一片のくもりも無い青が幻想郷の半分を覆い、同時に視界の全てを覆っている。どこまでも澄み切った空は、見上げた者に世界が広がったかのような感覚を抱かせ、彼らを活発な遊戯へと誘う。だが、ただ晴天であるだけで世界は広がるものだろうか。
外の世界の文献によると、今日のような青色は上空の最も高い場所で生まれるという。しかし、この青がそのまま地上に届く事は無い。青よりも低い場所では白が生まれており、その白が青と混ざってしまうからだ。また、更にその下、雲が在る層では光は雲に遮られる。その結果、地上に届く色は白く濁った青になったり、雲の灰色になったりする。とりわけ雨の日なら、最も低い層で生まれる黒雲の色が空の色となるだろう。
ちなみに、そんな新しい科学に頼らずとも人間は昔からこの事実を知っていたと考えられる証拠が有る。それが、「空が高い」という言葉だ。古人は青空を高い空と呼び、対極の雨空を低い空と呼んだ。こうすることで、天気という曖昧な現象を高さという測れる概念に変換したのだ。
これらのことから、晴天で広がっているのは、あくまで物理的な視界に過ぎないことが判る。現象レベルで広い範囲が見渡せることと、知識レベルで数多の事象が見通せることはまったく別なので、はじめに挙げた感覚は一種の錯覚に近い。これはいわば晴天の誘惑であり、妖精や子供がはしゃぐのは誘惑に抗しきれないからなのだ。
これに対して、大人は皆自分なりの対策を持っているものである。仕事に打ち込む者、地下に籠る者、昼間は起きない者。僕の場合は、本を読む事が、自分の世界を散漫にしないための秘訣だった。
僕は座っている岩を気にしながらページをめくった。
実は今、僕は店の外に居る。買い物で人里まで行った帰り道、あまりに天気が良かったので、ここで本を読み、自分を守ることにしたのだ。
辺りは農地なので、顔を上げれば自然と田圃や畑が目に入った。折しも、朱鷺の群れが田圃に舞い降りたところだ。長閑な景色に包まれて、読書が進む。
「あら、霖之助さんじゃない。珍しい事もあったもんね」
「珍しい事?」
別に珍しい事はしていない。晴れているから、灯りをつけずに本を読んでいるだけである。
誰の声かは判っていたので、僕は本を読んでいる姿勢のままで返事をした。
「珍しいわよ、霖之助さんがこんな道端に座ってるんだもの。ま、本を読みっぱなしでこっちを向きもしないのはいつもの事だけどね。
それにしても、こんな天気の良い日に読書なんて何か損だとは思わないの?」
やっぱりな。要するに、彼女は今の光景を珍しがりたいのではなく、もっと世界を広く使えと主張したいだけなのだ。しかも、その主張はあまり正しくない。
「晴天で広く感じるのは所詮見かけの世界に過ぎない。自分にとっての世界を広げるのは、天候を操る誰かではなくて、未知を求める好奇心だよ。それが判っていないようじゃあ、霊夢はやっぱりまだ子供だね」
「ちょっとちょっと。何だか判らないけど、いきなり子供呼ばわりは酷いんじゃないの。折角、霖之助さんに明日の宴会のことを知らせてあげようと思ったのに」
振り向くと、一羽の紅白が頬を膨らませていた。
まぁ、それくらいは自分で考えてほしい。相手がどうしてそう言っているのか考える事は、どんな場合でも重要だ。それと、宴会の知らせというのはたまたまに違いない。初めから僕に伝えるつもりなら、まず店の方に来るだろう。自分で「珍しい」とも言っていたし。
僕は、なんとなく空が陰るのを感じながら、いつものように返事をした。
「騒々しい宴会なら僕は行かないよ。いつも言ってることだが」
宴会の題目が何であっても、神社では騒がしくならないなんてことは考えられない。
だから、今回も僕は顔を出さないつもりでいる。別に僕一人居なかったところで、大勢に影響するわけでもない。
「まぁ、そう言うと思ったけど。でもね、一応よ一応。明日のは私が主催になってるみたいだし。
それと一週間後の今日にも宴会があるから、そっちの方も考えておいてね」
「そうかい。それじゃあ明日もその次も、君達だけで楽しんでくれるといい、って、何だあの影は」
「こらー!そこの紅白ー!!本の仇ー」
ドシン――
鈍い衝撃によって、僕は道に転がされていた。幸いなことに痛みは少ない。咄嗟に本を抱えたのが良かったのか、上手く受け身をとれたようだ。問題があるとすれば……喧しいのが二羽になってしまったことか。
「あれれー……大丈夫?」
「こら!大丈夫も何も、あんたがぶつかったんでしょうが!霖之助さんに謝んなさい」
「え?ちょ、ちょっと待ってよ元はと言えばあんたが避」
「黙って頭を下げる!」
「うあーもう、ご、ごめんなさい!……?」
