Coolier - 新生・東方創想話

幻想スケッチ第1話 3月27日 20種類の秘密

2011/04/02 00:11:53
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「ふわぁ」
目を覚ました私はとりあえず体を起こす。
朝にはあんまり強くない。
よく寝たなぁ、なんて思っていると太陽が窓より高いところにあることに気づいた。
いつも起きる時間には朝日が差し込んできていたはず。
それはつまり、

「また寝坊した!」

あわててベッドから飛び降りて、顔を洗い、歯を磨く。
すぐに着替えて、お弁当を作っていつもの黄色い鞄に入れれば準備は完了。
誰もいないけど「いってきます」と言って、食パンを口に入れて家をでる。
急いで霧の湖の大きな木の下まで行かないと。


☆☆☆


「また大ちゃん寝坊したんだね」
「うぅ。最近は寝坊してなかったのに」

チルノちゃんがからかうように言ってくる。
遅刻したのは1週間ぶりのはずなのに。

「だめだよチーちゃん。大ちゃんは朝寝坊するから大ちゃんなんだから」
「ルーちゃんまでそんなぁ」

あ、紹介が遅れました。
私、大妖精と言って、霧の湖の近くに住んでる妖精です。
それから、水色の髪に氷みたいな羽、青い服を着ているのがチルノちゃんで、私と同じ妖精。
黒い服に金色の髪。頭にリボンみたいなお札をつけているのが妖怪のルーミアちゃんで、わたしはルーちゃんって呼んでいます。
私たちはいつも霧の湖の大きな木の下に集まって、1日をのんびりすごします。
え、何もしないのって?
えっと、私たちが住んでいる幻想郷は、そういう場所なんです。
ゆっくりした時間が流れる、すべてを包み込む優しい箱。
神社の巫女さんなんかは時々大変みたいだけど、私はそう思っています。


☆☆☆


「すっぱーい!!」
「ルーミアあたり!大ちゃんはこれで何回連続で当たらなかった?」
「たぶん10回くらいじゃないかな?ルーちゃんは4連敗?」

お弁当を食べた私たちは里の駄菓子屋さんに来ています。
今はルーちゃんが3つのうち1つがすごく酸っぱいお菓子であたり(はずれ?)を食べてしまったところです。

「今回こそはと思ったのにー」
「やっぱりあたいが言った通り、色が濃いのは危なかったじゃん」
「でも前はチーちゃん色が薄いので当たらなかった?」
「嘘だよ。いっつも色が濃いので当たってるもん」
「じゃあ大ちゃんは?前に当たったのは濃かった?薄かった?」
「わたしのは濃かった気がするけど」
「やっぱりあたいの言う通り!」

うん、確かに濃かったはず。
いっつもこのお菓子は3つに1つ色が濃いのがあるんです。
それが必ずすごく酸っぱいのかはよくわからないんですけどね。
この駄菓子屋さんは裏でもんじゃ焼きも食べられたりして私たちもよく来るんですが、今日は暖かいので、いつもよりも賑わっている気がします。
チルノちゃん達は、まだ酸っぱい話をしてるみたい。
ハチミツ色の飴を1粒買って口の中で遊んでいると、里の中に見知った顔を見つけました。
向こうもこちらに気づいたみたいで、軽く手を上げてからこちらにやっ来ます。

「大妖精に、チルノにルーミアか。お前らも相変わらずだな。おばちゃん、長いゼリーちょうだい。ソーダ味で」
「魔理沙さんはいつもイチゴ味じゃ?」
「まぁ、せっかく春めいてきたからな。気分だぜ。それより今日もルーミアは当たったのか?」
「濃い色を選んで4連敗です」
「だから濃い色は危ないって教えてやったのに」

霧雨魔理沙さんは人間の魔法使いで、いつも白黒のエプロンドレスに黒いとんがりぼうし。
人間だけど私たちよりもぜんぜん強くて、昔チルノちゃんやルーちゃんがイタズラをした時に簡単に落とされてしまいました。
最近は時を操れるメイドさんや、新しい巫女さんみたいな人も出てきて、人間もどんどん強くなっている気がします。

「ルーミアまた当たったらしいな」
「あたいも注意したのにまた濃いの選ぶんだもん」
「文々。新聞に書いてあったのにぃ」
「あの天狗の新聞は8割は嘘だぜ?わたしを泥棒あつかいしているような新聞だからな」
「魔理沙も濃いのは食べないの?」
「霊夢と早苗と食べただけだが、その時は濃いのを食べた早苗があたってたな」
「じゃあ、魔理沙もあたいの仲間だね」
「でも魔理沙は1回食べただけじゃん」
「それならもう1回やってみようよ、どーせ濃いのを食べるルーミアが当たるから」
「おい、でもここにいるのは4人だぜ?」
「あのぉ、私は今飴を食べているので」

