Coolier - 新生・東方創想話

もふもふしてみたい

2011/05/29 23:11:43
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私、八雲藍には悩みがある。

幻想郷の賢人である我が主、八雲紫様の式として仕えている私としては、紫様のサポートのために自慢の頭脳で様々な難題をクリアしてきた。

だが、今私はかつてない難題に直面している。

この難題に対して、様々な角度から分析して解答を導き出そうとしているのだが。

一向に解決策を導き出せない。

苦悩の日々。

お蔭で幾度の眠れぬ夜を過ごした事か。

いや、本当。

悩みすぎてハゲそうだ。

その苦しさのあまり、紫様に相談しようかとも考えた。

だが、日々多忙な紫様。

霊夢に会いに行ったり、霊夢に会いに行ったり、霊夢に会いに行ったり、結界の管理をしたり、霊夢に会いに行ったり、霊夢に会いに行ったり、寝たり、霊夢に会いに行ったり、幽々子様に会いに行ったり、寝たり、幽々子さまに会いに行ったり、霊夢に会いに行ったり。

とてもではないが、私個人の悩みを打ち明ける暇など無い。

・・・橙に相談する?

そんなことは出来ない!

一生懸命、立派な式になるために日々努力を重ねている可愛らしくてキュートでちんまくて愛くるしくてもう本当に首輪でも付けてずっとずっと傍で一緒に・・・!

はぁ、はぁ、はぁ・・・!

・・・うむ、失礼。

少々取り乱してしまったようだ。

ともかく、橙にだけはこれ以上負担をかけたくはない。

かといって、他に相談できる相手もいない。

私はよく人里に行くので、人里に住む中々賢いという噂のナズーリンという妖怪には会った。

ちょっと相談してみようかとも思ったが、彼女は彼女なりに悩みがあるという。

なんでも、一緒に住んでいる鵺妖怪がUFOからビームを出したいという相談を受けているらしく、現在進行形で頭を悩ませているらしい。

というわけで、相談相手もいない。

そんな私にとってはとても重大な悩み。

それは・・・。




「どうやったら、自分の尻尾でもふもふできるんだろうか?」



◇ ◇ ◇



人里、団子屋。
私は何度目になるか分からない溜息をつき、考えを巡らせる。

そう。
私の今の悩み。
それは、自分の尻尾でもふもふ出来ないこと。

何故、自分の尻尾をもふもふしたいと思ったか。
簡単な話、私の尻尾でもふもふしたいという輩が多いからである。
あまりに多いので、そんなに気持ち良いものなのかと自分の尻尾をもふろうとした。

結果、出来なかった。
当然だ。
だって、目的の尻尾は私の後ろ側に付いているのだ。
私が尻尾をもふろうと後ろを向くと、当然尻尾はくるりと私の後方へと逃げる。
それを追っかけようとする。
尻尾は逃げる。
追いかける。
逃げる。
その場で私はく~るくる。
ただ回転するのみ。
結果、もふることは出来ないのである。

尻尾が逃げる前に、それ以上の速度で後ろに回りこみ尻尾に飛び込むという作戦も実行してみた。
幾度の血の滲むようなトライの結果、私はそれに成功した。
いや、成功したように思えただけだ。
超高速で回り込む私。
きっと鴉天狗だってビックリのスピードだったに違いない。
目の前には大きなふさふさした自慢の尻尾。
それに向かって飛び込む私。
だが、なんの感触もなく尻尾をすり抜け、畳にダイブしただけだった。
当たり前だ。
だって、私の目の前にあった尻尾は、ただ私が超スピードで動いたことによってできた残像だったからだ。

そんなことを思い出しながら、再び溜息をつく。
「あれ、藍ちゃん。何か悩み事かい?」
そう声を掛けてくれたのは、この店の女主人。
もう120歳になるというのに、未だに現役で団子を作り続けている元気なお婆さんだ。
「いや、ちょっとね」
「私は藍ちゃんみたいに頭が良いわけじゃないから、何を悩んでいるかは分からないけど。あんまり煮詰まっちゃダメだよ?」
私はよくこの店に来るので、この女主人とも顔見知りである。
とても優しい方だ。
私がこの店によく来るのは、ただ団子が美味しいだけではなく、この女主人の人柄もあるといっても過言ではない。
「ほら、これでも食べて元気を出して。その団子はいつも頑張っている藍ちゃんへの私からのサービス。御代は気にしなくていいからね」
そういって、私の横に皿を置き、店の奥へと戻っていく。
「ありがとうございます」
去りゆく女主人の背中に礼を述べ、団子を頬張る。
うん、美味しい。
優しさの篭った味を堪能しながらも、これからどうすべきかと考えていると。

