「号外ー! 号外でーす!!」
「おっ?」
特にやる気も起きず、天界でダラダラしていた天子に、わざわざ天界まで来て新聞を振りまく鴉天狗の姿が目に入った。
「あの天狗の事だし、どーせまたつまらない記事……」
「号外ー! 東方新作の情報が出ましたよー!! 号外ー!!!」
「なんですって!?」
見る気も起きず放っておこうとした天子だが、新作と聞いて慌てて記事を手に取った。
そこに書かれた情報に目を通す。
一通り読み、読み返し、一度頭を抑えて「あれー?」と呟いてから、また読み返した。
何が気に入らないのか新聞を掴む手が震え、遂にはグシャリと記事を潰す。
「集合ー!!! 全員集合ー!!!!」
「よくぞ集まってくれたわね、みんな!」
「あなたが無理矢理引っ張ってきたんでしょうが」
連れてこられた紫が、迷惑そうに返す。
天子は急遽作りたてたボロ小屋(天子ちゃんハウスと命名)に知り合いを三人集めていた。
まず色々な方面に顔が利きそうな隙間妖怪、それとそこら辺を漂っていた竜宮の遣いと、呑気に酒を飲んでいた鬼。
「いきなり連れてきてどうしたのさ、また異変でも起こすつもりかい?」
「止めて下さいよ総領娘様、あなたが異変起こしたら私まで被害こうむるんですから」
「そうじゃないわよ、まずこれを見て!」
天子は中央に置かれた机に、回収した文々。新聞を叩き付けた。
三人ともその記事を見て、あぁ新作の話かと察する。
「東方神霊廟の記事ですね、私も読みました。東方界隈が賑わう、おめでたい話じゃないですか。これがどうしたんですか?」
「全ッ然めでたくない! 自機のとこ見てみなさい!!」
わざわざ確認せずとも、全員新作自機が誰なのかは知っている。
いつもどおり霊夢と魔理沙に加え、前作からの続投の早苗と、久しぶりに自機となった妖夢の四人だ。
「吸血鬼のとこのメイドが、自機になれなかったって落ち込んでたねぇ」
「あんなパッド長の事なんかどうでも良いのよ」
「あらあら、使い古されたネタを安易に使うと叩かれるわよ。例えあなたがドMでも感心しないわ」
「あんたも人の事言えないでしょうが……そうじゃなくて」
天子は自らを誇示しようと無い胸を叩いて、バンッと音を立てる。
「私が自機にいないってどういう事よ!!」
……はい?
「えっ、それで私達をここに集めたんですか?」
「そうよ! 主役の霊夢と魔理沙はともかくとして、何で庭師と偽巫女ごときが自機になれて、この高貴な私がなれないのよ!!」
「うわひでぇ」
鬼が思わず漏らす。何がって自分の持ち上げ具合がだ。
と言うか、何故自機になれるなんて思っていたのか。
「酷いって言うけどね、今まで自機になったキャラ言ってみなさいよ。東方永夜抄の妖怪側と花映塚と旧作、それにスピンオフとか抜きで」
「えっと、霊夢に魔理沙、咲夜に妖夢に早苗……かね」
「そいつらの共通点は何?」
「全員人である事だね、一人は半人、一人は現人神だけど」
「そうよ、ようは人間に片足突っ込んだようなのが、自機になれる資格なのよ。なら天人の私が自機になれないはずないじゃないの!!」
天子の言葉に、三者共に驚いて息を呑む。
「「「天子が正論を言うなんて……」」」
「驚くとこそこじゃないでしょうが!? 三人揃ってハモるな、衣玖まで呼び捨てしてるし」
「しかし、てん……ゴホン、総領娘様は黒を白だと言い切って、そのまま通す方だと思ってましたので」
「そこまでハチャメチャじゃないわよ。それと何で今言い直した」
「別に大した理由はありませんよ、ただ名前で呼ぶほど親しくなりたくないだけですよ」
「理由が酷すぎる!?」
「そう怒るなよ、比那名居の」
「比那名居様、どうかお怒りを鎮めて下さいませ」
「萃香に紫まで乗らないでよ!? えっ、ちょ……じょ、冗談よね?」
怒っていたばかりの天子だったが、本当に嫌われているんでは、と不安にかられてオロオロしだした。
