Coolier - 新生・東方創想話

その声は大丈夫ですか?

2011/07/10 10:19:54
最終更新
サイズ
26.38KB
ページ数
1
閲覧数
1588
評価数
6/20
POINT
1050
Rate
10.24

分類タグ


 妖怪の山から人里に流れる川の下流で河城にとりは、よく実験をしている。
 こ場所は、山の妖怪は人里に近いために近寄らず、里の人間は怖れて近付かないため、落ち着いて実験ができる場所で私のお気に入りの場所だ。
 周囲に自分以外の生き物の気配は無く静かだった。
 水の流れる音と草木が擦れる音。
『もしもし? 聞こえてる? ねぇ、どうして出てくれないの? この前からずっとそう。もう、私のことなんて飽きたんでしょ。見たよわたP――――7月8日午前2時35分・・・』
 しかし、最近は人の声も聞こえる・・・。

 
 ――――あまり、知られていないが妖怪の山にも外から物が流れ着く場所が存在する。
 そこは河童達の秘密の場所であり、同じ山で暮らす天狗達にも内緒にしている。
 今、私が弄っている物も外では一般的に使われているコミュニケーション手段の一つである【携帯電話】と呼ばれるものだ。
 この携帯電話は今、河童達の間では宝の箱とも呼ばれている。中にある外の技術、使われている素材。全てに置いて河童達の好奇心と探求心を刺激するものだ。
 今、私がこの宝の箱に求めている物は素材に使われているインジウムやリチウムと呼ばれている石達だ。外の世界では【レアメタル】と呼ばれているらしい。
 日頃の行いが良いお陰で大漁の携帯電話を手に入れた私は河童の仲間達にばれないで石を取り出そうと、いつもの川の下流まで来た。
 そして、取り出そうとしていると一つ問題に気付いたのだ。
 この携帯電話の山はどれもこれも【呪われていた】


「これもダメだぁ」
 ため息を付いて、42個目の携帯電話を持って来た箱に投げ入れる。
 宝の山と持って来た物はただのガラクタの山だった。妖怪の山で見付かる外の漂流物は曰く付きの物が多い。
 今回、私が拾って来た物には全て、怨嗟の声が記録されていた物だった。つまり、呪われた道具なのだ。
 この携帯電話に憑いている呪い程度では私自身が呪われたりすることは無いのだが、中にあるお目当てのレアメタルにも完全に憑いてしまっている。
 石というのは人の願いを宿し易いのだ。しかも、一度、願いや呪いが取り憑くと外し難い。
「あ~不良品を拾ってしまったなぁ。下手に捨てると白狼天狗達にどやされるだろうし、ついてない」
 澄み切った川に足を投げ入れ寝転ぶ。川が穢されるのは山に住むなら、誰もが反対する。
この呪われた携帯電話を放置すれば、必ず犯人を割り出し何かしらの罰を受けることになるだろう。
「うわぁー面倒臭いなぁー」
 口を開けば、ネガティブな発言しか出ない。これをそのまま、録音すれば呪いの携帯が一個新しくできるなぁと無益な考えしか浮かばない。
「厄神に頼んだら携帯電話ごと渡すしかないし、山の神社に持って行ったら天狗にばれて独り占めはできないし、博麗神社の巫女はしっかりと見返りを要求するからなぁ~」
 携帯に憑いている呪いを解けそうな奴等は、どれもこれも労力に見合った利益を期待できそうに無い。
「どこかに他人の利益に目を瞑ってくれる心の広い聖人君子はいないものかねぇ」
 何もする気が起きず、ただ空を眺める。雲一つ無く、広い空。もしも、空に物が置けるならば、邪魔なこれを捨ててしまいたい。
 ごろんと横に寝返りをうつ。人里の方に向けられた視線の先には
「・・・紫の雲が浮かんでました?」
 丁度、人里の真上に紫の雲が浮かんでいた。一瞬、何かの異変かとも考えたが、古い記憶の中から、ある一つのことを思い出す。
「聖人の出す【徳】だ」
 この幻想郷に置いても久しく見ていない、聖人の出す【徳】の気だ。昔に何度か見たことも遭ったが、此処まで遠くから見ても分かる程の雲は見たことがなかったので勘違いをしてしまった。
「そういえば、魔理沙が法界から昔の大魔法使いを助けたとか言っていたな」
 先月ぐらいだったかに魔理沙が来たときに話を聞いた。
 法界から救い出された大昔の尼が妖怪と人里相手に教えを説いており、春先の宝船の一件も彼女らが原因だというのを言っていた。
 妖怪の山では既に神社があるので余り、話題には上がっていなかったが、山以外の妖怪などには入信者が多く出ていると天狗の新聞で読んだ記憶もある。
「ダメ元で頼んでみるか?」
 山の神様とも飲んだこともある私には少々後ろめたいことだが背に腹は代えられない。明日、朝一で誰にもばれないように行こうと心に決めると片付けを始めた。
 

