「さて、次はこのキノコだ」
「わかった~」
私の名前は霧雨魔理沙。普通で偉大な魔法使い。
何をやっているかは……まぁ簡単に言うと、人体実験だな。
……人体実験と言ってもそんなにおどろおどろしいものではない。
ルーミアにキノコを食べさせる。
で、効果を調べる。
……そんだけ。
今日は新種のキノコがたくさん手に入ったので、ルーミアにはたくさん食べてもらっている。
あぁ、ルーミアっていうのは、妖怪だ。
闇を操る程度の能力を持っている妖怪で、魔法の森近くに住んでいるらしい。
私が魔法使いになったばかりのときに、なんか黒い塊が浮いていたのを見て、「なんだコレ?」って感じで近づいた。
それが、闇を展開していたルーミアだったってワケだ。
……それからなんだか色々あって仲良くなった、とまぁそんなところだ。
時々腹を空かしては家に来るので、こうしてキノコを与えている。
最初は「ルーミアは人喰い妖怪なので、人間しか食べない」とばかり思っていた。
しかし、蓋を開けてみるとただの食いしん坊。
私の差し出したキノコを無邪気に頬張る。
これが実験だとは全く知らずに。
「魔、魔理沙、動けない~」
ふむ、どうやらこのキノコには痺れ作用があるらしい。
もちろん薬はある。
「ほら、ルーミア、これ飲め」
薬をルーミアに渡す。
しかし、受け取らない。
……どうしても動けないらしい。仕方ないので、飲ませてやる。
ごくり。
ごくり。
……よし、飲み干したな。
「うぅ……びっくりしたぁ。……じゃあ次のちょうだい」
ルーミアに学習能力は無いのか。
最初は「妖怪にキノコの毒なんか効かねぇだろ」って思ってた。
で、自分が食えないようなキノコを与えた。
大変なことになった。
と、いうわけで猛毒のキノコは与えていない。
最初は適当にキノコを与えていたが、あの事件があってからは事前の薬物反応実験で確認するようにした。
薬物反応実験……と言ってもここにある緑色の液体をキノコに垂らすだけだが、それだけでも大体の毒性の強さは分かる。
あまりに毒性が強いと、どんな効能であれ死に至ることがあるので注意が必要だ。
この緑色の液体だが、これは魔法の森の奥地にある特別なキノコを、この器具ですりつぶ
「魔理沙、早く~」
「……ほいほい」
次のキノコを差し出す。
……おっと、これで最後の一本らしい。
確か、このキノコは外見が危なげなキノコなのに、毒性反応がほぼ0で、普通のキノコだったはずだ。
でも、自分で食べてまずかったら嫌なので、ルーミアに食べさせる。
「あ、コレおいしい」
お、どうやら美味いらしい。
これは食用のキノコとして重宝しそうだ。
今日は魔法用のキノコもいくつか手に入ったので、上々の結果と言えるだろう。
……問題は、このキノコの産地が今までに見たことも無いようなところだったことだ。
自分の知らないキノコが十何種類もあったので、つい興奮して採りすぎてしまったわけだが。
今思えば、場所を正確に覚えておくべきだった。
まぁ、生きていればいつかもう一度行くことも出来るだろう。
「さ、ルーミア、終わりだ。全部食ったな?そろそろ帰ってく」
「魔理沙」
む、遮られた。
「魔理沙、魔理沙……」
なんだかルーミアの様子がおかしい。
確かあのキノコには毒性はほぼ無かったはずだ。
「ど……どうした?どこか悪いのか?」
「魔理沙……まりさぁ……」
ヤバい。何かヤバ気な予感。
「好き」
は?
「好き、魔理沙だいすき」
……何?え、何が起こった?
ちょっと待て、ルーミアの顔の赤みが差してきた。
これは、一体、一体何が
「ま~り~さ~」
「お、おう」
「魔理沙」
「な、なんだぜ?」
「食べたい」
「な、なんだ?キノコはもうないぜ?」
「魔理沙」
「……もしかして、私か?」
「うん」
「いやいやいやだめだぜ。ほら、この前約束したじゃないか約そ」
「うそでした~。うふふ」
いや、ヤバいって。
どうするよコレ。
ルーミアに何が起きたのか分からない。
待て、だったら薬も生成不可だぞ。
……もしかして、いきなり手詰まりか?
