オマージュ元 星新一氏作品 ※あとがきで詳細
「幸せは、歩いてこない。だから招いてみるんだね……と」
花言葉、石言葉というものがある。
それは花や石に込められている力を現したものだ。
例えば、安全という石言葉の宝石でアクセサリーを作ればそれはお守りになる。
あこがれを示す花を植えれば、その花を育てた者は崇拝を得るだろう。
僕はそれらの言葉の力を上手く活用すべく、あるアイテムを作っていた。
「よし、こんなものかな」
それはアクアマリンで作ったカキツバタの花の飾りである。
アクアマリンは青白色で、カキツバタは青紫っぽい色なのだが、それはまあ仕方がない。
ちょっと加工して両方の色が上手く出るようにしておいた。
アクアマリンは幸福、健康、富などを象徴し、カキツバタの花は幸運は必ずやってくるという事を象徴している。
この石言葉と花言葉の両方で幸運を招こうとしているのだ。
「このアイテムは持つ者に幸福と幸運を招いてくれるはずだ」
改めて言葉にする。
言葉は発することで言霊となり、さらに大きな力を持つ。
そう、今このアイテムを持っている僕にも大きな幸運を……
「霖之助さん、いるかしら」
「お」
僕は嬉々として店に来た彼女を迎え入れた。
「ようこそ霊夢。早速お茶を入れてあげよう」
そう告げると霊夢は怪訝な顔をする。
「何よ気持ち悪い。魔理沙に変なキノコでも食べさせられたの?」
「いや、さっそくの効果に感動しているところさ」
僕は先程のアクセサリーを手渡した。
「夜空に輝く一番星を見つけると願い事が叶うという。そうだな。これは新しき一星とでも名付けようか」
「ふーん」
「効果は十二分にある事を保証するよ」
「何で?」
首を傾げる霊夢。どうやらよく分かっていないようだ。
「このアイテムは幸福と幸運を招くんだ」
僕はこのアイテムが花言葉と石言葉によって非常に強い力を持っていることを説明した。
「そしてこの幻想郷において最も幸運である存在は……霊夢、君でなく誰だと言うんだい」
「そのアイテムのおかげで私が来たっていうの?」
信じられないという感じである。
「それって別に霖之助さんが幸運になってるんじゃないと思うんだけど」
「霊夢は僕の知り合いだし、招きやすかったんだろう。これからきっと効果が出てくるさ」
「そんなに効果があるっていうなら、うちのお賽銭も招いて欲しいものね」
「む」
確かに博麗神社の賽銭だけは、霊夢の強運でもどうにもならないものだ。
全くのゼロではないし、霊夢もちゃんと生活できているのだから、それはやはり強運であると思うのだが。
「じゃあこれを持って博麗神社に行ってみようか。効果が出るかもしれないよ」
店にいるだけではその効果は確認し辛いだろう。
それに、僕一人だけが幸運を得るために作ったものではない。
こういう道具は皆に幸福と幸運を与えるべきなのだ。
「ふーん。ちょっと面白そうね。いいわよ」
僕の提案を霊夢も承諾してくれた。
じゃあ一体何しに店に来たんだいと言いたくもなるが、そこは黙っておくのが大人の余裕である。
「特に変わりはないわねえ」
賽銭箱を覗き込んだ霊夢は顔を上げ、大きくため息をついた。
「まあ、これからだろう」
「だといいんだけどねぇ」
「あ、いたいた」
「ん?」
「あら、レミリアじゃない」
視線を向けると、日傘を持った咲夜と、日傘の影に立つレミリアがいた。
「せっかく遊びに来たのにいないんだもの。どうしようかって咲夜と話していたところよ」
「それなら帰って来なければよかったわねえ」
「その場合、神社の中じゅうにレミリアとその従者参上と書置きを残しておく予定でした」
「地味に嫌ね」
レミリアもそうだが、博麗神社にはちょくちょく色々な妖怪が遊びに来るらしい。
「まったく、あんたらのせいで賽銭が増えないのよ」
霊夢曰く、賽銭が増えないのは妖怪がたむろっているからだという。
「あらそう。咲夜?」
「かしこまりました」
咲夜は懐から何枚かの小銭を出し、レミリアに手渡した。
「じゃあこれを」
レミリアがその小銭を賽銭箱に入れようとする。
「駄目よ」
すると意外なことに霊夢がそれを止めた。
「何で?」
「そりゃ賽銭を入れられたらありがたいのは確かだけど」
なんとも複雑な表情である。
「ああ。私が吸血鬼だから? じゃあ咲夜は人間だから、何の問題もないわね」
