※この作品には稚拙な文章と盛り上がりの少ない日常描写で作られています。
「幻想郷は全てを受け入れる」という方だけ閲覧することをおすすめします。
古き良き日本や中世ヨーロッパ、はたまた近代的な風景さえもが奇妙なバランスで取り込まれている街、幻想郷。
そんな幻想郷の紅魔館通りの人通りが少ない裏路地で、ひっそりと居を構えている店があった。
店の名前は、喫茶「十六夜」。店主の十六夜咲夜が一人で切り盛りしているのだが、そうとは思えないような速さと正確さでサービスをしてくれる、知る人ぞ知る名店である。
そんな彼女の元に、今日もまたお客が訪れる。
「いらっしゃいませ、喫茶『十六夜』へようこそ」
これは、そんな彼女とそのお客さん達のちょっとしたお話である。
午後3時、世間一般ではオヤツ時である。表通りの有名店には暇を持て余した主婦や売れない漫画家等が集まって賑わっているが、こちらには客が一人も来て居ない。
通常の経営者なら集客の悪さに頭を抱えるところだが、彼女はそんな事は微塵も気にせず、黙々とカップを拭いていた。
青を基調としたメイド服、ヘッドドレスを装備した完璧なメイド姿で、目の前の仕事を黙々とこなしたいた。
と、そんな静寂に包まれた店内に、カランカランとカウベルの音が響き渡った。
「相変わらず、この店は何時来ても貸切状態ね」
「あら、いらっしゃい」
店主、十六夜咲夜はカップを磨くのを止めて来客の対応を始めた。
来客は会話から分かる通り、店主の知り合いで常連客である。
彼女の名前は博麗霊夢、幻想郷の端っこに住んでいる巫女さんである。普段はダラけて仕事をしているが、いざという時は普段からは想像もできないような真剣さで取り組み、皆から一目置かれるほどの実力者となっている。
もっとも、これは人伝に聞いた話であるため、咲夜に事の真偽はわからない。そもそも、彼女には巫女の仕事自体がわかっていないのだが。本当にこの巫女は仕事と呼べる事をしているのか?と咲夜は疑問に思い始めた。
「それで、今日はどうするの?」
「何時も通りで」
何時までもこんな事を考えていても仕方が無いと切り替え、注文を促す。霊夢は気怠そうにカウンターの席に座り、注文をした。
彼女はこのお店に来ると、殆ど同じメニューを注文する。このお店で「いつもの」が通じる唯一のお客だ。
メニューは『和菓子セット』という名前で、店主がその日の気分で選んだ日本茶と和菓子のセット、よくある平凡なメニューだ。
にも関わらず、彼女は毎度このセットを注文する。その理由としては、他の洋式被れの喫茶店では頼めないこと、毎回組合せを変えているので飽きが来ないこと、いちいちメニューを開いて選ばなくてもいいこと等がある。彼女らしいと言えば彼女らしい理由である。
「はい、お待たせ」
霊夢の前に置かれたいつものメニュー、今日は柏餅に緑茶の組合せだった。そういえば端午の節句があったなあとか、この年で子孫繁栄を祈るのはどうなのだろうか、などと関係の無いことを考えながら、霊夢は柏餅に手を付けた。
美味しい。素直にそう思う。
餅に使われている餡は漉し餡であったがあっさりとして食べやすい、スーパーなんかで売っている安い和菓子と違って、喉に残るようなことはない。味の方は少し甘目の味付けで、疲れた体に心地良い。また、柏の匂いと風味がいいアクセントとなって、美味しさを増している。
セットの緑茶は少し濃い目に淹れられており、その渋味が餡の強めの甘みとマッチして体に染みこみ、一つ二つと手が進んでいき、あっと言う間食べ終わった。
「お粗末さま」
そう言って、咲夜は空いた湯呑みに新しくお茶を淹れた。こうした何気ない気配りがしっかりとしているところも、霊夢が気に入っている点である。美味しいお菓子と美味しいお茶、そしてせかせかしない過ごしやすい雰囲気。こういった雰囲気が好きで、霊夢は何度もこのお店に通っている。
「それで、最近どうなの?」
「どうって、何が?」
「巫女のお仕事よ」
「どうって言われてもね……」
