うーん、なんか頭が痛いなぁ……
ちょっと早いけど、寝たほうがいいかしら。
私は頭を軽く抑えながら、永遠亭の廊下を居間から自分の部屋に向かって歩いていた。
その途中に……
「れいせーん! ……そりゃー!」
「へぶっ!?」
いきなり後ろから飛び蹴りを食らった!
そしてドシーンと派手な音を立てて前のめりに倒れる私。
……痛い。かなり痛いんだけど。
私に蹴りを食らわせたのは誰だか分かってるわ……あいつしかいない。
「てゐ! いきなり何すんのよ!」
「いやー、鈴仙の背中がチラって見えてさー。
で、その背中が蹴ってくださいって言ってたもんだから、心優しい私が蹴ってあげたったって訳」
「そんなこと背中が言うかー!」
ふざけたことを抜かすてゐには、とりあえず拳骨をお見舞いしておこう。
……ふんっ!
お、いい音がしたわね。ゴチンッって音が。
「いたたた……殴ることないじゃない!」
「いきなり蹴られたんだから殴りもするわよ……まったく」
あ、怒鳴ったり蹴られたりしたせいで、頭がさっきよりも痛く……
もう薬飲んで早く寝たほうがいいわね。
「ん、どうかしたの?」
「いや、ちょっと頭が痛くてね……」
「え、そ、そうなの?
ちょ、ちょっとお師匠様呼んでくるから待ってて!」
あ、行っちゃった。
頭痛い、なんて言ったら急に慌てちゃって……
なんだかんだ言って、心配してくれてるのね。ふふ、ありがと、てゐ。
ふぅ、ちょっときついし、座って待とうかな。
「お師匠様、こっちこっち!」
「はいはい、分かってるわよ」
声のするほうに目をやると、てゐと師匠の姿。
師匠は落ち着いてるけど、てゐの方は少し慌てている。
「ウドンゲ、どうしたのかしら?」
「ちょっと頭が痛くて……」
「頭が痛いだけ?」
「え、ええ、今のところは」
そこまで言うと、私の額に師匠の手がぴたり、と触れる。
師匠の手、少し冷たくて気持ちがいいなぁ……
「うーん、少しだけ熱があるわね」
「お師匠様、鈴仙大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってるじゃない。うーん、たぶんただの風邪ね」
「よ、よかったぁ……」
てゐが心配してくれてる……なんだか嬉しいな。
「さ、この薬を飲みなさい」
師匠は小さな錠剤と水を手渡してくれた。
風邪薬、なのかな、これ?
とりあえずもらおう。
口に薬を投げ込み、水で喉の奥へと流し込む。
「ふぅ。今飲んだのは風邪薬ですか?」
「まぁ、そんなものね……ただ……」
ただ?
「作ったばかりの新薬だから、副作用とかが分からないのよねぇ。
風邪に効くのは間違いないはずなんだけれど」
「へぇ、そうなんですか……って、ちょ、ええええ!?
師匠、そんな何が起こるか分からない薬を私に飲ませたんですか!?」
「まぁ、大丈夫よ。そんな大きな問題は起こらないわ……多分」
「多分っていうのはやめてくださいよ! あ、あいたたたた、頭痛い……」
「叫んだらもっと酷くなるわよ。さ、早く寝なさい」
「う、はい、そうします……」
うん、早く寝ないと倒れちゃう。
立ち上がろうとしたら、てゐが肩を貸してくれた。
ただ、背丈が違いすぎるから、体がものすごく傾いてるけど。
「ほら、鈴仙、しっかりしてよ!」
「あ、ありがとうね、てゐ……」
「それじゃあ、行くよ」
一歩一歩、気をつけながら部屋に向かう。
てゐの手伝いもあって、何とか部屋にたどり着くことは出来た。
「鈴仙……さっきはごめんね」
「気にしてないわよ。それじゃあ私は寝るから……おやすみ」
「うん、おやすみ」
ふふ、てゐは本当に可愛いわね。
頭が痛くなかったら、あのまま抱きしめて布団に引きずり込んでたかも。
……う、また痛くなってきた。
さっき飲んだ薬の効果が怖いけど、寝よう。
起きたら何も起こっていないことを祈るわ……
おやすみ……
ん、鳥のさえずる声に外から差し込む光。
どうやら朝みたいね。ふわぁ、よく寝た。
おっ? 頭痛がなくなってる。熱も。
昨日の薬が利いたみたい。
流石は師匠の薬だわ。副作用なんかも無いみたいだし。
……ってあれ? なんか体の様子がおかしいような。
「何だろう、上手く言えないんだけど何かがおかしいわ」
と、とりあえず起きようかな。よいしょ、っと。
……あれ、今何かが下に落ちたわね。
バサッ、って音がはっきり聞こえたもの。
そーっと、顔を下に向けていくと……肩にだぼだぼの上着とブラジャーが引っかかっている。
さらに顔を下に向けると……
見慣れたスカートとパンツが足元に落ちている。
あれ、あのー、嫌な予感しかしないんですけど。
「そ、そうだ。鏡を見てみれば……」
それじゃあ、覚悟を決めて……それっ!
「……何これぇええええええ!?」
なんで私、こんなに小さくなってるの!?
もしかしててゐより小さいんじゃないかしら?
いや、同じくらい?
うっ、じ、自慢だった胸も小さくなってる。
ちょっとショック……
「れーせーん、入るよー?」
私が自分の体の変化に驚いた時、後ろの方でそんな声が。
ガラッという障子を開ける音に振り向くと……固まったてゐがいた。
「え、鈴仙……だよ、ね?」
「ええ、鈴仙だけど……」
てゐは信じられない、といった感じの顔で私を見ている。
「えーと、何でそんな風になってんの?」
「それはこっちが知りたいくらいよ……」
「うわぁ、それにしてもちっさくなったねぇ」
うわ、てゐの顔が私の顔と同じ高さにある。
いつも見下ろしていたから違和感あるなぁ。
「あんまり言いたくないけど、いろいろなところも小さくなってるね」
「いろいろなところって?」
「胸とか」
「う、うるさい!」
うぅ、さっきショック受けたばかりだから言わないで欲しい……
「それよりも何か着たら? その、目のやり場に困るしさ」
あ、確かに。上半身はだぼだぼのYシャツとブラジャー、下半身は……何もつけていないものね。
てゐとはよくお風呂に入ったりしてるから、恥ずかしいとかは思わないけど。
でも何か着るって言っても、スカートとパンツはサイズが大きすぎて着れないし……
とりあえず毛布でも羽織っておこう。
「しっかし、何でこんなことに……あ!」
「あ! って何よ?」
「昨日鈴仙が飲んだ薬! アレのせいじゃない?」
「あ、なるほど」
言われてみると確かに。
原因が何かと聞かれたらアレしか考え付かないわね……
ここは師匠に聞いてみるしかなさそう。
「よし、てゐ。師匠に聞きにいくわよ! 解決法を知ってるかもしれないわ」
「合点承知!」
……解決法、知ってるといいんだけどなぁ。
「師匠! 聞きたいことがあります!」
「は、ウドンゲ!? どうしたのよ、その格好は!」
「れ、鈴仙……? 鈴仙よね?」
居間に入ると、師匠と姫様に目を丸くされた。
「それはこっちが聞きたいくらいです!
師匠の薬を飲んだせいでこうなったとしか考えられないんですよ!」
「薬……あぁ、昨日飲ませたアレね」
「確か師匠、副作用とかがどうなるかわからない、って言ってましたよね?
絶対あの薬の副作用ですよ!」
「あらら、今回の薬は失敗だったみたいね」
「冷静に分析しないでくださいー!」
うぅ、泣きたい……というか泣かせて。
「ねぇ、ちょっと鈴仙。こっちに来てもらえるかしら?」
「は、はい。どうかしました?」
姫様に呼ばれるままに近づくと……えっ!?
「あぁ、可愛いわねぇ……よしよし」
いつの間にか姫様の膝の上に座ってた。
えーと、なんか私、姫様に捕まったみたい。
なんか頭撫でられてるし。
あ、でもなんか気持ちがいい……
「ふわぁ、姫様、気持ちいいです……って、そんなことより!
どうしたら私、元に戻るんですか!?」
姫様の膝の上に乗ったまま師匠に聞いてみる。
「さぁ?」
「はい!?」
いや、さぁって言われても……
「私にもどうなってるのか、さっぱり分からないんだから手の施しようが無いわ。
まぁ、一日もすれば元に戻るでしょ。薬の効果なんていつかは切れるものだし」
「またいい加減な……」
「下手すれば二度と元には戻れないかもしれないけどねー」
「笑顔でそんな怖いことをさらっと言わないでください、師匠!」
嫌だ、元に戻れないなんて嫌だよ……うぅ、戻りたい。
でも現時点で手の施しようも無いしなぁ。
師匠の言うとおり、待つしかなさそうね。
「とりあえず、明日元に戻れると信じて今日一日過ごしますよ……
あ、そういえば、何か着るものはありませんかね?
流石に一日中布団にくるまっておくのも無理がありますし」
この体じゃいつも着ている服は着れそうに無いし、新しい服を探さないと。
「うーん、今のあなたが着れそうな服ねぇ。ちょっと待ってなさいよ」
そう言うと師匠は居間を出て行く。
何処かに着れそうな服があるといいのだけれど。
「それと姫様、出来れば髪を引っ張らないで貰えますか?」
「あ、ごめん。サラサラだったからつい」
えへへと笑いながら、姫様は髪から手を離してくれた。
「私の服を着る?」
「うーん……他に何も無かったら着させてもらうわ」
いつも着慣れてる服が一番いいんだけどね。
でも私が着れそうな物なんてとても……
「見つかったわよー」
「お、ありましたか。どんな服ですか?」
「あなたがいつも着てる服をスケールダウンした奴」
……えーと、なんでそんなもんがあるんですか?
こういう時が来ると予想していたわけでもあるまいし。
「てゐがあなたの服を着てみたいって前に言ってたから作ってみたんだけどね。
いや、まさかこんなところで役に立つなんて予想してなかったわ」
てゐが?
ちらり、とてゐを見てみた。
「あ、まぁ、なんていうのかな?
その、鈴仙がいつも着てる服、かっこいいというか可愛いというか……
私も着てみたいなーって思っちゃったりしちゃったり……」
へぇ、意外ね。
「もう、素直じゃないわねぇ。
ウドンゲとおそろいの服着たいってはっきり言えばいいじゃない」
「わ! お師匠様、それ言っちゃ駄目!」
あら、てゐったら意外と可愛いところあるじゃない。
それにしてもてゐとペアルックかぁ。
うーん、体が元に戻ったらしてみようかしら。
「う、うぅ、恥ずかしいよぅ……」
「とりあえずこれなら着れそうだし、着てみれば?」
「はい。着てみます。あ、そういえば下着は無いですか?
流石に下着無しで服を着るのには抵抗が……」
「下着ならそうねぇ。てゐのを借りたらいいんじゃない?」
てゐの……な、なんか心臓がドキドキ言ってるんだけれど。
う、うぅ、顔が熱くなってきた。
「え、えぇ!? さ、流石に下着を貸すのはちょっと抵抗が……」
「仕方ないじゃない。それとも何? あなたが新しい下着のお金払う?」
「う、流石にそれは……今月厳しいし」
私も今月厳しいし、新しい下着を買うほど余裕は無いなぁ。
……うん、ここはもう借りるしかないわね。
「うぅ、分かりました。てゐ、悪いけど貸してもらえる?」
「あ、う、うん。恥ずかしいけど仕方ないもんね……」
そういうわけで私はてゐに下着を借りることになったのだった。
他人の下着を借りるのはちょっと気が引けるけどね。
「とりあえず着てみましたけど、いい感じにぴったりでしたよ!」
「お、それは良かったわね」
別室で着替えてきたけど、この服が恐ろしいほどぴったりなのよね。
ひとまずこれで安心かな。
「へぇ、下着もぴったりみたいねー」
「ひあっ!? めくらないでください!」
姫様にスカートめくられてるんだけど!
恥ずかしいからやめてください!
「うん、確かにぴったりね……下着のほうも」
師匠までニヤニヤしないでくださいよ……
ほ、ほら、てゐのほうも恥ずかしがってるじゃないですか。
「そ、それじゃあてゐ、ちょっと借りるからね……?」
「う、うん……」
よし、とりあえず服のほうは問題ないわね。
この状態がいつまで続くのやら……
「とりあえずしばらくはこの服で過ごすことになりそうですね」
「あ、その服は一丁しかないから、大事にしなさいよ」
「はい、わかりました」
つまりこの服を駄目にしちゃったら換えの服はない、ってことか。
気をつけないといけないわね。
「ねぇねぇ、鈴仙にてゐ。ちょっとそこに並んでくれるかしら?」
「はぁ、別にいいですけど……」
姫様に言われて、てゐの横に並んでみる。
どうしたのかな?
「うーん、こうして見ると、二人って姉妹みたいね。
うん、二人とも可愛いわよー」
え、ちょ、ちょっと恥ずかしいな……
私、そこまで可愛いかしら?
てゐが可愛いのには同意できるけど。
「ひ、姫様、恥ずかしいですよ……」
てゐが真っ赤になってそんなことを言った。
「カメラがあったら写真を撮りたいところだけどねぇ。ね、永琳?」
「分かるわね。確かに今の二人の写真が欲しいわ……」
二人とも、ニヤニヤしないでくださいよ。
……さて、もういいよね?
「と、とりあえず私には仕事があるんで、抜けさせてもらいますね」
「その体でも大丈夫?」
「ええ、何とかなりますよ」
まぁ、ちょっとだけ不安だけど。
「うーん、とりあえず私たちも手伝うわ。その体だと、色々大変そうだしね」
「私も微力ながら協力させてもらうわよー」
師匠に姫様……!
うぅ、ありがとうございます!
「私も今日は精一杯頑張るよ!」
「てゐ……ありがとね! 姫様と師匠もありがとうございます!」
よーし、やる気が出てきたわよ!
「とりあえず私は買い物に行ってきますので、掃除と洗濯をお願いできますか?」
「ええ、洗濯は私に任せておいて」
「永琳が洗濯なら、私はお掃除かな?」
「それじゃあ、私は姫様のお手伝いってことで」
えーと、師匠が洗濯、てゐと姫様が掃除ね。
そして私は買い物っと。
「それじゃあ、お願いしますね。行ってきます!」
財布と手提げのバッグを取って外に出ると、
後ろから「行ってらっしゃい」という三人の見送る声が聞こえた。
よーし、私も頑張るわよ!