「それも却下。咲夜。あんたウチのこと信仰してる?」
咲夜に尋ねる霊夢。
「いいえ?」
「駄目じゃない」
「ちょっと咲夜ー」
「私の信仰するのはお嬢様だけですから」
「……なら仕方ないわねぇ」
「はいはい、仲が宜しいことで」
霊夢は再び大きなため息を付いた。
「なるほど」
賽銭が欲しいというのはただそれだけではなく、賽銭を入れることによっての信仰が欲しいという事である。
「まあ、あんたの気持ちだけ受け取っておくわよ。ありがと」
「うー」
レミリアは不満そうだった。
「霊夢、早速効果があったじゃないか」
「え? 何の?」
「だから、そのアイテムのだよ」
霊夢は賽銭を欲しいと望んだ。
するとレミリアが賽銭を入れようとした。
つまり幸せがやってきたのである。
「それは私が文句を言ったからじゃない」
「文句を言ったからって賽銭を入れようとするとは限らないよ」
やはり幸せを招く力があってこそのものだろう。
「なになに、何の話?」
「霖之助さんが、これを作ったんだけど」
霊夢がレミリアと咲夜にそれを見せる。
「このアイテムは花言葉と石言葉で……」
僕はその効果を霊夢にしたように話してみせた。
「胡散臭いわねえ」
「にわかには信じがたい話ですが」
「言葉には意味があるものだよ」
それは信じれば信じるほど強い力になるものである。
「そうだ、レミリア、あんたこれ買いなさいよ」
「え?」
「あんた運命を操るんでしょ? パワーアップするかもしれないじゃない」
「私は別にいいわ。今だって十分幸運よ」
確かにレミリアが持つことでも、このアイテムは大きな力を持ちそうである。
「じゃああんたの妹にでも」
「フランドールにねえ」
レミリアはなんともいえない顔をした。
「霊夢はいらないのかい?」
「私はもういいわ。霖之助さんも効果を確認したでしょ」
「ふむ」
ふと気づいたが、霊夢はいつもよりも上機嫌なようだった。
彼女はもう十二分に幸せを手に入れたのだろう。
霊夢は博麗の巫女。誰に対しても平等である。
だから自分だけが利を得るということを、避けたいのだろう。
気持ちは受け取った。それで十分なのだ。
「どうしよっか、咲夜」
「お嬢様の御心のままに」
「喜ぶんじゃないかい、プレゼントを貰ったら」
「んー」
レミリアは少し考える仕草をした。
「じゃあ、取りあえず私の所有物って事で買うわ」
「毎度あり」
「咲夜、代金を」
「かしこまりま……あら?」
咲夜が財布を出そうとし、首を傾げた。
「申し訳ありません。先程の小銭で全部だったようです」
「えー?」
「あれじゃあちょっと足りないかな」
一応手間と暇をかけて作った一品なのだ。
「どうしよ。館に帰れば払えると思うけど」
「じゃあ君らについていこうかな」
その間にも何か幸運な出来事が起こるかもしれない。
「んー。神社で遊びたかったけど、まあいいわ。またね霊夢」
「ええ。ありがとうね、レミリア」
霊夢はにこにこと笑っていた。
「霊夢がありがとうだって。珍しい」
紅魔館へ向かう途中、レミリアもかなりご機嫌のようだった。
「そうかな?」
霊夢は礼を示せば感謝はすると思う。
ツケは払わないが。
「あまりああいう顔は見られませんね」
「ふーん」
香霖堂に居るときはだいたいあんな感じだと思うのだが、外ではちょっと違うのかもしれない。
「ところでレミリアには願いとかこういう幸せが欲しいとか無いのかい」
「ん?」
「あったほうがアイテムの効果も出やすいと思うよ」
願いは言葉にすることで、叶いやすくなる。
「んー。そうねえ……欲しい物や叶えたい物も色々あるけれど」
ニヤリと不敵に笑うレミリア。
「それは私の能力で手に入れるモノよ。運命が私を選ぶの」
「それはいい心がけだ」
道具にいくら力があったとしても、それはあくまで補佐するものでしか無い。
本人に確固たる意思があって初めてそれは意味を持つのだ。
「でも霊夢が私にこれを勧めてくれたでしょ。霊夢の勘はだいたい当たるから」
「なるほど」
霊夢のオススメするものならば何かあるかもしれないと考えたのか。
「まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦ってね」
そんなこんなと話している間に紅魔館へ辿り着いた。