食事が終わった後に取り留め無い世間話が始まる。咲夜は先程気になった巫女の仕事について気になって聞いてみたのだが、霊夢は何故かどもって上手く答えられずにいた。
「どうかしたの?もしかして何かあったの?」
「あー、んー、あったといえばあったのかな?」
何か問題が起きてしまったのかと思い、心配になってさらに突っ込んで聞いてみた。霊夢は変わらず、少し目を泳がせながら言葉を探しているようだった。
あれやこれやと言葉を探していた霊夢だが、目の前の咲夜が真剣な目をしているのを見て諦めがついたのか、嘆息して口を開いた。
「実は……」
「やっぱりここだったのね、霊夢」
「げぇ!」
霊夢が話そうとした瞬間、店のカウベルが鳴り響き、見慣れた顔がドアを開けた体制のままこちらを睨んでいた。
彼女は八雲紫。この幻想郷の中で偉い部類に入る者で、霊夢が住む神社の間接的な管理人、そして霊夢の保護者代理である。
「貴方また巫女の仕事を途中でほっぽり投げて、橙が困っていたわよ。霊夢さんが目を離すと直ぐにいなくなっちゃうー、って」
どうやら霊夢は持ち前のグータラさを発揮して、仕事を途中で抜けだしてここにサボリに着たらしい。どもっていたのはどうやらそういう理由だったようだ。
霊夢の方を見ると、紫を睨み返しながらむむむと唸っていた。何がむむむだ。
「だってめんどくさいじゃないの、あんなに大量のお札を作ったり神社全域の掃除をしたり。まだ奉納の舞や大祓詞の暗唱をしてたほうが楽だわ」
「奉納の舞を前日まで全く練習せず、大祓詞は途中で面倒がって適当になってた子が何を言ってるのよ」
「だって踊るの疲れるじゃない!あんな長いの最後まで真面目に読みきれる訳ないじゃない!」
「ああ言えばこう言う……さっさと戻るわよ!」
しばらくはぎゃーてーと口論が続いていたが、その内霊夢が劣勢となり、圧倒され、陥落して紫に引きずられるハメとなった。
「いーやーだー、やりたくないお茶飲みたい楽したい遊びたい酒飲みたいー」
「この煩悩巫女が……剥き出しにするのは腋だけにしておきなさい!」
ズルズルと引きずられながらも愚痴る霊夢にイラつきながら紫は進む。ハタからみると、駄目な子供とそれを叱っている母親にしか見えない光景だった。
「……待ちなさい」
ふと訪れた突然の呼びかけに驚き、前を見る二人。いつの間にかカウンターの向こうからこちらに移動した咲夜が、紫を邪魔する様に入口の前で腕を組んで立っていた。
霊夢は助けが来たと喜びに満ちた表情を浮かべ、紫は一瞬驚いたが、直ぐに何時もの不敵な笑みを浮かべた。
「あら、何か御用かしらお嬢さん?」
「申し訳ないけれど、今霊夢を連れていかれては困るのよ」
「へぇ……それはどうしてかしらね?」
咲夜を睨みながら、一歩近付く紫。それを意に介さず、腕を組んだまま動かない咲夜。速く楽になりたいと咲夜の助けを願う霊夢。
一歩、また一歩と距離を詰めていき、二人。紫は霊夢を引きずりながら、咲夜は変わらず腕を組んだまま、視線をそらさず間合いを詰めていく。
緊張感が場を支配し、ピリピリとした空気が広がっていく。そうして互いの間合いに入った時、咲夜が動いた。
紫は咲夜の一挙手一投足に気を配り、霊夢を引きずる手を離さぬようにと力を込めた。霊夢は今後の展開が自分の良いように運ぶように願いながら、事の成り行きを真剣に見つめた。
そして咲夜は組んでいた腕を解いて前に出し、口を動かした。
「和菓子セットのお代、まだ払ってもらってないんだけど」
二人はズッコケた。
「ありがとうございました」
支払いを済ませて店から出る二人を、咲夜は笑顔で見送った。
ズッコケた後、紫の隙を見て逃げ出そうとした霊夢を、咲夜は笑顔で捕獲。それを確認した紫に更にこっぴどく叱られることになった。
霊夢は涙目で恨む様に睨みつけたが、咲夜はどこ吹く風と言った感じで淡々と支払いを済ませ、その身柄を紫に預けて見送った。
紫は去り際に「迷惑をかけたわね、今度なにかお詫びをさせてもらうわ」と朗らかな笑顔を浮かべ、即座に修羅の如き顔に戻し、霊夢をひきずりながら帰っていった。
