山
- 2011/05/12 18:33:44
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少女が山を登っていた。
幻想郷で山と言えば、妖怪の山を意味する。妖怪たちのねぐら、と言えば陰気なふうにも聞こえるが、神々も仙人も住まい、その頂のさらに上空は天界にさえ通じている。
事実、今まさに登っている山道は、春の陽光を大地や草木で暖かく受け止め、穏やかな大気を作っている。やや強い風も決して厳しくはない、ある程度踏み鳴らされた山道を行く少女の背を押してくれていた。
「はぁ……はぁ……」
だが、自然の恩恵を受けながらも、少女の表情は優れなかった。
少女の顔は赤く染まり、汗に濡れている。漏らす吐息も熱く、疲労しきっていることは明らかに見える。
その理由は、少女の体躯からおのずと知れよう。背丈も低いが、その身長と比べてさえ手足が細すぎる。細いのは手足のみならず、体じゅうが針金のように痩せている。
病的、という表現がそのまま当てはまる。彼女は虚弱児であった。
これが妖怪であれば、見た目どおりの身体とは限らない。姿かたちに見合わない、強い力を持つ妖怪などざらにいる。だが、彼女はそうではない。
人間の少女だ。人間の中でも、ひときわ弱い少女。
そんな、吹けば飛ぶような儚い命の持ち主が、必死で山を登っている。
自殺行為以外の、何者でもなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「どうした、まだほとんど登り始めたところだろう」
だが幸いなことに、少女は一人ではなかった。
少女の小さな手を、引いてくれる者がいる。
小さな少女に比べると数段背が高く見えるが、手を引く彼女自身も、決して大柄なほうではない。
上白沢慧音。
身軽な少女の代わりか、慧音はその小さな背に、大きな荷物を担いでいた。登山に必要な荷物だろうが、それにしても大げさなくらいに大きい。
人里の守護者が今は、たった一人の少女を守っている。
「は、はい……はっ、はぁ」
「無理に返事をしなくてもいい、どうしても返事をしたければ頷きを返すか、指にほんの少し力を入れろ」
慧音の手を握る少女の指が、その声に反応した。
手を握る――といったが、少女の握力などたかが知れている。少女自身の力では、手を繋ぎ続けることさえできない。だから慧音が少女の手をつかみ、山道を引っ張り上げるように少女を導いている。
そこまで慧音に頼っているというのに、なお少女はつらそうに山道を登る。
弱々しい少女。今にも熱病に倒れてしまってもおかしくはない。
そんな少女だったが、ただ一点。
その両目だけは、強い輝きを放っている。
目つきが鋭いわけではない、だがそれでも少女の瞳は、尋常ならざる強さを宿していた。その視線は、慧音を視界に入れながらも、さらに慧音の向こう側を睨み据えている。
少女の視線の先は山道。
だが、少女はうつむいてはいない。視線は、さらにその先を見る
山を。
この雄大な妖怪の山を、少女は目をそらすことなく受け止めている。
今一度言おう。これは自殺行為にしか見えない。
だがそれでも、少女は山に挑む。
自殺なんかではないと、少女だけは、頑なにそう信じている。
/
生きるのに不自由する少女だった。
持病があるわけではない。だが、何の理由も無く、ただ体が弱かった。食う物を力に変え体を動かす代謝機能の効率が著しく悪い、というのが八意永琳の見立てであったか。その上内臓が弱いため食が細い。無理に食うと吐く。そうするとまた消耗する。
その体力の無さゆえの病弱だった。よく床に伏せった。
体のどこかが欠けているわけではない。稗田の阿礼乙女みたく、短命を運命付けられているというわけでもない。両親は心身共に健康で、よく可愛がってもらえている。裕福とは言えずとも、不自由を感じたことは無い。体の弱さ以外のところでは、むしろ恵まれていると言ってもよい。
頻繁に体調を崩した。そのたびに看病をされた。両親のみならず、ご近所の皆様にも気を遣ってもらえた。精のつく食材や料理を差し入れてもらうことが週に一度ほどもあったし、寺子屋に通う子供が帰りに遊びに寄ることもあった。体を動かす遊びはできないので、ほとんどが雑談で、しかも少女は喉も弱いために自分から発言することは滅多に無い、ほとんどは聞き役だった。寺子屋での話を教えてもらい、嬉しそうに笑んでいた。
そういった寺子屋の子供たちとはまた別に、友達もいた。稗田阿求。
稗田の九代目は、短命ではあっても病弱ではない。まだまだ歳若い今の阿求は、常日頃よりよく出歩き、時には遠出して妖怪と面識を持つこともある。
それでも、長く生きられないという共通項からか、二人は意外に良い関係を築いていた。寺子屋の子供たちとはまた別に、阿求のほうから少女を訪ね、気ままに茶飲み話など楽しんでいく。見識の広い阿求の話は、家の外をあまり知らない少女をたいへん喜ばせた。
/
里の中での少女は、恵まれていた。
なのに、少女は今は、その恩恵を全て放り出し、ひたすらに山を登っている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
山を登る少女に、つらさはあっても迷いは無かった。表情に出す余裕は無いが、胸の内には喜びさえあった。
生まれてよりずっと体の弱かった少女は、物心ついたときからずっと、山を見続けていた。親にせがんで山が窓からよく見える部屋に自室を移してもらい、病床からも山を見上げ続けていたほどであった。
「決してうつむくな、顔を上げろ」
「はぁ、はぁ」