何か妙に早かった気がするが、もしかしたら合間合間で咲夜に時間を止められ飛ばされたのかもしれない。
「あ、お嬢様、おかえりなさいませ」
門番の美鈴がレミリアを出迎える。
「おや珍しいお客さんで」
「こんにちわ美鈴」
僕は軽く会釈をした。
「異常は無かった?」
「ええ、特には」
「ふーん」
レミリアはちらりと木の影を見た。
そこにはチルノと妖精がいて、レミリアが気づいたのを見ると大慌てて逃げていった。
「まあ、いつも通りね」
「……あははは」
恐らくレミリアが来るまで美鈴がチルノたちの相手をしていたのだろう。
「程々になさいよ」
「はーい」
苦笑いする美鈴の横を通って館内へ。
「ではしばしお待ちを」
咲夜がそう言ったので僕は椅子に座ろうとした。
「お待たせいたしました」
「まだ座ってもいないんだが」
流石はパーフェクトメイドである。
「このくらいで宜しいでしょうか?」
「それだとちょっと多いくらいだね」
「チップよ、チップ」
「毎度ありがとうございます」
実を言えば材料費と手間考えたらトントンくらいだったのだが、言わないことにした。
それは野暮だというものだ。
「さてこれで名実ともに私の所有物となったわけだけど」
僕が得られる幸運はここまでである。
後は所有者であるレミリアにどんな幸運を与えてくれるかだ。
「私のモノなんだから壊れちゃっても文句はないわよね」
「出来れば壊して欲しくはないな」
「私は壊さないわよ」
一瞬どういう事なのかと思ったが、霊夢と話していた時の事を思い出した。
「ああ、それなら仕方ないな」
「構わないのね。じゃあ行きましょう」
レミリアの向かう先は、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持つ妹、フランドール・スカーレットの部屋である。
「入るわよ」
返事は無かったが、レミリアはそのまま部屋の中へ入った。
どうしようかと悩んだが、咲夜に目線を向けると小さく頷いた。
「どうぞ」
入れということらしい。
というか何で僕は一緒に来ているんだろうか。
レミリアにいわれてついつい来てしまったが。
「ん~?」
フランドールは部屋の奥のベッドの上でおぼつかない目付きをしていた。
「起きたばかりなの?」
「……何だお姉様か。どうしたの?」
「何だとは何よ。今日は面白いものを持ってきたのよ」
フランドールが僕に目線を向ける。
「面白いってあの人が?」
「残念だけど違うなあ」
「面白いのはこのアイテムよ」
レミリアがフランドールにそれを手渡した。
「なに? 壊しても元通りになるとか?」
「いやそのアイテムは……」
いきなり握り潰そうとしたので僕は慌ててその効果を説明した。
「……ふーん、持ってるだけで幸せになれるんだ」
「そう。素敵でしょ?」
「お姉様はいらないの? これ」
「私はいいのよ」
「んー」
フランドールはひょいとレミリアの手にアイテムを返した。
「じゃあ私もいらない」
「何で? 幸せになれるのよ?」
「だってお姉様が幸せを譲ってくれたのに、私だけ幸せになってもしょうがないもん」
「そう? でも……」
「それに、お姉様が私に幸せになって欲しいって思ってくれただけで嬉しいよ」
そう言ってフランドールは笑った。
「……フランドール」
「あげるなら咲夜にあげなよ。咲夜が幸せになったら私もお姉様も嬉しいし」
「わかった。フランドールがいいならいいわ。咲夜にあげましょう」
向き直ったレミリアが咲夜に渡す。
「そんな。妹様が受け取るべきです」
咲夜からフランドールへ。
「お姉様に」
レミリア、フランドール、咲夜の間を行ったり来たりしている。
「キリがないな」
「じゃあ間をとって、パチェにあげましょうか」
何周かしたあたりでレミリアがそんな事を言った。
「あ、そっか。宝石好きだもんね」
「それは良い考えだと思います」
今度は図書館へ向かうことになった。
「パチェは受け取ってくれるかしら?」
「喜ぶのではないでしょうか?」
「研究の材料にするかもしれないけどねー」
何故かフランドールも一緒である。
「何? 大勢でどうしたの?」
この大所帯の登場にパチュリーは怪訝な顔をしていた。
「パチェに素敵なプレゼントよ」
「へえ、アクアマリン」
流石は魔女。見ただけで材質も分かるようである。
「このアイテムは……」
