Coolier - 新生・東方創想話

春を告げに行きましょう

2011/04/10 23:50:32
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 おお、いつの間に春告精が。ということは花見酒を飲むための花見の季節だな。
 ……まて、何もしなくてもわかる。おおよそ春だろ? 弾幕は足りてるぜ。
 いや、そんな寂しそうな顔されてもだな、別に弾幕で……わかったわかった春告精がのの字書くなよ、辛気臭い春告精はごめんだぜ。その春は後であっちの神社にでも告げておいてくれ。頭が春な巫女がいるからきっと喜ぶ。
 さて、冬の間は春が足りてなかったからちょうどいいぜ、盗まれないように私が保護してやろう。
 ん、花粉は標準装備です? ワシントン条約は守らないとな。


 
 ところで、なんでこんなところをうろうろしてるんだ? いつもはふわふわ空飛んでるだろ。
 このあたりには人妖はあんまりいないぜ。あるのはキノコ位だ、それと薬草。
 いや、首をかしげられてもな。道に迷ったのか?

 羽根? 森? 大はしゃぎ? ごっつんこ? 涙目? 

 ……わかったって、わかったからのの字書くなよ梅雨になる。梅雨になると借り物の本がかびるんだ、八卦炉で乾かすには火力の調節が難しいんだぜ。
 それに灰になると返さないといけないからな、読めないし。
 しょうがないから箒の後ろにのりな。仕方がないから里まで運んでやるよ、産地直送春の宅急便だぜ。




 こんな高いところまで来るのは初めてなのか? 桜の花が飛ぶところまでしか来たことがない? なるほど、さすがは存在が春な妖精だぜ。
 よし出血大サービス、しっかりつかまってろ、星の高さから幻想郷を見せてやるぜ。

 っておいおいそんなに抱きつくなよ、箒が揺れる。あと私は嫁入り前の乙……マスクが外れる、花粉が鼻に待て弾幕放つなはしゃぐな騒ぐな暴れるな八卦炉被弾!? メーデーメーデーメーデー!!!

















 さて、我が家に飛び込んできた愚か者は「お届け者だぜ。そして代金は預かった、返さないけど」とか言って、そこらへんのものをあらいざらい盗って逃げていってしまったようだけど……お届けされた貴方は何者かしら?
 いいのよ、怒っていないわ。貴方はただお届けされただけのようだし、あの愚か者は今頃爆発している頃。相性の悪い宝具があるということ、知らないのかしら? あら、黒煙。

 それで? 



 そう、春を告げに……貴方が話に聞く春告精ね。今までこの屋敷には来たことがなかったから歓迎しましょう。
 あら、張り切りだしてどうしたの? ふふふ、今まで春を告げたことのないところだから楽しみなのかしら?
 待ちなさい、その前にその傷と焦げを治してあげるから。
 いいわ、これくらいの怪我ならすぐよ。ウドンゲ、い58の棚から薬を持……用意がいいわね、貴方はそこに座って傷跡を見せて。



 まぁこんなところかしらね、妖精に使っても特に副作用はないと思うけど……せいぜい羽根が二三枚増える位かしら? 大丈夫、冗談よ、もう痛くない?
 ほらほら抱きつかないで、弾幕もやめなさい。
 あとは存分に春を告げてまわってくるといいわ、貴方はこの屋敷に来たはじめての春なのだから、張り切ってね。
 姫様も風流と言って楽しむと思うし。てゐや他のイナバ達も喜ぶでしょう。ええ、皆私の家族よ、誰も春を疎んじたりはしないのだから、安心して。
 ウドンゲ、貴方はこの子の様子を見てあげなさい。屋敷内は防弾防花粉仕様だからそんな危ないことはないと思うけど、イナバ達がはしゃいで怪我をすると困るから。

 さてと、では行ってらっしゃい春を届けに。でも私の部屋には近づかないようにね、劇薬が多いから。

















 あ、春告精。いつもお疲れ様、春を届けてくれてありがとう。それ竹の花? 竹林に行ってたの?
 あはは、楽しかったみたいね、桜餅もらったの? ほっぺについてるよ?
 よかった、今年はちょっと遅かったから心配してたの、後で慧音様にも知らせてこよっと。阿求ちゃんは……どうせこたつの中ね、寺子屋に来ればいいのに。
 あ、阿求ちゃんていうのは稗田のね……聞いてよー
 ふきのとうがそんなに面白いの? そう、嬉しいのね。春の使者だもんねーって急に睨んでどうしたの? ライバル? なにそれ。

