―――その日は満月だった。
「よし。全員集ったな。じゃあ、始めるぞ」
その夜、彼女たちは怪談話を披露しあうことになっていた。
と言っても集ったのは4.5人と1.5妖怪。そんなに大した物ではない。
きっかけはいつもの魔法使い。
「今夜は暑くなりそうだな。よし。怪談をやろう」
……そんなものである。
博麗神社に集ったのは、風祝、メイド、庭師、人形遣い、巫女。
この中で、一人一つ話をするのである。
「で?一番乗りは誰だ?」
「……では、私が」
真っ先に手を挙げたのは風祝だった。
「みんな、異存はないな」
「いいわ」「どうぞ」「楽しみね」「早く帰りたい……」
どうやら、異議も無いようなので、彼女は語り始めることにした。
「これからお話しするのは、外の世界のお話。
そのままではわかりにくいと思うので、皆さんにもわかりやすいように改変を加えています。
もし原文が読みたかったら、紅い館の図書館にあるはずです。是非どうぞ。
……前置きはこれぐらいでいいでしょう。では、始めます。『赤い本』……」
―――彼女は、人一倍好奇心旺盛だった。
彼女が聞いた噂は、こんな物だった。
『紅い館の図書館の本を読むと、時たま呪われた栞が挟んである。』
面白いかも知れない。彼女はそう思った。
馬鹿馬鹿しいとも思ったが、こういった物こそが彼女の研究には必要だった。
思い立ったら即行動、がモットーの彼女は早速図書館へ向った。
門番を吹飛ばし、メイドを蹴散らし、彼女は図書館へとたどり着いた。
「……何の用なの?」
彼女はこの図書館の主である。仮にPさんとしよう。
「いや、ちょっと、な。別に借りにきた訳じゃないぜ」
「……怪しい」
「何もしないって!いや本当に!」
「……いいわ。好きな本を読んでなさい」
そういうと、Pさんは真ん中の机でむきゅっとしながら本を読み始めた。
(さあ、始めるぜ。)
とりあえず彼女は一番怪しい呪詛などを取扱った本をまとめた本棚へと向うことにした。
2時間後
「やっぱりデマだったのかなあ」
このあたりの本棚はあらかた探したがやはりそんな栞は見あたらなかった。
「ふう。これで最後にするか」
そう言いと本を一冊取りだし、おもむろにめくり始めた。
と。
ひらり
一枚の、赤い紙が舞った。
「おお!これだ!」
『それ』は赤い短冊状の紙に、小さなリボンが付いているだけの何の変哲もない栞だった。
ただ、一点を覗いて。
「……? 何か書いてあるな。 『あなたは 好きですか?』?」
それが何を意味しているか、彼女にはさっぱりだった。
ただ、それはとても不気味だった。
「……特に何もないようだし、捨てるか」
……そういうと、彼女は『それ』を破いてゴミ箱に捨てた。
「しかし、この本面白いな。どれどれ」
ぱらり。とページをめくる音。
……そこには真っ赤な栞があった。
「……これが呪いか?」
彼女はとりあえずそれを再び破いた。
それを捨て、再びページをめくった。
すると……
やはり、そこには栞があった。
「うーん、捨てられない、と言うことか? ……ん?」
彼女は気づいた。その栞の……
「……文字が、増えてる?」
そう。それにはこう書いてあったのだ。
「『あなたは赤 好きですか』……面白い。片っ端から捨てたらどうなるのかな?」
めくって。破いて。捨てて。めくって。破いて。捨てて。めくって。破いて。捨てて。
「……『あなたは赤い 好きですか』 か。……何だか気味が悪いぜ。もうやめ……?」
その時だった。
彼女は、気付いた。本が、勝手に、めくれている。
ぱらり。
ぱらり。ぱらり。ぱらり。
ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。
ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。ぱらり。
本がめくれるのが止ったとき。
そこには、こう書いてあった。
『あなたは赤い本のことが 好きですか』
……しばらくして。
彼女が戻ってこないことに気付いたPさんは驚愕しました。
彼女は、死んでいました。
まるで鋭利な刃物で切り裂かれたように、血を流して。
そして。
手に持っている本は血で『赤く』染まっていました
「……以上です。どうでしたか?楽しんでいただけましたか?」
「面白かったわ。あなた、やるじゃない」
「そう言ってもらえると光栄です」
「……何だか悪意を感じるぜ」
「えー?気のせいですよー」
「(ガクガクブルブル)」
「いい感じに怖かったわ」「今度図書館行ってみようかしら」
「あ、元は『赤い部屋』と言うお話ですよー。かなり改変入ってますが」
どうやら、おおむね好評だったようだ。
「さあ、次は誰が行く?」
「じゃあ、私が」
次に手を挙げたのはメイド長だった―――
その後も宴は順調に進んでいった。
メイド長の『とある館の七不思議』……
紅白巫女の『七人岬』 ……
人形遣いの『市松人形の怪』 ……
そして―――
「ヤメテコナイデヤメテヤメテ」
「さぁ。もう宴は終り。庭師はあんな状態だし、最後は私が」
「いーわよー」「一番いいのを頼むわ」「待ってました!」
「じゃあ、いくぜ……」
―――それは夕暮時の事。
彼は人里へとつながる道を歩いていた。
大方道に迷って帰りが遅れたのだろう。
