「今私は、重大な事に気付きました」
一家が揃った地霊殿のリビングで、愕然とした表情のさとりが机を叩いた。
背中を丸めてモンハンをやっていた妹と猫と鴉が、安全な場所にキャラを移動させると一家の長に注目する。
「今私は、重大な事に気付きました……」
「…………」
「今私は、重大な事に気付きました!」
「いや、何度も言わなくてもわかりますって」
地霊殿の良心であるお燐が、このままだと話が進まないと感じてツッコミを入れる。
「お空、今日は何月何日ですか?」
「うにゅ、今日は3月10日ですさとり様」
「正解です、ご褒美の角砂糖をどうぞ」
「さとり様、それご褒美にしてはちょっとケチり過ぎ……って、投げないで下さいな! お空も口でキャッチするな!!」
「角砂糖美味しいでふ、もごもご……」
「それで何が重大なのお姉ちゃん」
「気付きませんかこいし……3月10日には別の読み方がある」
別の読み方? と三人は頭を捻るが、中々答えが出てこない。
「ふふふ、3月10日は、読み方を変えればさ」
「あっ、3(さん)と10(とう)でさとり様の日ですね!」
「お燐正解、ですが今日のおやつ抜きです」
「そんな、先に言っちゃったくらいで!?」
さとりのマイペースを邪魔する物は、それ相応の制裁を与えられるのだ。
それをまだ理解しきっていないお燐は、おやつの地底饅頭が没収される事となった。ちなみに饅頭は、さとりが身を持って処理します。
「お姉ちゃん、それがどうしたの」
「いや、実の所それだけなんですがね」
「それだけで! それだけの事で私のおやつが!!」
「お燐、おやつ抜き一週間に伸ばしときますね」
「今の文句だけで!?」
どつぼに嵌って罰を受け続けるお燐、自分の分が増えてホクホク顔のさとり。
これまた文句を言いたくなったが、一ヶ月おやつ抜きは辛いのでなんとか開きそうな口を閉じる。
「ぬぐぐ……」
「でもせっかく私の日なんだから何かしたいと思いまして」
「何かしたいって言っても、曖昧すぎてこっちはわからないよ」
「そうですね……お空、ちょっとこっち来て下さい」
「うにゅ?」
甘い角砂糖を味わっているお空が、トコトコとさとりの方へ近づいて行った。
さとりはお空が傍に来ると、右足の融合の足と左足の分解の足、それに胸についている八咫烏の目を外させて、自分の身に着ける。
「制御棒プリーズ」
「うにゅ」
最後に第三の足も右腕にはめれば、古明地さとりver.八咫烏の完成である。
「それではちょっと迷える子羊を助けてきますね」
「さとり様お気を付けて」
「うにゅ、いってらっさい!」
「お土産買ってきてねー」
途方もない力を見に付けたさとりを見送って、三人はゲームへと戻った。
あっ、目を放してる隙に眠ってやがるこいつ。
五分ほど三人で目標をいたぶって撃破、素材を剥ぎ取って報酬も頂くと、こいしとお燐は立ち上がって心の中で叫ぶ。
((とんでもない事になったぁぁあああ!!?))
「うにゅ?」
「あぁ、妬ましい。妬まし妬まし、あぁ、妬ましい」
呪詛のごとく嫉妬を口にするのは、ご存知橋姫の水橋パルスィさんである。
目の前にはイチャイチャしながら地底へと向かうカップルの姿。
「地底って初めて、楽しみー」
「興奮するのは良いけど、ハメを外しすぎて地震とか起こさないようにね、落盤とか洒落にならないから」
「わかってるわよ! もう、紫って心配性ねー」
「イチャつく相手がいるなんて妬ましい、妬ましいわ」
故に、橋を通り抜けるカップルを見ながら、パルスィは思うのだ。
あぁ、カップルとか皆滅びろ!
「その願い、確かに私が聞き取りましたよ」
「えっ、誰!?」
突然聞こえてきた声に、パルスィは立ち上って周りを見渡す。
しかし声はすれど姿は見えず、と思ったら上から何か下りて来た。
「ジャ~パネット♪ ジャパネット~♪ 夢のジャパネットさとり~♪」
(何か変なのが来たー!?)
目の前に下り立ったのはいつもとは変わった格好をした、地底で出会いたくないランキング殿堂入りの古明地さとりだった。
……と言うかその右腕のとか、あのお天気鴉のじゃないのか!?
「目の前のカップルを爆発させたい! 地上を太陽の力で焦土と化したい! そんな方にお勧めするのはこの八咫烏ユニット!!」
「押し売りとか結構です、帰って下さい。そこまでやりたくないし」
「使い方は簡単、この八咫烏シリーズを装備すれば自動的に能力が増えます」
「聞けよ!」
それとユニットなのかシリーズなのかハッキリさせろ!
