「はぁ……」
ここは永遠亭。最近ではようやく存在が知れ渡り、診療所を開院したために
人里からも人間が訪れるようになり、それなりに賑やかにはなったものの、
今なお深い竹林の中の物静かな室内に小さな溜息が漏れた。
溜息の主は、ここ永遠亭の表の主人にして八意診療所の院長、八意永琳。
引き締まった体だが女性らしい魅力に溢れ、一束に編まれた長い銀髪をその豊満な
体に流している。
切れ長な瞳は人によってはきつく映るかも知れないが、いくらか愁いを帯びた表情は、
見る者を魅了し、もし彼女を美人ではないとするならば、この世には美人など存在しない
と言い切れるであろう。
自室で椅子に座った永琳は頬杖をつき、ただぼんやりと何も見えない窓の外を眺めていた。
時刻は既に深夜1時を過ぎようかという所である。無論、永遠亭のウサギ達は寝静まり、
穏やかな静寂が辺りを支配していた。
永琳の口から、再びの溜息と共に小さなコトノハが漏れる。
「はぁ……うどんげとちゅっちゅエロエロなことしてぇ……」
ぐしゃ!
異音と共に顔面を畳にしたたか打ち付けたのは、永遠亭の真の主 蓬莱山輝夜である。
「永琳、貴女何を言ってるのかしら?」
さすがに永琳の言葉に赤くなった鼻を押さえて食って掛かる。
眠れない夜、暇つぶしに永琳の部屋に来たものの、永琳は何やら考え事をしている様子。
邪魔をしては悪いと大人しくしていた結果がこれだよ!
「あら、輝夜じゃない?どうしたの、こんな時間に」
「『輝夜じゃない』じゃないわよ!一体何を言ってるのか聞いているのよ!」
「何を……と言うと?」
「さっき、うどんげとどうとか言ってたでしょう?」
「ああ、その事ね」
そう言うと、永琳はほうと溜息を吐く。
そしてゆっくりと語り始める。
「そのままの意味よ。うどんげとちゅっちゅしたりエロエロな事をしたりしたいと
思っているのよ。具体的にはうどんげの師匠と言う立場を利用して、やさしく抱き
しめたり、ご褒美のキスをしたり、失敗したうどんげに性的な意味でオシオキしたり、
怯えるうどんげを無理やり拘束して○●×したり、●▼○をやさしく▲▼○×しながら
○●▼×を震える▲●△×な感じで○○×●にねじ込んでみたい!いやっ!むしろ、
ねじ込んで欲しいと言ってるのよ!どう?どうよ!輝夜、どう思う?!」
「どうかと思うわ」
「ああっ!もう、うどんげの事を考えているだけでどうにかなってしまいそう!
それでもうどんげの為に冷静で真摯な師匠を演じているけど、あの娘と接する度に日々
悶々として押さえ切れないリビドーをどうすれば良いの!!ねぇ、輝夜!どうすれば
イイと思う?ねぇ?!」
「死ねば良いと思うわ」
「死んだくらいで解決するなら、こんなに苦労しないわよ!というか、うどんげが
可愛すぎて1日4回のペースで死んでるわよ!!」
「何で!?」
「主に失血死」
「ああ、そのままリザレクション失敗してしまえば良いのに……」
「……決めたわ」
「何を?」
「今からうどんげの部屋に行ってくるわ」
「こんな時間に何をするつもり?」
「ナニをするに決まってるじゃない。決めたわ、今襲う、すぐ襲う、もうこの
リビドーを全開放するわ。エネルギー充填120%よ!理論上エネルギーという
ものは100%までしか貯まらないのよ!つまりもうすでに20%は溢れてしまって
いるの!溢れてしまったものはもう返らない!『覆水盆に返らず』!英語で言うと
『MrFUKUSUI Don't ComeBack BON City』!
私の右手が光って唸る!うどんげの(ピー)に捻じ込めと輝き叫ぶ!!さぁ!
いざ行かん!最後のラッパは鳴らされた!666の獣がナンボのもんじゃい!
