「まあ今日のところはこんなもんかしらね。やってもやってもキリが無いわ」
秋の終わり、紅く色づいていた山々も寂しくなって、地面は落ち葉に覆いつくされる。
神社も例外ではなく、境内を毎日のように掃除しても終わりはこない。掃いては積もり、積もっては掃く。
最近はこれといった異変も無く客も来なかったため、代わり映えの無い日々を繰り返していた。
友人である黒白の魔法使いや、紅い館の主従、常に酔っ払った鬼、ブン屋、いつも頼まなくてもやって来る人妖達を思い出す。
そういえば、たまにやって来てはお菓子を差し入れてくれるもう一人の魔法使いにも会ってないな。
「はあ、なんだか小腹が空いてきたわね、何かお茶請けあったかなぁ」
ため息をつきながら、何とはなしに掃除を終えたばかりの境内を眺める。
せっかく毎日掃除しているのだ、誰か参拝に来てくれてもいいのに・・・
日中とはいえ少し肌寒い、熱いお茶でも淹れて温まろう。
そう考えて戻ろうとすると鳥居の向こうから影が近づいて来る。
それは人形のような容姿をしていた。
「こんにちわ」
「久しぶりね。賽銭箱ならあっちにあるわよ」
「はいはい、ところで今日もサボりなの?」
「この落ち葉と箒を見なさいよ、それに今から休憩なの」
「それならちょうど良かった。実は新作のお菓子を作って来たのよ」
「へえ、気が利くわね。新作ってなに作ったの?」
「ふふふ、それは後のお楽しみよ」
そう言っていたずらっぽく笑う。
彼女はその容姿のせいかあまり表情を表に出さないイメージがあるらしいが、そんなことはない。
魔理沙ほどではないが結構笑うし、以外に子供っぽい面もある。
「まあいいわ。これ片付けたらお茶を淹れるから、先に居間に行っといてちょうだい」
「ええ分かったわ。それじゃあ、お邪魔させてもらうわね」
お菓子が入っているだろうバスケットを人形に持たせて、彼女が脇を通り過ぎていく、すれ違いざまに甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
新作のお菓子・・・一体どんなものだろうと想像する。クッキー?ケーキ?彼女が作ってくるお菓子はいつだって洋菓子だ。
バスケットの中身に思いをはせていると、彼女はずいぶん先に進んでいた。
我に返った私は箒を納屋に放り込むと少し足早に台所に向かった。
新作なるお菓子と久々の来客、少し上機嫌になった私は普段飲んでるお茶より良いものを淹れる。
これは基本的に自分へのご褒美用だが、今日は、まあ特別だ。これ位のもてなしはするべきだろう。
お盆に湯飲みを二つ乗せ居間に移動すると、彼女は机の上にバスケットを置いて待っていた。ふたはまだ開けられていないようだ。
私は彼女にお茶を渡し席に着いた。
「おまたせ。はい、これあんたの分ね。熱いから気をつけてね」
「ありがとう、じゃあこっちもお披露目ね―――――じゃーん!」
心なしかいつもよりテンションが高い、よほど新作のお菓子に自信があるのだろうか。
勢いよくバスケットのふたが開かれる。
なんと、そこに入っていたのは!
