身体を揺すられて、私は目を覚ます。
最初に目に入ったのは、自室のものでは無いけれど、見知った天井だった。
「そろそろ起きなさい、フランドール」
「んにゅ、……おはよう霊夢」
「あんた、また私の布団に潜り込んだわね。そのうち気化しても知らないわよ」
布団から身体を起こすと、霊夢は既にいつもの巫女服に着替えていた。
障子に隙間からは朝日が差し込んでいる。少しだけ日光の当たらない位置にずらされた布団を畳んで、部屋の隅に置いておく。
「あれ、お姉様は? というか何で私は霊夢の部屋にいるの?」
「あんた、昨夜のこと覚えてないの?」
「駄目、さっぱりだわ」
昨夜。博麗神社で宴会があるとかで、お姉様と一緒に宴会に来ていた。
そこで霊夢と一緒にお酒を飲んで、そこからの記憶が曖昧ではっきりしない。
「レミリアなら昨日の内に帰ったわ」
妹をひとり残して帰るなんて、薄情なお姉様だこと。
「だから、酔い潰れたあんたを私の部屋で寝かせたのよ。ほら」
「そっか、ありがとう霊夢」
差し出された水を半分ほど一息に飲む。少しだけ意識が鮮明になったような気がする。
「あんた、本当にお酒は弱いわね」
「私何かしたの?」
霊夢がやれやれといった様子で息を吐いた。
「別に何もないわ。あえて言うなら、途中から私の布団の中に潜り込んで来ていたことくらいかしら」
「本当に?」
他にも何かあったような気がする。
「本当。それよりそろそろ着替えなさい。もうじきレミリアが迎えに来るはずよ」
そこでようやく私はいつもの服ではなく、霊夢が寝る時に着ている物と同じ襦袢を着ていることに気が付いた。
「あれ、服は?」
「そこにあるわ」
霊夢が指差した先には壁際に寄せられたちゃぶ台と、その上に丁寧畳まれた私の服が置かれていた。
襦袢を脱いで、自分の服に着替える。上着を手に取った時、そこからコロリと何かが畳の上に転がった。
「ん、何これ?」
拾い上げてみると、それは銀色の指輪だった。飾り気の少ないその輪に細い鎖が通されて、ちょうど首から下げられるような長さになっていた。
霊夢が失敗したとでもいう様に顔をしかめた。
「やっぱりなんかあったんじゃないの?」
「あんたが覚えてなきゃ意味はないわ」
霊夢はちょっとだけ赤く染まった顔を背ける。
「少しくらい教えてくれても良いじゃない」
上着を着てから、首輪を着けてみる。長さは既に調節されているようで、私の胸元で指輪が揺れる。
「ねえ霊夢、これって……」
「……要らないなら返しなさい」
さらに赤みの増した顔で、霊夢は私を見る。嬉しさと幸せが込み上げて来て、同時に昨夜のことを覚えていない自身の記憶を呪いたくなった。直感的に、それが昨夜プレゼントされたものだと気付いてしまったからだ。
「要る! 絶対要る!」
「そう、じゃあ着けているといいわ」
「霊夢、ありがとう!」
思わず彼女の胸に飛び込む。私の身体を霊夢が受け止める。
「ん、まあ、気に入ってくれたならいいわ。……昨夜は何も聞けなかったし」
「昨夜の飲んでからの状況を思い出せない自分の頭を殴り飛ばしたい気分だわ」
好きなひとからプレゼントされたものがこんなに締まりの無いものだなんて、納得できないわ。
「やり直しを要求します!」
「どういうことよ」
「昨日のシチュエーションで渡してほしいの」
「無理言わないでよ」
むー、残念すぎて泣きそうだわ。
「じゃあ、せめて昨夜なんて言ったのかだけ」
「嫌よ。……あんな恥ずかしいことこんな状況で言えるわけないじゃない」
「霊夢のばかぁ……」
ああ、なんて残念な状況だろう。溢れ出した滴が頬を伝い落ちる。
霊夢は静かに私の涙を指先で拭って、頭を撫でる。
その掌の温もりを感じながら、私は霊夢の胸元に顔を埋めた。
「……まあ、大事にしてくれると嬉しいわ」
「うん、する、絶対する」
顔を埋めながら、何度も頷く。
「ほら、そろそろ泣き止みなさい」
「……霊夢がキスしてくれたら泣き止むかも……」
顔を上げて霊夢を見ると、霊夢は小さく苦笑した。
「涙でぐしゃぐしゃじゃない」
霊夢の顔が近づく。そうして私も瞼をそっと閉じて。
「あなた達はこんな時間から何をしようとしているのかしら?」
突然の第三者の声に遮られた。
「……もう少し空気を読んで欲しいものね、お姉様」
「あなたを迎えに来たのに酷い言いぐさね」
私の言葉に、開かれた障子の先に立っていたお姉様は小さく息を吐いた。
「それじゃ、迎えも来たんだし、帰りなさいフランドール」
そっと離れる霊夢に、伸ばし掛けた腕を押し留めて、私は囁くように口を開く。
「うん、じゃあ、また来るから」
「気を付けて帰るのよ」
彼女に背を向けて、お姉様の差し出した日傘を受け取る。
そうして、靴を履いてから、霊夢に小さく手を振って私は翼を大きく動かす。
お姉様の後に続いて飛びながら、私は胸元に揺れる指輪に手を伸ばした。
指先に触れる感触を確かめて、自然、零れる笑みを私は抑えられそうになかった。
END
最初に目に入ったのは、自室のものでは無いけれど、見知った天井だった。
「そろそろ起きなさい、フランドール」
「んにゅ、……おはよう霊夢」
「あんた、また私の布団に潜り込んだわね。そのうち気化しても知らないわよ」