「ふぅ、買い物は終わったわね。
でもこの体だと重く感じる……」
体が小さいっていうのと、いつもよりちょっと量が多いっていうのがあってかなり重く感じる。
うーん、小さくなったらこういうところが不便ねぇ。
で、予想はしてたけど、やっぱりお店のおじさんに驚かれちゃった。
軽く説明したら納得はしてくれたけどね。
ついでに「頑張れ!」って言われて、おまけしてもらっちゃった。
「うーん、それにしても重い……少しずつ休憩しながら帰ろっと」
この状態だったら、永遠亭に帰り着くの遅くなるわね。
とりあえず、そこの公園で一休みしようかな。
「よいしょっと」
公園のベンチがこういう時、ありがたいわ。
それにしてもいい天気ね。
ぽかぽかしてて、気持ちがいい……
うっかりしてると、このまま寝ちゃいそう。
あ、言ってるそばからまぶたが少しずつ重くなって……
「あれ、もしかして鈴仙さんですか?」
「身長がおかしいけど、あの服は確かに鈴仙ね」
んにゃ? この声は……?
まぶたをこすって、辺りを見回してみると……
公園の入り口に、買い物帰りの咲夜と妖夢が。
「あれ、咲夜に妖夢……?」
「やっぱり鈴仙さんだ! どうしたんですか? なんか小さくなってますけど」
二人は私が座っているベンチまでやってきて、私の隣に腰掛けた。
なんか二人がすごく大きく見える……
「あー、これはね……」
とりあえず簡単に説明しておかなきゃね。
「なるほど、風邪薬の副作用ですか」
「永琳さんって、結構危ない薬作るわよね……」
うん、咲夜の言うとおり。
けっこう危ない薬作るのよね。
強力すぎる除草剤とか、相手が何でも言うこと聞くようになる薬とか……
「この体だと不便でしょうがないから早く戻って欲しいのだけれどね。
師匠によると、いつ戻るのかも分からないらしくて……」
「あー、それは大変ね」
うぅ、本当に元の体に戻れるのかなぁ。
涙が滲んできそうだよ。
「でも、この状態の鈴仙さん、可愛いなぁ……」
「へっ?」
「た、確かに可愛いわね……」
あのー、二人とも?
なんか目がギラついてるように見えるんだけど?
「抱っこしても……」
「いいかしら?」
「は、はい?」
そして私は反論する間もなく、妖夢に抱っこされてしまったのだった。
「はふぅ、小さくてあったかくて……こんな鈴仙さんもいいですねぇ」
そ、そんなに強く抱きしめないでもらえるかしら?
ちょっと痛いんだけど。
でも、抱っこされるのも悪くは無いなぁ。
……あ、背中に柔らかい感触が。
これって多分胸だよね?
全く無いわけではないけど、控えめな大きさの妖夢の胸。
これはこれでなかなか……
「あ、妖夢ずるい! 私にも代わってよ?」
「もちろんあとで代わりますよ。
ああ、でも小さい鈴仙さんって可愛いなぁ」
なんかちょっと恥ずかしいな。
嫌ではないんだけどさ。
「なんというか、家に置いておきたい位に可愛いですよ。
それで私の部屋のぬいぐるみさんたちと一緒におままごとでも……」
「え、妖夢、今なんて……?」
「へ? あ! いや、なんでもないですっ!」
へぇ、妖夢にそういう趣味があったとはね。
でも女の子らしくて可愛いじゃない。
「妖夢ってぬいぐるみ集めてるの?」
「う、うぅ、恥ずかしいです……確かに集めてますけど……」
私が聞いてみると妖夢は真っ赤になって下を向いた。
意外といえば意外だけど、そこまで恥ずかしがることかな?
「可愛いじゃない。今度部屋に招待してもらえないかしら?
私が美味しい紅茶とお菓子を持って行ってあげるから」
咲夜が優しく微笑みながらそう言うと、妖夢は小さな声で「別にいいですよ」と呟いた。
「よーし、決まりね。それじゃあ今度『苦労人同盟』の面々も誘って遊びに行くわ」
「えっ、他の二人も誘うんですか!?」
苦労人同盟っていうのは私たちが立ち上げた集まりで、
今のところ私、咲夜、妖夢、藍、美鈴が参加してるわね。
苦労人っていうか従者の集まりではあるけれども。
ちなみに主な活動は愚痴とか世間話だったりする。
「あら、別にいいでしょ?」
「う、うーん……」
二人もこのことを知ったら、意外とか可愛いとか言うだろうな。
それにしても妖夢の部屋ってどうなってるのかしら。
今まで入ったこと無かったから、気になるなぁ。
「ちょっと恥ずかしいですけれど……わかりました。
今度暇な時にでも、みんなで遊びに来てください」
「どんな部屋なのか期待してるわ」
笑う咲夜に赤くなる妖夢。ふふ、微笑ましい光景ね。
「それより妖夢。私にも鈴仙を抱っこさせてくれないかしら?」
「あ、はい。それじゃ、どうぞ!」
今度は咲夜に抱っこされることに。
む、さっきよりも大きいものが背中に当たってる。
妖夢も決して小さくはないんだけど、咲夜は妖夢以上だからなぁ。
今までにてゐや妖夢を抱っこしたりすることはあったけど、二人もこんな感触を感じてたのかな。
「か、可愛い……お嬢様も可愛いけど、この状態の鈴仙もなかなか……
小さい子ってやっぱり可愛いわね!」
「は、はぁ、そうですね……」
前から咲夜は小さい子が好きっていうのは知ってたけど、この喜びよう……
テンション高すぎて、妖夢がちょっと引いてるわよ?
でも、咲夜って結構小さい子からも好かれてたりするのよね。
ちなみに情報源は里の子供たちとか、紅魔館の姉妹とかそのあたり。
彼ら曰く「頼れるお姉さんって感じがする」とのこと。
うん、分からなくはないわね。
「でもこうやって抱っこされるのも気持ちいいわー。
たまーに短い間だけなら、こうやって小さくなるのも悪くは無いかも」
「あはは、それなら私も小さくなってみたいですね。
で、鈴仙さんに抱っこしてもらったり……」
「小さくなってお嬢様に抱っこされてみたいわね……」
なんか二人の本音が聞こえた気がするけど、気にしないことにしよう。
それに妖夢は小さくならなくても、普通に抱っこしてあげてるじゃない。
小さくなるのって結構きついわよ?
「小さくなるのもきついわよ? 体力を普段の倍使うし……」
「それでもちょっとは憧れるわね」
「ええ。どんな感じなのか、一回小さくなってみたい気はします」
ふぅん、なるほどね。
あの薬ならまだ師匠が持ってるはずだし、分けてあげようかしら?
いや、冗談だけど。
「あ、そろそろ帰らないとみんなが心配するわね」
「あら、そうね。私たちも帰らないと」
「でも鈴仙さん……その大きさでこの荷物はきついんじゃないですか?」
うん、確かにきついのよね。
結構重いし、永遠亭まで距離あるし……
「そうだ! 私たちが手伝ってあげますよ!」
「えっ、いいの?」
「いいですよ! ね、咲夜さん?」
「ええ、もちろん。困った時はお互い様、でしょ?」
う、うぅ、ありがとう二人とも……
私はいい友達を持ったものだわ。
「それじゃあ、私が荷物を持ちますよ」
「じゃ、私は肩車でもしてあげようかしら?」
「あ、咲夜さんずるい! あとで私にも代わってくださいね!」
「はいはい、途中で交代ね」
肩車、か。
月にいた頃に依姫様、豊姫様にされて以来かな。
あの二人も目の前の二人みたいにどっちが肩車するかでもめてたっけ。
「さ、それじゃ乗って」
「う、うん」
しゃがんだ咲夜の肩に足をかける。
それにしても久しぶりの肩車だなぁ。
「よい、しょっと!」
うわ、高い!
すごく高く感じるわ。
「咲夜、大丈夫?」
「ええ、これくらい大丈夫よ。よくお嬢様たちにも肩車してるしね」
「咲夜さん、いいなぁ……絶対代わってくださいよ?」
「はいはい、わかってるわよ」
妖夢は私の荷物をひょい、と持ち上げた。
二人とも、ありがとうね。
ふふ、元に戻ったらこの恩を返さなきゃね。
「さ、行くわよ! 倒れないようにしっかり捕まっててよ?」
「うん!」
「はい、到着ですよ」
しゃがんだ妖夢の肩から飛び降りる。
やっと着いたわね。
しかし肩車したままあの竹林を抜けちゃうなんてね……
大変だっただろうな。
「二人とも、ありがとうね」
「いえいえ、困った時はお互い様って言ったでしょ?」
「私たちが困った時には助けてくださいね?」
「ええ、もちろんよ!」
もし彼女たちに困ったことがあれば、絶対助けにいくわよ。
……でもそんな時が来るかは謎だけど。
「あ、渡すの忘れるところだったわ。はい、荷物」
「うん、ありがと」
咲夜から私が買ったものが入った手提げを受け取る。
うわ、やっぱりこの体だとちょっと重いわね。
助かったわ……二人に手伝ってもらわなかったら途中で力尽きてたかも。
「それじゃ、私たちも帰るわ。つらいと思うけど、頑張ってね」
「鈴仙さん、頑張ってくださいね! 私、応援してますから!」
あ、帰る前にお礼をしておこうかな。
ふふ、ちょっと恥ずかしいけれどね。
「二人とも、お礼をしたいから顔を近づけてもらえないかしら?」
「顔、ですか?」
「何をするのかしら?」
うん、このくらい近づいてくれればいけるわね。
よいしょ……っと!
「えっ!?」
「ひゃっ!?」
二人は小さく叫び声を上げた。なぜかって?
それはね、二人の額に口付けをしたから。
「ふふ、これがお礼」
「全く、一本取られたわね」
「ふ、ふぇぇ……鈴仙さんの口付け……」
咲夜は苦笑しながら肩をすくめる。
対する妖夢は……顔を真っ赤にしながらボケーっとしていた。
妖夢はこういうことに慣れてないもんなぁ。
こうなるのは仕方ないか。
「それじゃあ、今日はありがとうね! 帰る時は気をつけて!」
「ええ、そっちも気をつけて。ほら、妖夢! 行くわよ!」
「あ、は、はい! えっと、鈴仙さん、頑張ってください!」
そう言って二人は元来た道を帰っていった。
……それにしても結構遅くなっちゃったわね。
そろそろ夕食の準備をしてもいいんじゃないかしら?
とりあえず師匠たちがどこまで仕事をやってくれたか確認しなきゃ。
「ただいま帰りましたー」
玄関の中から屋敷の中にそう叫ぶと、てゐが出てきた。
「お帰りー」
「ただいま。てゐ、掃除はどうなった?」
「ばっちりだよ! あとほんのちょっとかかるけどね」
へぇ、てゐもやれば出来るじゃない。
「そういえば姫様は?」
「まだ部屋の掃除をしてるよ。
実は今回の掃除、私よりも姫様が頑張ってたんだよね」
姫様が? そりゃまた意外。
私の予想だとてゐが八割くらい頑張るんじゃないかなーと思ったんだけど。
「驚いたよ。姫様があんなに出来るとは思ってなかったからさ」
姫様がそんなに頑張るなんてねぇ。
あとで姫様のところにも行ってみる必要があるわね。
ちょっと気になるわ。
「それじゃ、私は姫様のところに行ってくるから、買ったものを台所に持っていってくれない?」
「うん、いいよー」
「任せたわよ」
荷物をてゐに任せて、私は姫様の様子を見に行くことにした。
うーん、掃除を頑張る姫様なんて想像できないわねぇ。
ま、とりあえず自分の目で確かめましょ。
「姫様ー! どこですかー!」
「鈴仙ー? こっちこっちー!」
あ、姫様の声が。どうやらこっちみたいね。
そして私が向かった先には……
「お帰りなさい、鈴仙。いやぁ、体を動かすのってやっぱり気持ちいいわねぇ!」
爽やかな笑みで額の汗を拭う姫様の姿が!
ほ、本当に姫様が頑張ってる……! こんな姫様、見たことないわ……
こうやって家事の手伝いとかしてるところをあんまり見たことがないし。
ん、でも良く考えてみると妹紅と弾幕勝負をする時には結構動き回ってるよね。
ひょっとして姫様って運動とか得意なのかな?
「お、お疲れ様です……てゐから聞きましたよ。
姫様が頑張ってくれたって」
「ええ、久々に頑張っちゃったわよ。いい汗かいたわ」
意外だわ。姫様がここまでやるなんて。
「あら、お帰りなさいウドンゲ。帰りが遅いから心配したわよ」
気がつくといつの間にか背後に師匠が。
う、いつもより師匠が大きく見える……
圧倒されてしまいそう。
「あ、ただいまです。あの、洗濯物のほうは……」
「ああ、もう取り込む時間ね。そうそう、余った時間でゴミも捨てておいたから」
師匠が指差した先を見ると、洗い物が外に干してある。
多分もう乾いてるわね。
「で、こんな時間まで何してたのかしら?」
「あ、今説明します」
私は里で買い物をしてから、ここに帰ってくるまでのことを簡潔に説明する。
どうやら師匠も納得してくれたみたい。
「へぇ、咲夜に妖夢がねぇ。今度二人にお礼をしなくちゃね」
「はい、私もまた今度しっかりお礼をしたいと思ってました」
お礼、ね。そうだ。お菓子でも作って渡そうかな!
咲夜ほどは上手くないけどね……
「それにしても、姫様が掃除を頑張ったって聞いて驚きましたよ」
「意外に思ったんじゃない?」
「ええ。姫様が働いたところをあんまり見たことがないものですから」
そんなことを言ったら、姫様と師匠に笑われてしまった。
「確かに私はあんまり働いてないわねぇ! でもそれはあなたとてゐが頑張ってくれてるおかげよ」
「どういうことですか?」
「いや、あなたとてゐの二人が頑張ってるから、私は全くすることがないってだけ」
私とてゐってそこまで頑張ってたかな……?
でも言われてみると二人でも十分足りてるかも。
「それにね。あなたは知らないかもしれないけど、輝夜はこう見えて運動とか手伝いとか好きなのよ?
月にいたときからよく手伝いしてくれたり、外で遊んだりしてたくらいだからね」
へぇ、それは知らなかったなぁ。
自分はそんなことは露知らず、ただめんどくさがりだからやらないのかと……
ごめんなさい姫様。
「さて、仕事も全部終わったし、ご飯の準備でもしましょうか?」
「あ、はい!」
「ねぇ、永琳。今日のご飯は何かしら?」
「今日はお鍋のつもりだけど」
そのための材料は私が買ってきた。
量もたくさんあるし、みんなで食べても全部は無くならないかも。
「鍋かぁ。こんなことなら妹紅と慧音も呼べばよかったかしら。
鍋はみんなで食べた方が美味しいしね」
妹紅と慧音さんは良くうちに遊びに来るのよね。
以前は姫様と色々あったけど、今は完全に打ち解けちゃってる感じ。
「私を呼んだ?」
あ、この声は。
「あら、妹紅。いつの間に来てたの?」
「今ちょうどついたところ」
庭に目をやると、妹紅と慧音さんの二人組が立っていた。
よく見ると何か持ってるわね……タケノコ?
