『ヤッホ~~~!』
だいたい正午を少し過ぎた頃に、決まって聞こえて来る声が有る。
声の主はいつも同じで、叫ぶ言葉も毎日変わらない。だけど、その叫びに込められた想いは毎日変わり続ける。
その想いは幻想郷の空を駆け、山から山へと渡り、幽谷響子の元へと飛んで来る。
ここ最近、急に始まったそんな習慣は、響子の密かな楽しみになっていた。
――Yahoo!!
もちろん、届けられた山彦を黙って見過ごすほどこの幽谷響は落ちぶれちゃ居ない。
近頃は山彦サービスを利用する人妖も増えてきて、毎日の様に山彦を唱える日々が続いている。
それを響子は嫌だと感じた事は無いし、むしろ幽谷響として思いっきり叫ぶ事が出来るのは嬉しくて仕方ない。
されど響子は幽谷響。たまには自然な山彦を返してみたいと思う時も有る。ここしばらくは山彦サービスしか無かっただけに、その鬱憤はとても溜まっていた。
「ッ、あ~~~~~~!!」
誰の依頼でもない純粋な山彦を返して、グイッと大きな背伸びを一つ。響子は溜まった鬱憤を山彦と一緒に吐き出して、爽快感に包まれていた。
ただ山彦を返すだけの事がこんなにも楽しい事だったのだろうかと、山彦サービスとは違う感覚を懐かしむ。
響子はなんとなく趣味と仕事の兼ね合いについて考えてみようかと思ったものの、耳を振って考える事を止めた。
「さて、今日も頑張らなくちゃ」
腰掛けていた切り株に別れを告げて、次の山彦サービスまでおよそ三時間、命蓮寺のお掃除の続きにと山を下っていった。
きゅう、と響子のお腹から小さな山彦が響く。命蓮寺に行くのは掃除のためであって、決してお昼ごはんを食べさせてもらいに行くわけではない。決して。
「ああ、いたいた」
麓近くまで降りて来た時、響子のすぐ後ろから声がした。ついでに、何かが響子の肩に触れる。
「ひゃあああああああ!!!」
気配も何も無い不意打ちを受けて、響子は毛を逆立てんばかりに驚き飛び上がった。
ドスッと地面にしりもちをついて、恐る恐る見上げてみれば、そこには素敵な――
「ごめんなさいね、驚かせてしまったみたいで」
声が近付くと同時に響子の視界一杯に広がっていた影が消えて、一人の女性の顔がすぐ近くに迫って来た。
セミロングの銀髪がさらりと揺れて、その頂に白いヘッドドレスを被り、山の麓だというのに特徴的な服を見事に着こなしているのは、
「メイドさん?」
「大体正解。 正確にはメイド長だけどね」
響子は立ち上がって、そのメイド長の方に向き直る。
「私は十六夜咲夜。あなたが山彦サービスをしているという幽谷響かしら?」
「はいっ! 幽谷響子といいます、こんにちはっ!」
木々を揺らすほどの威勢の良い挨拶が、響子から放たれた。
その轟音に咲夜は少し顔をしかめる。響子にとっては至って普通の声量なのだが、いつもは静かな紅魔館の住人にとってはそれなりに堪えるようだ。
「うん、本当の様ね。早速なんだけど、山彦を依頼できるかしら」
「いいよー。それじゃあ内容と日時とか、出来るだけ教えてね」
咲夜は軽く頷いて、響子に依頼の内容を伝え始めた。
「――えっ?」
咲夜が依頼を伝え終わる頃には、響子の顔ははてなになっていた。
「それじゃ、お願いするわね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
さっさと帰り始める咲夜を引き留めて、響子は大声で言う。
「ちょっと待ってくださいってば!」
「何かしら? 必要な事は全部伝えたつもりだけど」
「い、依頼って、本当に今ので全部ですか?」
「ええ。決行は明日だから、よろしくお願いね」
これ以上止める手立ては響子には無かったらしく、咲夜はさようならと一言だけ残してさっと太い木の裏に身を隠す。すぐに響子が追い駆けたが、既に咲夜は何処かに消えてしまっていた。
「……うーん」
どうしてもはてなが拭えないまま、響子はいつもの切り株に戻ろうと山を登る。
きゅう、というお腹の山彦が聞こえて、慌てて山を下り始めた。
次の日、響子のはてなはまだそのままだった。
はてなははてなだけど、依頼は依頼。来るべき時に備えて、響子は今日も山彦を伝える。
山彦サービスの依頼をこなして、その余韻に浸ること数回。咲夜に依頼された時間が近付くに連れて、わずかな不安が響子を包み始める。
準備は入念に行ったし、いつ山彦が来てもすぐに山彦で応えられる準備は出来ている。足りていないのは、山彦と心の準備だけだった。
きゅう。と響子のお腹が鳴る。
太陽が真上に来て少し傾いた頃。いつもならこの時間に聞こえて来る山彦が有る。
しかし、咲夜の依頼の時間も、丁度近い時間帯だった。
もしも山彦が同時に聞こえたらどうしようか、頑張って二つの声を同時に出してみようか、響子がそんな事を考え出した時。
『ヤッホ~~~!』
空を越えて響いたのは、いつもの山彦だった。
不思議な安心感が不安を拭い去り、響子はお腹にいっぱい力を溜めて、放つ。
――Yahoo!!
