Coolier - 新生・東方創想話

仙人で出汁をとれ!

2011/06/15 23:28:55
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「華扇、あんたスープの出汁になりなさい」

 巫女の唐突な一言に茶を噴出した華扇に、はたして非はあっただろうか。いいや、ない。
 もうすぐ夏になろうかという梅雨の季節、珍しく晴れ間が覗く今日この日、そんなことをのたまった巫女のほうにこそ問題があるといえよう。
 げほげほと咽る華扇を不思議そうに見つめながら、縁側でのんびりとしていた霊夢は不思議そうに首をかしげた。

「どーしたのよ?」
「どーしたもこうしたもないわ! いきなり何を言い出すのですか、あなたは!!」
「いや、ラーメン作ろうと思って」
「はぁっ!!?」

 もはや意味がわからなかった。
 出汁とかいったりラーメン作るとか言い出したり、そもそもなぜ華扇を使って出汁をとろうとするのかさっぱりわからない。わかりたくもないが。

「いやね、なんか変わった味のラーメンが食べたいなーと思って。仙人の出汁ってなんか体によさそうだし」
「なんで私で出汁なんですか。お断りします」

 まったく持って当たり前の返答だったのだが、霊夢はというとたいそう不満らしい。
 「えぇ~?」とあからさまにふてくされる霊夢を見て、頭痛をこらえるように頭を抑えた華扇は深いため息をつく。
 そんな彼女を見て何か思うところがあったのだろう。仕方ないといった様子で、霊夢は残念そうな表情を浮かべた。

「そう、そんなに嫌なら仕方ないわね」
「わかってくれたのね、霊夢」

 その一言を聞いて、安心したように一息こぼす華扇。
 華扇だって霊夢のことは好ましいと思っているし、できることならお願いを聞いて上げたいのだが、だからといってこんな意味のわからない願いは勘弁していただきたい。
 そんな彼女を気遣うように、霊夢は申し訳なさそうな、困ったような笑みを浮かべて、華扇の肩に手を置いた。
 「ごめんね」と、どこか優しささえ感じられる言葉を静かに紡いで――

「あんたの母乳で我慢するわ」

 もれなく頭部をわしづかみにされるのであった。マル。
 ギリギリギリと骨が軋む音もなんのその、アイアンクローをされつつも表情を変えない霊夢もなかなかの剛の者である。
 もっとも、華扇にとっちゃあ腹立たしいことこの上ないのであるが。

「ねぇ、霊夢。本当にどうしちゃったのかしら? このままじゃあなた、人間のクズになってしまうわ」
「え、母乳だめ? じゃあ唾液でいいや」
「おーい霊夢ー、お願いだからこっちの話し聞いてー。泣くよ? 泣いちゃいますよ?」
「……そうか、涙っていうのもあったわね」

 神は死んだ。少なくとも華扇はそう思った。
 思考回路が明後日の方向にサイコクラッシャーしてしまっている霊夢に、絶望しないほうが無理というものだろう。
 あんまりにもあんまりな現実に華扇が嘆いていると、ぽんぽんっと慰めるように肩をたたかれた。

「大丈夫、あんたのならどんなものでもきっとおいしいわ」
「フォローになってない!!?」
「何を言ってるのよ、私は本心を言っているだけよ?」
「なお悪いです!! 霊夢、あなた本当に今日はどうしたんですか!!?」

 にゃあにゃあ言い争っていた霊夢と華扇であるが、話は平行線でちっとも進みやしない。
 出汁をとらせろ。嫌です。お互いに引きもしないし妥協もしないまま、時間はどんどん過ぎていく。
 そんな二人のやり取りに割って入ったのは、ふわりと空から現れた黒と白の魔法使いである。
 境内に降り立った魔法使いこと霧雨魔理沙は、いい争いをする二人をニヤニヤと見ながら楽しげな足取りで歩みを進めた。

「おいおい、何してるんだ二人とも。私にも教えろよ」
「あぁ、魔理沙。いいところに!! お願いですから霊夢を説得して!!?」
「説得されるのはあんたのほうよ! ねぇ魔理沙、仙人の出汁で作ったラーメンって食べたくない!!?」
「……はぁ?」

 口の端を引くつかせ、わずかばかり後退する魔法使い。
 付き合いの長いはずの魔理沙でさえこの反応、今の彼女がいかに素っ頓狂なことを口走っているかがよくわかるというものである。
 眉間によったしわをほぐすように指で押さえ、盛大なため息をひとつついた魔理沙は、華扇に哀れむような視線を送った。涙がちょちょぎれそうである。