「・・・・・・なにコレ?」
「え~~~、つまらない反応ね。なにこれすごい! とか、コンナノワタシハジメテ! とか、なにかあるでしょう?」
「いや、そんな事言われてもねぇ、初めて見るし、なんか細くてしょぼくない? まあ結構数はあるみたいだけど」
「むう、それもそうか・・・ よし、何も知らない貴方に教えてあげましょう」
特別なんだから、ありがたく聞きなさいよ? と彼女は説明を始める。
なんだか得意げで楽しそうだ。私も少しくらいは興味があるので邪魔をしないように話を聞く。
「これはポッキーって言ってね、外の世界のお菓子なのよ」
「外の?」
「そう、この前早苗に教えてもらったのよ」
「あんた早苗と仲良かったんだ」
「まあね、最近家に裁縫とか習いに来てるのよ。その代わりに外の世界の人形とかお菓子の話を聞いてるんだけど、よく分からないものも多いわね。このポッキーだってそうよ、初めに聞いたときは何がなんだか」
「へー、たしかに名前だけ聞いてもさっぱりだわ」
「でしょうねぇ。ま、とりあえず食べてみてちょうだい、味は保証するわよ。あ、毒とか入ってないから安心してね」
「毒とかって大丈夫なんでしょうね、なんか不安になってきたわ・・・。 じゃあ、とりあえず一本」
このポッキーというお菓子、見た目は棒状の焼き菓子を黒い、チョコレート?で包んだという簡単なもので、細いしなんだか物足りなさそうだ。
そのためにたくさん作ってきたのかもしれないが、結構な本数がある。
まあ味の保証はするって言ってたし、食べてみない事には始まらない。
3、40本はあるであろうポッキーを一本取ってみる。手が汚れないように取っ手の部分をコーティングしていないとは、なかなか気の利いたデザインだ。
黒い部分はやはりチョコレートのようで、カカオの匂いを嗅ぎ、当分食べてなかったチョコの味を思い出す。
案外お酒のあてや、ちょっとしたときにおつまみにいいかもしれない。
いろいろ考えながらまず一口
ポリッ、サクサクサクサク、コクン・・・
やべぇ
ポリッポリッポリッ、サクサクサクサクサクサクサクサク、ゴクン・・・
うめぇ、ポッキーうめぇ、ポッキーやべぇ
ポリポリサクサクコクン、ポリポリサクサクゴクン
「ふふん、その様子だとお気に召したようね」
夢中になって一本、二本と食べていると声をかけられた。口の中の水分を奪われていたのでお茶を一口。
「んぐ、ぷはっ、すっごくおいしい。サクサクした食感がなかなか癖になりそうだわ。味はシンプルなんだけどそれがまたいいというか、正直見た目で侮ってたわ」
正直もう癖になってるかもしれない、勢いはそのままに三本、四本と平らげる。さあ五本目!と手を伸ばす。
しかし伸ばした手は空を切った。さっきまでポッキーがあった場所にポッキーが無い。
お菓子がひとりでに動くわけはなく、心当たりはひとつしかない。
伸ばした自分の指先から、ポッキーの入ったバスケット、それを掴んでいる白い手、と視線を動かしていくと彼女の顔が目に入る。
口を三日月のよう吊り上げ、ニヤニヤと笑っていた。にいかにも何か企んでますって顔だ。
「ちょっと、何すんのよ」
「ふふふふふ、ねえ霊夢、ここでひとつゲームでもしてみない?」
「そんなの後でいいじゃない。まだたくさん残ってるんだから、けちけちしないでポッキーちょうだいよ」
「そのポッキーを、今よりずっっっっとおいしく食べられるとしても?」
「今よりおいしく・・・・・・ ちなみにそのゲームってどんな内容なの?」
「おっと、先にするかしないかの答えを出してちょうだい。するんだったら内容を教えるわ」
「なんだかめちゃくちゃ怪しいんだけど・・・」
「ちなみに、このゲームに勝ったら一年間ポッキー食べ放題!しかも今なら賽銭もつけるわよ」
「乗った!」
「流石は霊夢ね、途中でやっぱり止めるとかなしよ?」
「巫女に二言はないわ!早く説明してちょうだい」
「じゃあ説明するわね。ルールはいたって簡単、ポッキーの両端を二人でくわえてお互いに食べ進めていくの。全部食べきれば成功、途中で折れたら失敗。ね、簡単でしょ?」
「・・・・・・・」
「質問は無いわね、じゃあ始めましょ。はい、あーん」
「・・・ちょ、ちょっとちょっと、待ちなさい。え?両端から?二人で?」
