Coolier - 新生・東方創想話

誰かに認められたくて

2011/03/11 04:20:13
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※本作品には、戦闘描写、残酷な描写が含まれています。また、オリジナルの妖怪が出てきますので、そのようなものはアカン!という方は、戻られることをおすすめします。

















「くらいやがれっ」


閃光、轟音。

白昼、晴れ渡る幻想郷の空に響き見えた光は、およそ十秒の時を経て消えた。霧雨魔理沙、渾身の一撃である。その光が通った道には何も残ってはいない。ただ、青い空がたたずむばかりである。


「やった、か」


瞬間、体が激しく前につんのめり、そのまま視界には地面が迫る。次いで、背中に激しい痛みを感じた。何が起こったのか、今起きている出来事の理解を背中の痛みが妨げる。そうこうしている内に、地面との距離はみるみると近づいてきた。

駄目だ。そう思い目を瞑ったが、身体に来た衝撃は予想以上に柔らかいものであった。やはり背中の痛みは気になるが、理解のために目を開くと、自分が蔓で出来た網に受け止められていることを知った。


「これで、三連勝ね」


魔理沙を受け止めていた網が解け、ずるずるという音を立てながら、向日葵畑の中に消えていく。振り向いた先には、焼け焦げて骨だけになってしまった日傘を差す風見幽香がいた。







先の宝船騒動から、魔理沙は大魔法使いである白蓮との親交を深めていた。

封印されるまでの経緯、封印されてからの歴史。そして、自分の知らぬ未知なる魔法についての講釈。どれをとっても、彼女の話は魔理沙の興味を引いた。その姿を盗み見た毘沙門天の代理は、「童に昔語りを聞かせる母のようだ」と笑いながら入道使いに語っていた。

そのように何度も、白蓮の住む命蓮寺を尋ねていた魔理沙だったが、数ある話の中で、一つ、特に魔理沙の心に残っている話があった。


「私は、破戒僧です。人を、殺めたことがあるのです」


「弾幕以外で激しい戦いをしたことはあるのか」という質問に返された白蓮の一言は、あまりに唐突な返事だった。

妖怪を殺したこともあると告白した白蓮の姿は、まるでしかられるのを待つ子供のようで。魔理沙は一言謝り、露骨に話題を変えた。どうにかして、この空気を変えたかったのだ。

その日、普段よりも早く命蓮寺を後にすると、魔理沙はある場所へと向かった。太陽の畑である。

白蓮は強い。先の異変で直に手合わせをした魔理沙だからこそわかる。神社に仕える巫女は、自分の技を振り切られたのは初めてだと語っていた。入道使いに聞いた噂では、肉弾戦もお手の物らしい。

だからこそ白蓮の告白を聞いたとき、まずったという気持ちよりも、純粋な興味が先行したのを感じた。

試したかった。弾幕以外で勝負したら、自分はどれほどの強さにいるのか。心のどこかでは、白蓮に認めてもらいたい気持ちがあったのかもしれない。

なぜ相手に風見幽香を選んだのか。なんとなくではあるが、彼女以外に適任だと思える相手が考えられなかった。他の知り合いでは、上手くはぐらかされるか、こちらに情が湧いてしまう。その点、あの妖怪ならばそのどちらの心配もない。

自分の前で縮こまる白蓮の姿を思い出しながら、それでも魔理沙の心の中にはやめよう、よそうといった意思は出てこなかった。

太陽の畑に着いた時にはなぜだか自分でもわからないうちに気分は高揚し、自然、幽香に対する口調もきついものになっていた。

ルールは単純明快。戦闘不能になるまでの勝負である。肉弾戦、弾幕戦、なんでもあり。


「身の程を教える、いい機会ね」


幽香の弁である。事実、二日連続で魔理沙は負け続けた。初日は弾幕を全てはじかれて鳩尾に一撃。次の日は捉えられないように動き回っていたが、移動先を読まれて弾幕の嵐。今日こそはと息巻いてやってきたが、背なに一撃を喰らい、今の状態に至る。