突き抜ける開放感。広がる山彦は幻想郷を揺らし、響子の心を激しく揺さぶる。
幽谷響の山彦の前には、爽快感以外の何物も残らない。幽谷響らしく在れる事が響子にとって至上の喜びだからだ。
ただ響子はこの時、自分の事にかまけ過ぎていたか、届けられた山彦にいつに無い感情が篭っていた事に気付かなかった。そして、
『咲夜さ~~~ん! もっと私の事を見てください~~~!』
「!」
依頼は突然に、響子の元へ飛び込んで来た。
即座に響子の中で昨日の出来事が蘇り、響子の妖力と共に言葉と感情を奮い立たせる。
――明日のお昼頃。いつもの声でそう山彦が届くから、それが聞こえたら、こう山彦を返して欲しいの。
そう依頼されたのが昨日の事、今の言葉は間違いなく、昨日咲夜に依頼された言葉だった。
そうと分かれば迷っている暇は無い。少しでも遅れれば幽谷響の名折れ! とすぐに体勢を整え、何度も練習しておいた山彦を、心と共に発した。
依頼はほんの一言だけ。その為に必要な最低限の妖力を引き出した、小さなナイフの様な山彦を。
――いつも貴女の事を見ているわ、美鈴――
唱えられた山彦はまっすぐに、向かいの山へと飛んで行く。
数回のこだまを終えて山に静寂が戻り、響子が不安定なままの妖力を整えていると。
『え……えええええぇぇぇぇぇ~~~~~~!!?』
微かに、そんな声が向かいの山から聞こえてきて、響子はそれを山彦にしようか迷って、ごめんなさいと小さく呟くだけにした。
「ふぅ~……危なかったぁ~~」
無事に依頼を完了出来た事を確認して、べたっと地面に座り込んだ。
油断していた所への不意打ち、間を空ける事の許されない山彦、依頼された言葉と気持ち。幽谷響としての力を今までに無い形で行使した響子は、酷く疲れていた。
呼吸は整わず妖力も不安定、顔中に浮かぶ玉の汗を拭って、ばたっと地べたに寝転がる。
「大変な依頼だったなぁ……でも」
少し落ち着いた意識で思い出すのは、昨日咲夜に依頼されたその詳細。
今まで多くの山彦サービスの依頼を受けてきた響子だったが、ここまで突飛なものは初めての経験だった。
「素敵だったなぁ」
「ありがとう、無事成功したみたいね」
「わわっ!?」
響子の顔が影に隠れるのと同時に声をかけられて、響子の体が驚き跳ねる。
慌てて身体を起こすと、昨日のメイドがいつの間にか響子の頭の近くに立っていた。
「あっ、咲夜さんこんにちは!」
「こんにちは」
座っている響子の隣に、咲夜が屈み込む。
「ごめんね、こんな難しい依頼しちゃって」
「いえいえ、とんでもないですっ! 確かに最初は変だと思いましたけど、今考えてみたら……凄く、素敵な事だなぁって」
「ふふ、ありがとう」
「それにしても……」
響子は、不思議でならなかった。
「どうして、咲夜さんはあの山彦が来るって分かったんですか?」
――実は、この依頼の事はまだ本人には話していないの。けど、あの子はきっとそう言うわ。
咲夜の依頼の中でも特に突飛なものは、咲夜が山彦の主――美鈴に、依頼の事を伝えていないという事だ。
山彦サービスの仕様上、合図も無しに指定された山彦に指定された言葉を返すなど、普通なら依頼ですらないと言われてもおかしくないはずの事を響子は、精一杯の準備の上で引き受けた。
「……何となく分かるの、いつも見ているから」
少し頬を赤く染めて、咲夜は嬉しそうに響子に教える。その言葉に籠められた幸せな心は、響子にも深く伝わった。
いろいろと響子にとって大変な事は有ったものの、幽谷響として楽しかったのだし、こうして依頼した人の喜ぶ姿を見られて、響子も苦労を忘れてとても幸せな気分になれた。
「さて、私はそろそろ帰るわね。そろそろ美鈴も帰って来る頃だし……気持ちの整理も付いたわ。さようなら」