「前だけをにらむな、周りの空気を視界に入れろ。音に耳を傾けろ」
「はぁ、はぁ」
慧音は頻繁に少女に語りかけた。元気付けるためだが、声音はむしろ厳しい。
慧音の声を聞きながら、少女は言われたとおり、周囲に耳を傾ける。すると、幾通りもの自然の声が聞こえてくる。風が草木を鳴らす音、鳥たちのさえずり、草の間からは虫の声、遠くからは風そのものが空を走る音が聞こえる。
静かな病床には届かなかった、大きな自然の声に、体が包まれる。
体に活力が溢れてくるかのような感覚に、少女の身が震えた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「……そうだ。まだまだ、山道は続くんだからな」
少女の歩みに力がみなぎった。それは、他の者から見ればあるか無きかの弱々しい力でしかなかったが、少女にとっては渾身の力。
少女が慧音の手を握り返す。慧音に手を引かれ、少女は山道の先を見る。
――この人に着いて来てもらって本当に良かった。
感謝を胸にいだきながら、少女はさらに山を行く。
目指す先は、まだ、遥か彼方。
/
幸せだった、と少女は自分で自分をそう言った。
少女がそう発言するたびに、周りの人間は首肯して頭を撫でた。ただ、上白沢慧音だけは、その発言に対してぎこちなく笑うのを止められなかった。幸せだった、と過去形で語る少女が、既に覚悟しているということが明らかだったからだ。いつお迎えが来てもおかしくない、だから最期の瞬間まで、その幸せを噛み締めようとする。それについて、慧音は頭の中でどうしても考えてしまう。
その少女の潔さを、おそらく、他の大人たちも薄々は気付いていたことだろう。子供たちとて、中には気付いているものもいたかも知れない。
不憫だ、と慧音は思う。だが口には出せなかった。他ならぬ本人が幸せだと言っているのだ、部外者の慧音がその発言を嘘だと否定することはできない。
歴史を紐解き、書物を読み、あるいは知人を頼りもした。それでも何もできなかった。どんな薬でも作れるというのは嘘か、と八意永琳に八つ当たりしたことさえあった。今生きていることこそが奇跡なのだ、それでも無理やり延命するなら、妖怪になるか不死になるかくらいしかない、とまで言われた。
歴史を食い、新たに創造することは何度も考えた。だが、歴史を創造するとは、新たな歴史の流れを創ってしまうということ。少女が健康な体で生きる歴史を創れば、その反動はとてもとても大きなものとなる。それが悪い方向に向いた場合、ことは人里のみならず、幻想郷全土にまで影響する。一人の少女とそれ以外の多くの幻想郷の住人たちを秤にかけ、そのたびに慧音は自分を責めた。
少女の弱さは、そこまで決定付けられたものだった。
/
「――このあたりで休憩にするぞ」
「はっ、はぁ……え……?」
少女の疑問符に構わず、慧音は少女の手を離した。少女がへたり込むが、構わず慧音は休憩の準備を始める。
慧音が休憩場所に選んだところは、程良く草が生い茂った場所だった。坂の勾配もそれほどきつくはないし日当たりも良い、休憩には適した場所と知れる。
てきぱきと慧音は準備を整えた。背の荷物から取り出したそれを組み上げると、あっという間にテントが完成する。まるで練習してきたかのような手際の良さ――勿論、慧音はこの日のために練習してきたのだった。
「ほら、早く中に入るんだ」
「え、でも……あったかくて、気持ちいいですよ?」
「それが油断だ。風にさらされ続ければ人間はごく自然に疲れていく。今のうちに風の無い場所で休みなさい」
せかすように慧音が少女をテントの中へと引っ張り込んだ。
用意されたクッションに座って、少女がタオルで汗を拭き一息つく。呼吸が整う頃には、食事の準備ができていた。と言ってもこの場で作ったわけではなく、準備してあった弁当を広げただけだが。
「食べる前と後に、薬を忘れるな。永琳の薬はよく効く、今後の登山の助けになってくれる」
「はい、ありがとうございます」
「ご飯はよく噛んで味わうこと。粥だと思って飲み下すな。まあ、お前ならわかっているだろうが」
少女に的確に指示する慧音の声音は、ともすれば厳しく聞こえる。
だが、慧音自身の眼は優しい。
その矛盾は、慧音の複雑な胸中から来ていた。
/
ある日のこと。少女に弟が生まれた。
健康優良児だった。生まれた頃から体が大きく、それに負けないくらい泣き声も大きかった。
少女とは歳の離れた弟。両親の腕の中で、力の限りに泣き、泣き疲れれば幸せそうに眠る。
少女には赤子を抱く力は無かったから、親の腕の中の弟を、くるむように抱き締めさせてもらった。
熱い。
最初、熱病でも持っているのかと思った。だが、そうではないのだと親は言う。
これが、健康な赤ん坊の持つ、生きる力の強さなのだと。
少女はそれを聞いて、嬉しそうに笑った。
こんなに元気な弟が生まれた。そのことを、心から喜んだ。
少女の弟は、これ以上なく、祝福されて生まれたのだ。
だから、その時が来たのだ、と少女は思った。
今この時を置いて、他は無いのだと。
「山を登りたいだと……!?」
「はい」
微塵も迷うことなく、少女は慧音に言った。
無謀を通り越して不可能としか思えない言葉だった。人里の中を出歩くだけでも満足にできるとは言えない体なのだ。
駄目だ、とほとんど反射的に慧音はさえぎった。それでも、少女は退かない。
「弟が生まれました。だから、今しかないんです」
「ふざけるな、弟がいるから自分はいなくなってもいい、なんて、そんな馬鹿な話があるか!」
「しかし、万が一のことがあっても、弟がいるなら――」
