3月6日
私は、偉大なる魔法使いとしての第一歩を踏み出すため、「the Grimoire of Marisa」という魔道書を書くと共に、日記を書くことに決めた。
正直、日記など書いたこともないが、自分の気持ちを字としてここに記し、それを見返すことで自分の道も自ずと見えてくることになるだろう。
そう、思って、日記を書くことにした。
だからこの本は、第二の自分を作って、その自分に見せる、といったような意味を持たせたい。
そう、思って、この本を、記す。
――――――――――――――――――――
3月6日
最初に日記を書き始めてから、ちょうど1年が経った。
1年という年月は、長いように見えて短い。
でも、魔法使いでありながら人間である私にとっては、とても学ぶことが多かった1年だった。
そして、1年という時間の節目である今日、日々の話、魔法のことから一度離れて、今抱えてる悩み事について書いてみようと思う。
私は、今日、霊夢に告白された。
正直、とても驚いている。私が好きだということだが、そんな素振りなど今まで微塵も見せなかった……と思う。
最初はただの冗談かと思っていた。だから、適当に言葉を返した。
でも、あいつの目は本気だった。
言いたいことは山ほどある。
どうして私のことが好きになったのか。
一体、私のどこがいいというのか、等々。
でも、私が疑問を投げかける前に、霊夢は怒って帰ってしまった。
そして、怒っている、と同時に、寂しそうだった。
この、日記に書いている今でも私は信じられない。
その、霊夢が、私のことを好き、だということを。
私は思う、「好き」とは一体なんだ?
私にはわからない。でも、ただ一つだけ言えることがある。
それは、今の私では霊夢の期待に応えることができない、ということだ。
私は、霊夢が好きだ。
でも、この「好き」は、霊夢が言っている「好き」とは遠くかけ離れたものなのだろう。
明日、私は霊夢に謝りに行こうと思う。
今までと同じように、これから接していけるかどうかがとても心配だが、とにかく謝ってみようと思う。
――――――――――――――――――――
3月7日
今日は、霊夢に会えなかった。
霊夢に会おうとすると、昨日霊夢と話したときの一つ一つの言葉や、あのとき霊夢が見せた表情などが脳裏に浮かんで。
それを拭い去ることができなくて。
私は、結局、紅魔館に行った。
図書館で、「恋」についての文献を探すために。
でも、見つからなかった。
本がないわけではなかった。いくら魔道書ばっかり置いてある図書館だとはいえ、「恋」に関する文献の一冊や二冊、普通においてあるだろう。
でも、見つけることができなかった。
探そうとするはずさえなかった。
私は、パチュリーに告白された。
あまりに急な展開だったので、反応に困った。そして、昨日、あんなことがあったためにふざけた返し方をするわけにもいかず、結局、私は最悪の決断を下してしまった。
逃げてしまった。
逃げていった後のパチュリーの表情は見ていない。
でも、きっと、パチュリーは寂しそうな、悲しそうな顔をしていたんだろう。
昨日の霊夢と同じように。
でも、私はあのとき、どうすればいいのか分からなかったし、今でも分からない。
……昨日、今日と驚くことがあったせいか、疲れてしまった。
もしくは、自分も苦悩して疲れている、ということにして怒らせたことも逃げたことも、全部自分の中で正当化させたいだけなのかもしれない。
明日、もう一度紅魔館に行き、パチュリーに謝ろうと思う。
私に勇気があれば。
――――――――――――――――――――
3月8日
最近は、とある問題のせいで魔法の研究に集中できない。
そして、問題というのはもちろん……昨日、一昨日と頭を悩ましている「恋」についての話だ。
早めに解決しなければならない。そういう思いがとても強い。
それは、魔法の研究うんぬんではなく、彼女らの笑顔がもう一度見たいからだ。
これが恋心だったらいいのに、と自分で思う。
でも、違うことくらい自分でも分かる。
今日は紅魔館へ行った。
でも、パチュリーには会えなかった。
もしかしたら、自分の気持ちをごまかすために行ったのかもしれない。
私は、フランのところへ行ったのだった。
フランは、姉に外に出ることをほとんど禁じられているので、私がたまに遊びに行くことにしていた。
私は、フランと一日中遊んだ。
普段は一日中遊ぶなんてことはないので、やっぱり、私も疲れいるらしかった。
でも、フランが別れる直前に放った一言が、私を現実に引き戻した。
「大好き。」
きっと、フランの言っている「好き」は、霊夢やパチュリーが言っている「好き」とはまったく違うものなのだろう。
それはいくら私でも分かっている。
この、フランの「好き」は、湖のほうにいる妖精や、いつも遊んでやったり食べ物を分けてやってるルーミアにだってよく言われる。
では、霊夢やパチュリーが言っている「好き」の本質的なものとは一体何なんだろうか?