しかし、そんなことはどうでも良かった。
彼は夕暮時の道を歩いていた。
ざっ ざっ ざっ ざっ ざっ ぺり
「……?」
ふと、彼は何かの気配を感じた。妖怪かも知れない。
いや。きっと気のせいだ。
それにもう人里も近い。妖怪だったとしても無闇に襲いはしないだろう。
そう思った彼は再び歩みを進めた。
ざっ ざっ ざっ ざっ ざっ ぺりり
奇妙な音がした。
何かを無理矢理はがすような。
彼の中に疑惑が芽生え始める。
やはり妖怪か。いや。そんなはず無い。
そうして彼は、再び重い足を持上げた。
ざっ ぺり
やはり、何かが居る。
後ろを見よう。彼はそう思った。
しかし、だ。
こういうときは後ろを向いてはいけない。
本能がそう言っていた。
彼は、走り出す。
だっ だっ だっ だっ だっ だっ だっ だっ だっ だっ……
どれほど走ったろう。もう里は目の前だった。
さすがにもう大丈夫だろう。
振返っても、そこには橙色に染まる夕日と自分の影しかなかった。
……しかし。
彼は違和感を抱いた。
何だろう。あるはずのない物があるかのような……
彼は気付いた。気付いてしまった。
太陽が後ろにあるのに、なぜ影が後ろにあるのか。
そして再び音がした。
ぺり
ぺりり
ぺりぺりぺりり
ぺりぺりぺりぺり
ぺりぺりぺりぺりぺりぺりぺりぺり
影は見る見るうちに地面から離れていった。
すっかり彼と同じ姿になった『影』は、言った。
キ ヅ イ チ ャ ッ タ ネ
「……以上。どうだった?」
「なーんか、微妙……」
「そう?私は良かったと想うけど」「私も私も」
「(気絶)」「オーソドックスね」
皆、思い思いの事を口にしていた。
「……ありがとうな。じゃあ、今夜はこれで終りょ……?」
その時。
玄関から音がした。
コンコン
「あら。誰かしら。もう終りだけど……入っていいわよー」
がらり
戸を開ける音。そこにいたのは……
「遅れたぜ!もう終ってたか?」
魔理沙だった。
「「「「え?」」」」
「どうした?何か付いてるか?」
「まってまって。ちょっとあんた。何で二人……?」
つい今まで魔法使いがいた場所には、誰もいなかった。
「はあ?私はオンリーワンだぜ?」
凍り付く空気。
「じゃあ、さっきまでここにいたのは……!」
「……ひぃっ!」「気味が悪いわ……」「(気絶)」「とりあえず……」
「「「「解散!」」」」
そう言うと、皆蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「おーい。怪談は?」
なんだかわからず立ちつくす魔理沙。
「……まあいいや。帰って寝よ」
そう呟くと、彼女は自分の家へと帰っていった。
翌日。
魔理沙は昨日のことについて霊夢に聞くことにした。
石段を登れば、そこは博麗神社。
魔理沙は叫んだ。
「おーい、霊夢ー」
すると見るからに不機嫌そうに霊夢が現れた。
「何よ」
魔理沙はいきなり本題にはいることにした。前置とかめんどいし。
「いや、何で昨日逃げたんだ?」
すると霊夢は半分怒ったようにしてこう言放った。
「はあ?逃げたのはあんたでしょ?
な ん で 昨 日 来 な か っ た の よ 」
「へ?」
ぺり、と音がした
贅沢ですが、赤い部屋の話がオリジナル(か、よりマイナーな怪談)だったらもっとみすちー肌になれたかと。
いいホラー頂きました!
依存→異存
氷付く→凍り付く
>集ったのは5.5人と1.5妖怪
>博麗神社に集ったのは、風祝、メイド、庭師、人形遣い、巫女
魔理沙をプラスしたとしても一人多くね?
妖夢を0.5ずつに分けて考えるなら4.5人と1.5妖怪だと
これじゃ会場に7人いる事になってるぜ
それはそれで怖いから、わざとなのかも知れんけどw
そう言っていただければなによりです。
>>4様
アドバイスありがとうございます!
そうでしたか、そういった所にまで目がいきませんでした。
>>5様
そうですか、会議がんばってくださいねww
>>8様
やはりそうなりますか。そうですよね。ボリューム不足でしたね。
>>10様
誤字指摘ありがとうございます!
みなさん楽しんでもらえたようでなによりです。
蛇足ですが、どうしても一つ言いたいことが。
霊夢はなぜあんなことを言ったのか。
ヒントは 名前 です
後日魔理沙に文句言ってるのは名前が出てるから霊夢本人
って事だと思うんだが・・・・
だとすると化物連中が魔理沙の登場でパニクッた意味がわからんし、本物の霊夢達はその時間どこで何してたん?って話になってくるし(魔理沙が来てるから本人達も同じ場所に集まる筈だったんだろう)
時間通りに集まったメンバーは恐ろしい目に遭遇→魔理沙だけ遅れたから難を逃れる→後日、霊夢が一人助かった魔理沙に文句
って感じか?
もしくは、最後に登場した霊夢は昨日の化物→化物は役職で呼ばれる筈なのに名前で出てる→本人と入れ替わってる!?
とか
よ、読みが深すぎる!
私の解釈は
『影』は条件を満たさず本体に会うとしばらく消えてしまうので、それが嫌で逃げたのです。
あと場所は守矢神社で行う予定だったのを魔理沙が聞き間違えていただけ。
『逃げた』は魔理沙が来なかったことを『怪談が怖かったから来なかった』と解釈したから。
と言うつもりでしたが、あなたの説の方がいいな…>>