやしないぞ」
「くそ……そうだ! 私の言うこと聞いてくれたら買ってやるぞ。大切に使ってやる」
鏡はその言葉に心を動かしたのか、もぞもぞと霖之助の手から逃れようとする。
「ははは、愚か者め。雲外鏡の値段は三両だ」
「三両! 高すぎるだろ」
「今決めた。三両だ。びた一文罷らないぞ」
「売る気ないだろ!」
魔理沙がテーブルをバンと叩いて抗議する。鏡もますます暴れだす。
「足元見られて安く買われて、それで満足するのか、雲外鏡。それで君は満足か?」
霖之助の言葉攻めに鏡が抵抗を弱める。
「それに、かっこいい名前を付けてやる約束はいいのか? 十把一絡げの「雲外鏡」で君のプライドは満足するのか?」
「名前なら私が付けてやるよ」と魔理沙が胸を叩いて請け負う。「お前の名前は「雲てゐ」だ。いたずらばっかりするからな」
鏡は鏡面を左右に振る。
「嫌だとさ」と霖之助は笑う。「……む、もう二本目が空いたか」
それから一刻が過ぎ。
日本酒の瓶が次々と空になっていく。
二人は深夜の悪酔いで、なんで飲み始めたのかもそろそろ曖昧になってきた。
「なんでだっけ……?」
鏡が魔理沙の問いを受け、二人に例のピチ霖を見せる。
「うわ……思い出しちゃったぜ」
「だいたいだな……」霖之助は酔いながらもなめらかな口で訓戒した。
「神事において女装はありふれた様式だ。かつては日本全国の農村で、田植えのたびに女装の文化が花開いていたんだ。恥じ入るようなことではないし、笑いものにするべきでもない」
「じゃ、次の田植えの時にみんなの前でやるんだな、女装」と魔理沙が煽る。
「やってやるさ」と霖之助は見栄を張った。「それがどうした。ピチピチのではなく、きちんとサイズを合わせたものを着れば、そんなに変には見えないさ」
「じゃ、今ここでやってくれよ」と魔理沙の思いつきが炸裂する。
「今ここで?」霖之助は一気に酔いが覚めてきた。「……そんなことをしてもなんにもならないよ、魔理沙」
「そんなに変でもない巫女服姿見せてくれよ」と魔理沙はせがむ。「でないと私の心のピチピチ香霖映像は更新されないぜ? 墓場まで持っていくぜ?」
「……君はあんなものと一緒に死ぬ気か」
「あの世で閻魔と一緒に大笑いしてやるぜ」
酔った魔理沙はケラケラと楽しそうに笑って、鏡の縁を指先で撫でる。
「な、お前も本物を見て練習しろよ。映像作品にはリアリティが大事なんだぜ?」
鏡はトントンと柄を鳴らす。催促しているかのようだ。
「僕は着ないよ」
「おいおい香霖、恥じ入るところはないんだろう」
「サイズの合う巫女服がない」
「じゃ、有ったら着るのか?」
「……」
「有ったら着るんだろ?」
魔理沙はテーブルの上に体を滑らせて、無理やり霖之助の視界に入る。
「祭りの時に、有ったら、着るんだよな?」
「……着てやるよ」と言って、霖之助は魔理沙の頬をつついた。
「本当だな?」魔理沙はついにかかった獲物に目をキラキラとさせた。
「本当だ。ただし条件がある」
「どんな条件だ?」
「魔理沙も一緒に巫女服を着て、里の祭りに出ることだ」
――霖之助は、人里を避ける魔理沙が里の祭りに出たがることはないと踏んだ。
その直感は概ね正しい。
誤算があるとすれば――
「……いいぜ」
魔理沙は鏡を手に取ると、パジャマの裾をめくって、内側にささっと隠してしまった。
服の中に隠されては、霖之助に手を出すことはできなかった。
「一緒に祭りに出ようじゃないか。雲てゐがいれば怖いものなしだ」
霖之助は、酔った魔理沙が一体何を思いついたのか、この時点ではわからなかった。
ただ、この雰囲気はやばいという予感だけが、酒と一緒に全身を巡っていた。
○
一箇月後。