弥勒菩薩など捻じ切ってくれるわ!さぁ、うどんげ!今から2人でめくるめく
エリシュオンへ旅立ちまs『ゴスッ!!』」
異様な打撃音と共に永琳がゆっくりと崩れ落ちる。
その背後には、血塗れになった「仏の御石の鉢」を持った輝夜が佇んでいた。
「お休みなさい、永琳……貴女疲れているのよ」
そう言って輝夜は永琳にそばにあった毛布をかけてやると、明かりを消し
静かに部屋を後にした。
―――
翌朝、結局あまり眠る事が出来なかった輝夜は、永遠亭の近くの竹林を
のんびりと散歩していた。
頬を刺す様な寒さが、睡眠不足のためか火照った体に心地よい。
普段ならまだ寝ている時間だが、たまにはこんな日があっても良いか。
そんな事を考えながら歩いていると、前方からヒュンと風を切る様な音が聞こえた。
何事かと近づいてみれば、そこにいたのは鈴仙であった。
普段の様なミニスカートではあるものの、上着は動きやすいものを着ており、
靴も普段とは違うスニーカーを履いていた。
真剣な表情で前方の虚空を見据えた鈴仙は、鋭く息を吐くと、右の回し蹴りを放つ。
そのまま止まる事無く左の後ろ回し蹴り、そして右回し打ちと連続で技を繰り出す。
まるで独楽の様にくるくると回る鈴仙の攻撃は鋭く、それでいて鈴仙の美しく長い髪が
朝日にきらめいて、まるで完成されたバレエの様な美しさがあった。
輝夜は思わず息を潜めて鈴仙に見入る。
かつては絶世の美女と持て囃され、幾人もの男性に求婚された自分である。
その自分が他人の美しさに見惚れてしまうなど、何時以来の事であろうか。
やがて、鈴仙は右正拳を打った所で静止すると姿勢を整え、大きく息を吐いた。
ぱちぱちぱち
頃合を見て輝夜は拍手をする。鈴仙は慌てて振り向いた。
「姫様!見てらっしゃったのですか?」
「中々良い物を見せてもらったわ」
「あ、ありがとうございます」
輝夜に褒められた事など中々無いのだろう。鈴仙は顔を赤くしてお辞儀をする。
「ふーん、ちゃんと鍛錬しているのね」
「一応、永遠亭の荒事担当ですから」
「自称でしょ?」
「そんな事無いです!たぶん……」
そこで自信無さそうにするから、皆にからかわれるのだ。
そう思ったが、輝夜は黙っている事にした。……その方が面白そうだし。
「そうだわ、良い事を思いついた!イナバ、私が組み手の相手をしてあげましょう」
「姫様が?」
「あら、私じゃ役不足かしら?」
「いえ、そういう訳では……」
言い澱む鈴仙に輝夜は無言で右ストレートを打ち込む。
慌てて回避する鈴仙に追い討ちの右前蹴りがヒットする。
腹部を押さえながらも距離を取る鈴仙に輝夜は笑いかけた。
「こう見えて格闘戦において妹紅とも互角に打ち合えるのよ?遠慮なんていらないわ。
それに永遠亭の荒事担当を自称するなら、最低限、私と互角以上でないとねぇ」
そう言ってころころと笑う。
「そうだ。もし私に勝てたら、何でも一つだけお願いを聞いてあげるわ」
「何でも……ですか?」
「ええ、勝てたらね」
その言葉を聞いて決心したのか、鈴仙がゆっくりと構える。
輝夜の笑顔がより深くなる。
脳裏によぎるのは、初めて鈴仙を妹紅の刺客に送った夜の事。
顔の至る所に痣をつくった妹紅が、気を失った鈴仙を担いで永遠亭にやって来た。
「もう、コイツを二度と刺客として寄越すな」
そう言って帰って行く妹紅を見て
「イナバも中々やるものだ」
と思ったものだ。
鈴仙の様子を見て、最終的にはヴォルケイノを喰らったみたいだったが。
輝夜が物思いに耽っていると、鈴仙は2・3度確かめるように地面を蹴ると
一気に間合いを詰めてくる。
まるでタックルの様な低い姿勢から、全身のバネを使い右ハイキックを放つ。
それを上半身をのけぞらせてかわす輝夜に対し、止まる事無く左後ろ回し蹴りを
繰り出す鈴仙。
しかし、先程の演武を見ていた輝夜はその連続蹴りを予測しており、左腕で受け
流すと、自身の着物の袖の部分で鈴仙の左足を絡め取る。
そのまま左腕を引くと、バランスを崩した鈴仙のあごに掌抵を叩き込んだ。
もんどりうって倒れる鈴仙。しかし、すぐさま体勢を立て直し立ち上がる。
「私の着物を見て、回転力のある速い連携で決めようと思ってたんでしょうけど、
こういう使い方があるのは知らなかった?」
袖をひらひらと揺らしながら輝夜は笑う。
口内に滲んだ血を唾液と共に吐き出すと、鈴仙はもう一度低い姿勢で詰め寄る。
繰り出されるのは先程と同じ右ハイキック、そして同じ様にかわされると、
先程のリプレイでも見ているかの様に左足が跳ね上がる。
全く同じ攻撃に怪しみつつも鈴仙の蹴りを受け流そうとした輝夜の背中に、
悪寒にも似た何かが走り抜ける。反射的にかがんだ輝夜の背中の上を何かが掠めた。
おそらく吹き抜けたはずの鈴仙の右足による変則蹴り。
そう輝夜が理解した刹那、低い体勢になった輝夜のあごめがけて鈴仙の左足が
跳ね上がる。超人的な反射神経でかろうじてかわす輝夜。しかし、鈴仙は振り上げた
左足の軌道を変え、そのまま踵落しを輝夜の肩口に落とす。
変則の空中4段蹴り。
衝撃で片膝を着く輝夜に追い討ちをかけるように右前蹴りを繰り出す鈴仙。
かろうじて受け止めた輝夜は、そのまま鈴仙の蹴りの衝撃を利用しながら間合いを取った。
「やるわねイナバ。さすがウサギ『バネと脚力には自信アリ』って所かしら」
冗談めかして軽口を言いながらも、内心冷や汗を流す。
「今度はこっちから行きましょうか」
輝夜はそう言って間合いを詰めると右の中段蹴りを放つ。当然のようにガードしようとした
鈴仙に対し、突然蹴りの軌道が変化し鈴仙の肩口にヒットする。
突然の軌道の変化に訳も判らずバランスを崩す鈴仙に対し、今度は左のハイキック。咄嗟に
受け止めようとした鈴仙だが、再び軌道変化した蹴りが左足に刺さる。
たまらず間合いを取った鈴仙に対して輝夜はころころと笑いながら話しかけた。
「長いスカートの所為で蹴りの変化の始めが見えないでしょう?」
確かにその長いスカートの所為で膝の角度、軸足の返りその他が見えず、鈴仙は蹴りの変化に
ついて行けていない。
だが、それがどうした。
鈴仙は思う。
妹紅に負けたあの日に「強くなる」と誓った。
永夜の夜に負けたあの日に「もう負けない」と誓った。
鈴仙は輝夜を睨みつけると、一気に間合いを詰めもう一度右のハイキックを放つ。
三度目の同じ攻撃。しかし輝夜は鈴仙の変幻自在の蹴りに付き合う気は無かった。
ハイキックをかわすと間合いを詰める。ここまで接近すれば有効な打撃は打てないはず。
しかし、それは鈴仙の計算通りであった。
鈴仙は振り上げた右足を輝夜の肩口に掛けると、全身のバネを利用し輝夜を飛び越え背後に回る。
そのまま両足で輝夜の胴にしがみつくと、両腕で一気に頚動脈を締め上げた。
蓬莱人に対して打撃技でKOする等至難の業。持久戦に持ち込む等愚の骨頂。
ならばどうするべきか?