からかう三人が、やばっ、やりすぎた、と気付いた頃には天子はちょっぴり声を震わせ、目尻に涙が溜まり始め。
「それで、何の話だったかしら天子?」
「えっ……」
「天子が天人だから自機になっても良い筈、とか言う話だったねぇ」
「そうでしたね、それで天子様、続きは?」
すかさず元の調子に戻した。
呆気に取られる天子だったが、慌てて自身もいつも通りに振舞おうとする。
「そ、そうよね! 自機の話の続き……だけど、その前にちょっとトイレ行ってくる!」
「あまり大声で言われてははしたないですよ」
「うるさいわね、それより帰らないでちゃんとここにいてよ!」
天子は小屋から出てくると、少し離れたところで座り込んで涙を拭った。
空を見上げると、三人からちゃんと名前で呼ばれた事を思い出して。
「えへへ……」
嬉しそうに笑った。
「あらやだ可愛い、写真撮っときましょう」
「嬉しそうに笑っちゃってまぁ」
「嫌われるのが嫌なら、もう少し素直になればよろしいのに……まぁ、それが彼女らしいですけれども」
隙間でしっかり覗き見されてたり。
「それじゃ、第一回『どうやって天子を自機にするか会議』再開するわよ!」
「名前あったんですかこの話し合い」
「第一回って事は、第二回もあるのか」
「勿論、私が自機になるまで何回でもやるわ」
「それじゃ永久に続くわね」
「そうならない為の会議でしょうが!」
憤った天子は机を叩くと、改めて自分の意見を述べ始めた。
「まずさっき言ったように、私が自機になる資格は十分にあると思うのよ。寧ろこれ以上新しい自機を増やすなら、私以外の適任はいない!」
「総領娘様以外にも何人かいると思いますが。里の守護者とか」
「不老不死の娘はどうなのかね、月から来たやつとかもいたろう?」
「境界が曖昧で微妙ね……月の人を、異変解決側に入れても良いのか否か」
何だかんだで、天子以外もまともに考え始める。
「……そう言えば、私のサポートキャラってどうなるのかな」
「いきなり話が飛んだね、それにちっと気が早すぎだろう」
「これくらい良いじゃない、気になるのよ。やっぱり流れ的に衣玖かな、関係もそれなりだし」
「同じ空の上に住むもの同士ですしね、妥当なところでしょうか」
「でもそれだと、地霊殿みたいな選択式だとどうなるのかしら」
「えっ、そりゃあ紫と萃香が」
「それじゃ霊夢と被るよ」
「むぅ……」
他にサポートキャラに出来そうな知り合いはいないかと、天子は記憶を漁る。
とりあえず異変のときに関わった妖怪は、ここの三人の他にアリス、パチュリー、亡霊の幽々子……駄目だ、どれもこれも他の自機に取られてる。
死神とウサミミのやつとかもいるけれど、一度戦ったくらいで接点薄いし……。
「あ、新しいキャラを出せば!」
「天人と関係が濃くて友好な妖怪なんてそういませんよ、ぽっと出のキャラがいきなりサポートするのもどうかと思いますし」
「私や紫だって、先の作品で顔出してからサポートキャラになったしね」
「う……あー、もうサポートキャラの話は止め! どうやったら自機になれるかに戻すわよ!」
「自分で振っておいて」
「さぁ、まずは私が考えた第一の案!」
紫の言葉を遮って、何事も無く話を続ける。
「紫が神主に話を付ける!!!」
「「「無茶言うな」」」
また綺麗に声がハモった。
「えー、幻想郷の管理者でしょ? なんとかしてよ」
「無理なもんは無理、次!」
珍しく声を荒げた紫は、とっとと次の案を出せと天子を急かす。
「他ねー、正直人気上げるくらいしか思いつかないわ」
「と言うか、それ以外に方法ないだろう」
「だから紫が話を通せば一発で」
「だからそれは無理よ、じゃあ天子の人気を上げる方向で話を進める事、異議があるものは?」
「「異議なし」」
「勝手に話し進めないでよ、仕方ないなぁ……」
天子も渋々だが了承し、話は天子の人気を上げる方向へとシフトした。
「それで人気上げる方法って何があるの?」
「公式の出番」とは竜宮の遣いの意見。
