Coolier - 新生・東方創想話

きらりと光るプレゼント

2011/05/16 22:51:34
最終更新
サイズ
12.7KB
ページ数
1
閲覧数
1893
評価数
6/37
POINT
1860
Rate
9.92

分類タグ


「どうぞ、今回の紅茶はミルクティーで淹れさせてもらったわ。砂糖なんかはお好みで」
「おうよ、サンキュな。あ、ちなみに今日のお茶請けはなんだ?」
「レアチーズケーキのブルーベリーソース。すぐに持ってきますわ」
 そう言って咲夜は一旦部屋を出ていった。今日はレミリアが遅くまで寝ていて、パチュリーは喘息でぶっ倒れているらしい。本をいただいていくのにピッタリな日じゃないか。内心にやりと笑みながらシュガーポットを開けると、服の裾をくいくい引っ張られた。まったく、一体誰だ?
 そう思って目を向けると、紅魔館で一番物騒な奴だった。
「おおう! フラン、いきなりはさすがに吃驚だぜ?」
「魔理沙ったら、にやにや笑って気付かないんだもの」
 フランは私の隣の椅子に座った。正直関わり合いは避けたいところだが、下手に逆撫でしてぶっ飛ばされたらたまったもんじゃないし、咲夜が戻るまでの辛抱だな。
 と思っていると、フランがじっと私を見ていた。
「どうした?」
「あのね、魔理沙。お願いがあるの」
「お願い?」
 面倒事の臭いしかしてこないな。引き籠もってるかレミリアお姉さまにぴったりなフランがお願い事だなんて尋常じゃないぜ。さてどうやって断ろうかと考えながら、そのお願いの内容を聞いてみることにした。
「んで、お願いってなんだ?」
「あのね――」
 フランがテーブルに身を乗り出して耳打ちしてくる。……それを聞いたら、思わず苦笑が浮かんだ。不味いぜ、断る口実が見つけられない。
「お待たせ。……っと、妹様。いらっしゃったのですね。すぐにお茶を用意いたしますわ」
 咲夜が部屋に入ってきて、私の前に甘酸っぱい匂いのケーキを置いてからすぐ出ていった。フランはじっと、『お願い』という言葉になったような視線を私に投げかけてくる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……だあーっ! わかったよ! わかったからそんな目で見るな!」
 当然、こうなってしまえば折れるのは私のほうだ。ちぇっ。

   ✞   ✞   ✞

「フランがいなくなったあ?」
 心なしかいつもより騒がしい紅魔館。その一室に、レミリアの素っ頓狂な声が響いた。咲夜が申し訳なさそうな顔で頷く。
「何時よ?」
「パチュリー様によりますと、大体日の沈んだ午後八時から九時とのことですわ」
「どこに行ったかは?」
「館内にはおられないようですので、おそらく外に。美鈴は見ていないとのことですが、外壁を飛び越えることは造作ないことかと。パチュリー様が喘息で早々に眠っておられたので、雨による妨害もありませんでした」
 質問とほぼ同時に返ってくる咲夜の言葉に、レミリアは思わず舌打ちした。ありとあらゆるものを破壊するという規格外の能力を持ったフランの行方が掴めないというのは危険そのもののことだ。何か面倒を起こしたりしないかと思うと、レミリアの内心に落ち着きなど残らなかった。
「ったく、なにか手掛かりはないの?」
「メイドの一人の証言によりますと、その時間に箒に乗った黒い魔女を見かけたと。魔理沙のことでしょうので、何かしら関わっているとは思いますが」
「あんの厄介者(トラブルメーカー)は……!」
 右手の親指の爪を噛む。ガリ、と音を立てて爪が欠けた。
「咲夜。美鈴にも手伝わせて、行きそうなあてを探しなさい。見つけ次第連れ戻すこと。魔理沙はその場でぶちのめして」
「かしこまりました」
 深く低頭してから、咲夜は迅速に部屋から出ていった。窓の外を眺め、レミリアは欠けた爪を再び強く齧った。
「あの馬鹿……どこに行ってるのよ」

   ✞   ✞   ✞

「ほんとに抜け出せちまえたぜ……。運よく喘息悪化させたパチュリーに感謝だな」
 紅魔館が小さくなるくらいの距離まで来てから、私は嘆息交じりに呟いた。正直パチュリーに勘付かれて雨でも降らされるかと思ったんだが、フランにとっては僥倖だったな。
 そのフランはと言えば、あたりをきょろきょろ見回しながら「おー」とか言ってる。そういや、フランがまともに外に出るのは、これが初めてくらいなんだっけか。っても、目的忘れてないか?
「フラン、少し急ぐぜ。当初の目的が果たせなくなる」
「うん、わかってるわ」
 横でおおよそ飛行用じゃない翼をはためかせる。少しスピードアップして向かった先は、縁日の屋台賑わう人間の里だ。