「魔理沙」
「……何だ?」
「魔理沙とキスしたい」
「ぶはっ」
何も口に含んでいないのに吹いた。
そんくらいの衝撃。
……いや、なんというか、破壊力がヤバい。
めちゃくちゃかわいい。
……いやいやいや私にそんな趣味は無いぞ私。いいか私、ルーミア相手にそんな
「ねぇねぇまりさ~」
「わきゃ!」
やべぇ。なんかものすごく変な返事しちまった。
私、めちゃくちゃ動揺してるぞ。
落ち着け、落ち着け……
「ねぇ、なんでかな?」
「な、何がだ、ぜ?」
「私、魔理沙にキスしたいな~って思ったの」
「お、おう」
「なんでかな?」
「さ、さあな。ははは……」
苦笑いするしかない。
色々な意味でヤバいぞコレは。
どうにか対処方法は無いか……
……ルーミア、そんな目でこっちを見ないでくれ。
……ルーミア、こっちに乗ってくるな。
……おいおいおいルーミアやめろちょっと待てうわ
……待て!一つだけ手段があった!
「ルーミア離れろ、出かけるぞ!」
「ふぇ?」
「急げ、急いで支度しろ!あと離れろ!」
「……」
「早く!」
「別に、私に支度しろって言われてもなぁ」
しまった。ルーミアに支度は……ないな。
やっぱり焦ってるぞ私。
よし、大きく深呼吸。
すーはー。
すーはー。
すー……ぶぇっ、げほっげほっげほっ
「お、おい、ちょっと、ルーミア!」
「なんかあつくなってきた~」
「ちょ、ま、脱ぐな!そこでじっとしてろ!」
「う~」
どうやら事は一刻を争うらしい。
仕方ない、キノコ箱だけ持ってすぐに行こう。
永遠亭の薬屋の元へ。
――――――――――――――――――――
「で……どういうことかしら?」
「おい、さっきも説明しただろ、ルーミアにこのキノコを食わせたら変になっちゃったんだよ」
永遠亭。
ここに、薬のことならなんでも分かりそうな奴がいる。
名は、八意永琳。薬屋だったと思うので来たのだが……
彼女とは以前からの付き合いがある。
まぁ、付き合いといってもギブ&テイクの関係だが。
「そういうことじゃないのよ」
「……は?どういうことだ?」
なんだか気難しそうな顔をしてやがる。
指摘されることと言えば……やっぱり……
「なんで妖怪で人体実験なんかしてたのよ」
「だよな~、やっぱそこなんだよな~」
流石に私もコレを知られたくなかった。
だが、こんな事態になるとは思ってなかったワケで……
「と、とにかく!ルーミアを元に戻してくれ!お願いだ!」
「ふ~ん。あなたにとって、随分と大切な妖怪なのね」
「あぁ、大切な友達だぜ」
「……ふ~ん。じゃあ、こちらも手伝ってもらおうかしら?」
ルーミアが元に戻るのなら何でもいい。
「あぁ、何でも言ってくれ」
「分かったわ」
「で……何かあるのか?」
「私、そのキノコ、見たこと無いのよね」
「……は?」
「まずは情報提供をお願いできるかしら?」
なるほど、相当珍しいキノコらしいな。
なにせ永琳でも知らないくらいのキノコだ。
……ん?待てよ?
知らない……ってことは、治せないんじゃないか?
自然に治ることも無かったら、本当にヤバいぞ。
とはいえ、今は永琳を頼るしかない。
しかし、情報提供と言ってもなぁ……
「……ちょっと待てよ。確かキノコ箱の中に……」
キノコ箱をあさってみる。
案の定、目当てのものが見つかった。
「……あったぜ」
「何かしら?」
「キノコが生えていた場所に落ちていた本だ。私には読めんがな」
「ちょっと貸してみなさい」
「いいぜ」
本を永琳に渡す。
……。
……。
……あれ、なんか様子がおかしいぞ。
「これは……」
「おい、どうした、なんか分かったか?」
「分かったも何も……魔理沙、この本、何の言葉で書かれているか分かる?」
「さぁな、見たことも無い言葉だったぜ」
「はぁ……」
うわ、ため息なんか吐きやがって。
コレ、そんなにヤバいものなのか?