「タケノコがたくさん取れたからおすそ分けに、って思ってね」
「私と妹紅じゃ食べきれそうに無かったからな。いつもお世話になってるお礼にと思って持ってきたんだ」
へぇ、タケノコかぁ。あのシャキシャキした食感が好きなのよね。
ありがたく受け取らせてもらおう。
「で、そこのちっさいのは……もしかして鈴仙?」
「服装からしたら鈴仙みたいなんだけど……どうなんだろうな?」
二人とも不審な目で私を見てるんですけど。
だ、誰か説明してください……
「あー、これは鈴仙よ? 永琳の薬飲んだせいでこんなになっちゃって」
「ふーん、なるほどね……ある程度理解できたわ。しかし永琳の薬ってすごいなぁ」
「……か、可愛い」
へ、慧音さん、今なんて言った?
「これは可愛いな……! 永琳、その薬を私にも分けてくれないか?」
「えっ? そりゃまたどうして?」
「この薬を妹紅に飲ませれば、小さい妹紅を愛でることが出来るじゃないか!」
「はぁ!? け、慧音、何を言ってるの!?」
「その発想はなかったわね……なかなか面白そうじゃない」
「輝夜まで何を言ってるのよ!?」
妹紅が二人の餌食になろうとしてるわね。
でも妹紅には悪いけど、私も小さい妹紅って見てみたいなぁ。
きっと可愛いんだろうな。
「とっ、とにかく! 私は絶対にそんな薬は飲まないからね!」
「残念だ……」
「見たかったのにねぇ……」
うわ、二人ともすごく落ち込んでる。
そこまでショックだったんだ……
わからなくもないけどさ。
「大丈夫よ……妹紅が飲む水の中にでも薬をいれればバレないわ……」
「なるほど、そういう手もあるな」
師匠! あなた何を言ってるんですか!
ここまで行くと犯罪者に近いわね。
「あー、二人して何を話してるのかな?」
「いや、なんでもない。なんでもないぞ、妹紅」
「それならいいんだけど……」
妹紅、その人嘘ついてるわよ。
「と、とりあえずせっかくきたんだから、夕食でも食べていかない?
今日は鍋料理だからみんなで食べられるわよ!」
おぉ、姫様が話をすりかえた!
ナイス姫様!
「慧音、どうする? 鍋だって」
「そうだな……迷惑じゃなかったらご一緒させてもらおうか」
「決まりね! それじゃあ、準備するから待っててね!」
いや、準備するのは私なんですけど。
ま、いいや。姫様が嬉しそうだし。
「それじゃあ、私は準備してきますね」
「頑張ってね、鈴仙ー」
姫様の応援を背に受けて、私は台所に向かった。
さて、あと夕食の準備をすれば今日のお仕事は終了ね。
洗い物はいつもみたいにてゐがやってくれるだろうし。
今日は人数も多いし……頑張らなきゃ!
「やっぱり違和感あるわねぇ……」
台所に立った私は、流し台の高さが私の顎の辺りであることに気づく。
いつもなら流し台は私の腰くらいの高さなのに。
でもこれもしばらくの我慢。
「よし! やるわよ!」
声を出して自分にやる気を注入!
よーし、頑張ろう!
でも今日は食材を切って、鍋を用意するだけなんだけれども。
そしてこんな時に役に立つのが月から持ってきた「カセットコンロ」よねー。
ボンベは師匠が仕入れてくるんだけど……どこから仕入れてきているのやら。
多分紫さんの力でも借りてるんじゃないかなぁとは思うんだけど。
「れいせーん、手伝うよー!」
「あら、てゐ。手伝ってくれるの?」
「もちろん! 困った時はお互い様、ってね!」
いつもは生意気だけど……根は優しいのよね。
ありがとう、てゐ。
気がつくと、つい手が彼女の頭に伸びていた。
「やっ、撫でないでよ、恥ずかしい……」
「ふふふ、ごめんごめん。
それじゃあ食器とか運んでもらえる?」
「うん! 任せておいて!」
赤くなりながらも、棚から食器を運び出すてゐ。
私もてゐに負けてられないわ。
「さて、私も頑張らなきゃ!」
野菜、キノコ、肉を切ろうとするも……やっぱりこの身長だと作業がしづらいわね。
いや、爪先立ちをすれば出来なくはないけれども。
「ふぅ、休みながらやろっと……」
「鈴仙、頑張ってるー?」
ん、この声は……やっぱり姫様だ。
「ええ、一応頑張ってますよ」
「身長が足りないから大変そうね。
ほら、包丁貸して! 私がやってあげるから!」
「は、はぁ、わかりました……」
姫様は包丁を受け取ると……なんと見事な包丁捌きを見せてくれた!
きょ、今日の姫様は一味違う……!
まさか姫様がこんなに多才だったなんて。
「よし、終わり! 鈴仙、野菜は持って行っていいわよ」
「は、はい!」
しかも手際がいい。姫様すごいです……!
「よいしょっと……」
「ご苦労様ー」
野菜がたくさん乗った皿を居間まで運ぶと、妹紅がそんな声をかけてくれた。
そういえば妹紅は姫様のこと知ってるのかしら?
「妹紅、あなた姫様が多才だってこと知ってた?」
「うん、もちろん知ってるけど」
あ、知ってた。
そりゃそうか。何年……いや、何百年かしら?
それくらいの長い付き合いだものね。
「よく『妹紅! ご飯作ってあげる!』なんて言われたものよ」
「というか……今でもたまに言われるけどな」
へぇ、三人だけの時にそんなことが。
姫様が作るご飯……一回食べてみたいわね。
「へぇ、そんな事があったんだ……」
てゐが驚いてる。私も驚きよ。
「あぁ、あなたたちは食べたことないわね。
輝夜の作るご飯は美味しいわよ」
師匠がそういうなら食べてみたい……
うーん、気になる。
「れいせーん! 他の食材も切ったから持って行ってー!」
「あ、はい! 今すぐ行きます!」
おっと、行かなきゃ!
……いつの間にかいつもと立場が逆転してる。
でもたまにはこんなのもいいかもしれないな。
「はい、これ持って行ってねー」
渡されたのはお肉と豆腐とキノコが乗った皿。
この量だったら六人でも十分足りるわね。
「私は鍋を持ってくから」
「あ、お願いします」
「それじゃ、私はご飯を持っていこうかな?」
「うん、ご飯はてゐに任せるとしましょうかね」
いい感じに役割分担が出来ているわね。
ちなみに師匠は居間で配膳やコンロの準備をしていたりする。
「師匠、そっちはもういいですか?」
「ええ、大丈夫よ」
師匠に準備ができているかどうか聞くと、準備できたっていう返事が返ってきた。
「それじゃ、置きますね……よいしょっと」
テーブルの上にはたくさんの食材とお皿や水、そしてコンロが置かれている。
そしてそのテーブルを囲む面々……久々に楽しい夕食になりそうね。
「鈴仙、どかないと危ないわよー」
おっと、鍋が来たみたい。
邪魔になるから横にどかないと。
頭の上から熱いお湯が……とかいうのは勘弁して欲しいしね。
「あ、お疲れ様、輝夜」
「ただいまー」
「大変だったんじゃないか?」
「そうでもないわよ。食材切っただけだから」
姫様は妹紅の横に座って、妹紅、慧音さんと三人でそんな話をしている。
もう持ってくるものも無いし、私も座ろうかな。
あとはてゐがご飯を持ってきてくれるのを待つだけね。
「お待たせー」
噂をしたらやってきた。
お盆に六人分のご飯を乗せて。
「ほら、ご飯だよー」
お盆に乗ったご飯を隣へと回していく。
……よし、これでみんなに回ったわね。
「ほら、てゐは私の隣においで」
「あ、うん、わかった」
てゐはお盆を置いて、私の横に座る。
これでみんな揃ったわね。
「それじゃ、いただきましょうか……いただきます!」
「いただきまーす!」
師匠の声に合わせてみんながいただきますを唱和した。
早速元々鍋に入れていた食材を巡っての争いが始まる。
「へへー! 肉いただきー!」
「あ、てゐ! それは私が狙ってた肉なのに!」
「先に取ったほうの勝ちだもんね!」
「妹紅、肉だったら私が取った奴をやるから。な?」
「べ、別にそれでもいいけどさぁ……」
……この二人はもうちょっと静かに食べられないのかしら?
ま、騒がしい夕食も賑やかでいいけどね。
「まったく、二人とも見苦しいわよ。譲り合って食べればいいじゃない」
「師匠。肉を同時に何枚も皿に入れながら言っても、説得力がありませんよ」
「あれ、わかっちゃった?」
バレバレなんですけど。
というか私はまだ一口も食べてない……
「妹紅、あーん!」
「あ、輝夜ずるいぞ! わ、私も……」
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいって……」
そしてあっちはあっちでいつの間にか、お熱い展開になってる。
なんか私もされたいなぁ。
「ねぇ鈴仙、あーんして?」
「え、いいの?」
「もちろん! 早くあーんして!」
「あ、あーん……」
てゐが食べさせてくれるなんて、想像してなかったわ……
それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおっと!
「あーん……あ、あー、手が勝手にー。もぐもぐ……」
私の口に野菜が入る直前で、てゐは自分の口へと箸を運んだ。
……そうきましたか。
「てーゐー……?」
「ごめんごめん、手が勝手に動いたからしょうがない」
「嘘つけー!」
「あはは、今のは冗談だって。それじゃ、もう一回口開けてよ」
今度こそ信じるわよ……?
「あーん……ん、美味し」
今度はしっかり食べさせてくれた。
そういえば今気がついたんだけれど、今の身長がてゐと同じくらいだから自然に目が合っちゃうわね。
いつもはてゐを見下ろす感じだったんだけど、こういうのも新しいなぁ。
「あ、ウドンゲ。お皿に具を入れておいたわよ」
「師匠……ありがとうございます」
こういうことをされたのって、最近はあまり無いからありがたく思えちゃう。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうわよ」
「は、はい! いただきます!」
師匠の優しさが心にしみるわね。
うん、美味しい!
小さくなってから色々なことに気がついた気がする。
人が助けてくれるありがたみとかね。
支えてくれる人たちに感謝しなきゃ。
「鈴仙、どうかしたの?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してただけよ」
「早く食べないとみんなに食べられちゃうよー?」
「わ、分かってるわよ!」
てゐの言う通りね。
早く食べないと私の食べる分が無くなっちゃう。
よーし、食べるぞー!
「ふぅ、食べた食べた……」
鍋の中にはもうスープしか残っていない。
みんなで食べたらたくさんの食材もあっという間に無くなるわね。
「うん、満足出来たわね」
「妹紅、どうだった?」
「あなたたちに食べさせられまくったせいでお腹が破裂しそう……」
妹紅は姫様と慧音さんにずっと食べさせられてたもんなぁ。
そりゃ、そうなるわよね。
それでいて二人もしっかり食べてるんだからすごい。
てゐと師匠はまだ元気みたい。
「さて、あそこの三人は動けないみたいだし……私たちで後片付けをしましょうか」
「そうですね。てゐも手伝ってくれる?」
「うん、いいよ!」
ということで、三人で片付けの時間ね。
「私が鍋を持つから、二人はお皿を下げてくれる?」
「はい、わかりました」
「いつもならウドンゲに任せるんだけど、その体じゃ鍋を持つのはきついだろうしね」
「ちょっときついと思いますね。師匠、お願いします」
師匠は「わかったわ」などと微笑みながら返してくれた。
よし、私は私に出来る仕事を頑張らないと!
「頑張ってねー、応援してるわー」
「すまないな、三人とも」
「もう動けない……」
姫様は今日十分に頑張ってくれたし、二人はお客さんだから手伝ってもらう必要は無いわね。
三人にはゆっくりしていてもらおう。
「三人はゆっくりしていてください。後片付けは私たちが頑張りますから」
「うんうん、私たちに任せておいて! それに姫様と慧音さんには妹紅の面倒も見てもらわないとねぇ?」
「ええ、その通りですよ」
それには同意。
妹紅は食べすぎで苦しそうにしてるしね。
……原因は横にいる二人なんだけど。
「あ、ああ、そうだな……それじゃあ三人に任せるよ」
「全く、不死だからって無理しすぎじゃないの?」
「だ、誰のせいだと思ってるのよ……」
さて仲良し三人組はおいておくとして、さっさと片付け始めましょうか。
私は取り皿を持って行きましょうかね。
「私は取り皿とか持っていくから、てゐはご飯茶碗お願いね」
「いいよー」
取り皿は重ねて持てば一人でも持っていけるわね。
ちょっと重いけど我慢我慢。
「鈴仙、大丈夫?」
「うん、なんとかね。てゐこそ気をつけてよ?」
「私のほうは大丈夫だから、気にしなくていいよ。
今は自分の心配をしたほうがいいんじゃないのー?」
言われてみると確かに。
てゐはいつもと同じだけど私はいつもより小さくなってて、
筋力なんかもサイズ相応に落ちてるもんね。
「ええ、てゐの言う通りね。転んだりしないように気をつけるわ」
「気をつけてよ? それじゃあ私は先に行ってるねー」
私も後に続こう。
ちょっとは重いけど持てないわけじゃないし、早くこのお皿を台所に持っていかないとね。
えっちらおっちらと台所にお皿を持っていくと、師匠がてゐが運んだお茶碗を洗っていた。
「あ、ウドンゲ、お疲れ様。はい、貸して」
「ありがとうございます」
持っていたお皿を師匠に手渡す。ふぅ、重かったぁ。
「洗い物は私がするから、ウドンゲは戻ってていいわよ」
「あ、はい。お願いしますね!」
師匠、ありがとうございます!
それじゃ、ここにいるのも邪魔だし戻るとしようかな。
「あ、お疲れさまー」
「れ、鈴仙……助けて……」
居間に戻ると、妹紅が姫様と慧音さんに絡まれていた。
うーん、これは助けてあげた方がいいかしら。
お腹とか執拗に触られてるっぽいし。
「姫様、慧音さん。しばらく放っておいたほうがいいと思いますよ。
妹紅も苦しそうだし……」
「む、そうねぇ。これ以上妹紅に無理させて吐かれても大変だし」
「そうだな。妹紅、そこでゆっくりしててくれ」
「ありがと……」
二人から解放された妹紅は横になった。
もうちょっと経てば楽になるとは思うけどね。
「あ、鈴仙。ちょっとこっちに来なさい」
「へっ? は、はい」
突如姫様に呼ばれた。
……何されるのか大体想像ついたわ。
「ふふふ、やっぱり可愛いわねー」
案の定、姫様の近くに行ったら抱っこされてしまった。
ちょっと恥ずかしい……でも姫様にこうされるのもいいなぁ……
「なんかずるい……それならば! てゐ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
「……私を抱っこするつもり?」
「ちょ、ちょっとだけならいいだろう……?」
……慧音さんがてゐを抱っこしようとしてる。
しかも手を合わせてまでお願いしてるし。
そこまで抱っこしたいのかしら?