再び説明をする。
「なるほど、理に叶っているわね」
「だろう?」
パチュリーは大きくため息を付いた。
「なら、いらないわ」
「何で?」
「ソレは常に流転するものだからよ」
「ふむ」
幸せは流転するものか。確かにその通りかもしれない。
「一箇所に留まるのは不健全よ。ああ、そのアイテムを否定するわけじゃないわ。効果は間違いなくあるもの」
そう言って不敵に笑う。
「今丁度新しい魔法を考えていたんだけど……それの材料にアクアマリンが相応しいわ」
「魔法に使ったら無くなっちゃうじゃないのよ」
「ええ、だから使わないわ。でも、そのアイテムは私にアイディアという素敵な幸せをくれた。だからそれで終わり」
「終わり?」
「ええ。私の分はね。次の人に幸せを与えてあげなさい。それがその道具の役目よ」
レミリアと咲夜、フランドールで顔を見合わせる。
「どうする?」
「とするとあとは一人しかいないかと」
「美鈴だねー」
図書館の隅で小悪魔が拗ねていた。
「かくかくしかじか」
「はあ、幸運をですか」
美鈴の反応は淡白だった。
ちなみに図書館から出る前にフランドールが小悪魔に気づいて譲ろうとしたが、やはり辞退されてしまっていた。
「ね? 凄いでしょう」
「んー。お嬢様も妹様も咲夜さんも、パチュリー様に小悪魔さんまで譲って貰って私ですかー」
美鈴は照れくさそうに笑った。
「なんだかもうそれだけで幸せですねえ」
「アンタ無欲よねぇ」
「私はこれでいいんですよ、これで……あ」
美鈴は何かに気づいたように、ぽんと手を叩いた。
「お嬢様、これ貰っちゃっていいんですよね?」
「ええ」
「なら申し訳ないんですが、私の所有物をどう使っても自由ですよね?」
何かどこかで聞いた言い回しである。
「何? 壊すの? 材料にするの? 食べるの? 誰かにあげるの?」
「えーと、人ではないんですが」
美鈴は木のほうを指さした。
そこにはまたチルノと妖精の姿が。
「あいつらに?」
「なんか、ケガしちゃってる鳥がいるそうなんですよ。で、ちょっと薬とかあげてたんですが」
「在庫が合わなかったのはそのせいだったのね」
「あー」
ギロリと咲夜が美鈴を睨みつける。
「まあいいじゃない。それくらい」
「めーりんは悪くないよー」
「……お二人がそう言うのであれば」
すっと一歩下がる咲夜。
「で、どうでしょうか」
「つまりあいつらに渡してその鳥に幸せを与えようって事?」
「そういう事ですね。早く怪我が治るかもしれませんので。お嬢様が宜しければ」
「んー。いいんじゃない? 好きになさいよ」
「ありがとうございます」
美鈴はチルノたちの方へ向かっていき、何かを話した後それを手渡した。
「レミリア、ありがとう!」
チルノがこちらにまで聞こえるような大きな声で叫ぶ。
「別に何もしてないけどね」
「はは」
そこにいた誰もが、皆いい笑顔であった。
「でも悪かったわね、結構自信作だったんじゃない? あれ」
「いいんだよ。道具が正しい使い方をされればそれで」
僕はもう十二分に満足していた。
この気持は言うならばそう、幸せということである。
「おーっす香霖」
「やあ魔理沙」
それからずっと時が過ぎて。
「今日は面白いものを持ってきたぜ」
魔理沙が嬉々として取り出したそれを見て、僕の頬は緩んだ。
「アリスに譲って貰ったんだけどさ。あー、正確に言うとその前は妹紅のものだったらしいが……」
それはずっとずっと幻想郷を巡ってきたのだろう。
「持つ物に幸せを運んでくれるアイテムだってさ」
僕は魔理沙に渡されたそれを手に取った。
「ああ、確かにその通りみたいだね」
一番初めに名付けたときは、読み取れなかった用途が確かにそこにあった。
「もしかしたら一番幸せになれたのは僕なのかもしれないな」
「何言ってんだよ」
「ははは」
僕の手の上にあるそれは。
もしかしたら、皆に幸せを与えた分だけ。
きらきらと、星のように瞬いていた。
「幸せは、歩いてこない。だから招いてみるんだね……と」
花言葉、石言葉というものがある。
それは花や石に込められている力を現したものだ。
例えば、安全という石言葉の宝石でアクセサリーを作ればそれはお守りになる。
あこがれを示す花を植えれば、その花を育てた者は崇拝を得るだろう。
僕はそれらの言葉の力を上手く活用すべく、あるアイテムを作っていた。
