――今日は喘息の調子が悪い。声はろくに出ず、唾を飲むのも一苦労。そういうわけだから今日は図書館内のいつもの場所ではなく、自分の部屋のベッドで本を読んでいた。ここに入るのなんか小悪魔か咲夜くらいで、小悪魔に紅茶を淹れさせに行った今、この部屋は私だけの空間だ。……今までなら。
「…………」
視線だけをそちらに向ける。当の本人はそれに気づいた様子もなく、私の図書館の本をテーブルに開いて、時折それを見ながら白紙の本に何かを書いていた。いつも連れ立っている人形は、もう一つある椅子の上で行儀よく腰を下ろしている。
私はアリスの横顔を憎々しげに睨んでから、視線を本に戻した。
「パチュリー様、お待たせしました。紅茶、お持ちしましたよー」
ちょうどその時に、小悪魔が紅茶を持って部屋に入ってきた。彼女は一応司書の役割を与えてはいるけど、咲夜を呼ぶのが面倒な時などには紅茶の準備やらもさせている。小悪魔自身も別に嫌ではないようで、この間は咲夜から美味しい紅茶の淹れ方を聞いていた。
「では、こちらに置いておきますね」
できるだけ喉を使いたくないので頷くだけに止めた。その時、不意にアリスが小悪魔に声をかけた。
「あ、小悪魔。私にも紅茶もらえる?」
「そう言うと思って、淹れておきましたよ」
小悪魔はもう一つ用意されていたカップをアリスがいるテーブルの上に置いた。
「あら、気が利くじゃない。ありがとう」
「いえいえ。あ、お茶請けは何にしましょうか? 確か戸棚にクッキーがあったはずなんですけど」
「そこまでさせるのも悪いし、いいわ」
小悪魔が頭を下げて出ていくと、アリスはまた本に目を落とす。私は小悪魔が淹れた紅茶に手を伸ばした。ふんわりと生姜の香りが漂う。今日はジンジャーティーにしたようだ。彼女なりの気配りだろう。
――壁にかけた時計がカチカチと秒針を進ませる。ティーカップが空になってから一時間くらい経っただろうか。そのくせ私が手に持っている本のページは、小悪魔が紅茶を持ってきた時のページから一ページも進んでいない。アリスはまだ何かを書いていた。いつまでも何を書いているのだろう。さっきから気になって仕方がなかった。
アリスが図書館に来るようになったのは、春雪異変の少し後。魔理沙に連れられてきた時からだった。その時は同類がいたのかとか、そんなどうでもいい感慨を抱いていたように思う。
アリスは度々図書館に来た。「ここ、魔術書の宝庫ね」とか言いながら適当に本を漁り、ここで今のように何かを書いている時もあれば、魔理沙のように「借りてくわ」と言って本を持ち帰る時もあった。魔理沙と違うのは、少しずつとはいえ返却されていることだろうか。
そんな彼女が私の部屋に入ってくるようになったのは、比較的最近のことだった。きっかけは私が喘息を少し悪化させたとき、部屋に運んでくれたこと。それからはほぼ毎日のように、入ってきては何かをひたすら書いている。曰く、
「図書館内ってうるさいじゃない? こういうのやるのに向かないのよ。ここなら静かだしちょうどいいかなって」
ということだが、アリスはそういう時に本を持ち帰っていたのではなかったのだろうか。……まあ、そんなことはどうでもいいか。そうは言っておきながらも、アリスは私が部屋にいないときは入らないし、他の部屋にも入らない。
「小悪魔に見せてもらったけど、他の部屋は汚くて無理」
と言っていたけど、小悪魔は案内をした記憶がないそうだ。いったいアリスは何を考えているのだろう。
喉の痛みを覚え、何度か咳をする。するとアリスは顔を上げてこちらを見た。
「パチュリー、大丈夫? 何なら寝たらどう?」
「……冗談おっしゃい。他人のいる部屋であっさり寝れないわよ」
唾を飲んで少し喉を湿らせてから言う。どこかがチクリと痛んだ気がした。
「あら、そうね。もうこんな時間」
壁の時計を見上げたアリスはそう言うと、手早く荷物をまとめ始めた。ものの数分で支度を整える。
「じゃ、私はそろそろ。あ、本借りてくわね」
手に持った魔術書を軽く持ち上げると、アリスは私に背を向けた。椅子に座っていた上海人形が動き出し、アリスの後を追う。
「……アリス」
私がアリスを呼び止めたのは、彼女がドアを開けた時だった。
「ん? どうしたの?」
アリスは小さく首を傾げながら振り返った。少しの間言葉もなくもごもごしていた唇から出たのは、
「……明日、本返しに来なさいよ?」