「じゃあお空のコスプレ衣装で」
「うわ凄い劣化したよ! と言うかそれだけじゃコスプレじゃないでしょ!?」
「細かいことは気にしない、それよか効果の程を実践してみましょう、とりゃー」
右腕を構えたさとりは、気の抜ける掛け声と共に第三の足から圧倒的エネルギーを発射した。
腹まで振るわせる轟音と共に、発射されたエネルギーはパルスィが見守る橋を衝撃で吹き飛ばすと、天井に突き刺さる。
地底全体を震わせながら、それは固い岩盤を突き抜けて、地上へと続く第二の道を作り上げた。
「ちょっとぉおお!!?」
「なんとこの衣装がたったの1万9800円! 今なら間欠泉地下センターでの役職も付いてきます!」
「とっとと出てけぇ!!!」
何故だか知らないが追い出されたさとりは、今さっき開通した穴から地上に出ていた。
「何故でしょうか、とっても良心的な値段なのに……」
全く、心が読める覚り妖怪でも、心と言うのは理解できない。
せっかくさとりの日なので良い事でもしようと思ったのだが……。
「まぁ、良いでしょう。次でちゃんとこなせば良いのです」
さて、次の獲物……じゃなかった、悩みを持っている人はいないかと辺りを見渡すと、目に入ったのは竹、竹、竹。
「ほう、ここは噂に聞いた迷いの竹林とやらでしょうか」
と言うことはタケノコもいっぱいぱい……ジュルリ。
食欲が理性を蝕み始め、本来の目的を忘れそうになるさとりだが、ご自慢のサードアイが助けを求める心の声を察知した。
(うぐ…た……すけ……)
「むぅ!? 獲物を発見!!」
涎を拭うと聞こえて来た声を頼りに竹林を進んで行く、そこには倒れた白い髪の少女の姿が。
「大丈夫ですか、白髪だらけの人!?」
「だ、誰だ……」(腹減った……)
どうやらこの少女は、空腹の余り行き倒れてしまっていたようである。
「だからあれほどまで、いらない草は食べておけと言ったでしょう! 雑草とか火炎草とかでも5%はお腹が膨れるんですから!」
「く…さ……?」(流石に不老不死でも草は食わんぞ……)
ほほう、こうまでなってもツッコむ心を忘れないとは、見上げたやつである。
と言うかこの白髪ウーマンは不老不死なのか、確かその人の話なら放浪癖の妹から話を聞いたことがあるぞ。
不老不死だから、死ねば空腹も収まるとか何とか。
「よし私に任せて下さい!」
「た、食べ物くれるのか?」
「だがペタフレア!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うわっ! またすっごい揺れてる!?」
「ちょっと天子! あなたがやってるんじゃないでしょうね!?」
「違うわよ、私じゃない!」
「絶対お姉ちゃんが何かやってるよコレー!!」
「さとり様ー! どーこーでーすーかー!!!」
「うにゅにゅ、揺れてて楽しいー」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
「……あのさー、空腹をしのぐ為に一回死ぬとか、本末転倒だろ」
「ガイアと妹が、私にやれと囁いたんです」
「いや訳わかんねーから……」
胡坐をかいだ白髪の人に正座をさせられ、さとりは説教されていた。
だが何はともあれやりきったのだ、さとりの心には爽やかな風が吹き、やり遂げた顔で満足げである。
「大体、私が不老不死じゃなかったら大変な事になってただろ」
「それについては、私があなたの心を読んで不老不死と知った上での行動ですので。妹からあなたの話を少し聞いてましたし」
「心を読んで妹……お前、もしかしてこいしの姉さんか?」
「はい、そうです」
……こいしも大変だなー、と目の前の少女は遠い目をしてこいしの事を哀れむ。
大変とは何のことだろうか、こんな出来のいい姉がいて大変な事などないだろうに。
「服まで丸ごと消し飛んで……とっとと着替え取りに行かないから、それじゃあな」
「はい、わかりました」
手を振って去って行こうとする全裸の少女に、さとりは気配を消して付いて行く。
少女の家であろう、竹林の中に立てられた小屋に一緒に入ると、少女は先程着ていたのと同じ服を引っ張り出して着た。
「同じ服が何着もあるのか、とかのツッコミは禁止ですよ皆様方」
「えっ? って、うわ、何でお前付いて来てるんだよ!?」
さとりがいる事にようやく気付いた少女は、すっとんきょな悲鳴を上げる。
「だって白髪の人は空腹で行き倒れていたのでしょう? このまま帰してもまた行き倒れるだけですので、それを解決しに来ました」
「だからって気配消して付いてくるなよ。それと白髪言うな、私の名前は藤原妹紅だ」
「なるほど、妹キャラですか」
「違うっての……それに何で私を助けようとしてるんだ?」
「今日は私の日ですので、良い事をしようと」
「はぁ?」
何を言ってるのかは良くわからないが、助けてくれるなら話してみるか、と少女は座り込んでさとりと向き合った。