「弱いわね」


その一言が、魔理沙の胸に突き刺さる。反逆の闘志は湧き上がってくるが、しかし一矢報いる方法が、今の彼女にはわからなかった。視界が、滲む。

わかっている。本当ならば初日の一撃で、自分の胴体は無くなっていることを。わかっている。二日目の弾幕で、自分の身体は塵も無くなるほどに削られていることを。わかっている。本当ならば、今の一撃で自分の身体に風穴が開いていたことを。

わかっている。手加減されていることを。

悔しいのだ。手加減されているとわかっていながら、それでもあの身体には傷一つ、つけることが出来ない。


「っく、ううっ」


一体何をやっているのだろう。そう自分を振り返るほどには、魔理沙は理性を取り戻していた。だが白蓮の話を聞いた時、確かに何かを感じた。きっと、何か自分の実になるものがあるはずなのだと言い聞かせてはいたが、それでも折れかけた心を直すには少しの時間と感情の発露が必要だった。

魔理沙の嗚咽を幽香は一瞥すると、自分の住処へと帰っていった。彼女なりの優しさなのか、それとも、単に興味が無くなっただけか。その二つの考えを思い浮かべて、魔理沙はまた、少し泣いた。







「厳しいわねえ」


自宅で紅茶を飲んでいると、向かいの椅子にスキマが出来る。そこから聞こえてきた声に、幽香は心底面倒くさそうに、ため息を吐いた。

スキマから、白い手が伸びる。目標は茶菓子として出したスコーンだった。あと少しでスコーンに手が届く、しかし、その手は幽香の手によって払われた。


「痛いじゃない」


スキマから、手だけではなく、存在自体が現れる。八雲紫が椅子に座ると、幽香はまたも盛大にため息を吐いた。一部始終覗き見していたのだろうか、だとしたら性質が悪すぎる。

とはいえ、妖怪とは基本好き勝手に生きる存在であるし、幻想郷の管理人を謳っていながらも、目の前の胡散臭い存在はそんな生き方の筆頭と言える。そこで幽香は考えるのをやめた。


「この後の予定は?」

「傘が壊れたから。古道具屋に行くわ」


いったいこの妖怪は何しに来たのか。そろそろ実力行使で追い出そうと思っていた幽香は、手早く用件だけを話すようにと、妖気を出して伝える。くだらないことだったら叩き出そうと思っていたが、紫から出た言葉は、只々くだらない内容だった。


「今日、飲みにでも行かない?」







「荒れてるねえ、魔理沙」


日の半分が山に隠れ、人里には明かりが灯り始める。そんな時間帯に、魔理沙は八目鰻の屋台で管を巻いていた。なんてことはない、自棄酒であった。

店主であるミスティアは、最初こそ気前よく魔理沙の注文を受け付けていたが、とどまることを置き忘れたようなペースに、今は苦笑しか出ない。

そんな魔理沙を気にかけるのは、つい先ほど店にやってきたリグルであった。魔理沙が返事をしないことを悟ると、彼女もまた、注文をはじめた。


「しかし、困ったわ」


他愛のない世間話をしながら、時は過ぎてゆく。リグルが三杯目のコップを空にしたときのことである。ミスティアの口から、そんな呟きが出された。四杯目を受け取りながら、リグルは何事か経緯を聞き始める。魔理沙としては自分の世界に浸っていたかったが、周りから聞こえるのは鳥の羽音と木々のざわめきだけであり、仕方なしに二人の会話に耳を傾けていた。

話の内容としては、最近現れた妖怪が好き勝手に暴れ回っているせいで、仲間たちが困っていると言うものだった。会話が出来るほどの知能を持っていないためか、説得にも応じず、ほとほと困っているという。

今でこそスペルカードルールが広まっている幻想郷ではあるが、それはそのルールを理解できるだけの頭を持った妖怪相手に限定されている。そのため実力での解決も、妖怪間ではいまだに茶飯事だった。