額に手を当てて考える、悩んでますってアピールは必要なのだ。
さて、こいつは何を言っているんだ。人の頭が春とか言ってたけど七色色欲馬鹿にでもなったのだろうか。こんな棒を両端から食べれば最後に待ってるのは・・・
彼女の方を見てみるとポッキーを差し出したまま不思議そうな顔をしていた。いやいや、疑問なのはこっちよ。どこの世界にそんなゲームがあるというのか。
「何を悩んでるのよ?まさかルールが分からなかったとか?」
「そこじゃないわよ!こんなの両端から食べれば、キ、キ・・・その・・私と、あんたが・・・・・キー!!」
「ちょっと、どうしたの? キ~・・・ああ!」
「・・・・・・」
「ははーん、さては、あなたキスしたこと無いんでしょ?意外とお子様だったのねぇ」
「あんたには言われたくない!それに別にしたこと無いなんて言ってもないし、あんただってしたこと無いでしょう」
「さあどうかしらね?まあそんな瑣末なことはどうでもいいわ」
そりゃあ私はキスなんてしたこと無いけど、こいつもした事が有るなんて思えない。
早苗に教えてもらったとか言ってたけど、まさかね・・・
「それよりさ巫女に二言はないんでしょ。なに、怖いの?」
さあ!っとポッキーを差し出してくる。
くっそー馬鹿にして、しかも甘い罠で私を釣るとはなんて奴だ、もういっそ退治してしまおうか。
夢想封・・・いやいや待てよ、所詮ゲームだし、すぐに失敗して適当に切り上げちゃえばいいんだわ。
勝利特典は惜しいがお菓子作りの腕とか褒めとけばまた作ってきてくれるだろう。うん、私って頭良い!
恥ずかしいのは少しだけ我慢だ。
「ふん、そこまで言うならやってやろうじゃない」
「ようやくその気になったわね、はい」
差し出されたポッキーをぱくっと銜える。
「それじゃ、ゲームスタートね」
そう言うと、彼女は反対側をぱくっと銜える。
違いを上げるとするなら彼女の方がやや身を乗り出しているだろうか。
向かい合って机に肘をつくきポッキーを銜える、二人ともほとんど同じ体勢になった。
思っていたより顔が近い。
ポリッ
それなりに付き合いが長いとは言っても、こんなに近くで彼女の顔を見たことなど無かった。
白い肌、整った顔立ち、吸い込まれそうな青い瞳。
本当に人形みたいなヒト。
ポリッ
少し考え事をしている間にも距離が縮まっていく。
私の方からはまだポッキーをかじっていない。いや、かじれていない。
ポリッ
すぐに失敗すればいいと軽く考えていた。
変な緊張をしているのかなんなのか体はまるで自分の物じゃ無いみたいで。
視線も彼女から外せない。
ポリッ
視線を落としポッキーを見ていた瞳がこっちを見る。
ドキン
目が合った、するとまた意地悪に笑う。
必死の抵抗とばかりに睨み返してやった。
さっきから顔が熱い、もしかするとすごく赤くなっているのかもしれない。
ドキン ドキン ドキン
ポリッ
近い 近い ちかい 文字どおりアリスの顔が目の前に来ている。
耐え切れず私は目を瞑ってしまう。
ドキンドキンドキンドキンドキン
ポリッ
ッ―――――まぶたに力が入る。
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
ポリッ
あとどれくらいポッキーは残っているのだろう。
もう後一口で唇が当たってしまうのだろうか。
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
パキンッ
ん?
何だろう?急に抵抗が無くなっって、銜えているポッキー越しの感覚が軽くなった。
「ぷっ」
何かを噴出すような声が聞こえる。
「アリス?」
恐る恐るまぶたを開くと、アリスが口元を両手で抑えて笑いを堪えていた。
私はまだ混乱していて状況が分からなかった。
「くっ、ふふふふふ、ご、ゴメン、もう無理。あははははははははは、は~可笑しい、霊夢ったら、顔真っ赤にして、ぷるぷる震えちゃってさ、ふふふ」
「???・・・・・あっ!さては、あんた初めから私を」
「ええ、とっても可愛かったわよ」
しれっと言いやがって、こいつ初めから私をからかうのが目的だったんだ。
乙女心?を弄ぶとは許せん!退治してやる!
