Coolier - 新生・東方創想話

霧雨魔理沙は知っている ~七色の人形遣いの一~

2011/06/25 23:08:35
最終更新
サイズ
117.12KB
ページ数
1
閲覧数
6149
評価数
57/163
POINT
10670
Rate
13.04

分類タグ


※このお話は「霧雨魔理沙の非常識な日常」シリーズ完結編です。
※前作全てを読了後、ご覧下さい。
※それではどうぞ、お楽しみ下さい。
















――0・太陽の日/夢幻の狭間――



 私は“夢”を見ない。
 私が見るのは、頭の中の情報を適当に組み合わせた“夢”などというものではなく、ただの過去の焼き回しだ。

 過去に体験したことを、睡眠中に再生。
 それを知覚することで研究のために必要な部分を、抜き出す。
 それが人形遣いたる私の、“夢”の見方だ。

『おかしいわね……確かに幻想郷へ出たはずなのに』

 だから今私が見ている“これ”は、過去に体験したことでしかない。
 仇討ちのために幻想郷へ行き、魔理沙に敗北した。
 その後、“グリモワール”を理解することでスキルアップを果たし、お母様にいただいた素体を持って幻想郷へ向かった。

『どこよここ……森、よね?』

 けれど、私が入ったのは幻想郷ではなかった。
 いや、正確には幻想郷なのだろう。

『何時まで経っても夕焼けばかり。そろそろ別の景色が見たいわね』

 夢の中の私を、頭上から見る私。
 私はため息と共に肩を落とすと、指に魔力を込めてお母様に貰った素体を引っ張る。
 黒く大きな、七つの棺だ。

『うーん、困ったわ』

 私はそう、途方に暮れる。
 魔理沙に再戦を挑んだとき、幻想郷の地理は把握していた。
 そのはずなのに、覚えた場所に覚えた物がないのだ。

 霧の湖に浮かぶのは、巨大な屋敷。
 ――吸血鬼が門番を務める、あべこべな屋敷。

 人里にある力持つ人間の集団。
 ――御阿礼の家系とは別に、自警団のような仕事を負う名家。

 少しずつ違う世界。
 それらから感じる違和感。
 仕方なく私は、適当な空き家を見つけて研究を始めた。
 早く、お母様から貰った素体を、弄ってみたかった。

『あれ?えーと……起動のロジックがわからないわ』

 けれど、素体に回路を組み込むために、棺を開けることができなかった。
 素体を起動するためのロジックを打ち込まないと、素体を取り出すことは叶わない。
 それは、私が人形遣いを目指すと決めたとき、お母様が私にくれた試練だった。

 最低限、自立人形を作る上で必要な“思考”がある。
 その“思考”を持たないものは、自立する人形なんか作れはしないのだ、と。

『はぁ、やっぱりまずはここを抜け出さないとダメみたいね』

 面倒だけれど、仕方がない。
 魔界という環境からでて、新しい環境の中で技術を磨きたかった。
 その目標ができてしまったから、私はこの時には既に、自分たちを打ち負かした人間達から興味を失っていた。

『住民に話でも聞こうかしら』

 だからここで研究を進めても良かったのだけれど、進まないのならここに居る訳には行かない。
 益体もないというのなら、さっさと、抜け出すに限る。

 棺を引っ張りながら、空に浮かぶ。
 誰かに話を聞かなくてはならない。
 そう考えた私は、この不可思議な空に身を投げた。
 七つの棺は重く、それでもそれが必要な重みだとわかっているから苦ではなかった。

 けれど、飛べども飛べども、幻想郷へ通じそうな場所は見つからない。
 だから私は、一度森に降りたって、ため息をついた。

『もう!ここはいったい何処なのよ……』

 肩を怒らせたところで、答えは見えない。
 そこまで苛立ちを感じていた訳ではないが、何かしらの形で感情を表に出したかった。
 いや、出してみたかった、という方が正しいかも知れない。

 それから、どうしたのだったか。

――……………
『え?貴女……』

 何故だろう。
 ここから先、記憶が曖昧になる。
 飛び飛びになりながら、それでも断続的に移される光景。
 試作一番のアリスの記憶を覗いたときに見た――あの、走馬燈の箱のような。

『こんなところで何をしているのかしら?』

 歪んだ空間から、導師服姿の女性が姿を現す。
 そうか、そういえばそうだった。
 この時この瞬間が、私と彼女の、初めての邂逅。

『久しぶりね、八雲の大妖』
『あら?……神綺の所の小さな魔法使いさんじゃない。“あぶれた”の?』
『あぶれた?』

 この時はまだ、彼女が何を言っているのか、理解できなかった。
 それでも私はこの後、“彼女”に引き合わせて貰って、それから仲を深めていく。
 その最中で彼女たちと言葉を交わし、幻想郷の裏側を垣間見て、そうして共に笑い合った。
 その交友は、今でもしっかりと続いている。

 ……いや、でも。
 それだけでは、無かったはずだ。
 過去の繰り返しだというのに、この“夢”は重要なことを私に見せていない。

 どうしてだか、思い出せないことがある。
 私は、結局どうやってこの世界から抜け出し――ロジックを手に入れたのか。

 ここで思い出さなければ、ならない気がする。
 今後の研究のためにも、胸に巣くう違和感を晴らすためにも。
 私はどうやって、今ここに立つことができたのか。

 その答えを、思い出さないと、前に進めない。
 そんな気がしてならなかったから、私は“夢”の中で自身の内側に意識を向けた。
 すると、それが悪かったのか、今度は夢が覚めそうになって焦る。



――………がないな。
 もう少し。
――…め。そ……れば、何時…………は………に、…を貸す。
 まだ、終えたくない。
――………か、わか…か?
 なん、で?だった、か。
――そんなんだから……なんだ。
 なによ、それ。
――…いか、よく………おけ。…れたら、……でも…………せてや……ら。
 ねぇ、あなたは、なにが言いたいの?
――……貸す……は、た…………だけ。それは………が――私の“……………”だか…だ。
 よくわからないけど、わかったわ。



 世界に光が満ちる。
 そうして、七色の光が――弾けた。
















霧雨魔理沙は知っている ~七色の人形遣いの一~
















――1・月の日/回り始める環――



「おーい、アリス?」
「ぇ――ぁ」

 意識が、浮上する。
 過去の再確認をしたいがために、胡蝶夢丸を処方して眠りに更けることはある。
 けれど、夢の内容を覚えていないなんて、珍しい。

「おまえがぐっすり寝ている所なんか、初めて見たぜ」

 そう言って笑う、淡い金の髪。
 肩を竦めて皮肉げに笑う姿は、ほどほどに似合っている。
 けれどこいつ……霧雨魔理沙には、きっと子供みたいに笑っている方が“らしい”ような気がした。

「なんでいるのよ?」
「金曜日のアリスが、急にゴリアテ内蔵式食堂を作るとか言い出して――」
「――そう、わかったわ」
「最後まで言わせろよ。おまえの“娘”みたいなもんだろ」

 そう言って、魔理沙は唇を尖らせた。
 こういった姿が彼女が幼いだとか、子供っぽいだとか言われる一因だろう。
 外見では私の方が、ずっと子供だというのに。

「それで、肝心の試作六番のあの子は?」
「いい加減もっとマシな呼び名を考えようぜ。あと、金曜のアリスなら屋上だ」
「そのうち考えるわ。で、屋上?」
「そうだ。星の光から柿の種を抽出すれば三日月になるだとか云々って」

 うーん、やっぱりちょっとやり過ぎたかしら。
 誰に貰ったんだったか、強力なお酒だったからなぁ。
 酔いに任せて作業をするのも、ほどほどにしておかないと。

「そういえばさっき、地下室から月曜のアリスの声が――」
「寂しいのよ、付き合ってあげなさいよ――」

 魔理沙と言葉を交わしながら、“あの子たち”の事を考える。
 最初からある程度魔理沙に好意を抱いていた、二番、四番、五番の子たち。
 魔理沙がそれぞれ、月曜日、水曜日、木曜日と呼んでいる。
 それから次に好意を持ったのが、三番……火曜日の子だ。
 といっても、直ぐに反発心が好意に変わったから、時期は同じようなもの。

 それから最近になって、残りの子たちも魔理沙に好意を抱くようになっていた。
 私に一番似せたはずの、一番……魔理沙が日曜日と呼ぶ、彼女ですら。

「ったく、いずれ纏めて追い越してやるから覚悟しておけよ!」
「ぁ――――ええ、楽しみにしているわ」
「言ったな?そうやって余裕ぶっていられるのも今の内だぜ!」

 余裕ぶる?
 ああ、確かにまだまだ追いつかれはしないと、余裕を持っている。
 あの彼女たちとの“取り決め”で殺さぬように調節せねばならなかった、あの時とは違う。

 もうアリスたちも居るのだし、あの夕暮れの日のように歯がゆい思いを――

――ザァッ
「っ……思考の、混濁?」

 頭の中、瞼の裏にノイズが走る。
 外にいた六番、金曜日のあの子に呼ばれて出て行った魔理沙は、そんな私に気がつかなかったようだ。

 要らぬ騒ぎを引き起こされては溜まらないので、都合が良かった。

「人形でもないのに、自分のメンテナンスなんて――」

 頭痛に、額を抑える。
 自分の身体に何が起こっているのか、いまいち理解しきれない。
 けれど、ある程度の異常を抱えていることは、理解できた。

「一度帰るべきかしらね、魔界に」

 でも、まだ私は達成できていない。
 問題が起きたから帰るというのは、どうにも気にくわない。
 私は未だ、帰りたいとは思えないんだ。

「おーいアリス、手紙だぜ」
「は?手紙?」
「ああ、金曜日のアリスが悟りを開いたような顔で拾ってきた」
「ガンダタばりに糸で何か持ってきたのかしら?ええと――」

 魔理沙から手渡される、手紙。
 フリル付きの白い封筒。
 赤い蝋で封がされていて、そこからは魔力を感じる。

「はぁ、まったく。なにをどこまで把握しているのかしら」

 八雲紫を笑えない、胡散臭さ。
 我らが魔界の母ながら、わからない人だ。

「開けないのか?」
「開けたら最後。特殊術式で魔界まで強制転送よ」
「うげ、神綺のやつか」

 そう、魔理沙も一度渡り合ったことがある、彼女。
 木も花も、川も海も、空も大地も、人も動物も。
 魔界に現存する全ての“過去・現在・未来”の母――魔界の創造神、“神綺”様。

「強制転送とか……そんなこと可能なのか?」
「可能よ。いい?勝手に開くんじゃなくて、自分で開けることで効果を持つの」
「契約が成立するって事か」

 魔理沙は、自身で納得して頷いた。
 こんな時、彼女は普段では考えられないほど、飲み込みが良いのだ。
 魔法使いとしての資質は……まぁ、あるんじゃないかと思う。

「なんだってそんなん送ってきたんだ?」
「――――さぁ、知らないわ」
「なんか隠してないか?顔色、良くないぜ」

 魔理沙が、私の顔を覗き込む。
 まったく、普段は私の娘たちを困らせる程度には鈍いくせに、こんな時ばっかり鋭い。
 一度しっかりと言ってやらないと、だめか。

――私が何を隠していようと、貴女に何か関係があるの?
「大丈夫よ、変な気を回さなくても。なんでもないから」

 あれ?
 なんだか、言いたいことと別のことが出て来た気がするけど……どうでもいいか。
 私がそう告げると、魔理沙は首を傾げながらも頷いた。

「それよりも、そろそろ帰った方が良いわよ。あの子、乗り気だから」
「はぁ?乗り切って一体――」

 魔理沙が、怪訝そうに眉をしかめる。
 それとほぼ同時に、外から声が聞こえてきた。

「ゴリアテ魔理沙……もう、これしかないわ!」
「――またなアリス私はこれで帰るぜ!」

 魔理沙は早口でそう告げると、箒をひっ掴んで飛び去った。
 だんだん離れていく背中と、最後に残した頼りなさげな背中。
 でも、一度空を駆けてしまえば、そんな弱さは全部吹き飛ばしていた。

「幻想郷最速はあの天狗かも知れないけれど、幻想郷“最快速”はきっと魔理沙ね」

 あんなに気持ちよさそうに飛ぶのだから、私も空を飛びたくなってしまう。
 天狗辺りにすっぱ抜かれたら面倒だから、それは叶わないのだけれど。
 まぁ、研究が終わって隠居でもすることになったら、考えてみてもいいかもしれないけれど。

「でも、あれこれ考え始める前に」

 私は、手に持った封筒を掲げる。
 誰か――黒白のは、たまに迂闊だ――が開けでもつまらないので、私は指に強めの魔力を込めた。

――ゴウッ
「ごめんなさいね、お母様」

 赤黒い炎に包まれて、封筒が消えていく。
 闇の中へ、深淵の穴へ、吸い込まれていくように――。
















――2・炎の日/生滅の徴――



 風を受けて、空を飛ぶ。
 後一歩遅れていたら、私はきっと“ゴリアテ魔理沙”として一世を風靡していたことだろう。

 そう考えると、背筋が薄ら寒くなった。

「ふぅ……それにしても」

 箒の軌道を調整。
 直角に落ちて、超低空飛行。
 箒を主軸にした飛行も、だいぶ上達してきた。
 この分なら、箒無しでの高速移動も夢じゃないだろう。

「アリスのヤツ、大丈夫か?」

 誰に言うでもなく、独りごちる。
 今日のアリスは、そう……どこか、おかしかった。
 もちろん気のせいという可能性も、否定できないのだけれど。

「はぁ、今考えてもしょうがないか。後でもう一度、アリスの所へ行けばいい」

 帽子を置いて、箒を立てかけ、八卦炉をスカートの裏ポケットに入れる。
 料理をするにしても、実験をするにしても、空調を弄るにしても八卦炉は必要だ。
 無くてもできるが有った方が楽なんだから、遣わない手はない。

 まな板の上にキノコを置き、適当に野菜を置く。
 氷室に炊いた米が置いてあったはずだから、卵も絡めてキノコチャーハンでも作るか。
 包丁を片手に考えるのは、やっぱりアリスのことだった。

「そういえば、最近アリスのヤツ、よく笑うな」

 切ったキノコとキャベツを、油で炒める。
 名前も知らない変なキノコだが、味と香りが良いから、私は気に入っていた。

 アリスは最近、よく笑うようになったと思う。
 警戒されていない程度、という意味なのか。
 それともある程度、心を開いてくれているのか。
 もうちょっと、自惚れても良いんだろうか。

 卵を絡めてご飯を炒める。
 もうすぐ秋、ということはかなり蒸し暑い日なのに、何故私はチャーハンを作ってしまったのか。

「あー、これじゃ金曜日を笑えないぜ」

 手を合わせて、いただきます。
 いや、金曜日だったらこの程度じゃ済まないか。
 こんなしょうもないドジをするとは、思わなかった。
 これもどれも全部、アリスが“泣きそうな”顔してたのが、悪いんだ。

「ぁむ、むぐ、美味いな」

 自画自賛っても、食わせる相手は居ないんだから仕方ない。
 アリスの家に行ったら、アリスに作って欲しいし。料理の腕的な意味で。

「ごちそうさまっと」

 空になった食器を片付けようと立ちあがり……部屋の中の、違和感に気がつく。
 何か、おかしな空気が入ってきたような、そんな違和感。

「なんだ?」

 食器をシンクに置いて、すぐ戻ってくる。
 気になったことを気になったままにしておくのは、性にあわないからだ。
 そういった意味では、最近気になったことが多すぎて胃が痛い気がする。

「うーん?――――あれ?」

 視線を上に向け、ふと窓を見る。
 そこにぴったりと張り付いた、手紙。

「なんだあれ?うげ、内側からくっついてる。ホラーだぜ」

 何故か部屋の内側に張り付いた、手紙。
 それを見て、私は頬を引きつらせた。
 誰が何の目的でやったんだ?月曜日か?月曜日なのか?

「あー、誰からだよ。ポストに入れるとか無かった――って、これ」

 真紅の蝋で封がされた、フリル付きの封筒。
 それは見間違えるはずもない、アリスの家に届いたはずの、魔界からの手紙だ。
 強制転送術式の研究でもしろって事か?

 私はそれを、躊躇いもなく窓から投げ捨てる。
 こんな怪しいもの、手元に置いておくはずがない。
 さっさと捨てるに限る。

「さぁて、霊夢の所にでも行って茶でもシバくか」

 帽子を被り治し、箒を手に取る。
 そのままドアを開けて玄関へ行こうとして――固まった。

「は?」

 目の前に広がる空間は、私が今出てこようとした部屋。
 後ろを向けば、全く同じ部屋が広がっている。

「なんだ?これ」

 ふと顔を上げれば、そこにはあの封筒があった。
 やっぱり内側から、窓に張り付いている。

「どうなってんだよ、これ」

 近づいて、封筒を手に取る。
 そのまま封を傷つけないように紙飛行機にすると、私はそれに魔力を乗せて全力で飛ばした。

「ふんっ!……これでもう大丈夫だろ」

 いい汗掻いたぜ。
 そう私は額の汗――冷や汗なんかじゃないぜ――を拭うと、今度こそ部屋を出た。

 そして今、項垂れている。

「何の嫌がらせなんだこれは?」

 目の前に広がるのは、変わらぬ風景。
 なんだここまで来ると、意味もなく挑発されているような気がしてきた。
 ああわかった。そっちがその気なら、やってやる。

 八卦炉を使って燃やす。
 ……灰になったはずなのに、復活。
 窓から飛び出てみる。
 ……窓から部屋突っ込んで、机を壊した。もう一度出入りすると復活。
 封筒をコールドインフェルノで凍らせて、ハンマーで砕く。
 ……わざわざ煙突使って出たのに、窓から強制帰宅。封筒復活。

 何を試しても、びくともしない。
 よくわからないうちに、完全に囚われていたようだ。

「どうにかしないとなぁ――――って」

 気がついたら、私はごく自然な動作で封を切っていた。
 開いて、手紙を読めるような体勢になって、気がつく。

「くそっ!手紙に“意識を向けすぎた”か!」

 思考誘導、催眠の初歩。
 暗示からの簡易催眠術だったのだろう。
 なんて、迂闊!

――ふふ、甘いわねぇ。

 声が、聞こえる。
 頭の内側、心の奥底に直接響くような声。
 その声が、手紙から溢れ出た白い手が、私を掴み取る。

――痛くはしないわ。ちょっと、遊んであげて。
「神綺、おまえ……」

 頬に這う、冷たい手。
 赤い魔力が渦巻き、私の心を引っ張る。
 その先に広がる白に、私は寂寥にもにた目眩を覚えた。

「くそっ!うわぁっ」

 耐えきれず、魔力の放流に身を投げる。
 そうしてから、私の背後で――声が、聞こえた。

「魔理沙!」
「アリ、ス」

 手を伸ばすが、届かない。
 桃色のリボンの、月曜日のアリス。
 彼女に伸ばした手は、確かに届いたと思ったのに。

「魔理沙、ダメ!」
「ぐっ、すま、ん」

 必死な声を耳朶に残しながらも、抵抗できずに吸い込まれる。
 そうして意識が途絶える瞬間――私は、“私の身体”を抱いて呆然とこちらを見る、アリスの姿を捉えた……。

 世界が、白に染まる。
















――3・水の日/流れ出でる兆し――



 大きな足音が響いて、目を開ける。
 どうも最近、うとうととすることが多くなった。
 種族魔法使いに睡眠なんか必要ないはずなのに、妙だ。

 なにか、過去のことを思い出そうとしている?
 ……大切なことを、忘れていると言うことだろうか。

「マスターっ!!」
「なに、どうしたの?アリス」

 試作二番、月曜日の“アリス”が部屋に飛び込んできた。
 名称なんか“アリス”一括で十分な気がするのだが、魔理沙は神経質だ。
 ニュアンスで、呼び分けくらいできるだろうに。

「まりさっ、魔理沙がっ」
「は?……これは」

 顔をぐしゃぐしゃにして泣き出したアリスを、驚いて出て来た水曜日のアリスに任せる。
 そうしている間に、魔理沙の下へ全てのアリスが集まってきた。
 本当に、娘たちに好かれているのね、こいつ。

「魂が、抜かれている?」
「マスター、魔理沙は大丈夫なの?」

 アリスを宥めていたアリスが、心配そうな声を出した。
 とりあえず肉体機能保存の魔法を施すと、私は首を振る。

「わからないわ。更に言えば、人体に対してのプロフェッショナルでもないから、これで処置が正しいのかも」
「そ、そんな、どうにかならないの!?」

 火曜日のアリスが、私に詰め寄る。
 焦りに見た表情からは、普段の反発心が窺えない。
 心の成長が進んだのは嬉しいが、乱れすぎだ。

「見たことある術式だけど……まあいいわ。まずは永遠亭で肉体への対処を考えましょう」
「それなら私が行くわ。この間、永遠亭へ行ったばかりだし」
「ああそうね、ただ――説明含めて、私も行くわ」

 余計な騒ぎは面倒だけど、私が行くだけなら“アリスの人形”で充分に誤魔化せる。
 同形態のアリスが行くよりも、ずっとマシでリスクが少ない。

「しょうがないわね」

 試作一番、日曜日のアリスは、そう言うと魔理沙を横抱きにする。
 俗に謂う“お姫様だっこ”というやつだ。魔理沙もアレで乙女チックだから、喜ぶだろう。

 ……あれ?どうしてこんなことを考えているんだろう?
 思考の混乱?何故?動揺でもしている?何に?どうして?