――――太陽が昇り始めた妖怪の山の麓。妖怪は朝に寝て夜に起きるのが一般的である。妖怪の仲間にばれないのように行動したいのなら、人の目に付く朝に動くのが一番だ。
 まぁ、でも最近は、夜に寝て朝起きるダメな妖怪も増えているけどね。
「止まりなさい!」
 不意に後ろから呼び止められる。せめて、叫ばずに呼び止めて欲しいものだ。こっちは、隠れて行動しているんだから。
 振り返るとそこには黒い羽を背中に生やしたツインテールの天狗がいた。
「げげ、天狗様!?」
「ちょっと、逃げないでよ」
 急いで逃げようとするが、先に回り込まれてしまう。鴉天狗相手に追いかけっこは流石に分が悪い。
「逃げてませんよ。置いていこうとしただけです」
「それが、逃げてるっていうのよ。えーっと確か、にとりだっけ?」
「そうですよ。姫海棠はたてさん」
 何度かこの天狗にも取材を受けているがいくら天狗様とは言え、あまり親しくない相手に下の名前を呼び捨てにする辺りが世間知らずだなぁと思うが、口には出さないのが天狗と上手く付き合う骨である。
「こんな時間に何をしているのよ?」
「はたてさんこそ、何をしているですか?」
 お互いに質問を投げかけて黙ってしまう。はたてが怪訝に睨むが私は笑顔を崩さない。
「私は、取材対象を捜していたのよ」
「こんな妖怪の一番、出歩かない時間にですか?」
「そう、こんな時間に出歩く妖怪がいたら事件の臭いがするでしょう。どっかの馬鹿天狗は、無闇矢鱈に突撃取材をしているけど、私は最小の労力で最大の効果を上げてみせるわ」
 うわぁ、突撃取材も迷惑だが粘着取材も迷惑だなぁ。
「それ、警備の仕事になってますよ」
 控えめに辞めろと言ってみるが伝わらないだろうな。天狗は基本的にアップダウンの命令しか聞く耳をもたない。
「防犯の意識を呼びかけるのも新聞記者の仕事よ」
 勝ち誇った面をしているが、紙面で頑張ってほしいものだ。
「じゃあ、邪魔にならないように私はこの辺で失礼しますね」
「で、あんたはどこに行こうとしていたの?」
「ただの散歩ですよ。ちょっとした息抜きです。では失礼しますね」
 はたての脇を通り過ぎていく。一瞬、はたてがこちらの顔をチラッと見たが特に話は掛けてこない。
 そのまま、何事もなく別れることができた。余りにもすんなりと事が運んだので、些か拍子抜けだ。
 そのあとは何事も無く、命連寺に着いた。
石段を登り、境内の中に入ると何匹かの烏が目に付く。一瞬、はたてのことを思い出して辟易する。
「あら、河童かしら?」
 本殿の方から、歩いてくる女性がいる。長い髪に緩いウェーブ。何より特徴的なのは、髪の上の方だけ紫色をしている。
 確か、この間の天狗の新聞に載っていた命蓮寺の親玉の聖白蓮だ。大昔の大魔法使いでこの間、法界から復活した人物と書かれていた。
 まさか、寺に来て初めて会う人物が寺のトップになるとは思っていなかったので、思わずたじろいでしまう。
「私は、この命蓮寺の尼の聖白蓮と言います」
 私の前に立つと白蓮は自己紹介を始めた。口元には微笑を湛えている。思わず、その姿に見惚れてしまう。
 完全に聖白蓮という人物に呑まれていた。私を見つめる白蓮の目から目を逸らすことができない。彼女の瞳を見ているだけで穏やかな気分に包まれるのだ。その快楽から逃れることができないのだ。
「寺に入った時から暗い顔をしていたようですがどうかされましたか? ここは妖怪の寺。悩みがあるなら力になりましょう」
 そう言われて、私は自分がここに来た目的を思い出す。
「あ・・・その、じ、実は悩みというか・・・御願いがありまして・・・」
 急に喋ろうとして上手く舌が回らない。恥ずかしさが込み上げて来るが、聖は笑う素振りすら見せず、御願いと聞いて姿勢を正すと口を結び真剣な顔で私の次の言葉を待っている。
 聖の真摯な態度に思わず、息が詰まる。幻想郷で力のある者は、弱者の悩みなど片手間にしか聞かない。山の神も話は聞いてくれるが、此処まで真摯では無い。良くも悪くも上から目線なのである。しかし、聖は自分のことのように真剣だ。なるほど、これならば妖怪も彼女に尽くす筈だ。
「えっと、これに憑いている呪いを解いてもらいたいのですが・・・」
 おずおずと赤い色の携帯を一つ取り出して聖に差し出す。 
「これは何ですか? 新しい河童の発明品? 確かに弱いですが怨念を感じますね」
 先程と同じ真剣な顔付きで携帯を受け取り、しげしげと観察している。
「河童の発明品ではなく、外の世界の道具で遠くの者と話せる機械です。他にも色々とできますけど、私にも全部は把握できてません」
 そういうと聖は驚いた顔をした。
「外の世界でも念話ができる者が残っているのですね」
 どうやら、勘違いをしているようだが説明が難しい。道具を使って魔法を使うのは魔法使いなどでは当たり前のことだ。道具を使える=自分の力という図式を持つ相手に、道具は使えるけど力を持っている訳では無いと言ってもイメージしにくいであろう。
「大抵の人間はその力に振り回されていますよ」
 私はそれだけ返答した。聖の前で人間を貶すのは躊躇われた。
「そう、いつの時代も変わらないのね。力に振り回されるのはいつも人間。そして、被害は罪の無い妖怪にも及ぶ」
 聖の表情が悲しみに曇る。その表情を見ると私も悲しみが伝播した気がした。
「わかりました。人間の呪いで妖怪のあなたが苦しんでいるならば、この聖白蓮。協力は惜しみません」
 先程の愁いなど感じさせず、私の肩を掴み、熱い決意を伝える。正面から聖の顔が見れない。彼女は私が呪いで苦しんでいると思っているが、実際は研究のために聖の力を利用しようとしているだけの私に聖の真っ直ぐな瞳を見つめるのは辛い。
「この程度の呪いなら、何も準備しないで、すぐに浄化できますよ」
「本当!?」
「えぇ、任せて下さい!」
 そういうと聖は小言で何か呪文を呟き始める。
 聖が手に持っている携帯が青く輝き始めた。私の胸には期待が膨らむ。
「南無三!!!」
 気合を入れて携帯を握り締めるとバキッと音を鳴らし、粉々に壊される。
「ふぇ!?」
 まさか、魔法使いがこんな力技をすると思わず、素頓狂な声を上げてしまう。
「滅・・・」
 静かに物騒な事を呟く聖。次の瞬間、携帯が聖の手ごと青色の炎に包まれ燃える。
「終わりました」
 厳かに宣言すると聖の手の中で燃えていた火は消えた。携帯は残骸すら見当たらない。
 にこやかに笑いながら、先程まで携帯を握っていた手を振りながらにとりを見つめる姿からは、悪意など微塵も無かった。
「・・・ありがとうございます」
 引き攣った口が元に戻らない。まさか、跡形もなく焼滅させられるとは思ってもいなかった・・・。
 泣き笑いに近い私の顔を見て、聖が心配そうにしている。
 あぁ、やっぱり、他人を一方的に利用すると私は失敗するなぁと観念して、私は本当の目的を聖に今度は包み隠さずに話した。