「よし、こんなものかな」
それはアクアマリンで作ったカキツバタの花の飾りである。
アクアマリンは青白色で、カキツバタは青紫っぽい色なのだが、それはまあ仕方がない。
ちょっと加工して両方の色が上手く出るようにしておいた。
アクアマリンは幸福、健康、富などを象徴し、カキツバタの花は幸運は必ずやってくるという事を象徴している。
この石言葉と花言葉の両方で幸運を招こうとしているのだ。
「このアイテムは持つ者に幸福と幸運を招いてくれるはずだ」
改めて言葉にする。
言葉は発することで言霊となり、さらに大きな力を持つ。
そう、今このアイテムを持っている僕にも大きな幸運を……
「霖之助さん、いるかしら」
「お」
僕は嬉々として店に来た彼女を迎え入れた。
「ようこそ霊夢。早速お茶を入れてあげよう」
そう告げると霊夢は怪訝な顔をする。
「何よ気持ち悪い。魔理沙に変なキノコでも食べさせられたの?」
「いや、さっそくの効果に感動しているところさ」
僕は先程のアクセサリーを手渡した。
「夜空に輝く一番星を見つけると願い事が叶うという。そうだな。これは新しき一星とでも名付けようか」
「ふーん」
「効果は十二分にある事を保証するよ」
「何で?」
首を傾げる霊夢。どうやらよく分かっていないようだ。
「このアイテムは幸福と幸運を招くんだ」
僕はこのアイテムが花言葉と石言葉によって非常に強い力を持っていることを説明した。
「そしてこの幻想郷において最も幸運である存在は……霊夢、君でなく誰だと言うんだい」
「そのアイテムのおかげで私が来たっていうの?」
信じられないという感じである。
「それって別に霖之助さんが幸運になってるんじゃないと思うんだけど」
「霊夢は僕の知り合いだし、招きやすかったんだろう。これからきっと効果が出てくるさ」
「そんなに効果があるっていうなら、うちのお賽銭も招いて欲しいものね」
「む」
確かに博麗神社の賽銭だけは、霊夢の強運でもどうにもならないものだ。
全くのゼロではないし、霊夢もちゃんと生活できているのだから、それはやはり強運であると思うのだが。
「じゃあこれを持って博麗神社に行ってみようか。効果が出るかもしれないよ」
店にいるだけではその効果は確認し辛いだろう。
それに、僕一人だけが幸運を得るために作ったものではない。
こういう道具は皆に幸福と幸運を与えるべきなのだ。
「ふーん。ちょっと面白そうね。いいわよ」
僕の提案を霊夢も承諾してくれた。
じゃあ一体何しに店に来たんだいと言いたくもなるが、そこは黙っておくのが大人の余裕である。
「特に変わりはないわねえ」
賽銭箱を覗き込んだ霊夢は顔を上げ、大きくため息をついた。
「まあ、これからだろう」
「だといいんだけどねぇ」
「あ、いたいた」
「ん?」
「あら、レミリアじゃない」
視線を向けると、日傘を持った咲夜と、日傘の影に立つレミリアがいた。
「せっかく遊びに来たのにいないんだもの。どうしようかって咲夜と話していたところよ」
「それなら帰って来なければよかったわねえ」
「その場合、神社の中じゅうにレミリアとその従者参上と書置きを残しておく予定でした」
「地味に嫌ね」
レミリアもそうだが、博麗神社にはちょくちょく色々な妖怪が遊びに来るらしい。
「まったく、あんたらのせいで賽銭が増えないのよ」
霊夢曰く、賽銭が増えないのは妖怪がたむろっているからだという。
「あらそう。咲夜?」
「かしこまりました」
咲夜は懐から何枚かの小銭を出し、レミリアに手渡した。
「じゃあこれを」
レミリアがその小銭を賽銭箱に入れようとする。
「駄目よ」
すると意外なことに霊夢がそれを止めた。
「何で?」
「そりゃ賽銭を入れられたらありがたいのは確かだけど」
なんとも複雑な表情である。
「ああ。私が吸血鬼だから? じゃあ咲夜は人間だから、何の問題もないわね」
「それも却下。咲夜。あんたウチのこと信仰してる?」
咲夜に尋ねる霊夢。
「いいえ?」
「駄目じゃない」
「ちょっと咲夜ー」
「私の信仰するのはお嬢様だけですから」
「……なら仕方ないわねぇ」
「はいはい、仲が宜しいことで」
霊夢は再び大きなため息を付いた。
「なるほど」
賽銭が欲しいというのはただそれだけではなく、賽銭を入れることによっての信仰が欲しいという事である。
