「痩せたい」
「…………は?」
「……………………」
厄神の呟きに、日頃はへらへらしてつかみ所のない鴉天狗もいささか驚く。
ちなみに人形遣いは、気にせず紅茶を飲んでいた。
きっかけはおそらく、とても些細なことだったろう。
だが、そんな些細なことであっても、何が習慣となるかは判らないもので。
ひとりは、自分の家であるからして。
ひとりは、取材の帰り道であるからして。
ひとりは、厄集めの道すがらであるからして。
気がつけば、妖怪ふたりに神様ひとり。
こうしてお茶会など催すようになっていた。
「……そもそも、だけど」
迷いつつ、鴉天狗の一言。だがこれだけは確認しなければなるまい。
「神様って、……太るの?」
「えっ!?」
厄神はまるで「信じられない!」とでも言いたげな表情をする。
「いやだってほら……、雛って神様、でしょ……?」
「……文。神様だから太らない、って誰が決めたの?」
厄神はそう言いつつ、人形遣いお手製のクッキーをぱくり。
この厄神、痩せる気はあるんだろーか、とは口が裂けても言えない鴉天狗だ。
「……あ、えーと。……うん。百歩譲って雛が太るとして」
「譲ってくれなくても太るんだって。お腹周りのお肉を文にあげよっか?」
「いらんて」
「まぁまぁそんな遠慮せず」
「いえいえそんな」
「神様の体を自分のモノにできるんだよ?」
「なにその卑猥な響きは……」
「今なら洗剤も付いてとーってもお得!」
「いらないいらない」
「神様の力を借りてライバルのあの子に差をつけたり!」
「実力で勝負したいし」
「今すぐお申し込みいただければ入会金などの手数料は半額に!」
「何の宣伝だ……」
鴉天狗のため息ひとつ。
「まぁ、そんな訳で痩せたいの」
「はぁ…………」
「で、文ならそういう事知ってないかな、って」
「生憎と、自分じゃ必要なかったしね……。申し訳ないけど」
「駄目だよ~。世の中のニーズにもちゃんと答えないと」
「超局所的なニーズには答えられないの」
「そうやって一人の乙女を不幸にするあやちゃんであった。うるうる」
既に厄神の口調が怪しい。――いやでもいつも通りか。
厄神様のテンションがおかしい(≒可笑しい)のは今に始まったことでもない。
「痩せる……ねぇ……。アリスは何か知ってる?」
とりあえず、厄神の嘘泣きを止めるため、さっきから我関せずを決め込んでいた人形遣いも巻き込んでみる。
「? ダイエットの方法かしら?」
「だい……?」
「痩せるための手段、もしくはその過程のことよ」
「あぁ……」
とりあえず話だけは聞いていたらしい。人形遣いのその先の言葉を促してみる。
「例えば、食事量を抑える、というのは基本中の基本よね。ダイエットの語源も実際はそれだし」
ぴく、と厄神の腕が止まる。手の先にはかなり量の減ったクッキー。
どうやら知らない間にかなり食べていたようだ。
「それから、適度な運動もいいわね。体内の余分な栄養を運動で昇華するのよ」
貴女はしょっちゅう飛び回ってるから痩せてるのね、と人形遣い。
なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれない。いつも食事量が人より多めなのはそのせいか、とひとり納得する。
「というところだけど、雛。貴女本当に痩せたい?」
「あ、あはは……」
何故か乾いた笑いになっている厄神。
そもそも神様なら食事もいらないだろうし、つーかそれ以前に神様が太るのか、という疑問もまた出てくるけれど、きっとそこをつつくのは野暮なんだよ鴉天狗。
「ああ、そういえば……」
鴉天狗はそう前置きして、懐から手帳を取り出す。
「男性諸氏に前取ったアンケートで、ちょっと面白いものがあったんだった」
「面白いもの?」
「ずばり、『貴方が好む女性像は?』ということで」
「里の男達に尋ねたのかしら?」
「ええ。新聞の記事が少し足りない時に挟み込むんだけど……あったあった」
使い込んだ愛用の手帳をのぞき込んで、鴉天狗は言う。厄神は興味津々だ。人形遣いもまんざらではないらしい。
「集計して上位に来るのはやはり『清楚』や『気品』だけど、なかなか興味深い結果もね……」
「どんなものなの?」
「『ふっくらしている』、『痩せぎすでない』、『少々肉付きの良い方が好み』等々……」
「へぇ。面白い結果ね」
「実際人里を歩いていて、自身の体重を気にする声は稀に耳にするのですよ。今の雛のように」
ちらりと厄神を見やる。紅茶を飲んでいた。
どうやらクッキーにはあれから手を出していないようだ。……目がそこはかとなく輝いている気もする。
「だから、別に無理して痩せる必要もないんじゃない?」
「…………は?」
「……………………」
厄神の呟きに、日頃はへらへらしてつかみ所のない鴉天狗もいささか驚く。
ちなみに人形遣いは、気にせず紅茶を飲んでいた。