「二次創作の出番」とは鬼の意見。
「生まれ持った才能」とは隙間妖怪の意見。
「自分でどうにかできるのないじゃん!!!」
幻想の入る余地の無い現実に、天子は頭を机に打ち付ける。痛い、気付かれないように涙を拭う。
「もっとこう、自分でできるようなのないの!?」
「コスプレとかどうかしら!?」
「嫌よ、そんな売れなくなったから脱ぐアイドルみたいなの。絶対に着ないから、目を輝かせてネコミミとか出すな」
「果報は寝て待てと言うし、のんびり構えたらどうだい」
「そんなの私に合わな……あっ、そうよ!」
何かが思い付いた天子は手の平を叩いて、どうせくだらないことだろうなと三人はたかをくくった。
「私が二次小説でも書けばいいのよ!」
「総領娘様が……」
「小説?」
「マッチポンプね」
「うるさい! 人気が出れば何でも良いのよ!」
果たしてそれで人気が出るのか、まず天子がまともなものを書けるのか。
少しばかし、天子が書く小説と言うのを想像してみる。
やったー天子の小説できたよー(^o^)ノ
───アタシの名前はテンシ。心に傷を負った天人。モテカワスリムで我侭体質の愛されガール♪
アタシがつるんでる友達は地震速報をやってるイク、巫女にナイショで
神社に住み着いてるスイカ。訳あって妖怪の賢者の一員になってるユカリ。
友達がいてもやっぱり天界はタイクツ。今日もイクとちょっとしたことで口喧嘩になった。
女のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で異変を起こすことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!
「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこい妖怪を軽くあしらう。
「異変を止めてくれない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
妖怪はカッコイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。
「おい、あんた・・。」・・・またか、とセレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、
チラっと異変を解決しに来た少女を見た。
「・・!!」
・・・チガウ・・・今までのやつとはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを
駆け巡った・・。「・・(カッコイイ・・!!・・これって運命・・?)」
少女は巫女だった。連れていかれてボコボコにされた。「キャーやめて!」神社を建て直した。
「ガッシ!ボカッ!」アタシは疲れた。スペルカード(笑)
「「絶対人気出ない、寧ろ落ちる」」
「何で書く前から決め付けてるのよ!?」
「駄目です総領娘様、偉大な先人と被ります。敵いっこありません」
「あんたも何言ってんのよ」
どう転んでも悪い展開にしかならないだろう天子の無謀を、三人は必死に止めさせようと説得する。
「止めなよ天子、酒でも飲んで馬鹿なことは忘れるんだ」
「馬鹿の事なんて言ってないわよ」
「総領娘様、世の中には勇気と無謀と言う、似て非なるものが御座いまして」
「無謀な事も言ってないわよ」
「それより天子、この服を着て魔法少女に……」
「絶対嫌よ! もう、三人して私の事馬鹿にしてるわね!? 見てなさいよ、ずっごい傑作小説書いてやるんだからー!!」
とうとう天子は自らの作った天子ちゃんハウスの扉を蹴飛ばして、実行に移しに出て行ってしまった。
アチャー、と三人は顔を見合わせて途方に明け暮れる。
「あー、行っちゃったね。そのまま逝っちゃいそうだありゃ」
「絶対似合うと思うのに、魔法少女……」