「……霊夢、なんか変なもの食ったのか?」
「失礼ね、私はいたってまじめな話をしているのよ。仙人のラーメンとかおいしそうじゃない?」
「いやいやいや、そんなもんお前以外に誰が食べるんだよ。いるわけが――」
「ここにいるぞ!」

 魔理沙が言おうとした言葉は、ついぞ言い終えることもないままに新たな声と銅鑼の音にかき消された。
 どこぞの錦馬超の従弟のような台詞を口走って登場したのは、我らがおなじみの風祝、東風谷早苗さんである。
 あんまりな登場にポカーンとする華扇と魔理沙をよそに、早苗はクツクツと笑いながら霊夢に歩み寄った。

「さすがね、早苗。あなたにはわかるのね、このロマンあふれた発想が!」
「もちろんですよ、霊夢さん。妖怪の山は全身全霊を持って霊夢さんを支持します!!」
『……えぇー』

 そんなんでいいのか妖怪の山。ていうかいつ聞いた妖怪の山。変態の集まりか妖怪の山。
 そんな思いとかツッコミとかやるせなさとかその他もろもろが乗っかった言葉は、回りまわって一言に集約される結果となって華扇と魔理沙の口からこぼれた。
 ぐっと硬い握手を交わした巫女二人を視界に治め、そんな二人を遠い目で見つめる仙人と魔法使い。
 余談であるが、妖怪の山で唯一「私は椛ラーメンがいいです!!」と口走った鴉天狗がいたのだが、もれなく隣にいた白狼天狗にバックドロップでノックアウトされていたりする。

「えーっと、なんだ二人とも。とりあえず一度冷静になろう。冷静になって一度自分の台詞考えてみよう。な?」
「何をおっしゃいます魔理沙さん! あなたにはこの胸からこみ上げるドキドキがわかりませんか!」
「いや、果てしなくわかりたくないんだが」

 まったくの正論もなんのその、暴走した風祝は手に負えないとは誰の言葉だったか。
 今回はそれに何の悪夢か霊夢まで混ざっている始末である。性質が悪いったらありゃしない。
 本格的に頭痛がこらえきれなくなったのか、華扇は両手で顔を覆って空を仰いでいる。
 そろそろ現実逃避してもいいよね? とか現在の状況丸ごと投げて帰りたくなったが、そうは問屋がおろさないのが霊夢と早苗の巫女コンビである。

「さぁ、脱ぎなさい華扇」
「霊夢さんの言うとおりです。脱ぎましょう」
「……二人とも、巫女とは何でしょうか?」
「愚問ね、酒と金と欲望の権化よ。勝てば正義ってやつね」
「邪魔するやつは毒を塗り、寝込みを襲い、急所攻撃は基本中の基本。そんな悲しい性を背負った生き物なのです」

 そんなもん巫女じゃねぇ。
 奇妙にも華扇と魔理沙の心がミラクルシンクロした瞬間だった。
 勢いあまって「リミット・オーバー・アクセルシンクロォォォォォォ!!」とかシャウトしそうなレベルの。
 まったく持ってうれしくないシンクロだったが。
 ふと、二人そろって山の神とかスキマ妖怪とかが号泣してる姿が脳裏に浮かんだが、妙にリアリティあふれていて幻だと断言できない魔理沙と華扇だった。

「お二人とも、巫女をなにやら神聖視しているようですが、世の中には武田信玄に仕えた望月千代女が育てたといわれる渡り巫女というものがありまして――」
「戦国時代の話でしょうそれ!!? 魔理沙、あなたからも何か言っ……て、いないし!!?」

 まさかの味方だと思われていた少女の逃亡に四面楚歌に陥る茨木華扇。
 じりじりとにじり寄る巫女二人に、たまらず「ひぃっ!?」と悲鳴を上げて涙目で後退する華扇。
 腕で胸元を隠すように後退しているあたり、身をもって貞操の危機をひしひしと感じているのかもしれない。

「ふ、二人とも、冷静になりましょう? いや、マジで」
「愚問ですね華扇さん。私たちはいたって冷静ですよ!」
「そうよ、昨日魔理沙からもらったきのこ食べてからテンションあがりっぱなしだけど、いたって冷静だわ」
『ねー?』
「まさかの原因魔法使いですか!!?」

 まさかの原因に大声を上げた華扇だったが、果たして誰がそれを責められるだろうか?
 付き合いきれなくなって退散したのか、それとも原因を思い出して撤退したのかは定かじゃない。
 心内で魔理沙に恨み言の一つや二つが浮かんだ華扇だったが、それを口にしたところで現状の危機を脱せるわけでもない。