「言うな! 万が一などと口にするな、お前を自殺させるわけにはいかない!」
「――はい、では言いません。しかし、先生も撤回してください。私は、自殺しに行くわけじゃない」
「では――なんだ」
慧音の目を見て、少女は答えた。
「私は、生きるために山を登るんです。山を登らなければ、私の命は完成しないと、そう思うのです」
けして声が大きかったわけではないが、それでも慧音は、その言葉に気迫を感じた。
少女は語った。私は、ちっぽけな自分を感じながら、生きてきたと。
だから、あの山に憧れた。
あの雄大さに、心から惹かれてしまった。
「あの山に比べれば、人間などみんなちっぽけだろう」
「ですが、他の人たちはみんな、自分の足で立っています――人間に限らない。どんな命もそう。でも、私は違います」
「生かしてもらったことが恥ずかしい、なんて言うつもりか」
「そうは言いません。嬉しく、ありがたく思っています。ですが、誇らしいとは思えない」
少女はそこで言葉を切った。常に無く熱の入った言葉を吐いて喉が弱ったか、すがるように両手で湯のみを持ち上げ、ちびちびと茶をすすった。
初めて、少女は自分の本音を語っていた。親にも、友達の子供たちにも、親友の阿求にも語ったことがないものだった。
その言葉は、熱く、強い。
「山にこだわる必要は無い、自分の足で登ることにこだわる必要は無い。少しずつでいい、元気な体になるために、目標を越えていけばいいじゃないか」
「そんな悠長なことを言ってはいられません、明日にも私は、死んでしまうかも知れないのです」
「そんなことはない、死んでしまう、などと軽々しく口にするな」
「私にとっては、身近なことです」
「それでも今まで生きてきたじゃないか、それを恥じることは――」
「先生は、死にかけたことって、ありますか?」
静かにそう問いかける少女に、慧音は息を詰めた。
――ある。慧音とて、半獣として、人間の守護者として修羅場をくぐったこと、一度や二度ではない。自分の守りたいものを守るため、命をかけたこともある。
そしてそのたびに、慧音は生き残ってきた。だから、こうしてここにいる。
だが、少女が言いたいのは、そういうことではない。
「――羨ましいです。私には、命を落とす間際まで、あがくことはできない」
「……それは」
「きっと、疲れきったまま、布団の中で、穏やかに死んでいくことしかできない」
先生。
私は、最期まで生きあがきたい。
そういう自分になりたい。
「このまま、だらだらと生き延びさせてもらって、何もせぬまま死んでいく――そんな人生は、嫌なんです」
「言いすぎだ。先のことはまだわからない。もう少しすれば、体が大人へと育っていく。体力も、その時につければいい」
「その変化に私の体が持つかどうか――いいえ、そういう問題でさえない。
私は、もう、先のことを考えられなくなっているんです」
今日死ぬかも知れない。
明日死ぬかも知れない。
体が弱いまま生き続けてきた少女は、最近になって特に、そう考えるようになった。
明日のことさえ悲観的にしか考えられない、だったらどうして、一年も二年も先のことを考えられるだろうか。ましてや将来など、夢に見ることさえできはしない。
だって、ここまで生き延びさせてもらったのだから。
もう十分なのではないか。
心のどこかでそんなあきらめが、じわりと顔を覗かせる。
その心の弱さが、何より嫌だった。
「こんなみっともない私を――弟に、見せたくない。私は、胸を張って、あの子の姉だと言いたいんです」
「みっともないなんて、私は思わない。お前はいつも、一生懸命生きているじゃないか」
「私には、そうは思えません。生きているんじゃない、私は生かされているだけです」
そんなことはない。そうは思えません。
もう一度そのやり取りをして、これ以上は平行線だと思い、共に口をつぐんだ。
――それでもやはり。慧音には、この少女がちっぽけだとは思えない。
だって、こうして自分の内心を語る少女は、とても輝いて見える。
どこにこんな力があったのかと思えるくらいに、少女は熱く、慧音に語りかけた。
慧音の心が揺れる。もしも――山に行くという彼女の決意を折ってしまうと、この熱い力も、無くなってしまうのではないだろうか。
それだけの強い決意を感じた。いや、強いだけならまだいい。せっぱ詰まった、後の無い人間の決意――それを、決死の覚悟という。
山に行くのをやめさせるか、行かせるか。
どちらが、彼女を死地に追いやることになってしまうのか。慧音には、わからなくなっていた。
「お願いです、先生。私の手を引いて、一緒に山を登ってください。
失礼なこととは承知しています、先生には、私に立てる義理も無い。断られてもしょうがないと思います。しかし、他に頼れる人がいません」
「私で、いいのか」
「本当は――ここまで言ったのなら、自分の足だけで登るべきなのでしょう。ですが、それは無理だと、わかっています。私の弱い体では、入り口に立つことさえできない。
誰かに手を引いて、支えてもらわなければいけないのです」
少女は涙を流していた。その涙は、羞恥から来たものだった。
あれだけ大きな口を叩いておいて、結局また、誰かの力を借りようとしている自分のふがいなさ。
今までの言葉で唯一、少女はそこだけを恥じていた。それでも、恥を忍んで、慧音に懇願した。
「……山頂までは行けない。それは、どんな屈強な大人でも無理だ」
少女の覚悟を見て、必死で頼られて。そこまでされては、慧音は断れなかった。
もし断ったとしても、少女は一人で山に行っただろう。それを力ずくで止めれば、それが少女の傷になる。最初から、慧音に選択肢は無かったのだ。
