「早苗ー。もうすぐ御飯できるから諏訪子起こしてきてよ。」
神奈子さまが御鍋をかき混ぜながら私に言いました。分かりました、と簡潔に返事をして作りかけのガンプラを片付け始めます。デスサイズヘルは組立てまで終わっていて、あとは塗装を残すのみです。楽しみは後に取っておきましょう。
諏訪子さまはとても時間にルーズです。時間に縛られたくない、と言って部屋の中に時計を置きません。――代わりに、というのも少し変ですが、大量のぬいぐるみが置かれていて、足場が少ないです。また幻想郷では珍しくないことですが、時計を持ち歩くこともありません。
そんなわけで、朝・昼・夜の御飯時には、神奈子さまに言われて私が諏訪子さまを連れて来ることになっています。夜には大体部屋の中でごろごろしているだけなので楽ですが、お昼時には散歩に出かけている諏訪子さまを探すことになる場合もあって少し大変です。そして朝、当然ながら諏訪子さまはご自分の部屋にいらっしゃるのですが、居間まで連れて行くのは意外に骨が折れる作業だったりします。
いつものように、諏訪子さまは布団の中で蛙のぬいぐるみを抱きしめていました。たしか寝ガエルくん、とかそんな名前だったように思います。ふわふわにデフォルメされたアマガエルです。諏訪子さまのふわふわなほっぺが押し付けられてますね。
一応の礼儀として、まずは声をかけておきます。起きる訳が無いのは分かっていますが、やっておくことが大切なのです。諏訪子さまー、起きてくださーい。
諏訪子さまの隣に座って、もう一度名前を呼んでみます。
ええ、やっぱり起きませんね。
呼吸の度にほんの少しだけ揺れ動く頬が可愛らしいです。
星屑を集めてきたみたいな素敵な色合いの髪が羨ましいので、引っ張ってみましょう。
諏訪子さまはぬいぐるみから手を放して、布団の中で手をもぞもぞさせていますが、まだそれだけです。
続いてほっぺをつんつんします。弾力があって、すべすべしていて、生命力に満ち溢れた白。
ふにゃっ?、と諏訪子さまが可愛らしい声を上げました。指が滑って諏訪子さまの唇の上に。
自然と視線が其方に向かってしまいます。リップ無しでこの瑞々しいピンク色は反則だと思います。
諏訪子さまが息をするのが、唇を、指を伝わってきます。そのたびにふわふわ、すわすわ。ここちいい。
段々と諏訪子さまの唇だけが視界を支配してきて、触覚を絡め取っていって。自分でも気付かないうちに、顔と顔を近づけて。
「早苗ー。御粥さめちゃうから、早くはやく」
神奈子さまの声で、ふっと我に返りました。 何考えてるんですか!私は!
諏訪子さまの寝顔を見ているとまた変な気を起こしそうな気がしたので、布団をはぐことにしました。
立ち上がってみると、自分でも驚くくらい心臓がドキドキいっていました。胸に手をあてて深呼吸。落ち着けっ私。
布団の端を掴んで、一気に引っ張ります。抵抗を感じました。
神懸り的なタイミングで、諏訪子さまが布団を掴んでいます。さっきから起きていたのではないかと思うほどです。
もしそうだったら恥ずかし過ぎるものの、だからといってどうしようもなく。諏訪子さまが眠っていることを信じるばかり。
ついさっきのことを忘れるためにも、布団を引っ張る手に力を込めます。
諏訪子さまの細腕にどうしてそれほどの握力があるのか分かりませんが、布団を引き剥がすのは結構な重労働でした。慣れてますけどね。
水玉模様の子供っぽい寝巻き。着崩れたそれから覗く、黒レースの下着。神は見かけによりません。
こんなことを知っているのは私と神奈子さまだけなのだろうな、と思ったら少しだけ笑い声が出てしまいました。
左手で腕を掴み、右手を背に回して抱き起こします。肌に残る布団の暖かな感触が心地良いです。私まで、もう少し眠りたい、と思ってしまいます。
「う…んぁ?…さにゃえー?」
やっと目が覚めてきたようです。諏訪子さまの方から私の腕にしがみ付いてきました。そのまま引っ張り起こして、という意味でしょうか。
すべらかな肌が私の手を撫でていくの感覚が、私の頭をぼやけさせます。
そういえば前に、この赤ちゃんみたいにきめ細かい肌のために何かやっているのか聞いたことがあります。しばらく悩んで「かえる跳び?」でした。