そんな、どうでもいいと感じることだった。それでもアリスは小さく微笑んで、
「明日は、喘息まともにしておきなさいよ?」
そう言って、七色の人形遣いは帰っていった。
……閉じた扉を、数分くらい眺めていただろうか。
私は結局一ページも進まなかった本を閉じてベッド脇のチェストの上に置いた。指を鳴らすと、魔法で灯っていた光が消えて漆黒の闇が降り積もる。まるで儚い夢が消えたようで、七色の幻影を見てとった私は、
「……馬鹿みたい」
そう呟いて、ベッドの上に横になった。温かい布団が心地よい眠気を誘う。理性を薄れさせているせいだろうか、他愛ない空想が浮かび上がってくる。ここ最近、眠る時はいつもそうだ。
別に振り払う気もないまま、その空想に横たわるように、私はゆっくりと眠った。
✵ ✵ ✵
――家に帰って、荷物をテーブルに投げ出した私は、そのままベッドに倒れ込んだ。頭を掻き毟りたい衝動に駆られるが、なんだか疲れてやる気もしなかった。
今日、パチュリーは私のほうをよく見ていた。気づかれてはいなかったかと不安になる。書いていたのが、研究のことでも何でもないということに。
それなりに前から気づいていたけど、私はパチュリーのことが好きだ。きっかけは知らない。同じ魔法使いだからかもしれないし、七という数字に縁を感じたのかもしれない。ただそんなきっかけはどうでもよくて、重要なのはパチュリーのことが好きだということだ。しかも、ライクではなくラブの意味で。
パチュリーの部屋で研究をしたりとか、本を借りていたりするのは、研究効率を高めるためでもあるけど、それは表の理由でせいぜい全体の三割だ。すべての魔法に共通する部分を除いたら、いくら魔法使い同士でも助言し合えることは少ない。私は精霊魔法のことはよく分からないし、パチュリーも人形魔法についてはよく分からないだろう。知識としては知っていても、それだけでは何とかならないのが魔法の世界だ。
結局は、パチュリーの近くにいたいだけなのだ。部屋に行けばパチュリーに会える。本を借りていれば、返却のためという大義名分を持って堂々と行ける。なんて単純で、なんてバカらしい。
パチュリーという呼び方も、なんか他人行儀な気がして嫌だった。レミリアが気軽に『パチェ』と呼んでいるのを聞いて羨ましく思って、そのあとすぐに何考えてるんだと内心で自分を笑ったりする。要するに、私はパチュリーにとっての特別になりたいのだ。
そのくせ実際にパチュリーの前に行けば、私は澄ました顔をしている。別に無理に普通を気取っているわけでもなく、あくまで自然体に。これがもう少し、顔を赤くしたりとかできればなんとなくわかってもらえるのだろうけど、自分自身で演技するのは苦手だ。たぶん、転んでパチュリーの上に覆い被さるような不可抗力的イベントが起きても、私はさして変わらない反応しかできないんだろう。思わず溜め息が漏れた。
もっと素直になれれば。いやむしろ、外の世界の本に書いてあった『ツンデレ』とかいう、不格好な取り繕いができたりすればいいのに。
もういっそ告白すべきな気もするけど、告白に使う勇気は命を懸けたりっていう勇気とはまた違って、下手したら命を懸けるより精神力が必要になると思う。こんな私には到底考えられない話だった。もしくは、衝動的に言ってしまうような出来事が起きればいいのだけど、そんなことは滅多にない。第一どういう出来事かっていう具体例も思い浮かばなかった。
ベッドの上で悶々と思いを巡らせながらゴロゴロと転がる。一人になるとこんななのだ。パチュリーのことばかり考えて、落ち着いて横になっていることもできない。それなのにどうしてパチュリーの前ではあんな態度なんだろう。我が事ながら理不尽だ。
……そうしているうちに、眠気が瞼を重たくし始めた。俯せになって枕に顔を埋めて、重さに引かれるまま目を閉じる。
「……そうだ、明日クッキーでも持っていこう」
そんなことを考えて、パチュリーが喜んでくれる顔を夢想して、自分で自分を笑ってから、私は静かに眠った。
✡ ✡ ✡
――ぼんやりとした意識で目を覚ました。誰かに起こされる時は自ら覚醒しようという時ではないので、中途で途切れた眠りの残滓は私の中に蔓延っている。
「……なに? 小悪魔」
私を起こした張本人の名を呼ぶ。小悪魔はベッドの縁に手を置いて、私の顔を覗き込んでいた。そういえば、今日はそこまで喘息はひどくないようだ。昨日、アリスに言われたことを思い出し、なんだかバカらしく感じて、すぐに思考の外に投げ出した。