「二合目まで。阿求は、自力でそこまで登ったことがあると聞きました」
「阿求め、余計なことを……あれは阿求が健康で、かつ使命感があり、知識を持っているからだ。妖怪にも協力者は多い。普通の子供は、そんなところまでは登れない」
「使命感ではありませんが、情熱では負けません」
「自分で言うな、馬鹿者……一合目でいいだろう。これでも、子供の足ではかなりの難行だぞ」
「二合目までです。譲れません」
「ああもう……」
結局、折れたのは慧音のほうだった。
/
はぁ、はぁ、という呼吸は、ぜぇ、ぜぇ、という荒いものに変わっていた。
もはや歯を食いしばる力も残っていない。口はだらしなく緩み、顔のみならず体じゅうが滝のような汗に濡れていた。
「どうした、まだ一合目を越えたところだぞ――何ならここで諦めて帰るか?」
本当ならそうしてほしかった。だが、少女は強い視線で睨み返してきた。意思は潰えていない。それどころか、ますます瞳の奥底が燃え盛っているようにさえ見える。
その視線の強さに慧音は気圧されかける。だが、決して慧音は弱みを見せない。慧音は少女の手を引く限り、頼れる大人でなければならない。
「だったら踏ん張ることだ。最初の取り決め通り、お前が転んだり膝をついたりすれば、そこで登山は打ち切るからな」
より正確にいうなら、もしそうなった場合、少女はもう登ることはできない。
元より、少女に山を登るだけの体の強さは無かった。普通の子供でさえ、この山を登るには相当な体力が必要になる。
それでも少女は登ってきた。気力のみを頼りにしてだ。
無論、慧音の支えが肉体、精神共に支えたことも大きい。だが、少女の体に力を行き渡らせているのは、精神力、執念によるものだ。
そんな少女が膝を折ったならば、それはつまり、全てが燃え尽きたということになる。
それを、慧音も、少女も、わかっている。
「ここから先は、もう休憩無しだ。目標の二合目まで、一気に登る」
そうするより他に、方法は無い。少女にはもう、休憩で体力を取り戻す余裕さえありはしない。
慧音は慎重に少女の手を引く。慧音にとってはかなりゆっくりのペースだが、消耗した少女にとっては少しだけ急ぎぎみのペースで。
こういった場合、手を引くほうが格段に消耗するのは当然だ。意図して年少者の歩調に合わせているならなおのこと。まして慧音は登山に慣れているわけでもない。楽なわけがない。
だがそれでも、少女の手を引く限りは、慧音は強くあらねばならない。
二人は汗に濡れた手を繋ぎながら、歩みを止めずに登り続ける。
/
「挨拶も無しに行ってしまう気ですか」
充分に日を置いて準備を整えた。
そして当日になって山に向かう直前、二人の前に現れたのは阿求だった。
少女はこの日まで、山に登ることを慧音以外の誰にも話してはいない。両親も阿求も、今日山に向かうということは知らないはずだった。
「あなたと慧音さんの様子がおかしいことくらい、少し見ればすぐわかります。詳細はブン屋に聞きました」
あのおしゃべり天狗め、と慧音は嘆息した。慧音は事前に山に入る許可を得るため、大天狗たちに話をつけている。
噂好きの天狗たちなら知っていてもおかしくはないが、こうまで口が軽いとは思っていなかった。
「阿求ちゃん、その」
「心配をかけたくなかった? それとも、止められたくなかった? ……いいんですけどね、別に。黙っていたことを怒ってるんじゃないんですよ」
「やっぱり、怒ってる?」
「いいえ、ちょっと憂鬱なだけです。この後、あなたのご両親に事情を説明しなければいけませんから」
朝になって体の弱い少女がいなくなっていれば、すぐさま事件だと気付かれてしまう。
愛する娘を探すため、人里じゅうを探そうとするかも知れない。それを放っておくわけにもいかないだろう。
「手落ちですよ、慧音さん。本来なら、あなたが説明しておくべきところでしょう」
「……すまん。正直、会わせる顔が無かった」
「まあわかりますけどね。半狂乱で責められても不思議じゃないでしょうし」
「…………本当にすまん」
かく言う阿求の言葉にも、咎めるような声音の強さがあった。その責められる役目を、これから彼女が負うことになるのだ。
両親に言えば、きっと止められる。それは親として当然のこと。
それでも行きたいと願ったのは、少女自身だ。
「ごめんなさい、阿求ちゃん」
「今さら謝られてもしょうがありません。それより、これからの話をします……山に登るんですよね」
「うん、登る」
きっぱりと頷く少女の言葉を受け止めて、阿求はこれから少女の向かう先を仰ぎ見た。つられて、少女と慧音もそちらに目をやる。
妖怪の山。
山頂から緩やかに煙を吐き出す大きな山が、悠々とそびえ立っている。
「あなたはこれから、神に会いに行くのです」
「へ?」
阿求がいきなり変なことを言ったので、少女は思わず気の抜けた声を出してしまった。
少女は、別に神様に会うために登山するわけではない。ただ、山に挑むため、己に挑むために登るつもりだったのだが――
「いや、別に変な意味じゃありません、最後まで聞いてください」
「う、うん」
「これは、昔からの話です。人は、山に神を見てきました。
これは、実際に山に神が住むことが多かったため、遠巻きに山を見るだけでも神性を感じられたのだろう――というように推測はできますが、別の一面もあります。
つまり、山が、神そのものではないだろうか、という話です」
「山が、神様……?」
「神話上、神の体が大地や山になるという話もあります。昔は、山そのものをとぐろを巻いた蛇神だとした地域もあったそうです。