 まぁ、いい。
 今はひとまず、魔理沙を運ばなくてはならない。
 永遠亭に運んで、まずは魔理沙の容体を聞かないと。

 私はそう意識を切り替えると、玄関から出て魔法の森の空を飛ぶ。
 魔法使いである私にとってこの程度の瘴気はどうにかなるものでは無い。
 けれど、人間である魔理沙にとって、ここは毒だろうに。

「竹林への道のりは、大丈夫なの?」
「今、私か魔理沙に対しては常に開かれるようになっているみたいよ」
「そう、それは便利ね」

 記憶の閲覧はしたが、まぁいつもように魔理沙が縁の下でマスタースパークでも撃ったのか。
 いつの間にか、関係改善の運びになっていたようであった。

「いつの間にか、オープンな迷いの竹林になったのね」
「そうね。もうたぶん、他者を強く拒絶することはないんでしょうね」

 アリスが、感慨深く呟いた。
 彼女は果たして、こんなに声に心を乗せられる子だっただろうか?
 娘の成長だし、素直に喜んでおくのが一番、かな。

 竹林を飛行し、大きな屋敷の前で止まる。
 開業医もしているという、月からやってきた住人の住む屋敷。
 それがここ、“永遠亭”だ。

「鈴仙!」

 その屋敷の前にいた、兎の妖怪。
 月の兎とか言う種族らしい、鈴仙・優曇華院・イナバにアリスが声をかける。
 鈴仙はアリスを見て、それから怪訝そうに私を見て、再び視線を戻して目を瞠った。

「ちょ、ちょっと、魔理沙!?」
「永琳に魔理沙のことで、相談したいことがあるわ。急げる?」
「ま、待ってて!」

 鈴仙はアリスの言葉に頷くと、慌てて屋敷の中へ引っ込んでいった。
 どうでもいいけど、客人を外に待たせたままにするのはどうなのだろう。

「入りましょう、マスター」
「あら、いいの?」
「問題ないわ」

 アリスに促されて、屋敷に足を踏み入れる。
 思えばこうして出歩くのも、何時ぶりだろう。
 ついこの間天界へ行ったが、やはり出歩くのなら地上の方が良い刺激になる。

 板の間を進んで、早足になっているアリスに着いていく。
 そんなに焦るほど、魔理沙を気に入っていたのだろうか?
 私は魔理沙を……どう、思っているんだろうか。

「待たせたわね」
「永琳……」

 考え込んでいると、いつの間にか広めの部屋に出ていた。
 待合室なのだろう、椅子などもある。

 そこにいた私たちに声をかけたのは、銀髪に赤と青の不可思議な服を着た女性だった。
 確か、彼女の名前は八意永琳、だったか。

「あら……貴女は?」
「アリスの人形、アリスです。それよりも今は魔理沙を」
「ああ、そうね。それで“相談”というのは?」

 永琳は、私に促されてその場で魔理沙を見始める。
 幻想郷では早々見られないペンライトを取り出し、瞳孔を見て目を鋭くする。
 そんな永琳の様子を見ながら、アリスは永琳に説明をしていた。

「魂を抜き取られたの。取り戻す間、魔理沙をどうしておけばいい?」
「魂と肉体は密接に関係しているわ。衰弱死してしまわないようにするのはもちろん、魂の在処により近い場所に、肉体を置かないと」

 試作二番、月曜日のアリスの話だと、私にと届いたものと同様の手紙によって、魂を抜き取られたらしい。
 ということは、魔理沙の魂は……魔界にあると言うことか。

「その間の対処だけど、大がかりな機械を持ち運ぶ必要が――」
「――その必要はないわ、永琳」

 永琳の背後から響いた、声。
 黒い滑らかな髪に着物を纏った、絶世の美女。
 おとぎ話の姫、蓬莱山輝夜が立っていた。

「彼女の肉体にかかる影響を、“永遠”に引き延ばす。一時的なものだから、急がないとならないのは変わらないけれどね」
「あ、ありがとう……輝夜」

 アリスが素直に礼を言うと、輝夜は優しげに微笑む。
 彼女は、こんな笑顔を見せられるひとだっただろうか。

「いいの。だって彼女は、“ともだち”ですもの」
「友達?」
「そうよ、小さなアリス。だから、魂を手に入れられなかったら承知しないわよ?」

 悪戯っぽく笑う輝夜。
 だけれど、その瞳には真剣な輝きがあった。

「他にも手伝えること、ある?」
「……いいえ、大丈夫よ。ありがとう、輝夜」

 私が前に出て、礼を言う。
 魔界に来てくれとは、言えない。
 そう簡単に出入りして良い物では、ないからだ。
 私が燃やしたあの“手紙”無しだと、私たちですらすんなり行けるのか謎なのに。

「力が欲しかったら、何時でも言いなさない。私も妹紅も、永遠亭も。何時でも力になるから」

 メリットデメリットでは、計れない関係。
 そこまで様々な方面から好かれている魔理沙に、私は内心で苦笑した。
 その気質が、厄介事に巻き込まれる一番の要因だろうに。

「マス……アリス、どうするの?」
「一度戻るわ。対策を考えないと。世話になったわね、ありがとう」
「助かったわ、輝夜、永琳、鈴仙」

 その場にいる全員に声をかけ、それから直ぐに屋敷を出る。
 これから考えなければならないのは、如何にして魔界へ行くのかと言うことだ。

「魔界、か」

 遠く過ぎ去った地。
 忘れ得ぬ懐かしき故郷。
 私は帰って、それから何が出来るのか。

 青く広がる空は、私になにも教えてはくれなかった――。
















――4・樹の日/創生の檻――



 世界が、白に染まる。
 白はやがて色を持ち始め、瞬く間に極彩に染まった。
 虹の向こう側を、覗いているかのように。

「――ったぁ」

 そこに私は、思い切り放り出されて転がる。
 くそっ、腰打ったじゃないか。痛い……。

「なんなんだよいったい……って、ここ、どこだ?」

 あの“手紙”に吸い込まれた時点で、あの趣味の悪い空が広がる場所へ。
 魔界へ飛ばされたのかと思った。

 けれど、私の目の前にある空間は、そんな趣味の悪い赤黒の空が広がる場所では、無かった。

 見渡す限りに広がる青い空。
 柔らかく浮かぶ白い雲。
 優しく輝く太陽。
 常に在る虹。
 それに、花畑と木々の立ち並ぶ森まであった。

「幻想郷……でも、こんな場所は知らないな」

 こんな、如何にも平和って場所は、幻想郷にはない。
 なにせ、花畑に行ったら毒に冒されるような場所だからな。
 となると、ここは一体何処なのか。

「うーん、なんにせよ、誰か探さないと」

 私を連れてきた、神綺の思惑がわからない。
 ついでに言えば、ここに来る前に見た“私の身体”の意味も。

「もしかして私今、霊体だったりするのか?」

 そう考えると、途端に血の気が引いた。
 私の身体がどうなっているのか、ここからでは全くわからない。
 魂だけ持って来られたんじゃなく、神綺が私のデコイをあの場に残したとか、そんなんなら無事だろう。

「でも、希望的観測ってやつだろうなぁ。くそっ」

 拳を、握りしめる。
 なんだって私がこんな目に遭わなきゃならんのだ。
 元凶を見つけ出したら、妖精尽滅光――すごくやる気がなくなる――を連続照射してやる。

「あー、止め止め!変なこと考えてるより、できることをやった方がずぅっと生産的だぜ」

 となるとやっぱり、最初にすべきことは“ひと”探しだ。
 人間なら大歓迎だが、この際だ、妖怪だろうと妖精だろうと魔界人だろうと、選り好みはしない。

「八卦炉も、箒もある、帽子もあるんだ。だったら」

 だったら、なにも変わらない。
 普通の魔法使い、霧雨魔理沙のままだ。

 箒を片手に掴んで、助走。
 一歩踏み込むと同時に、魔力を込めた。

――ドンッ
「うわっ!?」

 だが、その瞬間、足下が弾けた。
 踏み込んだときに込められた魔力が、強すぎたんだ。
 何時もと変わらない感じで、練り込んだはずなのに。

「魔力が濃い、のか?」

 それは――厄介だ。
 元々私は、保有魔力ではなく外から補った魔力で魔法を扱う。
 だから周囲の魔力が濃いとわかっているのなら、上手く調整して大威力の魔法を扱うことが可能になる。

 そう、“身体が耐えられた”ら、という条件付きで。
 妖怪の身体ならまだしも、人間の身体は強い魔力には耐えられないのだ。
 だから魔力が濃いなんて、厄介ごと以外の何ものでもなかった。

「どうすっかなぁ」

 呟いていても、仕方がない。
 そうやって座り込み、真っ直ぐ前を見据えたときだった。

「うん?あれは…………ひと?人か!」

 花畑の先、そこに座り込む……小さな、人影。

「第一原住民発見だぜ……おーいっ」

 今度こそ魔力を調整、浮かび上がる。
 伊達に魔力を込めた箒に跨って、特攻するスペルを使っている訳じゃないんだ。
 この程度なら、直ぐに調整できる。……やり過ぎると、冗談じゃなく身体に悪いけど。

「なぁアンタ、ここがどこだか知ら、な、い……か?」

 花畑で花を摘む、幼い少女。
 その近くまで飛行し、静止し、声をかけて――言葉に、詰まった。

「――なん、で、え?…………アリス?」

 金の髪に、青いリボン。青いスカートに、青いサスペンダー。
 私を見て、幼げな仕草で首を傾げるのは……見まごう事なき、“アリス”だった。
 七人のアリスたちの統括者である、幼いアリスだ。

「あ、ねぇ貴女!」
「お、おう?」

 元気な声と、明るい笑顔。
 いや、ダレダコイツ?

「貴女、魔理沙でしょ?お母様、ホントに連れてきてくれたんだぁ。ふふっ」
「いやおまえの言っている魔理沙が霧雨魔理沙なら確かに私だが……おまえは?」

 私が名を訊ねると、アリスもどきは頬を膨らませる。
 外見に似合わず大人びていたはずなのに、今は外見よりも幼く見えた。

「さっき自分で呼んだじゃない!もう!」
「え?それじゃあおまえ、アリス、なのか?」
「そうよ。なんで不思議そうなの?」

 わ、わからん。
 アリスとは、違うアリス?
 今までも謎っぽいことは沢山あったが、その中でも一番意味がわからん。

「人形遣いで魔法使いで死の少女なアリス、だよな?」
「人形遣いかどうかは微妙で魔法使いだけど、死の少女じゃないわ」
「は?そこだけ否定するのか?」
「そう」

 アリス――暫定、だけどこの場に他のアリスがいないので、アリスで――はそう言うと、立ち上がって胸を張った。
 その仕草に意味があるかなんて知らないけど、まぁ箒から降りて経過を見てみる。

「私はアリス……“夢の国の少女”アリス」

 幼げな笑みに、翳りは見えない。
 ただただ、無邪気に微笑んでいた。

「“元人間”の、魔法使いよ」
「へ?」
「聞こえなかったの?もう!だから私は――人間から、お母様の娘に“して”いただいた、種族魔法使いなの!」

 だめだ、字面どおりに受け取れば受け取るほど、混乱する。
 アリスは魔界人、だったはずだ。
 それに間違いはないし、本人もそう言っていた。

 それなら、このアリスは?
 いやそもそもこいつは、私のよく知るアリスの……“何”なんだ?

「なぁ、おまえは……」
「そんなことはどうでも良いから、せっかく来たんだからここを案内するわ!」
「え?いやそれこそどうでも……良くない、な」
「でしょ!」

 アリスはそう、無邪気に笑う。
 私がここにいると言うことを、心の底から歓迎する笑顔。
 あいつと全く同じ姿形だからこそ、むず痒い。

 アリスは軽く浮かび上がると、箒に跨る私の手を取った。
 その手は私のよく知るアリスとは違い、温かい。
 笑顔も、体温も、なにもかも“アリス”とは正反対な、アリスだった。

「ふふ、あっちが虹の泉!それで、向こうが夢の園!それでそれでっ!」
「おい、そんなに早く言われても着いていけないぜ。あと、そんなのはいいから出方を」
「それは最後!」

 最後に教えてくれるのか。
 口から出任せかも知れないが……脱出方法を聞いてからでも、この温かい手を振り払うのは遅くない……はずだ。

 アリスは私の手を引っ張ったまま、力強く飛んでいく。
 その横顔に、輝かんばかりの笑顔を携えたまま。


 虹色に輝く湖。
 見たこともない植物に満ちた花園。
 水晶と黄金と銀だけで構成された山。
 無限とも思えるほどの蔵書が詰まった塔。
 やたらと大きな木にやたらとファンシーなキノコが生えた森。

 ――どこをどう回ろうとも、“動物”の類は、見えない。


「ほら、風が吹くよ!」
「は?――うわっ!」

 アリスの声に従って、大きな風が吹く。
 私が慌てて帽子を押さえると、視界が豊かな桃色に染まった。

「ここが最後!」

 それは、桜だった。
 淡い桃色の花弁が、視界一杯に広がっている。
 その幹は向こう側が見えるほどに透きとおった水晶で、実は黄金。
 花弁には常に水滴が溜まっていて、その一粒一粒が虹色に輝いている。

「ここは、なんだ?」
「ここは“終点”なの。ここで私は、お母様にお話を聞かせて貰っていたわ」
「お母様……神綺のやつは、なんて?」

 私が問うと、アリスは微笑む。
 その笑顔は、そう、無垢なんだ。
 罪も穢れも罰も淀みも、なにもかも持たない純粋さ。

「“ここに連れてくるのは、貴女が夢見てた貴女の友達。決して、ここから出られはしない”」

 なるほど――“邪気が無い”とは良く言ったもんだぜ。
 おそらく神綺の言葉を復唱しているだけなのだろう。
 声に怯えはなく、瞳に濁りはない。
 純粋であるが故に、残酷。

「そうか。それなら、無理にでも破らせて貰うぜ――ッ!」
「え?魔理沙?」

 アリスが私を、悲しそうな目で見る。
 だが、ここで大人しく囚われているほど……私は、大人しくはないんでな!

「恋符【マスタァァァァッ!!ス…………ッ」

 八卦炉に魔力が渦巻き、突然肥大化する。
 最初に感じた魔力の奔流は、理解していた。
 そのはずなのに、予想を遙かに超えた魔力が私の身体を駆け巡り――身体の節々に、鈍い痛みを与えてきた。

「あぐっ!?」
「魔理沙!だめだよ、人間じゃこの空間の魔力には耐えられないわ」
「な、んで」

 アリスは無様に転がる私に近づくと、しゃがみ込んで私を覗き込んだ。
 心配と、それから私が出て行かなかったことに対する“安心”を浮かべて。

「ここは私がより自由に過ごせるよう、高い魔力を保有した状態でお母様が私にくれた“虚無”の空間」
「虚、無?」
「そう、そこに私は、全てを備えたの」

 木も山も、川も湖も、花も植物も。
 地面も空も、太陽も星も、昼も夜も。
 ――全てが全て、この“アリス”が生み出した、空間。

 その意志を、アリスは“世界”を音のように震動させて、伝えてきた。

「だからね、出方は簡単。“精神の崩壊”による、永遠からの解放」

 アリスは笑う。
 漸く回復し始めて、膝を着く私の前で。

「ここは現実となにもかも変わらない“夢の国”なの」

 歌うように、楽しそうに、嬉しそうに。

「ここで怪我をすれば現実でも怪我をするし、ここで死ねば現実でも死ぬ。でも生きてさえいれば、現実の魔理沙も死なない」

 そう、言葉を紡いでいく。
 その声に、音に、響きに、全ての思考を奪われ――

「だからここにいましょう?それが一番幸せだって、お母様も言っていたわ」
「……そう、か」

 ――たりは、しなかった。
 さっきからずっと、本当に嬉しそうに言う。
 けれどアリスからは、アリス“本人”の言葉が、一つもないんだ。

「それ、で?アリスは……アリスは、どう思ってるんだ?」
「え?私も一緒よ。魔理沙と……“私”みたいに笑い合えたら、楽しそうだもの」
「そうじゃない、アリスはそれでいいのか?私を無理矢理閉じ込めて、それで終わっていいのか?」
「言っている意味が、わかんないわ」

 アリスは拗ねたように、むくれた。
 リスみたいに頬を膨らませる姿は、如何にも小動物チックだ。
 けれども、その瞳は、僅かに揺れている。

「会いたいなら、会いに行けばいい。夢の世界だかなんだか知らないが、私と一緒に出ればいい」

 私がそう、手を差し伸ばす。
 何時でも掴めばいいと、アリスの目の前に、手をかざして見せた。

「ダメよ、だって私、身体が弱いから……」
「身体が弱い?それならちょうど良いぜ。私の友達の保護者に、腕の良い医者がいる」
「ダメよ、ここから出られないもの」
「試してみたのか?――そうじゃないんなら、やってみるだけでも価値はあるぜ」
「ダメよ、お母様に怒られちゃうわ」
「おまえの幸せを願っているんだろ?だったら、問題ないはずだ」

 アリスは、私が何を言っても“ダメ”と繰り返す。
 まるで、ここから出たくないように見える。
 でも本当に出たくないなら――きっぱりと、拒絶するはずだ。

「だめだめだめ、ダメよ」
「どうしてだ?どうしてそんなに、自分を抑える?」
「だって、私が我が儘を言ったら、“お父さん”も“お母さん”も困るから、だから!」
「っ――アリス?」

 アリスの周囲に、白い光が渦巻き始める。
 その光に怯んで、私は大きく一歩下がった。

「私のせいで迷惑をかけてるのに、私が健康だったらそれでよかったのに!」
「おい、落ち着け、アリス!」
「私が、私が望んだら、私は望むだけでも罪なのにっ!!」

 光が強くなり、やがてそれは周囲の空間を削りだした。
 くっ……まずい、近づくことも出来やしないぜ。



「また、またあんなに“苦しい”のは――イヤっ!!」



 アリスの、無邪気に笑っていたアリスの、胸の内側。
 それは胸を引き裂かんばかりの、悲痛な声。
 何かを渇望し切望し諦めて失望した――絶望の、旋律。

――ドンッ!
「ッ」

 世界が、白に包まれる。
 アリスを中心に“白”が溢れ出て、瞬く間に空間を呑み込んだのだ。

「くそっ……アリス?」

 光が収まると、そこは白一色の空間になっていた。
 そこに、アリスの姿は――ない。

「おーい、アリスゥゥッ!!」

 呼んでも、返事はない。
 喉が痛むほど声を張り上げても、返答は得られなかった。

「整理、するか」

 所々に、気になる言葉があった。
 身体が弱い、望むことが罪、父親と母親。
 そして――“苦しいのはイヤだ”という、叫び。

「あー、わからん!なんにしても、アリスを捜し出して……一言、謝らないと」

 追い詰めたのは、私だ。
 アリスに――“アリス”に、あんな顔をさせたかったんじゃない。
 だからまず最初に、謝ろう……。

――そう、それは良い心がけね。
「ッ!」

 思わず、八卦炉を構えて飛び退いた。
 私の背後、斜め上、白い空間にできた……歪み。

――まったく、女の子にはもっと親切にするものよ。紳士じゃないわね。

 そこから、赤いドレスが見えた。
 ドレスと言うよりは、ワンピースだろうか。

 肌をほとんど隠した赤い服。
 雪を溶かし込んだような白い肌。
 夜空に穿たれた恒星という名の穴を連想させる、銀の髪。

「失礼なヤツだな。私は少女だぜ」

 圧倒的な魔力。
 陶酔したくなる、存在感。
 魔界に来て、打ち倒したときとでは考えられないほどの、プレッシャー。

「――どちらにせよ、自分で言うものじゃ無いわね」

 魔界の神。
 魔界の全てを生み出したという、世界創造の神、創世の主。

 それがこいつ――“魔界神、神綺”だ。

「さて、どういうつもりだ?」
「どういう?決まっているじゃない――“アリス”を幸せにしてあげたかったの」
「はっ、思考誘導までして、か?」
「そうよ」

 言い切ってみせる。
 自分勝手で我が儘で、傲岸不遜。
 それでもその姿に翳りを見せず、常に超然としていた。

「それが己に依らない感情だったとしても、抱いている間の幸福に翳りはない。なにか、間違ったことを言っているかしら?」
「間違いだらけだな。慧音の寺子屋にでも通ってこい。気がついた途端に崩壊する幸福に、なんの価値が在る」

 神綺は私の反論を聞くと、呆れたようにため息を吐いた。
 一々癇に障るヤツだ。

「手が届く範囲の幸福しか知らないのね」
「一人で求めることしか、知らないのか?」

 平行線だった。
 神綺はどこまで私の言葉を呑み込んでいて、どこを拒絶しているのかわからない。
 一つわかる事があるとすれば、私をここから出す気は無いと言うことだけだ。

「……なぁ、幻想郷のアリスとここのアリス、二人の関係って何なんだよ?」
「アリスちゃんはアリスちゃん。同じアリスちゃんよ」
「同じ?二人が正反対だってことくらい、わかるぜ」
「そう、それだけわかっていればいいじゃない」

 神綺は三対六枚の黒い翼を羽ばたかせると、私からゆっくりと離れた。
 このまま逃がしたら、次はいつ出てくるかわかったもんじゃないぜ!