「実はな」
「ほうほう、今までは慧音と言う方が面倒を見てくれていたのですが、最近児童への性的虐待容疑で逮捕されて食べる当てがなくなり倒れた訳ですか」
「……便利だな、その能力」(こいつ人をイラつかせる達人だな……)
「紐ですね」
「うるせぇ!!」
やっぱ追い出すべきだった、と妹紅が後悔していると、さとりは立ち上がって小屋を出て行こうとした。
「何だ帰るのか?」(ってか帰れ)
「いいえ帰りませんよ、タケノコを取ってきてあなたにご馳走しようと思いまして」
「ご馳走? いいよそんなの。タケノコ取って来てくれれば嬉しいけどさぁ」
「あなたまともな料理できるんですか?」
「……焼けばなんとかなるだろ」
先程心を読んでわかった事であるが、妹紅はどうやらまともな料理をした事はないらしい。
適当に火で炙って食べるばかりで、餓えなきゃそれでよしでやってきたようだ。
「そんなのは料理は言いませんよ、私が本当のご飯と言うのを見せてあげます」
「そうかい、期待しないで待ってるよ」
ぶっきらぼうに言う妹紅だったが、さとりには彼女の本心が聞こえていた。
――ありがとよ、と。
「ふふ、このツンデレめ」
「何か言ったか?」
「いえ、それではタケノコ取ってきますね」
外に出たさとりは、小屋の位置を見失う事がないように気を付けながら、タケノコを探しに竹林を進む。
幸いタケノコは丁度良さそうなのがすぐに見つかった。ちょっとした幸運をありがたく思いながら小屋に戻る。
「おっ、もう見つけたのか?」
「はい、運がよかったようです、それでは調理を開始しますね」
さぁ、このぶきっちょツンデレ娘を唸らせる、至高のタケノコ料理を振舞ってやろうではないか。
「プチフレア!」
ジュッ、となって完成。
「はーい、出来ましたよー」
「ちょっと待て、どう見てもそれ、ただの炭にしか見えないんだが」
「そんな事はありませんよ、外側だけ炭化してますが、中はジューシーな味わいで」
「絶対嘘だろそれ! 私の料理よりずっと酷いじゃねぇか!!」
チッ、騙せなかったか。
仕方ないじゃないですか、右腕に制御棒はめてるから料理できないんですよ、焼くしかないんですよ。
「くそぉ……貴重なタケノコが……!!」
「じゃあ私が食べますね、むしゃむしゃ……何コレマズッ、ゲロマズッ」
「いや、そりゃそうだろうよ……」
試しに食べてみたけれど超苦い、なるほどこれは炭だ、ペットでも食わない。
やっぱこれ捨てておこうと考えていると、自慢のサードアイが今度は殺気を察知。
「妹紅ガード!」
「へっ? いきなり何やって」
さとりが妹紅を盾にすると同時に、小屋の玄関をぶち破って飛んでくる弾幕、弾幕、弾幕。
さとりの身代わりとなって、弾幕の嵐に曝される妹紅。
「へぶっ! うぼっ! ごはぁっ!?」
どうでも良いですけど、『殺気を察知』は洒落のつもりで言ったんじゃありませんからね?
「ぐおおぉぉぉぉ……こ、この弾幕は、てんめぇ……!!」
この弾幕に覚えがある妹紅は、痛む身体を押さえて玄関の向こう側を睨みつける。
ジャリと足音を立て、弾幕を放った人物は入り込んできた。
「もこたんの家から慧音以外の女の声が聞こえて飛んできました!」
「輝夜てめえ!」
勇んで言い放ったのは黒髪の綺麗な女性、さとりが心を読むまでもなく輝夜の名前だと言う事がわかった。
「何よもこたんその女、浮気!? 私を放っておいて浮気なの妹紅!?」
「何が浮気だ!」
「妹紅さんは私が責任を持って弄びます!」
「駄目よ、それは私の役割!」
「てめぇら揃って何言ってんだ!!!」
一見すると修羅場のようだが、輝夜は浮気とか言っているのは冗談のようだ。
心の中では『弄られて怒鳴る妹紅可愛い!!』とか思っているし。さとり個人としては、修羅場のほうが面白かったのだが。
「つーかお前何しに来た!?」(まさか飯持って来てくれたとか!?)
「さっき言ったじゃない、女の声が聞こえたからよ」(本当は慧音がムショ入りって聞いて、手作りのお弁当持って来たんだけど……)
「えっ?」
「嘘付け、ここから永遠亭まで声が聞こえるか」(……無いだろうなぁ。私って、いっつもこいつに嫌な事ばっかり言ってるし)
「えぇ嘘よ、本当は妹紅の目の前でお弁当食べたやろうと思って、わざわざ私が作って持って来たのよ」(違う! 違うのに! 本当は妹紅に食べて欲しくて持って来たのに、何言ってるのよ私!)
「えっ? えっ?」
「ぐっ……この野郎……!」(輝夜の手作り!? 食べたい! 食べたいけど言える義理じゃない!)
「ほーらほら、あなたの為に最高級の材料を使ったお弁当よー」(だから食べて、って言いなさいよ私の馬鹿!)
「えっ? えっ? えっ?」
「嫌がらせもいい加減にしないと燃やすぞコラァ!」(あー! 素直に好きだって言えよ私!)
「オーホッホッホ、掛かってきなさいもこたん!」(あー! 素直に好きだって言いなさいよ私!)