里の広場で、毎年恒例の納涼盆踊り大会が開かれた。
適当に食べ物と酒を持ち寄って騒ぐだけ。大通りの店は軒並み大安売り。後は里のあちこちに出店が数店舗というお手軽なお祭りで、矢倉と太鼓と提灯がなければいつもの夕暮れとさほどの違いはない。
夜には博麗神社、守谷神社、命蓮寺の協賛で、花火代わりの弾幕勝負が行われる予定であり、それを見物するのがメインイベントになっている。
巫女特権で広場の端っこに出店を構えた霊夢は、「巫女人形」「ありがたい御札」「陰陽蹴鞠球」などのグッズの販売に余念がなかった。
客足は悪くない。
なにせ上出来な巫女服を着たマスコットが、三人も売り子をしているのだから。
「……ふう」
霖之助は伊達に長生きをしていないらしく、卓越した平常心を持って、店の中でうちわを仰いでいる。
着ているのは完璧にサイズを合わせた紅白の巫女服だった。もっともノースリーブではなく、普通の半袖仕様である。遠目からはほとんど袴姿と変わらないことに魔理沙は不満を漏らしたが、「男をターゲットに商品展開するなら脇のことは諦めるんだ」と言うと、霊夢はすぐに説得された。
「祭りは苦手なんだが」と、客足が途絶えた隙を狙って小声で愚痴る。
「どうせすぐに終わるわ。お祭りってそういうものだもの」霊夢は上機嫌で銭を数えて紐でくくっている。
「それにしても、なんだか鬼やら妖怪やら。この出店には人外の客ばかりな気がするね」と霖之助は言う。「博麗神社は、よっぽどそういうのに好かれているらしい」
「どうかしら」と霊夢は霖之助を見てニヤニヤした。「みんな、巫女服を着た謎の男が気になって仕方ないみたいだけど」
「巫女服を着た謎の金髪少女もな」
魔理沙は二人の間に居座って、出店で買ったリンゴ飴を頬張っている。
膝の上には雲外鏡が置かれている。
「金髪でも意外と巫女服は似合うものね」と、霊夢はじろじろ魔理沙の巫女服姿を眺め回す。「あんたもうずっとその格好でいなさいよ。その方が涼しいでしょう?」
「それは嫌だぜ。霊夢の手先みたいになって、評判が落ちるからな」と魔理沙は笑った。
「あら、落ちるだけの評判があるの?」
「それはこれから――っと、いらっしゃい」
やってきたのは人間の少年だった。年の頃は魔理沙と同じか少し下ぐらいだろうか。度胸だめしに妖怪変化のたまり場にやってくるとは、なかなかいい度胸をしていると魔理沙は思った。
「何か欲しいのか? あっちのお兄さんが着てる巫女服がおすすめ品だぜ」
霖之助は少年と目を合わせるが、お互いにさほど興味がなかったらしく、すぐに視線は逸れた。
少年のことなどどうでもいい。――魔理沙が接客を買って出るとはどういうことだと、さっきから首をかしげっぱなしだった。雲外鏡を悪用する様子もなく、淡々と売り子をこなしている様子だ。
何か、裏がありそうなのだが……。
「あ、あの」と、少年が緊張した面持ちで魔理沙に声をかける。
「あの、ひょっとしてあなたって、小さい頃に里に居た霧雨さんって子じゃ――」
「おっとそこまで」
魔理沙は少年との間に壁を作るように、雲外鏡で顔を隠した。
鏡面は、少年の方に向けている。
霖之助は、魔理沙がどうするつもりなのか、注意深く見守った。
「――その、霧雨魔理沙って子は、こんな顔をしていなかったか?」
魔理沙は、雲外鏡で顔を隠したまま、そう言った。少年の視界には、自分の顔しか映っていないはずだ。
だが少年は顔を赤らめ、「い、いいえ。えっと、顔はあんまり覚えてなかったから……その……」とまじめに恥じ入っている。
驚いた様子もない。雲外鏡が何かしているのは間違いないが、それが何なのかわからない。
