Coolier - 新生・東方創想話

瑕疵無き城塞

2011/06/07 20:01:09
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「静観・・・」
一人哨戒となった椛は内に秘めた思いを堪え切れず、その拳を水面に叩き付けた。
「ふざけるなー!私達の領域である山がどこの馬の骨とも知れぬ外来の神に侵されたというのに!」
「荒れてますねー」
声のする方に向き直ると水面から僅かに出ている岩のその上に、見知った鴉天狗の姿があった。
「なんだ、射命丸か」
椛は心底うんざりした表情で視線を背けた。
「あやや、いいんですか。私のことそんなぞんざいな扱いして?今のことをそのまま記事にしちゃいますよ?」
本気ではないのかからかうように彼女、射名丸文は言った。
「好きにすればいい、どうせそんな記事を載せたところでお前の新聞なんて誰も信じやしないよ」
椛は端から相手にする気はないのか。川から上がるべく岸の方へ歩いた。
「哨戒中の下っ端白狼天狗くんには私の新聞の良さがわかってもらえないみたいですね。残念です」
大袈裟に天を仰ぎ、悲しんでみせた。
「私もお前みたいなのが上司だというのはこの上なく残念だよ」
思わず面と向かって射命丸をにらみつけた。
「ほう。この私になにか文句があると」
その視線を堂々と受け止め、意地の悪い視線を送った。
「その人を小馬鹿にした態度、欠片もない自尊心、なにをやっているかと思えばどいつもこいつも新聞関係、これが腹を立てずにいられる?」
椛は怒りをあらわに顔を真っ赤にして捲くし立てた。
「まあ自尊心は強いですけどね、じゃなきゃ人のこと小馬鹿になんてしませんよ」
かんらかんらと笑う。暖簾に腕押しといった模様。
「なら!」
勢いよく顔を上げ、叫ぼうとしたが。
「なんで、自分達の領域が侵されて静観などできるのさ・・」
声は落とすように出た。
「まあ、あなたたちとはちょっと視野が違うのですよ。私達にとっては山より大切なものがあるだけですし」
椛は、それはなに、と聞きたかったのだけれど。
「それに、たかだか住家に余所様が入ってきただけで傷つけられる安い自尊心なんて持ち合わせていませんので」
続けて挑発の言葉が出たせいで質問は出来なかった。
「牙を持たないお前には、噛み付くべき相手を前に止どまっている狼の気持ちなんてわからないよ」
思わずため息がでた。挑発に対する怒りより現状に対する落胆の方が大きかったらしい。
「鉄をも砕く牙は今のためにあるというのに」
椛は左の手で背負った太刀にぎゅっと触れた。
「そうですね。主人の『待て』を聞かずに今にも噛み付きそうな狂犬の気持ちはちょっとわかりませんねー」
射命丸の挑発は続いた。それが安い挑発だとわかっていながらも。
「どうやらそのご主人殿は大層な変わり者で狼に噛まれるのが好きみたいだね」
「いえいえ、噛み付こうとする犬をいじめてあげるのが好きなだけですよ」
椛はその安い喧嘩を買わずにはいられなかった。
「ぬかせ!」
鞘から抜いた獲物をそのまま走らせる。
岩もろともたたき切る勢いで降り下ろした太刀は、岩のみを砕くことになった。
ワンステップで躱してみせた。
砕けた岩が、崩れ、水面が勢いよく飛沫をあげる。
だが同時に切り裂いた水面が巻き上がり渦になる。
上から見るとちょうど『の』の字に見えるそれが後ろに引いた射命丸を追った。
「おお、こわいこわい」
予想外の攻撃だったはずだ。
それでも射名丸はたやすく上空へと逃れた。
圧倒的な速度。
それは同じ天狗でも大きく差がでている。
それでも、椛はやすやすと負けを認めるわけにはいかなかった。