今日の巫女は血に飢えているのよ。
「アリス!あんたいい度胸してるわね。覚悟は出来てるんでしょうね、表に出なさい!」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。ほんの冗談じゃない、まだ残ってるポッキー全部あげるからさ」
「貰う物は貰うわ。でも食べる前に運動なんていいんじゃないかしら。だから表出ろ」
「むう、そこまで言うなら仕方ないわね。分かった、お賽銭入れるわ」
あれ?そんな事言ったっけ?
「さらに一年間ポッキー食べ放題」
「むう~、まあそれなら・・・一様反省もしてるようだし」
「本当?さすが霊夢ね、惚れ直したわ」
「何言ってるんだか・・・はあ、まったく調子いいわねぇ。そうだ、ついでに罰として今日の晩御飯あんたが作りなさい。豪勢なやつ」
「は~い」
ほんとに反省してるのかなぁ。
その後アリスを買出しに行かせた、無論費用はアリス持ちだ。
残った私はポッキーをつまむ。ポリポリポリ
「しかしおいしいわね。一年間食べ放題かぁ、食べすぎに気をつけなきゃ」
おわり
これより先は本編のおまけ差分になります。百合成分が濃くなりますので、無いわ~という人はご注意下さい。
あとどれくらいポッキーは残っているのだろう。
もう後一口で唇が当たってしまうのだろうか。
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
ポリッ
かすかに息がかかってこそばゆい、目を瞑っているのに瞼の裏にはアリスの顔が焼きついている。
頭の中もぐしゃぐしゃで、まともな思考も出来そうもない。
次の一口で、きっと私はアリスと・・・
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
このままじゃ本当に、今からでも冗談だって・・・・・・
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
「んぅ・・・・・・ふ・・・」
キス、してしまった。
まともな思考どころか頭の中は真っ白で、どれくらいの間していたのかも分からない。
アリスの唇が離れ遠ざかって行くのを、瞬きを忘れて、焦点も定められず、ただ見ていた。
「霊夢」
アリスに名前を呼ばれてはっとなる。
意地悪な笑顔で、べえっと舌を出した。
その舌の上にはさっきまで私の口の中にあったはずのポッキーが乗っている。さっきキスされたときに取られたんだろう。
しかも私がずっと銜えてたから、チョコの部分が溶けてほとんど中の芯が見えていた。
また顔が熱くなってくるのを感じる。
私の反応を見て満足したのかアリスは舌を引っ込める。
「霊夢の味がしておいしいわね、ご・ち・そ・う・さ・ま」
「あ・・・う・・・・・」
まるで頭の奥の方が痺れているようで、言葉が何も出てこないし、喉もからからだ。
恥ずかしさで一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたい。
なのに体は熱さを増すばかりで、ちっとも言うことを聞かない。
アリスから、そのピンク色の唇から目を離す事が出来ない。
やっぱりあのポッキーには何か薬が入っていたんだろうか。いや、入っていたに違いない。
そうじゃないとおかしい。絶対におかしいのよ。
だって、こんなに・・・
「ねえ、霊夢。まだまだポッキーはたくさん有るけど・・・・・・どうする?」
おわり
秋の終わり、紅く色づいていた山々も寂しくなって、地面は落ち葉に覆いつくされる。
神社も例外ではなく、境内を毎日のように掃除しても終わりはこない。掃いては積もり、積もっては掃く。
最近はこれといった異変も無く客も来なかったため、代わり映えの無い日々を繰り返していた。
友人である黒白の魔法使いや、紅い館の主従、常に酔っ払った鬼、ブン屋、いつも頼まなくてもやって来る人妖達を思い出す。
そういえば、たまにやって来てはお菓子を差し入れてくれるもう一人の魔法使いにも会ってないな。
「はあ、なんだか小腹が空いてきたわね、何かお茶請けあったかなぁ」
