私は今、ヒビが入った土の天井の下で椅子に座っている。季節は夏。サウナの様に熱が篭る地底世界では蒸風呂状態だ。脇の壁の土を少し払って岩を剥き出しにしてみる。赤い。熱で赤い。妬ましい妬ましい妬ましい。この蒸風呂の様な環境で平気でいられる岩が妬ましい。ああ妬ましい。夏の夜に鈴虫のメロディーを聴きながら冷麺を啜る地上の連中が妬ましい。
体を動かす度にきしきしと鳴る古ぼけた椅子から立ち上がり、熱を帯びる壁にかかっているカレンダーを見る。私はそれに毎日『今日の妬ま指数』を記録する習慣がある。妬ま指数というのは、私がその日感じた妬ましい事に数値を付けたものである。単位は妬ま指数が小さい順に、《ぱるぱる(以下PP)》《メガぱる(以下MP)》《ギガぱる(以下GP)》《テラぱる(以下TP)》となっている。これを方程式的なもので表すのならば、《1TP=1000GP=100万MP=10億PP》というのが適当である。パワーポイントやマジックポイントやグランプリやテクニカルポイントにたまに間違えられるのが玉に瑕。因みに昨日の妬ま指数は410GPだった。ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる。410が嫉妬と韻を踏んでいるのがイライラを増す。更に例をあげると、先程の岩への妬ま指数は50MPである。予め断っておくが、PPの単位が出てくる事は滅多にない。地上の連中への妬ま指数は800MPである。これは過去にヤマメがさとりにカップラーメン濃厚醤油味を貰った時とほぼ同じ。まあまあの数値だろう。
コンコンと自宅の鉄でできたドアが音を立てた。誰か来たようだ。ああ妬ましい妬ましい妬ましい。この息をする事さえ辛いこの環境でここに来れる体力と勇気が妬ましい(150MP)。あ、1GP到達。とりあえずドアを開ける。人の姿は無い。ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる。静かにドアを閉める。いや、ここは静かにというよりも、暑くて力が入らない、の方が適当であると思われる。ゆっくり後ろを向いて冷静に言った。
「やっぱり。またあんた?」
そこには古ぼけた椅子に座った古明地こいしがいた。相変わらずきしきしと単調なリズムを奏でながら椅子が動いている。妬ましい妬ましい妬ましい。無意識の能力を使って存在を消してここに入ってきた目の前の少女が妬ましい(300GP)。オマケに汗を一滴もかいていないのも妬ましい(100GP)。
「邪魔だった?」
ぱるぱるぱるぱるぱる。質問したのに疑問形の返答が返ってきた。妬ましい妬ましい妬ましい。私がこんなに不機嫌な顔をしているのにけろっとしている少女が妬ましい(80GP)。ヤバイ。もう昨日の妬ま指数越えちゃった。
「で、何? 今日は何を持ってきたの?」
こいしはたまにここを訪れては何かしら持ってくる。薔薇の花や星砂、美しい宝石などなど数知れない。それらは全て部屋に飾っている。キラキラ煌めいているのがまた妬ましい(30GP)。
「はい、パルシィ」
ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる。また間違えられた。『パルシィ』じゃなくて『パルスィ』だって何度も言ったのに。ああ、今頃地上では鈴虫の演奏会が終わって皆寝る頃だろう。妬ましい妬ましい妬ましい(50GP)。
「これは何?」
「お姉ちゃんの第三の目のスペア」
はい出ましたスペア。それより他人にあげるとかそういう代物じゃないよね? そんな貴重なものを何個も持っている古明地姉妹が妬ましい(100GP)。だが、遠慮無く貰うことにする。それをマフラーの様に首に巻いてチャラチャラさせてみる。ナイスフィット(360GP)。
「それよりパルシィ。お誕生日おめでとう!」
あれ? 誕生日? 今日だっけ? 確か私の誕生日は4月10日だったはず(410GP)。今日は......わかんないや。どうでもいいし。あ、判った。これは無意識だな。
「おめでとうのしるしにケーキ持ってきたよ。スペアの目とか人肉とかカブトムシとかいっぱい入ってるよ」
「ど、どうも......え? なんて?」
うわっ、マジで入ってるよ。いっぱい入ってるよ。どういうことだよ。目? 人肉? カブトムシ? どこから取ってきたんだよ。まず食えないよ、いや食わないよ。そんな野蛮や妖怪じゃないから私。いやいや違うよ。そもそも誕生日ですらないよ。どうすんのこれ。食べるの? 私はやだよ。見た目グロいもん。
「これ美味しいよ。お姉ちゃんに味見させてあげたら、あまりの美味しさに泡吹いて倒れちゃった」
味見じゃなくて毒味だね。それよりよく食べる気になったな、さとりも。さとりが倒れた? 絶対食わない。ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる。どうしよう。ツッコミどころ多すぎて妬ま指数が増えない。
「こいし。私の目から見たら危険度MAXなんだけど..........ってなにやってるのこいし!」
ぱたんとこいしが泡吹いて倒れてしまった。ハッピーバースデイの恒例行事『ケーキのフライングイート』を行ってしまったのであろう。ケーキを食べたいという衝動に駆られて、ついつまみ食いをしてしまうあれだ。妬ましい妬ましい妬ましい。見た目からして危険と判っている食べ物(?)に手を出す勇気が妬ましい(840GP)。だがここはGJ。さっきまでのけろっとした顔は逝ってしまった。
「あらら。可愛い顔で寝ちゃって」
どうしようかこの子。寝かせておこうか。お姉ちゃんのところに戻してあげようか。否、ここは私も一緒に寝よう(ヤケクソ)。妬ましい妬ましい妬ましい。この子と毎日一緒に暮らしているさとりが妬ましい(5140GP)。
「どれ、ちょっと毒味」
もはやケーキというより食べ物とも呼べない何かを口に入れてみる。
「うっっっぼぉぉはぅぅぅあっっぁぁぁ!」
これから先は覚えていない。ただ、意識を失いかけた直前に、右手にこいしの寝顔があったのは覚えている。
今日のカレンダー
時:7月X日
値:7411GP
他:過去最高の妬ま指数。起きたのが3日後だった。今度は私がお邪魔しようかな?
その発想にぱるぱるしておくww
よしじゃあ俺もつけることにしよう
作者の発想が妬ましい(410GP)
作者の発想(1TP)
その発想が妬ましい(680GP)