「すみませんでした!」
 頭を深く下げられ、聖に謝られた。
「えぇ? なんで? 頭を上げてよ!」
 予想外の行動に頭の中で疑問符は次々に浮かんでくる。
 呪われている携帯電話から呪いを解いてレアメタルを取り出したいと正直に話した。
 本当ならば、本音を話さずにいた私のが悪い。力を持った者を騙そうとして、ばれたのならば幻想郷では、大抵の場合はお仕置きが待っている。
「いいえ、私はあなたの幸せを奪ってしまいました」
「幸せ奪ったって・・・そんな大げさな」
 確かに、壊された携帯は元には戻らないが、他に沢山ある。
「携帯はまだまだ、あるから平気だよ」
 鞄の中を見せる。それを見た聖は幾分か安堵した顔を見せる。強い奴に謝られるのがこんなに心臓に悪いものだとは思いもしなかった。
 まだ、少し申し訳なそうにしている聖に携帯を壊さずに供養してくれるよう重ねて御願いをした。
「壊さずに供養するとしたら、一度、呪いを別の物に移す必要があります」
 呪われた供養するには浄火するのが一番、簡単らしい。しかし、燃やせない物などは、代用品を用意してそれに呪いを移して供養するのだそうだ。
「他の物に移すって、どんなものがいいの?」
「呪いなので、人の形をした物がいいと思いますよ」
「わかった。それは、こっちで用意するよ」
 聖が携帯のお詫びに代用品を用意すると言ったが、断った。
「御願いしているのはこっちだよ。できる準備は自分でするのが礼儀だ」
 そう告げると聖は頬笑み、頭を撫でてきた。
「ちょ・・・急にどうした!?」
 急に身体に触られたので慌ててしまう。携帯を握り潰したりとパワフルな姿を見たので力強いイメージがしたが、聖の手は柔らかく、優しかった。
「では、準備ができたら再度いらして下さい。それと良ければ、携帯を一つ貸して貰えませんか? 他に良い方法がないか考えてみます」
 私は携帯を一つ取り出して聖に預けると、顔を赤くして妖怪の寺を後にした。

