Coolier - 新生・東方創想話

大ちゃんの従者な日常

2011/04/29 14:51:24
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 空が茜色に染まる頃、私の仕事が始まります。
 コツコツと扉をノックした音は二回。
 しかし、返ってくるべき返事は無かった。
 少し悩んだ末、失礼します、と私は扉を開いた。
 扉の先には館の主がいた。正確にはキングサイズのベッドに体を横たえて、寝
息を発てている。

「レミリアお嬢様、そろそろ起きてください」

 私の言葉にレミリアお嬢様はのっそりとベッドから起き上がると、一つ大きな
あくびをしてみせた。
 肩からずり落ちた寝巻きに、あちこち激しく自己主張する寝癖と、その姿は散
々たるものだった。
 とても他の者には見せられそうにないだらしのない当主の姿に、私は内心ため
息を吐かざるをえなかった。

「あ、大妖精だ。おはよー」

 寝ぼけ眼で私の姿を確認したお嬢様は、フニャリと笑った。
 メイド長なら鼻血を噴いて倒れそうな笑みを、理性の盾でどうにかやり過ごし
て私は挨拶を返す。

「はい、おはようございますレミリアお嬢様。さあ、着替える前に身体を拭きま
すよ」

 私は運んできたカートから、タオルを手に取って人肌程度に温めておいた湯を
ポットからたらいに移
す。そうして、湯に浸したタオルをよく絞ってレミリアお嬢様の肢体を丹念に拭
き上げ、最後に服を着せていく。

「……大妖精」

 静かなレミリアお嬢様の声が私を呼んだのは、強情なお嬢様の寝癖に悪戦苦闘
している時のことだった。

「今まで聞いたこと無かったけど、大妖精はあの時――湖の畔で私と初めて会っ
た夜、何故簡単に私の誘いを受けたの?」
「懐かしいですね。もう二年も前の事じゃないですか」
「別にいいじゃないそんなこと。で、なんでなの」

 手元はそのまま寝癖を直しながら、私は何と答えようかと考える。

「そうですね。――あの時のレミリアお嬢様に見惚れたからでしょうか。と、ま
だ直ってないんですからジッとしていてください」
「うー……」

 質問に適当に答えて、突然身じろぎしたお嬢様を抑えて、私は作業を続ける。

「さ、終わりましたよ」

 その後、私の作業が終わるまでレミリアお嬢様は赤い顔をしたまま静かにして
いました。
 私何かしたんでしょうか。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 この紅魔館にはよくお客様が訪ねてこられます。

「おはよう、大妖精」
「よ、お邪魔しているぜ」
「あ、アリスさん。魔理沙さん。おはようございます。今日はどういったご用で
すか?」
「私はパチュリーから、魔理沙は小悪魔からの招待よ」

 それぞれの提示した招待状を見て、私は頷く。

「おふたりでしたらまだ図書館ではないでしょうか。後で紅茶をお持ちします」
「そう、分かったわ。お願いするわね」
「はい」

 地下へと続く階段の影に消えていくふたりを礼をして見送って、私は紅茶の準
備をするために掃除用具を手早くまとめると調理場へと足を向けた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 紅茶の用意を済ませ、カートを押して私は図書館を訪れる。

「失礼いたします」
「うひゃ! ……大妖精」

 図書館の奥に設けられた机を挟んで向かい合って座っているのは、パチュリー
様とアリスさん。
 何やらで話し込んでいた様に見えたけれど、私が声をかけるとパッとふたりと
も身体を放した。
 その顔が赤いのは何かあったんでしょうか?

「紅茶をお持ちしました」
「そ、そう、ありがとう」
「何か喧嘩でもされたんですか?」
「え、そんなことないわよ。どうして?」
「その、おふたりともそっぽ向いているので、何かあったのかなと思ったもので

「別に何もないわ。喧嘩をしていたわけでもないのよ」
「そうなのですか」

 パチュリー様の言葉に、私は頭の中で疑問符を浮かべながらも頷いた。
 それじゃ、何をされていたんでしょう? とりあえず、魔法の実験の話でもして
いたとでも思うことにましょう。

「ところでアリスさん、魔理沙さんはどちらに?」

 この場には姿が見受けられませんが。

「魔理沙なら小悪魔と一緒にいるんじゃないかしら」
「分かりました。探して参ります」
「ちょっと待ちなさい。今ふたりの居場所を探知してみるわ」

 パチュリー様が自身の前に魔方陣を一つ展開させる。

「……ふたりとも魔法書九十四番の書架の辺りにいるみたいね」
「分かりました。行ってみます」

 図書の整理の手伝いに何度もこの図書館は訪れているので、一通りの書棚の配
置は覚えている。
 展開していた魔方陣を解除して、一つ息を吐くパチュリー様に一礼して私は魔
法書の納められた書棚を目指した。
 ふたりの姿を見つけたのは、パチュリー様の言の通り魔法書の九十四番目の書
棚がある所だった。
 ふたりで座り込み、本を開いて何やら話し合っていた。