「おい神綺!恋符……ッは、キツ、いか……なら!」

 八卦炉から抽出する力を、最小限に留める。
 そのまま放射しても、普段ならそれこそ懐中電灯程度の光になるだろう。
 でも、増幅するこの流れがあるのなら……!

「“ナロースパーク”!」
「危ないわね」

 神綺は事も無げに、防ぐ。
 神綺の正面の空間が歪んで、ナロースパークが打ち消された。
 分かりきった結果だったが、でも足を止めさせることはできた。

「仕方ないわね……アリスちゃんは私が宥めておいてあげるわ」
「ああそうか、ついでに説得してくれても良いんだぜ?出してやれってな」
「あの子に直接頼んでみることね。無駄でしょうけど」
「そうかよ、もう少し娘を信用してやったらどうだ?」
「しているわ。誰も彼も、平等に」

 それだけ言うと、神綺は今度こそ消えていった。
 そうすると同時に、世界に“色”が戻り始める。
 きっとこれから、さっきまでアリスが居た世界が再生されるのだろう。

 私は、もう残り少ないであろう、“一人の時間”で頭を抱えた。

「どうしろってんだよ」

 結局、大事なことはなにもわかっていない。
 わかっていない……けれど。

「ここから出ないと、きっとなにも解決しない。誰も彼も、止まったままだ」

 そう、それだけは、私にだってわかる。
 ここから出て、真意を問いただして、真相を掴み取る。

「そのためには……いや、その前に、アリスに謝らないとな」

 呟くと、同時。
 世界が再構築され、私は再びあの花畑に放り出された。

 アリスと出会った、あの花畑に――。
















――5・黄金の日/輝き掴み取る導――



 魔理沙の身体を、横たえる。
 魂を抜き取られた身体に、どれほどの時間があるかわからない。
 肉体の保存、蓬莱の薬を作る訳でもないのに、能力だけでどこまで持つかもわからない。

「魔理沙ぁ」

 月曜日のアリスが、魔理沙に縋り付いて泣く。
 太陽のような快活な笑顔は、見られない。
 それが、そのことが、悲しくて仕方ないのだろう。

 私も、アリスのそんな姿を見るのは、辛い。
 ――――それだけの、はずだ。

「これからどうするの?マスター」

 唇を噛みしめ、痛みを堪えた表情。
 小さな声でそう言った木曜日のアリスの手を、隣で水曜日のアリスが握りしめていた。

「どうにか!魔理沙を、助けなきゃ!」

 火曜日のアリスが、魔理沙の手を握る。
 そうされたら、困ったように笑うはずなのに、彼女は目を開けない。

「魔界への道がなんだっての。私が爆破すればいい」
「それなら私はゴリアテを用意するから、そこ一杯にアルフレッド先生人形を詰め込んで」

 土曜日のアリス、次いで金曜日のアリス。
 二人が口々に、鋭い視線でそう言い放った。

「そんなことをしたら、八雲紫に何をされるかわかったものじゃ無いわ」
「あ」
「う」

 二人は、それきり黙ってしまう。
 ただ歯がゆさを堪えるように、俯いている。

 私だって、すんなり行けるのなら行っても良い。
 でもお母様だって何か考えがあるだろうし、幻想郷に歪みを持たせる訳にだっていかない。

「私に、私たちに、現状でできることは――」
「――できることじゃなくて、“どうしたい”かはないの?マスター」

 私に、静かに告げられた声。
 さっきまでずっと黙り込んでいた、アリス。
 試作一番、日曜日のアリスが、壁に背を預けて佇んでいた。

「……さっきから言ってるでしょ?私にできることはないの」
「さっきから貴女は、状況を告げているだけじゃない。マスター、貴女の意志は?」

 俯いていたアリスが、顔を上げて私を見る。
 私の視界を覗き込んで、私の心を透かそうとする。
 この子は――誰よりも、私に“似せて”生み出したはずなのに。

「マスター、私は何が出来るかなんて聞いていないわ。“どうしたい”のか聞いているの」
「どうしたい?私が望むのは、一番効率の良い解決方法だけよ」

 目を逸らす。
 全てのアリスに視線を向けられて、答えを求められて、私は初めて目を逸らした。

「解決方法?解決を望んでいるのに、なにを恐れているの?」
「別に私は、私は、怖がってなんか」

 いない、はずだ。
 でもだったら、どうしてこんなにも――――胸が、痛むんだろう。

「マスターにとって魔理沙は何?研究対象?隣人?幻想郷の、一住人」
「私にとっての、魔理沙?」
「そう、私たちはみんな、自分にとっての“魔理沙”を感じている。私にとっての魔理沙は、相棒。それじゃあ、マスターは?」

 私にとっての魔理沙。
 彼女はなんだったのだろう?
 どうして私はこんなにも、躊躇っているのだろう。

「マスター、貴女は変化を怖がっている。変わっていく事に、躊躇いを覚えているわ」
「断言、しないでちょうだい。私は、私は……」

 答えが出ない。
 答えが出ず俯く私に、日曜日のアリスはゆっくりと近づいた。
 私の正面に立つと、彼女の腰が私の目線になる。

「私にとって、魔理沙なんか、ただの研究たいしょ――」
「――自分を偽って、何を求める気?目を醒ましなさい、“アリス”!」
――パァンッ!

 日曜日のアリスが、私の頬を強く叩く。
 意図せずに発動しているのだと考えていた、創造主への絶対服従。
 それを、彼女は、己の意志で以て塗り替えた。

「私が、私たちがアリスをマスターと呼び従っているのは、貴女のことを慕っているから。だから、私は、貴女が自分を押し込めているのを見るのが……もう耐えられないの」

 自分を、押し込めている?
 なんで?どうしてそんな必要があるの?


 だって、私は。
 ――いいか、よく覚えておけ。

 お母様に作られた。
 ――忘れたら、何度でも思い出させてやる。

 お母様と、それから、“彼女”のために作られた。
 ――それは、“アリス”が私の……。

 “自立人形”なんだから。
 ――“パートナー”だからだ。


「ぁ」

 封印されていた、記憶。
 私がなんの雑念もなく研究に没頭できるよう、封印した記憶。
 それと一緒に封じ込めてしまった、“あの日”の記憶。

「ああ、そうか、そう、だったんだ」

 頭を抱えて、一歩下がる。
 その先は、動かない魔理沙の姿があった。
 人形遣いになるために、必要なロジック。
 生ある者への“関心”無しに、どうして“生”を象れようか。

「もう、どうしてあの時、あんな場所にいたのよ?魔理沙」

 動かない魔理沙の頬に、手を添える。
 いつも子供みたいに温かいのに、今はこんなにも冷たくて。

「ねぇ、みんな」

 みんなに背を向けて、問う。
 その間、みんなは静かに耳を傾けてくれた。

「私に力を、貸してくれる?」

 魔界から持ってきた、二体の人形が浮かび上がる。
 上海人形と蓬莱人形。思えば、彼女たちにもずいぶんと無理をさせた。

「問うまでもないわ。みんな――――答えは一緒だもの」

 試作一番……いや、番号で呼ぶのはもう終わりにしよう。
 ひとまずは、魔理沙がつけてくれた呼び名で呼んで、それから名前をつけよう。
 魔理沙と二人で……ううん、魔理沙と私“たち”で考えれば、みんなも喜ぶだろうから。

「生体人形保存容器――ゴルゴタの棺を用意して」
「アリス……」
「迷惑、かけたわね」

 振り向くと、日曜日のアリスが私の頬に手を当てた。
 冷たさが優しいなんて、魔理沙が居なければ、私はきっと一生気がつけなかった。

「さぁ、操り糸を断ち切り、己の意志で立ち上がりなさい」

 家の扉を開け放つ。
 外は夕暮れ、気がつけば、こんなにも時間が経っていた。
 こんなにも時間を掛けてしまった私は、きっと誰より愚か者だ。

「さぁ、出陣よ!――アリス・“人形遣いの人形≪メイガス=ロイド≫”」

 私の後ろに、七人のアリスが付き従う。
 誰よりも信頼する、私の娘たち。
 私の大切な家族とともに、大切な“友達”を助けに行く。

 この子たちが、私に反抗できた。
 創造主の頬を、打つことが出来たんだ。

 だったら私が、お母様を恐れる必要はない。
 お母様を乗り越えることだって……できるから!

「さぁ、行くわよ!」
「待って、マスター」

 日曜日のアリスに呼び止められ、彼女の視線が私の正面に向けられていることに、気がつく。
 そうして目を向けると――目の前の空間に、亀裂が、入った。

「――決意をしたところ、申し訳ないのだけれども」
「ッ」

 ……忘れてた。
 神社の側に在る、魔界への入り口。
 封印されたそこへ向かおうとする私たちの前に、艶然とした声が響く。

「封印を壊されると困るのよ。また、何が溢れ出すとも限らない」
「……紫」
「それがわからない訳でもないでしょう?アリス」

 扇子で口元を隠し、眼を細める。
 誰よりも幻想郷を愛する彼女の、鋭い視線。
 そこに込められた威圧感は、お母様の“本気”すら連想させた。

「“友達”助けに行くの。だからそこを退いて、紫」
「人間の友達を?貴女よりも、遙かに早く死んでしまうのに?」
「関係ないわ。魔理沙は友達……それだけよ」

 それでも、負けられない。
 負けられないから、私はグリモワールを掲げる。

「ここで私を敵に回してしまったら、貴女の夢は終わりを告げる。それでも?」
「終わらせないわ。全部手に入れるって、決めたのよ」

 手を上げると、七人の娘がそれぞれ人形を構える。
 人形遣い“アリス・マーガトロイド”として、幻想郷と戦うために。

「夢は掴み取る、決して諦めない――それは私が、幻想郷で教えて貰ったことよ」
「ふふ、幻想郷で、ねぇ」

 紫は笑う。
 底知れない笑みに……優しさを、乗せて。

「そうよね……彼女が居ないとここも寂しくなりますわ」
「え?紫?」

 紫が纏っていた威圧感が、霧散する。
 まるで最初からこの選択を決めていたかのような、そんな笑顔だ。
 あれ?なにこの生温かい笑み。

「紫?」
「通さない、とは言っていませんわ。ただ、結界を壊されると困るから、境界を通っていていただかないと、と」
「……紫、貴女、試したわね?」
「ふふ、合格ですわ。少し前の貴女では考えられないほど、素敵よ」

 頬に熱が集中する。
 あーもう、こんなことで動揺するなんて。
 絶対魔理沙のせいよ。違いないわ。

「貴女が幻想郷の敵対者になり得ないことは、わかっていますわ」
「紫、えと――」
「だって貴女は――“ともだち”ですもの」
「――うん、ありがとう」

 前にたった一度だけ見た、紫の温かな笑顔。
 それを受けて、私はさっきとは別の意味で、頬に熱を感じた。
 誰も彼も、幻想郷のひとたちは、みんなこうだ。

 みんなみんな、捻くれていて――真っ直ぐだ。

 紫が開いてくれた境界に、私たちは足を踏み入れる。
 お母様の世界の深い場所に転送することは、流石に難しいらしい。
 だから、出現場所は魔界の入り口だ。

「行ってくるわ、紫」
「お土産、楽しみにしているわ」
「ええ、そうしていなさい。とっておきの土産話を、持って帰ってきてあげるわ」

 紫色の空間。
 そこに身体を滑らせる。
 覚悟も、感情も、全部瞳に乗せて。

 そうして、もう振り返らない。
 だから私は、境界が閉じる間際の、紫の言葉を聞くことができなかった。

「人生、別離足る――――でも、そればかりでは寂しすぎますわ」

 でもその声が優しかったことだけは――なんとなく、聞き取ることができたような気がした……。
















――6・大地の日/動かぬものに命を――



 変わらない、空。
 青一色から変化のない空の下で、私はアリスと対峙していた。
 っと言っても、喧嘩をしている訳じゃあない。

「ねぇほら!花冠!」
「あー、上手くできてるじゃないか」
「ホント?!やった!」

 あの後、落ち着いたアリスに頭を下げて、晴れて仲直り。
 私はそれからもう何時間か、アリスとこうしていた。
 虹の泉の水を飲んだり、変なキノコを食べたり、神綺が外から持ってきてくれたという、魔導書から童話までごった煮の本を読んだり。

「ふふ、今度はなにをしようか?」

 楽しそうに笑う、アリス。
 そこにさっきみたいな悲痛な表情が浮かんでいないのは、素直に嬉しかった。
 けれど、このままじゃ、何時まで経っても進展しない。

「なぁアリス」
「なぁに?」
「アリスは――“外”のアリスについて、どう思ってるんだ?」
「外?」

 って、知らない可能性もあるのか!
 ま、まずい、迂闊すぎる。なんとか誤魔化さないと!

「ああいやなんというかマスタースパークがゴリアテで――」
「――ずぅっと一緒に居たから、だからたぶん、きっと、好きだよ」
「へ?……あ、ああ、そうか!はは、それは良かった!」

 良かった、知っていたのか。
 暴走されるのが怖い訳じゃないけど、泣かれるのは、その、怖い。

「一緒に居た?ああいや――なぁ、アリスは、外の“アリス”に会いたくないのか?」

 真相っぽいことを問い詰めるのは、後回しだ。
 そんなこと聞いてまた要らぬ琴線に触れたら、どうなるかわからない。
 君子危うきに近寄らず、でもまぁ虎穴に入らずんば虎児を得ずってのも、あるけど。

「会いたい、けど、だめよ。出られないわ」
「なんで?」
「お母様が、許さないわ」
「神綺が?そんなことで怒るタマじゃないぜ」

 アリスは変わらず、でも、でもと繰り返す。
 なんでそんなにも出たくないのか、私にはわからない。
 でも、それがアリスの本心じゃないって事くらい――“アリス”を語った優しげなアリスの表情を見れば、わかる。

「でも、やっぱり怖いわ」
「怖いことなんかないぞ。なにせ、外には“アリス”がいるんだ」
「あの子が強いのはわかるけど、私は弱いから」
「弱い?私を吹っ飛ばすことができたんだ。それだけで英雄伝に名を連ねられるぜ」

 外の、どんなことに怯えているのかわからない。
 だけど本人の名乗りどおり彼女が“種族魔法使い”だというのなら、人間よりも遙かに丈夫な身体を持っているはずだ。

「でもダメよ、外にでも私に、居場所なんか――」
「――よしわかった!アリスは、外で何がしたい?」
「え?」

 質問を変える。
 なるべく答え易いように笑ってやると、アリスは戸惑いながらも口を開いた。

「でも、そんな」
「夢物語で良い、だから聞かせてくれ。アリスの……夢を」
「私の、夢?」

 頷いて、アリスの目を覗き込む。
 語るだけなら誰でもできる。
 誰でもできるなら――思う存分、やってやればいい。

「一番最初の子と、お医者様の所へ行きたい」
「ああ、日曜のアリスだな。だったらついでに、お姫様に財宝でも見せて貰え」

 他のアリスのことを、知っているのか。
 いや、たぶん、他のアリスと同じ――記憶の、共有か。

「二番目の子と、地底の温泉に行きたい」
「ならついでに、温泉卵を食べると良いぜ」
「三番目の子と、神社の縁側でお茶を飲みたい」
「霊夢の淹れるお茶は絶品だからな」

 言葉を連ねる度に、だんだんと戸惑いが薄れていく。

「四番目の子と、図書館へ行きたいわ」
「あそこの住民は誰でも面白いから、読書以外にも楽しみがあるぜ」
「五番目の子と、空の上で桃を食べたい」
「じゃあ、天子を呼んでとっておきの酒も持ってきて貰おう」

 言葉が、軽くなる。
 声が、弾み出す。

「六番目の子と、お寺で鐘をつきたい」
「あそこは般若湯とか言う美味しい水を隠しているんだ。案内してやるぜ」
「七番目の子と、ロボットが見たい」
「名案だ。途中でロボットが花火に変身するぜ」
「ふふ、もう」

 翳りの無くなった表情は柔らかくて、楽しげで。
 その瞳は、切望に揺れ動いている。
 だから、もう、我慢できなかったのだろう。

 アリスは、声を震わせながら、告げ始めた。

「外の“アリス”と、手を繋いで笑い合いたい」
「ああ」
「魔理沙も一緒に、三人で空を飛びたい」
「ああ」
「みんな一緒に、お菓子を作って食べてみたい」
「ああ」
「弾幕ごっこだってしてみたいし、知らない場所だって歩いてみたい、知らない人と友達になって――魔理沙たちと、楽しいって言いたい……」
「――――ああ」

 俯いて、手を握りしめて、花畑に雫を落とす。
 その雫は光を呑み込むと、七色に輝いて花弁に宿った。

「どうして?どうして、希望を持たせるの?ここから、出られやしないのに!」
「出してやる。一緒にここから飛び出して、一緒に夢を叶えればいい」
「いい加減なことを言わないで!なんにも、なんにもできない癖にっ!!」

 アリスの周囲に、光が集い始める。
 さっきとは、少し違う。
 混乱ではない痛み、切望と絶望と希望が、アリスを締め付けるのだろう。

 この願いに、答えなくて。
 苦しいって叫んでいるヤツを助けられなくて。

 なにが――友達だ。

 このままだったら、また光の呑み込まれて終わりだろう。
 それじゃあ、ループが続くだけで、なにも解決しない。
 だから私はそのまえに、アリスの額に手を伸ばした。


「すまん」
――ばちんっ
「いたっ!?」


 思い切り、指を弾く。
 といっても、魔力を込めた訳じゃない。
 ただちょっと力んだ、“デコピン”だ。

「あぅぅぅぅ……な、なにするのよぉ――え?」

 光が収まり、そこに涙目のアリスだけが残される。
 だから私は、そんなアリスの額に、自分の額をくっつけた。

「落ち着いたか?」
「ぁ……う、うん。でも乱暴だよ、魔理沙」
「はは、すまんすまん。でも、最初に謝っただろ?」
「うぅ、へりくつ」

 アリスが拗ねて、涙を拭う。
 でも額は、合わせたまま、離れようとしない。

「辛いことがあるんだったら、全部吐き出しちまえ。アリスだって“アリス”なんだから、私の友達だ」
「とも、だち?」
「そうだ。友達には、辛いことも悲しいことも、嬉しいことも楽しいことも、全部肩に乗せ合って、分け与えるのが常識だぜ」
「そう、なの?」

 半信半疑、なんて感情の乗った声。
 失礼なヤツだ、口から出任せなんかじゃなく、人に言ったことがない私の信条だというのに。

「そうだ」
「そっか」
「そうだ」
「ふふ、うん。信じる」
「だろ?」
「そうね……やって、みるよ」

 アリスはそう言って、大きく息を吸う。
 私から額は離さずに、互いの熱を感じながら。
 アリスはゆっくりと、言葉を紡ぎ始めた。

「私ね、生まれたときから身体が弱かったの。お父さんもお母さんもあんまり偉くない貴族だったから、治すこともできなくて」
「外の世界、か?」
「うん」

 アリスは、ただ目を閉じて語る。
 その裏側に、当時の風景を思い出しているのだろう。

「お父さんもお母さんも、私を愛してくれた。でも、あまり強い人達ではなかった」
「アリス?」
「何度も何度もお医者様にかかって、何度も何度ももう生きられないって言われて」
「ゆっくりで、いいからな?」
「私が苦しいって言う度に、お父さんもお母さんも、苦しいって言うようになって」

 止まらない。
 まるで、堰を切ったかのように。

「だからお父さんとお母さんは、私がもう苦しくないようにって、火を、放って」
「それは、まさか……」
「でも私は、お父さんもお母さんも執事さんもメイドさんもみんなみんな空に手を伸ばしても――」

「――死にたくないって、考えちゃったんだ」

 心中、だろう。
 本当にアリスの病気だけが原因だったとは、限らない。
 けれどアリスはそれを、どう受け取ったのか。

――私は望むだけでも罪なのにっ!!