常識的に考えてかえる跳びなんて無意味なのですが、この幻想郷に常識は通じません。というわけで一ヶ月ほど試してみましたが、効果は見られませんでした。
思考が春色小径に迷い込んでる間に、せっかく開きかけた諏訪子さまの瞳が、また閉じてしまっています。
端についた目ヤニを取ってあげている場合ではありませんでした。
諏訪子さまを支えてなんとか立ち上がらせて、落ちてきている頭を軽く叩きます。
金髪がふわりと舞って綺麗でした。
「もーちょっとー。ねーむーいー」
意味のある言葉を呟き始めたので、もう大丈夫でしょう。あとは諏訪子さまの腕やほっぺを引っ張って連れて行くだけです。
「とーみんしたいー」
普段以上に子供っぽいイントネーションで紡がれる言葉が非常に可愛らしいです。母性をくすぐられる感じです。
目もとをこすりながら言うことでさらに可愛さ二倍です。ずるいです。
「わひゃっ」
部屋から出るときに、諏訪子さまが足を踏み外しました。ふすまの段差でしょうか。
結果として抱きつく形になった諏訪子さまの胸のふくらみが伝わってきます。
最近になってほんの少しだけ成長したようです。幻想郷で私だけが知っている重大情報かもしれません。
上目遣いが何を求めているのか分かりません。頭を撫でてあげたら可愛らしい鳴き声を出しました。
猫のように丸っこくて、犬のように真直ぐな、可愛らしい声でした。
「あ、やっと起きてきたか。今日は随分かかったねえ」
ちゃぶ台の前に正座する神奈子さまは普段と変わらぬ笑みを湛え、縁の朱色がきれいなお皿の上で秋刀魚が丸っこい目で宙を仰いでいます。
お味噌汁から立ち上る湯気に少し元気がないことを除けば、普段通りの朝です。
「んぁ……神奈子おはよぅ」
神奈子さまが御鍋をかき混ぜながら私に言いました。分かりました、と簡潔に返事をして作りかけのガンプラを片付け始めます。デスサイズヘルは組立てまで終わっていて、あとは塗装を残すのみです。楽しみは後に取っておきましょう。
諏訪子さまはとても時間にルーズです。時間に縛られたくない、と言って部屋の中に時計を置きません。――代わりに、というのも少し変ですが、大量のぬいぐるみが置かれていて、足場が少ないです。また幻想郷では珍しくないことですが、時計を持ち歩くこともありません。
そんなわけで、朝・昼・夜の御飯時には、神奈子さまに言われて私が諏訪子さまを連れて来ることになっています。夜には大体部屋の中でごろごろしているだけなので楽ですが、お昼時には散歩に出かけている諏訪子さまを探すことになる場合もあって少し大変です。そして朝、当然ながら諏訪子さまはご自分の部屋にいらっしゃるのですが、居間まで連れて行くのは意外に骨が折れる作業だったりします。
いつものように、諏訪子さまは布団の中で蛙のぬいぐるみを抱きしめていました。たしか寝ガエルくん、とかそんな名前だったように思います。ふわふわにデフォルメされたアマガエルです。諏訪子さまのふわふわなほっぺが押し付けられてますね。
一応の礼儀として、まずは声をかけておきます。起きる訳が無いのは分かっていますが、やっておくことが大切なのです。諏訪子さまー、起きてくださーい。
諏訪子さまの隣に座って、もう一度名前を呼んでみます。
ええ、やっぱり起きませんね。
呼吸の度にほんの少しだけ揺れ動く頬が可愛らしいです。
星屑を集めてきたみたいな素敵な色合いの髪が羨ましいので、引っ張ってみましょう。
諏訪子さまはぬいぐるみから手を放して、布団の中で手をもぞもぞさせていますが、まだそれだけです。
続いてほっぺをつんつんします。弾力があって、すべすべしていて、生命力に満ち溢れた白。
ふにゃっ?、と諏訪子さまが可愛らしい声を上げました。指が滑って諏訪子さまの唇の上に。
自然と視線が其方に向かってしまいます。リップ無しでこの瑞々しいピンク色は反則だと思います。
諏訪子さまが息をするのが、唇を、指を伝わってきます。そのたびにふわふわ、すわすわ。ここちいい。
段々と諏訪子さまの唇だけが視界を支配してきて、触覚を絡め取っていって。自分でも気付かないうちに、顔と顔を近づけて。
「早苗ー。御粥さめちゃうから、早くはやく」
神奈子さまの声で、ふっと我に返りました。 何考えてるんですか!私は!