「一瞬で意識を刈り取れば良い」
これが、鈴仙の対蓬莱人戦の答えであった。
「勝った!」
鈴仙が勝利を確信した時、輝夜が取った行動は鈴仙が予想もしていない事だった。
輝夜は自身の右手刀で自分の腹を貫くと、そのまま鈴仙の腹部に弾幕を撃ち込む。
「がはっ!」
両手両足で輝夜を拘束していた鈴仙は衝撃を逃がす事も出来ずにもんどりうって倒れる。
こみ上げてくる血を吐き出しながらも転がって間合いを離す鈴仙。
鈴仙が歯を食いしばって見上げた時、そこにはリザレクションを終了させた輝夜が笑顔で
立っていた。
「イナバ、貴女の選択は間違ってはいないわ。ルールの無い戦いで蓬莱人を倒そうと思ったら
体力が無くなり、リザレクション出来なくなるくらいに殺し続けるか、……ああ、これが私と
妹紅の何時もの殺し合いね。もしくは自分で死ねない様に、瞬時に両手両足を破壊するか、
……これは舌を噛め無い様にしないといけないから難しいわね。もしくは、貴女がやろうと
した様に、絞め技で意識を失わせるしかないわ。だからこそ、対策も考えているのよ。」
まるで世間話をするかのように楽しそうに話す輝夜。
「まぁ、最初にこの返し方をしたのは妹紅なんだけどね。妹紅ったら酷いのよ、いきなり手刀で
自分ごと私を貫いたんだもの。まぁ、流石に貴女を殺す気は無いから弾幕で許してあげたけど」
輝夜の話を聞いている鈴仙は、次第に俯いていた。鈴仙の闘気や覇気が失われていく。
こんなものかと溜息を吐いた輝夜が鈴仙に声を掛けようとした時、輝夜の背中にえもいわれぬ
悪寒が走る。思わず飛びのく輝夜。
俯いたままユラリと立ち上がる鈴仙からは、相変わらず覇気や闘志といったものが感じられない。
しかし、輝夜は違和感を感じる。上手く言い表す事が出来ないが、あえて言うなれば
「スイッチが入った」
であろう。
輝夜の本能がチリチリと警戒感を発する。しかし背中を伝う冷たい汗の他に、えもいわれぬ愉悦を
感じている自分に小さく笑みを漏らす。
「戦闘とそれ以外の性格が異なる」
そういえば、このイナバを誰かがそう評していた。
あれは永琳だったか、他のイナバだったか。
「なるほど。これからが本番と言う訳ね」
輝夜が小さく呟くと鈴仙はゆっくりと顔をあげた。
思わず身構える輝夜だったが、鈴仙の顔をみて呆然とした表情を浮かべる。
「え?イナバ……」
鈴仙は唇をぎゅっとかみ締め、目には大粒の涙を浮かべていた。
「な・なんで泣いて……」
輝夜があっけに取られたまま鈴仙に近づこうとした時、鈴仙は大声を出しながら走り寄って来る。
「うわぁぁぁぁん!」
先程までの鋭い踏み込みではない。
とてとてと走りながら、両手をグルグルと振り回す。所謂「子供ぱんち」だ。
「ちょっ、イナバ!」
訳も判らずに、つい飛びのく輝夜。
輝夜がかわした所為か、それとも何かに躓いたのか。
鈴仙はバランスを崩し、べしゃりとその場で転んでしまう。どうやら顔面を地面に打ちつけた様だ。
「大丈夫?」
思わず覗き込む輝夜。鈴仙はむくりと身を起こすと輝夜を睨みつけた。
「うー」
顔面を打ちつけたせいか鼻の頭を赤くした鈴仙が、涙目で輝夜を見ている。
(か・可愛い)
つい、そんな事を考えてしまったのがいけなかったのだろう。
輝夜は鈴仙の次の行動に対処出来なかった。
鈴仙は一足飛びに飛び掛ると、一気に輝夜を押し倒す。
そして、そのまま輝夜に馬乗りになった。
「イナバ、一体何を……」
「うわーん!」
鈴仙は輝夜の声を無視するかのように大声を上げると、そのまま輝夜をポカポカと叩き始めた。
「ちょっ痛っ!イナバ!やめっ……」
「うわーん!あほー!ひめさまのあほー!!」
ぽかぽかぽかぽか
「痛い!マジで痛いって!」
「あほー!ばかー!あほー!」