「んー、ちょっとだけならいいけどさー……」
「ありがとう! それじゃ遠慮なく」
こうしててゐは慧音さんの膝の上に、私は姫様の膝の上に座ることとなったのでした。
「やっぱり小さい子は可愛いものだなぁ」
「同意するわー。鈴仙がいつもこうだったらいいのにねぇ」
「すみません、それだけは遠慮させてもらいます」
流石にいつまでもこの体のままでいるのは嫌だし。
……たまになら小さくなってもいいけどね。
「冗談よ。鈴仙には早く戻ってもらって、いつもみたいに頑張ってもらわないとね」
「は、はい! 元に戻ったら頑張ります!」
「それで、私はいつもみたいに鈴仙に悪戯すればいいわけだね」
「それだけはやめてちょうだい……」
てゐと私のやり取りに姫様が笑う。
「ふふふ、てゐはあなたにかまって欲しいからやってるのよ?」
「わ、言っちゃ駄目ですよぉ!」
顔を真っ赤にするてゐ。
私だってそれは薄々感じていたけどね。
でもかまって欲しいにしては過激な悪戯が多いんだよなぁ。
落とし穴とか、上から金だらいとか。
でもそれが彼女なりの愛情表現……なのかな?
「ふむ、悪戯で気を惹く、か。妹紅にもやってみようかな?」
「ごめん、それだけは勘弁して」
しっかりと話を聞いていたらしい妹紅がそう返した。
「私はいつもの慧音と輝夜が気に入ってるのよ。
そんなことしなくても十分私は慧音と輝夜が好きだから大丈夫よ。
……だから流石に悪戯は勘弁して欲しいわね」
「も、妹紅……」
「妹紅、私も大好きだぞ!」
おぉ、熱い熱い。見てるこっちが恥ずかしいくらいね。
てゐも同じことを思ったらしく、付き合いきれないといった感じの顔をしている。
「ま、鈴仙もてゐは悪気があって悪戯してるわけじゃないことを頭に入れておいてね?」
「ええ、それくらい分かってますよ。てゐは素直になれない子ですからね」
それでも十分迷惑してることには変わりないんだけど……
でも、ある程度のことには目をつぶろう。
「う、うぅ……恥ずかしい……」
てゐは私たちの話を聞いて、下を向いてしまった。
真っ赤になったてゐもやっぱり可愛いわね。
いつもこんなだったら……と思ったけど、これじゃあてゐらしくないわね。
たまにこんな顔を見せてくれれば私は十分満足。
「ただいま。明日の昼ご飯は今日の残りを使ったうどんにでもしましょうか」
「あ、師匠、お疲れ様です」
「残りを使ったうどん……鍋の醍醐味よね!」
「ええ、そうね。お二人も明日の昼は一緒にどう?」
「ああ、頂いていこう。な、妹紅?」
「ええ、ご馳走になるわ。ふぅ、やっと楽になってきた……」
師匠が洗い物を終えて帰ってきた。
今日はみんなにお世話になりっぱなしだなぁ……
明日からまた頑張らないと!
そして妹紅はだいぶお腹の痛みが取れたようで、起き上がった。
「で、てゐは何で下向いて黙ってるわけ?」
「あー、それはね……ごにょごにょ」
「へぇ、なるほどね。ウドンゲ、てゐの気持ちにも気づいてあげなさいよ?」
「わ、分かってますよ……」
ニヤニヤしながらこっち見ないでください、師匠……
「それにしても……こんなウドンゲもいいわねぇ。
輝夜、代わってもらえるかしら?」
「いいわよー。はい、どうぞ」
なんか姫様の膝から師匠の膝に移動させられた。
今日は抱っこされてばかりな気がするんだけど……
「ん、これはいいわね。小さくて可愛くて暖かくて……」
「でしょー?」
ちらりと妹紅と慧音さんの方を見てみると……
うわ、すごい見られてる。
二人の目が「私にも代われ」って言ってるんですけど。
「永琳、私にも代わってもらえないか?」
「あ、慧音の次に私も……」
「ええ、いいわよ。でも私がもうちょっとこの感じを楽しんでからね」
……二人にも回されちゃうみたい。
嬉しいようなやめて欲しいような……複雑な気持ち。
でもたまには……こういうのもいいよね!
「あ、気がついたらもう寝る時間ね」
お茶をすすりながら、姫様がそう言う。
ちなみに私とてゐはみんなに回された。
一人一人座り心地が違ったりして、面白い体験が出来たわ。
そんなこんなで私とてゐは今、床に座っている。
「あら、もうそんな時間なのね。
楽しい時はあっという間に過ぎるっていうけど、まさにその通りねぇ」
「もう寝ますか?」
「うーん、そうしようかしらね」
師匠は寝るみたいだけど、他の人はどうだろう?
「姫様たちはどうします?」
「私も寝ようかしらね。今日は一杯体を動かして疲れちゃったし」
「輝夜が寝るなら私も寝るわ」
「二人がそう言うなら私も一緒に寝るかな」
「てゐは?」
「私も寝るよ」
みんな寝るみたいだし、今日はこれでお開きね。
「それじゃあ、寝ましょうか。あ、湯飲みは私が持って行きますよ」
「すまないわね。それじゃあ私は先に寝させてもらうわ……」
「あ、お休みなさいませ」
師匠も結構仕事してたからなぁ。お疲れ様です。
「悪いけど、私たちもお邪魔させてもらってもいいかしら?」
「はい、いいですよ」
今日も姫様は慧音さん、妹紅の三人で眠るんだろうな。
この二人が来たらいつも三人で寝るし。
「それじゃ、一緒に寝ましょうか!」
「ええ、もちろん!」
「すまないな。それじゃあ私たちは先に失礼させてもらうよ」
「ええ、お休みなさいませ。ごゆっくりどうぞー」
やっぱり三人で寝るみたい。仲がよくて羨ましい限りね。
「てゐも先に寝ていいわよ」
「いや、手伝うよ。鈴仙一人に任せちゃかわいそうだからね」
「ふふふ……ありがと、てゐ」
てゐの心遣いが嬉しい。
ここまでされたなら、ご褒美あげなくちゃね。
「てゐ、ちょっといいかしら?」
「ん、何?」
ちょっと背伸びして、てゐのおでこにキスをした。
今の私はてゐと同じくらいの身長だから、こうしないとおでこには届かない。
こういうのもなかなか新鮮ね。
「わっ……な、何を……」
「ふふ、ご褒美よ。てゐ、ありがとうね」
それからてゐを優しく抱きしめてやる。
彼女の大きな耳が私の顔に当たった。
ふわふわしてて気持ちがいいわね。
「ひゃ、ひゃう……」
あ、真っ赤になっちゃった。
今日はてゐがよく真っ赤になるわね。
眼福、眼福。
「それじゃあ早く片付けてさっさと寝ましょうか!」
「う、うん……」
えーと、湯飲みが六つあるから、私とてゐでそれぞれ三つ持っていけば大丈夫ね。
よし、片付けてさっさと寝ようっと。
「先に持っていくわよー」
「あ、待ってよー!」
てゐは慌てて湯飲みをつかんで私の後を追ってきた。
さて、と。今日はもう遅いし、洗うところまではしなくてもいいわね。
一応置いておくだけにしておこっと。
「よいしょっと……ほら、てゐ。あなたの持っている奴もかして」
「あ、ありがとう……」
てゐが持っている分まで台所に置いたら……これで終わりっと!
後は寝るだけね。
「さ、寝ましょ?」
「うん!」
てゐの小さい手を引いて、自分の部屋へと向かうことにした。
自分の部屋へ向かう途中にはてゐの部屋がある。
「お休み、鈴仙」
「ええ、お休みなさい」
てゐの部屋の前で彼女と別れる。
「鈴仙、明日元に戻れてるといいね」
「ええ、戻れてるといいけどね」
苦笑しながらそう返す。
「それじゃ、また明日ね」
そう言ってから、私は自分の部屋へと向かう。
部屋に入ると、綺麗に布団が引いてあった。
誰かが引き直してくれたのかな?
誰が引いてくれたのかはわからないけど……ありがとうございます。
「さて、私も寝ようかな。今日は色々と疲れたわ……」
おっと、でも寝る前に服を脱いでおかないといけないわね。
そうしないと、元に戻ったときに服が破れちゃうし。
もちろん下着も脱がないといけないんだけど……なんか抵抗あるなぁ。
でもしょうがないし……えーい、脱いじゃえ!
「……なんか裸で寝るのって変な感じね」
綺麗に服を畳んでから、布団にもぐりこむ。
すると今まで感じたことのない不思議な感覚に包まれた。
……そりゃそうよね。
今まで裸で寝たことなんてないんだから。
「目が覚めたら元の体に戻ってますように……」
そう祈りながら私は目を閉じた。
ああ、朝になったら戻っていて欲しいな……
「ん……もう朝かぁ……」
あー、よく寝た。
疲れていたせいなのか、よく寝れた気がするわ。
「あ! そういえば体! 元に戻ったかしら!?」
ふと体のことを思い出して、恐る恐る起きてみると……
「や、やったぁ! 元に戻ってる!」
昨日よりも高い目線。そして昨日小さくなってた胸も大きくなってる。
ね、念のため鏡を見て確認してみよっと。
「……やった! 戻ったわよー!」
ああ、この体が懐かしい……
ま、小さくなってたのは昨日一日だけだったんだけどね。
一時はどうなることかと思ったわ……
でもこれにて一件落着!
その時、てゐが部屋に入ってきた。
全く、人の部屋に入る前には声くらいかけて欲しいわね。
「おっはよー! ……あ、戻ったの!?」
「おはよう。ええ、何とかね」
「おお! 良かったじゃん!」
てゐはすぐそばまでやってきて、私の肩をぽんぽんと叩いた。
「……でさ。服着てもらえないかな? ちょっと目のやり場に困るから……」
「あ、裸だったこと忘れてた……」
「でも鈴仙の裸なんて見慣れてるしねー」
このままでいるわけにはいかないし、とりあえず服を着ようかな。
あ、昨日着てた服は洗ってからてゐに返さないと。
「てゐ、昨日借りた服は洗ってから返すね」
「あ、うん。わかった」
それにしてもこの服も一日ぶりだわ。
下着も履いて……下着といえば、昨日は一日中てゐの下着を履いてたのよね。
思い出すと顔が熱くなってくるわ……
「ん、どうかした?」
「あ、いや、何でもない!」
このことは忘れて、早く服を着よっと……よし、着替え終了。
「みんなは起きた?」
「うん、もう起きてるよ」
「それじゃあ、行きましょうか」
「うん!」
うーん、気持ちのいい朝ね。
体も元に戻ったし、体調もばっちり!
「おはようございます!」
居間に入ると、皆はテーブルの周りに集まっていた。
「おはよう、ウドンゲ。体は元に戻ったみたいね」
「ええ、なんとか戻ってくれました」
「うーん、小さい鈴仙もよかったんだけどなぁ。
また今度あの薬を飲んで、小さくなってくれない?」
「うーん……まぁ、機会があったら」
その機会があるかどうか分からないけど。
「今度は輝夜が飲むんじゃないの?」
「え、妹紅が飲むんじゃなかったっけ?」
「小さい妹紅に小さい輝夜か……どっちも見てみたいものだな……」
この三人は薬の飲ませ合いとかしそうね……
でも小さい三人も見てみたいな。
可愛いに違いないだろうし。
「さて、ウドンゲも元に戻ったみたいだし……
また頑張ってもらうことになるわね」
「ええ、昨日手伝ってもらった分まで頑張ります!」
「あ、無理だけはしないでよ? あなたは大事な家族の一人なんだから」
今の師匠の言葉……心にグサリと刺さったわ。
大事な家族、そう言ってくれて嬉しいです!
「わかりました!」
「それじゃあ朝食にしましょうか!」
「あ、私も手伝うよ!」
「うん、てゐと私で作りましょ!」
こうして体も元に戻ったことで、私たちは一昨日までの日常に戻ることが出来たのでした。
大変だったけど、いろいろ面白い一日でもあったわね。
ふふ、小さくなるのも……悪くはないかも。
あれから数日が経った、とある日の朝。
「おはようございまーす……って何ですかそれは!?」
まぶたをこすりながら居間に入った私の目に飛び込んできた光景。
それは……
「おっはよー!」
「あ、おはよう鈴仙」
「ウドンゲ、私たちのこの姿をどう思う?」
目の前には私と全く同じ服を着た三人の姿があった!
「え、えーと、これはどういうことですかね……?」
「あぁ、これ? この前てゐのサイズに合わせた服をあなたが着てたじゃない。
あれを見て『私たちも着てみようかな?』って思ってね。
それで私と輝夜の分も作っちゃったのよ」
「ねぇ、鈴仙、似合うー?」
「え、ええ。一応似合ってますよ……」
えと、つまりこれは永遠亭全員でおそろいの服を着たってこと?
師匠頑張りましたね……
「ねぇ、しばらくこの格好で生活してみない?」
「それいいわね! じゃあ皆でこの格好のまま買い物でも行ってみる?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしい……」
てゐの言うとおり、かなり恥ずかしい。
でも、悪くはないわね。
てゐは可愛く見えるし、師匠と姫様は体のラインが強調されてセクシーに見える。
「面白そうね。ついでに色々なところに遊びに行っちゃいましょうか!」
「神社とか、白玉楼とかね!」
マジですか……このまま皆のところに行っちゃうんですか。
「そうと決まれば話は早いわ。ほら、ウドンゲ、準備しなさい!」
「は、はい! すぐ準備します!」
こうして私たちはしばらくの間、全く同じ服装を着たまま過ごしたのでした。
……知り合いに会うたびに「おそろいの服なんて仲が良くて羨ましいね」なんて言われたわ。
ちょっとは恥ずかしかったけど……これはこれで結構面白かったわね。
たまには小さくなったり、皆で服を合わせたりっていう滅多に出来ないことを体験するのも……面白いかもしれない。
流石に何度も体験するのはごめんだけど、また機会があればたまにはこういうことをしてみたいな。
ちょっと早いけど、寝たほうがいいかしら。
私は頭を軽く抑えながら、永遠亭の廊下を居間から自分の部屋に向かって歩いていた。
その途中に……
「れいせーん! ……そりゃー!」
「へぶっ!?」
いきなり後ろから飛び蹴りを食らった!
そしてドシーンと派手な音を立てて前のめりに倒れる私。
……痛い。かなり痛いんだけど。
私に蹴りを食らわせたのは誰だか分かってるわ……あいつしかいない。
「てゐ! いきなり何すんのよ!」
「いやー、鈴仙の背中がチラって見えてさー。
で、その背中が蹴ってくださいって言ってたもんだから、心優しい私が蹴ってあげたったって訳」
「そんなこと背中が言うかー!」
ふざけたことを抜かすてゐには、とりあえず拳骨をお見舞いしておこう。
……ふんっ!