「魔理沙。この本、外の世界の本よ」
「……まじか」
「私にも読めないけど、それだけは分かったわ」
「なんで外の世界の本が……」
「それは私が言いたいわ。どこで拾ったのよこの本……」
「さぁ、な。私にもよく分からないぜ」
「よく分からないってあなた……」
「そうだな。話すか」
コホン。
「えぇと、昨日の夜キノコを採りに行ったんだ。そしたら、何か見たことの無いキノコがたくさん生えている場所に着いてだな……」
「なるほど、大体分かったわ」
「おい、ちょっと待て、人が説明してやってんのに」
「考えられる状況は二つ」
……人の話を聞け!
と言いたい所だが、流石は永琳、もう何か分かったらしい。
「よく聞いてなさい、魔理沙」
「……おう」
「まず一つ目、あなたが外の世界に迷い込んだという可能性」
「む……そんなことがありえ」
「二つ目、その『キノコが採れた場所』自体がこちらの世界に飛ばされた可能性」
「……ふ~む」
とりあえず、状況は分かった。
「……で?」
「つまり、どちらにせよそのキノコは全て外の世界のもの」
「ああ」
「こちらの世界にあるキノコと効用が似ているものなら治せる」
「……まさか」
「こんな効用のキノコなんて見たことも無いわ」
つまり、それって治せないってことか……
「おい、永琳、どうにかならないのか?」
「どうにもならないわね」
「いや、そんな薄情な」
「仕方ないじゃない、元はといえばあなたが悪いんだし……」
「いやほら、実は一個だけ方法があるとか無いのか?ヤバい方法でもいいから」
「……本当に?」
「やっぱりあるのか!?」
「……まぁ、一応ね」
さっすが永琳。
ヤバい方法だろうとなんであろうと背に腹は抱えられん。
「で、なんなんだ?その方法は」
「薬よ」
「なんだ、普通じゃないか」
「試作品の、危ない薬」
「……むぅ」
「それに、高くつくわよ」
「……むむむむぅ」
ルーミアを助けたい。
しかし、試作品の薬となると、何が起こるか分からない。
一瞬悩みかけたが、お金のことはどうでもいい。
しかし、危険性が……
……やっぱり、ルーミアを助けたい。
「なぁ、永琳」
「何?」
「私は、ルーミアを助けたい」
「そうでしょうね」
「その薬をくれ」
「いいのかしら?」
「あぁ、ルーミアがこのままだと、私も困るが……何よりも、ルーミアが困る」
「本当に大切に思っているのね」
「当たり前だ」
私の考えは変わらない。
「ルーミアは、私の大切な友達だぜ」
私がここまでルーミアのことを大切に思っていた。
そのことには多少の疑問を感じるような気もする。そこまで深い友情があるわけでもないし……
でも、今はそんな場合ではない。
もしこの薬がダメでも、私が次の方法を探してやる。
もともと私が引き起こした問題だ。
「頼む、永琳。金はいつか絶対に払うから……」
「ふふふ、あなたも熱心ね。いつの間にあんな妖怪とそんな友情を育んだのかしら」
「……さあ、な。私にもよく分からないぜ」
「そうね」
ん?
「仕方ないわね」
「ん?どういうことだ?」
「あなたからお金を取るのは難しそうね」
「……は?」
「仕方ないわ、代金はあのキノコでいいわ」
「……え、いいのか?」
「特別よ。それに、試作品の実験にもなるしね」
「……恩にきるぜ、永琳」
「じゃあ、薬を持ってくるわね」
なんだか思ったより話の分かる奴でよかった。
……それとも、それほどまでにヤバい薬なのかもしれない。
まぁどっちにしろ私の判断は変わらないがな。
……ふぅ。
そういえば、ルーミアは大丈夫だろうか。
箒を運転している途中、その……色々とヤバいことになったので、睡眠キノコを食べさせた。
すっかり忘れてたぜ。
ルーミアは薬の切れが常人よりはるかに早いので、もしかしたら起きているかもしれない。
……ちょっと確認してこよう。
――――――――――――――――――――
「確か……この部屋だったな」
ふすまを勢いよく開ける。
……何か飛んでき
「魔理沙~!」
「ぶほぁ!」
ルーミアに押し倒される。
「魔理沙~!まりさまりさまり」
「あぁ、分かった!分かったからどいてくれ!」
「イヤだ」