「アリスさん、もう来てますよ?」
「……早いわね」
壁掛け時計を見る。まだ太陽が稜線から顔を出してそう経っていないだろう。ともあれ最近は時間感覚の狂いを感じてきているから、あまりあてにならないかもしれない。アリスはそんなにしたい研究があるのだろうか。
小悪魔を追い出して軽く身支度する。その軽く、が最近少し長くなっている気がするのは気のせいだろうか。ぼんやりとした物思いに耽りながら、気に入っている薄紫色のリボンを髪に着けて私は部屋を出た。
テーブルの置いてある場所に、アリスはいなかった。ただ持ち物だろう本とバスケットが置いてあるところを見ると、小悪魔の言う通り来てはいるみたいだった。椅子に座る。ぱらぱらと本のページを捲っていると、本棚の一つの陰からアリスが出てきた。
「あらパチュリー、早起きね」
そんな何気ない挨拶の後、アリスが少し乱暴な仕草で自分の頭を叩いた。
「……何してるの?」
「えっ? あ、いや、なんでもないわ」
誤魔化すように苦笑いを浮かべると、アリスは私の対面に腰を下ろした。タイミングを合わせたように小悪魔が紅茶を持ってくる。今日はアッサムをもらったのでミルクティーにしましたー、と言っているのを、私はぼんやりと聞き流した。
「あ。そういえば今日クッキー持ってきたんだけど、よかったら食べない?」
「あら、珍しく気が利くのね。変なモノ入ってなければいいのだけど」
「そんなの入れないわよ」
からかい気味に私がそう言うと、アリスは少し拗ねたような声を出した。その反応がなんだか可愛らしく感じ、そのすぐ後に何を考えているのかと自嘲した。
「あ、そういえばパチュリー様」
話に一段落ついたところを見計らって、小悪魔が声をかけてきた。
「何?」
「実は私、これから出かけなければならないんですが……」
切り出してきたのは突拍子もない話だった。
「引き籠もりの貴女が? しばらくは雨かしら」
「いやねえ。私が帰るまでは晴れててほしいわ」
「結構ひどいこと言いますね……」
小悪魔が疲れたように肩を落とす。おふざけもこの辺にして、理由を聞くことにした。
「で、なんで?」
「実は食糧庫が空になってまして。普段なら咲夜さんの仕事なんですがその……咲夜さんがちょっとあれなので」
「あれ、ってなによ」
嘘だな、と思いつつも、別にここに残さなければならない理由もない。嘘をつく理由が気にならないでもないが、正直どうでもいいことだった。
「ま、いいわ。勝手にしなさい」
「ありがとうございます。あ、アリスさんはごゆっくりなさってくださいね」
「言われなくても、ゆっくりしてくわ」
軽く頭を下げて、小悪魔は図書館を出ていった。
……気の詰まる沈黙が図書館の中に沈殿する。相変わらずページが進まない。ちらちらとアリスを見てしまう。
そのうちに、ばったりアリスと視線が交わった。
「っ……!」
「? どうしたの?」
少し驚いて唾を飲んだ私と違って、アリスの反応は至っていつも通りだ。それがなんだか苛立たしくて、私は返事もせずにそっぽを向いた。
けれどすぐに何かを叩いたような乾いた音がして、私は振り返った。
「あ……」
アリスの頬が少し赤くなっていた。さっきの音から考えると、自分で頬を張ったのか。
「……何してるの?」
「え、いや、その、これは……」
アリスが慌てている。普段は澄ました顔しか見れなかったから、少し意外にも感じた。
「さっきも頭叩いてたし、自虐趣味でもあるの?」
「そんなんじゃないわよ。……ほら、クッキーいらない?」
無理やりすぎる話題転換だ。ただ正直、アリスが自虐趣味だと考えるのも嫌なので、アリスの促すままにバスケットの中の、茶葉が練り込まれたクッキーを手に取った。紅茶のいい匂いがする。
アリスもココア色のクッキーを手に取ったけど、食べる様子は見られなかった。何やらこちらの様子を窺っているようにも感じる。頭に疑問符を浮かべながら、私はクッキーをかじった。
「……あら、美味しいのね。アリスが焼いたの?」
「ええ。口に合ったみたいでよかったわ」
アリスは嬉しそうに笑いながら、自分の手の中のクッキーをかじった。思わずその顔に見惚れて、何考えてるのかと片手を持ち上げて、自分は今何をしようとしていたのか考える。変な方向に進みそうになった思考を戻すために、自分の頬を軽く打つため?