 子供に、そんなことを考えさせるのが、本当に――“家族”なのか?

「気がついたら、私は死んでいなかった。マーブル模様の空の下で、きっと地獄に堕ちたんだと思った。だから目の前の悪魔さんに、“ありがとう”って言ったの」
「地獄に、落とされたのに?」
「落とされたんじゃないわ。堕ちることができたのよ」
「あんまり卑下すると、怒るぜ」
「うん……ありがとう。でも、その時の、ことだから」

 もう過ぎたことだから、とアリスは笑う。
 全部拭い去ったとは言えないかも知れないけれど、でも確かに、笑えていた。

「そうしたら、ね、悪魔さんは私の手を取って、こう言ったの」

――こんにちは、可愛いお嬢さん。
――でも私は残念ながら、悪魔じゃなくて“魔界神”なの。
――ちょっと難しかったかしら?そうねぇ、神様と一括りにするのは簡単だけど。
――そう……私は“創造主”
――生きとし生ける全ての存在の……“母”よ。

 私の頭の中に、イメージが流れ込む。
 アリスがやっているのだろうか、その時のアリスが見た光景。
 それが全て、映し出された。

 マーブル色の空。
 赤いドレスに黒い翼。
 風に靡くことのない銀の髪。
 一房だけ結ばれた髪の下に、笑顔が浮かぶ。

「それでね、私はどうしてだか、思っちゃったの。きっと、この人“も”」

――お母様?ああ、お母様だ。
――私は貴女の母ではないわよ?
――ううん、貴女は私のお母様。だって、すごく温かいから。
――温、かい?……そう、そう、なの。

 神綺の表情が、僅かに変わる。
 笑顔から崩れたことのない、その表情が。
 僅かに――戸惑いを浮かべた。

――ねぇ貴女、一緒に来ない。
――うん。お母様と一緒なら、どこへだって行きたい。
――ふふ、そう、ふふふ……ねぇ、お名前は?
――アリス。アリス・…………よ。
――そう。それならその名は今日まで。今日から貴女はただのアリス。
――ただの、アリス?
――ええそうよ、よろしくね。私の可愛い娘……アリス。

 映像が、途切れる。
 何時か見た走馬燈の箱のような、断続した画像。
 それが、溢れ出てきた。

 最初は戯れのように、ただアリスに受動的に付き合っている。
 それからふらりと去って、戻ってきてアリスに魔法を教えた。
 何年も経たないうちに、神綺の術を以てしても弱るアリス。
 そんなアリスを見て、神綺は――寂しげに、微笑んだ。

「お母様はね、私の病気を“魂に依るもの”だと教えてくれたの」
「魂に?」
「そう。だからお母様は、私が発作を起こして気を失っている間に、私から“死”を切り離してくれた」

 画像はない。
 アリスが気を失っていたから、アリスはその光景を見ていないのだろう。

「そうして切り離した“死”を、お母様は大切に抱き締めたの」
「大切に……って、なんでだよ?」
「私の魂と共に在ったのなら、その子も自分の娘だから。だから――」

 再び、画像が現れる。
 次に出て来たときは、もう既にこの花畑だった。
 夢の中に入り込んだままの、アリスの視界だった。

――弱った身体は、人間に一番近い“魔法使い”のものに作り替えたわ。
――これでもう、病に苦しむことはない。だから、安心して目を醒まして。

「そう言って、くれた。でも私は怖かったの。ここまでしてくれたのに、もしまた発作にかかったら」
「……また、前みたいになる、って?」
「うん、そう……」

 怖かったんだろう。
 また前のように、殺される。
 いや、違うな――捨てられるのが、か。

「だから、私は首を横に振った。そうしたらお母様は、一つ提案をしてくれたの」

――アリスちゃんから切り離したこの子も、アリスちゃんの心の一部。
――だからね、アリスちゃん。私はこの子に身体を与えようと思っていたの。
――そのついでに、彼女が見た風景を、アリスちゃんも見えるようにしてあげましょう。
――そうすれば、貴女が苦しむことなく、外の世界を見ることができるから。

「お母様は、きっと私がここから出るのを許してくれない。だって、外に出れば私が苦しい思いをすると思っているから。だから、ここに“友達”まで招いて」

――だからこの子にも、アリスと名付けましょう。
――二人とも、私の可愛い娘。誰よりも、私の“心”に近い場所に在る、娘よ。

「それって……いや、それじゃあ、外の“アリス”は――」
「――そう、私の妹で……私から切り離された、私の“死”の具現よ」

 アリスはそれを、知っているのだろうか?
 知っていながら、自立した人形を“生み”出そうとしていたのだろうか。
 アリスは……なにを、望んでいたのだろうか。

 語り終わったアリスは、私から一歩離れる。
 離れて、それから幽かに微笑んだ。
 消えてしまいそうな、そんな表情に、私は焦燥を覚えて――決意する。

「だからね、魔理沙。私はもういいの。だってこの形が一番、しあわ――」
「――だめだ。アリス。それならなおさら、アリスは外に出るべきだ」
「魔理沙、何を聞いていたの?だから、私は」
「だめだ」

 遮る。
 だってそんなの、悲しいじゃないか。
 誰も彼も、互いのことを思っているのに。

 なのに、足踏みすることしかできないなんて。

「このままじゃ、きっと誰も、心から笑えない。だから、みんなで笑い合おう」
「無理よ、そんなの」
「いいや、できる」
「なんでそんなに、自信満々なの?」
「私が、できるって信じているからだ。私が――“私”を疑わないからだ」

 疑ってなんかやるもんか。
 諦めるなんて性に合わない。
 きっとそれが、失うことのない、“霧雨魔理沙”の在り方だ!

「……魔力が合わせられないのに、どうやって抜け出すの?」
「ここの書庫は、神綺が“外”から持ってきたもの、だったよな」
「ええ。私がお母様から教えて貰った“創造の秘術”で生み出した中に、書庫はないわ」
「そうか」

 それなら、方法が一つだけ在る。
 創造の秘術で、なんでも――ここを見る限り、たぶん動物以外――生み出すことができるアリスと、夢の外の“魔導書”たち。

 そして、全てが現実に反映される、現実と何一つ変わらない世界。

「なぁアリス、ちょっと手伝ってくれ」
「え?……なにを、する気なの?」
「とっておき、さ」

 覚悟は決まった。
 答えは、見えた。
 だったら、もう囚われたりはしない。

 私“らしさ”は、私自身が“知っている”から。

「さぁ、行くぜ!アリス!」
「ま、魔理沙!」

 だからこの選択に、後悔はない。
 これからもきっと……後悔は、しない――。
















――7・土曜日/踏み出した先へ――



 マーブル色の空。
 夕暮れの、朱色の空。
 二色の天空の境目に、私たちは降り立った。

 封印された入り口の、一歩内側。
 紫も、器用なことをするものだ。

「わっ、び、びっくりしたわ。突然現れるから誰かと思ったら」
「サラ……」

 驚いたように声を上げる、桃色の髪の女性。
 魔界に住まう“私たち”の姉妹。

 魔界の門番、“サラ”だ。

「久しぶりね」
「うん、久しぶり。いつの間にか増えちゃったわね~」

 気楽に笑うサラに、笑い返す。
 このまますんなり行けば良いけれど……。

「あんまり話をしている時間がないの。そこを通して貰えないかしら?」
「――それはだーめ。アリスちゃんを通したら、神綺様に怒られちゃうわ」

 ……やっぱり、そう簡単にはいかないか。
 お母様はどうやら、私をパンデモニウムに近づかせる気がないようだ。

「初めまして、お姉さま。私はアリスです」

 どうしようか思案に耽っていると、水曜日のアリスが一歩前に出た。
 考えてみれば、誰かが“困ったとき”に、誰よりも早く動くのは彼女だった。

「へぇ、あなたもアリスなんだね」
「ええ、ですからここには私が残ります。ほら、それなら“アリス”を止めているわ」

 不敵に笑って、私にウィンクする水曜日のアリス。
 ……他のアリスほど、彼女はウィンクが上手くない。

「必ず、みんなで帰るわよ」
「ええ、もちろんよ」

 水曜日のアリスの言葉に、サラは面白そうに笑っている。
 魔界の門番のくせに、彼女はこうして侵入者を迎えてしまう。
 情けない表情の裏で、いつも笑っている。

「任せたわ、アリス!」
「任せなさい、アリス」

 水曜日のアリスを置いて、私と棺と、六人のアリスで飛翔する。
 後ろは振り返らない。振り返ったら、決めて見せたアリスに失礼だから。



 だから、後方を懸命に意識から逸らして、真っ直ぐと飛び立った。



 そうすると、すぐに空の色が変わる。
 マーブル色の空は天の川に似た空が浮かぶ黒に変わり、周囲が闇の追われ始めた。

 その視線の先で、薄く輝く人影を見る。

「あら、アリス♪」

 楽しげに語尾を上げる、白い帽子の女性。
 幽体と実体、境目を旅する魔界人、“ルイズ”だ。

「ルイズ……」

 確たる形を持たない彼女の相手は、厄介だ。
 何をどうしようと、時間がかかる。

「……ふんっ、足止めなんかじゃなくて、そう、適材適所よ!」
「そうね。適材適所。魔理沙への想いの強さを競い合うにはちょうど良いわ」

 そんな中、ルイズの周りに人形が配置された。
 瞬く間に置かれた人形に、ルイズは怯む。

「え?なに?なにこれ?」

 火曜日のアリスと、木曜日のアリス。
 二人が、悠然と前に出る。
 想いを真っ直ぐに伝えるのが苦手でも、表情と行動で伝えるアリス。
 表情で伝えるのが苦手でも、行動と言葉で伝えるアリス。

「ここは任せなさい!」
「私の魔理沙は頼んだわよ、アリス」
「ええ、頼まれたわ」

 二人のアリスにその場を任せて、再び飛ぶ。
 私と、棺と、気がついたらもう四人になっていたアリス。



 夜空を抜けると、大きな川が流れる湖に出た。
 その空間を見ていると、思い出すことがある。
 私はここで、魔理沙や霊夢たちと対峙した。

 お母様と、それから紫と、そう――“靈夢”が対談をして決めたのだ。

 魔界に外からの影響を与えたかったお母様と、スペルカードルール制定直前に、博麗の巫女たちに実戦の機会を与えたかった紫たち。

 その会談を、私は見ていた。
 お母様の許可を得て、同席させて貰い、取り決めに同意した。
 けっして、相手を殺さないようにすると言う、取り決めを。



「マスター、そろそろよ」
「ぁ……そうね」

 視界一杯に広がる氷雪の湖。
 このまま進んで“穴”に飛び込めば、パンデモニウムはすぐそこだ。
 けれど、その前に大きな壁がある。

「うわぁ、ホントにアリスがたくさん来た!」
「ユキ、うるさい」

 黒い服に金の髪の少女。
 淡い水色の髪に白い翼の少女。
 魔法使いであり、お母様の居城への入り口を見守る姉妹。

 “ユキ”と“マイ”の二人が、立ちふさがる。

「どうしてあれだけなの?」
「足止めが居たからでしょ。そうするなら……私はそれでも良いよ」
「あはは、楽しめれば何でも良いからね」

 誰よりも気楽、だけど誰よりもお母様の命を守る二人。
 彼女たちがそういうということは、その範囲で済む命令だということだろうか。
 それならそれで……都合が良い、かもしれない。

「あんまり無理はさせられないから、四人残っても」
「夢子がいるのに?」
「あー、それは、そうだけど」

 日曜日のアリスが、私に冷静に告げる。
 私が彼女に窘められていたら、世話はない。

「ここは私が何とかするわ、天より高く地より深く海より山で!」
「ふ、ふふふ、魔理沙を助ける障害……殺すわ」

 金曜日のアリスと、月曜日のアリス。
 二人が前に出て、怪しく笑う。
 二人とも、別のベクトルで怪しすぎる。

 ユキとマイが、引く程度には。

「ほ、ほどほどに――いえ、思い切りやりなさい!」

 思えば、この二人に“思い切り”やることを許可するのは、初めてだ。
 だからだろうか、二人は幼い子供のような表情で、笑った。

「ふふふふ、二人ともゴリアテの脚部パーツに変えてやるわ」
「ダメよ、二人とも藁人形に封入するんだから。ミンチにして」

 やっぱり、ほどほどに。
 そう言いたくなる気持ちをぐっと堪えて、飛び立つ。
 すると、日曜日のアリスが優しく肩を叩いてくれた。

 土曜日のアリスは、羨ましそうに二人を見ていたのに。

「任せたわ!」

 二人の返事を聞かないまま、湖の中央に飛び込む。
 その瞬間から水はなくなり、魔界の居城が姿を現した。



 全面が暗く輝く水晶によって彩られた、城。
 お母様の気分次第で、この水晶は色鮮やかな虹にも綺麗な純白にも変わる。
 私たちが、長く暮らした場所だ。



 門を潜り、廊下を抜け、その先のエントランスで立ち止まる。
 その先にいるのは、赤いエプロンドレスの女性。
 お母様が誰より信頼する、メイド……“夢子”だ。

「幻想郷に行って落ち着いたかと思えば、変わらずおてんばね。アリス」
「あら?変わったわよ。誰よりも、前を向けるようになった」
「そう、向こう見ずという事ね」

 夢子は、お母様の部屋へ続く門の前で、ただ佇んでいた。
 でもその姿に、隙なんかまったくない。
 そうでなければ、お母様の信頼なんか得られないのだろう。

「久しぶりに親子で会話をするのも良いだろうと、神綺様はおっしゃっています」
「え?」
「ただし」

 夢子の周囲に、短剣が出現する。
 お母様の伝える、物体創造魔法の一端。
 それを彼女は、攻撃に特化した形で自在に操るのだ。

「談笑に必要のない人員は、ここで眠って貰うわ」

 その鋭い視線に――私は、睨み返す。
 そしてそれは私の娘たちも、同様だった。

「アルフレッド先生人形完成形の試運転、楽しみだわ」
「そう。私を巻き込まないでちょうだいね」

 土曜日のアリスと、日曜日のアリス。
 二人は、悠然と夢子の正面に歩み寄る。
 その姿から、恐れや怯えは感じない。

「お願い。任せたわ、アリス!」
「ええ、マスター。爆破は任せて」
「気をつけて行ってらっしゃい、マスター」

 二人の激励を耳にしながら、魔理沙の入った棺と共に門を潜る。
 もう、残りは私と魔理沙だけ。
 それでも、ここで退く訳には行かない。

 だから私は、思い切って、お母様の部屋に足を踏み入れた。



 お母様の私室に訪れるのは、どれくらいぶりだろう。
 広々とした空間に、ぽつんと置かれたベッド。
 そこに眠るのは、私の――“姉”だった。

 人形を生み出そうとしたとき、自分が“死”の具現であるという事実は邪魔になると思った。
 だから私は、自立人形作成の兆しが見えるまでは、決して解けない封印を、自分に欠けた。

 その結果、そう、何故だか“関わり”のあった、“あの日”の邂逅すら忘れることになってしまったが。
 それでも私は、思い出すことができた。
 日曜日のアリスの、創造主と非創造者の関係を覆す、一発によって。



 暗い青の水晶でできた部屋。
 中央のベッドだけが、不思議と白く輝いて見える。

「相変わらず質素な部屋ですね、お母様」

 私が、そう小さく紡ぐ。
 すると、“アリス”のすぐ隣の空間が歪み、そこからお母様が姿を見せた。
 そこに浮かべるのは、変わらぬ優しい笑み。
 どんな状況でも歪めて見せたことのない、表情だ。

「ええ、アリスちゃん。その方が落ち着けるかと思ったの」

 変わらない。
 私がわざわざ乗り込んできても、お母様に牙を剥く準備をしていても、変わらない。
 全ての事象の前で悠然と微笑む、魔界の母。

「急な訪問で申し訳ありません。お願いがあって参りました」
「ふふ、貴女が我が儘を言うなんて……グリモワール以来かしら?」
「そうですね。あまり、困らせたくはありませんでしたから」

 一歩近づく。
 上海人形と蓬莱人形に、魔理沙の棺を守らせて。

「お願いします。魔理沙を……私の友達を、返していただけないでしょうか」
「貴女の友達なら、“アリス”ちゃんの友達でもあるわ。貸してあげてちょうだい」
「貸し借りできませんよ。彼女は、物ではありませんから」

 グリモワールに魔力を込める。
 込める魔力は、ほんの僅か。
 ただ開けば、それで力は通る。

「魔界のモノじゃないのに?」
「ええ。創造主と非創造者の枠を越えた、友達で、パートナーです」
「そう、我が儘なのね」
「ええ。貴女を困らせてしまいますが、それでも言わせてください」
「なにかしら?」

 虹色の力の奔流が、私の周囲を駆け巡る。
 人形遣いとして得た、あらゆることを同時に行う技術。
 それを感情と魔力で制御する。

 グリモワールを開き、掲げ。
 お母様の瞳を覗き込んで、彼女のように笑ってやる。
 大胆不敵で、自信に満ちあふれた笑みで!

「――ご託は良いわ。さっさと魔理沙を返しなさい!この、我が儘お母様!」

 言い放ってやる。
 我が儘なお母様に、一発見舞ってやるために。

「あら、ふふ……それなら貴女は、お姉ちゃんのことはどうでも良いの?」
「まさか。魔理沙を“アリス”のところに送ったのなら、どうせ予想もつかないことしているわ」

 魔理沙は、そういった意味では節操無しだ。
 どうせとっくのとうに、“友達”になっているに違いない。
 だから全部任せてしまっても、大丈夫。

 帰ってきやすいように、私が――私“たち”が、背中を守るから。

「そう、それなら私から言えることは、あんまりないわ」
「……お母様」
「でもね、アリスちゃん」

 お母様の背に、三対六枚の翼が現れる。
 黒一色だったその翼は、お母様の魔力に反応して、力強く輝き始めた。
 その圧倒的な魔力の奔流へ――私は一歩、前に出る。

「貴女の魔法は私が教えたものよ。わざわざ外の世界で魔法使いに教えて実験し、それから“アリス”ちゃんに教えて、それを改良したもの」

 外の世界の魔法使い――聖、白蓮か。
 本当に、どこまで手を伸ばしているのかわからない人だ。
 底が見えないのは、遣りづらくて仕方がない。

「それは私のオリジナルに比べたら、全てが劣化したものでしかないの」
「そうでしょうね」
「わかっているのなら、理解できるでしょう?決して敵わない、と」
「そんなことはありません」
「あら、どうして?」

 幻想郷に来て、磨き続けてきた技術。
 廉価版だから、オリジナルを越えるほどに磨けないなんて、そんなことはない。

「この魔法は、私の努力の結晶。甘く見ていると、痛い目を見るわよ」
「ふふ、そう、それは――楽しみね」

 魔力が渦巻く。
 渦巻いて、私を圧倒する。
 けれど私はそれを、真っ向から受け止めた。

「さぁ、見せてちょうだい、アリスちゃん」

 白く輝く大きな弾が、空間を埋め尽くす。
 それはまさしく、弾幕。
 光のカーテンが、私に襲いかかってきた。

「上海、蓬莱、魔理沙は任せたわ――――【黒+青の魔法】」

 私の正面の空間から放たれた、白いクナイ弾。
 それがお母様の弾幕に突き刺さり、白い炎と共にはじけ飛んだ。
 するとそれは、そのまま場に残り大きな結界として停滞する。

「へぇ……グリモワールの魔法を、独自に合成したのね。ふふ、面白いわ」

 お母様が、弾幕の形を変える。
 先程までの大玉は小さいものに変えて速度を上げると、私を追尾する金のレーザーを放った。

「なら、防ぎきる!【赤+青の魔法】!」

 赤い炎が並となり、空間全てを焼き払う。
 レーザーも、弾丸も、炎に呑み込まれた途端結晶となって私を守る盾と化した。

「ふふ、そればかりではダメよ、アリスちゃん」
「っ」

 お母様が手をかざした、その瞬間。
 赤のクナイ弾が高速で飛来し、私の結晶を砕く。
 そしてそこに空いたスペースを、紫色の魔力弾が飛来した。

――ドォンッ
「くっ……なんて、でたらめな威力!」

 魔力の奔流をその身に閉じ込めた、紫の大玉。
 その一撃は、飛び退いた私が先程待って立っていた場所に、クレーターを作って見せた。
 巻き込まれでもしたら、きっと魔界の塵となることだろう。

「【紫+白の魔法】!」

 剣を構えるように、手を横に広げる。
 そして手の平から紫色のレーザーを出すと、私はそのまま空間を薙ぎ払った。
 避けるだとかそんなことは考えない、弾幕。

 それをお母様の横っ面に、叩きつける!