 そうそう、今年もお願い、綺麗に咲かせてね。これ花の種。
 今年の分はいつもよりたくさんあるの、最近は妖怪さんもお店に来てくれるから売れ行き好調なのよ。春告精も持っていく? お家に咲かせてみたらどう?
 そういえば、あなたの咲かせてくれるお花は、里のみんなには好評なんだけど妖怪さんにはどうなのかな? あ、自信満々。
 うん、私も、里のみんなも春が楽しみだから、毎年あなたが咲かせてくれる春の花は大好きよ? それにあなたが花を咲かせてくれるおかげで、うちも商売繁盛だし。



 見て見て、やっぱりみんな集まってきたわ。春が来るのは嬉しいし、これで里もあったかくなるもんね。
 ……ちょっと不満そうね。あはは、もちろんあなたが告げてくれるのも楽しいの、だって見てるだけでこっちも暖かくなってくるから。
 あ、やっぱりあなたがそんな感じに笑ってくれると、里にも春が来たって気がするんだ。ぽわぽわ~ってするよね。
 そうよ、私も、里のみんなも、そして多分妖怪さんも、あなたが春を告げてくれるのを待っているんだから。春告精が里に来て、桜が咲いてお花見大会、たまには春告精もお花見に来ればいいのに。
 笑っているのは承諾と受け取るよ?

 よし、春告精、そろそろ出番よ? たっぷり花を咲かせてね、しっかり春を告げてくださいな。



















 呼ばれて飛び出てお化けだぞーってなんではしゃいでるの? 春? そりゃ春にだってお化けは出るさ。お化けは夏にしか出ちゃダメとかいうのはあんまりだい!
 あと一応お化けとしては驚いてくれると嬉しいんだけど、いや、不思議そうに首を傾げられてもさ。自信なくすよ……あとなでなでされるとかえって悲しいんだ。
 気持ちはありがたいんだけど。



 桜餅? くれるの?
 うう……驚かした相手に桜餅をくれるなんて、幻想郷も捨てたもんじゃないねぇ、これで明日からも頑張って貴方達人間を驚かせそうだよ。
 え、貴方人間じゃない? 春を告げに来た? なんかよくわかんないけど人間じゃないんだ、残念。 慌てて急いで飛び出して、ついうっかり間違えちゃったのか。やっぱりゆとりは大切だね。
 ……ん、この紙くれるって? なになに、春を告げて回っている可愛い春告精です、危なくないのでいじめないで下さい。ふむふむ。追記、お花がご入用のときは里の花屋まで。何だこりゃ?
 


 まぁなんだね、寂しいからちょっとのんびりしていきなよ。誰も相手してくれるひとがいないと心がひもじい……おなかじゃなくてね、食べるけど。
 冬になると人間もおばけも出てこなくなるから、私はとっても暇なんだ。なんで胸張るの?

 春が来るから? いや、そりゃそろそろ春は来るけどさ。
 そういえば貴方が来てからちょっと暖かくなってきたかも……ひょっとして春を告げるっていうのはそういうことかーてっきり桜餅を配って歩くことなのかと思ったよ。
 うんうん、いいねぇちょっと私も嬉しくなってきたかも。春はいいねぇ、あったかいし、人間も通るし、寂しくないし。
 おお、そうかい話があうじゃない。やっぱり春は嬉しいねぇ、心が弾んでくるんだもん。このまま弾んで人間を驚かしに行きたい位。

 そうだ、いいこと思いついたよ。
 どう? 春を告げるついでに、一緒に人間でも驚かしに行かないかい?

















 なるほど、事情はつかめたわ。
 それでたまたまこの向日葵畑にやってきたと、私も人間じゃないのにね。何抱き合って震えてるのよ、失礼ね、私はそんなに容赦ない妖怪に見える? 見える、二人とも? ほう……
 
 そうねぇ、向日葵たちが怪我をしなかったから、特別に選ばせてあげるわ。
 まず化け傘、貴方は……傘のない骨になるか骨のない傘になるか好きなほうを選びなさい。そっちの春は……そうね、この先春を告げられなくなるか、春に逢えなくなるか好きなほうを選びなさい。
 あら、この選択肢じゃ不満なの? 贅沢ね。
 どっちにしろ同じ? まったく、これだから違いのわからない連中はダメね、向日葵畑の肥料にする位の価値しかないわ。
 
 嫌なの?

 ふふふ……それなら、そうね、私を楽しませてくれたなら許してあげようかしら。私は優しいし。
 あら、急に張り切りだしたわね春の方。へぇ、春が来るのは楽しいのです、春が来るのを楽しまないひとなんていません? 言うじゃない、雪山のなんとかなんかは嫌がりそうだけど……少数派? 同意するけどね。

 で、どうするの?