「まあ、あんたの気持ちだけ受け取っておくわよ。ありがと」
「うー」
レミリアは不満そうだった。
「霊夢、早速効果があったじゃないか」
「え? 何の?」
「だから、そのアイテムのだよ」
霊夢は賽銭を欲しいと望んだ。
するとレミリアが賽銭を入れようとした。
つまり幸せがやってきたのである。
「それは私が文句を言ったからじゃない」
「文句を言ったからって賽銭を入れようとするとは限らないよ」
やはり幸せを招く力があってこそのものだろう。
「なになに、何の話?」
「霖之助さんが、これを作ったんだけど」
霊夢がレミリアと咲夜にそれを見せる。
「このアイテムは花言葉と石言葉で……」
僕はその効果を霊夢にしたように話してみせた。
「胡散臭いわねえ」
「にわかには信じがたい話ですが」
「言葉には意味があるものだよ」
それは信じれば信じるほど強い力になるものである。
「そうだ、レミリア、あんたこれ買いなさいよ」
「え?」
「あんた運命を操るんでしょ? パワーアップするかもしれないじゃない」
「私は別にいいわ。今だって十分幸運よ」
確かにレミリアが持つことでも、このアイテムは大きな力を持ちそうである。
「じゃああんたの妹にでも」
「フランドールにねえ」
レミリアはなんともいえない顔をした。
「霊夢はいらないのかい?」
「私はもういいわ。霖之助さんも効果を確認したでしょ」
「ふむ」
ふと気づいたが、霊夢はいつもよりも上機嫌なようだった。
彼女はもう十二分に幸せを手に入れたのだろう。
霊夢は博麗の巫女。誰に対しても平等である。
だから自分だけが利を得るということを、避けたいのだろう。
気持ちは受け取った。それで十分なのだ。
「どうしよっか、咲夜」
「お嬢様の御心のままに」
「喜ぶんじゃないかい、プレゼントを貰ったら」
「んー」
レミリアは少し考える仕草をした。
「じゃあ、取りあえず私の所有物って事で買うわ」
「毎度あり」
「咲夜、代金を」
「かしこまりま……あら?」
咲夜が財布を出そうとし、首を傾げた。
「申し訳ありません。先程の小銭で全部だったようです」
「えー?」
「あれじゃあちょっと足りないかな」
一応手間と暇をかけて作った一品なのだ。
「どうしよ。館に帰れば払えると思うけど」
「じゃあ君らについていこうかな」
その間にも何か幸運な出来事が起こるかもしれない。
「んー。神社で遊びたかったけど、まあいいわ。またね霊夢」
「ええ。ありがとうね、レミリア」
霊夢はにこにこと笑っていた。
「霊夢がありがとうだって。珍しい」
紅魔館へ向かう途中、レミリアもかなりご機嫌のようだった。
「そうかな?」
霊夢は礼を示せば感謝はすると思う。
ツケは払わないが。
「あまりああいう顔は見られませんね」
「ふーん」
香霖堂に居るときはだいたいあんな感じだと思うのだが、外ではちょっと違うのかもしれない。
「ところでレミリアには願いとかこういう幸せが欲しいとか無いのかい」
「ん?」
「あったほうがアイテムの効果も出やすいと思うよ」
願いは言葉にすることで、叶いやすくなる。
「んー。そうねえ……欲しい物や叶えたい物も色々あるけれど」
ニヤリと不敵に笑うレミリア。
「それは私の能力で手に入れるモノよ。運命が私を選ぶの」
「それはいい心がけだ」
道具にいくら力があったとしても、それはあくまで補佐するものでしか無い。
本人に確固たる意思があって初めてそれは意味を持つのだ。
「でも霊夢が私にこれを勧めてくれたでしょ。霊夢の勘はだいたい当たるから」
「なるほど」
霊夢のオススメするものならば何かあるかもしれないと考えたのか。
「まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦ってね」
そんなこんなと話している間に紅魔館へ辿り着いた。
何か妙に早かった気がするが、もしかしたら合間合間で咲夜に時間を止められ飛ばされたのかもしれない。
「あ、お嬢様、おかえりなさいませ」
門番の美鈴がレミリアを出迎える。
「おや珍しいお客さんで」
「こんにちわ美鈴」
僕は軽く会釈をした。
「異常は無かった?」
「ええ、特には」
「ふーん」
レミリアはちらりと木の影を見た。
そこにはチルノと妖精がいて、レミリアが気づいたのを見ると大慌てて逃げていった。