「あ、藍さん」

声をした方へ目を向ける。
そこには。

「おや、椛じゃないか」
「御無沙汰しています」

そういって、丁寧にお辞儀をした椛。
今日は非番だろうか。
人里に来ているということは、そうなのだろう。
そうだ。
ちょうどいい、椛に相談してみよう。
同じもふもふの仲間だ。
私は、隣の席に誘い、悩みを打ち明けた。



◇ ◇ ◇



「なるほど。確かにそれは気になりますね」

お茶を啜りながら、私の悩みに同意してくれた椛。
やはり、持つべきものは友だ。

「そう言われると興味が沸きますね。自分の尻尾がどれだけ良いものか」
「だろう?」

椛もあれだけもふもふされているのだ。
一度くらいは自分の尻尾を堪能したいと思うはずだ。

「でも、難しいですよねぇ」
「そうなんだ。難しい」

他人がもふった感想を聞いても仕方ない。
そんなの、普段から聞いてる。
そうじゃない。
自分が、自分の後ろについているモノに対してどんな感想を抱くかだ。
自分自身の感想。
自分自身のもふった感想が欲しいのだ。

「普通に考えたら、もふれませんよね」
「なにせ、後ろに付いているからな」

触ることはできる。
でも、それではダメなのだ。
みんながやっているように、体全体でもふもふの感触を味わいたいのだ。

「あ」
ふと、何か閃いたように椛が声を上げた。
「ん?何か名案が?」
「い、いえ。解決策を思いついたわけではないのですが、あの人に相談すれば」
あの人・・・?
私の疑問顔に、椛がその人の名前を口にする。

・・・。

なるほど。
確かに、あの人に相談してみるのはいいかもしれない。
そうなれば、善は急げだ。
団子屋の代金を払って、私たちはその人物の元へと向かった。



◇ ◇ ◇



「自分の尻尾をもふもふ、かぁ・・・」
そう言いながら悩む素振りを見せる慧音。
そう。
この人(?)も私たちと同じ『もふもふ』に頭を悩ませる1人。
といっても、満月の夜限定なのだが。

あの竹林を巡回している不死人がもふることに関しては何にも問題ないそうだ。
むしろ、その時のことを話す慧音は口元がだらしない。

チッ、のろけか。

まぁ、でも。
好意を寄せている者からもふられる喜びは私にだってある。
橙、ちぇん、ちぇえええええええええええええええええん!!

「で、慧音先生ならもしかしたら良い案を出してくれるかもしれないと思って」
「私のところに来たわけか」

ふむ、と再び悩む慧音。

「お忙しいところ、申し訳ない」

私が丁寧にお辞儀をすると、慧音は柔らかい笑みを浮かべて手を振る。

「気にしなくて結構だよ。私も貴方たちの話を聞いてたら興味が沸いてきてね。なるほど、自分の尻尾のもふもふ度か」

確かに、言われてみれば気になりますね。
そう言いながら、再び考え始める。
流石に、そう簡単に上手くいく話じゃないだろうな。
そんなことを考えながら、ふと慧音の横にある机の上にある紙の束に目が行く。

「・・・寺子屋の授業のものですか?」

私の視線の先にあるものに目をやり、あぁ、と苦笑気味な表情を浮かべる慧音。

「テストの採点をしていてね。いや、子供たちの実力を伸ばすというのは難しいものだよ。良い点数の子もいれば逆も然り。だが、そんなことで差別せずに全員に熱心に教えていくのが教師としての務めだと考えていてね」