「……紫さん、今やってるま○か☆マ○カって見た事ありますか?」
「えっ? ちょこっとキャラを見た事あるくらいかしら」
「じゃあ今から見てみましょうか、とても面白いですよ?」
「あらそうなの」
「えぇ、夢と希望に溢れるファンタジーです。萃香さんもどうですか?」
「そうだね、酒のつまみにでも見てみるかね」
三人はボロ小屋から去ると、第一回『どうやって天子を自機にするか会議』からアニメ鑑賞会へと移行した。
その夜。
「れ、れいむ~! 一緒に寝てくれよ頼むからさ~!!」
「うるさいわね、子供じゃないんだから静かにしなさいよ」
「静かにするから! お願いだから一緒に!!!」
「わかったわよ、一緒に寝てあげるから鼻水付けるな!」
「ちぇ、橙? 今日は一緒に寝ないかしら?」
「へっ? どうしたんですか紫様?」
「どうもしないわ、ただ一緒に寝たくなっただけよ?」
「でも、今日は藍様と一緒に……」
「たまには良いじゃない。藍もそう思うでしょ?」
「紫様、何でそんな突然」
「藍もそう思うでしょ?」
「……ハイ、結構です。橙と一緒に寝ても構いませんから殺気立たないで下さい、胃が痛いです」
「……どうしよう、これ」
天子は文の書かれた紙を前に、思わず頭を抱えた。
とりあえず思ったままに筆を動かしてみたけれど、あまりに自分のそのままを書いてしまっていて、これを世に出すのは非常に恥ずかしい。
「やっぱ自分の事なんか書くもんじゃないわね。捨てよ」
クシャクシャに数枚の紙を丸めると、ゴミ箱に放り投げて、天子は布団の中に潜り込んだ。
出番とかは寝て待とう、そう決めて布団の中で丸くなる天子は、隙間から出た手が紙をさらって行くのに気付かなかった。
「おっ?」
特にやる気も起きず、天界でダラダラしていた天子に、わざわざ天界まで来て新聞を振りまく鴉天狗の姿が目に入った。
「あの天狗の事だし、どーせまたつまらない記事……」
「号外ー! 東方新作の情報が出ましたよー!! 号外ー!!!」
「なんですって!?」
見る気も起きず放っておこうとした天子だが、新作と聞いて慌てて記事を手に取った。
そこに書かれた情報に目を通す。
一通り読み、読み返し、一度頭を抑えて「あれー?」と呟いてから、また読み返した。
何が気に入らないのか新聞を掴む手が震え、遂にはグシャリと記事を潰す。
「集合ー!!! 全員集合ー!!!!」
「よくぞ集まってくれたわね、みんな!」
「あなたが無理矢理引っ張ってきたんでしょうが」
連れてこられた紫が、迷惑そうに返す。
天子は急遽作りたてたボロ小屋(天子ちゃんハウスと命名)に知り合いを三人集めていた。
まず色々な方面に顔が利きそうな隙間妖怪、それとそこら辺を漂っていた竜宮の遣いと、呑気に酒を飲んでいた鬼。
「いきなり連れてきてどうしたのさ、また異変でも起こすつもりかい?」
「止めて下さいよ総領娘様、あなたが異変起こしたら私まで被害こうむるんですから」
「そうじゃないわよ、まずこれを見て!」
天子は中央に置かれた机に、回収した文々。新聞を叩き付けた。
三人ともその記事を見て、あぁ新作の話かと察する。
「東方神霊廟の記事ですね、私も読みました。東方界隈が賑わう、おめでたい話じゃないですか。これがどうしたんですか?」
「全ッ然めでたくない! 自機のとこ見てみなさい!!」
わざわざ確認せずとも、全員新作自機が誰なのかは知っている。
いつもどおり霊夢と魔理沙に加え、前作からの続投の早苗と、久しぶりに自機となった妖夢の四人だ。
「吸血鬼のとこのメイドが、自機になれなかったって落ち込んでたねぇ」
「あんなパッド長の事なんかどうでも良いのよ」
「あらあら、使い古されたネタを安易に使うと叩かれるわよ。例えあなたがドMでも感心しないわ」
「あんたも人の事言えないでしょうが……そうじゃなくて」
天子は自らを誇示しようと無い胸を叩いて、バンッと音を立てる。
「私が自機にいないってどういう事よ!!」
……はい?