「そろそろあきらめたらどうですか?」
射命丸は腕を組み、葉団扇で口元を隠しながら意地悪な声をかけた。
「うるさい!」
そう返した犬走椛の体はボロボロだった。
「まったくなにがあなたをそんなに駆り立てるんです?」
一方で無傷の射命丸は心底分からないといった風に声をかけた。
「私は、私の牙で守れるモノがあると信じてるんだ!」
椛は取っておいた最後の一枚のスペルカードを取り出した。
「お前が私の守るモノを否定するなら、噛み付いてやる!」
『狗符「レイビーズバイト」』
高速で、逃げ場をふさぐように辺りを弾幕で囲い、その弾幕を勢い良く内側に向かって閉じさせた。
さすがに咄嗟には反応できなかったのか、射命丸は弾幕の檻の中に居た。
そして爆発。
「当たった?」
爆煙の方を見つめる椛。
「そんなこといってるから負けるんですよ」
椛の耳元で射命丸の声がした。
(いまのを避けた?!どうやって!?)
咄嗟に向き直るが。
「遅いですね」
『風符「風神一扇」』
大きく仰いだ葉団扇から発せられた突風が椛の体を巨岩に叩きつけた。
「…くっ」
椛はすぐさま立ち上がろうとしたが、がくりと、足から力が抜け、尻餅をつく形になった。
自分の不甲斐無さに目頭が熱くなっていくのを椛は気が付いた。
自分の大切なものを馬鹿にした相手に傷一つつけることができない、その悔しさに涙が零れそうになった。
「ところで先ほどから聞こえませんか。妖精の騒ぐ音が」
はっとなり、椛は動かない体で耳だけに神経を集中させた。
「侵入者…」
椛は動かない体を奮い立たせた。
足が悲鳴をあげる。それを無視して体重を大剣に預けなんとか立ち上がる。
「あやや、そんな状態で迎撃にでるんですか?」
明確な敵がいる。燻っていた牙で噛み付くための相手が来ている。そのことが椛の中に高揚感を生んでいた。
「もちろん」
そういうと椛は口の中に溜まった血を川に吐き捨てた。
「スペル残ってます?」
「ついさっきので最後の一枚だよ」
射命丸に背を向け川下、滝の方を目指す。
「なんでそれで、行くんですか?」
「瑕疵無き城塞を、守るための牙があることを侵入者に教えるためだよ」
自分が守る。自分の力を持って。自分の大切なものを。
「理解しかねますね。侵入者に1発もらってお終いじゃないですか?」
椛はむっとした表情で答えた。実際彼女は立ち上がるだけで精一杯のはずだ。
「1発は耐えてみせるよ。2発目は駄目かもしれないけど…」
強がり切れず、少し弱った言葉を吐いた。
「無駄にやられにいくんですね。そういうのを犬死っていうこと知ってます?」
射命丸の挑発も、それどころか、先ほどまで感じていた怒りも椛の中では既に消えていた。
「いいよ、別に」
ゆっくりと射命丸に向き直り
「私は下っ端哨戒天狗だから」
まるで弱っているそぶりなど見せず、すがすがしいまでにはっきりとした笑みで椛は答えた。