――――妖怪の山に戻ると人の形をしたものを探し始めた。しかし、あまり見付からない。河童は人形を持っている者は少ない。しかも、燃やすというのに貸してくれるという河童はいなかった。
 仕方無く、いつもの川の下流に行くと人の形に似た石や木の枝を捜した。だが、手頃なものはそう簡単に見付からず、聖の提案を素直に受けていれば良かったと後悔し始めた頃に珍しく来客が訪れた。
 天狗の記者である射命丸文と魔法使いのアリス・マーガトロイドだ。
「で、私に用ってなんだ?」
 天狗が絡んでいるだけで警戒心が嫌でも上がる。訝しげな目で見つめると、文は笑いながら答える。
「実は、アリスさんの犬の人形を直してほしいんですよ。外の機械が使われているらしくて、アリスさんにはお手上げらしいんですよ」
 文にお手上げと言われて、悔しそうな顔をしたアリスが犬の人形を差し出してくる。
「あぁ、これか。見たことあるよ」
「そうなの?」
 アリスが興味深げに訪ねてくる。人形を分解しながら、修理に必要な部品を思い浮かべる。
「うん。まぁ、ここまで綺麗な形を残していたのは無かったけどね。数もそんなに流れて来なかった。今でも、持っている河童もいるけど大抵はバラされてしまったよ」
「動いているのは見たことあるの?」
「一応ね。でも、そこまでちゃんと動くのは無かったな。中の部品が壊れているらしくて、私達でも直せなかったよ」
 河童の中には足の部分をキャタピラに変えたり、空を飛べるように翼に改造していた者もいた。直すというよりは改造に夢中になっていて、原形を留めない物が多かった。
「じゃあ、やっぱり無理かしら?」
「河童の技術力は日々進歩しているんだよ。今の私になら、このぐらいの故障は直してみせるよ!」
 代用品集めに嫌気がさしていた私は、アリスに頼まれた修理の話にのめり込んでいた。
 アリスとは神社の宴会などでしか話したことがなかったが、同じ研究者として目的が同じならば、中々有意義な会話となった。
「まぁ、今日はもう帰りなよ。私も明日までに色々と準備しておくから」
「えぇ、そうね。よろしく頼むわ」
 日が陰り、お互いの顔も分かりづらくなって来たので、本格的な行動は明日からだ。
「私は明日からは来ませんから、修理ができたら一番に教えて下さい」
「気が向いたらね」
「協力したんだから、それぐらいの特権は下さいよ!」
 すっかり、存在を忘れていた文がアリスに抗議をするがアリスは文に対しての冷たく、気のない返事をすると足早に帰ってしまう。
 その後ろ姿を文が怨めしい目で見送っているので私は、気楽にいこうよと慰めた。

 それから、一週間ほど私はアリスとの人形修復に時間を費やした。
 外の機械にアリスの考えた魔法を組み込みながら直す作業は、刺激的で楽しかった。
 そんな、研究者にとっては最良の日々に又しても天狗が横槍を入れてくる。まぁ、今回は結果的には良かったのだが・・・。