ぺろっと舌を出して小さくなりかけている飴を見せる。

「じゃあ、魔理沙、ルーミア、あたいの3人ね。みんな10円だして」

チルノちゃんがみんなから10円ずつ集めて、グレープ味を買ってくる。
袋の端を破って出てきた中身は薄いのが2つに濃いのが1つ。
あ、魔理沙さんもチルノちゃんもニヤニヤしてる。
もう目でルーちゃんに濃いのしか選ばせない気だ。

「もちろんルーミアは濃いのだよな?」
「いいもん。濃いのが当たるなんて嘘だから」
「言ったね?じゃあたいも薄いのにするよ」

全員が1つずつ取って、チルノちゃんがゴミを捨てて来る。

「じゃあ、いくよー」
「「「いっせーの」」」

全員が口にいれてモグモグし始める。
ちなみに私も濃いのが当たると信じている。
当たったのはなぜか濃いのを食べることになってしまった時だけだ。
じゃんけんで負けたような気もするけど詳しくは覚えていない。
そんなことを考えながらルーちゃんの顔を見てたけど、ルーちゃんの顔はなんともなかった。
悲鳴を上げることになったのは

「当たったぜ・・・」

薄いのを食べたはずの魔理沙さんだった。


☆☆☆


「そういえば魔理沙さんはなんで里まで来ていたんですか?」
「まぁ、特に用事はなかったんだがな。白玉楼に行くついでだぜ」

魔理沙さんは手に黄色い缶を持っている。
さっきのがよっぽど酸っぱかったらしいけど、だからといって一番甘いコーヒーを飲むのもどうかと思う。
本当に苦いコーヒーを飲めないのかもしれないけど。
ちなみにチルノちゃんとルーちゃんはまた争っている。
今度は酸っぱいお菓子じゃなくて、赤い炭酸飲料の缶。
私とチルノちゃんは好きだけど、ルーちゃんは大嫌いみたい。
コーラとさくらんぼを混ぜたみたいな味でおいしいと思うのに……。

「魔理沙さんが白玉楼に行くって珍しくないですか?紅魔館に行くのはよく見るきがしますけど」
「霊夢に負けちまってな。4月の最後の日曜にやるお花見の案内を頼まれたんだよ。ま、今となっては悪くないけどな」

魔理沙さんは意地の悪そうな笑みを浮かべながらポケットを叩く。
実際悪巧みをしてるんだけど。
魔理沙さんのポケットに入っているのはあの酸っぱいお菓子。
ただしもう開けてある。
あの後、魔理沙さんはあの酸っぱいお菓子を3つ買って、
その中身のうち6個を自分で食べてしまった。
そしてその後残っている3つを1袋にもどしてエプロンドレスのポケットに入れた。
ちなみに残っている3つのうち2つは酸っぱいので、真ん中の1つだけがセーフである。
簡単に言えば、魔理沙さんは酸っぱいのを妖夢さんに食べさせたいだけなのだ。

「それはそうと、お前らも来ないか?もう1人食べる人がいないと困るんだよ」
「え、私は嫌ですよ?」
「食べるのはチルノあたりがやってくれるはずさ。酸っぱいやつの1個は濃い色をしてないからな」
「それなら構わないですけど」

チルノちゃんとルーちゃん達にも聞いたけど、二人ともあっさり来てくれることになった。
とりあえず私も赤い缶の炭酸飲料を一本買っていく。
それを鞄に入れて外に出ると、もう魔理沙さんは箒に跨っていつでも飛び立てる状態だった。
なぜかチルノちゃんもいっしょに箒に乗っている。

「じゃ、ゆっくり行くからついてこいよ?」

魔理沙さんに続いて私も空に浮かぶ。
空を飛んでいると、思ったよりも寒かった。
まだまだ本格的な春は遠いいみたいです。


☆☆☆


「もう、二人とも離してくださいよ!」
「チーちゃん、ちゃんと文を押さえててね」
「りょーかーい!あとで変わってよね」
「後でねー。じゃあ、膝に指を当てて・・・」
「ひゃうっ!くすぐったいってばぁ!ひゃあ!」

魔理沙さんに誘われて白玉楼につく頃にはすっかり夕方になってしまいました。
なぜ文さんがチルノちゃんとルーちゃんのおもちゃになっているかと言うと、単純に文さんが小さいからです。
実は文さんは下駄が高いだけで、比較的小さい魔理沙さんや、妖夢さんよりもさらに小さくて二人にとってはイタズラしやすいみたい。
もちろん私たちよりはもう少し大きいですけどね。