お、いい音がしたわね。ゴチンッって音が。
「いたたた……殴ることないじゃない!」
「いきなり蹴られたんだから殴りもするわよ……まったく」
あ、怒鳴ったり蹴られたりしたせいで、頭がさっきよりも痛く……
もう薬飲んで早く寝たほうがいいわね。
「ん、どうかしたの?」
「いや、ちょっと頭が痛くてね……」
「え、そ、そうなの?
ちょ、ちょっとお師匠様呼んでくるから待ってて!」
あ、行っちゃった。
頭痛い、なんて言ったら急に慌てちゃって……
なんだかんだ言って、心配してくれてるのね。ふふ、ありがと、てゐ。
ふぅ、ちょっときついし、座って待とうかな。
「お師匠様、こっちこっち!」
「はいはい、分かってるわよ」
声のするほうに目をやると、てゐと師匠の姿。
師匠は落ち着いてるけど、てゐの方は少し慌てている。
「ウドンゲ、どうしたのかしら?」
「ちょっと頭が痛くて……」
「頭が痛いだけ?」
「え、ええ、今のところは」
そこまで言うと、私の額に師匠の手がぴたり、と触れる。
師匠の手、少し冷たくて気持ちがいいなぁ……
「うーん、少しだけ熱があるわね」
「お師匠様、鈴仙大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってるじゃない。うーん、たぶんただの風邪ね」
「よ、よかったぁ……」
てゐが心配してくれてる……なんだか嬉しいな。
「さ、この薬を飲みなさい」
師匠は小さな錠剤と水を手渡してくれた。
風邪薬、なのかな、これ?
とりあえずもらおう。
口に薬を投げ込み、水で喉の奥へと流し込む。
「ふぅ。今飲んだのは風邪薬ですか?」
「まぁ、そんなものね……ただ……」
ただ?
「作ったばかりの新薬だから、副作用とかが分からないのよねぇ。
風邪に効くのは間違いないはずなんだけれど」
「へぇ、そうなんですか……って、ちょ、ええええ!?
師匠、そんな何が起こるか分からない薬を私に飲ませたんですか!?」
「まぁ、大丈夫よ。そんな大きな問題は起こらないわ……多分」
「多分っていうのはやめてくださいよ! あ、あいたたたた、頭痛い……」
「叫んだらもっと酷くなるわよ。さ、早く寝なさい」
「う、はい、そうします……」
うん、早く寝ないと倒れちゃう。
立ち上がろうとしたら、てゐが肩を貸してくれた。
ただ、背丈が違いすぎるから、体がものすごく傾いてるけど。
「ほら、鈴仙、しっかりしてよ!」
「あ、ありがとうね、てゐ……」
「それじゃあ、行くよ」
一歩一歩、気をつけながら部屋に向かう。
てゐの手伝いもあって、何とか部屋にたどり着くことは出来た。
「鈴仙……さっきはごめんね」
「気にしてないわよ。それじゃあ私は寝るから……おやすみ」
「うん、おやすみ」
ふふ、てゐは本当に可愛いわね。
頭が痛くなかったら、あのまま抱きしめて布団に引きずり込んでたかも。
……う、また痛くなってきた。
さっき飲んだ薬の効果が怖いけど、寝よう。
起きたら何も起こっていないことを祈るわ……
おやすみ……
ん、鳥のさえずる声に外から差し込む光。
どうやら朝みたいね。ふわぁ、よく寝た。
おっ? 頭痛がなくなってる。熱も。
昨日の薬が利いたみたい。
流石は師匠の薬だわ。副作用なんかも無いみたいだし。
……ってあれ? なんか体の様子がおかしいような。
「何だろう、上手く言えないんだけど何かがおかしいわ」
と、とりあえず起きようかな。よいしょ、っと。
……あれ、今何かが下に落ちたわね。
バサッ、って音がはっきり聞こえたもの。
そーっと、顔を下に向けていくと……肩にだぼだぼの上着とブラジャーが引っかかっている。
さらに顔を下に向けると……
見慣れたスカートとパンツが足元に落ちている。
あれ、あのー、嫌な予感しかしないんですけど。
「そ、そうだ。鏡を見てみれば……」
それじゃあ、覚悟を決めて……それっ!
「……何これぇええええええ!?」
なんで私、こんなに小さくなってるの!?
もしかしててゐより小さいんじゃないかしら?
いや、同じくらい?
うっ、じ、自慢だった胸も小さくなってる。
ちょっとショック……
「れーせーん、入るよー?」
私が自分の体の変化に驚いた時、後ろの方でそんな声が。
ガラッという障子を開ける音に振り向くと……固まったてゐがいた。
「え、鈴仙……だよ、ね?」
「ええ、鈴仙だけど……」
てゐは信じられない、といった感じの顔で私を見ている。
「えーと、何でそんな風になってんの?」
「それはこっちが知りたいくらいよ……」
「うわぁ、それにしてもちっさくなったねぇ」
うわ、てゐの顔が私の顔と同じ高さにある。
いつも見下ろしていたから違和感あるなぁ。
「あんまり言いたくないけど、いろいろなところも小さくなってるね」
「いろいろなところって?」
「胸とか」
「う、うるさい!」
うぅ、さっきショック受けたばかりだから言わないで欲しい……
「それよりも何か着たら? その、目のやり場に困るしさ」
あ、確かに。上半身はだぼだぼのYシャツとブラジャー、下半身は……何もつけていないものね。
てゐとはよくお風呂に入ったりしてるから、恥ずかしいとかは思わないけど。
でも何か着るって言っても、スカートとパンツはサイズが大きすぎて着れないし……
とりあえず毛布でも羽織っておこう。
「しっかし、何でこんなことに……あ!」
「あ! って何よ?」
「昨日鈴仙が飲んだ薬! アレのせいじゃない?」
「あ、なるほど」
言われてみると確かに。
原因が何かと聞かれたらアレしか考え付かないわね……
ここは師匠に聞いてみるしかなさそう。
「よし、てゐ。師匠に聞きにいくわよ! 解決法を知ってるかもしれないわ」
「合点承知!」
……解決法、知ってるといいんだけどなぁ。
「師匠! 聞きたいことがあります!」
「は、ウドンゲ!? どうしたのよ、その格好は!」
「れ、鈴仙……? 鈴仙よね?」
居間に入ると、師匠と姫様に目を丸くされた。
「それはこっちが聞きたいくらいです!
師匠の薬を飲んだせいでこうなったとしか考えられないんですよ!」
「薬……あぁ、昨日飲ませたアレね」
「確か師匠、副作用とかがどうなるかわからない、って言ってましたよね?
絶対あの薬の副作用ですよ!」
「あらら、今回の薬は失敗だったみたいね」
「冷静に分析しないでくださいー!」
うぅ、泣きたい……というか泣かせて。
「ねぇ、ちょっと鈴仙。こっちに来てもらえるかしら?」
「は、はい。どうかしました?」
姫様に呼ばれるままに近づくと……えっ!?
「あぁ、可愛いわねぇ……よしよし」
いつの間にか姫様の膝の上に座ってた。
えーと、なんか私、姫様に捕まったみたい。
なんか頭撫でられてるし。
あ、でもなんか気持ちがいい……
「ふわぁ、姫様、気持ちいいです……って、そんなことより!
どうしたら私、元に戻るんですか!?」
姫様の膝の上に乗ったまま師匠に聞いてみる。
「さぁ?」
「はい!?」
いや、さぁって言われても……
「私にもどうなってるのか、さっぱり分からないんだから手の施しようが無いわ。
まぁ、一日もすれば元に戻るでしょ。薬の効果なんていつかは切れるものだし」
「またいい加減な……」
「下手すれば二度と元には戻れないかもしれないけどねー」
「笑顔でそんな怖いことをさらっと言わないでください、師匠!」
嫌だ、元に戻れないなんて嫌だよ……うぅ、戻りたい。
でも現時点で手の施しようも無いしなぁ。
師匠の言うとおり、待つしかなさそうね。
「とりあえず、明日元に戻れると信じて今日一日過ごしますよ……
あ、そういえば、何か着るものはありませんかね?
流石に一日中布団にくるまっておくのも無理がありますし」
この体じゃいつも着ている服は着れそうに無いし、新しい服を探さないと。
「うーん、今のあなたが着れそうな服ねぇ。ちょっと待ってなさいよ」
そう言うと師匠は居間を出て行く。
何処かに着れそうな服があるといいのだけれど。
「それと姫様、出来れば髪を引っ張らないで貰えますか?」
「あ、ごめん。サラサラだったからつい」
えへへと笑いながら、姫様は髪から手を離してくれた。
「私の服を着る?」
「うーん……他に何も無かったら着させてもらうわ」
いつも着慣れてる服が一番いいんだけどね。
でも私が着れそうな物なんてとても……
「見つかったわよー」
「お、ありましたか。どんな服ですか?」
「あなたがいつも着てる服をスケールダウンした奴」
……えーと、なんでそんなもんがあるんですか?
こういう時が来ると予想していたわけでもあるまいし。
「てゐがあなたの服を着てみたいって前に言ってたから作ってみたんだけどね。
いや、まさかこんなところで役に立つなんて予想してなかったわ」
てゐが?
ちらり、とてゐを見てみた。
「あ、まぁ、なんていうのかな?
その、鈴仙がいつも着てる服、かっこいいというか可愛いというか……
私も着てみたいなーって思っちゃったりしちゃったり……」
へぇ、意外ね。
「もう、素直じゃないわねぇ。
ウドンゲとおそろいの服着たいってはっきり言えばいいじゃない」
「わ! お師匠様、それ言っちゃ駄目!」
あら、てゐったら意外と可愛いところあるじゃない。
それにしてもてゐとペアルックかぁ。
うーん、体が元に戻ったらしてみようかしら。
「う、うぅ、恥ずかしいよぅ……」
「とりあえずこれなら着れそうだし、着てみれば?」
「はい。着てみます。あ、そういえば下着は無いですか?
流石に下着無しで服を着るのには抵抗が……」
「下着ならそうねぇ。てゐのを借りたらいいんじゃない?」
てゐの……な、なんか心臓がドキドキ言ってるんだけれど。
う、うぅ、顔が熱くなってきた。
「え、えぇ!? さ、流石に下着を貸すのはちょっと抵抗が……」
「仕方ないじゃない。それとも何? あなたが新しい下着のお金払う?」
「う、流石にそれは……今月厳しいし」
私も今月厳しいし、新しい下着を買うほど余裕は無いなぁ。
……うん、ここはもう借りるしかないわね。
「うぅ、分かりました。てゐ、悪いけど貸してもらえる?」
「あ、う、うん。恥ずかしいけど仕方ないもんね……」
そういうわけで私はてゐに下着を借りることになったのだった。
他人の下着を借りるのはちょっと気が引けるけどね。
「とりあえず着てみましたけど、いい感じにぴったりでしたよ!」
「お、それは良かったわね」
別室で着替えてきたけど、この服が恐ろしいほどぴったりなのよね。
ひとまずこれで安心かな。
「へぇ、下着もぴったりみたいねー」
「ひあっ!? めくらないでください!」
姫様にスカートめくられてるんだけど!
恥ずかしいからやめてください!
「うん、確かにぴったりね……下着のほうも」
師匠までニヤニヤしないでくださいよ……
ほ、ほら、てゐのほうも恥ずかしがってるじゃないですか。
「そ、それじゃあてゐ、ちょっと借りるからね……?」
「う、うん……」
よし、とりあえず服のほうは問題ないわね。
この状態がいつまで続くのやら……
「とりあえずしばらくはこの服で過ごすことになりそうですね」
「あ、その服は一丁しかないから、大事にしなさいよ」
「はい、わかりました」
つまりこの服を駄目にしちゃったら換えの服はない、ってことか。
気をつけないといけないわね。
「ねぇねぇ、鈴仙にてゐ。ちょっとそこに並んでくれるかしら?」
「はぁ、別にいいですけど……」
姫様に言われて、てゐの横に並んでみる。
どうしたのかな?
「うーん、こうして見ると、二人って姉妹みたいね。
うん、二人とも可愛いわよー」
え、ちょ、ちょっと恥ずかしいな……
私、そこまで可愛いかしら?
てゐが可愛いのには同意できるけど。
「ひ、姫様、恥ずかしいですよ……」
てゐが真っ赤になってそんなことを言った。
「カメラがあったら写真を撮りたいところだけどねぇ。ね、永琳?」
「分かるわね。確かに今の二人の写真が欲しいわ……」
二人とも、ニヤニヤしないでくださいよ。
……さて、もういいよね?
「と、とりあえず私には仕事があるんで、抜けさせてもらいますね」
「その体でも大丈夫?」
「ええ、何とかなりますよ」
まぁ、ちょっとだけ不安だけど。
「うーん、とりあえず私たちも手伝うわ。その体だと、色々大変そうだしね」
「私も微力ながら協力させてもらうわよー」
師匠に姫様……!
うぅ、ありがとうございます!
「私も今日は精一杯頑張るよ!」
「てゐ……ありがとね! 姫様と師匠もありがとうございます!」
よーし、やる気が出てきたわよ!
「とりあえず私は買い物に行ってきますので、掃除と洗濯をお願いできますか?」
「ええ、洗濯は私に任せておいて」
「永琳が洗濯なら、私はお掃除かな?」
「それじゃあ、私は姫様のお手伝いってことで」
えーと、師匠が洗濯、てゐと姫様が掃除ね。
そして私は買い物っと。
「それじゃあ、お願いしますね。行ってきます!」
財布と手提げのバッグを取って外に出ると、
後ろから「行ってらっしゃい」という三人の見送る声が聞こえた。
よーし、私も頑張るわよ!
「ふぅ、買い物は終わったわね。
でもこの体だと重く感じる……」
体が小さいっていうのと、いつもよりちょっと量が多いっていうのがあってかなり重く感じる。
うーん、小さくなったらこういうところが不便ねぇ。
で、予想はしてたけど、やっぱりお店のおじさんに驚かれちゃった。
軽く説明したら納得はしてくれたけどね。
ついでに「頑張れ!」って言われて、おまけしてもらっちゃった。
「うーん、それにしても重い……少しずつ休憩しながら帰ろっと」
この状態だったら、永遠亭に帰り着くの遅くなるわね。
とりあえず、そこの公園で一休みしようかな。
「よいしょっと」
公園のベンチがこういう時、ありがたいわ。
それにしてもいい天気ね。
ぽかぽかしてて、気持ちがいい……
うっかりしてると、このまま寝ちゃいそう。
あ、言ってるそばからまぶたが少しずつ重くなって……
「あれ、もしかして鈴仙さんですか?」
「身長がおかしいけど、あの服は確かに鈴仙ね」
んにゃ? この声は……?