起き上がって二人のやりとりを眺める。一人はもちろん霊夢だが、もう一人は妖怪だ。大部分が黒と青で、袖だけが白い服を着ている。背中と頭には紅い羽のようなものが見えるから、多分鳥の妖怪だろう。僕におざなりに頭を下げた後、その少女は霊夢の方に向き直って叫んだ。
「それで紅白の!私の本は今どこに在るの!持ってたらこの場で返しなさい!」
「何よそれ。私、あんたから本を借りたことなんて無いわよ?」
そういえば、こんな妖怪少女が店に来た事も有った気がする。ちょっと前の出来事なので忘れていたが、やはり、この少女は忘れていなかったか。
「借りたどころか強奪だったじゃないの!とぼけて誤魔化そうったって、私は覚えてるんだからね!」
「うーん、そう言われてもねぇ……。あ、あぁ思い出した。そんなことも有ったかもしれないわ。それにしても、そんなどうでも良い事よく覚えてたわね」
「どうでも良くないの!!」
漸く思い出したらしい霊夢に妖怪の少女が食ってかかる。その様子を見ながら、僕はこの少女が鳥の妖怪であることを確信した。
一般に鳥は物覚えの悪い生き物だと思われているが、本当は鳥ほど物を忘れない生き物もいない。そうでなければ、どうして伝書鳩が役に立ったり、渡り鳥が目的地に着いたり出来るだろうか。
「ふうん。でも、悪いけど私を問い詰めても何も出ないわ。前にも言ったけど、あの本はとっくの昔に私の物じゃなくなってるもの。まあ、そこの霖之助さんに聞けば本の在り処ぐらいは判るかもしれないけど」
「何!?」
ちょっと待ってほしい。確かに僕はあの三冊の本から興味深い考察を得、シリーズものの本が完結するという珍しい体験もした。内容には良く判らないところもあったが、貴重な本だったから十五冊をまとめて保管しようと決めた気もする。日光で焼けたり、湿気で黴びたりすることのないよう、気をつけて保管しようと決めた気もする。だけど……今あれはどこに仕舞ってあったっけ?
僕は鳥ではないので、本の在り処を尋問されてもすぐには答えられそうになかった。
「本!私の本は今どこにあるの!」
しかし、案の定少女は矛先を僕に向けてくる。まったく、霊夢の誘導通りだ。そして、ここで「忘れた」などと言ったら、今度は体当たりじゃ済まないんだろう。こんなとき、荒事の出来ない僕には怒りを受け流すほか道が無い。
というか、そもそも僕に責められるいわれは無いんじゃないか。本は正当な対価を払って買い取った事になっているし、僕自身は本を有効に利用したつもりだ。店内で大切に保管してあるから傷む事も無いし、まったく悪いことをしていない。なんとなれば、またいつだって読むことも出来るのだ。仕舞った場所を思い出せれば、の話だが。
僕はなんとかして、少女の追及をかわす方法を考えた。
「君の言う本というのは、あの、外の世界の式神について書かれたもののことかい?あれなら僕の店にあるが、生憎店は今改装前でね。すぐに取り出すことは出来ないんだ」
「あら、意外と正直なのね」
霊夢にフォローされるまでもないことだが、僕は嘘はついていない。ただし改装するのは多分ずっと後だし、取り出しても返すつもりは無いのだが。
「それで?」
「うん、とりあえずこれから店に戻って準備をするから、どんな具合かは明日の神社の宴会で霊夢に聞いてみてくれ。そうすればすぐに読めるか、もう少し時間がかかるかは判ると思うよ」
「「え?」」
さっきよりも見開かれた霊夢の目が、「押しつけたな」と言外に言っている。それと妖怪の少女のほうだが、なぜかこちらも驚いたような顔だ。
「明日宴会なんて、私聞いてないわよ」
「そりゃ教えていないもの。当然でしょ」
「どうして教えてくれないのよ!そんなに私のことが嫌い?!」
「教えるも何も、私はあんたの巣なんて知らないし、あんたも神社には来ないでしょ。来ても退治するけど」
いつものことだが、霊夢は妖怪に厳しい。そこまで言わなくても、と思う事もはっきり言い切るし、刃向う妖怪がいれば問答無用で退治してしまう。それでも妖怪が神社を離れないのは流石といったところだが……いくらなんでも今回はちょっと冷たすぎるんじゃないだろうか。僕としても目の前でいがみ合われるのは良い気はしないし、と思ったところで、ついに妙案を考え付いた。これなら、二人の仲は間違い無く改善される。しかも、素晴らしいことに香霖堂の客も増えるかもしれない。僕は暫く二人の様子を見て、ここぞというタイミングで切りだした。
「さて二人とも、仲違いは構わないけれど、そんなことをしても誰も幸福にならないことは判っているだろうね?」
「「何よ」」
そんな風に睨まれても困るのだが。
「喧嘩しても誰も得をしないだろう、と言ってるんだよ。つまらないことでいがみ合うより、仲の良い知り合いになった方がずっと有益じゃないか。そこでなんだが、君達に、鳥と人の間を結ぶ最も良い方法を教えてあげようと思う」