「なんで!」
「分かんない」
「なんじゃそりゃ」
……どうしようか。
「とりあえず、どいてくれないか」
「イヤだ」
「なんでだよ」
「分かんない」
「おいおい、そればっかりじゃ」
「こちょこちょこちょ」
「わっ、ちょっ、バカ、やめろ」
「こちょこちょこちょ」
「うわっ、ちょっ、やめ」
「何してるのかしら」
……ルーミアの手が止まった。
……私の表情も凍りついた。
「廊下でイチャイチャしないでくれるかしら」
「いや、別にイチャイチャとかそんな」
「ねぇ、魔理沙、イチャイチャって何?後、この人誰?」
「いや、ルーミア、今はそれどころじゃな」
「まりさぁ~」
「うわ、いいから離れろって」
「……魔理沙」
「おい、永琳なんだその目は、コレは全部キノコのせいで」
「……ふふふ。分かってるわ、冗談よ」
「なんだよお前……」
「はい、薬よ」
「……おお、サンキュー!」
「ねぇまりさぁ」
「お、おい!だから離れろって!」
なかなかルーミアが離れてくれない。
よし、仕方ないからもう一度睡眠キノコを……
「ねぇねぇまりさぁ」
「うわ、ちょっ、じっとしてろ!」
「まり……」
ぷすっ
「んるみゃあ~」
「……おい、ちょっ、永琳!ルーミアに何を」
「ただの睡眠薬注射よ、サービスにしておくわ」
「……サンキュー」
「さっきの薬には、私が書いた説明書があるから、帰ってから読んでね」
「え、薬、今飲ませたらダメなのか?」
「ダメよ」
「どうしてもか?」
「事情があるのよ」
「じゃあ急いで帰るぜ」
「気をつけて」
とにかく、なにがなんでも早く帰ってこいつに薬を飲ませないと……
「……なぁ、永琳」
「どうしたの?」
「本当に、大丈夫かな、この薬」
「そうね……確かにヤバい薬かもしれないわ」
「だよな……」
「でも、私の薬よ?」
「……は?」
「私はどんな薬でも作ることが出来る。言いたいのはそれだけ。無事を祈ってるわ」
……やっぱり、永琳だな。
これはなんとかなりそうだ。
こんな弱気でいちゃダメだ。
「待ってろよ、ルーミア。後ですぐ治してやる」
――――――――――――――――――――
「ねぇ魔理沙」
「お、おう」
「好き」
「そ、そうか。はは……」
「ねぇ魔理沙」
「……なんだ?」
「好き」
「ああ、ありがとう……」
……家に戻って、ルーミアの薬が切れてから、ずっとこんな感じ。
もちろん、その後例の薬は飲ませた。
飲ませたんだが……
「遅効性の薬なんだよなぁ、アレ……」
「どうしたの?魔理沙」
「い、いや、何でもないぜ」
説明書によると
薬を飲んだ人は、病状が六時間後に回復する。
しかし、五時間半後から六時間後までの三十分間、薬を飲んだ人は眠っている状態になる。
……ということらしい。
ルーミアは妖怪であって、人ではない。
よって、薬の効き方も違うのではないか……と思った。
しかし、この薬は私の想像をはるかに超える凄い、そしてヤバい薬だった。
普通の薬とは、仕組みが全く違う。
時間を操る薬。
薬を飲んだ対象の薬を時間を、強制的に引き戻す薬。
実際はもっと複雑な薬なんだが、結果だけいうと、そういうことになる。
ルーミアの場合は、コップ一杯分。
時間にして、6時間とちょっと。
最初の5時間半ちょっとでルーミアという存在を時間という概念から隔離し、最後の30分間で強制的に時を巻き戻す。
で、その30分間は眠っている、というワケだ。
「はぁ……しっかしうさんくさいなぁコレ……」
パッケージを見る。
「時間逆行薬か……」
いちご味、とプリントされているのは、シャレのつもりなのだろうか。
これが永琳の薬でなければ問答無用で捨てていたところだろう。
とりあえず、私はルーミアと残り5時間ほど過ごさなければならない。
「はぁ……」
「魔理沙、どうしたの?」
「……なんでもないぜ」
できるだけ変化を与えてもいけないらしく、睡眠キノコを使うことも許されない。
だから、永遠亭で使うことを許されなかったのだろう。
これで回復しなかったら、私、泣くぞ……
「ねぇ魔理沙、遊ぼうよ~」
「あ、ああ……」
とりあえず、今はこいつに付き合ってるしかない。