ため息をつきながら、何とはなしに掃除を終えたばかりの境内を眺める。
せっかく毎日掃除しているのだ、誰か参拝に来てくれてもいいのに・・・
日中とはいえ少し肌寒い、熱いお茶でも淹れて温まろう。
そう考えて戻ろうとすると鳥居の向こうから影が近づいて来る。
それは人形のような容姿をしていた。
「こんにちわ」
「久しぶりね。賽銭箱ならあっちにあるわよ」
「はいはい、ところで今日もサボりなの?」
「この落ち葉と箒を見なさいよ、それに今から休憩なの」
「それならちょうど良かった。実は新作のお菓子を作って来たのよ」
「へえ、気が利くわね。新作ってなに作ったの?」
「ふふふ、それは後のお楽しみよ」
そう言っていたずらっぽく笑う。
彼女はその容姿のせいかあまり表情を表に出さないイメージがあるらしいが、そんなことはない。
魔理沙ほどではないが結構笑うし、以外に子供っぽい面もある。
「まあいいわ。これ片付けたらお茶を淹れるから、先に居間に行っといてちょうだい」
「ええ分かったわ。それじゃあ、お邪魔させてもらうわね」
お菓子が入っているだろうバスケットを人形に持たせて、彼女が脇を通り過ぎていく、すれ違いざまに甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
新作のお菓子・・・一体どんなものだろうと想像する。クッキー?ケーキ?彼女が作ってくるお菓子はいつだって洋菓子だ。
バスケットの中身に思いをはせていると、彼女はずいぶん先に進んでいた。
我に返った私は箒を納屋に放り込むと少し足早に台所に向かった。
新作なるお菓子と久々の来客、少し上機嫌になった私は普段飲んでるお茶より良いものを淹れる。
これは基本的に自分へのご褒美用だが、今日は、まあ特別だ。これ位のもてなしはするべきだろう。
お盆に湯飲みを二つ乗せ居間に移動すると、彼女は机の上にバスケットを置いて待っていた。ふたはまだ開けられていないようだ。
私は彼女にお茶を渡し席に着いた。
「おまたせ。はい、これあんたの分ね。熱いから気をつけてね」
「ありがとう、じゃあこっちもお披露目ね―――――じゃーん!」
心なしかいつもよりテンションが高い、よほど新作のお菓子に自信があるのだろうか。
勢いよくバスケットのふたが開かれる。
なんと、そこに入っていたのは!
「・・・・・・なにコレ?」
「え~~~、つまらない反応ね。なにこれすごい! とか、コンナノワタシハジメテ! とか、なにかあるでしょう?」
「いや、そんな事言われてもねぇ、初めて見るし、なんか細くてしょぼくない? まあ結構数はあるみたいだけど」
「むう、それもそうか・・・ よし、何も知らない貴方に教えてあげましょう」
特別なんだから、ありがたく聞きなさいよ? と彼女は説明を始める。
なんだか得意げで楽しそうだ。私も少しくらいは興味があるので邪魔をしないように話を聞く。
「これはポッキーって言ってね、外の世界のお菓子なのよ」
「外の?」
「そう、この前早苗に教えてもらったのよ」
「あんた早苗と仲良かったんだ」
「まあね、最近家に裁縫とか習いに来てるのよ。その代わりに外の世界の人形とかお菓子の話を聞いてるんだけど、よく分からないものも多いわね。このポッキーだってそうよ、初めに聞いたときは何がなんだか」
「へー、たしかに名前だけ聞いてもさっぱりだわ」
「でしょうねぇ。ま、とりあえず食べてみてちょうだい、味は保証するわよ。あ、毒とか入ってないから安心してね」
「毒とかって大丈夫なんでしょうね、なんか不安になってきたわ・・・。 じゃあ、とりあえず一本」
このポッキーというお菓子、見た目は棒状の焼き菓子を黒い、チョコレート?で包んだという簡単なもので、細いしなんだか物足りなさそうだ。
そのためにたくさん作ってきたのかもしれないが、結構な本数がある。
まあ味の保証はするって言ってたし、食べてみない事には始まらない。
3、40本はあるであろうポッキーを一本取ってみる。手が汚れないように取っ手の部分をコーティングしていないとは、なかなか気の利いたデザインだ。