有益なのは僕にとってもだが、これは口には出さない。
僕は二人をさっきの岩に座らせ、懐から適当な紙を取り出して見せた。
「鳥と人を結ぶ最良の方法、というのはこれだよ。君達二人は、お互いに手紙を書くと良い」
「「嫌よ、めんどくさい」」
二人とも、予想通りの反応だった。それにしても、二人の息は妙に合っている。まるでこうなることは打ち合わせ済みで、僕だけが振りまわされているみたいだ。
「大体、妖怪に字が書けるのかしら?ゴシップ記者の天狗ならともかく」
「書けるわよ!そりゃあ字の書けない妖怪も中にはいるけど、少なくとも私は野蛮な巫女より文化的だわ」
とはいえ、少しでも放っておくとこうなる。僕は気を引き締めて、いかに手紙を書く事が重要であるか、説明を始めた。
「いいかい、これは二人が話し合いでなんとかしようとしたって駄目な話なんだよ。鳥と人の仲を取り持つには、紙に書かれた文字が必要なのさ」
なぜなら、そこには鳥と人と文字の数千年にわたる関係があるからだ。
「人間が最初の文字を考えた時に何を手本にしたか。霊夢は想像した事が有るかい」
「無いわ。だって、私は最初の文字を知らないもの」
「まぁそうだろうね。実は最初の文字というのは、鳥の足跡にとてもよく似ていたんだ。しかもそれは形だけじゃない。記録する方式までそっくりだったんだよ。さっきまでそこの田圃に朱鷺がいたから、見に行けばすぐに判るんだけど、鳥の足跡というのは水底の粘土に残るだろう?それと同じで、最初の文字も粘土に跡を残すことで記録されていたのさ。人間が鳥の足跡を見て文字を開発したことは、ほぼ間違いないと思うね」
「ふうん。でも、それってすごく大昔の話でしょう?そんな昔の事、今更蒸し返す必要は無いと思うけど」
「いや、足跡が文字の原型になった後も、文字と鳥の関係は続いたんだ。西に広がった文明では鵞鳥の羽根を使った筆記用具が生まれたし、東で栄えた文明では雁が書状を届ける使者になった。伝書鳩という例もある。鳥は、文字の雛型を作っただけでなく、文字を世界中に広める役目も果たしたんだ。それと、特に霊夢。君のような神社を運営する人間が知っておくべき歌にも、鳥と文字の関係が詠われているよ」
「えーと、そんな歌あったっけ」
「『薄墨に かく玉づさと見ゆるかな 霞める空にかへる雁がね』。この歌は空を飛ぶ雁を玉づさ、つまり手紙の文字に見立てている。さっきも言ったように、雁は昔から手紙を運ぶと言われているから、二重の意味で手紙と縁が深いことになるね」
「そんな歌、定家の百首にも選ばれてないんでしょ。知らないわよそれじゃあ。
あんたは知ってる?」
「知ってるわけないわ」
「あのねぇ」
幻想郷なら、その辺りの事情に詳しい人妖が何人もいる。目の前の巫女も鳥も、もう少し周囲の文化人を見習った方が良い。
「この歌の作者は、住吉三神を祀っている神社の神主だったんだけど、彼は神社の経営をとても上手くやって位を貰うほどの人物だったんだ。普段お賽銭が少ないと嘆いている霊夢にはぴったりじゃないか」
「……それはまぁ、そうね。この間月に行った時には住吉さんにもお世話になったし、覚えておこうかしら」
割と現金な巫女である。だが、神社の経営に成功したという事は、多くの信仰を集めて神の力を高めたという事だから、それに倣うのは間違っていない。
「それと、鳥という字は『チョウ』とも読み、これは兆しの事でもある。その兆しに何を感じるかは君達次第だけれど、少なくとも凶兆よりは瑞兆の方が良いだろう?」
「そりゃそうよ」
「凶鳥よりは、瑞鳥の方がいいなぁ」
「そうだろう。だから君達は、いさかいをやめるために手紙を書くべきなんだ」
「うーん。でも私はこいつの家を知らないし、こいつだってきっと手紙を渡しに神社にのこのこやって来たりしないわよ。来ても退治するし」
「こんな暴れ巫女の神社に手紙なんか持ってかないわ」
「まあまあ」
まったく、どうにも世話が焼ける奴らだ。これだけ言っても、しばらく二人きりにしておけばまた喧嘩になるんだろう。
だが、そこに僕の付け入る隙が有る。
「僕は別に、お互いの家まで手紙を持って行けとは言っていないよ。誰かに届けさせろとも言っていない。手紙というのは、二人が共通して知っている場所に置いておけば、そのうち必ず相手に届くものだからね」
この二人が共通して知っている、神社以外の場所と言えば、
「香霖堂に手紙を置けって言うの?霖之助さんに限ってそんなことは無いと思うけど、まさか勝手に読むつもりじゃないでしょうね」
「そんなことはしないさ。それに、霊夢はしょっちゅう来てるんだから手間にはならないだろう」