「本当はぼこぼこにのしてやりたいんだけど、私が行くと逃げて別の場所で暴れるのよ。一日中追いかけっこをする気にもなれないし」

「霊夢にでも頼んだら?ただ飯一回くらいで引き受けてくれそうな気がするけど」


だん、という音で二匹の会話は中断される。音の発信源を見やると、魔理沙が空にしたコップをカウンターに叩きつけていた。何事かと二匹が応答を待つと、据わった目をしながら、魔理沙は呟いた。


「私が行ってやる」


二匹はどうにかして魔理沙を止めようとしたが、魔理沙は一通り喚いた後に、千鳥足で箒に跨り、夜の森へと消えていった。仕方なくリグルは、魔理沙を追って森の中へと進んでいく。あんなに酔っ払っていては、勝てる勝負も勝てないだろう。まして、相手は弾幕戦をする気など毛頭ないのだから。


「私を舐めるな、か」


何か嫌なことでもあったのだろう。魔理沙が飛び出す前に残した言葉を、リグルは反芻した。







葉と葉の間から射す月明かりだけが、夜の森を照らしている。どうにか判別できる木の輪郭をよけながら飛んでいると、都合よく相手を見つけた。大きい熊のようだ。何かを食っているのだろう。血生臭い風が、魔理沙の鼻の奥を不快にさせた。

道中、頭の中はいらつきで一杯だった。

何故、自分ではなく霊夢に頼もうとしたのか。酔っ払っている自分では無理だとでも思われたのだろうか。多分に、決してミスティア達に自分を軽んじている気持ちはなかったのだろう。だが、例えそうだとしても、むかっ腹が立った。

霊夢はああ見えて妖怪退治のプロだ。弾幕戦でも、それ以外でも。しかし、自分だって異変解決においては霊夢にだって引けは取らないと魔理沙は思っている。


「私を舐めるなっ」


飛び出す前に吐いた言葉が頭をよぎる。リグル達には、後で謝らなくてはならない。しかし、それは視界にいるこいつを倒してからだ。そして、ただ飯を食べながら笑い話にしてやろう。


「私だって、やれるんだ」


大きく息を吸って、妖怪の前に踊り出る。


「おい、熊野郎。私が相手だっ!」


化け熊は、その言葉にぴくりと身体を震わせると、ゆっくりと立ち上がった。妖力を得たせいか、元々大きかったのか。その姿は優に魔理沙の二倍以上の高さである。

眼前で見下ろされ、初めて化け熊の顔を直視する。その目はなぜか大きく、ひどく充血しており、顔中に深い皺が刻まれている。まるで怒った老人の顔を、無理やり熊に押し付けたような、異質の気持ち悪さがそこにはあった。

口元から、何かが飛び出している。よく見えなくても、それが何かの生き物……少なくとも犬よりはでかい生き物のなにかであることは、今までの経験で、なんとなくではあるがわかった。

一秒ほどだろう。観察を終えた魔理沙は、即座に魔方陣を周囲に展開した。化け熊は、突如として現れた魔方陣に一瞬、身を硬直させる。

光の矢が、化け熊の顔に突き刺さり、爆発した。弾幕戦で牽制に使うようなちゃちなものではない。全力だった。

間断なく二発目が炸裂する。三発、四発、五発、六発。魔方陣から放たれる弾丸は、もはや魔理沙自身何発放っているか、わからなかった。

周囲に轟く炸裂音に、近くにいた鳥たちが一斉に羽ばたく。魔理沙が前口上を言ってから、わずか五秒ほどの出来事だった。

土ぼこりと弾け飛んだ木の葉が、魔理沙の視界を奪う。ミニ八卦炉を煙に向かって構え、魔力をこめるのと同時に、煙を割って化け熊の顔が現れる。

咄嗟に身をかわす。しかし、相手の前足が、微かだが魔理沙の脇腹を捕らえていた。かすっただけながらも、小柄な魔理沙の身体を吹き飛ばすには充分な威力だった。


「がっ」


近くに立っていた木に、背中を打ちつけた。痛みで少しばかり意識が遠のく。こちらに振り返った化け熊は、頭を半分吹き飛ばされ、文字通り体中蜂の巣になりながらもなお、その顔には怒りと生気が満ちている。どうにか間合いを取ろうとしたが、足がまったく利かないことに、今になって気づいた。