「何なのこの人達、凄い面倒」
ツンデレ×ツンデレがこんなに面倒な物とは思わなかった。ここまで徹底して言葉と心が逆だと、いっそ清々しく感じる。
すれ違いまくりの二人、相思相愛だがひっつくにはどれほどの時間が掛かるものか。
……あれ、この二人ひっつけるって凄い良い事じゃね!?
「それだ!」
「うお!? 何だいきなり叫んで」
「って言うか、本当にこいつ誰なのよもこたん」
「覚り妖怪の古明地さとりです」
「覚り妖怪?」
「えぇ、心が読めます」
「えっ……」
「あっ……」
「勿論、今のお二人の心も読んでいます」
予想だにしない事を言われた輝夜と、覚り妖怪の特性を思い出した妹紅が同時に固まった。
そして二人揃ってさとりの前で正座する。
「さ、さとり! 喉渇いたんじゃないか? 粗茶だけど、どうぞどうぞ」
「さ、さとりさん? 月人流マッサージはいかが? 昇天する気持ち良さよ?」
……やっぱりこのままにしとこう。
何も今の状況が面白いからではない、二人が自分の意思で歩み寄ってこそ意味があると判断したからだ、うん。
「何だよお前、そんなに変な事考えてたのかよ?」(知りたい! 輝夜がどんな事考えてたのか知りたい!)
「そう言うあなたこそ、何かいかがわしい事でも考えてたんじゃなくて?」(知りたい! 妹紅がどんな事考えてたのか知りたい!)
「んだとテメェ!」(でも私の事嫌に思ってたら聞きたくないー!)
「何よやる気!?」(でも私の事嫌に思ってたら聞きたくないー!)
「あんまりうるさいと、つい何かの拍子で知ってることを漏らしちゃいそうですねー」
「「すいませんでした!!!」」
オォーゥ……ジャパニーズ・ドゲザ……。
ヤバイなぁ、すっごい気持ち良いなぁ、ゾクゾクするなぁ……ふふふ、今度は何て言いましょうか。
ドス黒い事を考えるさとりだったが、どこからか心の声が聞こえてくると思考を切り上げ、急いでその場から飛び退いた。
直後、さとりがいた場所に網が投げつけられてくる。
「クソッ、逃がした! 何でお姉ちゃん、今のを避けれたの!?」
「ふふふ、お燐の心が駄々漏れでしたから、避けるのは簡単でしたよ」
「さとり様! 阿呆な事やってないで戻ってきてくださいよ!」
「やなこったーです! まだまだ迷える子羊は沢山います、その人達の為にも私は止まる訳には行かないのです! てりゃー」
気が抜ける掛け声と共に、さとりが着けた制御棒からエネルギーが放出され、小屋の屋根を丸ごと吹き飛ばす。
「な、何やってんだお前!?」
「それではさらばですお二人とも! もう少し素直になったほうが良いですよー!!」
「うぉおおお、お姉ちゃん待てぇぇええ!!」
「逃げるな、さとり様ぁぁああ!!」
嵐のごとく去っていった三人に、輝夜と妹紅はポカンと口をあけて呆然とする。
そこにお空が遅れてやってきて、状況を察すると二人に頭を下げた。
「うにゅ……皆が迷惑掛けてごめんなさい。それじゃ!」
一礼するとお空もさとり達を追って飛んでいった。
「……何だったんだ結局」
「さぁ……」
「…………」
「……ねぇ、お弁当食べる?」
「あっ、良いのか?」
「うん……」
「あ、ありがとよ」
「美味しい?」
「……不味くはないな」
「そう……」
「……まぁ、ちょっとは美味いか」
「…………ふふ、そう」
「ふぅ、逃げ切ったようですね。こんな事もあろうかと、高速飛行の訓練を重ねておいてよかったです」
一直線に飛び続けて竹林を抜けたさとりは、ふぅっと安堵の溜息吐くと休憩にとその場に座り込んで目を閉じる。
ずっと飛び続けた上に、何度か八咫烏の力を使っている。二つが重なってさとりの疲労は相当のものだった。
しばらくするとうつらうつらしてきて眠ってしまいそうになるが、傍に誰かがやってきて影が掛かった事に気付き目を開けた。
「さとり様、こいし様とお燐が心配してるよ?」
「お空ですか……ですがまだ私は人助けをしなければならないのです」
「どうして?」
「……お空覚り妖怪は、皆から嫌われる妖怪です」
誰だって心を読んでくるような妖怪は嫌いだ、事実覚り妖怪が外を歩いても、振りまくのは不幸ばかり。
「でも3月10日くらいは、さとりの日くらいは、皆から慕われるような事をしたいのです」
毎日は無理でも、せめて一年に一度、この日くらいは覚り妖怪の自分も幸せを与えたい。
さとりは眠気に抗って立ち上がると、空いている左手でお尻をはたいて砂を払った。
「後一人、後一人誰かを助ければ飽き……満足します。そしたら皆で帰りましょう」
「うん、わかったよさとり様。一緒にがんばろ!」
屈託の無い笑顔でそう言われると、身体の底から力が沸いてくるように感じる。
これはお空の期待に答えねばなりませんね、と考えた時、サードアイが迷える子羊の声を捉えた。
「目標補足! 行きましょうお空!」
「うにゅ! さとり様頑張る、私も頑張る!」
「カラスが鳴くからかーえろ、ってね……」
赤と青の異形の翼をはためかせて、封獣ぬえは今の住処である命蓮寺へ帰っている途中であった。