……今日はフランに振り回されたのもあって、疲れた。眠い。
今日はもう寝よう。
明日、慧音先生にでも聞いてみよう。
……まさか、慧音先生も私のことを?
……考えすぎか。
――――――――――――――――――――
3月9日
人は悩みを抱えたとき、どうするだろうか。
もちろん、信頼できる人に、相談するだろう。
そういうわけで、私は慧音先生に相談することにした。
「恋」について。
もうこの際、恥ずかしいなどと言っていられる場合ではなかった。
まぁ、さすがに「霊夢とパチュリーに告白されて困ってます。」とは言えなかったけど。
先生も、話しづらいのか、最初は誤魔化していた感じだったが、私が真剣なのを感じとってくれたのか、先生も真剣になってくれた。
聞きたいことはたくさんあった。
「恋」が一体なんなのか、について。
聞こうと思ったんだけど。
聞けなかった。
どうやら先生はいくら物知りであろうと、こういうものには疎いらしかった。
「恋」というものは生きてる年数や知識量うんぬんでは、どうやらないらしい。
ただ、「大して役に立てなくてすまない」と慧音先生は言っていたが、一つだけ、心に残った言葉がある。
「今、私は、君がどんな状況に置かれているかはまったく知らない。でも、これは「恋」に関してならどんな状況にも言えることだと思うので、言っておく。
魔理沙、君はこれから、この「恋」のことについてとても悩むことだろう。しかも、この「恋」は答えがそう簡単に出ない問題をいくつも生み出してくるものだ。
でも、挫けるな。逃げ出すな。
逃げ出した先には、Bad Endしか待っていない。
自分の信じた道にこそ、幸福は生まれる。
自分を信じろ。」
本当は先生も「恋」の経験があるのではないか?と思わせる台詞だった。
……ここで一つの仮定をしてみたいと思う。
慧音先生は「恋」に関して非常に疎い人だと話していて分かったのだが、経験はありそうな口ぶりをしていた。
つまり、恋とは、直感的なものではないだろうか、と私は考える。
誰も、「恋」がどんなものかだなんて知りもしない。
ただ、相手を「好き」と思うか思わないか。
ただ、それだけ。
だとしたら、私がほかの人に相談をするのも無意味な話だろう。
……いや待て、今日の慧音先生みたいにアドバイスをもらうことくらいはできるだろうか。
しかし、いくら他人に相談したところで永遠に答えは出ないのではないだろうか。
いや、慧音先生は「逃げるな。」と言っていた。何もしないわけにはいかない。
でも、相談が無意味でないにせよこれは自分の問題
とても馬鹿らしいことを書いていることに気がついた。
どうせ日記に書いても分かるわけがないのだ。
それに、今日は文章が滅茶苦茶になってる気もする。
疲れた。寝よう。
恋の悩みは、まだまだ続きそうだ。
――――――――――――――――――――
3月10日
今日は、最も簡単で、最も大切なことに気がついた。もちろん、「恋」に関して。それは、
「好きじゃないのなら断ればいいだけ」ということ。
これを気づかせてくれたのは、にとりだった。
今日、私は研究に身が入らなく、霊夢やパチュリーに会いに行くには勇気が持てずにいた。
しかし、家にこもっているのもなんだか息苦しかったので、外に出ることにした。
行くあてなどない。ただ、風に吹かれるのが気持ちよかった。悩みなんて全部忘れて、風に身を任せていたかった。
私は、妖怪の山へ向かった。もちろん、意味なんてない。
でも、山の近くの川で、にとりを見つけた。
とにかく誰にでも相談したい。今日の私はそれくらいまでに心が弱ってただろうか。私はにとりに例の相談をした。
にとりは、単純明快にして最も正しい答えを導き出した。
「振ればいいんちゃうの?」
最初は何を言ってるのか分からなかった。
でも、よく考えてみれば、ごく普通の答えだ。
「魔理沙は逃げてるだけ。普通に考えてみたら?相手のことを考えて告白を断ってないんだろうけど、それは逆に相手を傷つけているんだよ?相手が誰だか知らないけどさ……もうちょっと気遣ってあげたら?」