「あら、今のは危なかっ――」
「――爆ぜなさい」

 目くらましに使って、その間に人形を放り込んでおいた。
 土曜日のアリスが好んで使う、とっておきの人形を。

「【リターンイナニメトネス】!!」
――ド、ゴォォォォンッッッッ!!!
「きゃっ」

 周囲を青に染めるほどの爆発。
 それで安心してなんか、やらない。

「【紫+黒の――」
「――あはは、今のは楽しかったわ!アリスちゃん」

 お母様の翼。
 その中の四箇所から放たれるのは、巨大な赤のレーザー。
 赤い弾丸を波紋状に流しながらレーザーを放ち、その上で大玉を発射する。

 聖白蓮が操る“魔神復誦”のオリジナル。
 その威力は、彼女のものとは比べものにもならない。

「しまっ――っっつ」
――ドンッ!

 魔法を重ねられて、大玉が私のそばで爆発する。
 大玉そのものに当たらなくても、その爆発は私を木の葉のようにはじき飛ばした。

「【青の、魔法】」
――ガヅンッ
「あうっ!?」

 結晶弾で防御を計るが、それも赤のレーザーに打ち砕かれ、再び爆風で弾かれる。
 たった二発、たった二発だというのに、それは私の体力と意志を、削った。

「あ、ぅ」

 脇腹が痛む。折れたか。
 右足首は、捻っただけ。
 どこで切ったのか、左手から血が流れている。

「う、つぅ」

 息を吸う度に全身が鈍く痛み、それだけで立ち上がる気を削っていく。
 それでも、それでも私は。

「魔、理沙」

 巻き込まれたのか、棺が砕けて中から魔理沙が飛び出してきている。
 その身体に傷一つ無いのは、焦げながらも手をかざしている、上海と蓬莱のおかげか。
 ピンチになったとき、魔理沙はどうしていただろう?
 どうしようもなく身体が動かないとき、彼女はどうしていた?

――『信じて望んで手を伸ばせば――絶望だって、打ち砕けるんだぜ』

 ああ、そっか。
 そうだったね、魔理沙。
 私は貴女のそう言うところ、すごく良いところだと思うわ。

 だから今は、ちょっとだけ。
 貴女の得意な“リーディング”をさせてもらうわね。

 ちょっとだけ、貴女の意志の力を――私に、貸して。

「【赤+青+紫+緑+白+黒】」
「まだ立ち上がるの?諦めても、私は責めないわ」
「ここで諦めたら、私が私を責めるわ」

 グリモワールを開き、渾身の力を込める。
 魔力と心、全部が全部、私の全てを一撃に込める!

「焦がれて思う。言葉にできないその感情を、彼女はきっとそう呼ぶことにしたんでしょうね」
「アリスちゃん?」
「――――【+恋色】」

 七色の力が、渦巻く。
 七色の人形遣い――七色の、恋の使い手。
 意志ある者でしか為し得ない、究極の奇蹟!

「ふふ、でもダメ。貴女は放つことすらできないわ。私の方がずっと、早い――」
――ドンッ!
「――っえ?」

 お母様の胸元から、虹色の光が伸びる。
 まるで導火線のように、まっすぐと私に向かって。
 それはまるで……内側から食い破った、牙のようだった。

「ありがとう、借りるわ。魔砲【ファイナルマスタースパーク】!!」

 導火線に沿って、七色の光が解き放たれる。
 空間を埋め尽くす、恋色の魔砲が。

「こん、な」

 お母様の声が、耳に届く。
 けれどそれは直ぐに、眩いばかりの極光の中にかき消えた。

 そして――
















――8・金曜日/時は金、命の楔――



 虹の泉の水。
 鉱山に生える銀水晶の粉。
 私が得意とする、数十種類のキノコ。

 アリスと二人で材料を集め、時には生み出し。
 魔導書を片手に詠唱を繰り返して、完成させた。

「ねぇ、本当に良いの?」
「ああ。こんなことじゃ、私は変わらないからな」

 私が前、試しに作ってみたとき。
 それはあまりに大きくて、飲み込めたものじゃなかった。
 その時は“その気”が無かったからさっさと諦めたが、今はそうじゃない。

 私はその虹色の結晶を、空に掲げた。

「待ってろ、今行くぜ」

 そしてそれを、飲み込む。

「ぐぅっ」
「魔理沙!」

 身体に熱が篭もり、胸の内側で暴れ回る。
 これがきっと……“捨てる”ということなのだろう。
 肉体に宿る“常識”を捨て去り、“日常”を塗り替える。

「は、ぁ」

 熱はすぐに、収まった。
 その時には既に、私は変わっていた。

「“メテオニックデブリ”」

 軽く手をかざすと、暴れを狂う魔力を身体が拒絶することなく受け入れた。
 そしてそれは、私が調整したとおりの威力を持って、空に弾ける。

「大丈夫?」
「ああ、問題ないぜ。とにかく、今は神綺のヤツを引っ張り出そう」
「ひっぱり出すって……どうやって?」

 不安そうにするアリスの頭に、手を置く。
 それから笑ってやると、アリスは安心したように息を吐いた。
 それから私は――目を伏せて、意識を周囲に溶け込ませる。

「“観える”ぜ、神綺」
「――貴女、どうやって?」

 私が意識を向けると、神綺が空中から溶け出す。
 ずっとここにいたのではないだろう。
 これはたぶん、霊夢が神を降ろすときと似た様なもの。

 分魂を、ここに置いているんだ。

 瞬く間に、風景が変わる。
 始まりの花畑から、桜の丘へ。
 きっと、アリスがやりやすい場所に変えてくれたのだろう。

「あら?貴女……」

 神綺が、私を見せて目を眇める。
 そしてそのまま、おかしそうに笑った。

「……人間を、“やめた”の?」

 たまらなくおかしそうに、神綺は告げる。
 私にそれほど興味がないのだろう、瞳だけは笑わずに。

 だがそれを私は、鼻で笑ってやった。

「はっ……私が人間をやめるかよ」
「ふふ、私の目は誤魔化せないわ。貴女、妖怪になったでしょう?」

 そうだろうな、神綺の目は正しいだろう。
 でも、正しいだけじゃ全部を見ることはできない。
 私には私の、胸に抱える想いがあるから。

「いいや、私は人間だ――」
「はぁ、いったいなにを言って」
「――足りない力を努力で補って、空を仰いで星を掴むのが人間だ」

 妖怪になった?
 それがどうした。
 たとえ捨食捨虫を用いて人間の殻は捨てようと、一番重要なものは捨てていない。

「だから私は、人間だ」

 高みを目指して足掻き続ける、私の本質。
 それは欠片も捨てちゃ居ない。

 だから私は、人間だ。

「この私が、妖怪になった“程度”で、“人間”をやめるかよ」
「なに、それ、矛盾しているじゃない」
「でもこれが、決して覆ることのない――私“らしさ”だぜ」
「なん、なのよ、貴女」

 こいつは、何を聞いてたんだ。
 まったく、本当に手間のかかる母娘だぜ。

「恋を操る普通の魔法使い――“人間”の、魔法使いだ」
「なんて、矛盾」

 神綺は初めて、表情を歪めた。
 我が儘に何でも掴み取ろうとする私を、羨むように。

「そういえば、外の世界では下に心と書いて“恋”と読むそうね」

 神綺の目の色が、また変わる。
 そうやって沢山の感情を見せていた方が、ずっと好感がもてる。

「貴女はアリスちゃんに、如何なる下心を抱いているのかしら?」

 その瞳に、思い切り肩を竦めてやる。
 すると神綺は、額に青筋を浮かべた。
 ちょっとだけ、顔が怖い。

「そんな見方しかできないから、娘に愛想を尽かされるんだ」
「あら?それなら貴女は、恋を何と読むの?」

 それでも、言ってやる。
 たぶんこいつは、言われないと……理解することが、難しいのだろうから。

「知らないのか?焦がれて焦がれて、見上げて求めるから――“恋”っていうんだぜ」

 神綺の顔が歪み、それから何も映さなくなる。
 完全な虚無と言うべき表情で、神綺はただ私を睨んでいた。

「ハッキリとわかったわ。貴女は異物よ。ここにいたら、アリスちゃんに悪い影響を与える」
「アリスと一緒にだったら、出て行ってやっても良いぜ」
「その必要はないわ。貴女はここで、朽ち果てるのよ!」

 神綺が白く輝く翼を開き、弾幕を展開しようとする。
 ちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしない、防御力。
 それを利用した、“溜め”を使うのだろう。

 私を確実に、吹き飛ばすために。

「その余裕、砕くぜ」

 アリスを下げて、小さく呟く。
 慣れない身体でどこまでできるかわからない以上、一撃でどうにかする必要がある。
 だから私は、神綺を“観て”意識を集中させた。

 神綺の身体に伝う、魔力。
 それが集中している場所を、見抜く。

 その身体を這う魔力の、大元を――

「例え横道だと言われようと、先駆け夜討ちは恋の花」

 ――捉えた。

 八卦炉を右手に掴み、目を眇めて照準を合わせる。
 荒れ狂う魔力を暴走しないように受け入れて、それを収束。
 八卦炉に、七色の輝きを灯す。

「必ず当ててみせるのが、私にとっての至上の恋だ。いくぜ――邪恋」
――ズンッ
「え?ぁ」

 神綺の胸の中心。
 そこを一直線に貫く、極細レーザー。
 これが私の、恋の在り方。

「【実りやすい――マスタースパーク】」
――ドゴォォンッッッ!!
「きゃぁぁあっ!?」

 神綺の身体が極光に呑まれ、その奥に白く輝く道を生み出した。
 間違いない。あれが――出口だ!

 箒に跨り、アリスの手を掴む。
 そのまま箒に魔力を込めて、浮き上がった。

「行くぞ、アリス!」
「でも、お母様が……」
「あれくらいでどうにかなるタマか!信用してやれ」
「うぅ、わかったわよ」
「そうか、なら、しっかり捕まっとけよ!」

 アリスを私の後ろに乗せて、身体を前に傾ける。
 魔力のバーニアが余波に引火して、虹色の火花を散らしていた。

「突っ込むぞ!」
「あわわわわっ、は、速い!?」

 極光の中。
 魔力の奔流。
 その内側に、私とアリスは身を投げる。

 この世界から、飛び出すために――。
















――9―1・木曜日(朝方)/白雪に轍を――



 みんなは、どうなったのだろうか。
 わからないけれど、私にはやることがある。
 格好良く残ったのだから、やり遂げないとならないことが。

「本当に似ているわね。アリスを大人にしたら、きっと貴女みたいになるわ」
「ありがとう。マスターに似ているというのは、なにより素敵な褒め言葉よ」

 桃色の髪の女性。
 魔界の門番、サラが私の前で笑っている。

「さて、面倒だけど始めようか。ね?アリス」
「どうしてもやらないと、ダメなのね」
「怖じ気づいた?」
「まさか」

 なんでも戦いで話をつけるのは、あまり好きではない。
 けれど、無抵抗で終わるのは、もっと嫌い。

「そう、それなら、精一杯暇をつぶさせて!」

 青い弾幕が、半円を描いて飛来する。
 難なく避けられる形ではあるが、何十にも交差してから放たれるため、サラ自身に攻撃を当てるのは難しい。

 魔界の門番、ゲートキーパー。
 その役目は、敵を倒すことではない。
 門を、守ることなのだ。

「私も防御型、彼女も防御型。それなら、根比べかしら」

 人形を召喚して、並べる。
 スペルカードは、詠唱の短縮にも役だってくれる。
 だから、こんな時は少しだけ有利だ。

「蒼符【博愛の仏蘭西人形】」

 白い弾幕が放たれて、時々方向を転換させる。
 緩やかに広がっていく弾幕は、敵の懐に飛び込んでいく。

「なによ、面倒ね!」

 サラが続いて、レーザーを放つ。
 左右に放たれたレーザーは、だんだんと正面にまで移動してきた。
 このまま弾幕で押し潰すというのなら、私自身も弾幕を張って、凌げばいい。

「赤符【ドールセラミティ】」

 展開して、レーザー以外の弾幕を消す。
 そうすると、レーザーを放っているために、無防備なサラが見えた。

「ふん、迂闊ね!貴女が何かするより先に、焼き切ってあげる!」
「させないわ!」

 迫るレーザーは、熱く刃を光らせている。
 触れれば最後、芯まで灼き断たれる光の刃。
 それを目にして、なお睨む。

 ここで弱音を吐いたら、魔理沙に笑われてしまうから。

「紅符」

 人形を一体召喚して、十字に輝かせる。
 迫り来る刃が左手に近づき、それだけで火傷し痛みを感じた。

 じわじわと熱が伝わり、背筋に鋭い痛みを残す。
 思わずしかめた眉を見えられるのが、少し悔しい。

 でも、それでも、止まってなんか――やらない!

「【和蘭人形】」
――ドゥンッ!
「へっ……きゃあっ!?」

 十字のレーザーが回転。
 サラのレーザーを焼き切って、その上でサラ自身を叩き落とした。

「相性悪過ぎよ、もう」

 目を回しているサラを飛び越えて、門に触れる。
 結界のようなものがあるから、これを通り抜ければみんなに追いつける。

「余力もあるし、これなら……あれ?」

 だが、押せども引けども門は開かれない。
 魔力を込めても抜き出そうとしても、変わらないのだ。

「もしかしなくても……倒しても、通れない?」

 思わず、肩を落とす。
 足止めの役割は果たせたけれど、これではどうしようもない。

「どうしよう……ああ、そうだ」

 一つ、思い浮かんだ。
 何もかも解決して、これまでどおりを望めるのなら。
 きっと、門番に睨まれるのは気まずいだろう。

 だから私は、目を回したサラに膝を貸す。
 彼女を介抱して、待っていればいい。

「信じているわよ、みんな」

 疑ってなんかいない。
 だから私は、余力を持って待つことにする。
 終わったらきっと、笑顔で帰ってくると信じて――。










――9―2・木曜日(正午)/中天に煌めきを――



 ゆったりとした白い服が、亡霊のように霞む。
 そのまま軸をぶれさせて、ルイズは私が糸で張り巡らせた包囲網を、抜けてみせた。
 このまま火曜日の姉妹の魔法で倒そうと思っていたが、そんな簡単にはいかないか。

「性急ねぇ、もっとゆっくり遊びましょう」
「そんな暇無いのよ!」
「いいえアリス、落ち着いて。口車に乗せられたらダメよ」
「うぐっ」

 彼女は些か、強気すぎる。
 私が上手くストッパーに回った方が、きっと上手くいくだろう。
 でもそれは、どちらかというと水曜日のあの子らしさだから。

 だから私は、私らしくやろう。

「アリス、私が前に出るわ」
「そうね、なるべく冷静に……って、はぁ!?」
「だから私のストッパー、任せたわ」

 なんだかんだと言いながら、フォローに回ってくれる。
 それが火曜日のアリスのらしさだから、私は私のらしさで戦う。
 らしいらしいと言うようになったのは、間違いなく、私の大好きな彼女の影響だ。

 そして、彼女の――魔理沙の影響でそんな風に言えているのが、私はたまらなく嬉しい。

「人形伏兵、人形弓兵、人形配置十体!」
「あはは、多いわね。面白そうだわ」

 ルイズの身体が再びぶれて、青白いビームを放つ。
 断続して姿を消す、奇妙なビームだ。
 私はそれに合わせるように人形たちを空間に隠して、そのまま一歩近づいた。

「はぁっ!」
「ひゃっ」

 手を前に出すと同時に人形を召喚。
 刺突の槍が五本、煌めく。

「あ、危ないわねぇ」
「そう、でも……そこも危ないわよ?」
「え?」

 空間の中に隠していた、五体の伏兵。
 彼女たちは軽やかにマントを翻すと、ルイズを中心に交差する。
 咄嗟に身体を幽体にして避けるが、見ている限り彼女が連続で幽体になれるのには、限りがある。

 だから、迂闊に何度も使おうとすると、“こう”なるのだ。

「っ糸!?」

 交差した人形伏兵の残した、糸。
 それが絡みつき、ルイズを空間に縫い止めた。
 そこへ、畳みかける。

「弓兵!」
「その程度!」

 人形弓兵が放った弓。
 それを、実体状態から放った赤と白の弾幕で、ルイズは残らず叩き落とした。
 でも、これが本命ではない!