まぶたをこすって、辺りを見回してみると……
公園の入り口に、買い物帰りの咲夜と妖夢が。
「あれ、咲夜に妖夢……?」
「やっぱり鈴仙さんだ! どうしたんですか? なんか小さくなってますけど」
二人は私が座っているベンチまでやってきて、私の隣に腰掛けた。
なんか二人がすごく大きく見える……
「あー、これはね……」
とりあえず簡単に説明しておかなきゃね。
「なるほど、風邪薬の副作用ですか」
「永琳さんって、結構危ない薬作るわよね……」
うん、咲夜の言うとおり。
けっこう危ない薬作るのよね。
強力すぎる除草剤とか、相手が何でも言うこと聞くようになる薬とか……
「この体だと不便でしょうがないから早く戻って欲しいのだけれどね。
師匠によると、いつ戻るのかも分からないらしくて……」
「あー、それは大変ね」
うぅ、本当に元の体に戻れるのかなぁ。
涙が滲んできそうだよ。
「でも、この状態の鈴仙さん、可愛いなぁ……」
「へっ?」
「た、確かに可愛いわね……」
あのー、二人とも?
なんか目がギラついてるように見えるんだけど?
「抱っこしても……」
「いいかしら?」
「は、はい?」
そして私は反論する間もなく、妖夢に抱っこされてしまったのだった。
「はふぅ、小さくてあったかくて……こんな鈴仙さんもいいですねぇ」
そ、そんなに強く抱きしめないでもらえるかしら?
ちょっと痛いんだけど。
でも、抱っこされるのも悪くは無いなぁ。
……あ、背中に柔らかい感触が。
これって多分胸だよね?
全く無いわけではないけど、控えめな大きさの妖夢の胸。
これはこれでなかなか……
「あ、妖夢ずるい! 私にも代わってよ?」
「もちろんあとで代わりますよ。
ああ、でも小さい鈴仙さんって可愛いなぁ」
なんかちょっと恥ずかしいな。
嫌ではないんだけどさ。
「なんというか、家に置いておきたい位に可愛いですよ。
それで私の部屋のぬいぐるみさんたちと一緒におままごとでも……」
「え、妖夢、今なんて……?」
「へ? あ! いや、なんでもないですっ!」
へぇ、妖夢にそういう趣味があったとはね。
でも女の子らしくて可愛いじゃない。
「妖夢ってぬいぐるみ集めてるの?」
「う、うぅ、恥ずかしいです……確かに集めてますけど……」
私が聞いてみると妖夢は真っ赤になって下を向いた。
意外といえば意外だけど、そこまで恥ずかしがることかな?
「可愛いじゃない。今度部屋に招待してもらえないかしら?
私が美味しい紅茶とお菓子を持って行ってあげるから」
咲夜が優しく微笑みながらそう言うと、妖夢は小さな声で「別にいいですよ」と呟いた。
「よーし、決まりね。それじゃあ今度『苦労人同盟』の面々も誘って遊びに行くわ」
「えっ、他の二人も誘うんですか!?」
苦労人同盟っていうのは私たちが立ち上げた集まりで、
今のところ私、咲夜、妖夢、藍、美鈴が参加してるわね。
苦労人っていうか従者の集まりではあるけれども。
ちなみに主な活動は愚痴とか世間話だったりする。
「あら、別にいいでしょ?」
「う、うーん……」
二人もこのことを知ったら、意外とか可愛いとか言うだろうな。
それにしても妖夢の部屋ってどうなってるのかしら。
今まで入ったこと無かったから、気になるなぁ。
「ちょっと恥ずかしいですけれど……わかりました。
今度暇な時にでも、みんなで遊びに来てください」
「どんな部屋なのか期待してるわ」
笑う咲夜に赤くなる妖夢。ふふ、微笑ましい光景ね。
「それより妖夢。私にも鈴仙を抱っこさせてくれないかしら?」
「あ、はい。それじゃ、どうぞ!」
今度は咲夜に抱っこされることに。
む、さっきよりも大きいものが背中に当たってる。
妖夢も決して小さくはないんだけど、咲夜は妖夢以上だからなぁ。
今までにてゐや妖夢を抱っこしたりすることはあったけど、二人もこんな感触を感じてたのかな。
「か、可愛い……お嬢様も可愛いけど、この状態の鈴仙もなかなか……
小さい子ってやっぱり可愛いわね!」
「は、はぁ、そうですね……」
前から咲夜は小さい子が好きっていうのは知ってたけど、この喜びよう……
テンション高すぎて、妖夢がちょっと引いてるわよ?
でも、咲夜って結構小さい子からも好かれてたりするのよね。
ちなみに情報源は里の子供たちとか、紅魔館の姉妹とかそのあたり。
彼ら曰く「頼れるお姉さんって感じがする」とのこと。
うん、分からなくはないわね。
「でもこうやって抱っこされるのも気持ちいいわー。
たまーに短い間だけなら、こうやって小さくなるのも悪くは無いかも」
「あはは、それなら私も小さくなってみたいですね。
で、鈴仙さんに抱っこしてもらったり……」
「小さくなってお嬢様に抱っこされてみたいわね……」
なんか二人の本音が聞こえた気がするけど、気にしないことにしよう。
それに妖夢は小さくならなくても、普通に抱っこしてあげてるじゃない。
小さくなるのって結構きついわよ?
「小さくなるのもきついわよ? 体力を普段の倍使うし……」
「それでもちょっとは憧れるわね」
「ええ。どんな感じなのか、一回小さくなってみたい気はします」
ふぅん、なるほどね。
あの薬ならまだ師匠が持ってるはずだし、分けてあげようかしら?
いや、冗談だけど。
「あ、そろそろ帰らないとみんなが心配するわね」
「あら、そうね。私たちも帰らないと」
「でも鈴仙さん……その大きさでこの荷物はきついんじゃないですか?」
うん、確かにきついのよね。
結構重いし、永遠亭まで距離あるし……
「そうだ! 私たちが手伝ってあげますよ!」
「えっ、いいの?」
「いいですよ! ね、咲夜さん?」
「ええ、もちろん。困った時はお互い様、でしょ?」
う、うぅ、ありがとう二人とも……
私はいい友達を持ったものだわ。
「それじゃあ、私が荷物を持ちますよ」
「じゃ、私は肩車でもしてあげようかしら?」
「あ、咲夜さんずるい! あとで私にも代わってくださいね!」
「はいはい、途中で交代ね」
肩車、か。
月にいた頃に依姫様、豊姫様にされて以来かな。
あの二人も目の前の二人みたいにどっちが肩車するかでもめてたっけ。
「さ、それじゃ乗って」
「う、うん」
しゃがんだ咲夜の肩に足をかける。
それにしても久しぶりの肩車だなぁ。
「よい、しょっと!」
うわ、高い!
すごく高く感じるわ。
「咲夜、大丈夫?」
「ええ、これくらい大丈夫よ。よくお嬢様たちにも肩車してるしね」
「咲夜さん、いいなぁ……絶対代わってくださいよ?」
「はいはい、わかってるわよ」
妖夢は私の荷物をひょい、と持ち上げた。
二人とも、ありがとうね。
ふふ、元に戻ったらこの恩を返さなきゃね。
「さ、行くわよ! 倒れないようにしっかり捕まっててよ?」
「うん!」
「はい、到着ですよ」
しゃがんだ妖夢の肩から飛び降りる。
やっと着いたわね。
しかし肩車したままあの竹林を抜けちゃうなんてね……
大変だっただろうな。
「二人とも、ありがとうね」
「いえいえ、困った時はお互い様って言ったでしょ?」
「私たちが困った時には助けてくださいね?」
「ええ、もちろんよ!」
もし彼女たちに困ったことがあれば、絶対助けにいくわよ。
……でもそんな時が来るかは謎だけど。
「あ、渡すの忘れるところだったわ。はい、荷物」
「うん、ありがと」
咲夜から私が買ったものが入った手提げを受け取る。
うわ、やっぱりこの体だとちょっと重いわね。
助かったわ……二人に手伝ってもらわなかったら途中で力尽きてたかも。
「それじゃ、私たちも帰るわ。つらいと思うけど、頑張ってね」
「鈴仙さん、頑張ってくださいね! 私、応援してますから!」
あ、帰る前にお礼をしておこうかな。
ふふ、ちょっと恥ずかしいけれどね。
「二人とも、お礼をしたいから顔を近づけてもらえないかしら?」
「顔、ですか?」
「何をするのかしら?」
うん、このくらい近づいてくれればいけるわね。
よいしょ……っと!
「えっ!?」
「ひゃっ!?」
二人は小さく叫び声を上げた。なぜかって?
それはね、二人の額に口付けをしたから。
「ふふ、これがお礼」
「全く、一本取られたわね」
「ふ、ふぇぇ……鈴仙さんの口付け……」
咲夜は苦笑しながら肩をすくめる。
対する妖夢は……顔を真っ赤にしながらボケーっとしていた。
妖夢はこういうことに慣れてないもんなぁ。
こうなるのは仕方ないか。
「それじゃあ、今日はありがとうね! 帰る時は気をつけて!」
「ええ、そっちも気をつけて。ほら、妖夢! 行くわよ!」
「あ、は、はい! えっと、鈴仙さん、頑張ってください!」
そう言って二人は元来た道を帰っていった。
……それにしても結構遅くなっちゃったわね。
そろそろ夕食の準備をしてもいいんじゃないかしら?
とりあえず師匠たちがどこまで仕事をやってくれたか確認しなきゃ。
「ただいま帰りましたー」
玄関の中から屋敷の中にそう叫ぶと、てゐが出てきた。
「お帰りー」
「ただいま。てゐ、掃除はどうなった?」
「ばっちりだよ! あとほんのちょっとかかるけどね」
へぇ、てゐもやれば出来るじゃない。
「そういえば姫様は?」
「まだ部屋の掃除をしてるよ。
実は今回の掃除、私よりも姫様が頑張ってたんだよね」
姫様が? そりゃまた意外。
私の予想だとてゐが八割くらい頑張るんじゃないかなーと思ったんだけど。
「驚いたよ。姫様があんなに出来るとは思ってなかったからさ」
姫様がそんなに頑張るなんてねぇ。
あとで姫様のところにも行ってみる必要があるわね。
ちょっと気になるわ。
「それじゃ、私は姫様のところに行ってくるから、買ったものを台所に持っていってくれない?」
「うん、いいよー」
「任せたわよ」
荷物をてゐに任せて、私は姫様の様子を見に行くことにした。
うーん、掃除を頑張る姫様なんて想像できないわねぇ。
ま、とりあえず自分の目で確かめましょ。
「姫様ー! どこですかー!」
「鈴仙ー? こっちこっちー!」
あ、姫様の声が。どうやらこっちみたいね。
そして私が向かった先には……
「お帰りなさい、鈴仙。いやぁ、体を動かすのってやっぱり気持ちいいわねぇ!」
爽やかな笑みで額の汗を拭う姫様の姿が!
ほ、本当に姫様が頑張ってる……! こんな姫様、見たことないわ……
こうやって家事の手伝いとかしてるところをあんまり見たことがないし。
ん、でも良く考えてみると妹紅と弾幕勝負をする時には結構動き回ってるよね。
ひょっとして姫様って運動とか得意なのかな?
「お、お疲れ様です……てゐから聞きましたよ。
姫様が頑張ってくれたって」
「ええ、久々に頑張っちゃったわよ。いい汗かいたわ」
意外だわ。姫様がここまでやるなんて。
「あら、お帰りなさいウドンゲ。帰りが遅いから心配したわよ」
気がつくといつの間にか背後に師匠が。
う、いつもより師匠が大きく見える……
圧倒されてしまいそう。
「あ、ただいまです。あの、洗濯物のほうは……」
「ああ、もう取り込む時間ね。そうそう、余った時間でゴミも捨てておいたから」
師匠が指差した先を見ると、洗い物が外に干してある。
多分もう乾いてるわね。
「で、こんな時間まで何してたのかしら?」
「あ、今説明します」
私は里で買い物をしてから、ここに帰ってくるまでのことを簡潔に説明する。
どうやら師匠も納得してくれたみたい。
「へぇ、咲夜に妖夢がねぇ。今度二人にお礼をしなくちゃね」
「はい、私もまた今度しっかりお礼をしたいと思ってました」
お礼、ね。そうだ。お菓子でも作って渡そうかな!
咲夜ほどは上手くないけどね……
「それにしても、姫様が掃除を頑張ったって聞いて驚きましたよ」
「意外に思ったんじゃない?」
「ええ。姫様が働いたところをあんまり見たことがないものですから」
そんなことを言ったら、姫様と師匠に笑われてしまった。
「確かに私はあんまり働いてないわねぇ! でもそれはあなたとてゐが頑張ってくれてるおかげよ」
「どういうことですか?」
「いや、あなたとてゐの二人が頑張ってるから、私は全くすることがないってだけ」
私とてゐってそこまで頑張ってたかな……?
でも言われてみると二人でも十分足りてるかも。
「それにね。あなたは知らないかもしれないけど、輝夜はこう見えて運動とか手伝いとか好きなのよ?
月にいたときからよく手伝いしてくれたり、外で遊んだりしてたくらいだからね」
へぇ、それは知らなかったなぁ。
自分はそんなことは露知らず、ただめんどくさがりだからやらないのかと……
ごめんなさい姫様。
「さて、仕事も全部終わったし、ご飯の準備でもしましょうか?」
「あ、はい!」
「ねぇ、永琳。今日のご飯は何かしら?」
「今日はお鍋のつもりだけど」
そのための材料は私が買ってきた。
量もたくさんあるし、みんなで食べても全部は無くならないかも。
「鍋かぁ。こんなことなら妹紅と慧音も呼べばよかったかしら。
鍋はみんなで食べた方が美味しいしね」
妹紅と慧音さんは良くうちに遊びに来るのよね。
以前は姫様と色々あったけど、今は完全に打ち解けちゃってる感じ。
「私を呼んだ?」
あ、この声は。
「あら、妹紅。いつの間に来てたの?」
「今ちょうどついたところ」
庭に目をやると、妹紅と慧音さんの二人組が立っていた。
よく見ると何か持ってるわね……タケノコ?
「タケノコがたくさん取れたからおすそ分けに、って思ってね」
「私と妹紅じゃ食べきれそうに無かったからな。いつもお世話になってるお礼にと思って持ってきたんだ」
へぇ、タケノコかぁ。あのシャキシャキした食感が好きなのよね。
ありがたく受け取らせてもらおう。
「で、そこのちっさいのは……もしかして鈴仙?」
「服装からしたら鈴仙みたいなんだけど……どうなんだろうな?」
二人とも不審な目で私を見てるんですけど。
だ、誰か説明してください……
「あー、これは鈴仙よ? 永琳の薬飲んだせいでこんなになっちゃって」
「ふーん、なるほどね……ある程度理解できたわ。しかし永琳の薬ってすごいなぁ」
「……か、可愛い」
へ、慧音さん、今なんて言った?