一人にさせたら何するか分からんし……
「で、何するんだ?」
「うーんとね……」
出来るだけ普通な感じのやつで頼む……
「お嫁さんごっこ」
「なんだそれ」
まぁ外見的にルーミア子供っぽいし、そう考えたら分からなくも無いんだけれども。
今までこんなん言われたこと無いぞ……
「結婚するとこからね」
「おい」
「ちかいま~す」
「おい、手順おかしいって」
「ちかいのキスを~」
「おい!ちょっと待て」
「まりさぁ~」
「……顔近づけんな!大体結婚とかそんな話どこで聞いた!」
「わかんな~い」
……もうすでに疲れてきた。
いっそのこと私が睡眠キノコを食べようか。
……いや、やめておこう。何されるか分かったもんじゃないな……
「ねーまりさぁーあそんでよー」
「分かった、分かったから離れろ」
「じゃあ続きー」
「続きはやめてくれ、頼む」
「えー……」
「ほ、ほら、おままごとでも何でもいいからさ」
「……わかった。じゃあおままごとにする~」
……ルーミアが単純でよかった。
それにしても、この年でおままごと、という言葉を発することになるとは。
うわ、なんか響き的にも恥ずかしいぞ。
「じゃあ私がお母さんね」
……精神年齢まで下がっているような気がする。
こいつ、本当にルーミアか?いや、ルーミアなんだけどさ……
「あなた~おかえり~」
おい。
私は何役だ。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」
「ぶほぁ!」
本日二度目。
盛大に吹きました。
「おい、ルーミア……その言葉、どこで覚えた……」
「え~、魔理沙どうしたの?」
「どうしたも何も……お前、それどんな意味か分かって言ってるのか?」
「ううん。知らないよ~」
じゃ言うなよ……
「どういう意味なの?」
「……え~と、それは、アレだ。また今度な」
「え~、教えてよ~教えてよ~」
「あ、えっと……その……あ、そうだ、風呂だ、風呂にしようぜ」
「……わかったわ~」
よし、OK。何とか誤魔化し……
……しまった。判断を誤った。
食事のほうを選択すればよかった。
相当焦ってるぞ私。
よし、大きく深呼吸。
すーはー。
すーはー。
すー……ぶぇっ、げほっげほっげほっ
「お、おい、ちょっと、ルーミア!」
「えー、どうしたの?」
「脱ぐな!馬鹿かお前!」
「え~」
もう相当げっそりしてきた……
第一、これ最早おままごとじゃないような気がするし……
……後何時間続けりゃいいんだ!
「た、頼む!ルーミア!」
「なぁに?」
「お願いだから戻ってきてくれ!」
「何が?」
「ルーミア!」
両手でルーミアの顔を挟み込む。
そして大声で叫ぶ。
「ルーミア!お前のそんな姿、私は見たく」
ちゅっ。
……。
……。
……うわぁぁぁダメだもう理性がうわルーミアかわいいよる~みああぁ私のルーミアダメだ可愛すぎるる~みあぁぁぁ!!!!
「ん……む……」
るあぁぁぁぁああちょっと待て待て待ていやいやいやいやいやいやいやいやストップストップストップ緊急回避ぃぃぃ!!!!
がん。ぼごん。がごん。ぐしゃあ。
横の壁に思いっきり頭を打ち付ける。
ルーミアがあんな行動に出るとは、夢にも思わなかった。
「ふー、はー、ぜぇー、ぜぇー」
や、ヤバかった……危うく貪るところだった……
「ど、どうしたの?魔理沙」
「……何でもない!何でもないから!」
いやいやいや違うぞ私!私にそんな趣味は無いしさっきのは誤解で勢いというか流れというかルーミアが勝手にというか……
「何でもないのか~」
「あ、ああ」
「じゃあ、次はご飯ね~」
……ルーミアが単純でよかった。
いや、しかし心臓の鼓動がヤバい。
どうしちゃったんだ私。
いやいや落ち着け、落ち着けくんだ私!
「あなた~!」
「わ!な、なんだ?」
「ご飯ができました~」
「あ、そ、そうか。サンキュールーミア。ありがたく頂くぜ。はは、は……」
ルーミアが作ってくれた何かをかっこむ。
「あ、魔理沙、食べちゃダメ」
「ぶぇっ!?」
しまった、これ、おままごとだった。
かなり焦ってるぞ、私。飲み込んじまった。
よし、大きく深呼吸……ん?