別に霊夢の来店を期待しているわけではない。どうせ来たところで商品を買っていかないし、それどころか勝手に持っていくことだってよくあるからだ。
期待しているのはむしろ妖怪の少女の方である。本を大切にしているのは知識欲と物欲が人並みに有る証だし、この二欲に関して香霖堂はうってつけの店だ。だからここで上手く誘導して、定期的に店を訪れるようにさせる。そうなれば、後は店の商品の魅力を少しづつ伝えていくだけで良い。
我ながら名案じゃないか。今日の僕の思考は、まさしくこの空のように澄み渡っていると言えた。
そもそも、手紙とは往信と返信があって初めて完成し、大きな力を持つ事ができるものだ。資料として後世に残るのも、思い出として当人に残るのも、そうやって完成した手紙が多い。だから、そんな手紙を一羽の鳥とすれば、往信だけの手紙はいわば片翼の鳥である。片方しか翼の無い鳥は、遠くの相手まで飛んでいく事はもちろん出来ない。仕方が無いから地面を走るが、辿り着けるのは精々近くの道具屋くらいだ。だが、その道具屋にさえ着けば手紙は伴侶を得る事が出来る。二羽の片翼の手紙は合わせて一羽となり、どんな遠くの相手の元へも飛んでいく事が出来るだろう。
「次の次の宴会は来週の今日だったね。早速だが、店に戻ったら君達の手紙のために差出箱を用意しておこう」
外の世界では、手紙が自力で相手の元に辿り着けないことから郵便というシステムが作られた。そうして、手紙は多くの人の手を借りて遠くの相手まで運ばれている。それに比べると、僕の考えた方式のなんと効率の良いことか。本来の力を引き出してやれば、手紙はほとんど誰の手も煩わせることなく相手へ届くのだ。
――カランカラン
「今度の宴会は四日後に決まったわ」
いつものように、霊夢は淡々と宴会の予定を告げる。
「どうせ騒がしいと思うけど、霖之助さんもたまには出てみたら良いんじゃないの。あとポスト」
「うん?ああ、ここにあるよ」
香霖堂にポストを設置してから一月が経った。あれから二人は、十日に一度くらいの割合で手紙を出し合い、宴会の予定などを伝えている。最初は抵抗があったようだが、手紙の力は偉大なもので、初めの一往復で二人は関係良好な知り合いになっていた。それと、手紙を確かめに、あの鳥の妖怪少女がしばしば来店するようになってもいる。まだまだお得意様とはいかないが、それでも商品に興味は持ってもらえてきたようだ。もうあと一押しすれば、香霖堂に新しい上客が誕生するだろう。
ちなみに、設置したと言ったがポストは二人が来た時だけ出すようにしている。霊夢は何とも思っていないらしいのだが、妖怪の少女の方が他人に見られるのを嫌がったのだ。別に封さえしておけば、誰も開けようとは思わないのだが。
霊夢は箱の中を確認すると、一枚の紙を無造作に入れた。多分また、次の宴会の知らせだろう。
「こんな時期だから宴会は屋根の下でやることにしたの。ちょっと狭くなるけど、仕方ないわよね。だから今度は雨天決行よ。それじゃあよろしくー」
「扉はちゃんと閉めていってくれよ」
いつものように、霊夢は一方的に言うだけ言って出て行った。
それにしても、雨天決行とは。
僕は扉越しに、灰色に垂れ込めた低い空を見た。
天気の良さを測りたければ、空の高さを測れば良い。同じように、僕は自分にとっての世界の広さというのも、測れる概念に変換出来ると考えている。その方法は、世界に友人がどれだけいるかを数えるというものだ。
自分の友人を一番近い友人、友人の友人を二番目に近い友人、さらに友人の友人の友人を……と数えていくと、やがて世界は自分の何段階目かまでの友人で満たされる。そうなった時、この段階の数は自分にとっての世界の広さを表すことになるだろう。だから実は、手紙のように友人を増やすことの出来る通信手段は、世界を狭くする道具でもある。
今回の二人は、互いに手紙を出しあう事で少しだけ世界を狭くした。これは一見偏狭なようだが、実はとても大切な事だ。
自分にとっての世界というのは、自分が知っている世界と言い換えることが出来る。という事は、その外側に、目指すべき未知が広がっているのだ。未知を求める心には確固たる土台が必要であり、それは既知の世界を狭く、濃密にすることで作られていく。
だから、二人には僕も少し刺激を受けた。まだ知らぬ外の世界に手を伸ばすためにも、幻想郷の知識欲と物欲に適う店を作っていくためにも、多少の努力は必要だ。
僕は日付を数えて、四日後の予定が空いていることを確認した。なぜなら、宴会もまた、世界を狭く濃密にする道具の一つだからである。