「は、はいっ、さようなら!」
咲夜は最後に軽く手を振って、次の瞬間には響子の目の前から姿を消していた。
「……いいなぁ」
言葉は無くても伝わる気持ち。
言葉が無くても分かる気持ち。
山彦という言葉を通して伝える気持ちとは違う、とても強い繋がりのようなものを咲夜の中に見て、響子は羨ましそうに呟いた。
「うーん……」
「ん?」
その日の夜。命蓮寺の墓地に響子は居た。
何やらうんうん唸っては、目の前に居る墓地の門番・宮古芳香をしげしげと眺めている。
「どーした?」
今日の山彦の後、咲夜の心の繋がりに強い憧れを持った響子は、芳香の気持ちを計ろうとかれこれ数十分。
じっと芳香を見続けていても、響子には何も推し量れなかった。
「……ぎゃーてー」
「あー?」
芳香は首を傾げるばかりで、結局響子にはさっぱり分からない。
まだまだ道は遠い。ふわふわな犬耳をだらんと垂れ下げて、響子は肩を落とした。
だいたい正午を少し過ぎた頃に、決まって聞こえて来る声が有る。
声の主はいつも同じで、叫ぶ言葉も毎日変わらない。だけど、その叫びに込められた想いは毎日変わり続ける。
その想いは幻想郷の空を駆け、山から山へと渡り、幽谷響子の元へと飛んで来る。
ここ最近、急に始まったそんな習慣は、響子の密かな楽しみになっていた。
――Yahoo!!
もちろん、届けられた山彦を黙って見過ごすほどこの幽谷響は落ちぶれちゃ居ない。
近頃は山彦サービスを利用する人妖も増えてきて、毎日の様に山彦を唱える日々が続いている。
それを響子は嫌だと感じた事は無いし、むしろ幽谷響として思いっきり叫ぶ事が出来るのは嬉しくて仕方ない。
されど響子は幽谷響。たまには自然な山彦を返してみたいと思う時も有る。ここしばらくは山彦サービスしか無かっただけに、その鬱憤はとても溜まっていた。
「ッ、あ~~~~~~!!」
誰の依頼でもない純粋な山彦を返して、グイッと大きな背伸びを一つ。響子は溜まった鬱憤を山彦と一緒に吐き出して、爽快感に包まれていた。
ただ山彦を返すだけの事がこんなにも楽しい事だったのだろうかと、山彦サービスとは違う感覚を懐かしむ。
響子はなんとなく趣味と仕事の兼ね合いについて考えてみようかと思ったものの、耳を振って考える事を止めた。
「さて、今日も頑張らなくちゃ」
腰掛けていた切り株に別れを告げて、次の山彦サービスまでおよそ三時間、命蓮寺のお掃除の続きにと山を下っていった。
きゅう、と響子のお腹から小さな山彦が響く。命蓮寺に行くのは掃除のためであって、決してお昼ごはんを食べさせてもらいに行くわけではない。決して。
「ああ、いたいた」
麓近くまで降りて来た時、響子のすぐ後ろから声がした。ついでに、何かが響子の肩に触れる。
「ひゃあああああああ!!!」
気配も何も無い不意打ちを受けて、響子は毛を逆立てんばかりに驚き飛び上がった。
ドスッと地面にしりもちをついて、恐る恐る見上げてみれば、そこには素敵な――
「ごめんなさいね、驚かせてしまったみたいで」
声が近付くと同時に響子の視界一杯に広がっていた影が消えて、一人の女性の顔がすぐ近くに迫って来た。
セミロングの銀髪がさらりと揺れて、その頂に白いヘッドドレスを被り、山の麓だというのに特徴的な服を見事に着こなしているのは、
「メイドさん?」
「大体正解。 正確にはメイド長だけどね」
響子は立ち上がって、そのメイド長の方に向き直る。
「私は十六夜咲夜。あなたが山彦サービスをしているという幽谷響かしら?」
「はいっ! 幽谷響子といいます、こんにちはっ!」
木々を揺らすほどの威勢の良い挨拶が、響子から放たれた。
その轟音に咲夜は少し顔をしかめる。響子にとっては至って普通の声量なのだが、いつもは静かな紅魔館の住人にとってはそれなりに堪えるようだ。