「じゃーん、この機能を入れて欲しいのよ!」
 烏天狗である、姫海棠はたてが手に持った本を手に突然アリスと私が作業しているところに割り込んできた。
「あら、あなたはいつぞやの盗撮新聞の記者」
 一応、面識の在るらしいアリスが、開口一番の中傷を浴びせる。山に住む河童は天狗には頭が上がらない所があるので、冷や汗が背中を伝う。
「密着取材と言ってほしいものね。それより、この機能を入れてよ」
 アリスの発言をあまり、気にせずに自分の用件をグイグイと押してくる。
 はたての態度に不快感を表す私達だったが、目の前に出された本を読んでみるとそんなことは気にならなくなった。
 その本の中身は、今、直している犬の人形の取扱説明書だった。
 この犬の人形の正式名称は【アイボ】というらしく、各種機能について書かれており、私達の興味を引くには十分だった。
「これをどこで見付けたんですか?」
「企業秘密よ。まぁ、ヒントをあげるとすれば、意外と命がけとだけ言いましょうか」
 余裕そうに答はいるが、若干笑顔が引き攣っていた。アリスが紅魔館かと呟いた時には顔が青くなっていたが、私は見ないふりをした。強い奴の弱みを握るなんて自殺行為みたいなものだ。
「携帯電話で遠隔操作?」
 アリスがはたてが示していた場所を読み上げる。
 どうやら、アイボには携帯を通して、命令を送れる機能が付いているらしい。
「嫌よこんな機能。私は、自律機能の研究のために修理しようとしているのよ。これじゃ、ただの人形と同じじゃない」
「でも、写真機能とか使えるようになるわよ」
「別に記者になるわけでもないしいらない」
「便利よ? 写真機能。一度使ったら病み付きになる」
「興味がない。それに私は携帯電話なんて持ってないもの」
「それは大丈夫よ。にとりが腐るほど持っているわ」
 突然、話を振られる。まぁ、持っていることは持っているが、何故はたてがそれを知っている?
「寺の烏に聞いたのよ」
 天狗は烏を操る。命蓮寺に居た烏が元から居たのか、はたてが操ったものなのかは分からないが、どうやら筒抜けだったらしい。
「にとりはどっちの味方をするのかかしらね?」
 勝ち誇ったように見つめるはたてと断れと無言の圧力をかけるアリス。天狗が絡むと損得が絡むから嫌なんだよ。
 協力者を裏切るのは嫌だけど、天狗に逆らうのは怖いしどうしょう。頭の中で損得がグルグルと回っている内に訳が分からなくなる。
「わ・・・私としては、色んな機能を付けたいけど、アリスの嫌がることはしたくない!」
 ポカンとした表情でアリス達が固まる。私は、自分の科白を思い出して、顔が熱くなるのがわかる。このまま、川に潜ってしまおうかと本気で考えは始めた。
「ぷっ・・・そうね。私もあなたを困らせるつもりはないわ」
 アリスが笑いを堪えながら答える。
「写真機能はつけてもいいわ。でも、操れるのは私だけにして頂戴。それが条件よ」
 アリスが笑いを押し込めて、はたてを睨みつける。しかし、はたては涼しい顔で、それでかまわないと返事をした。
「私は、記事が面白くなればいいのよ。写真機能の付いた外の世界の使い魔となれば、天狗の購読者の目にも留まる筈よ」
 話は纏まったようだ。話が決まったのなら、心臓に悪いのではたてには何処かに行ってほしいのだが、最後まで居るようだ。
「でも、私の持っている携帯は全部曰く付きなんだけどいいのかい?」
「どういうこと?」
 私は、アリスに自分の持っている携帯電話について説明する。
 携帯は呪われていること。呪いを解くためには、呪いを移す必要があることなどだ。
「なるほど。わかった。代用品になる人形は明日までに用意するわ。もちろん、一つじゃなくて、携帯数分全部ね」
「いいのかい? 結構な数になるよ?」
「構わない。どちらにしろ、協力してもらったあなたには、お礼をするつもりでいたから丁度いいわ」
 少し、胸が熱くなる。一人で研究や実験をする私にとって、こういう助け合いは数えるほどしか経験がない。しかも、他種族となれば、なおさら感慨深いものだ。
「アリスは良い奴だな」
 思ったことを口にしたら、アリスは目に見えて狼狽し始めた。
「なっ、な・・・ちっが・・・。コホン・・・まぁ、いいわ。とりあえず、明日にでも命蓮寺に向かいましょう」
 そういうだけ言うとアリスは急いで帰り仕度を初める。
「意外とクールに見えて、打たれ弱いんですね」
 はたてが揶揄うようにいうとアリスはキッと睨みつける。しかし、はたては戯けたように怖い怖いというだけだ。
「じゃあ、明日の昼ぐらいに命蓮寺で会いましょう」
 空に消えていくアリスを見送る。思いがけず、目的が達成できそうで思わず顔が綻ぶ。
「私も帰る。また、明日ね」
「えぇ、明日も付いて来るんですかぁ!?」
 はたての発言にうんざりした様子で返すと泣きそうな顔で、そんなに嫌わなくてもと言うが、生憎だが私には天狗の怯んだ姿は嘘にしか見えなかった。