ぽかぽかぽかぽか
「ごめっいたっわた……しのっ負けでいいから!」
「あほー!ひめさまのおたんこなすー!」
ぽかぽかぽかぽか
「ぎ・ギブ!ギバーップ!ギバーップ!!」
「うわーんうわーんうわーん……」
ぽかぽかぽかぽか
薄れていく意識の中、妹紅の言葉を輝夜は思い出す。
『もう、コイツを二度と刺客として寄越すな』
(ああ……妹紅もコレを喰らったのね。でも、と言う事は……)
輝夜の意識が途切れる寸前、最後に考えた事は
(この状態のイナバにヴォルケイノかましたのか。鬼かアイツは……)
そんな事であった。
―――
数時間後、いたるところに青痣を作った輝夜の前で土下座をする鈴仙がいた。
「はぁ、もういいわイナバ」
輝夜は溜息を一つ吐くと、鈴仙に土下座をやめる様にうながす。
「しかし、姫様……」
そう言って涙目で見上げる鈴仙。その仕草につい頬を染めた輝夜がふいと横を向く。
実際は違うのだが、その様子に輝夜がまだ怒っていると勘違いした鈴仙が再び土下座をする。
それを二人は何度も繰り返していた。
「はぁ、でも貴女に負けるなんてねぇ」
埒があかないと思ったのだろう、輝夜が話題を変える。
「しかし……」
「しかし、何よ?」
怪訝な顔で聞き返す輝夜。鈴仙は少し言いにくそうにしながら
「実は、よく覚えてないんです……」
「はぁ!?」
「興奮状態になるのか、時々戦闘中の事を覚えてない時があるんです。今回も
気が付いたら姫様が倒れていて、実感が……」
「ぷっ……あはっあははははは」
「姫様?」
よほどツボに入ったのであろう、しばらく笑い続けた輝夜は目尻に浮かんだ涙を
拭いながら鈴仙に向き直る。
「まぁいいわ。とにかく今回は貴女の勝ち!いいわね?」
「はぁ……判りました」
「で、お願いは?」
「は?」
「最初に言ったじゃない。私に勝ったら何でもお願いを聞いてあげるって」
「確かに……」
「何でも言ってみなさいな」
輝夜に言われて何やら考え込む鈴仙。やがて鈴仙はおずおずと話し始めた。
「姫様」
「何?」
「これから私の事を『イナバ』ではなく『鈴仙』と呼んでいただけませんか?」
「は?」
「その……いけませんか?」
そう言って鈴仙は顔を赤くして輝夜を見つめる。
輝夜は自身の顔が紅潮していくのを感じて慌ててそっぽを向く。
(あーちくしょー!コイツ可愛いなぁ……)
そんな事を考えながらゆっくりと立ち上がる。
無言の輝夜を見て「やはりダメだったか」と肩を落とす鈴仙に、出来るだけ赤くなった
顔を見られない様にしながら、声を掛ける。
「お腹が空いたわ。永遠亭に帰りましょう、鈴仙」
輝夜の言葉に、鈴仙ははっと顔をあげると
「ハイ!姫様!」
大きく返事をした。
―――
「はぁ……」
ここは永遠亭。最近ではようやく存在が知れ渡り、診療所を開院したために
人里からも人間が訪れるようになり、それなりに賑やかにはなったものの、
今なお深い竹林の中の物静かな室内に小さな溜息が漏れた。
溜息の主は、ここ永遠亭の真の主である蓬莱山輝夜。
まるで絹糸のような輝きを持つ黒髪を流し、桜貝の様な唇は誰も彼もを惹きつけてやまない。
少女特有の、本来であれば一瞬しかないはずの美しさを永遠に持つ少女は、自室にて何か
書き物の途中であったのだろう。筆を手に持ってはいるが、目の前の紙には先程から何も書かれて
はいない。
最早墨の乾いてしまった筆を玩びながら、ただぼんやりと何も見えない窓の外を眺めていた。
時刻は既に深夜1時を過ぎようかという所である。無論、永遠亭のウサギ達は寝静まり、
穏やかな静寂が辺りを支配していた。
輝夜の口から、再びの溜息と共に小さなコトノハが漏れる。
「はぁ……鈴仙とちゅっちゅエロエロなことしてぇ……」
ぐしゃ!