その苦笑は、とても優しいものだった。
本当に子供が可愛いんだろう。
分かります先生、その気持ち。
ち、ちぇえええええええええええええええええええ(ry。

「・・・ん?」

と。
私の隣に座っていた椛がある一点に視線を注ぐ。
先ほど話題に上がっていたテストの答案。
とりわけ、名前を記入するところに。

「フランドール・スカーレット?」

椛の口から述べられた名前は、悪魔の妹。
私もそのテスト用紙に目をやる。
なるほど、確かにフランの名前が書かれてある。
おぉ、95点。

「あぁ、フランか?彼女も寺子屋の生徒の1人なんだよ。最初は不安だったが今では立派な我が寺子屋の生徒さ。中々飲み込みも良くてね」

まるで我が事のように自慢そうに述べる慧音。
そうか、あのフランが寺子屋で上手くやっていけるようになっていたか。
これも、紅魔異変を解決した霊夢たちのお蔭かもな。
そんなことを考えていたら。

「そうか、その手がありました!」

突如立ち上がり、高らかに声を上げる椛。
な、なんだ!?
ビックリした目で見つめる私と慧音。

「良い案があるじゃないですか!フランさんと同じことができれば!」

フランと同じこと?

・・・。
・・。

あ!?



◇ ◇ ◇



なんでその考えに至らなかったか。
幻想郷の賢人たる紫様の式として恥ずかしい。
早く動く必要もない。
他人の感想を聞く必要もない。
そう、私たちがフランと同じことを出来れば。

「え?妹様に教えを請いたい!?」

紅魔館門前。
驚きの声を上げたのは美鈴。
美鈴の驚愕も無理はないだろう。
普通、あのフランにご教授願う奴はそうそういないだろう。
だが、これが最善の策だ。
慧音のところに行ったのは無駄ではなかった。
そして良く気付いたな、椛。
ともかく、私たちは今までの経緯と導き出した回答を美鈴に伝えた。

「な、なるほど・・・。私はもふもふ出来るところがないのでその悩みは共有できませんが」

『もふもふ』がなくとも。
あるじゃないか。
美鈴には立派な『もむもむ』が。

「ただ」

少し悩んだ素振りを見せた美鈴。

「解決策では良い案かもしれませんね」

ですが・・・。
再び悩み始める美鈴。
あぁ、そう上手くはいかないだろう。
なにせ、相手は『あの』フランドール・スカーレットだ。
幾らあの異変以来徐々に丸くなっていっているとしても・・・。

「お嬢様が許可を出すかなぁ」

レミリア。
紅魔館の主にして・・・、して・・・、・・・。
あ~、『うー☆』だな。
とりあえず、適当な感想を考えている。

「でも、もっと色んな人と触れある良い機会かもしれませんね。妹様にも様々な経験をしてもらいたいです」

そう、ニッコリと微笑む美鈴。
全てはフランのため。
そうとも思わせる表情。

「少し待っていてください。お嬢様から『許可』をもらってきます」

そういって、館の中へと消えていく美鈴。

「中々気難しい方だと聞いてます、レミリアさんは。許可が下りるでしょうか?」
「あぁ、きっと大丈夫さ」

不安そうな椛に対して、何故か私は気楽でいた。
大丈夫。
美鈴ならやってくれるさ。
特に理由もないが、私は不安には思っていなかった。



◇ ◇ ◇



「許可が下りました」

10分くらいたった頃か。
戻ってきた美鈴が発した言葉はそれだった。
正式にフランとの面会が許されたようだ。
さぁ、行こう。
全ては、我らもふもふの為に!

「よ、よくこんなにあっさりと許可がでましたね?」

どうやら少し不審に思っているらしい。
椛が不安そうに尋ねてくる。
椛には聞こえなかったか。
美鈴が戻ってくる前。
館から微かに聞こえた『うーーーーーーー☆』の叫び。
それが全てを物語っている。
『許可』は下りた。



◇ ◇ ◇



フランの部屋、前。
美鈴に案内された場所は、はっきし言って『異形』だった。
厚く閉ざされた扉。
見ただけで分かる。
決して内側から破壊されないような厳重な扉。
椛は、どうやらこの扉だけで圧倒されているようだ。
当たり前だ。
これは牢獄以上の厳重さだ。

「この先に妹様がいます」

かつて見たことのない美鈴の真剣すぎる表情。
それがすべてを物語っている。
この先は、『危険』。

「ここに入る前に。妹様に会う前に。一言だけ言っておきます」

その表情を崩さないまま、美鈴は言う。
その表情に、椛は冷や汗を流しているようだ。
無理はない。
噂で聞く、フランの全てを破壊する能力。
幻想郷においても、トップクラスの危険度。
今から、それを目の当たりにするのだ。
だが。
次に発せられた美鈴の言葉は。