黒い部分はやはりチョコレートのようで、カカオの匂いを嗅ぎ、当分食べてなかったチョコの味を思い出す。
案外お酒のあてや、ちょっとしたときにおつまみにいいかもしれない。
いろいろ考えながらまず一口
ポリッ、サクサクサクサク、コクン・・・
やべぇ
ポリッポリッポリッ、サクサクサクサクサクサクサクサク、ゴクン・・・
うめぇ、ポッキーうめぇ、ポッキーやべぇ
ポリポリサクサクコクン、ポリポリサクサクゴクン
「ふふん、その様子だとお気に召したようね」
夢中になって一本、二本と食べていると声をかけられた。口の中の水分を奪われていたのでお茶を一口。
「んぐ、ぷはっ、すっごくおいしい。サクサクした食感がなかなか癖になりそうだわ。味はシンプルなんだけどそれがまたいいというか、正直見た目で侮ってたわ」
正直もう癖になってるかもしれない、勢いはそのままに三本、四本と平らげる。さあ五本目!と手を伸ばす。
しかし伸ばした手は空を切った。さっきまでポッキーがあった場所にポッキーが無い。
お菓子がひとりでに動くわけはなく、心当たりはひとつしかない。
伸ばした自分の指先から、ポッキーの入ったバスケット、それを掴んでいる白い手、と視線を動かしていくと彼女の顔が目に入る。
口を三日月のよう吊り上げ、ニヤニヤと笑っていた。にいかにも何か企んでますって顔だ。
「ちょっと、何すんのよ」
「ふふふふふ、ねえ霊夢、ここでひとつゲームでもしてみない?」
「そんなの後でいいじゃない。まだたくさん残ってるんだから、けちけちしないでポッキーちょうだいよ」
「そのポッキーを、今よりずっっっっとおいしく食べられるとしても?」
「今よりおいしく・・・・・・ ちなみにそのゲームってどんな内容なの?」
「おっと、先にするかしないかの答えを出してちょうだい。するんだったら内容を教えるわ」
「なんだかめちゃくちゃ怪しいんだけど・・・」
「ちなみに、このゲームに勝ったら一年間ポッキー食べ放題!しかも今なら賽銭もつけるわよ」
「乗った!」
「流石は霊夢ね、途中でやっぱり止めるとかなしよ?」
「巫女に二言はないわ!早く説明してちょうだい」
「じゃあ説明するわね。ルールはいたって簡単、ポッキーの両端を二人でくわえてお互いに食べ進めていくの。全部食べきれば成功、途中で折れたら失敗。ね、簡単でしょ?」
「・・・・・・・」
「質問は無いわね、じゃあ始めましょ。はい、あーん」
「・・・ちょ、ちょっとちょっと、待ちなさい。え?両端から?二人で?」
額に手を当てて考える、悩んでますってアピールは必要なのだ。
さて、こいつは何を言っているんだ。人の頭が春とか言ってたけど七色色欲馬鹿にでもなったのだろうか。こんな棒を両端から食べれば最後に待ってるのは・・・
彼女の方を見てみるとポッキーを差し出したまま不思議そうな顔をしていた。いやいや、疑問なのはこっちよ。どこの世界にそんなゲームがあるというのか。
「何を悩んでるのよ?まさかルールが分からなかったとか?」
「そこじゃないわよ!こんなの両端から食べれば、キ、キ・・・その・・私と、あんたが・・・・・キー!!」
「ちょっと、どうしたの? キ~・・・ああ!」
「・・・・・・」
「ははーん、さては、あなたキスしたこと無いんでしょ?意外とお子様だったのねぇ」
「あんたには言われたくない!それに別にしたこと無いなんて言ってもないし、あんただってしたこと無いでしょう」
「さあどうかしらね?まあそんな瑣末なことはどうでもいいわ」
そりゃあ私はキスなんてしたこと無いけど、こいつもした事が有るなんて思えない。
早苗に教えてもらったとか言ってたけど、まさかね・・・
「それよりさ巫女に二言はないんでしょ。なに、怖いの?」
さあ!っとポッキーを差し出してくる。
くっそー馬鹿にして、しかも甘い罠で私を釣るとはなんて奴だ、もういっそ退治してしまおうか。
夢想封・・・いやいや待てよ、所詮ゲームだし、すぐに失敗して適当に切り上げちゃえばいいんだわ。
勝利特典は惜しいがお菓子作りの腕とか褒めとけばまた作ってきてくれるだろう。うん、私って頭良い!