「さて、と」
二人がいなくなり、再び静かとなった店内に一人残された咲夜は、壁にかけてある時計を見て時刻を確認した。
既に夕刻にさしかかっており、外は傾いた陽の光で橙色に染められていた。道行く学生や労働者は帰路につき、主婦の方々はおゆはんの準備にとりかかり、それを狙った店員が客寄せで声を張り上げていた。
この時間になると、もうこのお店にお客が来ることは殆ど無い。おゆはんを食べに来るお客や酒を飲みに来るお客はいないわけではないが、それも殆ど稀である。
今日はもうお客が来ないと当たりを付けた咲夜は、店内の掃除を始めた。霊夢を始め、知人は皆掃除が苦手で嫌々とやる人が多いらしいが、咲夜は掃除が好きな分類だったので、毎日掃除を楽しんでやっていた。
埃が残らないように丁寧に、やり残しが無いように隅々まで掃除をしているため、店の中は何時も清潔だった。
「よし、今日も綺麗ね」
掃除を満足出来るまでやり終え、店内の装飾品や備蓄の確認を行った。特に問題となる点はなかったが、花瓶に活けてある華が少し萎んで来ていた。速いうちに花屋に新しい花を頼もう、忘れぬようにとメモを残しておき、今日の売上を計算し始めた。
「今日の来店は……それでこうだから……うん、こんな感じか」
万年筆を取り出し、紙に計算結果を書いて売上を求める。生憎と来店者が少ないために、それに比例して一日の売上金も少ない。だが、彼女はそれについて頭を悩ませること無く、楽しそうに今日一日を振り返りながら計算をした。
結果としては、今日は何時も以上に少なかったのだが、それでも彼女は笑顔を浮かべ、明日に備えて体を休めることにした。
幻想郷でもその店の存在を知る者が少ない、隠れた名店。今日もそこで彼女はお客さんを待っている。
「いらっしゃいませ、喫茶『十六夜』にようこそ」
誰が来ようと、彼女は何時も笑顔で迎えてくれる。
こんな喫茶店に行ってみたいなぁ
誤字や細かい言い回しが気になるといった部分は依然ありますけれど、前に比べて随分良くなっていると思います。
(誤字に関する詳細は後述しております)
文面から伝わってくる喫茶店の空気感が心地よかったです。
何気ない日常の風景を描くのを得意とされている作家さんという印象を受けました。
特に、現代と入り混じったような一風変わった幻想郷の風景には興味を惹かれました。
この咲夜さんには家族は居るのか?
他の紅魔館の面々はどこで何をしているのか?
などなど、読んでいて次々と疑問が沸きました。
今回は物語の起承転結を以前よりも意識されたのかな?
話がまとまっていたのでその点は評価したいです。
しかしながら、個人的にはちょっとオチが弱かったと感じたのが残念です。
次回はもう少し長い物語を読んでみたいです。
私も偉そうなことを言えるような立場じゃ無いのですが、微力ながら力添えができればと思い、いくつかアドバイスさせて頂きました。
次回作も期待しています。がんばってください。
誤字報告
>むむむとうねっていた
うねうねしてたんですね。それはそれで面白そうだけど。
>霊夢をひきずりなが帰っていった
ひきずりながら
気になった個所
>暇を持て余した主婦や漫画家
たとえとして主婦は分るのですが、私のイメージではプロの漫画家さんって〆切りに追われてなんだか忙しそうなんですよね。
ですから無難に「売れない漫画家」とでもした方がしっくりくると思います。
>しばらくはぎゃーてーと口論が続いていたが
「ぎゃーぎゃー」と響子ちゃんの「ぎゃーてー」をかけたんでしょうけど、ギャグとしての言葉遊びとしてなら理解出来ます。
しかし単に、意味を誤解して使用しているだけにも思えてしまったので微妙にひっかかりました。
>二人はズッコケた。
この一文は削って紫と霊夢の反応を読者に想像させた方が良かった気がします。
チープな表現で逆に面白みが削がれてしまった印象です。
とても勿体ないなと感じたのであえて指摘させて頂きました。