「妹様は、とても優しいお方です」

そして。
扉は開かれた。



◇ ◇ ◇



「つまり、私の『フォーオブアカインド』を教わりたいってわけ?」

なんか嬉しそうに答えるフラン。
そう。
自分の尻尾をもふる方法。
それは『分身』の他ならない。
椛が寺子屋でフランの名前を目にしたときに閃いたのだろう。
フランと同じ能力が使えたらなら。
もう1人『自分』を生み出すことができるなら。
もふれる。
そのためにも、私たちには無いフランの能力が必要なのである。
うーん、と考えるフラン。
ふと、すぐそばにいる美鈴に問いかける。

「めーりん?」
「えぇ、いいですとも。それが妹様のため、紅魔館のため。そしてここにいる全ての人の為になります」

笑顔で応える美鈴。
そんな美鈴を見て。

「分かった!教えてあげるよ!」

笑顔で応えるフラン。
ちょっとだけ。
ちょっとだけだぞ?
橙とは比べ物にならないけど。
その笑顔が『可愛い』と思った。



◇ ◇ ◇



その後。
私たちがどうなったかというと。
結果から言うと失敗だった。
フランが他称ながら『魔法少女』だと言われることながら、私たちの力ではどうともならない領域だということだけは分かった。
フランの地獄ともいえる特訓。
なんか良く分からないダンスを踊ったり、組み立て体操のような恰好したり。
それがフランの能力に関係するのかは最後まで謎だった。
おそらく、フラン自身がその能力に対して深い知識を持っていなかったのだろう。
生まれつきの能力。
物心つくころから、自然と身についていた能力なんだろう。
そんなことを思い出して、はぁっとため息をつく。
私の後ろでは、いつものように愛すべき橙が私の尻尾をもふっていた。
まぁ。
それだけでも、私にとっては幸福なことなんだろう。
愛する橙が幸せそうにしている。
だが。
賢人の式をしている私として、このままでは終わる訳にはいかない。
いつか必ず、このもふむもふの真相を見極めてやる。

そんなことを考えつつ。
今日も橙が幸せそうな顔で尻尾に包まれている姿を優しい視線で見守るのだった。



◇ ◇ ◇


あと、紫様。
橙の邪魔になるので、私の尻尾をもふるのは後にしてください。
ぱるぱるぱるぱるぱるぱる。

かなり長いこと投稿していなかったエクシアです。
作品作りって難しいですね。
ネタっていうのは中々思いつかないものです。

これからも、出来るだけ作品を作っていきたいです。

最後まで読んでくださってありがとうございます。
エクシア
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コメント



0.800簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
自らもふもふを享受できないのはつらいだろうなぁ。
だがしかし、藍さまほどの尻尾ならば大地を背に寝込ろがれば届きそうな気もしないわけでもない。
5.90奇声を発する程度の能力削除
藍様が椛の尻尾モフって椛が慧音(満月)の尻尾モフって慧音が藍様の尻尾モフれば良いんじゃね?って思ったけど、
自分の尻尾じゃないと意味無いかって結論になった
7.30名前が無い程度の能力削除
あれ?スキマ使えばいいじゃんって落ちるのかと思ったら最後まで気づかないのかw
ちょっと不自然な気がするなあ。
8.90名前が無い程度の能力削除
霊夢に会いに行ってない時にゆかりんに相談しなさいw
11.50名前が無い程度の能力削除
スキマか薬か萃香だのみで解決すると思うんだけど…
12.80名前が無い程度の能力削除
スキマに頼めない理由はもう書いてあるからまあ、そういう世界なのです
18.90名前が無い程度の能力削除
…股の間から尻尾を前にまわせばよいのでは?
19.60名前も財産も無い程度の能力削除
どうして諦めるんだよ、そこで!だめだめだめらめ(ry

うーむ、フォーオブカインド以外にも旧作の話になればゆうかりんも質量を持った分身が使えますな、こちらにはノータッチだったのが少し残念

ちょっとだけもの足りなかったのでこの点数で勘弁してくださいませ…