それが、にとりが私に放った言葉だ。
にとりは、「ごめんね。すごくありきたりな台詞で。」と謝っていた。
確かに、ありきたりすぎるほどありきたりな台詞だ。
私は、この事に気づいていたのかもしれない。
ただ、勇気が出なかっただけなのかもしれない。
にとりのおかげで、勇気がわいてきた。
明日、霊夢とパチュリーに言おう。
「ごめんなさい。」と。
言わないほうが、相手を傷つける。
そう考えれば、恐れるものは、何も、ない。
――――――――――――――――――――
3月11日
今、私は、この日記にペンを走らせているわけだが、気持ちがとてつもなく重い。
今日、私は霊夢とパチュリーに会うことができなかった。
でも、できなかったことが問題なわけではない。
その理由に、問題がある。
今日、私は、霊夢とパチュリーに会いに行くため、外に出ようとしていた。
もちろん用件は、「私はあなたとお付き合いできません。」とはっきり言いに行くためだった。
でも、ここで、まさかの事態が起きた。
アリスがものすごい勢いで私の家に飛び込んできたのだ。
私はその時点でものすごく驚いていたわけだが、アリスが次に起こした行動のほうがもっと驚いた。
アリスは、私に向かって叫んだのだ。
「結婚してください。」と。
あまりの急な展開に、私の脳はついていけなかったのか、私は30秒間ほど硬直したままだったのだろう。
そこで、私は我に返り、次にどうするべきかを考えた。
適当に返すことなどできない。
逃げ出すわけにもいかない。
……いや、最初から答えは一つしかない。
今の私に「恋」はできない。
「ごめんなさい。」とただ一言、言うだけ。
ただ、それだけ。
それだけなのに。
何故出来ないんだろう。
アリスはとても真剣な表情をしていて、私はその表情を前にするとこの一言がどうしても言えなくなってしまって、どうしようもなくなってしまって、
泣き出してしまった。
アリスはさぞ驚いたことだろう。
目の前の少女に求婚したら、いきなり泣かれてしまったんだから。
アリスは何が悪かったのかも分からず、
私を抱きしめることしかできなかった。
私は何をすればいいのかも分からず、
その胸を借りて、思いっきり、泣いた。
ある程度私が泣きやんだ後、アリスは私に質問を投げかけてきた。
「あなた、霊夢とパチュリーに告白されたって本当?」
確か、こう聞いてきたと思う。
私は、「本当だぜ。」と返すと、
「……ごめん。」
急に謝りだした。
そして、
「あの人らが、魔理沙に告白した、ってことを聞いたら、いてもたってもいられなくなって。……私も前からずっと、魔理沙のことが好きだったから。」
こう、言われた。
アリスは、もう一度「ごめんね。」といった後に、すぐにドアから出て行った。
私は弱い。
私は不器用だ。
私が、告白されたときに、「ごめん。私にそのつもりはないんだ。……頼む、今までの関係でいさせてくれるか?」と答えられる人だったらよかったのに。
心が強ければよかったのに。
そう、恋は結局。
Bad Endにしかならなかった。
――――――――――――――――――――
3月14日
時間、というものは、どうやら心の隙間を埋めてくれるものらしい。
三日という期間は、私の心の隙間を埋めてくれるのに十分な時間だった。
というわけで、三日ぶりに日記を書こうと思う。
まず、今日あった出来事から書こう。
今日は、霊夢が家に来た。
そして、「私は何も気にしていないから、早く元気を出して。」と言ってくれた。
強いんだなぁ、と思う。
霊夢は、私が霊夢に会おうとしなくなってから、心配してくれていたらしい。
3日間外に出なかったけど、明日あたり出てみようと思う。
それから、パチュリー。
霊夢は、パチュリーからの手紙を預かっていた。
その手紙には、
「貴女の気持ちを考えないで、いきなりあんなことを言い出してしまってごめんなさい。でも、私が貴女に対する気持ちは変わらない。それだけは言っておくわ。」
と書かれていた。