 ……まぁ70点ってところかしら? ぎりぎり合格にしてあげるわ。
 それにしても、貴方何もないところから花を咲かせる能力なんてあった? 種は企業秘密? いい度胸ね、そう言われると知りたく……まぁいいわ、今回は見逃してあげる。
 だから春を咲かせて来なさい。この幻想郷が、きっと花だらけになるように。雪に埋もれていた地面を、花いっぱいにしてきなさい。私が、楽しめるようにね。



 ふふふ……行ってらっしゃい、ちゃんと春を咲かせたら許してあげる。ってそこの化け傘、何当然の顔して一緒に消えようとしているのよ。
 貴方はまだよ、私を楽しませなひゃっ!?

 ……何? 驚かせるの成功? 蒟蒻でひんやり? いいわ、そんなに死にたいようなら望みを叶えてあげる。あ、こら逃げるな。











 あらあら、初めて見る妖精ですね。春告精? 意思疎通ができる妖精というのは珍しいかも、幻想郷にはまだ私が知らないことが多いようです。
 この神社に御参りしに来るとはなかなか目が高いですね。私の地道な活動のおかげで、ついに妖精にまで信仰が……はい? 御参りしに来たんじゃなくて春を告げに来た? 

 ……春なら間に合ってますから、幻想郷の方々はみんな春でしょう、主に頭が。ということで当神社に御用がない方はお引取り下さい。

 いえ、一度試してみてと言われてもですね、こっちで変なものに手を出すとろくでもない目に遭うというのは周知のことですし。いえいえ、蒟蒻とかいりません、しかも人肌にぬくまった蒟蒻とかさぁ、もうちょっと気の利いたもの出しなさいよ。
 いいものいいものと言われても、実物をみないとですね、幻想郷育ちならいざ知らず、こちとら訪問販売の波状攻撃で鍛えられてる現代っ子ですよ。春の押し売りとか、なんかのセールですか。
 袖にすがり付かれても困るんです、ノルマがあろうが知ったこっちゃないです、ない? ますます知らない。対価はいらないと言われてもねぇ、ただより高いものはないという名言があるわけで……
 って、この服引っ張られると弱いんですから放して下さい、放せったら、いい加減にしないと究極の外交手段を行使しますよ、実力行使。

 ……ってあれ、あの、あれれ?
 
 いえ、泣かせるつもりはですね、昔の癖で訪問販売相手にしてるみたいにしてしまって。
 あああ、泣き止んで下さい、まるで私が泣かせたみたいじゃないですか、いえ私が泣かせたんでした。今まで煮ても焼いても食えない連中を相手にしていたせいでついうっかり毒舌を……じゃなくて!
 お茶どうですか? 桜餅は? ある? 七草粥とかどうです? すぐに作ります、ええ、ホント、私そういうの得意ですし。
 お茶もほら、桜茶です、風流でしょう? 三色団子とかどうです? だからお願いです泣き止んで、神社の評判とか、私の良心とか、私の披保護者の目とかが大変なことにって諏訪子様!? 悲しそうな目でこっちを見ないで下さい、待って! 行かないで! え、神奈子様、いえいえ披保護者というのは言葉のあやもとい間違いで、この妖精も不幸な誤解が重なって……聞いてください!?  終わったらオンバシラでミンミンゼミってなんでそんな妙な折檻を知ってるんですかぁ!? 
 あ、こら天狗待て、この状況を撮影するな! 出鱈目な記事書いて出すつもりでしょって諏訪子様何涙目でインタビュー受けてるんですか!?

 ……私が泣きたくなってきました。というかいつの間にか私が慰められているというのはどうしたことでしょう?
 はぁ、なでなでしなれてますね、春告精の能力なんですか? なでなでする程度の能力って……あと、貴方の胸で泣いていいですか?



 はい、ありがとうございました落ち着きました、幻想郷に来て初めて優しくされて気がします。よろしければもうちょっとこのままで、後のことを忘れられる位まで……

 え? 春を?

 いいですよ、春でも夏でも、どんどん告げてしまって下さい。よくわかりませんが、もうどうでもい……



 え? 桜が……菜の花も? 蒲公英? 急にどうして……?
 
 もしかして、春を告げるというのは、本当に……



 なるほど、幻想郷とは、こういうところなんですね。変なものに手を出すっていうのも、たまにはよかったのかな?
 それにしても、ちょっと咲かせすぎな気もしますが……当社比三倍? 忘れると大変なことに?  何震えてるんです?
 まぁ、春ですから、これ位派手に咲かせた方がいいかもしれないですね。

 あ、諏訪子様、神奈子様……え、あ、お花見ですね、即興お花見会。はい、みんなで開きましょう、なんかほわんとした気持ちになって、ええ、さっきの妖精も一緒に……

 って春告精……?