「これは可愛いな……! 永琳、その薬を私にも分けてくれないか?」
「えっ? そりゃまたどうして?」
「この薬を妹紅に飲ませれば、小さい妹紅を愛でることが出来るじゃないか!」
「はぁ!? け、慧音、何を言ってるの!?」
「その発想はなかったわね……なかなか面白そうじゃない」
「輝夜まで何を言ってるのよ!?」
妹紅が二人の餌食になろうとしてるわね。
でも妹紅には悪いけど、私も小さい妹紅って見てみたいなぁ。
きっと可愛いんだろうな。
「とっ、とにかく! 私は絶対にそんな薬は飲まないからね!」
「残念だ……」
「見たかったのにねぇ……」
うわ、二人ともすごく落ち込んでる。
そこまでショックだったんだ……
わからなくもないけどさ。
「大丈夫よ……妹紅が飲む水の中にでも薬をいれればバレないわ……」
「なるほど、そういう手もあるな」
師匠! あなた何を言ってるんですか!
ここまで行くと犯罪者に近いわね。
「あー、二人して何を話してるのかな?」
「いや、なんでもない。なんでもないぞ、妹紅」
「それならいいんだけど……」
妹紅、その人嘘ついてるわよ。
「と、とりあえずせっかくきたんだから、夕食でも食べていかない?
今日は鍋料理だからみんなで食べられるわよ!」
おぉ、姫様が話をすりかえた!
ナイス姫様!
「慧音、どうする? 鍋だって」
「そうだな……迷惑じゃなかったらご一緒させてもらおうか」
「決まりね! それじゃあ、準備するから待っててね!」
いや、準備するのは私なんですけど。
ま、いいや。姫様が嬉しそうだし。
「それじゃあ、私は準備してきますね」
「頑張ってね、鈴仙ー」
姫様の応援を背に受けて、私は台所に向かった。
さて、あと夕食の準備をすれば今日のお仕事は終了ね。
洗い物はいつもみたいにてゐがやってくれるだろうし。
今日は人数も多いし……頑張らなきゃ!
「やっぱり違和感あるわねぇ……」
台所に立った私は、流し台の高さが私の顎の辺りであることに気づく。
いつもなら流し台は私の腰くらいの高さなのに。
でもこれもしばらくの我慢。
「よし! やるわよ!」
声を出して自分にやる気を注入!
よーし、頑張ろう!
でも今日は食材を切って、鍋を用意するだけなんだけれども。
そしてこんな時に役に立つのが月から持ってきた「カセットコンロ」よねー。
ボンベは師匠が仕入れてくるんだけど……どこから仕入れてきているのやら。
多分紫さんの力でも借りてるんじゃないかなぁとは思うんだけど。
「れいせーん、手伝うよー!」
「あら、てゐ。手伝ってくれるの?」
「もちろん! 困った時はお互い様、ってね!」
いつもは生意気だけど……根は優しいのよね。
ありがとう、てゐ。
気がつくと、つい手が彼女の頭に伸びていた。
「やっ、撫でないでよ、恥ずかしい……」
「ふふふ、ごめんごめん。
それじゃあ食器とか運んでもらえる?」
「うん! 任せておいて!」
赤くなりながらも、棚から食器を運び出すてゐ。
私もてゐに負けてられないわ。
「さて、私も頑張らなきゃ!」
野菜、キノコ、肉を切ろうとするも……やっぱりこの身長だと作業がしづらいわね。
いや、爪先立ちをすれば出来なくはないけれども。
「ふぅ、休みながらやろっと……」
「鈴仙、頑張ってるー?」
ん、この声は……やっぱり姫様だ。
「ええ、一応頑張ってますよ」
「身長が足りないから大変そうね。
ほら、包丁貸して! 私がやってあげるから!」
「は、はぁ、わかりました……」
姫様は包丁を受け取ると……なんと見事な包丁捌きを見せてくれた!
きょ、今日の姫様は一味違う……!
まさか姫様がこんなに多才だったなんて。
「よし、終わり! 鈴仙、野菜は持って行っていいわよ」
「は、はい!」
しかも手際がいい。姫様すごいです……!
「よいしょっと……」
「ご苦労様ー」
野菜がたくさん乗った皿を居間まで運ぶと、妹紅がそんな声をかけてくれた。
そういえば妹紅は姫様のこと知ってるのかしら?
「妹紅、あなた姫様が多才だってこと知ってた?」
「うん、もちろん知ってるけど」
あ、知ってた。
そりゃそうか。何年……いや、何百年かしら?
それくらいの長い付き合いだものね。
「よく『妹紅! ご飯作ってあげる!』なんて言われたものよ」
「というか……今でもたまに言われるけどな」
へぇ、三人だけの時にそんなことが。
姫様が作るご飯……一回食べてみたいわね。
「へぇ、そんな事があったんだ……」
てゐが驚いてる。私も驚きよ。
「あぁ、あなたたちは食べたことないわね。
輝夜の作るご飯は美味しいわよ」
師匠がそういうなら食べてみたい……
うーん、気になる。
「れいせーん! 他の食材も切ったから持って行ってー!」
「あ、はい! 今すぐ行きます!」
おっと、行かなきゃ!
……いつの間にかいつもと立場が逆転してる。
でもたまにはこんなのもいいかもしれないな。
「はい、これ持って行ってねー」
渡されたのはお肉と豆腐とキノコが乗った皿。
この量だったら六人でも十分足りるわね。
「私は鍋を持ってくから」
「あ、お願いします」
「それじゃ、私はご飯を持っていこうかな?」
「うん、ご飯はてゐに任せるとしましょうかね」
いい感じに役割分担が出来ているわね。
ちなみに師匠は居間で配膳やコンロの準備をしていたりする。
「師匠、そっちはもういいですか?」
「ええ、大丈夫よ」
師匠に準備ができているかどうか聞くと、準備できたっていう返事が返ってきた。
「それじゃ、置きますね……よいしょっと」
テーブルの上にはたくさんの食材とお皿や水、そしてコンロが置かれている。
そしてそのテーブルを囲む面々……久々に楽しい夕食になりそうね。
「鈴仙、どかないと危ないわよー」
おっと、鍋が来たみたい。
邪魔になるから横にどかないと。
頭の上から熱いお湯が……とかいうのは勘弁して欲しいしね。
「あ、お疲れ様、輝夜」
「ただいまー」
「大変だったんじゃないか?」
「そうでもないわよ。食材切っただけだから」
姫様は妹紅の横に座って、妹紅、慧音さんと三人でそんな話をしている。
もう持ってくるものも無いし、私も座ろうかな。
あとはてゐがご飯を持ってきてくれるのを待つだけね。
「お待たせー」
噂をしたらやってきた。
お盆に六人分のご飯を乗せて。
「ほら、ご飯だよー」
お盆に乗ったご飯を隣へと回していく。
……よし、これでみんなに回ったわね。
「ほら、てゐは私の隣においで」
「あ、うん、わかった」
てゐはお盆を置いて、私の横に座る。
これでみんな揃ったわね。
「それじゃ、いただきましょうか……いただきます!」
「いただきまーす!」
師匠の声に合わせてみんながいただきますを唱和した。
早速元々鍋に入れていた食材を巡っての争いが始まる。
「へへー! 肉いただきー!」
「あ、てゐ! それは私が狙ってた肉なのに!」
「先に取ったほうの勝ちだもんね!」
「妹紅、肉だったら私が取った奴をやるから。な?」
「べ、別にそれでもいいけどさぁ……」
……この二人はもうちょっと静かに食べられないのかしら?
ま、騒がしい夕食も賑やかでいいけどね。
「まったく、二人とも見苦しいわよ。譲り合って食べればいいじゃない」
「師匠。肉を同時に何枚も皿に入れながら言っても、説得力がありませんよ」
「あれ、わかっちゃった?」
バレバレなんですけど。
というか私はまだ一口も食べてない……
「妹紅、あーん!」
「あ、輝夜ずるいぞ! わ、私も……」
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいって……」
そしてあっちはあっちでいつの間にか、お熱い展開になってる。
なんか私もされたいなぁ。
「ねぇ鈴仙、あーんして?」
「え、いいの?」
「もちろん! 早くあーんして!」
「あ、あーん……」
てゐが食べさせてくれるなんて、想像してなかったわ……
それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおっと!
「あーん……あ、あー、手が勝手にー。もぐもぐ……」
私の口に野菜が入る直前で、てゐは自分の口へと箸を運んだ。
……そうきましたか。
「てーゐー……?」
「ごめんごめん、手が勝手に動いたからしょうがない」
「嘘つけー!」
「あはは、今のは冗談だって。それじゃ、もう一回口開けてよ」
今度こそ信じるわよ……?
「あーん……ん、美味し」
今度はしっかり食べさせてくれた。
そういえば今気がついたんだけれど、今の身長がてゐと同じくらいだから自然に目が合っちゃうわね。
いつもはてゐを見下ろす感じだったんだけど、こういうのも新しいなぁ。
「あ、ウドンゲ。お皿に具を入れておいたわよ」
「師匠……ありがとうございます」
こういうことをされたのって、最近はあまり無いからありがたく思えちゃう。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうわよ」
「は、はい! いただきます!」
師匠の優しさが心にしみるわね。
うん、美味しい!
小さくなってから色々なことに気がついた気がする。
人が助けてくれるありがたみとかね。
支えてくれる人たちに感謝しなきゃ。
「鈴仙、どうかしたの?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してただけよ」
「早く食べないとみんなに食べられちゃうよー?」
「わ、分かってるわよ!」
てゐの言う通りね。
早く食べないと私の食べる分が無くなっちゃう。
よーし、食べるぞー!
「ふぅ、食べた食べた……」
鍋の中にはもうスープしか残っていない。
みんなで食べたらたくさんの食材もあっという間に無くなるわね。
「うん、満足出来たわね」
「妹紅、どうだった?」
「あなたたちに食べさせられまくったせいでお腹が破裂しそう……」
妹紅は姫様と慧音さんにずっと食べさせられてたもんなぁ。
そりゃ、そうなるわよね。
それでいて二人もしっかり食べてるんだからすごい。
てゐと師匠はまだ元気みたい。
「さて、あそこの三人は動けないみたいだし……私たちで後片付けをしましょうか」
「そうですね。てゐも手伝ってくれる?」
「うん、いいよ!」
ということで、三人で片付けの時間ね。
「私が鍋を持つから、二人はお皿を下げてくれる?」
「はい、わかりました」
「いつもならウドンゲに任せるんだけど、その体じゃ鍋を持つのはきついだろうしね」
「ちょっときついと思いますね。師匠、お願いします」
師匠は「わかったわ」などと微笑みながら返してくれた。
よし、私は私に出来る仕事を頑張らないと!
「頑張ってねー、応援してるわー」
「すまないな、三人とも」
「もう動けない……」
姫様は今日十分に頑張ってくれたし、二人はお客さんだから手伝ってもらう必要は無いわね。
三人にはゆっくりしていてもらおう。
「三人はゆっくりしていてください。後片付けは私たちが頑張りますから」
「うんうん、私たちに任せておいて! それに姫様と慧音さんには妹紅の面倒も見てもらわないとねぇ?」
「ええ、その通りですよ」
それには同意。
妹紅は食べすぎで苦しそうにしてるしね。
……原因は横にいる二人なんだけど。
「あ、ああ、そうだな……それじゃあ三人に任せるよ」
「全く、不死だからって無理しすぎじゃないの?」
「だ、誰のせいだと思ってるのよ……」
さて仲良し三人組はおいておくとして、さっさと片付け始めましょうか。
私は取り皿を持って行きましょうかね。
「私は取り皿とか持っていくから、てゐはご飯茶碗お願いね」
「いいよー」
取り皿は重ねて持てば一人でも持っていけるわね。
ちょっと重いけど我慢我慢。
「鈴仙、大丈夫?」
「うん、なんとかね。てゐこそ気をつけてよ?」
「私のほうは大丈夫だから、気にしなくていいよ。
今は自分の心配をしたほうがいいんじゃないのー?」
言われてみると確かに。
てゐはいつもと同じだけど私はいつもより小さくなってて、
筋力なんかもサイズ相応に落ちてるもんね。
「ええ、てゐの言う通りね。転んだりしないように気をつけるわ」
「気をつけてよ? それじゃあ私は先に行ってるねー」
私も後に続こう。
ちょっとは重いけど持てないわけじゃないし、早くこのお皿を台所に持っていかないとね。
えっちらおっちらと台所にお皿を持っていくと、師匠がてゐが運んだお茶碗を洗っていた。
「あ、ウドンゲ、お疲れ様。はい、貸して」
「ありがとうございます」
持っていたお皿を師匠に手渡す。ふぅ、重かったぁ。
「洗い物は私がするから、ウドンゲは戻ってていいわよ」
「あ、はい。お願いしますね!」
師匠、ありがとうございます!
それじゃ、ここにいるのも邪魔だし戻るとしようかな。
「あ、お疲れさまー」
「れ、鈴仙……助けて……」
居間に戻ると、妹紅が姫様と慧音さんに絡まれていた。
うーん、これは助けてあげた方がいいかしら。
お腹とか執拗に触られてるっぽいし。
「姫様、慧音さん。しばらく放っておいたほうがいいと思いますよ。
妹紅も苦しそうだし……」
「む、そうねぇ。これ以上妹紅に無理させて吐かれても大変だし」
「そうだな。妹紅、そこでゆっくりしててくれ」
「ありがと……」
二人から解放された妹紅は横になった。
もうちょっと経てば楽になるとは思うけどね。
「あ、鈴仙。ちょっとこっちに来なさい」
「へっ? は、はい」
突如姫様に呼ばれた。
……何されるのか大体想像ついたわ。
「ふふふ、やっぱり可愛いわねー」
案の定、姫様の近くに行ったら抱っこされてしまった。
ちょっと恥ずかしい……でも姫様にこうされるのもいいなぁ……
「なんかずるい……それならば! てゐ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
「……私を抱っこするつもり?」
「ちょ、ちょっとだけならいいだろう……?」
……慧音さんがてゐを抱っこしようとしてる。
しかも手を合わせてまでお願いしてるし。
そこまで抱っこしたいのかしら?