かように、山と神は切り離せないものです。元より、自然と神が切り離せないものではあるのですが、その中でも山は特別とされます。
山に神を見る――これは、理屈ではない、人間が大昔から見てきた、確かな真実です」
そこで阿求は言葉を切り、少女の両手を取った。
いつもは冷たく冷えていることが多い少女の両手が、今日は少し温かかった。
「あなたが山に見たものも、きっと同じなんでしょう――そこに、絶対的に大きなものを感じた。だから、今からそこに向かおうとしている」
「うん」
「ならきっと、あなたは神を感じられます……見て、聞いて、感じて、色んなことを、学んできてください」
少女の手を離して、ぽん、と背中を優しく叩いた。
「私はあなたのご両親をなだめながら、ゆっくり帰りを待つことにしますよ」
それが当然であるかのように、阿求は言ってくれた。
ありがとう、と少女は頭を下げた。阿求の気持ちが、本当にありがたかった。
慧音に抱きかかえられ、少女が空を行く。その姿が見えなくなるまで、阿求はじっと見送っていた。
/
ぜえ、ぜえ、が、ひゅう、ひゅう、というかすれるような音になっていた。もはや人の呼吸とは言えない、死にかけの獣の呼吸だ。
だがそれでも、少女は折れてはいなかった。ゆっくりとではあるが、進める足は山道を踏みしめ、さらに先へと足を運び、止まらない。
「……もうちょっと、もうちょっとだからな……!」
手を引く慧音の声に、少女はもう何の反応も示さなくなっていた。言葉の意味が聞き取れているかどうかも怪しい。目は半開きで、熱に浮かされているようで――それでも、閉じきってはいない。
ぼやけた視界で、少女は山道の先を見る。
さっきまで流れていた汗が、嘘のように引いていた。体の熱を奪い蒸発し、もう汗が出なくなっている。
体の機能が、ほとんど動かなくなっている。
なのに、少女は諦めない。
諦めない、という意志だけで、体を無理やり動かしている。朦朧とした意識をなんとか繋ぎとめ、一心不乱に山を登る。
少女は――いつ訪れるとも分からぬ終わりに向かって、歩いている。
もう、自分がどのくらい登ったのか考えることさえできない。確かなものは手を引く慧音の存在と足が踏む山の存在だけで、他のことは全部、どんどんわけがわからなくなっている。
そんなになっても、少女はひたすらに登る。
少女が望んだのだ。自らの命の限りに生きることを。
たとえ、その果てに、何が待っていようとも――
「!?」
がくん、と少女の体が止まった。衝撃で、意識が飛びそうになる。
少女が気を失わずに済んだのは、慧音の言葉が、耳元ではっきりと聞こえたからだった。
「着いたぞ」
「――――」
「着いた、目標の二合目だ……お前は、登りきったんだ」
閉じかけていた少女の眼が、見開かれた。
――山道が、そこで途切れていた。
いや、正確に言えば、山道から外れたところに慧音が導いたのだ。慧音は始めから、二合目と言えばここが終着点だと、心に決めていた。
途切れた先に、人里が見えた。
「――――!」
視界が開けていた。山道が途切れた向こうは、谷だった。
谷の両脇に山が見えた。右側の山からは滝が流れ落ち、谷底の川へと下っている。ごうごうと自然そのものの強さを凝縮したような轟音を響かせながら、大量の水が落ちている。
だがその滝でさえ、山の一部でしかない。少女が登ってきた山道さえかすむような大きさの山が、谷の両側に広がっている。その大自然の威容に、知らず、圧倒される。
そしてその両脇に広がる山の向こう、谷を越えたさらに先に、人里が見えた。
遠く離れた人里は小さく見えるが、それでも人の営みが感じられる。あの里のどこかに、自分の家がある。
こんなところまで来た。
少女はついに、たどり着いた。
ふらふらと、少女は谷に近づいた。落ちてしまわないよう、慧音がすぐ横についてきてくれる。この先生には、どれだけ感謝しても足りはしない。
――少女の体は、とうに限界を超えていた。
なぜまだ生きているのか、不思議なくらいで――それはまるで、ほんの少しだけ残ったロウソクの火を、無理やりに燃やし続けたようなものだった。
だが、それでも少女の体はまだ、自然に動いていた。
両手を口に当てて。
大きく息を吸い。
渾身の力で、叫んだ。
「ヤッホー」
「Yahoo!」
少女の叫びは、決して大きな声ではなかった。渾身の力を込めてさえ、弱々しい声しか出なかった。
だというのに――少女の体には衝撃が走っていた。返されてきた声が、あまりにも力強いものだったからだ。
だが、話に聞く山彦というのは、こちらの声を返してくるというだけのものではなかっただろうか? 自分の声が、そこまで強く鋭いものだったとは思えない――
「ヤッホー」
「Yahoo!」
試しにもう一度呼んでみた。今度は、もっと大きな声が返ってきた。
その伸びやかな強い声に、少女の体が、心が、魂が、ぞくぞくと震えた。自分の声に、山が答えてくれている。
――返さないと。
強い声で答えられたのなら、もっと強い声で、返さないと。
少女自身もわけがわからないまま、衝動的に叫び返した。
「ヤッホー」
「Yahoo!」
「ヤッホー」
「Yahoo!」
「ヤッホー!」
「Yahoo!!」
叫ぶほどに、強い声が返ってくる。
大自然がそのまま答えているかのような、畏ろしく強い声。
つられるように、少女の声も大きくなっていった。全身全霊で叫んだ。魂を込めた。そうしたい、そうしなければならないと、何の理由も無く思った。
すると、答える声もまた、さらに大きくなっていった。少女に答えるように、さらに強い声を求めるように。
――すごい。
――すごい、何これ!