しかしこれから自分の家とも呼べる場所に帰ると言うのに、ぬえの気分は晴れないでいた。
色々あって命蓮寺の一員となったぬえであったが、その事について一つだけ悩みがあったのだ。
「はぁ、なんだかなぁ……」
「お悩みのようですね!!!」
「ひぃっ!?」
溜息を吐いていると、いきなり耳元から叫ばれて身をこわばらせた。
「だ、誰だ!?」
「一家に一台覚り妖怪、古明地さとりで御座います」
「げぇっ、さとり!? ……あれ?」
ぬえは地底にいた事があり、古明地さとりの事も知っている。
さとりの姿を見たぬえは、あからさまに嫌そうな顔をするが、その格好を見て今度は呆れた顔をした。
「何その格好」
「お空のコスプレです」
「いやいや、中途半端すぎでしょ」
「うにゅ! さとり様良く似合ってるよ!」
「本物と比べても全然似てないし……覚り妖怪が私に何の用なのさ、さっさと済ましてどっか行って欲しいけど」
「ふふふ、今日の私は一味違いますよ、何せさとりの日ですからね」
「はぁ?」
さとりは意味ありげな笑みを浮かべると、話を本題へと移した。
「ぬえさん、あなた悩み事があるのではありませんか?」
「何でそれを……って、覚り妖怪だからわかって当たり前か」
「お寺の皆さんには言えない問題、それを誰にも打ち明けられずに抱え込んでいる」
「それが、どうしたのさ」
心の内を暴かれると言うのは、誰だって嫌悪することだ。
ぬえは唇を噛み、さとりを睨みつけてくる。だがさとりは臆す事はなかった。
「私に、それを話してくれませんか、助けさせてくれませんか?」
「……何でわざわざ言わなきゃならないのさ、わかってるんでしょ」
「あなたの口から直接聞きたいのです」
さとりの言葉に顔を伏せ考え込むぬえだったが、やがて顔を上げてさとりを見た。
「助けて、くれるの?」
「あなたが望むのであれば」
それを聞いて決心したのか、ぬえはポツリポツリと言葉を紡いでいく。
「私は今お寺に住んでる、聖達と一緒にお経を唱えながらね」
「うにゅ、確かぬえが皆に迷惑掛けた後、謝ったんだよね?」
「そうだけど、問題はそれじゃないのよ……私はさ、皆とお寺に住んでいながら、仏の事なんてどうとも思ってないのよ」
だからこそ、今まで誰にも打ち明けられなかった悩み。
もっとも仲の良い仲間にこそ言えない悩みであった。
「お経だって心を込めないで、ただ読んでるだけ。ありがたい説法も、ほとんどが右から左に抜けてる。たださ、私は今の居場所が好きなんだ。聖達に悪戯して迷惑掛けて、でも軽く謝って許してもらう今の場所が好きなんだ。でも私は皆みたいに心の底から信仰心を持ってる訳じゃない」
皆と一緒にいたいから、それだけの理由で仏門に入るなど、仏に対する冒涜だろうに。
「私は命蓮寺にいるけど、それは同時に皆を騙してるって事。それがとても、心苦しいのよ」
おかしな話だ、今まで散々正体不明の種で人々を騙してきた妖怪が、今更騙しているのが苦しいなんて。
「いいえ、ちっともおかしくはありません」
凛とした声がぬえの心に届く。
さとりの三つの目、それにお空から受け取った八咫烏の目は、まっすぐにぬえを見詰めている。
「嫌われたくないから嘘を吐く、けれど本当は嘘は吐きたくない、その狭間で心を揺らす。それはどんな人でも、どんな妖怪であってもある事です。今まで様々な心を見詰めてきた覚り妖怪である私が保証します。あなたはおかしくなんてありません」
「そう、かな……さとりが言うんならそうなんだろうね」
「えぇ、その点についてはご安心を。とは言え一番の問題はそこではないのですが」
さとりは手を差し出す、救いを求める少女に。
周囲から忌み嫌われる覚り妖怪が誰かを救うなど、それこそおかしな話だが、きっとやり遂げてみせる。
「私はあなたの住むお寺まで連れて行ってください、どこまで手助けできるかわかりませんが、やれる所までやりましょう」
その手を見て、ぬえを少し戸惑ったが、やがては手を取って握った。
「お願い、手伝って」
「その願い、しかと聞き取りました」
三人で話し合った結果、とりあえずは仏門に入らない人の事をどう思っているのか、その本心を知る事を第一とした。
その為に、まずぬえが何気ないようにその質問を皆にぶつけて、それを隠れて近づいたさとりが心の声を聞き取る事となった。
「うぅ、緊張するなぁ」
「大丈夫です、あなたは平安のエイドリアンなんでしょう。上手くいきます」
「エイリアンね、誰だよエイドリアンって」
「旧地獄の怨霊です、生前に犯した108回のスカートめくりを延々と語ってくれるファンシーな方ですよ」
「地獄に逝って当然だねそいつ」
絶対領域を侵すものは、どんな者であろうと罰せられるべきである。
ともあれまずは皆の元へ戻って、なんとか本心を探らなければ。
玄関の前でぬえは深呼吸をして心を落ち着かせると、覚悟を決めて扉を開く。
「ただいまー!」
「ただいま戻りました」
「うにゅ! ただいま!」
