紅魔館。湖の横にある館である。
異変の中心になった事もあるが、基本的には平和である。何故なら、館の主であるレミリア・スカーレットが強大な力を持っているからだ。
そのため、この屋敷を狙うような妖怪は居ないし、もちろん人間も怖がって近づいたりはしない。一部、例外も存在するが・・・
そんな平和な日々の一部である。
◇ ◇ ◇ ◇
紅魔館な日々。
「フランと日傘」
◇ ◇ ◇ ◇
紅魔館の地下。主の妹フランドールの住まいである。制御しきれていない力を持つ彼女は、幽閉されてきた。
だが、それももう過去の話。博麗の巫女との戦いから彼女は幽閉を解かれ、ある程度自由の身となったのだ。未だに自分の能力を制御できるかという問題はあるものの、見守っていこうというスタンスに切り替わったからだ。
レミリア自身、妹のフランドールを愛している。ただ、過保護なだけだ。しかし、本人にとってみればはた迷惑な話だろう。幽閉されて、世界とは隔絶されていたのだから。
そう生きてきた彼女にとっては、それが文句を言うに値するかも分からないので、問題にならなかっただけなのだ。
彼女がまだ、館の中の世界しか知らない頃のお話。
館の中を歩き回るのも飽きた頃、窓から外を見た。薄暗く、月の明かりしか無い。生き物の気配もほとんど無く、ひっそりと静まり返っている。何か面白そうな物も無さそうだ。
これが当時、彼女の持った世界への印象である。吸血鬼という種族の特性上、体内時計は夜型なのだ。幽閉されていた時でも、起きている時間は夜中であった。
そして、夜という時間は、生物は寝ているか、こそこそ動き回るかのどちらかなので無理も無い。
「はー・・・退屈。何か面白いことないかなー・・・」
だが、そう上手くいかないのは世の常。図書館の本は、中身が良く分からない物ばかりなので、読書という選択肢は消える。姉に相手をしてもらうのも微妙な感じがする。咲夜は、なんかつまんないし。門番は、ビクビクするから嫌いだ。
なんという退屈な世界なんだろう。部屋に居ても外に出ても何も無い。もう、いっその事寝てしまおうかと自室へ戻った。
フランドールは自室に戻り、咲夜からもらったパズルで遊んでいた、知恵の輪というらしい。
「んー・・・」
カチャカチャと知恵の輪の音と、彼女の悩む音だけが支配する空間に
「失礼します。」
ノックと扉の開く音が介入する。パズルを持ってきた張本人、十六夜咲夜だった。
「・・・挑戦中でしたか、どうですか?」
悪戦苦闘している彼女を見て、微笑を浮かべながら尋ねる。全然わかんない。とベッドに身を投げる。
その様子を見て、ふふ。と微笑を浮かべる咲夜。貸して頂けますか?と言うので、ほおり投げて渡す。
「これ、曲げちゃ駄目って言うから・・・そんなの無理だよ。」
「最初に渡した物を分解したときは、説明不足でしたわ。いいですか、これはこうして・・・ほら、外れた。」
え?と咲夜の手元を見ると、見事に2つに分かれていた。不思議だ。咲夜が手元を動かすと、また元に戻る。
「こことここの太さ、違うのがお分かりになりますか?」
「ここ?」
「そうです、この隙間を通るか通らないかの微妙な違いなんですよ。だから、こう回して・・・細い方を持ってくると・・・ほら、取れた。」
咲夜が解説する。貸して貸してと知恵の輪を受け取り、実践してみると外れた。不思議だ。ちょっと楽しい。
「他にもまだありますので、今度お持ちしましょうか?」
少し悩んだが、お願い。と短く答える。そういえば咲夜は何の為に来たのだろうか。
「え?いえ、自室に戻っていくのを見かけたので、お茶をお持ちしました。お飲みになりますか?」
頷くと咲夜がお茶の準備を始める。それを眺めながら話しかける。
「退屈なんだけど、何か面白いこと無いの?」
「面白い物はご自分で見つけてください。その方が、面白いですよ。」
「咲夜のいじわる。」
「いえいえ、他の人から教えられた面白さは、自分で見つけた面白さには敵わない物です。」
どうぞ、とカップを置く。飲んでみると甘かった。りんごの味が混じっている。アップルティーを出すのは初めてでしたねと口にする。今度からこれが良いと告げると、分かりましたと答えて咲夜は部屋を出ていった。
「自分で・・・見つけるねぇ・・・」
そんな物見つけられるのだろうか、自分に。
「あれ?寝ちゃってた・・・」
あれから、解けた知恵の輪をいじっていたのだが、寝てしまったようだ。時間は分からない。もぞもぞとベットから降りて上に向かう。
廊下に出ると、カーテンが明るい。どうやら、太陽が出ている時間のようだ。寝起きでモヤモヤする思考のなか、なんとなしにカーテンをめくって外を見る。
瞬間的に陽の光が目に飛び込んできた。
「うっ・・・」
直接太陽を見たわけではないのだが、目が焼けるようだった。地下で生活している彼女は、姉のレミリアより明るいものに慣れていない。
目を細めて遠くを見ると、空は青く、白い雲があり、そして緑の山や森が見えた。
「うわぁ・・・凄い。」
日中に起きていたことはあるが、外を見たことが無かった彼女は感嘆の声を上げる。こんなにも色鮮やかな世界を見たのは生まれて初めてだった。
本や絵で外の世界を見たことはある。しかし、これは想像以上に色がたくさんあって、広かったのだ。夜に見た世界とは全然違う。生き生きとした世界がそこにあった。
しかし、自分は吸血鬼。日光に直接当たると焼けてしまうのが残念だったが、姉が以前言っていたのを思い出す、日傘を差していれば出歩けると。
「日傘・・・どこにあるんだろ?」
そう呟いて彼女は歩き出す。
外の世界に興味を持った瞬間だった。
紅魔館な日々。 「フランと日傘」 おわり
短くまとまっていて、とても読みやすいです。
フランドールの外に興味を持った瞬間が自然で。
誤字報告 博霊→博麗