「美味……かった?」
あまりに焦っていたせいか、どんなものを手渡されたかも分からない。
が……もしかして……
「おい、ルーミア、今のって……」
「あれ」
ルーミアが指を指した方向。
そこには、開いている状態のキノコ箱が……
あー、私。すまん。ここでもう私は終わりらしい。
私に残せるもの、それは……
「コレ、だけだな」
時間逆行薬をコップ一杯分、一気に飲み干す。
うん、イチゴ味だ。
……人間っていうのは、どうやら全てが終わると冷静になるものらしいな。
はは……は……
……なんだか意識が朦朧としてきた。
私、もう、ダメ……
「すまん、ルー、ミ……」
――――――――――――――――――――
……あれ。
夜?
ええと、確か、私は……
……。
……。
……そうだったよ。
薬を飲んでから、ええと。
……約六時間経っている。
部屋の様子は……なんだか色々と荒れている。
それと、ルーミアだ、ルーミアがいない。
「ええと……」
「魔理沙?」
「うわ!?」
……と思ったらすぐ後ろにいた。
いつもと変わらないルーミアの笑顔。
どうやら、薬は効いたようだ。
……あぁ、なんだか釈然としない結果ではあったが。
この顔を、もう一度見ることが出来てよかったと思う。
「ねぇ魔理沙」
「ん……なんだ?」
「あの……大体一時間前のことなんだけど」
「一時間前……?」
「なんか魔理沙変だったのよね」
「え?」
……まさか。
ちょっと計算タイム。
私が薬を飲んだのは六時間前。
ルーミアが薬を飲んだのは……そっからさらに一時間前くらい。
ってことは、ルーミアは一時間目に目を覚ましていることになる。
で、私が眠り込んだのが薬通りにいくと三十分前だから……
「三十分……」
三十分間、私がおかしくなっているところをルーミアに見られていることに……
……いや!唯一の望みがまだあった!キノコ箱の中……
「ああ……やっぱりか……」
例のキノコが、一本無くなっていた。
がっくり。
どうしよう。
「ねぇねぇ」
「……ああ」
「何だったの?」
「ああ、それは、だな……」
「何?」
「うーんと……」
説明なんか無理だ。
どう説明すれと言うんだ。
ルーミアに危ないキノコを食べさせてる。
こっからすでに言えないし……
「起きたら、魔理沙が変になってて」
「……ああ」
「しつこくからんできたり」
「……ああ」
「べたべたしてきたり」
「……ああ」
「いきなりキスされ」
「うわぁぁぁ!それ以上言うなぁぁぁ!」
やっぱり私も変になってたらしい……
「なぁ、ルーミア。その三十分間のことは全部忘れろ」
「え~」
「そしてぜっっっっっったいに誰にも言うな!」
「なんで?」
「なんででもだ。頼む。お願いだ」
「……わかった」
……ルーミアが単純でよかった。
「でも……」
「ん?なんだ?」
「何であんなことしたの」
「あぁ、だから忘れろって」
「何で?何でしたの?」
「……あれは私であって私じゃないと言うか、なんと言うか……」
「でも魔理沙なんでしょ?」
「まぁ、そうなんだが……」
やっぱり説明のしようが無い。
「じゃ、じゃあ、もしかして……」
なんだ。
「あの、魔理沙、怒らないでね。この言葉、少ししか知らないから間違ってるかもしれない」
だからなんだ。
「もしかして……その、魔理沙って、変態って言うやつな」
「私は変態じゃねぇ!」
頭を抱え込む。
うわぁ、やっぱり色々と凄いことしたんだなぁ私。
もうダメだ、ルーミアにこんな勘違いされたら私は……
「……違うの?」
「ああ、絶対に違う!絶対にだ!」
「なんで?」
「私にそんな趣味は無いからだ!」
「そんな趣味って、どんな趣味?」
「それはだな……」
言えるワケねぇだろ……
「……わかった」
「分かってくれたのか!?」
「うん」
おぉ、なんだかよく分からんが、誤解は解け……
「どんな魔理沙でも、私、大丈夫だから」
「だから私にそんな趣味はねぇ!!!!」
やっぱり、頭を抱えるしか無かった。
さて、人生をやり直すには何t必要かな?
へへっ、イチゴ味か……
ちょっと茸狩りに行ってきます
ベタベタになってるルーミアも可愛いけど、どんな魔理沙も受け入れてくれるルーミアも良いですね。