傍らにいたてゐは、異音と共に顔面を畳にしたたか打ち付けた。
ここは永遠亭。最近ではようやく存在が知れ渡り、診療所を開院したために
人里からも人間が訪れるようになり、それなりに賑やかにはなったものの、
今なお深い竹林の中の物静かな室内に小さな溜息が漏れた。
溜息の主は、ここ永遠亭の表の主人にして八意診療所の院長、八意永琳。
引き締まった体だが女性らしい魅力に溢れ、一束に編まれた長い銀髪をその豊満な
体に流している。
切れ長な瞳は人によってはきつく映るかも知れないが、いくらか愁いを帯びた表情は、
見る者を魅了し、もし彼女を美人ではないとするならば、この世には美人など存在しない
と言い切れるであろう。
自室で椅子に座った永琳は頬杖をつき、ただぼんやりと何も見えない窓の外を眺めていた。
時刻は既に深夜1時を過ぎようかという所である。無論、永遠亭のウサギ達は寝静まり、
穏やかな静寂が辺りを支配していた。
永琳の口から、再びの溜息と共に小さなコトノハが漏れる。
「はぁ……うどんげとちゅっちゅエロエロなことしてぇ……」
ぐしゃ!
異音と共に顔面を畳にしたたか打ち付けたのは、永遠亭の真の主 蓬莱山輝夜である。
「永琳、貴女何を言ってるのかしら?」
さすがに永琳の言葉に赤くなった鼻を押さえて食って掛かる。
眠れない夜、暇つぶしに永琳の部屋に来たものの、永琳は何やら考え事をしている様子。
邪魔をしては悪いと大人しくしていた結果がこれだよ!
「あら、輝夜じゃない?どうしたの、こんな時間に」
「『輝夜じゃない』じゃないわよ!一体何を言ってるのか聞いているのよ!」
「何を……と言うと?」
「さっき、うどんげとどうとか言ってたでしょう?」
「ああ、その事ね」
そう言うと、永琳はほうと溜息を吐く。
そしてゆっくりと語り始める。
「そのままの意味よ。うどんげとちゅっちゅしたりエロエロな事をしたりしたいと
思っているのよ。具体的にはうどんげの師匠と言う立場を利用して、やさしく抱き
しめたり、ご褒美のキスをしたり、失敗したうどんげに性的な意味でオシオキしたり、
怯えるうどんげを無理やり拘束して○●×したり、●▼○をやさしく▲▼○×しながら
○●▼×を震える▲●△×な感じで○○×●にねじ込んでみたい!いやっ!むしろ、
ねじ込んで欲しいと言ってるのよ!どう?どうよ!輝夜、どう思う?!」
「どうかと思うわ」
「ああっ!もう、うどんげの事を考えているだけでどうにかなってしまいそう!
それでもうどんげの為に冷静で真摯な師匠を演じているけど、あの娘と接する度に日々
悶々として押さえ切れないリビドーをどうすれば良いの!!ねぇ、輝夜!どうすれば
イイと思う?ねぇ?!」
「死ねば良いと思うわ」
「死んだくらいで解決するなら、こんなに苦労しないわよ!というか、うどんげが
可愛すぎて1日4回のペースで死んでるわよ!!」
「何で!?」
「主に失血死」
「ああ、そのままリザレクション失敗してしまえば良いのに……」
「……決めたわ」
「何を?」
「今からうどんげの部屋に行ってくるわ」
「こんな時間に何をするつもり?」
「ナニをするに決まってるじゃない。決めたわ、今襲う、すぐ襲う、もうこの
リビドーを全開放するわ。エネルギー充填120%よ!理論上エネルギーという
ものは100%までしか貯まらないのよ!つまりもうすでに20%は溢れてしまって
いるの!溢れてしまったものはもう返らない!『覆水盆に返らず』!英語で言うと
『MrFUKUSUI Don't ComeBack BON City』!
私の右手が光って唸る!うどんげの(ピー)に捻じ込めと輝き叫ぶ!!さぁ!
いざ行かん!最後のラッパは鳴らされた!666の獣がナンボのもんじゃい!
弥勒菩薩など捻じ切ってくれるわ!さぁ、うどんげ!今から2人でめくるめく
エリシュオンへ旅立ちまs『ゴスッ!!』」
異様な打撃音と共に永琳がゆっくりと崩れ落ちる。
その背後には、血塗れになった「仏の御石の鉢」を持った輝夜が佇んでいた。
「お休みなさい、永琳……貴女疲れているのよ」
そう言って輝夜は永琳にそばにあった毛布をかけてやると、明かりを消し
静かに部屋を後にした。
―――
翌朝、結局あまり眠る事が出来なかった輝夜は、永遠亭の近くの竹林を
のんびりと散歩していた。
頬を刺す様な寒さが、睡眠不足のためか火照った体に心地よい。
普段ならまだ寝ている時間だが、たまにはこんな日があっても良いか。
そんな事を考えながら歩いていると、前方からヒュンと風を切る様な音が聞こえた。
何事かと近づいてみれば、そこにいたのは鈴仙であった。
普段の様なミニスカートではあるものの、上着は動きやすいものを着ており、
靴も普段とは違うスニーカーを履いていた。
真剣な表情で前方の虚空を見据えた鈴仙は、鋭く息を吐くと、右の回し蹴りを放つ。
そのまま止まる事無く左の後ろ回し蹴り、そして右回し打ちと連続で技を繰り出す。
まるで独楽の様にくるくると回る鈴仙の攻撃は鋭く、それでいて鈴仙の美しく長い髪が
朝日にきらめいて、まるで完成されたバレエの様な美しさがあった。
輝夜は思わず息を潜めて鈴仙に見入る。
かつては絶世の美女と持て囃され、幾人もの男性に求婚された自分である。
その自分が他人の美しさに見惚れてしまうなど、何時以来の事であろうか。
