■魔理沙■
私はいつものように博麗神社の縁側で、霊夢と並んで座っている。
お茶を一口。やっぱり霊夢の淹れるお茶はうまい、自然と顔がにやける。
そんな私と違い、霊夢は雑談してるときも、ただボーっとしてるときも
こんなにうまいお茶を飲むときだって無表情だ。
だから私は霊夢が何を考えているのか分からない。
私の隣で、黙って庭を眺めている霊夢の目を、私はじっと見つめる。
目は口以上にものを言うらしいが、霊夢は顔と同じく目も無表情だ
やっぱり霊夢の考えていることは分からない。
この表情、私のずっと憧れてきた表情。
今まで色々な異変が起きた。その中でどんなに危険な状況にあっても
揺らがなかったこの表情。そしてその表情と同じく揺らがない強さ。
私はいつのまにかこの表情に惹かれていた…
突然霊夢は、はぁ…と声の混ざったため息を吐いた。
何か悩みでもあるのだろうか?そういえばさっきからずっと黙ったままだ。
しかし、ため息は出ても、表情はいつもの霊夢。無表情だ。
「何?」
急に話しかけられた。びっくりして少し体が跳ねた。
霊夢は庭を見つめたままだ、首も視線も動かない。ただ口だけが動く。
「さっきから私をじっと見てる」
やばい。霊夢の顔に見とれすぎていた。そりゃあ、自分の顔をずっと
見つめ続ける奴が居たら気味悪がられるだろう。私は恥ずかしさで
顔が熱くなるのを感じた。きっと顔面は真っ赤だろう。
今だけは、霊夢にはこちらを見ないでもらいたい。
…と、思った瞬間霊夢がこっちを向いた。こいつは私の心が読めるのだろうか。
私は霊夢の考えなんて全然分からないのに。
「ねぇ魔理沙…」
霊夢が私の名を呼んだ。
「一緒にお金儲けしない?」
一体霊夢は何をするつもりなのか…
ただ一つ分かったことは、霊夢の悩みは経済的に辛いという事だ。
■文■
私の心は今、躍りに躍っている。
博麗霊夢、霧雨魔理沙、あらゆる異変を解決してきたこの二人の名は
幻想郷に住むほとんどの者が知っているだろう。
そんな有名人二人がイベントを開く。それも優勝者には賞金一億も出るという
ビッグイベントだ。しかし見かけによらず金持ってるなあの巫女…
私の心を躍らせているのは、そのイベントが開かれるからという
単純な理由ではない。私は何と、そのイベントの審判に任命されたのだ。
私の判断一つで一億の行方が決まる…すばらしいではないか!!
こんな大役を任される日が来るとは夢にも思わなかった。
というわけで私は今、空に舞い上がってしまいそうな気分だ。
実際、今空を飛んでいるわけだが…
■チルノ■
「チルノちゃーん!」
大ちゃんがあたいの名を叫びながらこっちに走ってくる。
なんだろう?なんだろう?
「これ一緒に出ようよ!」
大ちゃんが紙を見せてくれた。色々絵とか字とかが書いてある。
その紙の中で一番おっきい字をあたいは読んでみた。
「げんそうきょう…れいむ…………?」
そこまでは読めた。霊夢と幻想郷の漢字は
前に大ちゃんから教えてもらったからわかるけど、その先の漢字が読めない。
“騙し”って何?これあたい知らない。
「幻想郷霊夢騙し大会だよ!」
大ちゃんが教えてくれた。さすが大ちゃん!
“げんそうきょうれいむだましたいかい”と読むのか。なるほど。
で、これは何だろうか?最後の二文字が“かい”だから貝の名前かな?これあたい知らない。
「参加者制限無し(妖怪でも人間でも可)参加費用一万円
大会の内容は霊夢を一番先に騙した人が優勝だって。
で、参加費用は高いけど優勝者には賞金一億円も出るんだって!
これすごいよっ!一緒に出ようチルノちゃん!」
大ちゃんが言ってる事は分からないけど、なんかすごいらしい
これは出ないと駄目だね!何が出るのか分からないけど。
「うん、出る!でもこれ何?」
大ちゃんにそう聞いたら、大ちゃんは詳しく教えてくれた。
なるほど分かった。だが待ってほしい、一つだけ分からない事がある。
一億ってなに?これあたい知らない。
■魔理沙■
いよいよ今日だ、『幻想郷霊夢騙し大会』。大会の開催期間は3日間
参加者は人間が約300人、人外が約500匹。合計約800人で集まった金は800万か…
しかしこの中の一人に一億払うことになるから、結局損するのは私たち。
…と、普通思うだろう。だが必ずそうなるとは限らない。
ゲームのルールは一番最初に霊夢を騙した者が勝つ事。
参加者は誰よりも早く霊夢に嘘を仕掛けようと考えてる事だろう。
つまり参加者にとっての敵は、他の参加者達と思っている。
だが、実際は違う。本当の敵は、霊夢だ。この戦いは霊夢と参加者達との戦いだ。
こちらに入ってきた額は800万、そこから一億引けば損失は9000万以上だ…
しかし、もしこの参加者の中で誰も霊夢を騙せる者がいなかったら?