「おおーっ!」
 人里の賑わいが見えてくると、フランが感嘆の声を上げた。ま、今まで多くて十数人しか見たことなかったんだから、この反応も当然っちゃ当然か。
 人里の入口あたりに降りると、フランは興奮した様子でたったと走り出した。
「おいおい待てよ」
 その首根っこを掴んで止めた。一人で突っ込ませたら迷って怒って人里崩壊のフラグが立つ予感満点だしな。
「迷ったら仕方ないだろ? 今回の祭りはわりと遅くまでやるからな。焦る必要はないぜ」
「路の脇にちゃっちい建物がいっぱい……あれなに?」
「ちゃっちいってな……。屋台だよ。食い物の店が多いけど、アクセサリとか雑貨を売ってる店もあるぜ」
 お目付け役の仕事を全うするために、フランから離れないよう人ごみを歩く。祭りの熱気に当てられてるせいか、フランの翼を見て騒ぎ出す奴はいなかった。
「オッチャン、林檎飴二つくれ」
「おっ、はいよー。四百円だ、毎度ありー!」
 とりあえず吸血鬼っていったら紅いものだろ。とりあえず目についた林檎飴を買ってやると、少しじろじろ見回してからがぶりと食いついた。これ見てわかった、フランは飴玉を噛み砕くタイプだ。
「……美味しい!」
「そりゃよかったぜ。ま、祭りのときにはなんだって美味く感じるけどな」
「そうなの?」
「そうさ」
 フランが少し遠い目をした。たぶん、レミリアに思いを馳せてるんだろう。一緒に来たいんじゃないかな。林檎飴を舐めながら歩くのを再開する。
 その中でふと、屋台というより露店のようなアクセサリ屋を見つけた。
「フラン、ここなんかいいんじゃないか?」
「わあっ! 綺麗!」
 フランが店の前に座り込む。羽を畳んでるあたりまあ、偉いな。いくつも並ぶアクセサリたちを見比べながら、楽しげな表情で選んでいる。その様子をバターしょうゆ味のポップコーンを食べながら見ていると、フランは悩んだ末に一つのネックレスをオッチャンに突き出した。
「おじちゃん、これちょーだい!」
「お、いい物選ぶじゃない。しかも可愛い御嬢さんときた。本来なら千円のところだが……おまけして八百円にしておこうじゃないか」
「けちぃぜ。五百円」
 勿論、口を出したのは私だ。
「お、御嬢さんのお姉さんかな? いや、五百円は少々言いすぎじゃないか? 七百五十円でどうだろ」
「む、五十円で刻む気だな? ならこっちも……五百五十円だ」
「……七百円。これが限界だね」
「あと一息、六百五十まで行ってみないか?」
 辛抱強く交渉する。こういうのは引いたら負けだ。押して押してきゃ勝てる。値切り交渉もパワーが命だ。
 やがて、オッチャンは自棄になったように膝を叩いた。
「よし! いいだろう! 六百五十円、それでいこうじゃないか!」
「よっ! 流石だぜオッチャン!」
 商談成立したところで、フランが千円をオッチャンに差し出した。買い物の仕組み教えておいてよかったぜ。
「……あ、そうそうオッチャン。これって包めたりしないか?」


 そうして買い物を終えた後、フランは帰ろうと言い出した。てっきりもう少し祭りを見て回るもんだと思ってたんだが。
「もういいのか? 折角だし、もう少しくらい見て回ったって罰はあたらないぜ?」
「うん、いいの」
「……そうか。ま、フランがいいんなら私もいいぜ。じゃ、帰るとするか」
 紅魔館に帰るまでの間、フランはラッピングされたネックレスの箱を大事そうに持っていた。その嬉しそうな顔を見ると、今回無理にでも連れ出してよかったと思う。
「どうだい、フラン。祭りは楽しかった?」
「うん!」
 喜色満面、って風にフランが答える。そうして、視界に見えてきた紅魔館を遠く眺めて、
「お姉様とも一緒に行きたいな……」
 さっきの風景を思い出そうとするように、目を閉じながら呟いた。ほんと、初めて会った時からは想像できない姿だな。
 帽子越しにフランの頭を撫でる。
「今度は、レミリアも誘おうな」
「うん」