やがて、鈴仙は右正拳を打った所で静止すると姿勢を整え、大きく息を吐いた。
ぱちぱちぱち
頃合を見て輝夜は拍手をする。鈴仙は慌てて振り向いた。
「姫様!見てらっしゃったのですか?」
「中々良い物を見せてもらったわ」
「あ、ありがとうございます」
輝夜に褒められた事など中々無いのだろう。鈴仙は顔を赤くしてお辞儀をする。
「ふーん、ちゃんと鍛錬しているのね」
「一応、永遠亭の荒事担当ですから」
「自称でしょ?」
「そんな事無いです!たぶん……」
そこで自信無さそうにするから、皆にからかわれるのだ。
そう思ったが、輝夜は黙っている事にした。……その方が面白そうだし。
「そうだわ、良い事を思いついた!イナバ、私が組み手の相手をしてあげましょう」
「姫様が?」
「あら、私じゃ役不足かしら?」
「いえ、そういう訳では……」
言い澱む鈴仙に輝夜は無言で右ストレートを打ち込む。
慌てて回避する鈴仙に追い討ちの右前蹴りがヒットする。
腹部を押さえながらも距離を取る鈴仙に輝夜は笑いかけた。
「こう見えて格闘戦において妹紅とも互角に打ち合えるのよ?遠慮なんていらないわ。
それに永遠亭の荒事担当を自称するなら、最低限、私と互角以上でないとねぇ」
そう言ってころころと笑う。
「そうだ。もし私に勝てたら、何でも一つだけお願いを聞いてあげるわ」
「何でも……ですか?」
「ええ、勝てたらね」
その言葉を聞いて決心したのか、鈴仙がゆっくりと構える。
輝夜の笑顔がより深くなる。
脳裏によぎるのは、初めて鈴仙を妹紅の刺客に送った夜の事。
顔の至る所に痣をつくった妹紅が、気を失った鈴仙を担いで永遠亭にやって来た。
「もう、コイツを二度と刺客として寄越すな」
そう言って帰って行く妹紅を見て
「イナバも中々やるものだ」
と思ったものだ。
鈴仙の様子を見て、最終的にはヴォルケイノを喰らったみたいだったが。
輝夜が物思いに耽っていると、鈴仙は2・3度確かめるように地面を蹴ると
一気に間合いを詰めてくる。
まるでタックルの様な低い姿勢から、全身のバネを使い右ハイキックを放つ。
それを上半身をのけぞらせてかわす輝夜に対し、止まる事無く左後ろ回し蹴りを
繰り出す鈴仙。
しかし、先程の演武を見ていた輝夜はその連続蹴りを予測しており、左腕で受け
流すと、自身の着物の袖の部分で鈴仙の左足を絡め取る。
そのまま左腕を引くと、バランスを崩した鈴仙のあごに掌抵を叩き込んだ。
もんどりうって倒れる鈴仙。しかし、すぐさま体勢を立て直し立ち上がる。
「私の着物を見て、回転力のある速い連携で決めようと思ってたんでしょうけど、
こういう使い方があるのは知らなかった?」
袖をひらひらと揺らしながら輝夜は笑う。
口内に滲んだ血を唾液と共に吐き出すと、鈴仙はもう一度低い姿勢で詰め寄る。
繰り出されるのは先程と同じ右ハイキック、そして同じ様にかわされると、
先程のリプレイでも見ているかの様に左足が跳ね上がる。
全く同じ攻撃に怪しみつつも鈴仙の蹴りを受け流そうとした輝夜の背中に、
悪寒にも似た何かが走り抜ける。反射的にかがんだ輝夜の背中の上を何かが掠めた。
おそらく吹き抜けたはずの鈴仙の右足による変則蹴り。
そう輝夜が理解した刹那、低い体勢になった輝夜のあごめがけて鈴仙の左足が
跳ね上がる。超人的な反射神経でかろうじてかわす輝夜。しかし、鈴仙は振り上げた
左足の軌道を変え、そのまま踵落しを輝夜の肩口に落とす。
変則の空中4段蹴り。
衝撃で片膝を着く輝夜に追い討ちをかけるように右前蹴りを繰り出す鈴仙。
かろうじて受け止めた輝夜は、そのまま鈴仙の蹴りの衝撃を利用しながら間合いを取った。
「やるわねイナバ。さすがウサギ『バネと脚力には自信アリ』って所かしら」
冗談めかして軽口を言いながらも、内心冷や汗を流す。
「今度はこっちから行きましょうか」
輝夜はそう言って間合いを詰めると右の中段蹴りを放つ。当然のようにガードしようとした
鈴仙に対し、突然蹴りの軌道が変化し鈴仙の肩口にヒットする。
突然の軌道の変化に訳も判らずバランスを崩す鈴仙に対し、今度は左のハイキック。咄嗟に
受け止めようとした鈴仙だが、再び軌道変化した蹴りが左足に刺さる。
たまらず間合いを取った鈴仙に対して輝夜はころころと笑いながら話しかけた。
「長いスカートの所為で蹴りの変化の始めが見えないでしょう?」
確かにその長いスカートの所為で膝の角度、軸足の返りその他が見えず、鈴仙は蹴りの変化に
ついて行けていない。
だが、それがどうした。
鈴仙は思う。
妹紅に負けたあの日に「強くなる」と誓った。
永夜の夜に負けたあの日に「もう負けない」と誓った。
鈴仙は輝夜を睨みつけると、一気に間合いを詰めもう一度右のハイキックを放つ。
三度目の同じ攻撃。しかし輝夜は鈴仙の変幻自在の蹴りに付き合う気は無かった。
ハイキックをかわすと間合いを詰める。ここまで接近すれば有効な打撃は打てないはず。
しかし、それは鈴仙の計算通りであった。
鈴仙は振り上げた右足を輝夜の肩口に掛けると、全身のバネを利用し輝夜を飛び越え背後に回る。
そのまま両足で輝夜の胴にしがみつくと、両腕で一気に頚動脈を締め上げた。
蓬莱人に対して打撃技でKOする等至難の業。持久戦に持ち込む等愚の骨頂。
ならばどうするべきか?