「本当に、フォローばっかりさせるんだから!注力――」

 ルイズを縛った糸が、淡く輝く。
 これが私とアリスの、三段構え。

「ちょ、ちょっと待って」
「――【トリップワイヤー】」
「ひぃぃんっ!?」

 情けない悲鳴を上げて、ルイズが力なく項垂れる。
 すると思い切り力を込めたせいか、糸が切れてルイズが落ちた。

「と、ちょっとアンタも受け止めなさいよ!」
「ああ、ごめんなさい」

 倒した瞬間に気を抜いてしまったか。
 でも、ルイズが起きてくることはなかったので、よしとしよう。
 こんなにも乱されているなんて、それはそれで私らしくない。

「これからどうするの?」
「待つしかないわ。戻る訳にも行かないし――」

 それに、進む訳にも行かない。
 ここからでも時折見える、藁人形の雨。
 あの空間に飛び込んで、生きて帰られるかわからない。

「――あれでは、ちょっとね」
「それもそうね。なんで前に行かせちゃったんだろう」

 よりによって、あの二人だ。
 まったく本当に、どうなることやら。

 私はアリスと二人で、そう途方に暮れることしかできないようだった。










――9―3・木曜日(夕方)/双星に撃鉄を――



 私が神綺様からいただいた命令は、神綺様の部屋までに、アリスを“一人”にしておくことだった。
 それがどんな意味を持つかなんて、知らない。
 私は何時の時代も、神綺様の命令を如何に楽しく遂行するかというだけのことを、考えてきたのだから。

 だからアリスが、私とマイを相手取るために二人も残ってくれたのと言うのは、好都合だった。
 もう二人程度なら、夢子がさっさとどうにかしてくれるだろうから。

 このまま相手をして、なるべく長く遊んでから、倒す。
 それで私も満足して、神綺様から褒めて貰えて、万々歳だ。
 予想に違わぬ結果になるために、予想に違わぬ過程が飛び込んできたようなもの。

 だがその中で一つだけ、まったく予想していなかったことがあった。

「貴女、黒いわね」
「まぁ、黒の魔法使いだし」
「そう、レティの親戚だから氷雪世界にいるのね」
「え?なに?」

 私とマイの前に立つ、二人のアリス。
 二人の行動と言動が、まったく読めないのだ。
 今日は、全力で戦えるというのに、調子を崩される。

「魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙魔理沙……そう、わかったわ、彼女たちが奪ッタのネ」
「……ユキ、代わってくれない?」

 表情を崩さないユキが、珍しく涙目になっている。
 それだけ恐ろしいと言うことだろうが、正直私には選べない。
 でも、言葉が通じないだけなら、こっちの方がまだマシか。

「私のターンよ」
「は?いや、私は未だ何もやってないけど……」
「鋼鉄【アイアンブレイドゴリアテ】!」

 変な方のアリスが、指を空に向ける。
 思わず頭上に視線を移すと、変な方のアリスの足下から巨大な人形が召喚された。

「え?なんで下から来たの?あれ?バカにされてる?」
「落ち着いて、ユキ」

 ざっと見上げて、私の身長六人分くらいはありそうな人形。
 その手には、人形の全長を越える巨大な鉄の剣が握られていた。
 あんなもので押しつぶされたら、原型が残らないだろう。

「でも、私たちがその程度、避けられないとでも?」

 そう、あんな巨体にあんな巨大な剣だ。
 読まずとも、見切れる。

「ええ、ソウよ、避けられナいわ……だって、そんな隙は作らないモノ」
「ユキ、下がるよ」
「え、ああ、うん」

 マイに促されて、大きく下がる。
 すると、さっきまで私たちが立っていた場所に、何かが降ってきた。
 そう、束ねた藁で作られた、とんでもない怨嗟を放つ“藁人形”が、降ってきたのだ。

「怨念【ストロードールレイン】」

 空に浮かぶ、無数の藁人形。
 一つ一つが凄まじい怨嗟を放っているのに、それが数え切れないほどあった。
 なるほど、これは良い戦術だ。

「嘗められたものだよね、マイ」
「そうね。さっさと潰すよ、ユキ」

 マイがレーザーを展開して、回転させる。
 それで周囲の藁人形を薙ぎ払いながら、怖い方のアリスを牽制。
 私はその上で、高速で敵に集中する弾丸を展開した。

「避けられるのなら、避けてみなさい」

 マイはそう呟くと、さらに両手を広げる。
 そこから放たれた無数のクナイ弾は、何もない空間でバウンドして、怖い方のアリスに襲いかかった。

「ほら、さっきまでの虚勢はどうしたの?」
「なんて量っ!?……アリス、ゴリアテ合体の準備をするわ!」
「そうやって適当なことを言って、誤魔化しきれると思うな!」

 変な方のアリスの戦法。
 それはきっと、話術で巧みに混乱させることだ。
 種さえわかってしまえば大したことはないが、深読みしていたらどうなっていたかわからない。

「種の割れた手品師は、魔法使いにはなれない。舞台の上で哀れなピエロと化して散れ!」
「変形【ブレイドサーファーゴリアテ】!」

 巨大な鉄の剣。
 その剣先が割れて、広がる。
 巨大人形はその上に仁王立ちになると、私に突撃してきた。

「見え見えだよ!」

 それでも大きく避けなければならないので、下がることにはなってしまった。
 けれどその間に変な方のアリスを見ると、彼女は私の弾丸でぼろぼろになっていた。
 口元から血を流す姿は痛々しいが、いい気味でもある。

「さて、マイは――って、危ない!」
「え?」

 マイの方に、視線を移す。
 すると、レーザーとクナイ弾を放って佇んでいたマイの背後から、怖い方のアリスが近づいていた。
 左腕にはクナイ弾が突き刺さっているが、痛みを感じないのか動きに鈍さはない。

「っ!」
「チィッ」

 怖い方のアリスは、マイの眼球めがけてきらりと輝く何かを突き刺そうとしていた。
 あれは、確か、そう――“五寸釘”だ。

 マイはそれをギリギリの所で避けるが、レーザーが消えてしまう。
 そのため、藁人形を躱して私の所まで下がってくることになってしまった。

「大丈夫?!」
「うん、怖かったけど、なんともない」
「とんでもないことしてきたね。そろそろ、仕留めないと――」

 次手を考えながら、アリスの様子を窺おうと前を見る。
 するとそこでは、全ての弾幕を消した二人が、手を握り合って佇んでいた。
 二人で、なにを?

「まんまと下がってくれたわね、アリス」
「くつくつくつ……予定どおりね、アリス」

 底知れぬ空気を感じて、前に出ようとする。
 阻止しなければと思うのだが、身体は動かない。
 だってもう、彼女たちは宣言を始めてしまったから。

「合体承認」
「怨念怨嗟」

 二人が繋いだ手。
 そこから、光が溢れ出す。
 天に掲げられて、私たちは、イヤだけど空を見上げた。

「【ストロードール“ゴリアテ”ルナティック】」

 それは、藁人形だった。
 周囲に霊障を撒き散らす、藁人形。
 それが七つほど空中に浮かんでいる。

 いや、それだけならどんなに救われたことか。

『ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオォオォォォオオオ』

 地の底から響く声。
 発しているのは藁人形。
 ざっと見上げて“十メートル”を越えそうな藁人形が、私たちを見下ろす。

「生きて帰ったら、私、人形供養の仕事をしよう」
「ダメよマイ!それって死亡フラ――――あ」



 空が落ちる中。
 私とマイがこの先一ヶ月霊障に苦しむことになる、直前。
 私が見たのは、気を失って崩れ落ちる、アリスたちの姿だった。

 ふふ、神綺様。
 私たち、任務を遂行しまし――――










――9―4・木曜日(夜半)/虚無に瞬きを――



 短剣が煌めき、私と土曜日のアリスの横を通り過ぎる。
 何もない空間から突然短剣が現れて、横合いから叩きつけられる。
 その緊張感に、背筋が粟立つ。

「さあ、諦めて帰りなさい。背を向ける者に剣は向けないわ」
「冗談。貴女だったら、神綺を置いて逃げるのかしら?とんだ忠誠ね」
「そう――貴女は今、最後のチャンスを不意にしたわ」

 そう、逃げるなんて御免だ。
 ここで逃げ出したら、私はきっと戻ってしまう。
 あの、無乾燥で味の無い日々へ。

「攻めるわ、アリス!」
「わかったわ。それなら私は配置に回る。犠牲【スーサイドパクト】」

 アリスが周囲に、無数の人形をばらまく。
 それに短剣が触れると、周囲の短剣を巻き込んで爆発した。

「騎士【ドールオブラウンドテーブル】!」

 剣を持った人形を、周囲六方向へ飛ばす。
 それで短剣を払いながら、私は夢子に向かって、まっすぐと剣を持った人形を飛ばした。

「ふぅ、その程度!」

 夢子はなんなく人形を斬り払うと、そのまま私に突っ込んでくる。
 剣術の達人足る夢子の踏み込みは、目で追える速さではない。
 そう、私“一人”だったら。

「――人形無操」

 アリスが投げた人形が、地面に当たって跳ねる。
 そしてそのまま、夢子の動きを鈍らせるために、爆発した。

「はぁっ!」
――ガギンッ!
「なっ」

 そのまま走り近づいて、夢子の腹に前蹴りを放つ。
 夢子はそれを剣で防ぐが、威力の“無さ”に目を瞠った。
 当たり前だ。なにせ、本命は……。

「せい!」
――ダンッ
「つぁっ!?」

 ……ふくらはぎを狙った、ローキックなのだから。
 魔力で思い切り強化されたローキック。
 それを、別の防御に気を裂かれていた夢子は、何の抵抗もなく受け入れてしまう。

 これで、夢子本人の動きは、だいぶ制限できた。

「――私の足を止めた程度で、どうにかなると思ったのかしら?」
「なっ」

 私と夢子の間。
 一メートルほどのその空間に、短剣が構築された。
 そしてそれは、狙い違わず私の首に飛来する。

「づっああっ!」

 痛みが、奔る。
 咄嗟に盾にした左手を、短剣が“貫通”した。
 これでもっと距離をとって射出されていたら、きっと左手ごと首が飛んでいたことだろう。

「くぅ、ああ!」

 剣の中央を魔法で折り、引き抜く。
 素早く止血はしたが、当分使い物にはならないだろう。
 これでは、人形も作れない。

 でも、足止めとしては成功だ。

「心師【敬愛せしアルフレッド・ノーベル先生人形】」

 周囲に展開された人形。
 スーサイドパクトが、全てその性質を変える。
 ひとたび爆発すれば、周囲一帯を灰燼にし、そして術者と対象者を傷つけない爆弾人形に。

 いつも、爆発に巻き込まれたアリスが、無事な理由。
 術者を対象から省く術式を、アリスは漸く自分以外の対象に付加することに、成功した。
 準備に時間がかかるものになってしまったが、十分だ。

「爆発しなければ、怖いものでは無いわ!」

 夢子の宣言と共に、人形たちが頑強な短剣の檻に閉じ込められていく。
 なんとか先に爆発させようとアリスが操作するが、人形たちは短剣の檻の中で爆発し、ただ轟音だけを残した。

 なんて頑強な短剣!
 このままだと、まずい。

「なんとかしないと!」
「それなら、夢子の動きを止めて」
「え?アリス?」

 人形を召喚する準備だけして、アリスが佇む。
 その頬に浮かぶ苛烈な笑みに、私は小さく苦笑した。
 ああそうだ、この子は、どんなピンチでも――こんな風に、笑う子だ。

「槍符」

 走る。
 人形を周囲に召喚、槍を持たせて身体ごと突っ込む。
 夢子はそんな私に対して、短剣を射出した。

――ザンッ
「っぁ」

 右手を掠め、熱を持って痛む。
 それでもなお止まらずに、そのまま突貫した。

「【キューティー大千槍】」
――ダガガガガガガッ
「嘗めるな!!」

 その場に立ったまま、夢子は短剣で槍を弾く。
 無数の人形が交互に入れ替わって槍を放つ、超高速連撃。
 それを夢子は、二本の手に持った二対の短剣だけで弾いていく。

 そして、両者の連撃が終わり、僅かにできた空白の時間。
 そこに、アリスが飛び込んだ。

「っせい!」
――ザシュッ

 夢子が咄嗟に投げた短剣が、アリスの脇腹を掠める。
 だがそれでも、強い意志を瞳に秘めたアリスは、止まらない。

「アルフレッド先生奥義」
「え?」

 召喚された人形が、一繋がりの糸に括られていた。
 アリスはそれを鞭のようしならせて投げて、夢子に巻き付けた。
 ちょうど、彼女の胴体に、四体の人形が抱きつく形だ。

「爆散解体【強、制ッ――――腹マイトォッ】!!」
「くっ、こんな、まずッ」
――キィィィィンッ…………ドゴォォォォォォォオオオンンンッッッッ!!!!

 空間が、震える。
 ものみな全て巻き込んで、マスターの部屋へ続く門以外の、全てが吹き飛んだ。
 壁も、床も、天井も、なにもかも。
 なによ、腹マイトって。腹にダイナマイトはちょっと、遠慮したいわね。

「夢子、大丈夫かしら?」
「大丈夫よ。一週間アフロヘアは免れないでしょうけど」
「そ、そう」

 土煙の中で、当分目覚めないであろう夢子から視線を逸らす。
 全力で戦った相手への敬意としてできることは、見てあげないことだけだ。

「とりあえず……」
「……ええ、そうね」

 まずは、自分たちの手当だ。
 助けに行くほどの力も、残っていない。

 それでも、信用しているわよ?
 マスター――――と、魔理沙。
















――10・水曜日/彼方の黄昏――



 光の奔流から、飛び出す。
 箒に乗って、その先は――夕暮れの、森だった。

『は?あれ?幻想郷……か?』
『魔理沙、なんかおかしいわ』

 言われて、気がつく。
 なんというか……身体が、半透明なのだ。

『おいおい、どうなってんだ?』
『……あのね、魔理沙』

 何か知っているのか、半透明のアリスが恐る恐る口を開いた。
 耳で聞いているのではなく頭で読み取っているような、妙な感覚だ。

『お母様は、自分の造り出した存在の“過去・現在・未来”の全てを内包しているの』
『はぁ?創造主ってのは、そんなとんでもない存在なのか?』
『うん。内包しているだけで、未来は見えないらしいんだけどね』
『そうなのか……』

 いや、待てよ。
 ということはこの空間は、まさか。

『誰かの、過去ってことか?』
『うん。そして直前の状況を考えても、たぶん』

 アリス……外の“アリス”の過去を見ているのか?

『ううん、見ているんじゃないわ』
『は?』
『私たちは、ここに“居る”の。近くできるのはアリスだけだろうけど、アリスの視界以外も見ることができている』

 言われて見ればそうだ。
 私は、この場にアリスが居ないのに、見ることができている。
 それは本当に、神綺を通じて“過去”に来たということだろう。

『なんにしても、まずはアリス探しだな』
『ずっと一緒だったから、何処に居るのかはわかるわ。こっち!』

 走り――実際には、低空飛行だが――出したアリスを追いかける。
 ここは幻想郷の過去なのだろうか?
 そう少し考えもしたが……いや、わかってる。

 夕暮れに固定された空。
 幻想郷とは違うのに、よく似た空気。
 ここはきっと、私が一度だけ訪れた、あの場所。

『あぶれものたちの、幻想郷、か』
「もう!ここはいったい何処なのよ……」

 声が聞こえて、顔を上げる。
 最後にあったときに比べて、少しだけ硬い表情のアリス。
 七つの棺を引き摺ったアリスが、肩を落としていた。

『アリス……』
「え?……貴女、何時かの魔法使いじゃない。なに?死んだの?」
『失礼なことを言うなよ』
「違うの?でもどうでもいいわ。グリモワールも使いこなせるようになったし、二度目の報復なんか考えて無いから」

 アリスは、私から興味を失っている。
 少しは仲良く慣れたと……ああいや、それは今から“未来”の話なのか。
 そうとわかっていても、不思議とこう、胸が痛むぜ……。

『久しぶりね、アリス』
「ええ久し――えっ?起きたの!?」
『魔理沙にね、起こして貰ったの』
「魔理沙?」
『いや、名前くらい覚えておいてくれよ』

 くそぅ、地味にショックだ。
 帰ったらケーキ作らせてやる。

「そういえばそんな名前だったわね」
『今度はしっかり覚えておけよ』
「忘れなければ覚えていくわ」

 アリスに対してなら表情を変えてくれるのに、私に対してはこれだ。
 まぁいいけどな!逆境を乗り越えるのは、慣れているから。

「それで、どうやってここに?」
『私にも、その、よくわからなくて……』
「ふーん。今は、霊体?」
『似た様なもんだ。ちなみに、アリス以外には見えないからな』
「そう。私が見えれば、別にいいわ」

 本当に、淡々としている。
 けれども、アリスに対してだけは、時折笑ってみせるのだ。
 なんだかそれで、少しだけ、安心した。

『しかし、本当にどうしてこんな――』
「――こんなところで何をしているのかしら?」

 声が、響く。
 夕暮れの空から溶け出した、導師服姿の妖怪。
 金の髪を靡かせて、八雲紫が境界から身を乗り出していた。

『紫!おまえ……』
『ダメ、聞こえていないわ』
『あ、そっか』

 紫は私たちに目を遣ることなく、ただ眼前のアリスを見据えていた。
 ただただ、鋭い光を瞳に込めて。

「久しぶりね、八雲の大妖」
「あら?……神綺の所の小さな魔法使いさんじゃない。“あぶれた”の?」
「あぶれた?」

 アリスの言葉に、紫は首を傾げる。
 あぶれものたちの幻想郷。
 そこにアリスが居たという意味は、なんだ?

「魔界から幻想郷へ渡ろうとしたら、ここに迷い込んでしまったの」
「そう――」
「出して貰えないかしら?幻想郷へ移住する許可とか必要なら、それもどうにかするわ」
「――いいえ、そんなものは必要ないわ。でも、それとは別」

 紫はそう、ため息をつく。
 そこにさっきまで纏っていた鋭い威圧感はなく、どこか疲れのようなものが垣間見えた。
 紫って、けっこう裏側で苦労してそうなんだよな。うん。

「幻想郷への境界は、今とても曖昧になっているの」
「曖昧?」
「そう。だから、安定するまでここに居てちょうだい。神社に行けば、三食くらいなら用意するわ」
「ちょ、ちょっとそれって」
「それでは、私はまだ仕事がありますので。御機嫌よう、アリス」
「八雲のっ!……なんなのよ、もう」

 紫は、言いたいことだけ告げると、さっさと境界に身体を滑り込ませた。
 その光景を、アリスはただポカンと口を開けて見ている。
 うんまぁ、気持ちはわかる。

「はぁ、神社って何処よ」
『あ、それなら私がわかるぜ』
「あら、来たことあるの?」
『ああ、この先、―――の―――が、あれ?』
『未来に関する情報は、極力削られてるってことかな?』
「なによ、ぼそぼそと」

 なんでもない、と首を振る。
 それなら結局、今アリスにとやかく言うのは無駄だってことか。
 まぁ、この体験のことは知らないみたいだったし……アリスがここから抜け出したら、この邂逅も忘れられちまうってことか?

『と、とりあえず神社だな。行くぜ!』

 箒に魔力を込めて、バーニアを吹かす。
 断続して響く重低音に、私は頬をつり上げた。
 絶好調、なら思いっきり飛ばすのも、悪くない!

 霊体アリスを抱きかかえ、アリスを引っ張る。
 霊体なのに掴めるってのもわからんが、亡霊の類と同じ扱いなんだろう。

「ちょ、ちょっと、速いっ!?」
『あわわわわ、魔理沙、また、ちょっ』

 森を飛び出し、赤土の道を越え、夕暮れの空に踊り出す。
 焦ったアリス二人の姿を見て、後で怒られることを覚悟しながら。

『棺、落とすなよ?』
「だったらもうちょっとゆっく――りっ?!」

 急下降、急停止。
 それからバーニアで軌道を調整し、反動を打ち消した。
 なんだか長い間、空を思いきり飛べていないような気がしていた。
 だから、たまに飛ぶと、本当に気持ちが良い。

「お、覚えてなさいよ」

 境内に到着すると、アリスは肩で息をしていた。
 霊体アリスもそれは同様で、こっちは口元に手を当てている。

『あーすまん、やりすぎた』
「本当にね」
『うう、キツイわ』

 いやぁ、でも、誰かを振り回すなんて地味に久しぶりだ。
 最近、というかここ半月くらい、振り回されてばっかりだったからな。

「あっ!そこのアンタ!」
「え?」

 境内で掃除をしていた女性が、アリスに声をかける。
 紫がかった滑らかな黒髪に、脇の空いていない巫女服。
 霊夢によく似た女性が、背筋を伸ばして走り寄ってくる。

「紫から世話を頼まれたんだけど……早かったわね」
「え、ええ、ちょっとね」
「ふーん。まぁいいわ。はい」

 女性はそう言うと、アリスに箒を手渡した。
 それを見て、アリスは首を傾げる。

「タダで世話して貰おうってんじゃないでしょ?キリキリ働いて貰うから」
「なっ」
『うわぁ』
『うわぁ』

 胸を張って言い放つ、女性。
 それに、私と霊体アリスは、思わず声を零した。
 聞こえていないのだろうけど、まぁ。

「わ、私は巻き込まれて……」
「わからないことがあったら言いなさい。とりあえず、境内の落ち葉掃きよ」
「どうして私がそんなこと」
「あれ?“できない”なら、無理にとは言わないけど?」
「で、できるけど!」
「なら大丈夫ね」

 女性はそれだけ告げて、背を向けた。
 アリスは怒りからか、震える手で箒を掴んで口を開けたり閉じたりしている。

「なっ、あ、そもそも誰よアンタ!」
「ああ、言い忘れてたわ。――私は靈夢よ。旧字で、“博麗靈夢”」
『はぁっ!?霊夢、じゃなくて靈夢って、え?』

 ここにいた巫女として思い浮かべられるのは、一人だけ。
 黄色い髪に改造巫女服を着た少女――冴月麟だ。

『いや、でも、あれ?』

 性格が、似ている気がする。
 口調とか、そんなんが……似ている気がするんだ。

「ぬぐぐぐ」
『変な声出てるぜ?あと、手伝おうか?』
「いらないわ。ええ、いりませんとも」

 半ば意固地になりながら、アリスは箒を動かす。
 だが掃除なんかしたことがないのか、その手つきは拙い。

『はぁ、よしアリス!ちょっと見てろ』
『私も見る!』
「なに?いったいなにを……」

 アリスの前に立って、自分の箒を持つ。
 それから、目の前で掃き掃除をして見せた。

『勢いよく戻すと、せっかく掃いた落ち葉が戻って来ちまう』
「え、ぁ」
『あと、石畳にはなるべく沿ってやれ。間の落ち葉も取れるから』
「ぁ――うん、そうみたい。ありがとう」
『おう!』