外の世界の文献によると、今日のような青色は上空の最も高い場所で生まれるという。しかし、この青がそのまま地上に届く事は無い。青よりも低い場所では白が生まれており、その白が青と混ざってしまうからだ。また、更にその下、雲が在る層では光は雲に遮られる。その結果、地上に届く色は白く濁った青になったり、雲の灰色になったりする。とりわけ雨の日なら、最も低い層で生まれる黒雲の色が空の色となるだろう。
ちなみに、そんな新しい科学に頼らずとも人間は昔からこの事実を知っていたと考えられる証拠が有る。それが、「空が高い」という言葉だ。古人は青空を高い空と呼び、対極の雨空を低い空と呼んだ。こうすることで、天気という曖昧な現象を高さという測れる概念に変換したのだ。
これらのことから、晴天で広がっているのは、あくまで物理的な視界に過ぎないことが判る。現象レベルで広い範囲が見渡せることと、知識レベルで数多の事象が見通せることはまったく別なので、はじめに挙げた感覚は一種の錯覚に近い。これはいわば晴天の誘惑であり、妖精や子供がはしゃぐのは誘惑に抗しきれないからなのだ。
これに対して、大人は皆自分なりの対策を持っているものである。仕事に打ち込む者、地下に籠る者、昼間は起きない者。僕の場合は、本を読む事が、自分の世界を散漫にしないための秘訣だった。
僕は座っている岩を気にしながらページをめくった。
実は今、僕は店の外に居る。買い物で人里まで行った帰り道、あまりに天気が良かったので、ここで本を読み、自分を守ることにしたのだ。
辺りは農地なので、顔を上げれば自然と田圃や畑が目に入った。折しも、朱鷺の群れが田圃に舞い降りたところだ。長閑な景色に包まれて、読書が進む。
「あら、霖之助さんじゃない。珍しい事もあったもんね」
「珍しい事?」
別に珍しい事はしていない。晴れているから、灯りをつけずに本を読んでいるだけである。
誰の声かは判っていたので、僕は本を読んでいる姿勢のままで返事をした。
「珍しいわよ、霖之助さんがこんな道端に座ってるんだもの。ま、本を読みっぱなしでこっちを向きもしないのはいつもの事だけどね。
それにしても、こんな天気の良い日に読書なんて何か損だとは思わないの?」
やっぱりな。要するに、彼女は今の光景を珍しがりたいのではなく、もっと世界を広く使えと主張したいだけなのだ。しかも、その主張はあまり正しくない。
「晴天で広く感じるのは所詮見かけの世界に過ぎない。自分にとっての世界を広げるのは、天候を操る誰かではなくて、未知を求める好奇心だよ。それが判っていないようじゃあ、霊夢はやっぱりまだ子供だね」
「ちょっとちょっと。何だか判らないけど、いきなり子供呼ばわりは酷いんじゃないの。折角、霖之助さんに明日の宴会のことを知らせてあげようと思ったのに」
振り向くと、一羽の紅白が頬を膨らませていた。
まぁ、それくらいは自分で考えてほしい。相手がどうしてそう言っているのか考える事は、どんな場合でも重要だ。それと、宴会の知らせというのはたまたまに違いない。初めから僕に伝えるつもりなら、まず店の方に来るだろう。自分で「珍しい」とも言っていたし。
僕は、なんとなく空が陰るのを感じながら、いつものように返事をした。
「騒々しい宴会なら僕は行かないよ。いつも言ってることだが」
宴会の題目が何であっても、神社では騒がしくならないなんてことは考えられない。
だから、今回も僕は顔を出さないつもりでいる。別に僕一人居なかったところで、大勢に影響するわけでもない。
「まぁ、そう言うと思ったけど。でもね、一応よ一応。明日のは私が主催になってるみたいだし。
それと一週間後の今日にも宴会があるから、そっちの方も考えておいてね」
「そうかい。それじゃあ明日もその次も、君達だけで楽しんでくれるといい、って、何だあの影は」
「こらー!そこの紅白ー!!本の仇ー」
ドシン――
鈍い衝撃によって、僕は道に転がされていた。幸いなことに痛みは少ない。咄嗟に本を抱えたのが良かったのか、上手く受け身をとれたようだ。問題があるとすれば……喧しいのが二羽になってしまったことか。
「あれれー……大丈夫?」
「こら!大丈夫も何も、あんたがぶつかったんでしょうが!霖之助さんに謝んなさい」
「え?ちょ、ちょっと待ってよ元はと言えばあんたが避」
「黙って頭を下げる!」
「うあーもう、ご、ごめんなさい!……?」
起き上がって二人のやりとりを眺める。一人はもちろん霊夢だが、もう一人は妖怪だ。大部分が黒と青で、袖だけが白い服を着ている。背中と頭には紅い羽のようなものが見えるから、多分鳥の妖怪だろう。僕におざなりに頭を下げた後、その少女は霊夢の方に向き直って叫んだ。
「それで紅白の!私の本は今どこに在るの!持ってたらこの場で返しなさい!」