 やっと気づいたの? 私がいたのに気づかないなんて、そんなに浮かれてた?
 浮かれていた……そう、そんなに楽しいことなの? 春を告げるのって。

 ねぇ、あなたはどうして春を告げるの?

 別にわざわざ告げなくたって春は来る、あなたが告げなくても、幻想郷に春は来る。雪が消えて、ふきのとうが顔を出し、桜が咲いて、菜の花が野を埋める。時間が経っても、いつか春は来るわ。
 あなたがやっているのは、ちょっとしたパフォーマンス、痛い思いをして、見知らぬ誰かを楽しませるだけよ。
 魔法の森で墜とされたでしょ? 通りすがりの妖怪に、春を告げて吹き飛ばされて……春を告げに飛んでまわって、告げた先で墜とされて……それでもまた飛んでって、何がそんなに楽しいの?
 春の後の綿毛みたいに、流されるままふわふわふわふわ飛んでって、着いた先で一騒動、あなたはなにがしたいのよ?

 ……ええ、ついてまわっていたわ、悪い? あなたがどうして春を告げにまわるのか、ちょっとだけ気になったから。なんであなたがそんな無駄なことをするのか、ほんのちょっと気になったから。

 そう、私たちが春を告げるのに、なんの意味もない、春を告げればみんなが喜ぶ、でも、それは一瞬のこと、すぐに忘れられる無意味な行動。
 そんなことの為に、春を告げるの? 苦労して、痛い思いをして、春を告げるの?





























 目の前の、おんなじ顔の女の子。私に問いかける私へと、私は笑顔で返します。

「あなたはずっと見てたでしょう? 誰かが笑ってくれるのを。あなたはきっと見てたはず、みんなが幸せになる様子。私が楽しく思うこと、あなたが楽しく思うこと、みんなが楽しく思うこと、幻想郷に春が来る、寒い季節が過ぎ去って、あったかな季節がやってくる。私たちがすることは、春の季節を告げるんじゃなく、みんなの心に春を運ぶ、そういうことじゃないのかな? ほんの少し痛い思いをしたって、十分楽しい旅だったよ?」

 おんなじ顔の女の子、私とおんなじ女の子……黒い服を着た私へと、私は言葉を続けます。

「桜が咲いて、春が来る。春告精が来て春が来る。桜も春告精も、なければなくても春は来る、でも、物足りないよね? 桜が咲いて春が来たほうが、ちょっとだけ楽しいよね? ちょっとだけ、ほんのちょっとだけの幸せが増える、みんながほわんとしてくれる。私も幸せ、みんなも幸せ、あなたは幸せにならないの?」

 目の前の私が返します。忘れられることの為、一瞬の誰かの幸せで、なんで私も楽しくなるの?
 そんな私に、もう一度私は返すのです。

「春が来たことを誰かに教えて、誰かがそれで嬉しくなって、春がだんだん伝わって、ほわほわほわほわ伝わって、幻想郷に春が来るの。みんなが楽しくなってくの。ね、あなたが気になるくらいみんな楽しそうにしてるでしょう? 心に春が来てるでしょう?」

 黙っている私へと、最後に私は言いました。



「春を告げるのが私の役目、春を運ぶのが春告精。一緒に行こう? 黒い私。あなたが楽しくないのなら、あなたにも春を運ぶから。楽しい理由がわからないなら、その理由を教えてあげる。だから一緒に出かけよう、みんなに春を告げましょう」





















 桜吹雪と春の空、春告精が飛んでいく。二人揃って飛んでいく

 白い方が手を引いて、黒い方はおどおどと、青い空をふわふらふわふら飛んでいく

 あったかな春を届けよう、二人で一緒に届けよう
 
 春告精は今年はふたり、楽しい気持ちはきっと二倍
 
 寒い冬にさよなら告げて、あたたかな季節が来たのを告げに、二人は並んで飛んでいく
 




『おしまい』
 春が来るとなんか楽しくなります。意味もなくはしゃぎだして、野山に出かけて、時々残雪にはまります。
 春が来たときの浮き立つような気持ちが、ほわほわと伝わったのなら幸いです。お読み下さいまして、ありがとうございました。
 ご指摘、ご感想等ございましたら、何卒よろしくお願いします。

追記
 早苗さんを出したら、いつの間にやら毒舌に……はて?
浜村ゆのつ
http://www.rak2.jp/town/user/oogama23/
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コメント



0.400簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
春ですよー♪
5.100名前が無い程度の能力削除
麗らかな春を感じさせる素敵なお話でした。
8.100名前が無い程度の能力削除
いい春だ