 笑ってやると、アリスは大きくため息をついた。
 それを見て、幽体アリスが楽しそうに笑っている。

『魔理沙!私もやる!』
『お、いいな。それじゃあ誰が一番綺麗にできるか競争だ!』
「え?あ、私も!?」
『そうだよ、ほらっ』

 幽体アリスに手を引かれ、アリスは仕方なくといった表情で参加する。
 箒は三つ……あるか。良かった。

「あーもう、わかったわよ」

 三人で、掃き掃除を行う。
 霊夢同様この靈夢もぐーたら巫女なのか、案外と落ち葉が多かった。
 一人でやるのは大変だろうが、三人ならそんなことはない。

『ほら、私の所が一番綺麗だぜ!』
『むぅ、私の方が、ほら、ちょっと』
「どっちも変わらないわよ」
『それなら、熟練者魔理沙VSアリスSだったことにします!』
「それいいわね」
『お、おい、ちょっと待てそれはずるい!』

 いつの間にか、わだかまりはどこかへ消えていた。
 笑って、笑い合って、手を取り合って。
 いつしか私たちは、同じ目線で声を上げていた。

 やっぱり、そうだ。
 何度だって関係は築ける。
 元からアリスに近い幽体アリスが、私と仲良くしていた。
 それは、アリスの心を開かせるのに一役買ったのだろう。

 でもきっと、それだけなんかじゃないんだ。

「あーそういえばどこまでやれって言い忘れて――あれ?」
「あ、終わったわよ」

 奥から出て来た靈夢は、辺りを見回して、それから頷く。
 肩で息をしていたアリスを見て、なにか思うところがあったらしい。

「そう、それならちょっと来なさい」
「まだなにかあるの?もう好きにしてちょうだい」

 ため息をつきながらも、アリスは心なしか楽しげだ。
 初めて経験することに、素直に楽しめる。
 それはきっと、何よりもかけがえのないことなんじゃ、ないのだろうか。

 縁側に案内されたアリスは、言われるままそこに腰掛ける。
 そうして少しの間待っていると、靈夢が戻ってきた。

「はい、お疲れ様」
「え?これって……」
「おはぎよ。私のおはぎは、これでも好評なんだから。おもに、妖怪に」
「それって……いいけど」

 アリスは、おはぎを見たこと無いのだろうか。
 どこから食べて良いのかわからず、皿の上のおはぎを見つめている。
 私はおはぎの皿に置いてある木のへらから目を逸らして、アリスに耳打ちした。

『手で掴んで豪快に食べるものなんだ。一口でどこまでいけるかで、上品さが問われる』
『へぇ……そうなんだ!』

 素直に感心する幽体アリスを見て、アリスは半信半疑ながらも納得したようだ。
 ふぅ、良い仕事したぜ。

「よしっ……はむっ」
「見た目に反して豪快ね。あえてへらを無視する辺り、気持ちの良い食べ方だわ」
「っ!」

 靈夢の言葉に驚き、皿を見て、私を睨み――それからすぐに、目を瞠った。

「……ん、む…………おいしい」
「ふふ、そうでしょ?ほら、お茶もあるわよ」
「うん、あの、ありがとう」
「ちゃんとお礼が言えるんなら、大したものよ」
「え、あ、いや、私は貴女よりも年上だけど……まぁ、いいか」

 霊夢と、同じだ。
 懐に入れた人を、自然体で迎え入れる。
 靈夢も、霊夢と同じなんだ。

「ふぅ――遅れましたわ……と、ずいぶん仲良くなったみたいね」

 空間が歪み、亀裂ができる。
 そこから姿を現したのは、紫だった。
 紫は、縁側で笑い合う靈夢とアリスを見て、目を丸くする。

「ええそうよ、もう友達ですもの」
「は?ちょっと」
「あら、それは羨ましいですわ」
「な、なんでよ」

 アリスとは違う視点から、紫を見る。
 その実、どこかでこの光景を見ていたのだろうか。
 最初の邂逅とは打って変わって、優しげな表情でアリスを見ていた。

「八雲の、あなた」
「そんな仰々しい呼ばせかたしているの?はぁ、呆れた」
「靈夢、貴女はもう少し私を信用するべきですわ」
「信用させないアンタが悪い」

 言い切った靈夢の姿に、思わず吹き出す。
 微妙な表情をしている紫がまた、私の笑いを加速して。

『ぶっ……く、ははははっ』
『ちょ、ちょっと魔理沙、失礼、ふふ、あはははっ』

 何がおかしいのか、わからない。
 霊体アリスもそれは理解できているのだろうけれど、それでも私につられて笑ってしまったようだ。

 そうなると当然、私を知る最後の一人にも、伝染する。

「ふふっ、もう、あはははっ」

 そんなアリスを見て、紫と靈夢は顔を合わせる。
 それから直ぐに、揃って頬を緩ませ始めた。

「あは、ははっ、ほら紫!笑われているわよ!」
「ふふ、もう、いやね、笑われているのは貴女よ」

 楽しそうに、楽しそうに。
 ただただ、声を出して笑う。
 この場に本当の意味で参加することができないのは、ほんの少し寂しく思う。
 でも、そうだ、それでも。

「あはははっ」

 この記憶が、私たちの中に残るのなら。
 私はそれを、大事にしよう。

 いつかまた、この光景を――全員で、過ごすために。
















――11・火曜日/終わりの始まりの終わり――



 あれから、二週間――ずっと夕暮れだから、だいたい、だけど――ほど経った。
 外とこちらの時間がどうなっているのかわからないが、今気にしても仕方がない。
 妖怪になった以上、衰弱死という心配は無いだろうし。

 少し視線を移せば、縁側を見ることができる。
 二人のアリスは、並んで熟睡している。
 気楽なヤツらだぜ。良いことだけど。

『あー、歩くかな』

 かくいう私も、寝起きだったりする。
 アリスたちよりも、僅かに早く起きたのだ。

 ふわふわと浮かび上がって、境内まで飛ぶ。
 するとそこには、紫と靈夢の姿があった。

「準備は、だいたい整いましたわ」
「そう。それで、外の世界へはどんな対応にしたの?」
「幽香、魅魔、他一部のものは記憶を持ったまま外へ。他は全員こちらへ」
「記憶を持ったまま?魅魔は、あっちで良かったの?」
「神社の祭神として、しばらく眠るそうよ」
「そう……魔理沙のため、かしらね」

 その会話に――足を、止める。
 幽香に、それと……魅魔さま?私の為って、え?
 祭神もそうだ。博麗神社に祭神?

 そんなの――私は、知らない。

「暗い過去を知るものは、訪れようとする未来へ猜疑心を抱く」
「そんな過去は、知っておける者達だけが、知っておけばいい……でしょ?」

 紫はそう、語る。
 スペルカード制定以前は、荒れた世界だったらしい。
 私が生まれたのは、世界が落ち着いてきた後だ。

 考えてみれば、私は――それより以前の世界を、知らない。

「知っていても世界に影響を及ばさないようにできる者。それだけを、外に残します」
「そうすれば、確かな過去はここ……“靈異の幻想郷”に封じられて、人々から忘れ去られる」

 紫の言葉を、靈夢が引き継ぐ。
 その間に、私は情報を整理していた。

 幻想郷には、忘れ去られた者が訪れる。
 それなら、幻想郷から“意図的に”忘れ去られれば、どうなるか?
 人々は誰も、そう、そうだ……誰もその記憶に、関心を抱かなくなる。

「天狗は?」
「天魔と萃香が」
「地底は?」
「星熊の鬼と、さとりが」
「冥界は?」
「閻魔様と幽々子。妖忌はこちらへ」

 聞き覚えのある名前が、連ねられていく。
 そうか、ここは……忘れ去られた者達が、忘れ去られるために集った場所なんだ。

「ねぇ紫、平和になるかしら?」
「ええ、なりますわ」
「どれくらい?」
「ふふ、そうですわね……龍神様が、些細な戯れで幻想郷に降り立って下さる程度には、平和な世界になりますわ」
「あら、それは確かに平和そうでいいわね」

 そんなの、いいのかよ。
 だって、だってそれは。

『そこまでして平和になった世界を、見ることはできないのにッ!』

 それで、いいのかよ。
 一番頑張ったヤツが、のけ者にされるような。
 そんな未来で、満足なのか?

 言えた事じゃないのは、わかってる。
 本当にこんなことを言ったら、靈夢たちの決意を穢すことになることくらい。

「そうだ紫、最初の異変!」
「吸血鬼異変の血族が、幻想郷に入ってきますわ。彼女が最初に起こす協定よ」
「そう、それよ」

 靈夢は、儚げな笑顔を一転させて、明るく笑った。
 その笑顔を見て、紫は目尻に溜まった雫を、拭う。

「――私、今日から“冴月麟”と名乗って、彼女たちを影ながら支えるわ!」
「おやめなさい!!」
「あだっ!?」

 おどけた靈夢の頭を、紫が叩く。
 それに靈夢は、つんのめって頭を抑えた。

 なんとなく、そうなんじゃないかって思っていた。
 やっぱり靈夢が……麟、だったんだ。

「……もう、どうしてそうおどけるのよ。貴女が望むのなら、貴女のままで」
「ばーか、何言ってんのよ。託した私が私のままに出てきたら、あの子は飛べなくなっちゃうわ」
「霊夢には親が居ない。そんな嘘、本当に良いの?」
「良いのよ。だって二度と逢えないんですもの――捨てたようなモノだわ」
「愛しているのに?」
「それでも私は、あぶれちゃったひとたちを、見捨てられないから」

 これ以上、聞いていていいのだろうか。
 愛おしそうに笑う靈夢の姿に、紫の姿に、躊躇う。

 私は、これを聞いて、どうしたい?
 そんなの――決まっている。

 もどかしいから、諦める?
 手が届かないから、俯く?
 疲れたから、立ち止まる?

 そんなの、私“らしく”ない。
 せっかく得た、長い人生。
 やれるところまで、足掻いて足掻いて足掻いて、生き抜いてやる。

「御阿礼には、全ての情報を記して貰います。人の目に触れた程度で、解かれる封印でもありませんわ」
「そうね。どこかで、片鱗を見せておかないと、隠せるものも隠せなくなる」
「真実を織り交ぜて、初めて嘘は罷り通るものですわ」

 私が覚悟を決めている間に、二人の会話は進んでいた。
 おっと、将来“どうにか”するためにも、ちゃんと聞いておかないと。

「もうアリスとも会えなくなると思うと、少しだけ寂しいかも」
「あら、やめます?」
「ふふ、まさか。私は――」
「――それ、どういう意味?」

 私の後ろから響いた声に、振り向く。
 幽体アリスと連れたって、アリスが目を見開いていた。

『ね、ねぇ魔理沙、どういうこと?』
『しばらく……ここは封印されなきゃならないらしい』
「そんな、封印なんて……」
「そこまで、聞いていたのね」

 靈夢はそう、寂しそうに笑う。
 どこか達観した笑みに、アリスは全てを悟ったようだ。

「もう、会えないの?」
「ええ、簡単に出入りできるのは紫のみ」
「靈異の幻想郷の上に、偽装の神社も造りますわ。それが蓋になる」

 妖怪を改心させていた施設。
 なるほど……あれが、“蓋”か。

「会いに行くわ」
「無理よ」
「立派な人形遣いになって、意識を人形に移す。それなら、話くらいはできるでしょう」
「そう、ね――ま、期待して待っておくわ」

 目尻を拭うアリスの肩を、幽体アリスが叩く。
 慰めるように、小さく言葉を紡ぎながら。

「そろそろ、境界が閉じますわ」
「出なきゃならないのよ、ね」
「立派な人形遣いになるのよ」
「わかっているわ。この棺だって、人形制作に必要なロジックさえわかれば開くもの」
「またね、アリス」
「ええ、また会いましょう、靈夢」

 靈夢と紫に見送られて、アリスが背を向ける。
 その瞳に、いっぱいの涙を浮かべて。

 境内から飛び出て、夕暮れの空に浮かび上がり、顔を上げた。

「どうやって、出ればいいのかしら」
『もう、いいのか?』
「いいわ。絶対、会いに行くから」
『そうか』
「そのためには、まずは自立人形制作に不要な知識の封印ね」
『封印?』
「そう。自分が“死”の具現であるという情報は、たぶん余計なものになる」

 アリスは、目を眇めて空を見ている。
 私もそれに倣って目を眇めると、確かにそこに“綻び”が観えた。

「突き抜ければいんだろうけど、どうしましょうか」
『ねぇ魔理沙、それなら』
『ああ、なぁアリス』

 アリスに声をかけると、彼女は首を傾げながら私を見た。
 どうして一人で全部やろうとするんだ?ったく、本当に……。

『しょうがないな』
「なによ、それ」

 憮然とした表情で、アリスは私を見る。
 少し視線をずらせば、幽体のアリスが呆れたように目を眇めていた。

『望め。そうすれば、何時だって私はアリスに、力を貸す』
「は?」
『なんでか、わかるか?』
「わからないわ。なにかメリットがあるのかしら?」

 アリスは、怪訝そうな表情で断言する。
 それでもその声が震えていることに、アリス自身は気がついていないのだろう。

『そんなんだからダメなんだ』
「失礼ね。何がダメなのよ」

 肩を竦ませてみせると、アリスは拗ねたように頬を膨らませた。
 出会ったばかりの時は、私にそんな表情、みせようとしなかったくせに。

『いいか、よく覚えておけ。忘れたら、何度でも思い出させてやる』
「よくわからないけれど、まぁ、わかったわ」

 まだ捻くれてるアリスに、言葉を重ねてやる。
 箒に跨り、魔力を点火して、それからアリスに手を伸ばす。

『力を貸す理由は、たった一つだけ。それはアリスが――私の“パートナー”だからだ』
「え?」

 二人のアリスを箒に乗せる。
 そうすると、アリスは慌てて七つの棺に繋がる糸を、補強した。
 あの七つの棺の中には、私の友達が入っているんだ。
 落とさせたりなんか、しない。

「パートナー、か」

 アリスの呟きが、準備に入った私の背から、響く。

「最後のロジック――わかった、気がするわ」

 問い直そうかと思ったが、止めておく。
 だってその答えは、きっと知っているから。
 だから答えは、いつか未来で、聞かせて貰う。

『行くぜ――彗星【ブレイジングゥゥ――スタァァァァァッッッッ】!!!』
「きゃあっ」
『いっけぇぇ!魔理沙号ーっ!』

 二人の異なる悲鳴を背に、まっすぐと飛ぶ。
 何ものにも遮られることなく、ただただまっすぐと、飛ぶ。

 そして私たちは――夕暮れの空を、突き破った。
















――12・月曜日/在る一つの終息――



 光の奔流が、収まる。
 お母様は倒れ伏していて、動かない。

「これは、いったい……って、魔理沙は!?」

 視線を移す。
 上海と蓬莱が守っていた魔理沙を見ると、彼女は変わらずそこにいた。
 傷ついている様子はなくて、そのことに安心する。

「良かった、魔理沙」
「――アリス、無事か?」
「魔理沙!?」

 魔理沙が返事をしたことに驚いて、近寄る。
 手を握りしめたら、その身体は温かくて。
 それが、嬉しかった。

 ほんとうに、こんなことでこんなにも揺れるなんて――考えたことも、なかった。

「心配、してくれたのか?」
「当たり前じゃない。パートナー、なんでしょ?」
「はは、ああ、そうだな。パートナーだ」

 魔理沙に手を貸そうと、伸ばす。
 けれどその手に、もう一つ重ねられた。

「アリス……貴女まで」
「えへへ、私も一緒だよ。アリス」
「あーずるい。のけ者にするな」

 目尻に涙を溜めて、アリスが私に抱きつく。
 魔理沙はその光景に、楽しそうに笑っていた。

「あれ?魔理沙……貴女、その身体、まさか!」
「あー、神綺のヤツにも言ったが……私が、妖怪になった程度で人間をやめるかよ」
「ふふ、そう……“らしい”わ。すごく」
「ああ、だろ?」

 ああ、まったく。
 こんな風に笑われたら、なにも言えないじゃないか。
 こんな風に笑顔を見せられたら、頷くしかないじゃないか。
 本当に魔理沙は、ずるい。



「ねぇ、アリスちゃん――――私は、間違えていたのかしら」



 声に、魔理沙が警戒する。
 私もそれに合わせて、疲れ切った身体に鞭を打った。
 うぅ、肋骨が折れていたの、忘れていたわ。

 でも、そんな私たちを制するように……アリスが、前に出た。

「私は、お母様のことが大好き。だって、ずっと愛してくれたから」

 まっすぐと告げてみせるアリスに、私は苦笑する。
 このままだと、本当に親不孝者になる、ところだった。

「私も、お母様を愛しています。間違えたのなら、やり直しましょう。何度だって、みんなで」

 そう続けると、魔理沙もふらふらと立ち上がった。
 そして、私たちの頭に、手を乗せてかき回す。
 乱暴だけど、イヤじゃないから……困った。

「ほら、娘二人の一世一代の告白だぜ?答えてやれよ。“おかーさん”なんだろ」
「ええ、そうね、ええ――ほんとうに、そうだわ」

 お母様は、ふらりと立ち上がる。
 立ち上がって、歩み寄って、私たちの前にしゃがみ込んだ。
 そして、愛おしげに――抱き締めた。

「大きくなったわね」
「かわってませんよ」
「見た目の話じゃないわ。本当に、大きくなった」
「お母様、くすぐったい」
「ふふ、ごめんなさい。でも、もう少しこうさせて」
「……はい」
「……うん」

 そうして、それから、身体を離す。
 私たちを交互に見て、それから、魔理沙に視線を移した。

「ありがとう、かしら?それとも、ごめんなさい?」
「さぁな。自分で考えな」
「もう、イジワルね。……ごめんなさい――それと、ありがとう」
「おう」

 あっさりとした答えに、お母様が吹き出す。
 いつも、そうだ。
 どんなに辛いことがあっても、変わらない。
 魔理沙が飛び去った後には、いつも。

 温かい笑顔だけが、残るんだ。


――ここよ!もうここしか扉が残ってないわ!
――きゃー!パ、パンデモニウムが、どうして?
――マスター、魔理沙!今私がゴリアテバーストォッ!
――夢、子?その頭は、いったい。

 扉の外から、声が聞こえる。
 その声に、思わず吹き出すと、肋骨が痛んだ。

「ごめんね、アリスちゃん」
「ぁ」

 けれど、お母様が手をかざすと、それだけで痛みが止んだ。

「ったく、ほら……行こうぜ、アリス!」

 魔理沙が、私たちに手を伸ばす。
 一括りで呼んでしまうなんて、本当に魔理沙らしい。

「ええ、行きましょう」
「うん、行こうっ!」

 手を握り返して、走り出す。
 扉の向こう側で待つ、娘たちと、喧嘩したばかりの姉妹達の下へ。



 とびっきりの、笑顔を携えて。
 私たちは、開け放たれた扉へ――――光の中へ、飛び込んだ。
















――13・日曜日/安息の太陽――



 目映い光に、目を醒ます。
 どれほど寝ていたんだろうか、思い出せない。
 これから、何をすべきだったのかも。

 ただ私は、ひどく懐かしい夢を見ていた気がする。

「安らかな日の、夢だ」

 そうだ。
 悠久の果て、過ぎ去った日々。
 それをもう一度見たいと願って、私は再び目を閉じる。

 だって、こうすれば。
 こうすれば、何度だって。

 この安らぎに、身を任せることが――



「二度寝に、たいそうな理由をつけようとしない!」



 ――できなかった。

 枕元で、幼い少女が怒鳴る。
 黒いリボンに黒いスカート、それから黒のサスペンダー。

 あの魔界の騒動から、三日。
 まだ呼び分けも決まっていないから、とりあえず服装だけ分けたのだ。

「なにが安らかな日よ」
「あー、アリスかっこ日曜日とじかっこ」
「もっとマシな名前はないの?ほら、さっさと起きる!」
「うぅ、わかったぜ」

 日曜日のアリスが、私の手を引いて起こす。
 そうすると、幼いアリスが苦笑しながら、私のクローゼットから服を引っ張り出してきた。

「着替えさせて欲しいの?」
「そうしてくれ」
「そう。それならすぐに呼んでくるわ。月曜日のアリスがすぐそこに……」
「すぐ着替えるから先に行っていてくれ!」
「もう」