「だから、この魔法の使用にはこっちの魔法式を使用するんです。で、これらを
組み合わせる時には……」
「おふたりとも勉強ですか?」
「大妖精か、これは恥ずかしい所を見られたかな。まあそんなところだ」
「まあまあ、いいじゃない魔理沙。別に教えを乞うのは恥ずかしいことじゃない
んだから。それで、どうしたの大ちゃん?」

 ふたりのこういったやり取りを見ていると、小悪魔さんがまるで魔理沙さんの
お姉さんのようです。私には姉なんていないので、このような光景を見ると、つ
い羨ましく思ってしまいます。

「はい、紅茶をお持ちしたのでおふたりもいかがですか?」

 さんにんでパチュリー様の所へ戻ると、そこにはさらにひとり増えていました


「あら、大ちゃん」
「フランドールお嬢様。どうされました?」
「パチュリーに本を借りに来たのよ。大ちゃん、私にも紅茶ちょうだい」
「はい、すぐお出ししますので少々お待ちください」

 テーブルの脇に置いておいたカートに向かう。

「魔理沙も来てたんだ。また小悪魔と一緒だったの?」
「使えそうな魔法書を探していただけだぜ」
「そんなこと言って、こぁと一緒にいるたのめの口実なんじゃないの?」
「そ、そんなことないぞ、パチュリー」

 パチュリー様がニヤニヤと魔理沙さんを眺め、その隣でアリスさんは苦笑しつ
つ、肩をすくめていました。

「私も手伝うわ」
「ありがとうございます」

 小悪魔さんとふたりで紅茶の準備を進める。

「さ、フランドールお嬢様」
「ありがとう。……ん?」

 紅茶に口を付けたフランドールお嬢様の手が不意に止まる。

「どうされました?」

 その視線の先を追ってみるが、何もなかった。
 フランドールお嬢様は小さく笑って首を横に振る。

「何でもないわ。あ、そうだ、ねえ大ちゃん。今夜霊夢が来ることになっている
から、彼女が来たら私の部屋まで案内をお願いね」
「霊夢さんですか。分かりました」
「フランは霊夢との仲は相変わらずみたいだな。その首から下げているリングも
霊夢からだろ」

 パチュリー様にからかわれていた魔理沙さんが、フランドールお嬢様に話しか
ける。
 フランドールお嬢様は少しだけ恥ずかしそうに笑う。
 その胸元では、銀色のリングが輪に細いチェーンを通した状態で揺れている。
二週間ほど前の博麗神社での宴会の時から着けていたと記憶している。
 宴会以降、フランドールお嬢様はそれをとても大事にしているようで、肌身放
さず着けている。

「後は私が引き受けるから、大ちゃんはそろそろ自分の仕事に戻っていいわよ」
「そうですか。そしたら、お願いします」

 小悪魔さんの申し出に甘えて、私はその場を離れる事にした。

「大ちゃん」

 背後からの声に振り返る。

「たまにはお姉様と一緒にいてあげてね。あれで結構寂しがり屋だから」

 笑みを浮かべてそう言ってから、フランドールお嬢様はパチュリー様達との会
話に戻っていきました。
 何だったんでしょうか?

◇◆◇◆◇◆◇◆

 美鈴さんが私の所を訪ねてきたのは日が沈み、少しした頃でした。

「大ちゃん、咲夜さんが何処にいるか知りませんか?」
「いいえ、そういえば今日はまだ一度もメイド長の姿を見ていませんね。メイド
長にご用ですか?」
「咲夜さんとお茶をする約束をしていたんだけれど、どうも約束を忘れているみ
たいなのでこうして探しているのよ」

 なるほど、ふたりが良い仲なのは知っています。でも、咲夜さんが美鈴さんと
の約束を忘れるなんて珍しいですね。

「あら、門番妖怪がこんな所にいた」

 突然の声に振り返ってみれば、そこにいたのは霊夢さんでした。

「霊夢さん、いらしてたんですか」
「ええ、勝手にお邪魔しているわよ大妖精」
「フランドールお嬢様からお話は伺っておりますので、私が地下までご案内しま
す」
「それじゃ、お願いするわ。それからさっき咲夜を廊下の角で見かけたんだけど

「本当ですか!?」

 美鈴さんがものすごい勢いで霊夢さんに詰め寄って行きました。
 霊夢さんは若干引きぎみです。

「え、ええ、レミリアの後ろをカメラを構えて歩いていたわ」
「ありがとうございます!」

 猛然と走り去る美鈴さん。

『見つけましたよ咲夜さん!』
『美鈴!? ちょ、ちょっと待って、愛しいひとの姿を陰から眺める今の愛らし
いお嬢様のお姿をこのカメラに納めきるまで!』
『どうせ朝から撮ってたんでしょう? そんなカメラまで借りて。そんなに私と
お茶するのが嫌ですか?』
『美鈴……ごめんなさい、私が悪かったわ。さ、行きましょう美鈴。って、あれ
、お嬢様……?』
『美鈴との会瀬を邪魔して悪いけれど、そのカメラはこっちに寄越しなさい、咲
夜』
『いいえ、こればかりはお嬢様でもお渡しできませんわ。……美鈴、逃げるわよ
!』
『ちょ、咲夜さん!?』
『あ、こら、待ちなさい!』