「ねぇ、大ちゃん?」
「はい?」
「ちょっと抱いてもいいですか?」
「えっ、て、もう抱いてるじゃないですか!」
「おっ文ー、スクープだぜー、って相当弱いみたいだな。完全に遊ばれてやがる」

文さんはチルノちゃん達にくすぐられて、息があがってい
た。
私も弱いほうだけど、文さんはもっと弱いらしい。
後ろからチルノちゃんに押さえられて膝の上にのったルーちゃんがくすぐっている。
天狗の力なら簡単にふりほどけそうだけど、力が入らないみたい。
そのまましばらく眺めていて、ふと思う。

「で、妖夢さん、わたしは・・・?」

階段に座って膝の上に私を乗せている妖夢さん。
両手を腰にまわしていて、離してくれるつもりはないらしい。
近くの桜の木には箒が立てかけてある

「もうちょっとだけだから?」
「でもまだ階段掃除の途中ですよね?」
「いいんですよ。今は綺麗な時期なので。それにここは広すぎて全部掃除するなんて無理ですよ。だから、キリのいいところでやめるんです」
「でもあと10段くらいやってからの方がいいんじゃないですか?」

10段くらいでチルノちゃん達がいる踊場になる。
明らかにそこまでやった方がキリはいい気がする。

「大ちゃんが来てくれたので、ちょうどキリがいいんです」
「えっと……、ひゃうっ」

背中にくすぐったさを感じて、思わず声を上げてしまう。
首を後ろの方へ向けて妖夢さんの顔を見上げるとイタズラっぽそうな顔。

「大ちゃんも弱そうですよね?くすぐったいの」
「ちょっと、くすぐっ、やめてくださいってば!」

今度は首筋をなでてくる妖夢さん。
あわてて首をひっこめても妖夢さんの手が肩と顎の隙間に入ってしまっている。
妖夢さんの膝の上から脱出しようとしても左手だけで押さえられてしまう。
そもそも、首をなでる手がくすぐったくて力が入らない。

「あんまり騒がない方がいいですよ?チルノさんやルーミアさんも来てしまうかもしれませんよ?」

わざと耳元でささやく妖夢さん。
顔を見なくても妖夢さんの顔は想像できる。
幽々子さんの関わらないところでの妖夢さんはかなり意地悪らしい。


☆☆☆


「へぇ、今年も4月の最後の日曜ですね。こっちはもう少しかかりそうですけど」
「今年も来るのか?また霊夢を潰すつもりかよ?」
「あれは、たまたまの事故ですよ。もちろん今年も行きますよ?今年は妖夢を……、あ、妖夢さんはお酒、全く駄目なんですよね」
「そんなことありませんよ!」
「あれ、ミスティアさんのお店で泣きながら練習していたのはどこのどなたでしたっけ?」
「なにを……、確かに弱いですけど」

文さんが妖夢さんをからかっている。
文さんはなぜか妖夢さんには強いみたい。
普段あんまり見ない姿だ。
赤い缶の炭酸飲料を飲みながら思う。
チルノちゃんとルーちゃんは風船ガムを食べている。
チルノちゃんはうまく膨らませるけど、ルーちゃんはうまく膨らませないみたい。
必死に舌でガムを延ばそうとしてるけど、うまくいかないらしい。

「ところで文、妖夢、これやらないか?」

魔理沙さんがあの酸っぱいお菓子をポケットから取り出す。
もちろん出した瞬間に開けるフリをするのも忘れない。

「文はもちろん最後でいいよな?どれでも変わらないんだろ?」
「も、もちろんです。文々。新聞は真実しか書きませんから」
「じゃ、私は真ん中で。妖夢はどうする?」

妖夢さんはじっと見つめてから、端の色が薄いやつを選んだ。

「別に構いませんよ。どうせ当たる確率はいっしょですからね」

3人が3人とも不適な笑みを浮かべている。
妖夢さんと魔理沙さんは絶対に当たらないという感じだけど、文さんだけは余裕がない感じかな。

「「「いっせーの」」」

3人が同時に口のなかに入れてもごもごする。
当たったのは、
「「「すっぱーい!!」」」
なぜか3人だった。


☆☆☆


「ひゃうっ、おっ、お願いだから!」

魔理沙さんが文さんと妖夢さんにくすぐられている。
3人が当たりだったのはたぶん偶然だと思う。
もちろん妖夢さんと文さんが当たったのは当然だけど。
たまに3個ともなんともなかったりするのと同じで、2個当たりが含まれていても不思議じゃない。
それにしても魔理沙さんを膝の上に乗せている妖夢さんは楽しそうだ。
妖夢さんは後ろから抱きしめるのが好きらしい。