「何よそれ。私、あんたから本を借りたことなんて無いわよ?」
そういえば、こんな妖怪少女が店に来た事も有った気がする。ちょっと前の出来事なので忘れていたが、やはり、この少女は忘れていなかったか。
「借りたどころか強奪だったじゃないの!とぼけて誤魔化そうったって、私は覚えてるんだからね!」
「うーん、そう言われてもねぇ……。あ、あぁ思い出した。そんなことも有ったかもしれないわ。それにしても、そんなどうでも良い事よく覚えてたわね」
「どうでも良くないの!!」
漸く思い出したらしい霊夢に妖怪の少女が食ってかかる。その様子を見ながら、僕はこの少女が鳥の妖怪であることを確信した。
一般に鳥は物覚えの悪い生き物だと思われているが、本当は鳥ほど物を忘れない生き物もいない。そうでなければ、どうして伝書鳩が役に立ったり、渡り鳥が目的地に着いたり出来るだろうか。
「ふうん。でも、悪いけど私を問い詰めても何も出ないわ。前にも言ったけど、あの本はとっくの昔に私の物じゃなくなってるもの。まあ、そこの霖之助さんに聞けば本の在り処ぐらいは判るかもしれないけど」
「何!?」
ちょっと待ってほしい。確かに僕はあの三冊の本から興味深い考察を得、シリーズものの本が完結するという珍しい体験もした。内容には良く判らないところもあったが、貴重な本だったから十五冊をまとめて保管しようと決めた気もする。日光で焼けたり、湿気で黴びたりすることのないよう、気をつけて保管しようと決めた気もする。だけど……今あれはどこに仕舞ってあったっけ?
僕は鳥ではないので、本の在り処を尋問されてもすぐには答えられそうになかった。
「本!私の本は今どこにあるの!」
しかし、案の定少女は矛先を僕に向けてくる。まったく、霊夢の誘導通りだ。そして、ここで「忘れた」などと言ったら、今度は体当たりじゃ済まないんだろう。こんなとき、荒事の出来ない僕には怒りを受け流すほか道が無い。
というか、そもそも僕に責められるいわれは無いんじゃないか。本は正当な対価を払って買い取った事になっているし、僕自身は本を有効に利用したつもりだ。店内で大切に保管してあるから傷む事も無いし、まったく悪いことをしていない。なんとなれば、またいつだって読むことも出来るのだ。仕舞った場所を思い出せれば、の話だが。
僕はなんとかして、少女の追及をかわす方法を考えた。
「君の言う本というのは、あの、外の世界の式神について書かれたもののことかい?あれなら僕の店にあるが、生憎店は今改装前でね。すぐに取り出すことは出来ないんだ」
「あら、意外と正直なのね」
霊夢にフォローされるまでもないことだが、僕は嘘はついていない。ただし改装するのは多分ずっと後だし、取り出しても返すつもりは無いのだが。
「それで?」
「うん、とりあえずこれから店に戻って準備をするから、どんな具合かは明日の神社の宴会で霊夢に聞いてみてくれ。そうすればすぐに読めるか、もう少し時間がかかるかは判ると思うよ」
「「え?」」
さっきよりも見開かれた霊夢の目が、「押しつけたな」と言外に言っている。それと妖怪の少女のほうだが、なぜかこちらも驚いたような顔だ。
「明日宴会なんて、私聞いてないわよ」
「そりゃ教えていないもの。当然でしょ」
「どうして教えてくれないのよ!そんなに私のことが嫌い?!」
「教えるも何も、私はあんたの巣なんて知らないし、あんたも神社には来ないでしょ。来ても退治するけど」
いつものことだが、霊夢は妖怪に厳しい。そこまで言わなくても、と思う事もはっきり言い切るし、刃向う妖怪がいれば問答無用で退治してしまう。それでも妖怪が神社を離れないのは流石といったところだが……いくらなんでも今回はちょっと冷たすぎるんじゃないだろうか。僕としても目の前でいがみ合われるのは良い気はしないし、と思ったところで、ついに妙案を考え付いた。これなら、二人の仲は間違い無く改善される。しかも、素晴らしいことに香霖堂の客も増えるかもしれない。僕は暫く二人の様子を見て、ここぞというタイミングで切りだした。
「さて二人とも、仲違いは構わないけれど、そんなことをしても誰も幸福にならないことは判っているだろうね?」
「「何よ」」
そんな風に睨まれても困るのだが。
「喧嘩しても誰も得をしないだろう、と言ってるんだよ。つまらないことでいがみ合うより、仲の良い知り合いになった方がずっと有益じゃないか。そこでなんだが、君達に、鳥と人の間を結ぶ最も良い方法を教えてあげようと思う」
有益なのは僕にとってもだが、これは口には出さない。
僕は二人をさっきの岩に座らせ、懐から適当な紙を取り出して見せた。
「鳥と人を結ぶ最良の方法、というのはこれだよ。君達二人は、お互いに手紙を書くと良い」