いずれにしても、あのアクの強い鏡を魔理沙が使いこなしていることには違いない。霖之助は、そこのところは賞賛するべきだなと思った。
少年は顔を真っ赤にして、結局何も買わずに駆け去ってしまった。
「今の、どういうこと?」と、霖之助より先に霊夢が尋ねる。
「雲外鏡のことは説明したよな」魔理沙はリンゴ飴が垂れるのを気にしながら言った。
「されたけど。人を驚かす付喪神じゃなかったの?」
「人を驚かす方法にもいろいろあるってことさ」と魔理沙は言う。
「アリスに人形貸してもらって、雲てゐに練習させたんだ。私を霧雨家の末裔と見破った相手に鏡を向けると、その人間は私のことを驚くほどの美少女だと思い込むようにしたんだぜ」
「……ふん?」霊夢はよくわからなかったらしく、解説を求めて霖之助を見た。
「つまり、「相手にとってもっとも驚くべき美少女の姿」を見せたってことか?」と霖之助は魔理沙に問う。
「そういうことだぜ」と魔理沙は頷く。
「雲外鏡をうまく使えば、のっぺらぼうが出来上がる。なんだかおもしろいと思わないか?」
「思いつきで妖怪増やすなっての」と霊夢は突っ込んだ。
「わからないわねぇ。「見る人によって姿を変える、謎の美少女霧雨魔理沙」なんてものを作ってどうするの? 恋でもしたいわけ?」
「まさか」と魔理沙は肩をすくめる。
「恋なんかとは真逆だぜ。……この試みはだな、霊夢。つまり私が――」
「皆まで言わなくてもいいよ、魔理沙」と、霖之助は魔理沙の言葉を遮った。
――魔理沙の考えに、ようやく霖之助は追いつくことができた。
霧雨魔理沙のことを知っている人間が、みんな「謎の美少女」を見るようになったら、どうなるか。
彼らは実在の魔理沙を見つめても、もうそれが霧雨家を飛び出した少女だと認識することができなくなる。
例えばさっきの少年がまたこの店にやってきたとして。
同じ金髪の少女を見かけても、二度と「霧雨魔理沙」の名前は出すまい。
頭の中の「驚くべき美少女」とは乖離した、ただの、他人になることだろう。
「二人だけで納得しないでよ」と霊夢は憮然とする。
「ま、そのうち話すぜ。センチメンタルな秋の日にでもな」と言って、魔理沙はリンゴ飴を舐める。
――魔理沙は祭りに、人間関係を作るために来たのではなく。
人間関係を断ち切るために来たのだ。
自分よりもうまく道具を使ってしまった魔理沙に、霖之助は心から感心した。
ずいぶんと寂しい、使い方ではあるけれど。
「断ち切って、もう一度作り直す気はあるのかい?」と、つい問うてしまう。
「そうだな……」と魔理沙は鏡を撫でながら言った。
「雲てゐと三年以内に三両稼いでやるって契約したし。人間相手の商売がやりやすくなることは間違いないし。ただの商売人として、出直すのも悪くないかもしれないぜ」
「そう、か」
新しい関係のためでもあるのなら、雲外鏡は魔理沙に託そうと、霖之助は思った。
それにそう遠くない未来。誰かが「魔」を振り切って、本物の魔理沙を見つけるはずだ。
魔理沙は自分で思っているより、ずっと驚くべき美少女なのだから――。
「なに巫女服で黄昏てるんだよ」と魔理沙は茶化す。
「こんな服でおちゃらけたら、それこそ道化さ」
霖之助は静かに笑って、日頃は縁がない人里のざわめきに、耳を傾けることにした。
よかった
計画通りブームが来たら早苗が自分の巫女服モデルのを便乗発売しそうだなぁ
ともあれ、キャラが生きてる様に感じられて面白かったです。
誰も彼もがイキイキとしていて、面白かったです。
脇巫女霖之助……これは、流行るッ!
雲外鏡の主張しないがしっかりした存在感がなかなか良い感じ。
相棒みたいな感じなのが面白い。
一つひとつのシーンが目に浮かぶようでした
やっぱりおもしろいな。
上手い