「えっ、それで私達をここに集めたんですか?」
「そうよ! 主役の霊夢と魔理沙はともかくとして、何で庭師と偽巫女ごときが自機になれて、この高貴な私がなれないのよ!!」
「うわひでぇ」
鬼が思わず漏らす。何がって自分の持ち上げ具合がだ。
と言うか、何故自機になれるなんて思っていたのか。
「酷いって言うけどね、今まで自機になったキャラ言ってみなさいよ。東方永夜抄の妖怪側と花映塚と旧作、それにスピンオフとか抜きで」
「えっと、霊夢に魔理沙、咲夜に妖夢に早苗……かね」
「そいつらの共通点は何?」
「全員人である事だね、一人は半人、一人は現人神だけど」
「そうよ、ようは人間に片足突っ込んだようなのが、自機になれる資格なのよ。なら天人の私が自機になれないはずないじゃないの!!」
天子の言葉に、三者共に驚いて息を呑む。
「「「天子が正論を言うなんて……」」」
「驚くとこそこじゃないでしょうが!? 三人揃ってハモるな、衣玖まで呼び捨てしてるし」
「しかし、てん……ゴホン、総領娘様は黒を白だと言い切って、そのまま通す方だと思ってましたので」
「そこまでハチャメチャじゃないわよ。それと何で今言い直した」
「別に大した理由はありませんよ、ただ名前で呼ぶほど親しくなりたくないだけですよ」
「理由が酷すぎる!?」
「そう怒るなよ、比那名居の」
「比那名居様、どうかお怒りを鎮めて下さいませ」
「萃香に紫まで乗らないでよ!? えっ、ちょ……じょ、冗談よね?」
怒っていたばかりの天子だったが、本当に嫌われているんでは、と不安にかられてオロオロしだした。
からかう三人が、やばっ、やりすぎた、と気付いた頃には天子はちょっぴり声を震わせ、目尻に涙が溜まり始め。
「それで、何の話だったかしら天子?」
「えっ……」
「天子が天人だから自機になっても良い筈、とか言う話だったねぇ」
「そうでしたね、それで天子様、続きは?」
すかさず元の調子に戻した。
呆気に取られる天子だったが、慌てて自身もいつも通りに振舞おうとする。
「そ、そうよね! 自機の話の続き……だけど、その前にちょっとトイレ行ってくる!」
「あまり大声で言われてははしたないですよ」
「うるさいわね、それより帰らないでちゃんとここにいてよ!」
天子は小屋から出てくると、少し離れたところで座り込んで涙を拭った。
空を見上げると、三人からちゃんと名前で呼ばれた事を思い出して。
「えへへ……」
嬉しそうに笑った。
「あらやだ可愛い、写真撮っときましょう」
「嬉しそうに笑っちゃってまぁ」
「嫌われるのが嫌なら、もう少し素直になればよろしいのに……まぁ、それが彼女らしいですけれども」
隙間でしっかり覗き見されてたり。
「それじゃ、第一回『どうやって天子を自機にするか会議』再開するわよ!」
「名前あったんですかこの話し合い」
「第一回って事は、第二回もあるのか」
「勿論、私が自機になるまで何回でもやるわ」
「それじゃ永久に続くわね」
「そうならない為の会議でしょうが!」
憤った天子は机を叩くと、改めて自分の意見を述べ始めた。
「まずさっき言ったように、私が自機になる資格は十分にあると思うのよ。寧ろこれ以上新しい自機を増やすなら、私以外の適任はいない!」
「総領娘様以外にも何人かいると思いますが。里の守護者とか」
「不老不死の娘はどうなのかね、月から来たやつとかもいたろう?」
「境界が曖昧で微妙ね……月の人を、異変解決側に入れても良いのか否か」
何だかんだで、天子以外もまともに考え始める。
「……そう言えば、私のサポートキャラってどうなるのかな」
「いきなり話が飛んだね、それにちっと気が早すぎだろう」
「これくらい良いじゃない、気になるのよ。やっぱり流れ的に衣玖かな、関係もそれなりだし」
「同じ空の上に住むもの同士ですしね、妥当なところでしょうか」
「でもそれだと、地霊殿みたいな選択式だとどうなるのかしら」
「えっ、そりゃあ紫と萃香が」
「それじゃ霊夢と被るよ」
「むぅ……」
他にサポートキャラに出来そうな知り合いはいないかと、天子は記憶を漁る。
とりあえず異変のときに関わった妖怪は、ここの三人の他にアリス、パチュリー、亡霊の幽々子……駄目だ、どれもこれも他の自機に取られてる。
死神とウサミミのやつとかもいるけれど、一度戦ったくらいで接点薄いし……。