 ――――そして、翌日。
 一番の懸念だった姫海棠はたては、その日は現われなかった。当日私は、どうせ天狗は、遅れてくるのだろうと勝手に結論づけて、命蓮寺の石段の下で一人で待っていると、アリスが鞄の中に大漁の藁人形を詰めて飛んできた。
「おまたせ。準備をしてきたわ」
「本当に一日で、これを全部作ったのか? すごいな!」
 素直に感心しているとアリスは苦い顔をする。
「そうね。まぁ、いくつかは前に使った奴を持って来たのだけれど」
 そういえば、前に文々。新聞でアリスが記事にされていることがあった。その時に載っていた写真のアリスは鬼気迫るものがあり、宴会でしばしばネタにされたいたことを思い出した。
「そういえば、そんな記事もあったな」
「さぁ、急ぎましょう!」
 アリスにしては、大きい声を出して話を断ち切る。私を置いて先に行くアリスを私は慌てて追い掛けた。一瞬、はたてのことが頭を掠めたが、アリスの背中を見ている内にどうでもよくなっていった。
 境内の中に入ると、手に長い鉄の棒を持った妖怪が居た。私達に気付くと棒の尖端を私達に向けながら近付いてくる。
「ようこそ、命蓮寺へ。見掛けない顔だね」
 小柄な体格に似合わず、随分と大人びた態度の鼠の妖怪だ。聖白蓮の包み込むような雰囲気とは違い、品定めするような目線が不愉快だった。
「そうでしょうね。私は来るの初めてだし」
 私に変わって、アリスが答える。物怖じしない性格が少しだけ羨ましく感じた。
「私は、魔法の森に住む魔法使いのアリス・マーガトロイド。こっちは、河童の河城にとり。今日は、ちょっとお願いがあってきたのよ」
「私は、この命蓮寺に住む妖怪の一人ナズーリンだ。妖怪の願いならば大抵は聞くよ」
 お互いの自己紹介が終わるとアリスが目で合図をする。用件は自分で言えということらしい。
「えぇーと、今日は聖さんは居ないのかい?」
「聖は居ることは居るが、多忙だからね。私が代わりに聞くよ。それとも、私じゃ役不足かな?」
 どことなく、挑発的な物言いをする彼女に私は早くも苦手意識が芽生え始めていた。
「そういう訳じゃないんだけど、前回に来た時に聖さんには用件を説明してあるし、約束もしてあるんだよ」
 ナズーリンが私の背中に担いでいる鞄に目を向ける。
「その鞄の中に入っている物と関係があるのかい?」
 獲物をジロジロと観察するように私を睨み据える。あの聖白蓮の門下にしては随分と俗物的な奴だ。
「そうよ。だから、その聖さんというのを呼んで来てよ」
 私を庇うようにアリスが会話に割って入る。手にはいつの間にか、グリモワールが握られていた。
「う~ん。そうだね。金銭に絡んできそうな願いだね。ここで下手に間に入って拗れるよりは、素直に呼んで来た方がいいね。どうやら、悪い奴等でも無さそうだし」
 含み笑いを浮かべるナズーリンをアリスが冷ややかに睨む。
 あとちょっと、挑発すれば喧嘩になりそうな空気だったが、ナズーリンは踵を返すと本殿の中にあっという間に消えてしまう。どうやら、先程の様な状態に慣れているようだ。鼠の癖に肝は太いらしい。
 しばらく、アリスと二人で本殿の周りをぐるぐるしていると寺の裏側から、ナズーリンと聖白蓮の姿が見えた。
 先日に来た時と同じように遠くから見ても、威光が満ちていた。
「お久ぶりですねにとり」
「ご無沙汰しています。今日は、ちゃんと全部用意してきました」
 聖に声を掛けられるだけで、数度しか会っていないのに心が安らぐ。なんとも、不思議な人物である。
 思わず和んでいると、隣にいるアリスが肘で私を小突く。紹介しろということらしい。
「えぇと、こちらが今回、代りの人形を作ってくれた、魔法使いのアリス・マーガトロイドです」
 はじめましてとアリスが手を差し出すと聖が握り返す。しばらく、無言で握手を交わしていると、聖が納得いったというように小さく頷いた。
「あなたが人形遣いのアリスね。魔理沙から何度か聞いているわ」
「どうせ、碌な噂じゃないんでしょうね」
 聖は苦笑いを浮かべるだけだ。アリスも釣られて苦笑している。
「それで、そっちの準備は?」
「準備という程のことはありません。あとはあなた達が持って来た物を所定の場所に置けば始められます」
「そう、それなら話が早いわ。すぐに始めましょう」
 いつのまにか、アリスと聖だけで会話が進んでいる。それを隣で黙って聞きながら、私達は寺の隣に建てられてある倉へと移動した。
 倉の中は薄暗く、入口から入る日の光だけが唯一の光源だ。目を凝らすと中には幾つかの行灯があるのがわかる。聖が何か呟くと行灯に青い火が付いた。
「中に入って扉を閉めて下さい」
 私達が倉の中に入るとナズーリンが倉の外から扉を閉めた。倉の中は青い炎による光だけで直ぐ隣にいるアリスと聖の顔もよく見えない。
「人形を中央右側。携帯を中央左側に置いて下さい」
 前が見辛いために転けそうになりながらも、私とアリスは言われた通りに行動する。
「置きましたか? そうしたら、扉の前に座って下さい」
 私達が座ると聖が部屋の中心に行く。両手を広げるとその手の先には携帯と人形がある。
「これからお祓いを始めますが、二つ注意することがあります」
 聖がこちらを振り向くとそこには、いつもの笑顔は無かった。
「一つ、動かないこと。二つ、しゃべらないこと。いいですね?」
「わかった」
「了解だよ」
 返事を返すと聖は「すぐに終わりますから、そんなに気構えなくてもいいですよ」というが、やっぱり緊張してしまう。
 隣にいるアリスは肝が太いようで平然としている。魔法使いはみんなこうなのだろうか?