「ヤッホー、ヤッホー、ヤッホー!」
「Yahoo! Yahoo!! Yahoo!!!」
――少女と山彦の声の応酬を、慧音はすぐそばで見ていた。
見ながら、自分の目の前で起こっていることが、信じられなかった。
さっきまで、精魂尽き果ててふらふらだった少女だ。それが、山と里に向かって叫ぶたびに、声が力強くなっていく。
声だけではない。少女の体じゅうが、目に見えて生気に満ち溢れている。みるみるうちに、回復していく。
いや、回復、という言葉だけではとても足りない。言うならば、それは獲得。
今まで生きる力に欠けていた少女が、今まさに、その欠けていたものを獲得しているかのような――
「ヤッッ……ホー!!」
「Yyyyahhooooo!!!!」
未だかつて無い凄まじい体験に身を預けながら、少女はようやく理解した。
これが山だ。
これが、神だ。
いや、もっと言うなら――これが、世界だ。
今、少女の目には山の全てが映っていた。所狭しと生い茂った木々、ところどころ砕け落ちた寒々しい岩肌、木々の合間を縫うように動き回る動物たち、河の水の向こうには魚が見える、跳ねる魚を河童が手づかみで捕らえた、山肌の上を強い風が吹いていた、風に乗って天狗と鳥が並んで飛んでいた、谷の向こうから少女自身へと風がぶつかってくる、流れる大気を吸い込むと清涼な川水の匂いと濃密な木々の匂いを嗅ぎ取れた、山の向こうには平地があった、人の住む里が、見えた。目に映るもの全てが偉大で、尊く見えた。
もう一度、叫んだ。山彦が、答えてくれた。
少女と山彦、双方の叫びが、青い天へと吸い込まれていく。
あれほど憧れていた山を、少女はようやく、身をもって知った。
「――先生」
「! なんだ」
急に呼ばれて、慧音は反射的に答えた。少女が顔を向け、見上げてくる。
その顔は、喜びに満ちていた。
「帰りましょう、先生……弟に、会いたい」
「……お前」
「今日のこと、これからもずっと、私は、弟に、聞かせてあげたい――」
そこが限界だった。少女の体が慧音のほうへと倒れこむ。
受け止める慧音。だが、もうほとんど心配はしていなかった。
少女からは、穏やかな寝息しか聞こえない。遊び疲れた子供のようにしか見えない。
「……よし、任せろ」
眠り込んだ少女に、慧音は力強く頷いた。
帰りは空を飛んで行く。行き先は人里、少女の家だ。一応永琳も後から呼ぶことにはなるだろうが――命の危険は、もう無い。
――奇跡とは、言うまい。
少女は、自らの意志で、山を登りきった。大自然の力を全身で浴びて、ついに、生きる力を手に入れたのだ。
数日後、慧音の寺子屋に、季節外れの新入生が入ってきた。
線は細くとも芯の強い、はきはきと喋る快活な少女だった。
つまり響子は神様だったんだよ!
どうしてこうなった!