化け熊がこちらに向かって突進してくる。避け様がなかった。


「っがは、ぐあああっ」


爆音とともに、みちり、と水気を含んだ音が体内から聞こえた。内臓をやったのかもしれない。身体強化の魔法をかけていなかったら、まず間違いなく魔理沙の体は潰れたトマトのようになっていただろう。

背にしていた木が太く、折れなかったのは不幸といわざるを得ない。突進のエネルギーを、
まともにその身に浴びたのだから。だが、逆に幸運ともいえた。

右手を、化け熊の首筋に叩きつける。相手にとっては蚊ほどの威力もない反抗だったが、その手にはミニ八卦炉が握られていた。


「うが、あああ」


声にならない叫び。血反吐と吐瀉物を撒き散らしながら、必殺の一撃を放つ。放たれた光は、もはや恋符とは呼べない程に、ひたすらに暴力的だった。


「うわああああ!ぐああぁぁ!」


反動に耐え切れず、ミニ八卦炉が手から弾き飛ばされる。光が止んだ先には、胸部がなくなり、頭と腹で真っ二つになった化け熊の骸が転がった。

木を背にして、魔理沙はへたり込む。何かが喉からせり上がってくる感覚に咳き込むと、それが血であるということを知った。

目がかすむ、息も荒い、しかし自分はこうして化け物熊をのしてやったのだ。


「は、はは」


とにもかくにも重症だ。魔力もほぼ枯渇し、このままだったら間違いなく野垂れ死ぬ。早くこの場から立ち去らなくてはと、木に寄りかかりながら何とか立ち上がる。

何度か膝をつき、飛びそうになる意識を必死につなぎとめながらミニ八卦炉を拾いなおす。箒は、化け具の前に踊り出たときにその場に置きっぱなしだった。

もはや立っていることも出来ず、這いずりながらなんとか箒の前までたどり着く。その先には、見たことのある足があった。倒したはずの、化け熊の足が。


「うそ」


言葉は続かない。前足ですくい上げられる。二度、地面にバウンドした。起き上がれない。動けない。魔理沙の視界に入ったのは、噴出す血と一緒に何かが飛び出している自分の腕。

そこで、魔理沙は意識を手放した。









「面白くなんかないわよ」

「ただ私が見たいだけだ。神社で待っていても暇だしな」


いつの日だったか、霊夢が妖怪退治に行くというので、魔理沙はついていったことがある。博霊の巫女を倒してはいけないという決まりさえわからぬ、どこからかやってきた人型の低級妖怪だった。

札を使い、術を使い、持ち前の勘の鋭さで相手の攻撃をことごとく避ける。ともすれば舞っているかのような彼女の美しさに、魔理沙は息を呑んだ。

舞いが、終わる。妖怪の姿は結界とともに消えうせ、そこにはまるで何もなかったかのように、無表情な霊夢の横顔だけが佇んでいた。







「魔理沙、魔理沙。聞こえるかしら」


聞き覚えのある声で、魔理沙は夢から覚めた。

白い天井だった。だんだんと覚醒してきた脳が、耳元で何か言っているのは鈴仙であり、ここは何度かお世話になったことのある永遠亭の病室だということを思い出した。

魔理沙は、何故自分がここにいるのか詳しい経緯を尋ねた。鈴仙は「詳しい話は師匠から」と答えてくれなかったが、窓際を指差した。体が動かなかったので視線だけをそちらにやると、椅子に座り、日の光を浴びながら眠り込んでいる花の大妖の姿がそこにはあった。