「うん、本当の様ね。早速なんだけど、山彦を依頼できるかしら」
「いいよー。それじゃあ内容と日時とか、出来るだけ教えてね」
咲夜は軽く頷いて、響子に依頼の内容を伝え始めた。
「――えっ?」
咲夜が依頼を伝え終わる頃には、響子の顔ははてなになっていた。
「それじゃ、お願いするわね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
さっさと帰り始める咲夜を引き留めて、響子は大声で言う。
「ちょっと待ってくださいってば!」
「何かしら? 必要な事は全部伝えたつもりだけど」
「い、依頼って、本当に今ので全部ですか?」
「ええ。決行は明日だから、よろしくお願いね」
これ以上止める手立ては響子には無かったらしく、咲夜はさようならと一言だけ残してさっと太い木の裏に身を隠す。すぐに響子が追い駆けたが、既に咲夜は何処かに消えてしまっていた。
「……うーん」
どうしてもはてなが拭えないまま、響子はいつもの切り株に戻ろうと山を登る。
きゅう、というお腹の山彦が聞こえて、慌てて山を下り始めた。
次の日、響子のはてなはまだそのままだった。
はてなははてなだけど、依頼は依頼。来るべき時に備えて、響子は今日も山彦を伝える。
山彦サービスの依頼をこなして、その余韻に浸ること数回。咲夜に依頼された時間が近付くに連れて、わずかな不安が響子を包み始める。
準備は入念に行ったし、いつ山彦が来てもすぐに山彦で応えられる準備は出来ている。足りていないのは、山彦と心の準備だけだった。
きゅう。と響子のお腹が鳴る。
太陽が真上に来て少し傾いた頃。いつもならこの時間に聞こえて来る山彦が有る。
しかし、咲夜の依頼の時間も、丁度近い時間帯だった。
もしも山彦が同時に聞こえたらどうしようか、頑張って二つの声を同時に出してみようか、響子がそんな事を考え出した時。
『ヤッホ~~~!』
空を越えて響いたのは、いつもの山彦だった。
不思議な安心感が不安を拭い去り、響子はお腹にいっぱい力を溜めて、放つ。
――Yahoo!!
突き抜ける開放感。広がる山彦は幻想郷を揺らし、響子の心を激しく揺さぶる。
幽谷響の山彦の前には、爽快感以外の何物も残らない。幽谷響らしく在れる事が響子にとって至上の喜びだからだ。
ただ響子はこの時、自分の事にかまけ過ぎていたか、届けられた山彦にいつに無い感情が篭っていた事に気付かなかった。そして、
『咲夜さ~~~ん! もっと私の事を見てください~~~!』
「!」
依頼は突然に、響子の元へ飛び込んで来た。
即座に響子の中で昨日の出来事が蘇り、響子の妖力と共に言葉と感情を奮い立たせる。
――明日のお昼頃。いつもの声でそう山彦が届くから、それが聞こえたら、こう山彦を返して欲しいの。
そう依頼されたのが昨日の事、今の言葉は間違いなく、昨日咲夜に依頼された言葉だった。
そうと分かれば迷っている暇は無い。少しでも遅れれば幽谷響の名折れ! とすぐに体勢を整え、何度も練習しておいた山彦を、心と共に発した。
依頼はほんの一言だけ。その為に必要な最低限の妖力を引き出した、小さなナイフの様な山彦を。
――いつも貴女の事を見ているわ、美鈴――
唱えられた山彦はまっすぐに、向かいの山へと飛んで行く。
数回のこだまを終えて山に静寂が戻り、響子が不安定なままの妖力を整えていると。
『え……えええええぇぇぇぇぇ~~~~~~!!?』
微かに、そんな声が向かいの山から聞こえてきて、響子はそれを山彦にしようか迷って、ごめんなさいと小さく呟くだけにした。
「ふぅ~……危なかったぁ~~」
無事に依頼を完了出来た事を確認して、べたっと地面に座り込んだ。