諏訪子さまの寝顔を見ているとまた変な気を起こしそうな気がしたので、布団をはぐことにしました。
立ち上がってみると、自分でも驚くくらい心臓がドキドキいっていました。胸に手をあてて深呼吸。落ち着けっ私。
布団の端を掴んで、一気に引っ張ります。抵抗を感じました。
神懸り的なタイミングで、諏訪子さまが布団を掴んでいます。さっきから起きていたのではないかと思うほどです。
もしそうだったら恥ずかし過ぎるものの、だからといってどうしようもなく。諏訪子さまが眠っていることを信じるばかり。
ついさっきのことを忘れるためにも、布団を引っ張る手に力を込めます。
諏訪子さまの細腕にどうしてそれほどの握力があるのか分かりませんが、布団を引き剥がすのは結構な重労働でした。慣れてますけどね。
水玉模様の子供っぽい寝巻き。着崩れたそれから覗く、黒レースの下着。神は見かけによりません。
こんなことを知っているのは私と神奈子さまだけなのだろうな、と思ったら少しだけ笑い声が出てしまいました。
左手で腕を掴み、右手を背に回して抱き起こします。肌に残る布団の暖かな感触が心地良いです。私まで、もう少し眠りたい、と思ってしまいます。
「う…んぁ?…さにゃえー?」
やっと目が覚めてきたようです。諏訪子さまの方から私の腕にしがみ付いてきました。そのまま引っ張り起こして、という意味でしょうか。
すべらかな肌が私の手を撫でていくの感覚が、私の頭をぼやけさせます。
そういえば前に、この赤ちゃんみたいにきめ細かい肌のために何かやっているのか聞いたことがあります。しばらく悩んで「かえる跳び?」でした。
常識的に考えてかえる跳びなんて無意味なのですが、この幻想郷に常識は通じません。というわけで一ヶ月ほど試してみましたが、効果は見られませんでした。
思考が春色小径に迷い込んでる間に、せっかく開きかけた諏訪子さまの瞳が、また閉じてしまっています。
端についた目ヤニを取ってあげている場合ではありませんでした。
諏訪子さまを支えてなんとか立ち上がらせて、落ちてきている頭を軽く叩きます。
金髪がふわりと舞って綺麗でした。
「もーちょっとー。ねーむーいー」
意味のある言葉を呟き始めたので、もう大丈夫でしょう。あとは諏訪子さまの腕やほっぺを引っ張って連れて行くだけです。
「とーみんしたいー」
普段以上に子供っぽいイントネーションで紡がれる言葉が非常に可愛らしいです。母性をくすぐられる感じです。
目もとをこすりながら言うことでさらに可愛さ二倍です。ずるいです。
「わひゃっ」
部屋から出るときに、諏訪子さまが足を踏み外しました。ふすまの段差でしょうか。
結果として抱きつく形になった諏訪子さまの胸のふくらみが伝わってきます。
最近になってほんの少しだけ成長したようです。幻想郷で私だけが知っている重大情報かもしれません。
上目遣いが何を求めているのか分かりません。頭を撫でてあげたら可愛らしい鳴き声を出しました。
猫のように丸っこくて、犬のように真直ぐな、可愛らしい声でした。
「あ、やっと起きてきたか。今日は随分かかったねえ」
ちゃぶ台の前に正座する神奈子さまは普段と変わらぬ笑みを湛え、縁の朱色がきれいなお皿の上で秋刀魚が丸っこい目で宙を仰いでいます。
お味噌汁から立ち上る湯気に少し元気がないことを除けば、普段通りの朝です。
「んぁ……神奈子おはよぅ」
ただ、幻想郷で秋刀魚って獲れないかなと。
みんな死んじまうぞぉ!
あぁ、どうしよう。
俺もドキドキしてきた。諏訪子ぉぉぉぉ!
秋刀魚については完全にやってしまった。そうだよ! 海無いじゃん! 淡水魚しか取れないんだ! あーうー!
何はともあれケロちゃんが可愛いければ個人的には成功です。