強いんだなぁ、と思う。
それから……アリス。
霊夢は、ここに来る前に、アリスに会ってきたらしい。
私の親しい友人として、何か知ってることはないか、聞きに行ったらしかった。
そして、伝言を任された。
「あんなことをしてしまった私に、魔理沙に会う権利はない。」
そう、言っていたらしい。
強いんだなぁ、と思う。
私に恋する少女が3人。
とても可愛くて、心も強い。
だけど私は心が弱くて。
「恋」を知らない孤独な少女。
いや、孤独なんかじゃない。
仲間がいる。
彼女ら3人は「恋人」になれないかもしれないけど。
私の仲間なんだ。
決心はついた。
明日3人に会って、「今までの関係でいたい」ということを伝えよう。
もう、私は迷わない。
迷うつもりはない。
私は、自分の信じる道を。
ただ、歩いていくのみ。
――――――――――――――――――――
5月14日
二ヶ月ぶりに日記を書こうと思う。
二ヶ月間、書きたいことが何もなかったわけではない。
むしろ、あの3人は、今まで通り接してくれて、私はそのやさしさに甘えた。だから、たくさん書くべきこともあった。
でもこの日記は、残り、後2ページとなる。
せっかくだから、最後はHappy Endで終わらせたい。
さっきも書いたよう、残りページが少ないので、簡潔に書こうと思う。
二ヵ月ぶりに日記を書こうと思った理由、それはただ一つしかない。
私は、「恋」に到達することが出来た。
とても、簡単だった。
ある少女と一緒になっているときだけ私は違った感情が生まれる。
とても直感的で、分かりやすかった。
私に「恋」を感じさせてくれた少女、その名前は……
最後のページとなった。
相手の名前は、あえて記さないことにしよう。
この日記は、過去のものとなる。
それなら、次の日記に名前を書いたほうがいいと思ったからだ。
そう、私は明日から新しい日記に変える。
今日は5月14日、もうそろそろ8時だ。
新しい日記は、私が明日告白する少女と、今から一緒に買いにいこうと思っている。
新たなる私への、
生まれ変わった私への、プレゼント。
最後に、この本をここまで読んでくれた自分に、というのも何だか変なのだが、感謝の言葉を送りたい。
ありがとう。
私は、今日から幸せになります。
さようなら、以前の私。
ありがとう。
私は、偉大なる魔法使いとしての第一歩を踏み出すため、「the Grimoire of Marisa」という魔道書を書くと共に、日記を書くことに決めた。
正直、日記など書いたこともないが、自分の気持ちを字としてここに記し、それを見返すことで自分の道も自ずと見えてくることになるだろう。
そう、思って、日記を書くことにした。
だからこの本は、第二の自分を作って、その自分に見せる、といったような意味を持たせたい。
そう、思って、この本を、記す。
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3月6日
最初に日記を書き始めてから、ちょうど1年が経った。
1年という年月は、長いように見えて短い。
でも、魔法使いでありながら人間である私にとっては、とても学ぶことが多かった1年だった。
そして、1年という時間の節目である今日、日々の話、魔法のことから一度離れて、今抱えてる悩み事について書いてみようと思う。
私は、今日、霊夢に告白された。
正直、とても驚いている。私が好きだということだが、そんな素振りなど今まで微塵も見せなかった……と思う。
最初はただの冗談かと思っていた。だから、適当に言葉を返した。
でも、あいつの目は本気だった。
言いたいことは山ほどある。
どうして私のことが好きになったのか。
一体、私のどこがいいというのか、等々。
でも、私が疑問を投げかける前に、霊夢は怒って帰ってしまった。
そして、怒っている、と同時に、寂しそうだった。
この、日記に書いている今でも私は信じられない。
その、霊夢が、私のことを好き、だということを。
私は思う、「好き」とは一体なんだ?