   ✞   ✞   ✞

 申し訳なさそうな表情の美鈴からの報告を、レミリアは苛立ちを隠そうともせず聞いていた。指はせわしなく机を叩き、噛み続けていた指の爪はだいぶ欠けている。
 やがて美鈴が報告を終えると、入れ替わるようにして咲夜が部屋に入ってきた。
「見つかったの?」
「申し訳ありません。妹様が行きそうな心当たりは粗方探したのですが……」
 その報告を聞くと、レミリアは盛大に舌打ちした。普段であればパチュリーに魔法で探させるのだが、今日は喘息がかなり悪化しているということですでに休んでいる。思うようにいかないことへの苛立ちが、乱暴な所作となって表れていた。
「お嬢様、少々お気を鎮めてください」
 いつの間に淹れたのか、咲夜はそう言ってレミリアの前に紅茶を置いた。
「魔理沙もトラブルメーカーではありますが、根は悪い奴ではありません。きっと大丈夫ですわ」
「わかっちゃいるわよ、それくらい。どうも気分が収まらないだけ」
 カップを手に取ってレミリアが窓の外に目を向けたとき、部屋の戸が乱暴に開かれた。
「お、お嬢様! 妹様が帰ってきました!」
 美鈴のその報告を受けた途端、レミリアはカップを投げ出し、美鈴を押し退けて部屋から飛び出していった。床に落ちるかと思われたカップは一滴の紅茶も零さずテーブルに戻り、美鈴がレミリアの行動の速さに戸惑っている間に、咲夜の姿もいつの間にか消えていた。