「「嫌よ、めんどくさい」」
二人とも、予想通りの反応だった。それにしても、二人の息は妙に合っている。まるでこうなることは打ち合わせ済みで、僕だけが振りまわされているみたいだ。
「大体、妖怪に字が書けるのかしら?ゴシップ記者の天狗ならともかく」
「書けるわよ!そりゃあ字の書けない妖怪も中にはいるけど、少なくとも私は野蛮な巫女より文化的だわ」
とはいえ、少しでも放っておくとこうなる。僕は気を引き締めて、いかに手紙を書く事が重要であるか、説明を始めた。
「いいかい、これは二人が話し合いでなんとかしようとしたって駄目な話なんだよ。鳥と人の仲を取り持つには、紙に書かれた文字が必要なのさ」
なぜなら、そこには鳥と人と文字の数千年にわたる関係があるからだ。
「人間が最初の文字を考えた時に何を手本にしたか。霊夢は想像した事が有るかい」
「無いわ。だって、私は最初の文字を知らないもの」
「まぁそうだろうね。実は最初の文字というのは、鳥の足跡にとてもよく似ていたんだ。しかもそれは形だけじゃない。記録する方式までそっくりだったんだよ。さっきまでそこの田圃に朱鷺がいたから、見に行けばすぐに判るんだけど、鳥の足跡というのは水底の粘土に残るだろう?それと同じで、最初の文字も粘土に跡を残すことで記録されていたのさ。人間が鳥の足跡を見て文字を開発したことは、ほぼ間違いないと思うね」
「ふうん。でも、それってすごく大昔の話でしょう?そんな昔の事、今更蒸し返す必要は無いと思うけど」
「いや、足跡が文字の原型になった後も、文字と鳥の関係は続いたんだ。西に広がった文明では鵞鳥の羽根を使った筆記用具が生まれたし、東で栄えた文明では雁が書状を届ける使者になった。伝書鳩という例もある。鳥は、文字の雛型を作っただけでなく、文字を世界中に広める役目も果たしたんだ。それと、特に霊夢。君のような神社を運営する人間が知っておくべき歌にも、鳥と文字の関係が詠われているよ」
「えーと、そんな歌あったっけ」
「『薄墨に かく玉づさと見ゆるかな 霞める空にかへる雁がね』。この歌は空を飛ぶ雁を玉づさ、つまり手紙の文字に見立てている。さっきも言ったように、雁は昔から手紙を運ぶと言われているから、二重の意味で手紙と縁が深いことになるね」
「そんな歌、定家の百首にも選ばれてないんでしょ。知らないわよそれじゃあ。
あんたは知ってる?」
「知ってるわけないわ」
「あのねぇ」
幻想郷なら、その辺りの事情に詳しい人妖が何人もいる。目の前の巫女も鳥も、もう少し周囲の文化人を見習った方が良い。
「この歌の作者は、住吉三神を祀っている神社の神主だったんだけど、彼は神社の経営をとても上手くやって位を貰うほどの人物だったんだ。普段お賽銭が少ないと嘆いている霊夢にはぴったりじゃないか」
「……それはまぁ、そうね。この間月に行った時には住吉さんにもお世話になったし、覚えておこうかしら」
割と現金な巫女である。だが、神社の経営に成功したという事は、多くの信仰を集めて神の力を高めたという事だから、それに倣うのは間違っていない。
「それと、鳥という字は『チョウ』とも読み、これは兆しの事でもある。その兆しに何を感じるかは君達次第だけれど、少なくとも凶兆よりは瑞兆の方が良いだろう?」
「そりゃそうよ」
「凶鳥よりは、瑞鳥の方がいいなぁ」
「そうだろう。だから君達は、いさかいをやめるために手紙を書くべきなんだ」
「うーん。でも私はこいつの家を知らないし、こいつだってきっと手紙を渡しに神社にのこのこやって来たりしないわよ。来ても退治するし」
「こんな暴れ巫女の神社に手紙なんか持ってかないわ」
「まあまあ」
まったく、どうにも世話が焼ける奴らだ。これだけ言っても、しばらく二人きりにしておけばまた喧嘩になるんだろう。
だが、そこに僕の付け入る隙が有る。
「僕は別に、お互いの家まで手紙を持って行けとは言っていないよ。誰かに届けさせろとも言っていない。手紙というのは、二人が共通して知っている場所に置いておけば、そのうち必ず相手に届くものだからね」
この二人が共通して知っている、神社以外の場所と言えば、
「香霖堂に手紙を置けって言うの?霖之助さんに限ってそんなことは無いと思うけど、まさか勝手に読むつもりじゃないでしょうね」
「そんなことはしないさ。それに、霊夢はしょっちゅう来てるんだから手間にはならないだろう」
別に霊夢の来店を期待しているわけではない。どうせ来たところで商品を買っていかないし、それどころか勝手に持っていくことだってよくあるからだ。
期待しているのはむしろ妖怪の少女の方である。本を大切にしているのは知識欲と物欲が人並みに有る証だし、この二欲に関して香霖堂はうってつけの店だ。だからここで上手く誘導して、定期的に店を訪れるようにさせる。そうなれば、後は店の商品の魅力を少しづつ伝えていくだけで良い。