初めまして、楔といいます。ええ、初投稿です。創想話初投稿で、私は何を書いているのでしょう。
おかしいでしょう。私は「響子のYahoo!が奇跡を起こす!」という小ネタがやりたかっただけのはずです。どうしてこうなった。
……ええまあその。これをギャグと読むかシリアスと読むかは、皆さんの判断にお任せすることにします。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。少しでも読んでよかったと思っていただけたなら、これ以上の喜びはありません。
以下は、各人物のちょっとした設定や後日譚です。蛇足ですので、お暇な方のみどうぞ。
本作の主な登場人物 〜背景とか後日譚とか〜
少女
作中では名前は出なかったが、勿論ちゃんと名前のある少女。オリキャラ主人公。
生まれつき、何の理由も無く体が弱かった。虚弱であることに理由は無い、そういう風に生まれれば、そういう風に生きるしかない、本来はそのはずであった。
その後、慧音の寺子屋に通い始め、熱心に勉強を始める。
完全に体が強くなったわけではなく、時おり体調を崩すこともあったが、頻度は山に登る以前に比べれば随分減った。少女は完全に強くなったわけではなかったが、これからいくらでも強くなれるようになっていた。
将来の夢は、いつか妖怪の山の山頂に独力で登ること。一説によると富士山より高いとかいう話なのだが、今さらそんなことに怖気づく少女ではない。そのためには、弾幕の練習さえ辞さない腹積もりである。目下の悩みは、弟子入り先を聖白蓮にするか博麗霊夢にするか決めかねているということ。
上白沢慧音
人里の守護者。根っからの善人だが、理屈っぽいため、自分を善人と割り切れないところがある。
今回一番苦労したのは間違いなくこの人だが、それを損だとは欠片も思っていない。むしろ得るものが大きかったと、少女に感謝さえしている。でもやっぱり二度とごめんだと思ってもいる。
その苦労の一つ、作中では書いていないエピソードに、妖怪の山の入山の許可をもらう話がある。大天狗たちは快く許可を出した。なぜなら、一人の弱々しい人間が必死で生きあがく様を酒の肴にできるから、ということだった。慧音はその悪趣味さに唾を吐きたくなったものだが、これも少女のためと怒りを収め、大天狗たちに感謝の言葉を送った。
ちなみに慧音たちが登った道は、守矢神社への参道とはまた別の道である。守矢神社への参道は他の登山道よりは整備はされているのだが、石造りの階段が多い。少女の負担を減らすのならば、少々の悪路ではあっても土と草の多い坂道を歩いたほうが足への負担が少ない。その分、手を引く慧音の負担はさらに増すわけだが、それで判断を変える慧音ではなかった。
その後も変わることなく、寺子屋での教師生活を続けながら人間を守るために在り続ける。最近の悩みは、何かと無茶をしがちになった少女を心配することが増えたこと。
幽谷響子
今回一番の功労者。おはよーございます!
響子タグをつけていないのは仕様。ネタバレを防ぐつもりだったのだが、そんな大したネタバレでも無かった気もする。
響子は、頻繁に退屈にならざるを得ない境遇の妖怪だった。そもそも妖怪の山は、人間が立ち入ることが少ないのだ。
いや、勿論山彦である限りは、人間と妖怪を区別する必要は無い。叫ぶ者が妖怪であろうと神様であろうと、響子はただそれを返してあげればそれで妖怪として生きていける。しかし、それでもやはり妖怪である以上は、人間の声に向かって叫び返したい。
そんな響子はある日、かなり久しぶりに人間のヤッホーを聞くことになる。しかしそのヤッホーは、風に吹かれてかき消えてしまいかねないほどの、弱々しいヤッホーだった。
響子は憤慨した。最近の人間は軟弱であると。いや、まあどこぞの風祝などは例外としても、久しぶりに聞いたヤッホーがこれでは、ちょっと問い詰めたくもなるというもの。
感情のままに、響子はヤッホーを返した。いつも通りちょっとサービス精神も込めて、心行くままにYahooと返した。
するとどうだろう。今度はそこそこ元気のあるヤッホーが返ってきた。
ほほうやれば出来るじゃないか、と感心した響子は、ご褒美のつもりでさらに大きくYahooと返す。そうしたら何と、その響子でさえ驚くくらいの力で、ヤッホーと声が返ってきた。
面白い、これは山彦妖怪である私への挑戦ね。響子の心は踊った。人間の挑戦とあらば、妖怪として受けないわけには行くまい。
そして、響子は勝った(と自分では思った)。人間の最大最高のヤッホーに対し、響子自身初めてと言えるくらいのYahooで答えてやったのだ。大いに満足した。
――それが響子に悲劇を呼び寄せるとは、誰が思おう。いきなり天狗たちに攻撃された。死力を振り絞った人間の絶命の瞬間を心待ちにしていたのに、最後の最後で台無しにされたと憤る大天狗たちの大人げない八つ当たりだった。
必死で逃げた響子は、山を飛び出し、とにかく安全そうな場所に逃げ延びた。逃亡の末にたどり着いたのが、命蓮寺だった。
後は皆も知っての通りである。修行の末にぎゃーてーを覚えた響子は後日、新たな山彦技を引っさげて妖怪の山に舞い戻る。天狗たちが襲ってきても蹴散らしてやるつもりであったが、大天狗たちはもうそんな昔のことは忘れ、やっぱり酒を楽しんでいたのだとか。
稗田阿求
少女の親友。人里のご意見番。
実を言うと、少女の芯の強い性格を形成した裏には、阿求の斜に構えた性格と的確に物事の本質を突く性質が少なからず影響しているのだが、少女にも阿求にもその自覚は無い。
少女が寺子屋に通い始めてからというもの、阿求から少女に言う憎まれ口の回数が明らかに増えた。「あのおしとやかなあなたはどこに行ったんでしょうね」「あの頃はかわいらしかったのに」「あなたばっかりすくすくと健康に育っちゃってまあ」などと、よくそれだけぽんぽんと出てくるものだと、周りで見る人間のほうが心配になるくらいだった。
だが少女はいつもにこにこと笑って受け止めた。少女に言わせれば、阿求のこれは照れ隠しのようなものなのだとか。とてもそうは見えづらいし、阿求自身も頑なに否定しているのだが、少女がそう言うのならそうなのかも知れない。
なんだかんだで、その後もずっと、少女の親友であり続けた。
八意永琳
今回一番損をした人。
どう見ても死んでいくしかない、むしろ今死んでいなければおかしい、そのくらい脆弱な命だったはずだ。それが、山に登り、帰ってきて、あっという間に回復しているという。
医学を根本から覆すその非常識に、八意永琳の頭脳は敗れた。その後も定期的に少女の健康診断を繰り返し、そのたびに人体の神秘を目の当たりにするハメになる。
自分が今まで積み上げてきた知識とは、医学とは一体なんだったのか。人間とは何だ。自分は何を目指し、何を為してきたというのか。
まさにアイデンティティークライシス。自分の全てを信じられなくなった永琳は、輝夜の胸の中で三日三晩泣き喚いた挙句、突如として行方をくらますことになる。
――それが、新たな異変の始まりであったことを、誰も知る由は無かった。ただ一人、蓬莱山輝夜を除いて。
ちなみに続きを書く予定は全く無い、というか書けるかこんなもん。
楔
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元気になって本当に良かった!