   ✞   ✞   ✞

「フラン!」
 私が珍しく玄関から入ると、少し息を乱したレミリアがフランの名前を呼んだ。と、同時に薄ら寒い気配が後ろから。
「お姉様! ただいま!」
 フランがレミリアに飛びつく。
「っ、あーっ、抱きつくなって!」
 口では文句を言いながらも離そうとしないレミリア、離れようとしないフラン。これだけ見てりゃ仲睦まじい姉妹の再会なんだがねえ。後ろにナイフがなければさ。
「あー……咲夜。ひとまずナイフは引っ込めないか?」
「残念。お嬢様は見つけ次第ぶちのめすよう言ってたわ」
 首筋にひやりとした感覚。
「咲夜。それじゃたぶん、ぶちのめすじゃなくてぶっ殺すになるぜ?」
「大した違いはないわ」
「大有りだよ」
 もう両手を上げるしかできることがないな。死なないように祈るだけか。
 そう思っていると、レミリアに抱きついたままのフランから助け舟が出た。
「駄目よ咲夜。魔理沙には私がお願いしたの。ナイフなんか下げて」
「…………」
 咲夜は一応レミリアに確認しているようだ。レミリアが頷いたのを見て、首筋から冷たい感覚がなくなった。まさに九死に一生、って感じだな。
「で、どこに行ってたの?」
 咲夜が呆れた顔で額を押さえながら聞いてきた。頭痛か?
「人間の里だぜ。今日は祭りやってたんだ」
「人間の里!?」
 おや、そんなに意外だったか? ちょっと驚きようが半端じゃないぜ。
「……よく、そんなとこ連れていく気になったわね」
「いやあ、私だって最初は断ろうと思ったんだぜ? でもなあ……」
 レミリアとフランに目を向ける。
「フラン、人里なんかに何しに行ってたの?」
「うん、あのね」
 フランが手に持ったままだった、露店で買ったネックレスの箱をレミリアに差し出した。
「お誕生日おめでとう! お姉様」
 ……一瞬の沈黙の中で、フランの笑顔だけが弾けていた。
「……そうだったのですか? お嬢様」
「……そうだっけ?」
「おいおい……」
「そうよ、お姉様」
 自分の誕生日すら忘れてるお嬢様に呆れていると、フランがぽつぽつと、今回の行動の動機を話し出した。
「いつもお祝いしたかったんだけど、今までは全然できなかったし、なにか贈り物したいなって思って、プレゼントを探しに行ったの。魔理沙は夜でも普通に買い物できるようにって、わざわざお祭りの日を選んで連れ出してくれたの」
 フランの活動時間だと結構店は閉まってたりするからな。だがそれをここで言われると……ちょっと、恥ずかしいぜ。
 レミリアは少し呆然とした顔でフランからの贈り物を見つめていたが、やがて、
「……開けてみても、いいかしら?」
 と、嬉しそうな声音で聞いた。
「うん」
 レミリアがテープを爪で切る。その時に見えた右手親指の爪は、他の指に比べて歪に欠けていた。たぶん噛んでたんだろう。そんなに不安がらせたんなら、さすがにちょっと罪悪感が芽生えるな……。
 包装紙を丁寧に剥ぎ、箱の蓋を開ける。光がきらりと反射した。
 紅いハートマークに蝙蝠の羽が付いた、銀色のチェーンのネックレスだった。フランが長らく迷った末に選んだ物である。フランが箱の中からネックレスを取り、レミリアの首にかけてやる。きらりと光るそれは、驚くほどしっくりとレミリアに馴染んだ。そういうの考えながら選んでたんかな。
「……銀じゃないわよね」
 流石に場を憚った咲夜が小声で聞いてきたので、こっちも小声で答えてやる。
「安心しな。祭りの露店に銀製品(シルバー)なんて高級品は置いてないぜ。通常千円の品を六百五十円まで値切った代物だ」
 ま、それでもレミリアは嬉しそうだ。安物でも、やっぱり気持ちが籠ってると違うんだろうな。
 フランがレミリアの言葉を待っている。レミリアはハートに自分の羽が生えたヘッドを手に取って見つめている。そしてそれを丁寧に下げなおすと、笑顔を浮かべたままのフランを抱き締めた。
「ありがとう、フラン。とっても、嬉しいわ」
「……よかったあ」
 それからしばらくそのままだった。もはや部外者でしかない私らだが、抜け出すこともできないので、壁の花ならぬ玄関の花を決め込んでいた。そうしているとようやく、花が人間に戻れる時が来た。
「……咲夜」
「はい」
「折角だし、ケーキを用意して頂戴。とびきりの奴をね」
「かしこまりました。……蝋燭は、年齢分ご用意いたしましょうか?」
「バカ言ってんじゃないわよ。適当でいいわ」
「かしこまりました。ではその前に、紅茶をお淹れしますわ」
「ああ、それと魔理沙」
「ん? おお」
 二つの花が二人の人間になった。
「迷惑料と報酬兼ねて、ケーキとお茶くらいは御馳走するわ。フランが世話になったわね」
「ああ、別にいいって。私なんかただついてっただけだからな。ま、御馳走はしてもらうけど」
 レミリアはニッと笑みを浮かべると、フランと一緒に奥へと歩いていった。この場に残ったのは元花の二人だけだ。
「ねえ、魔理沙」
 白百合の花みたいだった奴が声を掛けてきた。
「ん、なんだ? ケーキには期待してるぜ?」
「そうじゃなくて。……妹様って、お金持ってたの?」
「持ってるわけないぜ。だからツケでいいよ」
 咲夜は少し楽しげな笑みを浮かべると、部屋に案内してくれた。咲夜はケーキを作るために部屋を出ていって、ひとまず部屋には私だけだ。ま、今あの姉妹のいるところに行く気にはなれんしな。
 まさかフランに姉の誕生日を祝うなんて気持ちがあったとはなあ。意外ではあるが、まあ悪くない。たまには盗みばっかじゃなくて、こういうことの片棒を担ぐのもいいもんだ。
 と、いうわけで。
「さてと、ちょっくら本でも拝借に行きますかね」
 箒を肩で担いだまま、帽子を少し深く被って、私は図書館のほうに足を向けた。



 
金之助です。第二作目です。前から書いてあった作品ですが、お披露目するのは初めてですね。

前作『ダイヤモンド』では予想以上に好評価をいただいて吃驚しています。読んでくださった皆様ありがとうございます。

『ダイヤモンド』から一転。ダークさなんて欠片もない作品です。レミリアは妹思いのいい姉ちゃんですねえ、フランも姉思いのいい妹ですねえ(笑)

魔理沙の一人称は正直わざとらしいかとも思いましたが、他の一人称に比べて個性が出せたと思うのでよかったかな。とりあえず書いてて楽しかった。

……とまあ、前回のように暗いものから、今回のようにほのぼの?した感じのものまで、ジャンルは適当に、落ち着きなく投稿していきます。

勿論、批評は大歓迎です。

これからもどうぞ読んでやってください。金之助でした。
金之助
http://david490alf.blog97.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1290簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
ほのぼの~
3.100名前が無い程度の能力削除
蝋燭500本の用意は任せろ!
こうゆうまったりほのぼのしたお話はいいですね。
5.100名前が無い程度の能力削除
『フランちゃんに500本の蝋燭をプレゼントしよう募金』

興味を持たれた方はてゐ募金共同組合までご連絡を。
10.90名前が無い程度の能力削除
前作「ダイヤモンド」とのギャップが凄すぎる…
13.100名前が無い程度の能力削除
とても良いほのぼのだ
17.90奇声を発する程度の能力削除
ほのぼのしてて良かったです