「大丈夫、優しくしてあげますから!」
「信用ないうえに目が血走ってるんですけど!?」
「大丈夫、こうなったらぺろぺろで我慢する!」
「何言ってんのこの子!!?」

 言いつつ逃げたがときすでに遅し、霊夢の瞬間移動で羽交い絞めにされた華扇はじたばたと暴れるが効果なし。

「さーて、お風呂沸かしてるから一緒に行きましょうねー」
「霊夢さんの言うとおり。綺麗になりましょうねー」
「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 二人に両脇つかまれて、ずるずる引きずられていく華扇。
 心なしかドナドナが流れていたような気がしたが、それはきっと華扇にしか聞こえなかったに違いない。
 晴れ渡る青空の下、仙人が巫女の餌食になるまで後数十秒。



 結局、開き直った華扇は風呂場で巫女二人と盛大にちゅっちゅしたとかなんとか。
 この仙人、散々拒否っていたわりにはノリノリであったが、その勇士が語られることはたぶんない。
 だって、このときの華扇は「どうにでもなーれ☆」な投げやりな心境だったのだから。



 ▼



 後日、正気に戻った霊夢と顔を合わせるたびに互いに赤面する羽目になるのだが、それはまた別の話。
正直、巫女二人が暴走しすぎたとしみじみ実感する今回の話、皆さんいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いなんですが……いや、自分でも何ゆえここまで明後日の方向にかっとんだ作品ができたのかがわからない……。
次回からもうちょっと自重しよう、うん。
あ、今回ちょろっと出てきた渡り巫女についてですが、知らない人は少し調べてみると巫女の見方が少し変わるかも。


それでは、今回はこの辺で。前回の話にコメントしてくださった皆さん、評価してくださった皆さん、本当にありがとうございました。
ではでは、また次回。

※誤字修正しました。八木さん、本当にありがとうございます。
キャラの名前間違えるとかもう……。やっぱ上下に画面がぶれるパソコン使ってると誤字の取りこぼしがひどい……。自分で見つけた分も修正してます。
誤字の指摘、本当にありがとうございます。

※誤字修正。いや、今回本当にひどい……。
皆さん申し訳ありませんでした。
白々燈
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コメント



0.1480簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
2.90八木削除
茨木ですよw
誰にお言葉だったか。→誰のお言葉だったか。
変体の集まり→変態の集まり


華扇ちゃんペロペロ華扇ちゃんかわいいよ華扇ちゃん
5.100名前が無い程度の能力削除
ぶっとびすぎて、一周した挙げ句に冷静になれそうです。
しかし、妖怪の山が(一人を除いて)全面支持ってことは、妖怪の山の皆様もキノコ食ったのか?
6.90奇声を発する程度の能力削除
やっぱ可愛い過ぎるな…
7.100名前が無い程度の能力削除
俺も華扇ちゃんの出汁いただきたいれす^p^
9.100名前が無い程度の能力削除
ええい!入浴シーンはまだか!!
渡り巫女簡単にググってみたけどなかなか興味深い話ですね。一つ勉強になりました。

あと細かいとこですいません。
>勇士が語られることは
→雄姿か勇姿の方がいいかと。
面白い話ごちそうさまでした。
10.100名前が無い程度の能力削除
この幻想郷もうだめだろw
17.100名前が無い程度の能力削除
守矢の二注と妖怪の賢者さまは早く自分の巫女をなんとか矯正するべきww
20.90名前が無い程度の能力削除
なぜちゅっちゅを詳しく描写しないのか!
21.100名前が無い程度の能力削除
見事な変態ですがどこもおかしくないですね。
私も華扇ちゃんのお汁が欲しいです。
22.70ジーグ削除
お待ち下さい
風呂の残り湯を使えばいい具合に出汁が取れているやもしれません
私めでよければみそ汁などご用意いたしましょう
26.90名前が無い程度の能力削除
たしか妖怪にとって天人は毒だけど仙人は最高の栄養って設定だったはず
妖怪の山の早苗以外は変態とかそんな理由ではなかったんじゃぁ……?
32.100名前が無い程度の能力削除
食欲的な意味でも性的な意味でも食べられてしまった華扇ちゃんの行く末や如何に
33.100名前が無い程度の能力削除
いい仕事ですね!
38.100汗腺が壊れてる程度の能力削除
何この幻想郷怖い
42.100名前が無い程度の能力削除
流石幻想郷の巫女。一味も二味も違いますな。
とりあえず母乳を所望します。
43.100名前が無い程度の能力削除
風呂場でいったい何があったのか詳しく聞かせ(ドスッ
イエ、ナンデモナイデス
44.100名前が無い程度の能力削除
自分も仙人の出汁で作ったラーメン食べたいですね。
いやこの場合巫女+仙人の出汁が入ってますね
ぜひともお風呂場での出来事も書き記してほしいですね。