恥ずかしいのは少しだけ我慢だ。
「ふん、そこまで言うならやってやろうじゃない」
「ようやくその気になったわね、はい」
差し出されたポッキーをぱくっと銜える。
「それじゃ、ゲームスタートね」
そう言うと、彼女は反対側をぱくっと銜える。
違いを上げるとするなら彼女の方がやや身を乗り出しているだろうか。
向かい合って机に肘をつくきポッキーを銜える、二人ともほとんど同じ体勢になった。
思っていたより顔が近い。
ポリッ
それなりに付き合いが長いとは言っても、こんなに近くで彼女の顔を見たことなど無かった。
白い肌、整った顔立ち、吸い込まれそうな青い瞳。
本当に人形みたいなヒト。
ポリッ
少し考え事をしている間にも距離が縮まっていく。
私の方からはまだポッキーをかじっていない。いや、かじれていない。
ポリッ
すぐに失敗すればいいと軽く考えていた。
変な緊張をしているのかなんなのか体はまるで自分の物じゃ無いみたいで。
視線も彼女から外せない。
ポリッ
視線を落としポッキーを見ていた瞳がこっちを見る。
ドキン
目が合った、するとまた意地悪に笑う。
必死の抵抗とばかりに睨み返してやった。
さっきから顔が熱い、もしかするとすごく赤くなっているのかもしれない。
ドキン ドキン ドキン
ポリッ
近い 近い ちかい 文字どおりアリスの顔が目の前に来ている。
耐え切れず私は目を瞑ってしまう。
ドキンドキンドキンドキンドキン
ポリッ
ッ―――――まぶたに力が入る。
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
ポリッ
あとどれくらいポッキーは残っているのだろう。
もう後一口で唇が当たってしまうのだろうか。
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
パキンッ
ん?
何だろう?急に抵抗が無くなっって、銜えているポッキー越しの感覚が軽くなった。
「ぷっ」
何かを噴出すような声が聞こえる。
「アリス?」
恐る恐るまぶたを開くと、アリスが口元を両手で抑えて笑いを堪えていた。
私はまだ混乱していて状況が分からなかった。
「くっ、ふふふふふ、ご、ゴメン、もう無理。あははははははははは、は~可笑しい、霊夢ったら、顔真っ赤にして、ぷるぷる震えちゃってさ、ふふふ」
「???・・・・・あっ!さては、あんた初めから私を」
「ええ、とっても可愛かったわよ」
しれっと言いやがって、こいつ初めから私をからかうのが目的だったんだ。
乙女心?を弄ぶとは許せん!退治してやる!
今日の巫女は血に飢えているのよ。
「アリス!あんたいい度胸してるわね。覚悟は出来てるんでしょうね、表に出なさい!」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。ほんの冗談じゃない、まだ残ってるポッキー全部あげるからさ」
「貰う物は貰うわ。でも食べる前に運動なんていいんじゃないかしら。だから表出ろ」
「むう、そこまで言うなら仕方ないわね。分かった、お賽銭入れるわ」
あれ?そんな事言ったっけ?