私にはわからない。でも、ただ一つだけ言えることがある。
それは、今の私では霊夢の期待に応えることができない、ということだ。
私は、霊夢が好きだ。
でも、この「好き」は、霊夢が言っている「好き」とは遠くかけ離れたものなのだろう。
明日、私は霊夢に謝りに行こうと思う。
今までと同じように、これから接していけるかどうかがとても心配だが、とにかく謝ってみようと思う。
――――――――――――――――――――
3月7日
今日は、霊夢に会えなかった。
霊夢に会おうとすると、昨日霊夢と話したときの一つ一つの言葉や、あのとき霊夢が見せた表情などが脳裏に浮かんで。
それを拭い去ることができなくて。
私は、結局、紅魔館に行った。
図書館で、「恋」についての文献を探すために。
でも、見つからなかった。
本がないわけではなかった。いくら魔道書ばっかり置いてある図書館だとはいえ、「恋」に関する文献の一冊や二冊、普通においてあるだろう。
でも、見つけることができなかった。
探そうとするはずさえなかった。
私は、パチュリーに告白された。
あまりに急な展開だったので、反応に困った。そして、昨日、あんなことがあったためにふざけた返し方をするわけにもいかず、結局、私は最悪の決断を下してしまった。
逃げてしまった。
逃げていった後のパチュリーの表情は見ていない。
でも、きっと、パチュリーは寂しそうな、悲しそうな顔をしていたんだろう。
昨日の霊夢と同じように。
でも、私はあのとき、どうすればいいのか分からなかったし、今でも分からない。
……昨日、今日と驚くことがあったせいか、疲れてしまった。
もしくは、自分も苦悩して疲れている、ということにして怒らせたことも逃げたことも、全部自分の中で正当化させたいだけなのかもしれない。
明日、もう一度紅魔館に行き、パチュリーに謝ろうと思う。
私に勇気があれば。
――――――――――――――――――――
3月8日
最近は、とある問題のせいで魔法の研究に集中できない。
そして、問題というのはもちろん……昨日、一昨日と頭を悩ましている「恋」についての話だ。
早めに解決しなければならない。そういう思いがとても強い。
それは、魔法の研究うんぬんではなく、彼女らの笑顔がもう一度見たいからだ。
これが恋心だったらいいのに、と自分で思う。
でも、違うことくらい自分でも分かる。
今日は紅魔館へ行った。
でも、パチュリーには会えなかった。
もしかしたら、自分の気持ちをごまかすために行ったのかもしれない。
私は、フランのところへ行ったのだった。
フランは、姉に外に出ることをほとんど禁じられているので、私がたまに遊びに行くことにしていた。
私は、フランと一日中遊んだ。
普段は一日中遊ぶなんてことはないので、やっぱり、私も疲れいるらしかった。
でも、フランが別れる直前に放った一言が、私を現実に引き戻した。
「大好き。」
きっと、フランの言っている「好き」は、霊夢やパチュリーが言っている「好き」とはまったく違うものなのだろう。
それはいくら私でも分かっている。
この、フランの「好き」は、湖のほうにいる妖精や、いつも遊んでやったり食べ物を分けてやってるルーミアにだってよく言われる。
では、霊夢やパチュリーが言っている「好き」の本質的なものとは一体何なんだろうか?
……今日はフランに振り回されたのもあって、疲れた。眠い。
今日はもう寝よう。
明日、慧音先生にでも聞いてみよう。
……まさか、慧音先生も私のことを?
……考えすぎか。
――――――――――――――――――――
3月9日
人は悩みを抱えたとき、どうするだろうか。
もちろん、信頼できる人に、相談するだろう。
そういうわけで、私は慧音先生に相談することにした。
「恋」について。
もうこの際、恥ずかしいなどと言っていられる場合ではなかった。
まぁ、さすがに「霊夢とパチュリーに告白されて困ってます。」とは言えなかったけど。
先生も、話しづらいのか、最初は誤魔化していた感じだったが、私が真剣なのを感じとってくれたのか、先生も真剣になってくれた。
聞きたいことはたくさんあった。
「恋」が一体なんなのか、について。
聞こうと思ったんだけど。
聞けなかった。
どうやら先生はいくら物知りであろうと、こういうものには疎いらしかった。
「恋」というものは生きてる年数や知識量うんぬんでは、どうやらないらしい。
ただ、「大して役に立てなくてすまない」と慧音先生は言っていたが、一つだけ、心に残った言葉がある。
「今、私は、君がどんな状況に置かれているかはまったく知らない。でも、これは「恋」に関してならどんな状況にも言えることだと思うので、言っておく。