「って、何であんたら普通に入って来てんの!?」
何事もないように、一緒に寺に入って来たさとりとお空に、ぬえは激しくツッコミを入れる。
「さとりは気付かれないように、皆に近づくって予定だったよね!?」
「だからそうしようとしてるんじゃないですか、せっかく私とお空が命蓮寺メンバーになりきって潜入作戦をしようとしたのに……」
「えーと、私は仏が大好きだよ?」
「いやいや、無理あるからそれ、天然ボケの聖でも騙されないから」
「ぬえ? 今帰ったの?」
玄関の騒ぎに気付いた誰かが、パタパタと玄関まで小走りでやって来た。
グラデーションが掛かった髪にボンッキュッボンなスタイル、そして圧倒的母性フェロモンを撒き散らす、ご存知聖白蓮である。
「ぬえお帰りなさい、そちらの方々は?」
「えっ、あっ、こいつらは」
「私どもはぬえさんと手を取り合い、明日の命運を共にしようと誓った仲です」
「手は取ったけど、してないからねそんな誓い!?」
「あら、ぬえのお友達?」
「どうしてそうなるのかな!? まぁ、それで良いけどねもう……」
「どうぞ上がってください、あまりおもてなしはできませんが」
「いえお構いなく」
とりあえずさとりが命蓮寺メンバーに近づく事はできそうである。
パタパタと聖が玄関を去った後、改めて話し合ってどうするか決めるとする。
「素敵なお母さんキャラですね」
「キャラとか言うな、確かにお母さんっぽいけどさ」
「それはともかく、このまま一緒に近づいて、ガーッと話してバーッと腹を探りましょう」
「えらく抽象的だね……でも、せっかくここまで来たんだし、そうしようか」
「私も頑張るよ!」
相変わらず何を考えてるのかわからないさとりと、やたらと張り切っているお空を連れて、ぬえを皆が集まっている居間へ入っていく。
「あっ、ぬえ、おかえ……って、うぇっ!?」
「ぬ、ぬえ、その横の!?」
ぬえと同じく、一時期地底にいた村紗と一輪が、さとりの姿を見て驚きの声を上げる。
「こちらのぬえのお友達の……」
「皆の心に安息を、古明地さとりと」
「地底の皆に太陽を! 霊烏路空です!」
さとり、と聞いて鼠の尻尾がピクリと動いたが気にするものか、さとりとお空は止める間もないまま机の前に腰を下ろした。
「粗茶ですが」
「これはどうも」
すかさず聖がお茶を二人の前に差し出す。
湯飲みを手に取って茶をすすると、さとりは目を見開いて驚いたようにお茶を見詰める。
「このお茶は一味違いますね……!」
「えっ、これそんなに良いお茶だったの?」
「いえ、普通のお茶の筈だけど……」
「それよりあなた、見た目的に他の人に埋もれそうですね」
「えっ、いきなり何!?」
「スルーすな!!」
言うだけ言って、今度は一輪を指差すさとりに、思わずぬえが頭に手刀を叩き込んだ。
「何するんですか、痛いじゃないですか」
「言いたい事は幾つかあるけど、さっきのお茶がどうたらってのは何なの?」
「それはあれだよ、さとり様がよくやる……」
「一度言ってみたかったからです!」
「威張って言う事か!」
相変わらずマイペースで周りを巻き込むさとりに、ぬえの手刀が再び叩き込まれた。
とは言え、ちょっとは場が和んだようだ、その後も何事もなく会話が続いていく。
「そこの雲の方、何だか綿飴みたいで美味しそうですね……ジュルリ」
「逃げて! 雲山逃げてー!!」
……何事もなかったんです。
「所で聖さん」
「はい、何でしょうか?」
ふと思いついたように、さとりが聖に話を振った。
「私は無宗教でして、仏門にも興味がありません。そんな者に寺の敷居をまたがせて宜しいんでしょうか?」
「寧ろそれのどこがいけないのでしょうか? 確かに仏の教えを学んで欲しいとは思いますが、それは強制できることではありませんし、来る者を拒む理由にはなりません」
「その興味がない者が、他に身寄りがない時、あなたはどうしますか?」
「勿論、保護します。仏の教えを受け付けなくとも、見捨てるようなことは致しません」
即答であった、少なくとも聖は仏門でないからと言って差別するような者ではない。
では他のものはどうか? さとりの第三の目が、その場にいる者を舐めるように見回す。
「……わからないね、一体君は何が言いたいんだい?」
小さな賢将ナズーリンが、一方的に探ってくるさとりに疑問を投げかけてきた。
「こら、ナズーリン失礼ですよ!」
「失礼も何も相手は覚り妖怪だ、こちらの心が手に取るようにわかる以上、遠慮する必要もあるまい」
「そちらのネズミーさんの言う通りですね」
「……呼び名については、この際どうでもいいよ。それよりも、さとり、あなたは何の為にここに来たんだい?」
ナズーリンがさとりを見据え、さとりがナズーリンの目を見詰める。
ぬえと村紗と一輪は固唾を飲み、星はオロオロし、聖はニコニコ笑ったまま傍観している。
「えっと、ぬえが皆と一緒にいるけど、仏様の事どうでも良くて、皆を騙してて、でも苦しいから助けに来たんだよね?」
「えぇ、その通りですよ」
……へっ?