「さらに一年間ポッキー食べ放題」
「むう~、まあそれなら・・・一様反省もしてるようだし」
「本当?さすが霊夢ね、惚れ直したわ」
「何言ってるんだか・・・はあ、まったく調子いいわねぇ。そうだ、ついでに罰として今日の晩御飯あんたが作りなさい。豪勢なやつ」
「は~い」
ほんとに反省してるのかなぁ。
その後アリスを買出しに行かせた、無論費用はアリス持ちだ。
残った私はポッキーをつまむ。ポリポリポリ
「しかしおいしいわね。一年間食べ放題かぁ、食べすぎに気をつけなきゃ」
おわり
これより先は本編のおまけ差分になります。百合成分が濃くなりますので、無いわ~という人はご注意下さい。
あとどれくらいポッキーは残っているのだろう。
もう後一口で唇が当たってしまうのだろうか。
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
ポリッ
かすかに息がかかってこそばゆい、目を瞑っているのに瞼の裏にはアリスの顔が焼きついている。
頭の中もぐしゃぐしゃで、まともな思考も出来そうもない。
次の一口で、きっと私はアリスと・・・
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
このままじゃ本当に、今からでも冗談だって・・・・・・
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン
「んぅ・・・・・・ふ・・・」
キス、してしまった。
まともな思考どころか頭の中は真っ白で、どれくらいの間していたのかも分からない。
アリスの唇が離れ遠ざかって行くのを、瞬きを忘れて、焦点も定められず、ただ見ていた。
「霊夢」
アリスに名前を呼ばれてはっとなる。
意地悪な笑顔で、べえっと舌を出した。
その舌の上にはさっきまで私の口の中にあったはずのポッキーが乗っている。さっきキスされたときに取られたんだろう。
しかも私がずっと銜えてたから、チョコの部分が溶けてほとんど中の芯が見えていた。
また顔が熱くなってくるのを感じる。
私の反応を見て満足したのかアリスは舌を引っ込める。
「霊夢の味がしておいしいわね、ご・ち・そ・う・さ・ま」
「あ・・・う・・・・・」
まるで頭の奥の方が痺れているようで、言葉が何も出てこないし、喉もからからだ。
恥ずかしさで一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたい。
なのに体は熱さを増すばかりで、ちっとも言うことを聞かない。
アリスから、そのピンク色の唇から目を離す事が出来ない。
やっぱりあのポッキーには何か薬が入っていたんだろうか。いや、入っていたに違いない。
そうじゃないとおかしい。絶対におかしいのよ。
だって、こんなに・・・
「ねえ、霊夢。まだまだポッキーはたくさん有るけど・・・・・・どうする?」
おわり
よくやった。
最高のレイアリでした!!!!
レイアリ最高だぜヒャッハァー!
あぁポッキーこわい、ポッキーゲームこわい
幻想郷牛耳れるアリスとかもういい加減くどいよ。
期待以上に霊夢がかわいくて良かった。
うまく一年間通い続ける口実を得たアリスww
以下コメ返し
>8様
ポッキーさんには一肌脱いでいただきましたw
>11様
アリスはツンデレなんかも良いですが、こういうイメージもありますよね。
>15様
ありがとうございます!
>17様
ゆっくりニヤニヤしていってね!
>18様
そして霊夢はアリスの尻に敷かれるんですね、分かります!
>奇声を発する様
ありがとうございます!レイアリ良いですよね。
>月宮 あゆ 様
もっと甘いの目指したいですw
>24様
ですよねwよくもこんなハレンチゲームを!みたいな
>27様
ありがとうございます、ヒャッハァー!レイアリ最高だぜぇ。
>30様
それはもう二本目、三本目と、ふっふっふw
>34様
満足頂いてなによりです。しかしこの二人は一本じゃあ満足しませんよw
>42様
ふふふ、もっと怖がっていいのよ?w
> 日間賀千尋様
おまけ差分は迷ったんですが、入れてよかったですかねw
>48様
一応愛さ霊夢の一環のつもりで書きましたが、まだまだ文章力が足りないみたいで精進します
>49様
ありがとうございます!実は、始めはおまけ差分が本編だったりしたんですよw
>50様
むむぅ・・
>54様
ありがとうございます!受け霊夢の可愛さと言ったら・・・
>55様
気付いて頂けましたかwこの話のアリスは霊夢が好きで仕方ないのですよ!
作者は俺とポッキーゲーム