「五日も寝ていたのか、私は」

「左前腕部開放骨折。肋骨四本と多臓器損傷。ついでに全身打撲と出血多量。ほんと、よく生きていたわね。感謝しなさい」


永淋から聞かされた言葉に、呆然と魔理沙は答える。

診断内容はいたって単純。絶対安静とのことだった。意識を手放す前の、あの夜が思い返される。よくも生きていたものだと、自分でも悪運の強さを認めずにはいられなかった。

幽香はいまだに窓際で眠りこんでいる。永淋は一瞬視線を幽香に向け、ため息を吐いた。


「凄かったのよ。あなたはぼろ雑巾みたいになっているし、そこの妖怪からは『治せ、治さないと承知しない』って言われるし」


おかげで最近はろくに寝ていないと聞いて、魔理沙も視線を幽香に向けた。まだ起きる様子は見られない。光合成でもしているのではないのだろうかと考えていると、


「愛されてるわねえ」


視線を、永淋に向ける。


「あなたを運んでから、つきっきりだったのよ、彼女。花の世話もメディスンに任せてね」







日も沈みかけ、赤い西日が病室を照らす。幽香は瞼を開けると、魔理沙のベッドへと歩く。その手が、眠っている魔理沙の髪を軽く撫でる。鈴仙達でも来ていたのだろう。出されたままの丸椅子に腰掛け、もう一度、優しく、魔理沙の頭を撫でた。


「心配、かけさせないでちょうだい」


その声も優しく、何度も何度も、撫で続ける。

どれほどの時間、そうしていただろうか。西日がきつくなってきたのでカーテンを閉めようと窓際へ向かう。


「ごめん」


その言葉に、幽香は振り向いた。目を開けている魔理沙と視線が交差する。カーテンを閉めることも忘れて、幽香は魔理沙を抱きしめた。


「あなたは強いわ」

「ごめん」

「これから、もっともっと強くなる」

「ごめん、なさい」

「だから、焦らないで」

「ごめんなさい」

「他の誰かに、手折られないで」


幽香の体は暖かく、その腕の中で魔理沙は泣いた。








入院から一月程の間、様々な人妖が妹紅と共に見舞いに訪れた。

白蓮は、魔理沙の姿を見るなり涙を流しながら抱きついた。耳元から聞こえる「ごめんなさい」という言葉は、何に対して向けられたものか。結局わからなかった。

アリスが訪れた時は、半ば過保護すぎるほどに看病され、一緒に来たパチュリーは、今までに持ち出された魔導書を半分以上持ち帰ったと魔理沙に告白した。

ミスティアは化け熊妖怪を退治してくれたお礼にと、差し入れとして大量の八目鰻を持ってきた。八割は霊夢の胃に収まったが。

鴉天狗の二人組みは取材と称して三日に一度は見舞いに訪れていた。まともに動けないのをいいことに、散々とからかわれたが、永淋に捕まえられて以降、めっきりと姿をあらわさなくなった。

早苗も、結構な頻度で魔理沙の病室を訪れた。最初にやってきたときは、怪我の容態を聞いて、顔を青ざめさせていた。どうやらグロテスクなものには耐性が無いらしい。

その他にも、鬼やら閻魔やら死神やら河童やら、数えればきりが無い。きっと、弾幕勝負で知り合った大半のものに会ったに違いなかった。

幽香は、魔理沙が意識を取り戻してからは、一度も姿を現さなかった。だが、会ってもあの時のことを思い出してしまい、気恥ずかしくなるのは目に見えていたので、魔理沙自身としてはありがたかった。