これまでも何回かあったことではある。アリスが帰った後、バカらしい考えに至る自分を落ち着かせるために、軽く自分の頬を打つことが。
そこで、はたと気づいた。アリスも、同じなのではないかと。私が至るバカらしい考え――アリスのことが好きであると、それに似た思考を戻すために、頭や頬を叩いていたのではないのだろうか。……考えすぎ? でも、考えすぎでないことを願いたかった。
出会って間もないうちから、彼女が好きであった私のために――。
「――っ!? げほっ! ごほっ、かっ!」
喉がおかしい。喉を引き裂くような痛みを伴う咳が連続して出る。
「パチュリー!?」
アリスが椅子を倒しながら立ち上がる。滲む涙で姿も朧。何とか倒れないようにテーブルの縁を掴んだ。アリスが背中を擦ってくれる。しばらくそれが続いて、治まった時には息が乱れに乱れていた。
「パチュリー、大丈夫?」
他の誰かに言われたなら、意地を張っていたかもしれない。けれどアリスには、そうする気にならなかった。首を横に振って、アリスの身体に倒れ掛かる。温かいなとか、意外と胸あるんだとか思えるくらいに落ち着いた。
「パチュリー、部屋行くわよ」
アリスが肩を貸してくれた。動悸が収まらない私は、半ば引きずられるように歩く。たぶん、この動悸は咳のせいだけじゃない。
テーブルの上にあるティーカップの傍に、食べかけのクッキーが落ちているのが見えた。せっかく作ってくれたのに。……今は咳の辛さよりも、その悲しさのほうが強かった。
✵ ✵ ✵
パチュリーをベッドに寝かせてからも、私はせかせか動き回った。喉を潤せるように水を用意して、大変そうだったら飲ませるようにと前に小悪魔が言っていた薬を用意して。傍から見れば献身的なのかもしれないけど、実際は自分を落ち着けるためのものだった。
今は落ち着いて、普通に本を読んでいる。けれどそれは儚く見えて、また発作が起きるんじゃないかとか、もっとひどくなるんじゃないかとか、そんな風に考えて腫物でも触るかのような態度をとってしまう。パチュリーがあまりそれを好まないのを知っていても、抑えらなかった。
幸いというのか、今回パチュリーは何も言ってこなかった。少し顔を赤くして、時折息を深く吐いたりしている。そんな細かいことが目に留まるくらい、私はパチュリーを注視していた。
「……ねえ、私の顔に何かついてる?」
「べ、別になにも?」
さっきパチュリーに気付かれた時から、ここにいるときの調子が崩れた。澄ました顔なんて浮かべられずに、素の顔が現れているような気がする。それが恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。ようやく、ありのままを曝け出せた気がする。
「……アリス、水もらえる?」
そんな感じで、地に足がついていなかったんだろう。
「あ、ええ。わかったわ」
水差しからコップに水を移してベッドに運ぶ。高々それだけのことなのに、ふらふらと不安定だった私は、
「あっ!」
「きゃっ!」
床に落ちていたペンを踏み付けて、ベッドの上に倒れ込んでしまった。絨毯の上にコップが落ちる音、パチュリーは濡れなかったかしら?