そうなればこの金は私たちが総取り、結果この大会で益を得るのは私たちだ。
しかし負ければ9000の損…いや、そもそも一億なんて賞金すら霊夢には
用意出来ないはずだ。そんな額を貸してくれる所もおそらく幻想卿には無い…
霊夢は賞金を用意していないという考えが正しいだろう。
つまり霊夢は、確実に勝つつもりだ。
この戦いで800人の嘘を見抜き、金を得る。
当然簡単なことではないだろう、普通にやれば…の話だが。
■文■
さあ、ついに始まる。私の目の前には、大勢の参加者が並んでいる。
よく見れば知っている顔もちらほら見える。私は大きく息を吸い込んだ。
「みなさんようこそ!!『幻想郷霊夢騙し大会』へ!!
今回審判を務める射命丸文です!!
賞金一億の行方を決める今回の大イベント
私、抜かりない審査を行う事を約束します!!
さぁ!一億という大金は一体誰の手に渡るのか!?
それを決めるための、今大会のルールを説明します!
あちらをごらん下さい!」
ビシッと音が鳴るのではないかというほどの勢いで
私は会場にたてられているテントを指差した。
「今あのテントの中には、皆さんご存知大会の主催者、博麗霊夢&霧雨魔理沙さんが
待機しております!皆さんには一人づつテントの中で霊夢さんと
面会をしてもらいます。そこで霊夢さんに嘘をついて騙してください!
制限時間は3分!騙す側がテントから出るまで霊夢さんを騙し通すことができれば
その方が優勝です!
ただし、たとえ騙し通せたとしてもその嘘をはっきりと証明できなければ
意味がありません!
例えば、『わたしは今日の朝にパンを食べた』こういった嘘をついたとしても
本当にパンを食べなかったのか、その証明ができなければならないのです。
そして、テントに入るタイミングは自由ですが、テントに入る回数は一人二回までと
させていただきます。
そして、大会終了の時刻は今から8時間後の午後7時です。その時刻になったら今日の
大会は終了になります。続けて3日間行うので、今日中にテントに入れなかった人は
明日頑張ってください!」
さっきまでやる気で溢れていた参加者の顔が、今では不安そうな顔に
変わっていた。当然だろう、嘘が許されるのはわずか3分、しかも証明できる
嘘にかぎられる。そもそも、これから嘘をつかれると始めから知っている霊夢を
騙すことはかなり難しい。参加者のやる気が失せるのも納得がいく。
しかし私の次の言葉で、そのやる気は再び戻るだろう。
「霊夢さんが参加者の嘘を指摘すれば、それは霊夢さんに嘘を見破られた事になります
しかし、もし嘘以外の事を霊夢さんが嘘だと指摘してしまった場合、
その時点で参加者の勝利となります!」
会場がざわつきはじめた。このルールは霊夢をかなり不利にするルールだ。
このルールにより霊夢は、参加者の発言が正しいか、嘘か、性格に見分けなくては
ならない。もし、判断を誤れば即、霊夢の負けだ。
私自身、なぜこのようなルールを霊夢が決めたのかは分からないが…
とにかく私はやるべき事をやるだけ。私は手を上げて叫んだ。
「それでは『幻想郷霊夢騙し大会』…スタート!!』
■大妖精■
私の横で、チルノちゃんが走り出す。
私は慌ててチルノちゃんの腕をつかんだ。
「うわっ… 大ちゃん?」
「待って、今は行かないほうがいい」
「どうして!?一番早いのが優勝でしょ!?
みんな行ってるよ!はやくしないと誰かが…」
「駄目っ!今行ったら…」
今行ったら間違いなく霊夢に負ける。
そもそもこのルール、霊夢があまりにも不利すぎる。
そしてこの参加人数…この人数からそれぞれ一万取っても
一億には届かない。ここは先走らないで様子を見るのが得策。
「大丈夫、私の言うとおりにして」
その言葉に、チルノちゃんはこくりとうなずいた。
でも少し不機嫌な顔をしている。無理も無いか、もう皆
テントの前で行列を作っている。チルノちゃんから見れば私たちはとり残された
存在だ。でも、これでいい。この大会は、何か怪しい!
■アリス■
ウィイイイイイイイイイイイイイイヤッホォオオオオウ!!!
そう叫びたい気分だ!なんと取ったのだ!一位を!
ゲームが開始してすぐに、参加者はいっせいにテントに向かって走り出した。
そのレースで、私は一番になった!
この大会のルールはだいたい分かった。明らかに霊夢に不利なルール…
悪いけど一億は貰ったわよ、霊夢!
私は霊夢の前に腰掛けた。その様子を文が確認すると、「開始」といって
ストップウォッチを動かした。
私は霊夢に向かって言った。
「私ね、昨日はパチュリーの図書館に本を読みに行ったの
もちろん手ぶらじゃないわ、家にあったスイカを持っていってあげたのよ
それでパチュリーと少し話をしてから帰ったわ」
霊夢はスイカを持っていったという所を嘘だと思うはず。
なぜなら今はスイカのシーズンじゃないから。きっと霊夢は
これに気が付いて嘘だと思うはずだわ。でも実はスイカはミスリード
実際は本当にスイカを持っていった。魔法で強制的に成長させたスイカを。
本当の嘘はパチュリーと話をした事、これが嘘よ。
あの時偶然にもパチュリーは風邪で寝込んでて、話したのは小悪魔とだけ
スイカを渡した相手も小悪魔なのよ。さて、この嘘見破れるかな?
「終了」
文が言った。よし、あとはテントを出れば私の勝ち。
「嘘ね」
霊夢が言った。そらきた!さあ、スイカの事を指摘しなさい!
「パチュリーと話したって、あれ嘘でしょ?」
!!?