「一瞬で意識を刈り取れば良い」
これが、鈴仙の対蓬莱人戦の答えであった。
「勝った!」
鈴仙が勝利を確信した時、輝夜が取った行動は鈴仙が予想もしていない事だった。
輝夜は自身の右手刀で自分の腹を貫くと、そのまま鈴仙の腹部に弾幕を撃ち込む。
「がはっ!」
両手両足で輝夜を拘束していた鈴仙は衝撃を逃がす事も出来ずにもんどりうって倒れる。
こみ上げてくる血を吐き出しながらも転がって間合いを離す鈴仙。
鈴仙が歯を食いしばって見上げた時、そこにはリザレクションを終了させた輝夜が笑顔で
立っていた。
「イナバ、貴女の選択は間違ってはいないわ。ルールの無い戦いで蓬莱人を倒そうと思ったら
体力が無くなり、リザレクション出来なくなるくらいに殺し続けるか、……ああ、これが私と
妹紅の何時もの殺し合いね。もしくは自分で死ねない様に、瞬時に両手両足を破壊するか、
……これは舌を噛め無い様にしないといけないから難しいわね。もしくは、貴女がやろうと
した様に、絞め技で意識を失わせるしかないわ。だからこそ、対策も考えているのよ。」
まるで世間話をするかのように楽しそうに話す輝夜。
「まぁ、最初にこの返し方をしたのは妹紅なんだけどね。妹紅ったら酷いのよ、いきなり手刀で
自分ごと私を貫いたんだもの。まぁ、流石に貴女を殺す気は無いから弾幕で許してあげたけど」
輝夜の話を聞いている鈴仙は、次第に俯いていた。鈴仙の闘気や覇気が失われていく。
こんなものかと溜息を吐いた輝夜が鈴仙に声を掛けようとした時、輝夜の背中にえもいわれぬ
悪寒が走る。思わず飛びのく輝夜。
俯いたままユラリと立ち上がる鈴仙からは、相変わらず覇気や闘志といったものが感じられない。
しかし、輝夜は違和感を感じる。上手く言い表す事が出来ないが、あえて言うなれば
「スイッチが入った」
であろう。
輝夜の本能がチリチリと警戒感を発する。しかし背中を伝う冷たい汗の他に、えもいわれぬ愉悦を
感じている自分に小さく笑みを漏らす。
「戦闘とそれ以外の性格が異なる」
そういえば、このイナバを誰かがそう評していた。
あれは永琳だったか、他のイナバだったか。
「なるほど。これからが本番と言う訳ね」
輝夜が小さく呟くと鈴仙はゆっくりと顔をあげた。
思わず身構える輝夜だったが、鈴仙の顔をみて呆然とした表情を浮かべる。
「え?イナバ……」
鈴仙は唇をぎゅっとかみ締め、目には大粒の涙を浮かべていた。
「な・なんで泣いて……」
輝夜があっけに取られたまま鈴仙に近づこうとした時、鈴仙は大声を出しながら走り寄って来る。
「うわぁぁぁぁん!」
先程までの鋭い踏み込みではない。
とてとてと走りながら、両手をグルグルと振り回す。所謂「子供ぱんち」だ。
「ちょっ、イナバ!」
訳も判らずに、つい飛びのく輝夜。
輝夜がかわした所為か、それとも何かに躓いたのか。
鈴仙はバランスを崩し、べしゃりとその場で転んでしまう。どうやら顔面を地面に打ちつけた様だ。
「大丈夫?」
思わず覗き込む輝夜。鈴仙はむくりと身を起こすと輝夜を睨みつけた。
「うー」
顔面を打ちつけたせいか鼻の頭を赤くした鈴仙が、涙目で輝夜を見ている。
(か・可愛い)
つい、そんな事を考えてしまったのがいけなかったのだろう。
輝夜は鈴仙の次の行動に対処出来なかった。
鈴仙は一足飛びに飛び掛ると、一気に輝夜を押し倒す。
そして、そのまま輝夜に馬乗りになった。
「イナバ、一体何を……」
「うわーん!」
鈴仙は輝夜の声を無視するかのように大声を上げると、そのまま輝夜をポカポカと叩き始めた。
「ちょっ痛っ!イナバ!やめっ……」
「うわーん!あほー!ひめさまのあほー!!」
ぽかぽかぽかぽか
「痛い!マジで痛いって!」
「あほー!ばかー!あほー!」
ぽかぽかぽかぽか
「ごめっいたっわた……しのっ負けでいいから!」
「あほー!ひめさまのおたんこなすー!」
ぽかぽかぽかぽか
「ぎ・ギブ!ギバーップ!ギバーップ!!」
「うわーんうわーんうわーん……」
ぽかぽかぽかぽか
薄れていく意識の中、妹紅の言葉を輝夜は思い出す。
『もう、コイツを二度と刺客として寄越すな』