油断していた所への不意打ち、間を空ける事の許されない山彦、依頼された言葉と気持ち。幽谷響としての力を今までに無い形で行使した響子は、酷く疲れていた。
呼吸は整わず妖力も不安定、顔中に浮かぶ玉の汗を拭って、ばたっと地べたに寝転がる。
「大変な依頼だったなぁ……でも」
少し落ち着いた意識で思い出すのは、昨日咲夜に依頼されたその詳細。
今まで多くの山彦サービスの依頼を受けてきた響子だったが、ここまで突飛なものは初めての経験だった。
「素敵だったなぁ」
「ありがとう、無事成功したみたいね」
「わわっ!?」
響子の顔が影に隠れるのと同時に声をかけられて、響子の体が驚き跳ねる。
慌てて身体を起こすと、昨日のメイドがいつの間にか響子の頭の近くに立っていた。
「あっ、咲夜さんこんにちは!」
「こんにちは」
座っている響子の隣に、咲夜が屈み込む。
「ごめんね、こんな難しい依頼しちゃって」
「いえいえ、とんでもないですっ! 確かに最初は変だと思いましたけど、今考えてみたら……凄く、素敵な事だなぁって」
「ふふ、ありがとう」
「それにしても……」
響子は、不思議でならなかった。
「どうして、咲夜さんはあの山彦が来るって分かったんですか?」
――実は、この依頼の事はまだ本人には話していないの。けど、あの子はきっとそう言うわ。
咲夜の依頼の中でも特に突飛なものは、咲夜が山彦の主――美鈴に、依頼の事を伝えていないという事だ。
山彦サービスの仕様上、合図も無しに指定された山彦に指定された言葉を返すなど、普通なら依頼ですらないと言われてもおかしくないはずの事を響子は、精一杯の準備の上で引き受けた。
「……何となく分かるの、いつも見ているから」
少し頬を赤く染めて、咲夜は嬉しそうに響子に教える。その言葉に籠められた幸せな心は、響子にも深く伝わった。
いろいろと響子にとって大変な事は有ったものの、幽谷響として楽しかったのだし、こうして依頼した人の喜ぶ姿を見られて、響子も苦労を忘れてとても幸せな気分になれた。
「さて、私はそろそろ帰るわね。そろそろ美鈴も帰って来る頃だし……気持ちの整理も付いたわ。さようなら」
「は、はいっ、さようなら!」
咲夜は最後に軽く手を振って、次の瞬間には響子の目の前から姿を消していた。
「……いいなぁ」
言葉は無くても伝わる気持ち。
言葉が無くても分かる気持ち。
山彦という言葉を通して伝える気持ちとは違う、とても強い繋がりのようなものを咲夜の中に見て、響子は羨ましそうに呟いた。
「うーん……」
「ん?」
その日の夜。命蓮寺の墓地に響子は居た。
何やらうんうん唸っては、目の前に居る墓地の門番・宮古芳香をしげしげと眺めている。
「どーした?」
今日の山彦の後、咲夜の心の繋がりに強い憧れを持った響子は、芳香の気持ちを計ろうとかれこれ数十分。
じっと芳香を見続けていても、響子には何も推し量れなかった。
「……ぎゃーてー」
「あー?」
芳香は首を傾げるばかりで、結局響子にはさっぱり分からない。
まだまだ道は遠い。ふわふわな犬耳をだらんと垂れ下げて、響子は肩を落とした。
咲夜さん良かったねえエエえええええええ!!!!!!!!!
あっ! 響子ちゃんが芳香ちゃんをみてる!!!ジロジロみてる!!!!きゃわい!!!!!!!
みて!もっとみて! 僕のこともみて! ああんでもやっぱり芳香ちゃんをみてあげてぇッッッ!!
――失礼しました。取り乱しました。
ありがとうございます!おもしろかったです!
ちゃっかり美鈴のことを良く見てる咲夜さん素敵!
ライアさん、またよかったらyahooSSかいてくだしぁ! いつまでも楽しみにまっています。
可愛いなぁw
響子目線のさくめー、こういうのもあるのか
が、違った
楽しみです
響子ちゃんは可愛いなぁ、うん。
ぱくり乙ですがこれは本当に面白かった。
通じ合ってる感じ