「あ、新しいキャラを出せば!」
「天人と関係が濃くて友好な妖怪なんてそういませんよ、ぽっと出のキャラがいきなりサポートするのもどうかと思いますし」
「私や紫だって、先の作品で顔出してからサポートキャラになったしね」
「う……あー、もうサポートキャラの話は止め! どうやったら自機になれるかに戻すわよ!」
「自分で振っておいて」
「さぁ、まずは私が考えた第一の案!」
紫の言葉を遮って、何事も無く話を続ける。
「紫が神主に話を付ける!!!」
「「「無茶言うな」」」
また綺麗に声がハモった。
「えー、幻想郷の管理者でしょ? なんとかしてよ」
「無理なもんは無理、次!」
珍しく声を荒げた紫は、とっとと次の案を出せと天子を急かす。
「他ねー、正直人気上げるくらいしか思いつかないわ」
「と言うか、それ以外に方法ないだろう」
「だから紫が話を通せば一発で」
「だからそれは無理よ、じゃあ天子の人気を上げる方向で話を進める事、異議があるものは?」
「「異議なし」」
「勝手に話し進めないでよ、仕方ないなぁ……」
天子も渋々だが了承し、話は天子の人気を上げる方向へとシフトした。
「それで人気上げる方法って何があるの?」
「公式の出番」とは竜宮の遣いの意見。
「二次創作の出番」とは鬼の意見。
「生まれ持った才能」とは隙間妖怪の意見。
「自分でどうにかできるのないじゃん!!!」
幻想の入る余地の無い現実に、天子は頭を机に打ち付ける。痛い、気付かれないように涙を拭う。
「もっとこう、自分でできるようなのないの!?」
「コスプレとかどうかしら!?」
「嫌よ、そんな売れなくなったから脱ぐアイドルみたいなの。絶対に着ないから、目を輝かせてネコミミとか出すな」
「果報は寝て待てと言うし、のんびり構えたらどうだい」
「そんなの私に合わな……あっ、そうよ!」
何かが思い付いた天子は手の平を叩いて、どうせくだらないことだろうなと三人はたかをくくった。
「私が二次小説でも書けばいいのよ!」
「総領娘様が……」
「小説?」
「マッチポンプね」
「うるさい! 人気が出れば何でも良いのよ!」
果たしてそれで人気が出るのか、まず天子がまともなものを書けるのか。
少しばかし、天子が書く小説と言うのを想像してみる。
やったー天子の小説できたよー(^o^)ノ
───アタシの名前はテンシ。心に傷を負った天人。モテカワスリムで我侭体質の愛されガール♪
アタシがつるんでる友達は地震速報をやってるイク、巫女にナイショで
神社に住み着いてるスイカ。訳あって妖怪の賢者の一員になってるユカリ。
友達がいてもやっぱり天界はタイクツ。今日もイクとちょっとしたことで口喧嘩になった。
女のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で異変を起こすことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!
「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこい妖怪を軽くあしらう。
「異変を止めてくれない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
妖怪はカッコイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。
「おい、あんた・・。」・・・またか、とセレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、
チラっと異変を解決しに来た少女を見た。
「・・!!」
・・・チガウ・・・今までのやつとはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを
駆け巡った・・。「・・(カッコイイ・・!!・・これって運命・・?)」
少女は巫女だった。連れていかれてボコボコにされた。「キャーやめて!」神社を建て直した。
「ガッシ!ボカッ!」アタシは疲れた。スペルカード(笑)
「「絶対人気出ない、寧ろ落ちる」」
「何で書く前から決め付けてるのよ!?」
「駄目です総領娘様、偉大な先人と被ります。敵いっこありません」
「あんたも何言ってんのよ」