(ああ……妹紅もコレを喰らったのね。でも、と言う事は……)
輝夜の意識が途切れる寸前、最後に考えた事は
(この状態のイナバにヴォルケイノかましたのか。鬼かアイツは……)
そんな事であった。
―――
数時間後、いたるところに青痣を作った輝夜の前で土下座をする鈴仙がいた。
「はぁ、もういいわイナバ」
輝夜は溜息を一つ吐くと、鈴仙に土下座をやめる様にうながす。
「しかし、姫様……」
そう言って涙目で見上げる鈴仙。その仕草につい頬を染めた輝夜がふいと横を向く。
実際は違うのだが、その様子に輝夜がまだ怒っていると勘違いした鈴仙が再び土下座をする。
それを二人は何度も繰り返していた。
「はぁ、でも貴女に負けるなんてねぇ」
埒があかないと思ったのだろう、輝夜が話題を変える。
「しかし……」
「しかし、何よ?」
怪訝な顔で聞き返す輝夜。鈴仙は少し言いにくそうにしながら
「実は、よく覚えてないんです……」
「はぁ!?」
「興奮状態になるのか、時々戦闘中の事を覚えてない時があるんです。今回も
気が付いたら姫様が倒れていて、実感が……」
「ぷっ……あはっあははははは」
「姫様?」
よほどツボに入ったのであろう、しばらく笑い続けた輝夜は目尻に浮かんだ涙を
拭いながら鈴仙に向き直る。
「まぁいいわ。とにかく今回は貴女の勝ち!いいわね?」
「はぁ……判りました」
「で、お願いは?」
「は?」
「最初に言ったじゃない。私に勝ったら何でもお願いを聞いてあげるって」
「確かに……」
「何でも言ってみなさいな」
輝夜に言われて何やら考え込む鈴仙。やがて鈴仙はおずおずと話し始めた。
「姫様」
「何?」
「これから私の事を『イナバ』ではなく『鈴仙』と呼んでいただけませんか?」
「は?」
「その……いけませんか?」
そう言って鈴仙は顔を赤くして輝夜を見つめる。
輝夜は自身の顔が紅潮していくのを感じて慌ててそっぽを向く。
(あーちくしょー!コイツ可愛いなぁ……)
そんな事を考えながらゆっくりと立ち上がる。
無言の輝夜を見て「やはりダメだったか」と肩を落とす鈴仙に、出来るだけ赤くなった
顔を見られない様にしながら、声を掛ける。
「お腹が空いたわ。永遠亭に帰りましょう、鈴仙」
輝夜の言葉に、鈴仙ははっと顔をあげると
「ハイ!姫様!」
大きく返事をした。
―――
「はぁ……」
ここは永遠亭。最近ではようやく存在が知れ渡り、診療所を開院したために
人里からも人間が訪れるようになり、それなりに賑やかにはなったものの、
今なお深い竹林の中の物静かな室内に小さな溜息が漏れた。
溜息の主は、ここ永遠亭の真の主である蓬莱山輝夜。
まるで絹糸のような輝きを持つ黒髪を流し、桜貝の様な唇は誰も彼もを惹きつけてやまない。
少女特有の、本来であれば一瞬しかないはずの美しさを永遠に持つ少女は、自室にて何か
書き物の途中であったのだろう。筆を手に持ってはいるが、目の前の紙には先程から何も書かれて
はいない。
最早墨の乾いてしまった筆を玩びながら、ただぼんやりと何も見えない窓の外を眺めていた。
時刻は既に深夜1時を過ぎようかという所である。無論、永遠亭のウサギ達は寝静まり、
穏やかな静寂が辺りを支配していた。
輝夜の口から、再びの溜息と共に小さなコトノハが漏れる。
「はぁ……鈴仙とちゅっちゅエロエロなことしてぇ……」
ぐしゃ!
傍らにいたてゐは、異音と共に顔面を畳にしたたか打ち付けた。
はぁ……うどんげとちゅっちゅエロエロなことしてぇ……
はぁ……うどんげとちゅっちゅエロエロなことしてぇ……
と感染・発症して呟いてレイセン2号あたりが頭から転倒するのですね!
ということでこの病のパンデミックな続編をぷりーず!
←は「てゐ×うどん」派のためこの病気への耐性があった模様。
誰か止められる奴はいないのか!
バトルシーンと他のギャップに笑いましたww
ヴォルケーノ撃った時の妹紅を想像すると頬が緩みますw
……アレっ?w
戦闘の描写がうまい!
そして鈴仙が可愛い。
一度輝夜と同じような状況に陥りつつフジヤマヴォルケイノをかました。妹紅ならあるいは・・・・・・。