 肩を竦める二人のアリスを、見送る。
 危うく色々危ないことになるところだった。

 着替えながら思い出すのは、三日前のあの後のこと。

 みんな傷を神綺が治して、魔界の住人と七人のアリスたちが睨み合うのを制した。
 わだかまりを持ったままじゃ、やっぱり気分が晴れないだろう。
 だから後日日を改めて、弾幕ごっこで勝敗を決める。
 やっぱり、幻想郷のもめ事解決はこうでないと。

 それから幻想郷に帰って、紫にこっぴどく怒られた。
 無茶をしすぎるな、とアリスを叱る紫の表情は、柔らかかったのを覚えている。
 どいつもこいつも、本当に素直じゃない。

 これから魔界は、もう少しオープンになるそうだ。
 スペルカードルールを理解した者から、徐々に幻想郷に遊びに行かせて。
 最後には、みんなで笑い合えるように。

「魔理沙ー!置いていくわよ!」
「っと、待ってくれ!今行く!」
「ゆっくりでも良いのに。このアルフレッド先生目覚ましがあるから」
「いや、それ寝ちゃうだろう。永眠的な意味で」

 明るい声に、口元が緩む。
 妖怪としての生き方なんかは、これから学べばいい。
 私の本質が、変わる訳じゃないんだから。

 よりあえず、今しなければならないのは、目の前のことだ。

「やっと起きたね、魔理沙っ」

 夢のアリスが、私を見て笑う。
 彼女は今、とりあえず青いリボンとスカートで、見た目を分けている。

 そのまま、玄関に視線を移す。
 するとそこでは、全部で九人のアリスが、それぞれ微笑んで待っていた。
 ずいぶんと、寝過ごしちまったみたいだ。


「はぁ、遅いわよ」
――日曜日のアリスが、額に手を当てる。

「ふふふふ、魔理沙の寝起き」
――月曜日のアリスが、怪しく笑う。

「もう、遅いわよ!」
――火曜日のアリスが、腕を組んで荒く告げる。

「ちゃんと仕度は済ませた?忘れ物はない?」
――水曜日のアリスが、私を心配する。

「寝起きも可愛いわよ、魔理沙」
――木曜日のアリスが、艶やかに微笑む。

「やっぱり魔理沙のベッドはミートソースにすべきよ」
――金曜日のアリスが、得意げに頷く。

「TMT目覚まし!これならどう?」
――土曜日のアリスが、目を輝かせる。

「わぁ、楽しみだなぁ。みんなどんな顔をするかな?」
――夢の国のアリスが、楽しげに告げる。

 九人のアリス。
 その全員で、宴会に行くのだ。
 真っ昼間から幻想郷中の人妖を集めた宴会で、サプライズしてやる。

 それが今、真っ先に取り組みたい、“大切なこと”なんだ。

「ほら、魔理沙」

 最後に、アリスが手を伸ばす。
 死の少女と呼ばれた彼女。
 私が誰よりも最初に知り合った、私の最高のパートナー。

 彼女の手を、私は、しっかりと掴み取る。

「ああ、行こうぜ!――“アリス”」

 笑顔と、明るい声が返る。
 私がずっと、望んでいた声だ。





 これから先、きっと色んな障害があるだろう。
 この幻想郷のことだ、新しい妖怪が出現することだってある。
 けれども、私は負ける気がしない。

 最高の友達と、最高のパートナー。

 彼女たちがいるこの幻想郷で、私が折れるはずがない。
 彼女たちがいるこの日常を、覆させるはずがない。

 だって私は、知っているから。
 この“非常識な日常”が――なによりも大切だということを、知っているから。

 だから私は、何度でも掴み取れる。

 掴み取って、見せる!





 幻想郷の空。
 その遙かな青が――私たちを、祝福しているように……そんな風に、見えた。








――霧雨魔理沙の非常識な日常・了――
 皆さんは、どのアリスが一番好きですか?



◇◆◇





 長文読了、お疲れ様でした。
 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
 霧雨魔理沙の非常識な日常シリーズの、完結編。
 お楽しみいただけましたら、幸いです。

 二ヶ月にも満たない短い間でしたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
 これにて、霧雨魔理沙の日々は、一幕を終えます。

 それではまたいずれ、いつかどこかでお会いできることを願って。


 from:Iron-Ball

 2011/06/26
 誤字修正しました。
 何度も申し訳ありません。
 ご指摘、ありがとうございました!
I・B
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.5010簡易評価
5.100奇声を発する程度の能力削除
>夢子があっさとどうにかしてくれるだろうから
さっさと?
やべーー!!!これマジでヤバい!!
超大作すぎる!!!
4月1日の企画の時に見かけて読んでこれは面白い!と思い
そして、その後に正式な続編が出てきた時には凄く喜んだのを憶えてます。
もう終盤はドキドキの連続で鳥肌が立ちまくりでした!!
どのアリスも大好きで一番とか決められません!
でも、強いて言うなら何時かの貴方の作品でコメした時と同じで水曜日のアリスが好きです!
兎に角、此処までの超大作を完結させて本当にお疲れ様でした!!
6.100名前が無い程度の能力削除
ついに終わってしまったんですね…
大好きだっただけに残念ですが今回も楽しませてもらいました。
できれば番外編とかでまた見たいものです…素晴らしいシリーズをどうもありがとうございました!
自分は金曜アリスが好きです!
11.100名前が無い程度の能力削除
シリーズ完結お疲れ様です。
この投稿ペースでここまでのクオリティ。あなたのような書き手は久しぶりのような気がします。毎週楽しく読ませて頂きました。
因みに私は金曜日ちゃんが何となく好きです
13.100名前が無い程度の能力削除
大作お疲れ様でした!
オリジナル設定モノは正直余り好きではないのですが
あなた様の作品にはそんなことを忘れるくらい毎回毎回楽しませて頂きました。
気がついたら読み終えてるなんて、なんという時間泥棒!
何度かコメントでも言っていますが木曜日アリスが最強なんだぜ!
次の作品も楽しみにしています。
15.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れです。とても面白かったです。
16.100ab削除
大変面白かったです
ありがとう
魔理沙ファンとしての自分が持つ魔理沙らしさと
ピッタリと合致しました
こんな魔理沙を書いてみたいものです
まぁ、創造主の考えなんてあっさりと覆しちゃうかもね、
この魔理沙なら

PS.土曜と日曜が同じくらい好きです
19.80名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様でしたー。それだけで尊敬ものです。
魔理沙はちょっと屁理屈っぽい気もしましたがまあ熱血系主人公って大体そんな感じですよねw

>博麗の巫女たちに実戦の機会を与えたかった~
怪綺談について考えてることが私と近いですw
弾幕という手段が決闘法として妥当かどうかの検証、というのが
私見ですね。人間が魔神に勝てるならオッケーという感じで。

>戦闘in魔界
勝ちすぎな気も少々。

>オープンに
…確か元々そんな感じだったんじゃあ。
ただ幻想郷の方が魔界からの訪問者を嫌がってただけで。

改めて完結お疲れ様でした。次回作にも期待させて下さいませ。
20.100Rスキー削除
この2ヶ月間ずっと楽しみにさせて頂きました。
ありがとうございました!
22.100名前が無い程度の能力削除
完結おつかれさまです!
シリーズ全部読みましたが、どれも最高で面白かったですよ!
魔理沙、これからも9人のアリスと仲良くね!
24.100名前が無い程度の能力削除
最終回は残念ですが読後感がとてもよかったです
またあなたの魔理沙とアリスに会える日を楽しみにしています 完結お疲れさまでした
29.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様~。おもしろかった。
31.100名前が無い程度の能力削除
金曜日かわいいよ金曜日! 
32.100LOS-V削除
ああ、魔理沙は人間の英雄なんだな。
素直にそう思いました。
そうだよ、こんな魔理沙(と、カリスマな神綺様)が見たかったんだ……。
ありがとう。本当にありがとう。

王道ヒロイック・ファンタジー、最高に面白かったぜ!
そしてみんな可愛い!

日曜日のアリスと、マスターアリスが好きです。
魔理沙に頭を撫でられて、赤面するがいい!
39.100名前が無い程度の能力削除
>行動と言動(2箇所)
言動が言葉と行いという意味なので重複しているような

完結お疲れ様でした
ここ最近はこの作品の続きが待ち遠しい日々を過ごしてましたとも
終わってしまうのは残念ですが次回作にも勝手に期待させて頂きますね!
43.100名前が無い程度の能力削除
なんというハーレムエンド・・・楽しませて頂きました!!
47.100名前が無い程度の能力削除
マスターと金曜日のアリスかわいい!
49.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様、面白かったです
50.100名前が無い程度の能力削除
シリーズ完結お疲れ様です。
もう何もいうことがないくらい楽しませて頂きました!
良い作品をありがとう。
52.100名前が無い程度の能力削除
感動しました。個人的に日曜日が一番いいですね

誤字報告を
〉〉厄介後に巻き込まれる一番の要因だろうに。
多分事が後に。泣きっ面に蜂…?

〉〉「どういう?決まっているじゃない――“アリス”を幸せにしてあげたかったの?」

この最後の?に違和感が。
もし後日談などがあれば期待します。
53.100名前が無い程度の能力削除
完結おめでとう!
54.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様でした‼
最初から最後まで楽しかったです
なによりこのシリーズでますますアリスが好きになれました‼

いままでのコメント欄を見る限り、
水・木・金アリスが人気のようですね・・・
爆弾魔(狂?)な土曜日アリスが大好きな私は
どこかずれているのだろうか?

土曜日アリスの腹マイトで今夜もボンバヘッ!!(意味不明)
55.100愚迂多良童子削除
二ヶ月くらいやってたのか。あっという間に過ぎていった気がします。
まさか好々爺からここまで膨れ上がるとは予想だにしませんでした。
お疲れ様でした。

以下、誤字などと思しきを。
>>肉体機能の保存だけ魔法で保と、
肉体機能だけ魔法で保つと
>>魔理沙モアレで乙女チックだから、喜ぶだろう。
もアレ
>>本当に、娘たちに好かれているのに、こいつ。
のね?
>>近くできるのはアリスだけだろうけど
知覚?
>>かくゆう
かくいう
>>聞きお覚えのある名前が
聞き覚え
56.100名前が無い程度の能力削除
あれ?確か冴月のところに人形残してたような…

僕は誰がなんと言おうと夢アリスで

何はともあれお疲れ様でした。素敵な時間ありがとうございました!!
61.90名前が無い程度の能力削除
あの人間だ、のくだりで何処かの漫画の少佐を思い出してしまいました
彼は最後に否定されましたが、この魔理沙なら大丈夫そうですね
面白かったです
62.100名前が無い程度の能力削除
凄い…なんかもう言葉で言い表せないほど良い、良い小説でした。
もお良すぎてこれで終わりとか思いたくないくらいです。
どんなアリスも好きです。ええ好きです。
月曜も火曜も水曜も木曜も土曜も日曜も死も夢も!   …あえて言うなら土曜が特に。
全部で九人。アリスの正体については諸説ありましたが、これは新しいですね…でもこの設定はアリだと思います!
お疲れ様でした!ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!(笑)
66.100名前が無い程度の能力削除
とりあえず幼アリスはロリスって呼び続けたい!

ところでタイトルの一ってはじめって読むんでしょうか?やっぱり単純にいちって読むんでしょうか?
67.100名前が無い程度の能力削除
更に一人増えるとか予想外だったぜ…w
ともかくお疲れ様でした!
いい話をありがとう!
68.100名前が無い程度の能力削除
大作お疲れ様です。楽しませていただきました!!
ここでは久しく見なくなっていた冒険活劇風のジャンルで非常に楽しみにしていただけに終わってしまうのは残念です。


このシリーズの中では永遠亭編が一番好きですね。酷評も見ましたがあの解釈や展開は好きです。
逆に、複線のためなんでしょうが白蓮と神綺の関係が淡白すぎたのが少し残念でした。

まだ回収していない複線がいくつか残っているような気がするのでEXステージを期待していいのでしょうか!!
ちなみに私は日曜日のアリスが好みです。
72.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れさまです
74.100名前が無い程度の能力削除
とても素晴らしいお話でした。
一つ一つのお話が連なり、一つの大長編に。
素敵な小説、本当にありがとうございました!

アリスは全員大好きですが、せっかくなので木曜日のアリスに一票。
でも、アリス達を愛してアリス達に愛されてる魔理沙が一番好きかも。
75.100名前が無い程度の能力削除
お疲れさまでした!!
さすがに九人は魔理沙の身がもt・・・なんでもないです
また氏の作品をみるのを楽しみにしています。あ、僕は日曜日派です。
76.100名前が無い程度の能力削除
すごい! 
78.100可南削除
完結お疲れ様でした。
一話目から最終話まであっという間な気がしました。面白かったです、ありがとうございました。
85.100名前が無い程度の能力削除
思わずブラボーと拍手したくなる幕引き!
わずか二ヶ月しか経ってないのにこの大作…本当にお疲れ様です。

願わくば、魔法使いになった魔理沙のその後が描かれることを!

あと、冷静になると9人も同じ顔が押し寄せてきたらホラー…いやでもアリスならっ!
87.100名前がない程度の能力削除
素晴らしかったです!!朗報好々爺でみてから今まで毎回様々なアリスや主人公属性MAXな魔理沙、そしていろんな個性豊かなゲスト達、本当に楽しませていただきました!!図々しいようですがまたいつかこのアリスをみれたらと思います。長編本当にお疲れ様でした!!!
ちなみに私は水曜日が好きです!お姉さんいいよお姉さん(*´▽`)
88.100名前が無い程度の能力削除
長編完結お疲れ様です。
毎シリーズ楽しませていただき本当にありがとうございました。
9人のアリスは全員魅力的で誰か一人なんて選べません。
素晴らしい連作でした。
90.100名前が無い程度の能力削除
全員好きだ! 選べるわけがない・・・! そして、魔理沙が格好良すぎる。自分の理想とする魔理沙で、とても魅力的でした。 長編お疲れ様でした!!
91.100名前が無い程度の能力削除
お疲れ様でした。
とても面白かったです。笑いあり、涙ありで。
普段はアリス<人形で好きだったんですが、一連の作品を読んでアリス>人形になった気がします。
アリスが増えるという手はまったく予想がつかなかった、そして結局9人ってちょ、おま。

ところで、ロリス人形やらアルフレッド先生人形やらはどこでもらえますか?(((
94.100名前が無い程度の能力削除
お疲れさまでした!
金曜アリスの意味不明さにはまるw
95.100名前が無い程度の能力削除
お疲れ様でした。
とても素晴らしい物語を見せてくださった作者様に敬礼!
気が付いたらシリーズ全部を読み直しつつぶっ通しで読んでいた・・・
あぁもうなんか言いたいことがありすぎて言葉に出来ないです。
これでこのシリーズは一旦終了・・・それでも!
今後の氏の益々の活躍に期待して、文句なしのこの点数と圧倒的感謝を!
98.100桜田ぴよこ削除
大長編お疲れ様です。
心躍らせる、良いマリアリでした。
100.100キャリー削除
色々語り尽くしたいですが言葉になりません!
「素晴らしい」としか言えない自分の表現力の無さに嘆息し、同時にこの文章力に脱帽します(苦笑)

個人的に土曜日のアリスが好きですw
アルフレッド先生人形欲しいw


感想として短すぎますが、ここまでとします!><
103.100名前が無い程度の能力削除
月曜日w
敵に回すと厄介なのが味方になると頼もしいって王道ですね!
続きが毎回楽しみでした。

またいつか、アリスが9人いることを知った各勢力とアリスたちの交流を書いてほしいです。
107.100名前が無い程度の能力削除
今まで全話楽しませてもらってましたが
最終回、集大成だけあって一番面白かったです。

魔理沙の前向き不屈の主人公っぷり。
日曜日と"アリス"の魔理沙に感化された熱血。
特に8の「"人間"の、魔法使いだ」のあたり、地の文含め
リズムがよくカッコいい啖呵。
この辺が特に好きです。

各話の題名とそれぞれの章題も凝ってて面白かったです。

このシリーズの続編、外伝ももちろん
また新しいシリーズ物を書かれることも期待しています。
108.100名前が無い程度の能力削除
連載の最終回を読んだ後の充足感と虚脱感を創想話で味わえるとは……。
クオリティと連載ペースを下げることなく、ひたすら王道を描く姿勢を貫いて
最後まで完走仕切った作者様に最大級の敬意を。


金曜日ー! 俺は浮気しなかったぞー!
116.100名前が無い程度の能力削除
壮大なスケールであるにも関わらず、
それをうまく纏めての大団円。文句なしです。

この超長編を読んで、一番素晴らしい、おもしろいと思ったのは、
登場人物の成長ですね。
117.100名前が無い程度の能力削除
尋常ならざる構成力とそれを表現する文章力、
最高のファンタジーを描ききって下さった作者様に心からの敬意と感謝を。

また一つ、私のメモリーに名作が一つ増えました。

本当にありがとうございました!!

PS:水曜日お姉さんと結婚したい。
125.100名前が無い程度の能力削除
本当に面白かった!
とても充実した気分です!

お疲れ様!ありがとう!!
126.100名前が無い程度の能力削除
今私がゴリアテバーストォッ!
127.100名前が無い程度の能力削除
貴 方 が 神 か 。
よくある王道モノであるにも関わらずこの面白さ。GJです。

ちなみに僕は火水木金土日月ロリ夢のアリスが好きです
130.90名前が無い程度の能力削除
魔界戦が一方的すぎるw

七色が強い。夢子以外手傷さえ負わせていない状況。本当は余力あったんじゃないか?
1か所位、アリス達が負けてもいいと思うんだけどな。
もしくはほかのアリス達が最終決戦で駆けつけてきたり。
全部が全部、ほかの所に加勢できないってどうなんよ的な。

神綺様全部解ってやってたんじゃないかな。ある程度は。
そのうえで自分の処置の是非を問うために、とかそう思いました。
どっちに転んでも、そう思わないでもないです。

まあ、型ゆで卵な冬の神(3200歳)も言ってましたし「世界はすべてお芝居だ」引用ですけどね。これも。
「めでたし、めでたし」ならそれでいいかなとも思いましたし。
131.100名前が無い程度の能力削除
すばらしいシリーズを、ありがとうございました。
ここまで引き込まれ、短期間で読み切った作品群は、これが初めてかも知れません。
本当に、完結お疲れさまでした!

ちなみに私は木曜日のアリスが好きです。
138.100名前が無い程度の能力削除
完結お疲れ様でした。
最初から読ましてもらいましたが全て良いと思いました。
番外編などを期待して待っています。


個人的には金曜日のアリスが好きです。
あの不思議な会話がたまらないです。
139.100名前が無い程度の能力削除
一気に読みきりました
アリスが全員個性的でかわいいし、魔理沙を始めとした登場キャラもみんな魅力的
素晴らしい大作でした。ありがとうございます
141.100名前が無い程度の能力削除
超大作でした!
142.無評価名前が無い程度の能力削除
良かった
144.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字?報告
表情を崩さないユキが、珍しく涙目になっている。
>表情を崩さないマイが、珍しく涙目になっている。

近くできるのはアリスだけだろうけど、
>知覚できるのはアリスだけだろうけど、
(これは55の方の指摘があったのにそのままなので間違っていないのかも?)

やっと2周目読み終えましたがやはり大作ですね。数日かかりましたw
幸せな時間をありがとうございました。
164.100名前が無い程度の能力削除
読了。面白かったです
165.100名前が無い程度の能力削除
一作目から一気読みさせていただきました!!!
たくさんのアリスという発想とその面白さに惹かれて読みましたが……いやー、本当にすごい。好き。
どのアリスもキャラが被ることなくちゃんと際立っていて(一部際立ちすぎているヤバいのもいるけど)みんなかわいくて楽しくて本当に好きです!!
この魔界戦線、ユキ&マイが一ヶ月霊障を患ったり、夢子さんが一週間アフロの姿のまま過ごすことを強要されたり、パンデモニウムがぐっちゃぐちゃになったりと魔界組が割と甚大な被害を負う結果になっていたあたりには涙を禁じえません。アフロはともかく霊障はマジでしんどそう……

最後におそらく誤字だと思われる部分の報告を。
最後のシーンの土曜日アリスの発言のTMT時計、TNT(トリニトロトルエン)の間違いではないでしょうか?