「まあ、いつも通りね」
「……あははは」
恐らくレミリアが来るまで美鈴がチルノたちの相手をしていたのだろう。
「程々になさいよ」
「はーい」
苦笑いする美鈴の横を通って館内へ。
「ではしばしお待ちを」
咲夜がそう言ったので僕は椅子に座ろうとした。
「お待たせいたしました」
「まだ座ってもいないんだが」
流石はパーフェクトメイドである。
「このくらいで宜しいでしょうか?」
「それだとちょっと多いくらいだね」
「チップよ、チップ」
「毎度ありがとうございます」
実を言えば材料費と手間考えたらトントンくらいだったのだが、言わないことにした。
それは野暮だというものだ。
「さてこれで名実ともに私の所有物となったわけだけど」
僕が得られる幸運はここまでである。
後は所有者であるレミリアにどんな幸運を与えてくれるかだ。
「私のモノなんだから壊れちゃっても文句はないわよね」
「出来れば壊して欲しくはないな」
「私は壊さないわよ」
一瞬どういう事なのかと思ったが、霊夢と話していた時の事を思い出した。
「ああ、それなら仕方ないな」
「構わないのね。じゃあ行きましょう」
レミリアの向かう先は、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持つ妹、フランドール・スカーレットの部屋である。
「入るわよ」
返事は無かったが、レミリアはそのまま部屋の中へ入った。
どうしようかと悩んだが、咲夜に目線を向けると小さく頷いた。
「どうぞ」
入れということらしい。
というか何で僕は一緒に来ているんだろうか。
レミリアにいわれてついつい来てしまったが。
「ん~?」
フランドールは部屋の奥のベッドの上でおぼつかない目付きをしていた。
「起きたばかりなの?」
「……何だお姉様か。どうしたの?」
「何だとは何よ。今日は面白いものを持ってきたのよ」
フランドールが僕に目線を向ける。
「面白いってあの人が?」
「残念だけど違うなあ」
「面白いのはこのアイテムよ」
レミリアがフランドールにそれを手渡した。
「なに? 壊しても元通りになるとか?」
「いやそのアイテムは……」
いきなり握り潰そうとしたので僕は慌ててその効果を説明した。
「……ふーん、持ってるだけで幸せになれるんだ」
「そう。素敵でしょ?」
「お姉様はいらないの? これ」
「私はいいのよ」
「んー」
フランドールはひょいとレミリアの手にアイテムを返した。
「じゃあ私もいらない」
「何で? 幸せになれるのよ?」
「だってお姉様が幸せを譲ってくれたのに、私だけ幸せになってもしょうがないもん」
「そう? でも……」
「それに、お姉様が私に幸せになって欲しいって思ってくれただけで嬉しいよ」
そう言ってフランドールは笑った。
「……フランドール」
「あげるなら咲夜にあげなよ。咲夜が幸せになったら私もお姉様も嬉しいし」
「わかった。フランドールがいいならいいわ。咲夜にあげましょう」
向き直ったレミリアが咲夜に渡す。
「そんな。妹様が受け取るべきです」
咲夜からフランドールへ。
「お姉様に」
レミリア、フランドール、咲夜の間を行ったり来たりしている。
「キリがないな」
「じゃあ間をとって、パチェにあげましょうか」
何周かしたあたりでレミリアがそんな事を言った。
「あ、そっか。宝石好きだもんね」
「それは良い考えだと思います」
今度は図書館へ向かうことになった。
「パチェは受け取ってくれるかしら?」
「喜ぶのではないでしょうか?」
「研究の材料にするかもしれないけどねー」
何故かフランドールも一緒である。
「何? 大勢でどうしたの?」
この大所帯の登場にパチュリーは怪訝な顔をしていた。
「パチェに素敵なプレゼントよ」
「へえ、アクアマリン」
流石は魔女。見ただけで材質も分かるようである。
「このアイテムは……」
再び説明をする。
「なるほど、理に叶っているわね」
「だろう?」
パチュリーは大きくため息を付いた。
「なら、いらないわ」
「何で?」
「ソレは常に流転するものだからよ」
「ふむ」
幸せは流転するものか。確かにその通りかもしれない。
「一箇所に留まるのは不健全よ。ああ、そのアイテムを否定するわけじゃないわ。効果は間違いなくあるもの」
そう言って不敵に笑う。