「仏様がどうでもいいのに、信じてるふりしてるのが辛いんだよね?」
「それは何故でしょうか、お空?」
「んーと、皆に信じてるように見せて、騙してるのが嫌なんだよね?」
「よく出来ました、甘いの三つ上げましょう」
「わーい!」
「ちょっと何勝手にペラペラ人の秘密漏らしてんのぉぉぉおお!!!?」
まさかのダークホース、お空。と言うより最初っから警戒対象に入れておくべきだったのに、さとりが余りに濃すぎて失念していた。
だが気付いたときには既に遅し、ぬえが内緒で抱え込んでいた悩みは、命蓮寺に住む全員に知れ渡ってしまった。
「うぁ…………」
その場にいるさとりとお空を覗く皆が、ぬえの方へ目を向ける。
隠し事がバレ、いたたまれなくなったぬえは、頭を抑えて机に顔を伏せた。
「まぁ、そうだったのですかぬえ」
「…………なさい」
「えっ?」
「ごめんなさい! わた、私、嘘吐いて、皆騙して……!」
ぬえのかたはブルブルと震え、背中の翼はぬの精神状態を表すように力なく垂れ下がる。
そんな見ていられない様子のぬえに、聖の手が伸びた。
「……ぬえ、どうか顔を上げてください」
聖はぬえの頬を優しく撫でると、顔を上げるように促した。
おどおどしながらも、ぬえは聖の手に押されて顔を上げる。
目尻に涙を一杯貯めたぬえを、聖は穏やかな目で見守るように見詰めてくる。
「ぬえ、一つ聞かせてください。あなたがそうまでして、今日まで私達の傍にいたのは何故ですか?」
「そ、それは……その……」
核心を突く質問に聖から目を逸らすぬえだったが、目蓋をギュッと閉じると、今度は聖を真っ直ぐ見詰める。
「一緒にいたくて……」
それを聴いた瞬間、感極まった聖は今まで以上に笑いながら、ぬえを力強く抱きしめた。
「ちょっ、ひ、聖!?」
突然の事に混乱するぬえ、村紗がワシャワシャと乱暴に頭を撫でる。
「こいつぅ、案外可愛いところがあるじゃないの!」
「いたっ、こら止めろ村紗ぁ!」
「全く、そんな事隠してたなんてね」
「全く、実に馬鹿だ」
呆れたように溜息を吐いて、ぬえを見る一輪とナズーリン。
その間に、星が割って入ってくる。
「でも我々にも非はありますよ、何せぬえからの信頼が足りないが為、ぬえを悩ませてしまったのですから」
「えぇ、そうです複雑な心境ではあります」
相変わらずぬえを抱きしめたままの聖が、そのままの状態で星の言葉に答える。
「ぬえが仏の教えに興味がなかったのは、悲しい事です。そしてぬえが、私達にその悩みを打ち明けてくれなかった事はもっと悲しい」
「ひ、聖……」
「でも!」
ようやくぬえを離した聖が、今度は嬉しいと言う感情が溢れる目で、ぬえを見詰めてきた。
「それ以上に、そこまでして私達の傍にいようとしてくれた事が私は嬉しいのです。どれだけ悩んでも、私達から離れようとしなかった事が!」
興奮した面持ちで心情を述べる聖に、ぬえが呆然と問い掛けてくる。
「聖……私、命蓮寺にいて良いの?」
「構いません」
「私、仏の事なんてどうでも良いんだよ」
「構いません、ぬえがここにいたいと言うのであれば、いつまででも」
「皆も、私がここにいたら鬱陶しかったり……」
「そんな事しないわよ、もう!」
ぬえの言葉を遮って、村紗がもう一度ぬえの頭を乱暴に撫でた。
途端に、抑えていた感情が溢れ出して止まらなくなってしまう。
「みんな、みんなぁ……うああぁぁぁん……」
「ははは、ぬえが泣いた泣いたー」
「う、うるさい、ばかむらさ!」
「そう言う村紗こそ、ちょっと涙っぽくなってるんじゃない?」
「えっ、あっ、ホントだ」
「人のこと、グスッ、言えないじゃないのばかぁ!」
だが泣いてるのはぬえと村紗だけではなかった、一輪もナズーリンも、星も聖も、みんな目尻に涙を浮かべてる。
号泣するぬえと、周りの者が笑いながら涙を流すそれは、中々お目にかかれない貴重な光景だった。
「さとり様、皆泣いてるけど嬉しそうだね」
「えぇ、嬉しい時だって涙は出るんですよ」
「そうなんだね……何だか凄い……」
少し離れた位置で、静かに見守っていたさとりとお空が、目の前の光景に胸を熱くする。
幸せとは、その余波だけで周りのものも満たしてくれる。
「私とさとり様で、作ったんだね」
「そうね、私達が振りまいた幸せですよ……」
世の妖怪を見てみるが良い、いつもは嫌われてばかりの覚り妖怪も、こんな幸せを作り出すことだって出来るんだぞ。