魔理沙、君はこれから、この「恋」のことについてとても悩むことだろう。しかも、この「恋」は答えがそう簡単に出ない問題をいくつも生み出してくるものだ。
でも、挫けるな。逃げ出すな。
逃げ出した先には、Bad Endしか待っていない。
自分の信じた道にこそ、幸福は生まれる。
自分を信じろ。」
本当は先生も「恋」の経験があるのではないか?と思わせる台詞だった。
……ここで一つの仮定をしてみたいと思う。
慧音先生は「恋」に関して非常に疎い人だと話していて分かったのだが、経験はありそうな口ぶりをしていた。
つまり、恋とは、直感的なものではないだろうか、と私は考える。
誰も、「恋」がどんなものかだなんて知りもしない。
ただ、相手を「好き」と思うか思わないか。
ただ、それだけ。
だとしたら、私がほかの人に相談をするのも無意味な話だろう。
……いや待て、今日の慧音先生みたいにアドバイスをもらうことくらいはできるだろうか。
しかし、いくら他人に相談したところで永遠に答えは出ないのではないだろうか。
いや、慧音先生は「逃げるな。」と言っていた。何もしないわけにはいかない。
でも、相談が無意味でないにせよこれは自分の問題
とても馬鹿らしいことを書いていることに気がついた。
どうせ日記に書いても分かるわけがないのだ。
それに、今日は文章が滅茶苦茶になってる気もする。
疲れた。寝よう。
恋の悩みは、まだまだ続きそうだ。
――――――――――――――――――――
3月10日
今日は、最も簡単で、最も大切なことに気がついた。もちろん、「恋」に関して。それは、
「好きじゃないのなら断ればいいだけ」ということ。
これを気づかせてくれたのは、にとりだった。
今日、私は研究に身が入らなく、霊夢やパチュリーに会いに行くには勇気が持てずにいた。
しかし、家にこもっているのもなんだか息苦しかったので、外に出ることにした。
行くあてなどない。ただ、風に吹かれるのが気持ちよかった。悩みなんて全部忘れて、風に身を任せていたかった。
私は、妖怪の山へ向かった。もちろん、意味なんてない。
でも、山の近くの川で、にとりを見つけた。
とにかく誰にでも相談したい。今日の私はそれくらいまでに心が弱ってただろうか。私はにとりに例の相談をした。
にとりは、単純明快にして最も正しい答えを導き出した。
「振ればいいんちゃうの?」
最初は何を言ってるのか分からなかった。
でも、よく考えてみれば、ごく普通の答えだ。
「魔理沙は逃げてるだけ。普通に考えてみたら?相手のことを考えて告白を断ってないんだろうけど、それは逆に相手を傷つけているんだよ?相手が誰だか知らないけどさ……もうちょっと気遣ってあげたら?」
それが、にとりが私に放った言葉だ。
にとりは、「ごめんね。すごくありきたりな台詞で。」と謝っていた。
確かに、ありきたりすぎるほどありきたりな台詞だ。
私は、この事に気づいていたのかもしれない。
ただ、勇気が出なかっただけなのかもしれない。
にとりのおかげで、勇気がわいてきた。
明日、霊夢とパチュリーに言おう。
「ごめんなさい。」と。
言わないほうが、相手を傷つける。
そう考えれば、恐れるものは、何も、ない。
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3月11日
今、私は、この日記にペンを走らせているわけだが、気持ちがとてつもなく重い。
今日、私は霊夢とパチュリーに会うことができなかった。
でも、できなかったことが問題なわけではない。
その理由に、問題がある。
今日、私は、霊夢とパチュリーに会いに行くため、外に出ようとしていた。
もちろん用件は、「私はあなたとお付き合いできません。」とはっきり言いに行くためだった。
でも、ここで、まさかの事態が起きた。
アリスがものすごい勢いで私の家に飛び込んできたのだ。
私はその時点でものすごく驚いていたわけだが、アリスが次に起こした行動のほうがもっと驚いた。
アリスは、私に向かって叫んだのだ。
「結婚してください。」と。
あまりの急な展開に、私の脳はついていけなかったのか、私は30秒間ほど硬直したままだったのだろう。
そこで、私は我に返り、次にどうするべきかを考えた。
適当に返すことなどできない。
逃げ出すわけにもいかない。
……いや、最初から答えは一つしかない。
今の私に「恋」はできない。
「ごめんなさい。」とただ一言、言うだけ。
ただ、それだけ。
それだけなのに。
何故出来ないんだろう。