「千里先は見通せても一手先は見通せないようですね」
椛を見送った射命丸はぽつりと独り言をつぶやいた。
そして、ほっと一息を付く。
彼女はぐっ、と弓なりに体を反らした。
「あー背中が痛い!」
その背中を見るとそこにはいくつもの裂傷があった。
先ほどのスペル。彼女は咄嗟に前方に突風を起こし、後ろに大きく飛びのくことで直撃をさけたのだ。背中にダメージを負うことも知りつつ。
「余裕を見せるのも楽じゃあないですね。」
ただ強がる、強者の余裕を見せるそのためだけに。
腕を伸ばし、肩をほぐす。
すると、一匹のカラスが飛んできて、彼女の腕に停まった。
「はいはい、ちゃんとお仕事は済ませましたよ」
カラスはその言葉がわかっているのか、鳴き声で返事をしてみせた。
「大丈夫ですよ。どーせあのままいったって人間にやられるだけですよ」
カラスの心配ごとを否定するように彼女はいった。
「血気盛んな白狼天狗が山に入ってきた人間を追い返してしまうなんて事態はまずないはずですよ。これであの神に人間をけしかけることができます」
「さて、あとは私が侵入者の迎撃と称してそれとなく道案内でしたっけ」
背中の傷とは裏腹に彼女の言動はのんきだった。
「まあ今の私なら本気で迎撃しても大丈夫ですよね。手傷を負った私にやられてしまうようならあの神様なんてまず倒せないでしょうし。なにより椛がやられると思うとちょっといじめてあげたくなりました」
カラスが何か疑問に思ったのか、声をあげた。
「冗談。私は白狼天狗の犬走椛が苦手ですよ。ああいうまっすぐな子は見てるとちょっとね・・まあそれでも実力の離れてる私に牙を向けてくれる子ですから、いじめてあげますけどね」
カラスは一度鳴き、椛が去っていったのと逆の方向、山の奥へと飛んでいった。
その姿を確認すると、彼女はその背の一対の黒い翼を広げた。
「私達の興味は外側へ、次から次へと新しいものへと変わっていった。だからこそ自分達の手元にはなにも無かった。いつだって新しいものへと手を伸ばして、古いものは簡単に手放してたから。本当に大切なものなんてなにも残ってなかった。それがわかってるから、まるで大切なものであるかのように『社会』をつくった。誰もが煩わしいと思いながらも。それでも、大切なものを胸に一つ残すために」
彼女は力なく微笑んで見せた。
「別に山が大事なわけじゃないし。仲間が大事なわけでもない。ただ、『社会』だけは大切でなきゃいけなかった。そうでないと私達は大切なものがなくなってしまうから」
顔を上げ、空を見上げる。どこまでも続くように広がる秋の空。移ろいやすいその空が今は静かに茜に染まる。
「瑕疵無き城塞とはよく言ったものです。傷一つ付かない城塞。私たちは大切なモノを守るために城塞をつくっているのに。中身は空っぽ、大切なものなんてなにもない。だから、奪いにこない。攻めにこない。城塞は傷付かない」
虚空に向けたその視線はどこか寂しげな様子。
「でも、あの白狼天狗くんは本当に山が大切で、仲間が大切なんでしょうね。」
ただ小さくぽつりとつぶやいた。
「少しだけ羨ましいです」
両の翼が大きく空を凪ぎ、彼女は秋の空へと、まるで落ちていくように、その場から姿を消した。
誰にも心の内を明かさぬままに。
~fin~
すごーく久しぶりですが、一応三作目なうそつきくらげです。
今回は風神録の裏側、ステージ4に至るまでを書いてます。
なんでしょう。今回は話の大筋だけ先にあって。流されるままテキトーに書いてました。
ですので二作目ほどしっかりとしたやりたいことが決まってたわけではないのです。
とりあえず書きたかったのは。
1.椛は2ボム
2.文は椛が苦手
3.『の』の字弾幕
です。
この三つを自分なりに勝手に解釈して書きました。
昔より文章が下手になっているような気がします。昔がうまかったわけじゃないですけど。
二作目を書いていたときが私の最全盛期かもしれません。
うわーあとがきは弱音ばかりでていけませんね。恥ずかしい。
なにはともあれ、ここまで読んでいただいて大変嬉しいのですが。
コメントなどいただけるとさらに嬉しいので、もしお手数でなければ、感想などなど。
聞かせてくださいませ。
嘘月海月
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コメント



0.690簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
椛の健気さにグッときました
9.80名前が無い程度の能力削除
原作設定に忠実なあやもみですね。甘甘なあやもみもいいけれど、やっぱり椛は牙を携えた狼で、文は風に流れる烏である。
殺伐ながらもしっかりとした対比がある二人がいいですね。
10.無評価嘘月海月削除
2>>
どんなにボロボロでも『自分のするべきことを全うする』ことが今回の椛の行動力になってました。すごく健気に見えますけど。きっと本人にそんな気はなく、『自分のするべきことを自分がする』ことができる。ということが当たり前に嬉しいと思ってるんだと思います。なんか、ややこしくてうまく説明できませんが、健気ですよね。
9>>
私も昔は甘甘でよかったんですけど、ダブルスポイラーでの設定見るとなんか違和感を感じるようになってしまいまして。それについてあんまり触れてるところがなかったので、書いてみました。自分の中での椛は、生真面目、熱血、感情的。対して文は、不真面目、冷静、論理的。だったので、今回はぶつかり合うことになりました。ちょっとした喧嘩を繰り返すのが日常で、口では文句をいうけれど、実はお互いのことを少し羨んで、嫌いになりきれない、今ではそんな『あやもみ』が自分の好みです。
13.90名前が無い程度の能力削除
対立設定大好物です。
文も椛もかっこいい。
18.無評価嘘月海月削除
13>>
意見の違い、仲が悪い、っていう対立は話にしやすいですわ。おかげで自分の書くカップリングは妙なところで仲の悪い人たちがでてきちゃいますけど。マリアリとか、ゆかれいむとか、あやもみとか。女の子を書いてるのに『可愛い』とかはどうにも書きずらくて。おかげでカッコいいは自分にとって最高の褒め言葉です。ありがとうございます!
21.90名前が無い程度の能力削除
原作設定が上手く利用されてるのはやっぱりいいね
22.無評価嘘月海月削除
21>>
自分、妄想力の足りない若輩ものでして。原作設定から話を捻り出すのでいっぱいいっぱいです。一番最初に書いたのもそんな感じでした。
東方の原作設定、台詞などは、少なかったり、足りなかったりと感じることが多いので、「これってどういうことなんだろう?」って考えることが多く、いろんなことが頭をよぎって楽しいです。お褒めいただきありがとうございます!