さとりは誇らしく胸を張って、そう叫びたい気分だった。
「ふふふ、こんな時なら、実は先週に宝塔を隠したのがぬえさんだってバレても、誰も怒らないかもしれませんね」
「「えっ?」」
ピクリと、ナズーリンと星が肩を震わせると、先程とは一変して無機質な目をぬえに向ける。
「ぬえ……天井裏に隠されてて、どうもおかしいと思ったら」
「ぬえの仕業だったんですね、私ナズーリンに大目玉喰らいましたよ」
「あっ、それはその……」
「実は一輪さんの頭巾や、村紗さんの柄杓に穴開けちゃった事についても大丈夫でしょうか」
「「えっ?」」
今度は一輪と村紗が肩を震わせると、泣くのを止めてぬえを睨みつけてきた。
「ぬえ」
「これは一体どう言う事ですか?」
「えっ、ちょっ、アハハハハ……」
「まぁまぁ、今日の所は二人とも堪えて」
「あっ、聖さんが楽しみにしてたプリンを食べたのもぬえさんみたいですね」
「食べ物の恨みはかくも深いものである! 南無三!」
「ちょぉぉおお!!?」
一気に怒りのメーターが振り切り、聖の黄金の左が振舞われる。
だがぬえはなんとかそれを避けると、この状況を作ったさとりに食いついてきた。
「ちょっと何ペラペラと人の秘密漏らしてんのぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!?」
「いやぁ、ちょっと口が滑りました、ニヤニヤ」
「わざわざニヤニヤとか言うな!」
「「「「「ぬぅえぇぇぇぇえ?」」」」」
各々が己の武器を取り出すと、ぬえに目一杯の殺気を送ってくる。
「ひぃっ!?」
「そろそろ帰りましょうかお空」
「うん、皆で一緒に笑おうよ!」
「綺麗に纏めてんじゃぬぇぇえ!!」
さとりとお空はその場を急速に離脱して、命蓮寺の外へ出て行ってしまった。
「ちょっ、待ちやがれ、腐れ覚り妖怪ぃぃぃいいい!!!」
だがぬえも中々のもの、襲い掛かる精鋭五人相手にその場を逃げ切る事に成功した。
外に出て、急いでさとりの後を追う。
「こぉら、待てさとり! ぶっとばす!」
「おっ、やりますか? やっちゃいますか?」
「やっちゃうに決まってんでしょ! 聖達にやられる前に一矢報いてやる!」
「宜しいです、ではこちらも本気で行きます!」
高々と掲げられた制御棒に、エネルギーが集まり収束していく。
「って、それコスプレ衣装じゃなかったの!?」
「ふふふ、これはお空のコスプレであると同時に、八咫烏の力でもあるのです!!」
「どっちかって言うと、八咫烏がメインだろそれ!!」
「あー! さとり様発見ー!!」
さとりが力を貯めていると、聞きなれたペットの声が聞こえて来た。
間違いなくコレは、自分を追ってきたお燐の声。
「逃がすか! お姉ちゃん喰らえい!」
そして一緒にやってきたであろうこいしが、重石のついた網を投げつけてくる。
その重石の一つが、カツンと制御棒に当たった。
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CAUTION!! CAUTION!! CAUTION!! CAUTION!! CAUTION!!
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あっ、これ何かやばい。
どたばた感があって面白かったです
マイペースで凄くウザい筈のさとり様なのに、憎めないのはどうしてだろう……。
さり気ないゆかてんがいい!
>奇声を発する程度の能力さん
慧音さんは歴史を食えば何やっても許されると思ってしまったのです……。
>コメント4さん
古来より、爆発オチは定番と親しまれてると聞いてやってみました。
>コメント5さん
大丈夫です、きっと歴史を食って創って、すぐに出所して教壇に戻って、でも脱獄容疑で再逮捕。
>鈍狐
コミカルな所はわりかし簡単に書けるんですが、シリアスなシーンは苦手なんですよねぇ……要練習。
全体的に駆け足な理由はアレです、当日に今日はさとりの日と某作家スレで聞いたので、その日の内にプロットも一切なしに急いで書いたからです。自分の事ながらよく書けたな……。
>とーなすさん
感動巨編として終わる? そうはいかんざき!
終始半目でぶっちぎるウザいさとり様とか、寧ろ巻き込まれた……すいません、やっぱり遠慮しときます。
>コメント30さん
楽しんでいただけて何より
ゆかてんが入ってるのはアレです、本能。