 背後からドタバタと騒々しく音が響く。
 それを意識して聞かなかったことにして、私は歩を進めた。

「さ、こちらです」
「ねえ、あれ放っとくの?」
「さあ、何の事でしょう?」

 霊夢さんにニッコリと笑みを返す。

「……あんたもいい性格してるわね」

 霊夢さんが呆れたようにため息を吐いた。
 こんなのはいつものことですから。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「あら、偶然ね大妖精」

 霊夢さんをフランドールお嬢様のお部屋まで案内した帰り、廊下でレミリアお
嬢様と出会しました。

「こうして会ったついでにちょっと私に付き合いなさい」

 返事も待たずに私の手を引くレミリアお嬢様。引かれるまま付いて歩いた先は
紅魔館の庭園だった。
 門番隊の面々に手入れされた、真っ赤なバラの咲き誇る庭園は、紅魔館内の名
所の一つだ。
 月明かりが足元を照らし出す。その明かりだけを頼りに、庭園内をふたりで歩
く。
 結局繋がれた手はそのままだった。

「あなたと初めて会った時もこんな夜だったわね」

 庭園を歩いて廻りながら、空を見上げて口を開いた。

「そうですね。確かにこんな夜でした」

 月の綺麗に見える夜だった。

「でも、急にどうしたんですかレミリアお嬢様」
「あなたと散歩をしたくなった。じゃあ、駄目かしら?」

 いつもの気まぐれでしょうか。

「いいえ、レミリアお嬢様と一緒にいるのは楽しいですから」
「そう、良かったわ」

 レミリアお嬢様は嬉しそうに笑う。

「そういえば、レミリアお嬢様はあの時――二年前のあの日、おひとりで湖の木
の天辺で何をされていたのですか?」
「え? ……ああ、月をね、眺めていたのよ。あの時はそんな気分だったのよ。
とにかく、ひとりになりたかったから」

 その横顔は、私には何故だか少しだけ寂しそうに見えた。

「……今もおひとりで月を眺めていたいと思う時がありますか?」
「今は、そうでもないわね。だけど、誰かと眺めていたいと思う時はあるわ」
「でしたら、その時は私がお付き合いいたします」
「あなたが?」
「はい、一緒にいます」

 レミリアお嬢様は驚いた表情をしてから、頬を少しだけ赤くして俯いた。

「……今の言葉、なんだかプロポーズみたいね」
「ふぇ!? い、いえ、決してそんなつもりで言ったわけではなくて!」

 言われてから気が付いて、狼狽える私を横目に、お嬢様はクスクスと笑う。私
もまた、恥ずかしくてつい笑ってしまう。
 そうして、ふたりで一頻り笑ってから、お嬢様が口を開いた。

「さ、そろそろ戻りましょうか」

 繋がれたままだった手を引いて、レミリアお嬢様は先を歩く。

「レミリアお嬢様」
「何かしら?」
「また見ましょうね。ふたりで」
「ええ、そうね」

 そう言ってお嬢様は、優しく笑みを返した。
 夜空にはあの日レミリアお嬢様と出会った時と同じ、丸い月が輝いていた。

END
 初めての方は初めまして。そうでもないという方はお久しぶりです。
 相も変わらず、タグ検索をかけると自身の作品しか出てこないようなマイナーカップリング過多でお送りしております。
 今回のお話の製作中、分身ふたりを肩車しながら「チェンジ! ゲッ○ーッッ!!」とか叫ぶ○ッター○ボごっこ中のフランドール嬢の姿が頭から離れませんでした。どういうことなの……。

 ここまで読んでくださった方々に多大なる感謝を。
青水晶
http://koyasiki.seesaa.net/
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コメント



0.1530簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
珍しい組み合わせが多いなぁw
2.80名前が無い程度の能力削除
いいんじゃないの
3.90名前が無い程度の能力削除
面白かった。
お嬢様、もっと積極的に頑張れw
霊夢とフランドールの話をいつか書いてくれると信じてる。
12.100名前が無い程度の能力削除
なんていうか、自分の理想そのものでした。
100点で足りないと思ったのは、これが初めてかも。
19.100名前が無い程度の能力削除
もっと増えろ
22.100名前が無い程度の能力削除
レアカプがとても多いw

霊フラのお話は期待したいなー
24.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃんなら一人でブ○ッカー軍団の不動組もいけそうだね!
冗談はともかく、幽閉された暗い過去が何かとつきまとう妹様には幸せになって欲しいな~w
25.90キャリー削除
確かに珍しいカップリングが多いですが、それがいいです^^

もっと続きが知りたくなる、そんな感じでした。
29.90名前が無い程度の能力削除
はじめ、大妖精が紅魔館にいるとキャラが小悪魔と似てるなーと思ってたらこあマリだと……!
しかもお姉さん属性だと! これは新たな境地を発見した気分です。
32.100Admiral削除
創想話を始め東方SSは数多く読んできましたが、
レミ大、マリこあのお話は初めて読みました。
こんな素敵なお話になるとは!
良いものを読ませていただきました。
ご馳走様です。
マイナーカップリングもっと流行れ!