「では、始めます」
 そう言うと聖は大きく深呼吸をした。一回、二回、三回・・・。その度に倉の中が少しずつ冷たくなっていく様だった。
 行灯の火が強さを増す。聖の左手が青い光に包まれる。携帯の一つが起動する。左手を包んでいた光が大きくなり、携帯が次々に起動を始める。
 ここで不思議なことに気付く。私が携帯を起動させると必ず起動音が流れていたが、今、起動している携帯からは聴こえていない。
『元気にしている?』『がんばって、私待っているから』『着いたよーいまどこー』
 不意に声が聞こえる。考えごとをしていたので驚き声が出そうになると隣にいたアリスの手が私の口を塞いでいた。
 目だけを動かし、大丈夫と合図を送るとゆっくりと手が退けられた。
 アリスの視線は自分が作った人形に向けられていた。
『今から向かえに行きます。そこにいて』『今、なにしているの?』『前回の案件ですが、至急変更したい点があります。折返しれr』
 声は人形から、聞こえていた。喋っているのは、携帯に録音されていた声だろう。私も一度、前に自分で聞いたことのあるのが混じっていた。
 声は続く。内容がわからないものが多いが、外での日常会話なのだろう。
【イマドコ?】【ウゴカナイデマッテイテ】【ナニシテイルンデスカ?】
 違う声で、同じような質問や命令がくり返される。嫌でも耳に残り気分が悪くなる。
 一つ一つは力が無くとも、これだけの人間の数が同じことを言えば、言葉が病むのだ。その言葉自体が人に害を与えるモノに変わってしまう。
 突然、人形達が動き始める。ある人形は頭を垂れて謝るような形。ある人形はぐるぐる回り始める。
 そんな光景を見て、一瞬だけだが聖の左手から発している光が揺らいだ。
 しかし、次の瞬間には、聖の右手も青く光はじめた。
「――――南無三!」
 気合いと共に右手を人形達に振り下ろすと人形は青色の炎に包まれていく。炎に包まれても人形達の動きは変わらない。だが、壁に映る影だけが異様に人間に近い形で浮かび上がっていた。
 ――やがて、人形に憑いていた火が消える。
『また、会いましょうね』
最後に人形から聞こえた言葉はとても耳障りだった。