無事に退院した魔理沙は、その足で紅魔館へと向かう。途中、氷精や宵闇の妖怪と出会ったが、腕にかざしたギプスを見せて、弾幕戦は遠慮した。

湖を越え、紅魔館の門前に降り立つ。門番は、堂々とした仁王立ちで昼寝をしていた。魔理沙は、門には入らず、美鈴の前に立つ。


「入らないの?」


美鈴が、目を瞑ったまま問い掛ける。どうやら狸寝入りだったらしいが、起きるまで待とうと思っていた魔理沙には好都合だった。


「私に、武術を教えてくれないか」


目を開いた美鈴の眼前、ただひたすらに真っ直ぐな目をした魔法使いの姿が、そこにはあった。


「強く、なりたいんだ」


その日から、週にニ、三度、紅魔館の門前で稽古をする魔法使いの姿が、住人たちに目撃されるようになった。



霧雨魔理沙は強くなる。自分自身に認められるまで。誰かに認めてもらえるまで。
魔理沙が二匹目の化け熊に襲われたとき、その間に割り込んだ妖怪が現れた。化け熊は察する。きっと、立ち向かっても死ぬだろう。だが、逃げても必ず死ぬだろうと。

微かな望みを込めて、目の前の敵を排除しようと前足を振り上げる。相手の頭に叩き込んだ直後には、自分の前足が宙を舞っていた。前足の一撃よりも、ただそこに立っている妖怪の方が強度が上という事実を、端的に、しかしわかりやすく化け熊の脳内に刻ませた。

刹那、化け熊の鼻先が相手に握られる。まるでパンをむしるように、口と共に鼻先は顔から離れた。

狂ったような咆哮。しかしその叫びは、もう一度頭を掴んできた相手の手によって、強制的に中断される。


「さようなら」


化け熊の耳に、その言葉は聞こえない。頭だった場所には、血の花が咲き乱れた。

魔理沙を抱え、「紫」と一言。その身体は、スキマの中へと消える。そして、ただ化け熊の死骸だけがそこに残っていた。








穏やかな昼下がり。家で紅茶を楽しんでいると、魔理沙がまた頓狂なことを始めたと、幽香は紫から聞いた。今度は武術を学んでいると聞いて、どうやら近いうちにでもリベンジに来るのだろうと目を細める。

仕方なしに紫の分のカップも用意する。リビングに戻ると、テーブルの上に一枚の写真が置かれていた。

眠っているのだろう。魔理沙の頭を撫でる幽香の姿が映し出されていた。


「寝ているときにだけ行くなんて、愛されてるわねえ、あの子」


直後、太陽の畑から幻想郷全土から確認できるほどの光の柱が昇ったのは言うまでも無い。








こちらでは初投稿になります、モブです。今後ともよろしくお願いします。

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モブ
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コメント



0.1100簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
>その日、普段よりも早く妙蓮寺を後にすると
命蓮寺
8.40鈍狐削除
こういう言い方は嫌いなのですが、魔理沙らしくないと思ってしまいました。作品全体の持っていき方は、特に大きな不可もなくと感じたのですが、魔理沙の行動に違和感を感じてしまい、首を捻ってしまいます。
15.10名前が無い程度の能力削除
バカが八つ当たりに失敗して死にかけるだけならまだしも、その相手は意味もなくなぶり殺し。なんじゃこりゃ?
20.100名前が無い程度の能力削除
この手のお話は評価が非常に別れますね。

シンプルに私はこのお話は好きです。

ここでは珍しい愛されまりさが読めたのも目福。
だからこの点数で
22.100名前が無い程度の能力削除
この次に当たる作品が好きだったので戻ってみました。
多少過激な内容とオリキャラの末路は問題視されたとしても内容自体はしっかりまとまっていて面白かったと思います。
あと東方のキャラの性格は人の解釈によって大きく変わるんじゃないかと。
私は貴方の書いた魔理沙は魔理沙らしいと感じました。
30.100名前が無い程度の能力削除
宵闇の溶解、になってるよ。
32.無評価名前が無い程度の能力削除
続き物のようですし単体としてはこのくらいでしょうか。魔理沙が愛されているのが分かりました。ただ、リグルが追いかけているのにその回収がないのが個人的に気になりました。

誤字:箒は化け具~
それと、聖の台詞が人を殺めたなのに、地の文では妖怪を殺めたとなっていてどう解釈すればよいのかと。
33.70名前が無い程度の能力削除
入れ忘れ失礼しました。