そう思いながら顔を上げると、私の顔を覗き込んでいたパチュリーと視線が絡まった。さっきは澄ました反応をしてしまったけど、今回は頬が紅潮しているのがわかる。パチュリーの顔も、さっきより赤かった。
「…………」
「…………」
沈黙の間、視線をずらすことはできなかった。固定されたように、全身が動くことを拒否している。
「その……濡れて、ない?」
かろうじて、そんな言葉を絞り出した。
「……ええ。その……アリスは、大丈夫?」
頷いた。身体が勝手に、パチュリーのほうに進んだ。いや、勝手になんかじゃない。これは絶対に、私の意思だ。パチュリーは動かない。顔を赤くしたまま、近づく距離に息を飲んでいる。白くか細い喉元がゴクリと動いた。
互いの息が顔にかかる。パチュリーの潤んだ瞳に、私の顔が映り込んでいる。
「パチュリー……」
「アリス……」
確かめ合うように名を呼んで、私たちは唇を重ねた。パチュリーの背中に手を回して、その体を抱き締める。甘い接吻は永久のようで、一時のようで。
「順序、逆だったわね」
唇を離した私は、そう言って笑った。
「パチュリー。貴女が……好き」
……パチュリーは顔を真っ赤にして俯き、小さく頷いた。その、ほんの小さな仕草で、心の中にじんわりと、温かなものが生まれた。
もう一度パチュリーを抱き寄せて、今度は軽く、その唇にキスをした。
✞ ✞ ✞
「うふふ、やっとくっつきましたね」
買い出しに行くと言って外に出て、しばらくして図書館に戻ってきた小悪魔は、何をするよりもまずパチュリーの部屋に向かった。
パチュリーが理解していた通り、食糧庫が空だというのは嘘だった。小悪魔は最初からこの展開に運ばせるために、邪魔者である自分を図書館の外に出したのだ。
「背中がむず痒くなるような嘘をついた甲斐がありました」
「まったくね。こっちも、フランを魔理沙と遊ばせた甲斐があったわ」
「!?」
唐突に背後から聞こえた声に、小悪魔は心底驚いた様子で振り返った。
「お、お嬢様? なぜこんなところに?」
「あんただけでここに来たらいることがばれるでしょうに。誰のお陰で気付かれてないと思ってんのよ」
恩着せがましく言うレミリアに、小悪魔は苦笑を浮かべた。
「……ま、パチェの恋路が気になったからでもあるけどね。親友だしさ。第一、なんであそこまであからさまなのにお互い気付かないのかねえ?」
理解しがたいと言わんばかりに肩を竦める。
「ま、当事者なんて大体そんなものです。知らぬは当人のみ、って感じですよ」
「それは経験則?」
「ノーコメントです」
小悪魔が唇の前で人差し指を立てるジェスチャーを見せる。レミリアはそれを鼻で笑うと、小さく欠伸をしてからくるりと背を向けた。
「あ、お休みですか?」
「昨日フランと遅くまで『遊んだ』のよ。疲れて眠いったらないわ。そこの二人はあんたに任せたよ。なんなら宿泊の許可与えたっていい」
「かしこまりました。お休みなさいませ、お嬢様」
小悪魔が深々と頭を下げる。肩越しにひらひらと手を振って、レミリアは足音を立てずに図書館を出ていった。
身体を起こした小悪魔は、小さく開けた戸の隙間から部屋の中の様子を伺う。アリスとパチュリーは、互いの熱を確かめ合うかのように、目を閉じて身体を寄せ合っていた。
小悪魔は柔らかな微笑みを浮かべる。
「どうぞ、ごゆっくりー」
音を立てず、その部屋の戸は閉じられた。
数あるカプの中でもパチュアリの静かな空気感は一番百合っぽいと思ふ。
パチュアリは大きな動きが無く緩やかに関係を深めて行くのが良いですね。
かなり理想的なパチュアリを読ませていただきました。ありがとうございます。
最近パチュアリブームの自分には溜まりません!
にやけ面を抑えるのに必死でしたw
百合の花弁の透き通るが如き、知的で静的で素敵な関係。
ホントいいですよねー。
かわいいじゃねえか……
あれ、俺いつあとがき書いたっけ?
ともかく、アリパチュの鑑といえるような作品でした!
だがこれでも十分、悩む