アリスはとても真剣な表情をしていて、私はその表情を前にするとこの一言がどうしても言えなくなってしまって、どうしようもなくなってしまって、
泣き出してしまった。
アリスはさぞ驚いたことだろう。
目の前の少女に求婚したら、いきなり泣かれてしまったんだから。
アリスは何が悪かったのかも分からず、
私を抱きしめることしかできなかった。
私は何をすればいいのかも分からず、
その胸を借りて、思いっきり、泣いた。
ある程度私が泣きやんだ後、アリスは私に質問を投げかけてきた。
「あなた、霊夢とパチュリーに告白されたって本当?」
確か、こう聞いてきたと思う。
私は、「本当だぜ。」と返すと、
「……ごめん。」
急に謝りだした。
そして、
「あの人らが、魔理沙に告白した、ってことを聞いたら、いてもたってもいられなくなって。……私も前からずっと、魔理沙のことが好きだったから。」
こう、言われた。
アリスは、もう一度「ごめんね。」といった後に、すぐにドアから出て行った。
私は弱い。
私は不器用だ。
私が、告白されたときに、「ごめん。私にそのつもりはないんだ。……頼む、今までの関係でいさせてくれるか?」と答えられる人だったらよかったのに。
心が強ければよかったのに。
そう、恋は結局。
Bad Endにしかならなかった。
――――――――――――――――――――
3月14日
時間、というものは、どうやら心の隙間を埋めてくれるものらしい。
三日という期間は、私の心の隙間を埋めてくれるのに十分な時間だった。
というわけで、三日ぶりに日記を書こうと思う。
まず、今日あった出来事から書こう。
今日は、霊夢が家に来た。
そして、「私は何も気にしていないから、早く元気を出して。」と言ってくれた。
強いんだなぁ、と思う。
霊夢は、私が霊夢に会おうとしなくなってから、心配してくれていたらしい。
3日間外に出なかったけど、明日あたり出てみようと思う。
それから、パチュリー。
霊夢は、パチュリーからの手紙を預かっていた。
その手紙には、
「貴女の気持ちを考えないで、いきなりあんなことを言い出してしまってごめんなさい。でも、私が貴女に対する気持ちは変わらない。それだけは言っておくわ。」
と書かれていた。
強いんだなぁ、と思う。
それから……アリス。
霊夢は、ここに来る前に、アリスに会ってきたらしい。
私の親しい友人として、何か知ってることはないか、聞きに行ったらしかった。
そして、伝言を任された。
「あんなことをしてしまった私に、魔理沙に会う権利はない。」
そう、言っていたらしい。
強いんだなぁ、と思う。
私に恋する少女が3人。
とても可愛くて、心も強い。
だけど私は心が弱くて。
「恋」を知らない孤独な少女。
いや、孤独なんかじゃない。
仲間がいる。
彼女ら3人は「恋人」になれないかもしれないけど。
私の仲間なんだ。
決心はついた。
明日3人に会って、「今までの関係でいたい」ということを伝えよう。
もう、私は迷わない。
迷うつもりはない。
私は、自分の信じる道を。
ただ、歩いていくのみ。
――――――――――――――――――――
5月14日
二ヶ月ぶりに日記を書こうと思う。
二ヶ月間、書きたいことが何もなかったわけではない。
むしろ、あの3人は、今まで通り接してくれて、私はそのやさしさに甘えた。だから、たくさん書くべきこともあった。
でもこの日記は、残り、後2ページとなる。
せっかくだから、最後はHappy Endで終わらせたい。
さっきも書いたよう、残りページが少ないので、簡潔に書こうと思う。
二ヵ月ぶりに日記を書こうと思った理由、それはただ一つしかない。
私は、「恋」に到達することが出来た。
とても、簡単だった。
ある少女と一緒になっているときだけ私は違った感情が生まれる。
とても直感的で、分かりやすかった。
私に「恋」を感じさせてくれた少女、その名前は……
最後のページとなった。
相手の名前は、あえて記さないことにしよう。
この日記は、過去のものとなる。
それなら、次の日記に名前を書いたほうがいいと思ったからだ。
そう、私は明日から新しい日記に変える。
今日は5月14日、もうそろそろ8時だ。
新しい日記は、私が明日告白する少女と、今から一緒に買いにいこうと思っている。
新たなる私への、
生まれ変わった私への、プレゼント。
最後に、この本をここまで読んでくれた自分に、というのも何だか変なのだが、感謝の言葉を送りたい。
ありがとう。
私は、今日から幸せになります。
さようなら、以前の私。
ありがとう。
でも魔理沙なら許す。