我ながら名案じゃないか。今日の僕の思考は、まさしくこの空のように澄み渡っていると言えた。
そもそも、手紙とは往信と返信があって初めて完成し、大きな力を持つ事ができるものだ。資料として後世に残るのも、思い出として当人に残るのも、そうやって完成した手紙が多い。だから、そんな手紙を一羽の鳥とすれば、往信だけの手紙はいわば片翼の鳥である。片方しか翼の無い鳥は、遠くの相手まで飛んでいく事はもちろん出来ない。仕方が無いから地面を走るが、辿り着けるのは精々近くの道具屋くらいだ。だが、その道具屋にさえ着けば手紙は伴侶を得る事が出来る。二羽の片翼の手紙は合わせて一羽となり、どんな遠くの相手の元へも飛んでいく事が出来るだろう。
「次の次の宴会は来週の今日だったね。早速だが、店に戻ったら君達の手紙のために差出箱を用意しておこう」
外の世界では、手紙が自力で相手の元に辿り着けないことから郵便というシステムが作られた。そうして、手紙は多くの人の手を借りて遠くの相手まで運ばれている。それに比べると、僕の考えた方式のなんと効率の良いことか。本来の力を引き出してやれば、手紙はほとんど誰の手も煩わせることなく相手へ届くのだ。
――カランカラン
「今度の宴会は四日後に決まったわ」
いつものように、霊夢は淡々と宴会の予定を告げる。
「どうせ騒がしいと思うけど、霖之助さんもたまには出てみたら良いんじゃないの。あとポスト」
「うん?ああ、ここにあるよ」
香霖堂にポストを設置してから一月が経った。あれから二人は、十日に一度くらいの割合で手紙を出し合い、宴会の予定などを伝えている。最初は抵抗があったようだが、手紙の力は偉大なもので、初めの一往復で二人は関係良好な知り合いになっていた。それと、手紙を確かめに、あの鳥の妖怪少女がしばしば来店するようになってもいる。まだまだお得意様とはいかないが、それでも商品に興味は持ってもらえてきたようだ。もうあと一押しすれば、香霖堂に新しい上客が誕生するだろう。
ちなみに、設置したと言ったがポストは二人が来た時だけ出すようにしている。霊夢は何とも思っていないらしいのだが、妖怪の少女の方が他人に見られるのを嫌がったのだ。別に封さえしておけば、誰も開けようとは思わないのだが。
霊夢は箱の中を確認すると、一枚の紙を無造作に入れた。多分また、次の宴会の知らせだろう。
「こんな時期だから宴会は屋根の下でやることにしたの。ちょっと狭くなるけど、仕方ないわよね。だから今度は雨天決行よ。それじゃあよろしくー」
「扉はちゃんと閉めていってくれよ」
いつものように、霊夢は一方的に言うだけ言って出て行った。
それにしても、雨天決行とは。
僕は扉越しに、灰色に垂れ込めた低い空を見た。
天気の良さを測りたければ、空の高さを測れば良い。同じように、僕は自分にとっての世界の広さというのも、測れる概念に変換出来ると考えている。その方法は、世界に友人がどれだけいるかを数えるというものだ。
自分の友人を一番近い友人、友人の友人を二番目に近い友人、さらに友人の友人の友人を……と数えていくと、やがて世界は自分の何段階目かまでの友人で満たされる。そうなった時、この段階の数は自分にとっての世界の広さを表すことになるだろう。だから実は、手紙のように友人を増やすことの出来る通信手段は、世界を狭くする道具でもある。
今回の二人は、互いに手紙を出しあう事で少しだけ世界を狭くした。これは一見偏狭なようだが、実はとても大切な事だ。
自分にとっての世界というのは、自分が知っている世界と言い換えることが出来る。という事は、その外側に、目指すべき未知が広がっているのだ。未知を求める心には確固たる土台が必要であり、それは既知の世界を狭く、濃密にすることで作られていく。
だから、二人には僕も少し刺激を受けた。まだ知らぬ外の世界に手を伸ばすためにも、幻想郷の知識欲と物欲に適う店を作っていくためにも、多少の努力は必要だ。
僕は日付を数えて、四日後の予定が空いていることを確認した。なぜなら、宴会もまた、世界を狭く濃密にする道具の一つだからである。
実にナイスな霖之助さんでした。いつもこうなら少しは繁盛するのにw
同人小説として出されたら購入したいレベルですね
それと別に昔から空を見てこの空は高いな、低いなと感じていたのですが
昔京都で「ここの空は高くて綺麗だ」と言うと
友達に怪訝な顔をされまして、
あまり読書はしないので
自分だけの奇天烈な考えじゃなかったとここで初めて知りました
良かったです
いいね、大人だね
もっと評価されろー