布団から身体を起こすと、霊夢は既にいつもの巫女服に着替えていた。
障子に隙間からは朝日が差し込んでいる。少しだけ日光の当たらない位置にずらされた布団を畳んで、部屋の隅に置いておく。
「あれ、お姉様は? というか何で私は霊夢の部屋にいるの?」
「あんた、昨夜のこと覚えてないの?」
「駄目、さっぱりだわ」
昨夜。博麗神社で宴会があるとかで、お姉様と一緒に宴会に来ていた。
そこで霊夢と一緒にお酒を飲んで、そこからの記憶が曖昧ではっきりしない。
「レミリアなら昨日の内に帰ったわ」
妹をひとり残して帰るなんて、薄情なお姉様だこと。
「だから、酔い潰れたあんたを私の部屋で寝かせたのよ。ほら」
「そっか、ありがとう霊夢」
差し出された水を半分ほど一息に飲む。少しだけ意識が鮮明になったような気がする。
「あんた、本当にお酒は弱いわね」
「私何かしたの?」
霊夢がやれやれといった様子で息を吐いた。
「別に何もないわ。あえて言うなら、途中から私の布団の中に潜り込んで来ていたことくらいかしら」
「本当に?」
他にも何かあったような気がする。
「本当。それよりそろそろ着替えなさい。もうじきレミリアが迎えに来るはずよ」
そこでようやく私はいつもの服ではなく、霊夢が寝る時に着ている物と同じ襦袢を着ていることに気が付いた。
「あれ、服は?」
「そこにあるわ」
霊夢が指差した先には壁際に寄せられたちゃぶ台と、その上に丁寧畳まれた私の服が置かれていた。
襦袢を脱いで、自分の服に着替える。上着を手に取った時、そこからコロリと何かが畳の上に転がった。
「ん、何これ?」
拾い上げてみると、それは銀色の指輪だった。飾り気の少ないその輪に細い鎖が通されて、ちょうど首から下げられるような長さになっていた。
霊夢が失敗したとでもいう様に顔をしかめた。
「やっぱりなんかあったんじゃないの?」
「あんたが覚えてなきゃ意味はないわ」
霊夢はちょっとだけ赤く染まった顔を背ける。
「少しくらい教えてくれても良いじゃない」
上着を着てから、首輪を着けてみる。長さは既に調節されているようで、私の胸元で指輪が揺れる。
「ねえ霊夢、これって……」
「……要らないなら返しなさい」
さらに赤みの増した顔で、霊夢は私を見る。嬉しさと幸せが込み上げて来て、同時に昨夜のことを覚えていない自身の記憶を呪いたくなった。直感的に、それが昨夜プレゼントされたものだと気付いてしまったからだ。
「要る! 絶対要る!」
「そう、じゃあ着けているといいわ」
「霊夢、ありがとう!」
思わず彼女の胸に飛び込む。私の身体を霊夢が受け止める。
「ん、まあ、気に入ってくれたならいいわ。……昨夜は何も聞けなかったし」
「昨夜の飲んでからの状況を思い出せない自分の頭を殴り飛ばしたい気分だわ」
好きなひとからプレゼントされたものがこんなに締まりの無いものだなんて、納得できないわ。
「やり直しを要求します!」
「どういうことよ」
「昨日のシチュエーションで渡してほしいの」
「無理言わないでよ」
むー、残念すぎて泣きそうだわ。
「じゃあ、せめて昨夜なんて言ったのかだけ」
「嫌よ。……あんな恥ずかしいことこんな状況で言えるわけないじゃない」
「霊夢のばかぁ……」
ああ、なんて残念な状況だろう。溢れ出した滴が頬を伝い落ちる。
霊夢は静かに私の涙を指先で拭って、頭を撫でる。
その掌の温もりを感じながら、私は霊夢の胸元に顔を埋めた。
「……まあ、大事にしてくれると嬉しいわ」
「うん、する、絶対する」
顔を埋めながら、何度も頷く。
「ほら、そろそろ泣き止みなさい」
「……霊夢がキスしてくれたら泣き止むかも……」
顔を上げて霊夢を見ると、霊夢は小さく苦笑した。
「涙でぐしゃぐしゃじゃない」
霊夢の顔が近づく。そうして私も瞼をそっと閉じて。
「あなた達はこんな時間から何をしようとしているのかしら?」
突然の第三者の声に遮られた。
「……もう少し空気を読んで欲しいものね、お姉様」
「あなたを迎えに来たのに酷い言いぐさね」
私の言葉に、開かれた障子の先に立っていたお姉様は小さく息を吐いた。
「それじゃ、迎えも来たんだし、帰りなさいフランドール」
そっと離れる霊夢に、伸ばし掛けた腕を押し留めて、私は囁くように口を開く。
「うん、じゃあ、また来るから」
「気を付けて帰るのよ」
彼女に背を向けて、お姉様の差し出した日傘を受け取る。
そうして、靴を履いてから、霊夢に小さく手を振って私は翼を大きく動かす。
お姉様の後に続いて飛びながら、私は胸元に揺れる指輪に手を伸ばした。
指先に触れる感触を確かめて、自然、零れる笑みを私は抑えられそうになかった。
END
一体昨夜、何を言って霊夢はフランに渡したというのか。
でも銀って大丈夫なのかしら。銀色なだけで素材は銀じゃないということにしよう。
霊夢サイドも楽しみにしてます
霊夢サイド楽しみにしてます。
銀じゃなくて、プラチナ製かな。なんにしろ羨ましい。
あの指輪のお話が読めるとは…
お嬢様は邪魔をしたんじゃない!
次回作に続くように運命を操ったんだよ!
霊フラ分しっかりと補給させていただきました。
ご馳走様です。