「大ちゃんよくそんなの飲めるね」
「ルーミアこそ、なんでこんなに美味しいものを嫌うの?」
「絶対美味しくないよ!」
「絶対、絶対美味しいよ!大ちゃんまだ残ってる?」
「あと少しだけど。あと飲んじゃってもいいよ」

からからと缶を振りながらチルノちゃんに手渡す。あ、魔理沙さんのスカートがちょっとめくれてる。

「それにしてもいつになったら秘密がわかるんだろうね?」

チルノちゃんがほとんど空の缶を両手で持ちながら聞いてくる。

「このジュースに入ってるやつ?」
「こんなまずいものに入ってるものなんてどうでもいいじゃん」
「どうでもよくないよ!こんなにおいしいんだもん!」

また始まった。
もう白玉楼は真っ赤に染まっている。
前だったらとっくに真っ暗になってたはずの時間なのにまだ明るい。
いつの間にか冬もおわったと思う。
春はもちろん好きだけど、冬には冬なりの良さがあった。
こたつでみかんを食べたり、みんなで雪合戦したり。
本格的に春になったらお花見して、鯉のぼりの季節になって、あっと言う間に春も過ぎていく。
その時その時は楽しいのに、過ぎた後にはなぜか寂しく思う。
今私が感じているのもそういう寂しさなのかもしれない。
霊夢さんは、そんなところを「人間臭いわね」なんて言っていた。
そしてその後に「でも、それに捕らわれて今の楽しさを忘れちゃだめよ」とも言っていた。
正直、どの辺が人間臭いのかも、寂しさに捕らわれて今の楽しさを忘れることも、今の自分にはよくわからない。
今の妖精としての毎日が楽しいから。

「おーい、返事をしないとまたくすぐっちゃいますよー?」

いつの間にか、だいぶ時間がたっていたらしい。
目の前で手をひらひらさせている妖夢さんがいる。
くすぐられるのは嫌なのであわてて立ち上がる。

「イタズラをした魔理沙さんへの罰は、全員捕まえるまで缶けりの鬼ということにしました」

見ると、踊場の真ん中にさっきまで飲んでいた赤い缶が立てられている。
私と妖夢さん以外は魔理沙さんを囲んで立っていた。
踊場まで歩いてみんなと一緒に輪を作る。

「まったく、ひどいぜ」
「そんなこと言ったって、悪巧みをした魔理沙さんが悪いんです」

文さんが頬を膨らませながら言う。
ちょっと子供っぽく見えるその仕草はかわいい。

「じゃあ、チルノちゃん、お願いしますねー。魔理沙さんは缶を拾ったら30秒数えてください」

チルノちゃんが缶から離れて蹴る準備をする。
もちろん私たちも逃げ始める準備。
チルノちゃんが蹴ったらすぐ逃げられるようにしておかなくてはならない。

「じゃあ、行くよ!」

チルノちゃんが勢いをつけて缶に向かって走っていく。
小さな足が缶を蹴り上げると、夕暮れの空に赤い缶が舞い上がった。
夕焼けに照らされた缶は、いつもより赤く見えた気がした。


☆☆☆


灯りを消して暗くした部屋で、ベッドに入る。。
あの後しばらく缶蹴りをした後、みんなで夕飯をご馳走になった。
幽々子さんには、「どうせなら泊まっていっちゃえば?」
なんて言われたけど、何も泊まるための物は持っていっていなかったので断らせてもらった。
「今日も楽しかった」
なんとはなく呟く。
別に、特別な感情はない。
ふと窓の外を見上げると空に大きな十字架。
手を伸ばしてカーテンを閉めると、星明りが遮られて部屋が暗くなる。
私はそっと目を閉じた。
「おやすみなさい。明日もいい日でありますように」
「ねぇールーミア?寝てる時に耳に見ずを入れられるのと、氷入れられるのとどっちがびっくりする?」
「実際に試してみればいいじゃん。いつも寝てる人がすぐ近くにいるし」
「でもあの人水や氷じゃ起きそうになくない?ナイフ刺さってる時もあるし。スペルカードくらい強くないと駄目かも。わたしは無理だけど」
「大ちゃんスペルカードないもんねー。作ればいいのに」
「じゃあ、あたいのパーフェクトフリーズで!」
「パーフェクトフリーズじゃ、即席冷凍門番さんになっちゃうよ!あそこの魔女さんならできるかも?水のスペルもってたし」

次回は
4月6日 寝耳にプリンセスウンディネです。
幻想郷で待ってます。遊びに来てくださいね!
琴森ありす
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