背景の自然の描写が秀逸で、眼前に景色が見えるように感じました。
意識いかんに関わらず、主人公の少女のために
それぞれのキャラクターが自分の立ち位置をはっきりとわかり、
役割をこなしているように思いました。
後書きも個人的に楽しめた。
>>恥を偲んで
忍んで
ぐいぐい引き込まれるってこういう感覚なんかな?脳汁ドバドバ溢れてきたぜ…
山登り準備編読みてー。ニヤつく大天狗の面前で必死に拳隠すけーね先生を幻視した。
貴方なら凄まじい情景&心理描写で魅了してくれる確信がある。
読み終わってグッと来た。ありがとうございました。
登りきるまでの部分は、大好き。
永琳の不憫さに泣いた。
ちょっと永琳慰めに行ってきます。
個人的には後書きに書かれている内容も含めた話だったら最高だったような気がします。
病弱な少女が精神力だけで、老獪な天狗達に煮え湯を飲ませるような展開は想像すると面白そうなだけに、後書きだけではもったいない気もします必死に山を登る描写とオチとのギャップがかなり良かったです。
本編の緊迫感とあとがきの脱力感の落差がまた面白い。特に響子ちゃん何してはるんすか。
>ちなみに続きを書く予定は全く無い、というか書けるかこんなもん。
いや、書けよ
少女の必死さが文章を通して伝わってたのが、良かったです。
>奇声を発する程度の能力さん
ハッピーエンド大好きです。
少女の頑張りが報われたのは自分でも書いてて嬉しかったです。
>7さん
創想話は初めてとは言いましたが、東方SSが初めてなわけではなかったりします。なんだかんだで四作目ですね。
ただ、大自然の本格的な情景描写は初めてでした。そこを褒めていただいたのはとても嬉しいです。
色んなキャラが好き勝手に動いてくれました、ええ、ちょっとコントロール追いつかないくらいに。
>8さん
そのサプライズを狙ったものでした。前半重過ぎて正直どうよと自分でも思いましたけど。
キャラクターごとの設定を語るあとがきは、自分でも楽しかったです。
>愚迂多良童子さん
覚悟が強ければ強いほど、人はもっと強くなれるのかも知れません。その分、乗り越えるのも大変になりますが。
誤字指摘ありがとうございます、修正しました。
>14さん
そこまで楽しんでいただけたならSS書き冥利に尽きるというものです。
ちょっとこれの続編や準備編などは今のところ考えていません。次は、リグルの話か妹紅の話か美鈴の話を考えています。予定は未定ですので断言はできませんが。
遅筆なので次がいつになるかはわかりませんが、また創想話に投稿したいと思っています。
>15さん
おそらくあなたの感想が一番的確にこのSSを捉えていると思います。
いっそシリアスで押し切れればよかったのでしょうけど……私の実力不足です。
というか、つまりその腰砕けの部分を差し引いた上で100点入れてくださったのですか。ありがたいやら恐縮やら。次はもっと一貫した話を書ければと思います。
>17さん
幽谷響子ちゃんはぎゃーてーかわいい。
でもこれ念仏っていうよりは鳴き声ですよね。ぎゃーてー。
>18さん
笑っていただけたなら何よりです。……つまり、こういうギャグを狙ったコンセプト自体は間違ってなかったのか。
永琳先生慰める役は任せたー。異変に巻き込まれないように気をつけてください。
>>22さん
>後書きに書かれている内容も含めた話だったら最高だったような気がします
山の天狗云々の話は、本編に入れてしまうと、話の軸が「少女の成長」ではなく「少女が成長によって天狗たちに目に物を見せる話」になってしまうと思ったのでカットしました。今回はあくまで、少女と山に焦点を絞りたかった(そうしないと完成させられなかった)ためです。
目に物を見せる、という類の話も、いつか書いてみたいとは思いますね。
>>24さん
響子ちゃんは響子ちゃんで真剣勝負のつもりだったんですよ。山彦妖怪にだって意地はある。
>いや、書けよ
書けませんよ。蓬莱の薬の理念のさらに深奥に挑み魂の改変から蓬莱人の肉体改造に成功し変身能力を手に入れ不思議少女まじかるえーりんとして幻想郷をいろんな意味で脅かす永琳先生の話なんてどう収拾をつけろというのですか。
いやまあ冗談はさておき、私は執筆速度が遅い分、書ける数、量が限られているので、他のネタをちゃんと形にしたいというのが理由としては大きいです。
>25さん
題材が素晴らしいほど、自分で書くに当たって、それをちゃんと表現できているかというのは不安になります。
山の神々しさが少しでも伝わっていれば、光栄だと思います。
>30さん
情景描写はかなり苦労しました。反面、心理描写はすらすらと書けた覚えがあります。
どちらも気に入っていただけたなら幸いです。