「んー、ちょっとだけならいいけどさー……」
「ありがとう! それじゃ遠慮なく」
こうしててゐは慧音さんの膝の上に、私は姫様の膝の上に座ることとなったのでした。
「やっぱり小さい子は可愛いものだなぁ」
「同意するわー。鈴仙がいつもこうだったらいいのにねぇ」
「すみません、それだけは遠慮させてもらいます」
流石にいつまでもこの体のままでいるのは嫌だし。
……たまになら小さくなってもいいけどね。
「冗談よ。鈴仙には早く戻ってもらって、いつもみたいに頑張ってもらわないとね」
「は、はい! 元に戻ったら頑張ります!」
「それで、私はいつもみたいに鈴仙に悪戯すればいいわけだね」
「それだけはやめてちょうだい……」
てゐと私のやり取りに姫様が笑う。
「ふふふ、てゐはあなたにかまって欲しいからやってるのよ?」
「わ、言っちゃ駄目ですよぉ!」
顔を真っ赤にするてゐ。
私だってそれは薄々感じていたけどね。
でもかまって欲しいにしては過激な悪戯が多いんだよなぁ。
落とし穴とか、上から金だらいとか。
でもそれが彼女なりの愛情表現……なのかな?
「ふむ、悪戯で気を惹く、か。妹紅にもやってみようかな?」
「ごめん、それだけは勘弁して」
しっかりと話を聞いていたらしい妹紅がそう返した。
「私はいつもの慧音と輝夜が気に入ってるのよ。
そんなことしなくても十分私は慧音と輝夜が好きだから大丈夫よ。
……だから流石に悪戯は勘弁して欲しいわね」
「も、妹紅……」
「妹紅、私も大好きだぞ!」
おぉ、熱い熱い。見てるこっちが恥ずかしいくらいね。
てゐも同じことを思ったらしく、付き合いきれないといった感じの顔をしている。
「ま、鈴仙もてゐは悪気があって悪戯してるわけじゃないことを頭に入れておいてね?」
「ええ、それくらい分かってますよ。てゐは素直になれない子ですからね」
それでも十分迷惑してることには変わりないんだけど……
でも、ある程度のことには目をつぶろう。
「う、うぅ……恥ずかしい……」
てゐは私たちの話を聞いて、下を向いてしまった。
真っ赤になったてゐもやっぱり可愛いわね。
いつもこんなだったら……と思ったけど、これじゃあてゐらしくないわね。
たまにこんな顔を見せてくれれば私は十分満足。
「ただいま。明日の昼ご飯は今日の残りを使ったうどんにでもしましょうか」
「あ、師匠、お疲れ様です」
「残りを使ったうどん……鍋の醍醐味よね!」
「ええ、そうね。お二人も明日の昼は一緒にどう?」
「ああ、頂いていこう。な、妹紅?」
「ええ、ご馳走になるわ。ふぅ、やっと楽になってきた……」
師匠が洗い物を終えて帰ってきた。
今日はみんなにお世話になりっぱなしだなぁ……
明日からまた頑張らないと!
そして妹紅はだいぶお腹の痛みが取れたようで、起き上がった。
「で、てゐは何で下向いて黙ってるわけ?」
「あー、それはね……ごにょごにょ」
「へぇ、なるほどね。ウドンゲ、てゐの気持ちにも気づいてあげなさいよ?」
「わ、分かってますよ……」
ニヤニヤしながらこっち見ないでください、師匠……
「それにしても……こんなウドンゲもいいわねぇ。
輝夜、代わってもらえるかしら?」
「いいわよー。はい、どうぞ」
なんか姫様の膝から師匠の膝に移動させられた。
今日は抱っこされてばかりな気がするんだけど……
「ん、これはいいわね。小さくて可愛くて暖かくて……」
「でしょー?」
ちらりと妹紅と慧音さんの方を見てみると……
うわ、すごい見られてる。
二人の目が「私にも代われ」って言ってるんですけど。
「永琳、私にも代わってもらえないか?」
「あ、慧音の次に私も……」
「ええ、いいわよ。でも私がもうちょっとこの感じを楽しんでからね」
……二人にも回されちゃうみたい。
嬉しいようなやめて欲しいような……複雑な気持ち。
でもたまには……こういうのもいいよね!
「あ、気がついたらもう寝る時間ね」
お茶をすすりながら、姫様がそう言う。
ちなみに私とてゐはみんなに回された。
一人一人座り心地が違ったりして、面白い体験が出来たわ。
そんなこんなで私とてゐは今、床に座っている。
「あら、もうそんな時間なのね。
楽しい時はあっという間に過ぎるっていうけど、まさにその通りねぇ」
「もう寝ますか?」
「うーん、そうしようかしらね」
師匠は寝るみたいだけど、他の人はどうだろう?
「姫様たちはどうします?」
「私も寝ようかしらね。今日は一杯体を動かして疲れちゃったし」
「輝夜が寝るなら私も寝るわ」
「二人がそう言うなら私も一緒に寝るかな」
「てゐは?」
「私も寝るよ」
みんな寝るみたいだし、今日はこれでお開きね。
「それじゃあ、寝ましょうか。あ、湯飲みは私が持って行きますよ」
「すまないわね。それじゃあ私は先に寝させてもらうわ……」
「あ、お休みなさいませ」
師匠も結構仕事してたからなぁ。お疲れ様です。
「悪いけど、私たちもお邪魔させてもらってもいいかしら?」
「はい、いいですよ」
今日も姫様は慧音さん、妹紅の三人で眠るんだろうな。
この二人が来たらいつも三人で寝るし。
「それじゃ、一緒に寝ましょうか!」
「ええ、もちろん!」
「すまないな。それじゃあ私たちは先に失礼させてもらうよ」
「ええ、お休みなさいませ。ごゆっくりどうぞー」
やっぱり三人で寝るみたい。仲がよくて羨ましい限りね。
「てゐも先に寝ていいわよ」
「いや、手伝うよ。鈴仙一人に任せちゃかわいそうだからね」
「ふふふ……ありがと、てゐ」
てゐの心遣いが嬉しい。
ここまでされたなら、ご褒美あげなくちゃね。
「てゐ、ちょっといいかしら?」
「ん、何?」
ちょっと背伸びして、てゐのおでこにキスをした。
今の私はてゐと同じくらいの身長だから、こうしないとおでこには届かない。
こういうのもなかなか新鮮ね。
「わっ……な、何を……」
「ふふ、ご褒美よ。てゐ、ありがとうね」
それからてゐを優しく抱きしめてやる。
彼女の大きな耳が私の顔に当たった。
ふわふわしてて気持ちがいいわね。
「ひゃ、ひゃう……」
あ、真っ赤になっちゃった。
今日はてゐがよく真っ赤になるわね。
眼福、眼福。
「それじゃあ早く片付けてさっさと寝ましょうか!」
「う、うん……」
えーと、湯飲みが六つあるから、私とてゐでそれぞれ三つ持っていけば大丈夫ね。
よし、片付けてさっさと寝ようっと。
「先に持っていくわよー」
「あ、待ってよー!」
てゐは慌てて湯飲みをつかんで私の後を追ってきた。
さて、と。今日はもう遅いし、洗うところまではしなくてもいいわね。
一応置いておくだけにしておこっと。
「よいしょっと……ほら、てゐ。あなたの持っている奴もかして」
「あ、ありがとう……」
てゐが持っている分まで台所に置いたら……これで終わりっと!
後は寝るだけね。
「さ、寝ましょ?」
「うん!」
てゐの小さい手を引いて、自分の部屋へと向かうことにした。
自分の部屋へ向かう途中にはてゐの部屋がある。
「お休み、鈴仙」
「ええ、お休みなさい」
てゐの部屋の前で彼女と別れる。
「鈴仙、明日元に戻れてるといいね」
「ええ、戻れてるといいけどね」
苦笑しながらそう返す。
「それじゃ、また明日ね」
そう言ってから、私は自分の部屋へと向かう。
部屋に入ると、綺麗に布団が引いてあった。
誰かが引き直してくれたのかな?
誰が引いてくれたのかはわからないけど……ありがとうございます。
「さて、私も寝ようかな。今日は色々と疲れたわ……」
おっと、でも寝る前に服を脱いでおかないといけないわね。
そうしないと、元に戻ったときに服が破れちゃうし。
もちろん下着も脱がないといけないんだけど……なんか抵抗あるなぁ。
でもしょうがないし……えーい、脱いじゃえ!
「……なんか裸で寝るのって変な感じね」
綺麗に服を畳んでから、布団にもぐりこむ。
すると今まで感じたことのない不思議な感覚に包まれた。
……そりゃそうよね。
今まで裸で寝たことなんてないんだから。
「目が覚めたら元の体に戻ってますように……」
そう祈りながら私は目を閉じた。
ああ、朝になったら戻っていて欲しいな……
「ん……もう朝かぁ……」
あー、よく寝た。
疲れていたせいなのか、よく寝れた気がするわ。
「あ! そういえば体! 元に戻ったかしら!?」
ふと体のことを思い出して、恐る恐る起きてみると……
「や、やったぁ! 元に戻ってる!」
昨日よりも高い目線。そして昨日小さくなってた胸も大きくなってる。
ね、念のため鏡を見て確認してみよっと。
「……やった! 戻ったわよー!」
ああ、この体が懐かしい……
ま、小さくなってたのは昨日一日だけだったんだけどね。
一時はどうなることかと思ったわ……
でもこれにて一件落着!
その時、てゐが部屋に入ってきた。
全く、人の部屋に入る前には声くらいかけて欲しいわね。
「おっはよー! ……あ、戻ったの!?」
「おはよう。ええ、何とかね」
「おお! 良かったじゃん!」
てゐはすぐそばまでやってきて、私の肩をぽんぽんと叩いた。
「……でさ。服着てもらえないかな? ちょっと目のやり場に困るから……」
「あ、裸だったこと忘れてた……」
「でも鈴仙の裸なんて見慣れてるしねー」
このままでいるわけにはいかないし、とりあえず服を着ようかな。
あ、昨日着てた服は洗ってからてゐに返さないと。
「てゐ、昨日借りた服は洗ってから返すね」
「あ、うん。わかった」
それにしてもこの服も一日ぶりだわ。
下着も履いて……下着といえば、昨日は一日中てゐの下着を履いてたのよね。
思い出すと顔が熱くなってくるわ……
「ん、どうかした?」
「あ、いや、何でもない!」
このことは忘れて、早く服を着よっと……よし、着替え終了。
「みんなは起きた?」
「うん、もう起きてるよ」
「それじゃあ、行きましょうか」
「うん!」
うーん、気持ちのいい朝ね。
体も元に戻ったし、体調もばっちり!
「おはようございます!」
居間に入ると、皆はテーブルの周りに集まっていた。
「おはよう、ウドンゲ。体は元に戻ったみたいね」
「ええ、なんとか戻ってくれました」
「うーん、小さい鈴仙もよかったんだけどなぁ。
また今度あの薬を飲んで、小さくなってくれない?」
「うーん……まぁ、機会があったら」
その機会があるかどうか分からないけど。
「今度は輝夜が飲むんじゃないの?」
「え、妹紅が飲むんじゃなかったっけ?」
「小さい妹紅に小さい輝夜か……どっちも見てみたいものだな……」
この三人は薬の飲ませ合いとかしそうね……
でも小さい三人も見てみたいな。
可愛いに違いないだろうし。
「さて、ウドンゲも元に戻ったみたいだし……
また頑張ってもらうことになるわね」
「ええ、昨日手伝ってもらった分まで頑張ります!」
「あ、無理だけはしないでよ? あなたは大事な家族の一人なんだから」
今の師匠の言葉……心にグサリと刺さったわ。
大事な家族、そう言ってくれて嬉しいです!
「わかりました!」
「それじゃあ朝食にしましょうか!」
「あ、私も手伝うよ!」
「うん、てゐと私で作りましょ!」
こうして体も元に戻ったことで、私たちは一昨日までの日常に戻ることが出来たのでした。
大変だったけど、いろいろ面白い一日でもあったわね。
ふふ、小さくなるのも……悪くはないかも。
あれから数日が経った、とある日の朝。
「おはようございまーす……って何ですかそれは!?」
まぶたをこすりながら居間に入った私の目に飛び込んできた光景。
それは……
「おっはよー!」
「あ、おはよう鈴仙」
「ウドンゲ、私たちのこの姿をどう思う?」
目の前には私と全く同じ服を着た三人の姿があった!
「え、えーと、これはどういうことですかね……?」
「あぁ、これ? この前てゐのサイズに合わせた服をあなたが着てたじゃない。
あれを見て『私たちも着てみようかな?』って思ってね。
それで私と輝夜の分も作っちゃったのよ」
「ねぇ、鈴仙、似合うー?」
「え、ええ。一応似合ってますよ……」
えと、つまりこれは永遠亭全員でおそろいの服を着たってこと?
師匠頑張りましたね……
「ねぇ、しばらくこの格好で生活してみない?」
「それいいわね! じゃあ皆でこの格好のまま買い物でも行ってみる?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしい……」
てゐの言うとおり、かなり恥ずかしい。
でも、悪くはないわね。
てゐは可愛く見えるし、師匠と姫様は体のラインが強調されてセクシーに見える。
「面白そうね。ついでに色々なところに遊びに行っちゃいましょうか!」
「神社とか、白玉楼とかね!」
マジですか……このまま皆のところに行っちゃうんですか。
「そうと決まれば話は早いわ。ほら、ウドンゲ、準備しなさい!」
「は、はい! すぐ準備します!」
こうして私たちはしばらくの間、全く同じ服装を着たまま過ごしたのでした。
……知り合いに会うたびに「おそろいの服なんて仲が良くて羨ましいね」なんて言われたわ。
ちょっとは恥ずかしかったけど……これはこれで結構面白かったわね。
たまには小さくなったり、皆で服を合わせたりっていう滅多に出来ないことを体験するのも……面白いかもしれない。
流石に何度も体験するのはごめんだけど、また機会があればたまにはこういうことをしてみたいな。
お揃いの服着た三人のお話も読んでみたいです
永遠亭の話でほのぼのしましたw
幻想郷はここに在ったか。
永遠邸の日常の一つを切り取ったような雰囲気が出てて良かったと思う。
体が縮んだ描写につき、最初に背が小さくなった事による視線の変化に伴う見える世界の変化・・・例えば、鏡一つ見るのに椅子を置く等と言った描写を入れたりすると、どれくらい縮んだかを具体的に想像しやすくなるかとも思います。
次回作も楽しみにしてますよ。
諸君、ウサ耳を忘れとるぞ!装着、装着!
周りの永遠亭のみな優しさが読んでいて楽しかったです。
鈴仙、てゐがめっちゃくちゃプリティです
あと咲夜さんは永琳のことは永琳さんと言うのに違和感があった 呼び捨てにするイメージが強いからかな?
平和な永遠亭・・・こういう永遠亭って和みますよね!
自分も書いていて楽しかった作品です。
アドバイスもいくつか頂きましたね。
体が縮んだことをわかりやすくする描写については、これからの作品に活かして行きたいです。
咲夜が「永琳さん」っていうのは自分が
「咲夜は従者なので、目上の人には敬語を使うのではないか」と考えた結果ですね。
コメント、アドバイスありがとうございました!