きっかけはおそらく、とても些細なことだったろう。
だが、そんな些細なことであっても、何が習慣となるかは判らないもので。
ひとりは、自分の家であるからして。
ひとりは、取材の帰り道であるからして。
ひとりは、厄集めの道すがらであるからして。
気がつけば、妖怪ふたりに神様ひとり。
こうしてお茶会など催すようになっていた。
「……そもそも、だけど」
迷いつつ、鴉天狗の一言。だがこれだけは確認しなければなるまい。
「神様って、……太るの?」
「えっ!?」
厄神はまるで「信じられない!」とでも言いたげな表情をする。
「いやだってほら……、雛って神様、でしょ……?」
「……文。神様だから太らない、って誰が決めたの?」
厄神はそう言いつつ、人形遣いお手製のクッキーをぱくり。
この厄神、痩せる気はあるんだろーか、とは口が裂けても言えない鴉天狗だ。
「……あ、えーと。……うん。百歩譲って雛が太るとして」
「譲ってくれなくても太るんだって。お腹周りのお肉を文にあげよっか?」
「いらんて」
「まぁまぁそんな遠慮せず」
「いえいえそんな」
「神様の体を自分のモノにできるんだよ?」
「なにその卑猥な響きは……」
「今なら洗剤も付いてとーってもお得!」
「いらないいらない」
「神様の力を借りてライバルのあの子に差をつけたり!」
「実力で勝負したいし」
「今すぐお申し込みいただければ入会金などの手数料は半額に!」
「何の宣伝だ……」
鴉天狗のため息ひとつ。
「まぁ、そんな訳で痩せたいの」
「はぁ…………」
「で、文ならそういう事知ってないかな、って」
「生憎と、自分じゃ必要なかったしね……。申し訳ないけど」
「駄目だよ~。世の中のニーズにもちゃんと答えないと」
「超局所的なニーズには答えられないの」
「そうやって一人の乙女を不幸にするあやちゃんであった。うるうる」
既に厄神の口調が怪しい。――いやでもいつも通りか。
厄神様のテンションがおかしい(≒可笑しい)のは今に始まったことでもない。
「痩せる……ねぇ……。アリスは何か知ってる?」
とりあえず、厄神の嘘泣きを止めるため、さっきから我関せずを決め込んでいた人形遣いも巻き込んでみる。
「? ダイエットの方法かしら?」
「だい……?」
「痩せるための手段、もしくはその過程のことよ」
「あぁ……」
とりあえず話だけは聞いていたらしい。人形遣いのその先の言葉を促してみる。
「例えば、食事量を抑える、というのは基本中の基本よね。ダイエットの語源も実際はそれだし」
ぴく、と厄神の腕が止まる。手の先にはかなり量の減ったクッキー。
どうやら知らない間にかなり食べていたようだ。
「それから、適度な運動もいいわね。体内の余分な栄養を運動で昇華するのよ」
貴女はしょっちゅう飛び回ってるから痩せてるのね、と人形遣い。
なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれない。いつも食事量が人より多めなのはそのせいか、とひとり納得する。
「というところだけど、雛。貴女本当に痩せたい?」
「あ、あはは……」
何故か乾いた笑いになっている厄神。
そもそも神様なら食事もいらないだろうし、つーかそれ以前に神様が太るのか、という疑問もまた出てくるけれど、きっとそこをつつくのは野暮なんだよ鴉天狗。
「ああ、そういえば……」
鴉天狗はそう前置きして、懐から手帳を取り出す。
「男性諸氏に前取ったアンケートで、ちょっと面白いものがあったんだった」
「面白いもの?」
「ずばり、『貴方が好む女性像は?』ということで」
「里の男達に尋ねたのかしら?」
「ええ。新聞の記事が少し足りない時に挟み込むんだけど……あったあった」
使い込んだ愛用の手帳をのぞき込んで、鴉天狗は言う。厄神は興味津々だ。人形遣いもまんざらではないらしい。
「集計して上位に来るのはやはり『清楚』や『気品』だけど、なかなか興味深い結果もね……」
「どんなものなの?」
「『ふっくらしている』、『痩せぎすでない』、『少々肉付きの良い方が好み』等々……」
「へぇ。面白い結果ね」
「実際人里を歩いていて、自身の体重を気にする声は稀に耳にするのですよ。今の雛のように」
ちらりと厄神を見やる。紅茶を飲んでいた。
どうやらクッキーにはあれから手を出していないようだ。……目がそこはかとなく輝いている気もする。
「だから、別に無理して痩せる必要もないんじゃない?」
でっていう と言わせていただこう。
話が膨らまないまま終わってしまった感じですね。
だからクッキーを食べているんでしょうか。
なんで雛は痩せたいのか、痩せなくていいんじゃない?と言われた雛の返事とか気になります
「だからどうした」
タイトルとシチュエーション思いついて満足しちゃってるのかな。
この話ってもしかして無限ループしてるんですか~?
読者の質も問われることを自覚しよーぜ