「今丁度新しい魔法を考えていたんだけど……それの材料にアクアマリンが相応しいわ」
「魔法に使ったら無くなっちゃうじゃないのよ」
「ええ、だから使わないわ。でも、そのアイテムは私にアイディアという素敵な幸せをくれた。だからそれで終わり」
「終わり?」
「ええ。私の分はね。次の人に幸せを与えてあげなさい。それがその道具の役目よ」
レミリアと咲夜、フランドールで顔を見合わせる。
「どうする?」
「とするとあとは一人しかいないかと」
「美鈴だねー」
図書館の隅で小悪魔が拗ねていた。
「かくかくしかじか」
「はあ、幸運をですか」
美鈴の反応は淡白だった。
ちなみに図書館から出る前にフランドールが小悪魔に気づいて譲ろうとしたが、やはり辞退されてしまっていた。
「ね? 凄いでしょう」
「んー。お嬢様も妹様も咲夜さんも、パチュリー様に小悪魔さんまで譲って貰って私ですかー」
美鈴は照れくさそうに笑った。
「なんだかもうそれだけで幸せですねえ」
「アンタ無欲よねぇ」
「私はこれでいいんですよ、これで……あ」
美鈴は何かに気づいたように、ぽんと手を叩いた。
「お嬢様、これ貰っちゃっていいんですよね?」
「ええ」
「なら申し訳ないんですが、私の所有物をどう使っても自由ですよね?」
何かどこかで聞いた言い回しである。
「何? 壊すの? 材料にするの? 食べるの? 誰かにあげるの?」
「えーと、人ではないんですが」
美鈴は木のほうを指さした。
そこにはまたチルノと妖精の姿が。
「あいつらに?」
「なんか、ケガしちゃってる鳥がいるそうなんですよ。で、ちょっと薬とかあげてたんですが」
「在庫が合わなかったのはそのせいだったのね」
「あー」
ギロリと咲夜が美鈴を睨みつける。
「まあいいじゃない。それくらい」
「めーりんは悪くないよー」
「……お二人がそう言うのであれば」
すっと一歩下がる咲夜。
「で、どうでしょうか」
「つまりあいつらに渡してその鳥に幸せを与えようって事?」
「そういう事ですね。早く怪我が治るかもしれませんので。お嬢様が宜しければ」
「んー。いいんじゃない? 好きになさいよ」
「ありがとうございます」
美鈴はチルノたちの方へ向かっていき、何かを話した後それを手渡した。
「レミリア、ありがとう!」
チルノがこちらにまで聞こえるような大きな声で叫ぶ。
「別に何もしてないけどね」
「はは」
そこにいた誰もが、皆いい笑顔であった。
「でも悪かったわね、結構自信作だったんじゃない? あれ」
「いいんだよ。道具が正しい使い方をされればそれで」
僕はもう十二分に満足していた。
この気持は言うならばそう、幸せということである。
「おーっす香霖」
「やあ魔理沙」
それからずっと時が過ぎて。
「今日は面白いものを持ってきたぜ」
魔理沙が嬉々として取り出したそれを見て、僕の頬は緩んだ。
「アリスに譲って貰ったんだけどさ。あー、正確に言うとその前は妹紅のものだったらしいが……」
それはずっとずっと幻想郷を巡ってきたのだろう。
「持つ物に幸せを運んでくれるアイテムだってさ」
僕は魔理沙に渡されたそれを手に取った。
「ああ、確かにその通りみたいだね」
一番初めに名付けたときは、読み取れなかった用途が確かにそこにあった。
「もしかしたら一番幸せになれたのは僕なのかもしれないな」
「何言ってんだよ」
「ははは」
僕の手の上にあるそれは。
もしかしたら、皆に幸せを与えた分だけ。
きらきらと、星のように瞬いていた。
チャ・ザの教えみたいだなw
いい話だった
いい話だよね、あれ。
巡り巡って皆に幸せ!
元ネタが凄く好きな作品で驚いたり。
小悪魔かわいそうww
良い話ですね!こういう皆が幸せになるお話が大好きです!
この話を書いてくれた作者様に、全身全霊の感謝を。
イイ話でした。
思いやりや、優しさ幸福を分けてあげたいという気持ちの連鎖が
アイテムのハッピーパワーを上昇させたのかな。
霖之助はシアワセのわらしべ長者って感じですね。
霖之助さん良い仕事しますわ
だから幻想郷はすばらしいんだね~。こういう世界になればいいな~! お嬢様
紀伊国屋にダッシュです!! 霖之助さんナイスイケメン!! 超門番
琥珀さんのお話そろそろ見たいです・・ 関係ないですねすみませんでした! 冥途蝶
ブルーダイヤとは真逆ですね。