――――後日、私は初めて魔法の森の中にあるアリスの家に訪れていた。

「じゃあ、これが約束の携帯ね」
 私は、お祓いが済んだ携帯の一つをアリスに渡す。これがあれば、携帯を通してアイボの遠隔操作ができるはずだ。
「わざわざ持って来てもらって悪かったわね。ありがとう」
「いいよ。こっちもどういう風にこれを使って、操作するのか気になってるしね」
 私達は、あーだこーだと言いながら、携帯とアイボを色々と試していると外はすっかりと暗くなっていた。
「そういえば、携帯からレアメタルだっけ? はちゃんと採れたの?」
 手の中でアイボを抱きながらアリスがことの結果を訪ねてくる。
「一応、取り出すことはできたよ。でも、思ったほどの量にはならなかったな」
 結構な数だとは思っていたが、いざ取り出してみたら期待していたほどの量では無かった。まぁ、それでも当分の間は楽しめそうではある。
「そういえば、聖さんがアリスの事を褒めていたよ」
 前回のお礼と結果を言いに一人で命蓮寺に行った時にアリスの作った人形を聖さんは褒めていた。
 携帯に込められた呪いは、然程の力は込められていなかったが、人形の方にはある程度の力があったために人形が動いてしまったらしい。
「だから、今度アリスに会った時に仏像は彫れるか聞いてくれって頼まれたんだけど、彫れる?」
「流石に仏像は彫ったことは無いわね」
 苦笑しながら答えるアリスだったが、小さい声で仏像か・・・と呟いていたので、もしかしたら彫るのかもしれない。やはり、魔女という技術者なので新しい可能性には貪欲なのがここ最近の付き合いで分かって来た。
「まぁ、やってもいいと思うなら、今度命蓮寺に行ってみてよ。喜ぶと思うよ」
「気が向いたらね」
 その返事を聞いて満足した私はアリスの家をあとにした。
 妖怪の山の近くで、久しぶりに姫海棠はたてを目にした。向こうも気付いたらしく、手を上げるとこちらに飛んでくる。
「久しぶりね。調子はどう?」
「ぼちぼちですよ。そういえば、この間の命蓮寺に行く時は来ませんでしたね」
 私は今度はたてに会ったら聞こうと思っていたこと早速聞いてみた。記事になりそうなことで天狗が絡まないのはどうも気味が悪いのだ。
「いや、寝過ごしただけよ」
「・・・そうですか」
「えぇ。今度からは気をつけるわ。ところで結局どうなったのよ」
 ことの結果を掻い摘んで話す。はたては興味深そうに相槌を打ちながら聞いていた。時折、携帯を弄り何かメモも取っているようだ。
「なるほどね。私は行かなくて良かったみたいね」
「どうしてですか?」
「私の携帯も呪われそうじゃない。それに撮影厳禁っぽいし」
「・・・まぁ、そうですね。でも、貴女の携帯が呪われるのも時間の問題だと思いますよ」
「え?」
「本人がどう考えていても、他人に不快な思いをさせる物は呪われますよ」
 はたての携帯を指を刺しながら、皮肉を込めて言う。
「・・・真実を暴けば悪に怨まれる。宿命って奴ね」
 鼻で笑いながら、余裕の微笑で私の皮肉を受け取る。悪よりも記者(せいぎ)の方が厚顔無恥なのは、いつものことだ。呪われてダメになるようでは他人の不幸と係われない。
「また、会いましょうね」
 そう最後に言葉を残すと姫海棠はたては妖怪の山の方へと飛んでいく。完全に姿を見えなくなって私は小さく呟いた。
「聞こえませんよーだ」

 ~fin~
携帯の着信の殆どが仕事関係です。最近は鳴る度に憂鬱な気持ちになりますよ。
そんな時に思い付いた話。

前に書いた「機械人形の瞳」とリンクする部分があります。
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1308442543&log=148

初めて、リンクとか意識して書いたけど難しいですね。勉強になりました。


次は秘封倶楽部か咲夜さんの話を書こうと思うけど霊夢も書きたい。


最後になりましたが読んで頂きありがとうございます。また、どこかで(^_^)/~
鳴風
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.510簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
>送れてくるのだろうと勝手に結論づけ
遅れて?
ちょっとだけ鳥肌立った…
2.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
10.100名前が無い程度の能力削除
携帯怖っ!

実際問題、今一番「人の念」を浴びてる物ですから残留思念はんぱないでしょうねぇ…
13.90名前が無い程度の能力削除
やや読みにくさこそありましたが、面白かったです。
14.70名前が無い程度の能力削除
どうでもいいが
「読んで頂きありがとう」って失礼にもなりうるって知ってるか?
何もお前の為に読んだわけじゃない。自分が読みたいから読んだだけだ
感謝される筋はない。君に気持ちよくなって欲しいとも思わない。
自己の快楽の為に行った行為が他人から感謝されるなど気持ちが悪いだけだ。スタンドアロンで純粋な快楽の質を損なうことにもなる
読む行為が、ある種の努力・苦労・苦痛を伴うとして、それに対しての感謝と言うなら
それこそ読者を馬鹿にしている
その程度で苦労なんか感じやしない。

君だって無数の読者なんかどうでもいいし、読者の方も君に興味などない。
誰も繋がりたいなんて思っちゃいない
その意味をも自覚しない、上っ面の定型文をかけられても不快なだけだ
16.100名前が無い程度の能力削除
中古で買った留守電に残ってたメッセージにお婆さんの声で「××さんへ、必ず○○日までに、料金を払ってください…… 必ず必ずお願いします」とかいうのが数件入ってたの思い出したわ

もう少し煮詰めれば本格ホラーもいける良いネタだね
はたてが結構イヤな奴に描かれているから、いつか痛い目に遭ってにとりの世話になれば良いと思うよ