どう転んでも悪い展開にしかならないだろう天子の無謀を、三人は必死に止めさせようと説得する。
「止めなよ天子、酒でも飲んで馬鹿なことは忘れるんだ」
「馬鹿の事なんて言ってないわよ」
「総領娘様、世の中には勇気と無謀と言う、似て非なるものが御座いまして」
「無謀な事も言ってないわよ」
「それより天子、この服を着て魔法少女に……」
「絶対嫌よ! もう、三人して私の事馬鹿にしてるわね!? 見てなさいよ、ずっごい傑作小説書いてやるんだからー!!」
とうとう天子は自らの作った天子ちゃんハウスの扉を蹴飛ばして、実行に移しに出て行ってしまった。
アチャー、と三人は顔を見合わせて途方に明け暮れる。
「あー、行っちゃったね。そのまま逝っちゃいそうだありゃ」
「絶対似合うと思うのに、魔法少女……」
「……紫さん、今やってるま○か☆マ○カって見た事ありますか?」
「えっ? ちょこっとキャラを見た事あるくらいかしら」
「じゃあ今から見てみましょうか、とても面白いですよ?」
「あらそうなの」
「えぇ、夢と希望に溢れるファンタジーです。萃香さんもどうですか?」
「そうだね、酒のつまみにでも見てみるかね」
三人はボロ小屋から去ると、第一回『どうやって天子を自機にするか会議』からアニメ鑑賞会へと移行した。
その夜。
「れ、れいむ~! 一緒に寝てくれよ頼むからさ~!!」
「うるさいわね、子供じゃないんだから静かにしなさいよ」
「静かにするから! お願いだから一緒に!!!」
「わかったわよ、一緒に寝てあげるから鼻水付けるな!」
「ちぇ、橙? 今日は一緒に寝ないかしら?」
「へっ? どうしたんですか紫様?」
「どうもしないわ、ただ一緒に寝たくなっただけよ?」
「でも、今日は藍様と一緒に……」
「たまには良いじゃない。藍もそう思うでしょ?」
「紫様、何でそんな突然」
「藍もそう思うでしょ?」
「……ハイ、結構です。橙と一緒に寝ても構いませんから殺気立たないで下さい、胃が痛いです」
「……どうしよう、これ」
天子は文の書かれた紙を前に、思わず頭を抱えた。
とりあえず思ったままに筆を動かしてみたけれど、あまりに自分のそのままを書いてしまっていて、これを世に出すのは非常に恥ずかしい。
「やっぱ自分の事なんか書くもんじゃないわね。捨てよ」
クシャクシャに数枚の紙を丸めると、ゴミ箱に放り投げて、天子は布団の中に潜り込んだ。
出番とかは寝て待とう、そう決めて布団の中で丸くなる天子は、隙間から出た手が紙をさらって行くのに気付かなかった。
むしろ花丸をあげたい。
>コメント2さん
天子「家に帰ったとき、自作小説が『大変よく出来ました』と花丸付けられて机に置かれてたときの絶望感」
>コメント6さん
たまにはメタもいいじゃない、だって楽しいんだもの(書いてて)
>コメント7さん
最ッ高に愛らしいですよね!
>奇声を発する程度の能力さん
自分で言うのもなんだけれども、今回は天子をとびっきり可愛くかけて超満足。
>コメント17さん
でもどっちかと言うと、紫様の方がスイーツ好きそうだ……。
ウキウキしながら、スイーツを口に運ぶ紫様……あっ、なにこれ可愛い。
>flaxさん
我慢せずにニヤけてもいいんですよ。
>コメント21さん
天子は毎日楽しく頑張って生きています。
>コメント24さん
会場はどこですか。
>コメント25さん
同じく待ちながらてんこあいしてる。
>鈍狐さん
言えない、ノリだけで書いてたら、気が付いたらこうなってただけなんて言えない……!
でも真面目に天子は自機になってほしい、そうでなければ出番だけでも。
そうすれば天子のSSも増えるし、ひいてはゆかてんも増える!
天子の自機はいいぞお。きっとボムで大地震を起こすんだろうなあ……。
通常自機ではみんな飛んでるから地震は……あうあうあー
天子は素直になれないだけで、本当はすごくいい子だと信じてる!
それはともかく天子の出番もっと増えろ
>爆撃!さん
噂のお団子ヘアーの三人目、華扇ちゃんですか。
一体どんな性格なのか……早く単行本出ると良いなぁ……。
しかしボムで地震って、寧ろ敵のスペルカードっぽい。
>コメント52さん
そうか、空を飛んでるから地震が無理ですか……いや、地底でなら地震で落盤起こして……最終的にゆかりんに怒られる。
それと、きっと天子は落し物を探している子がいたら、内緒で探して見つけた後、空の上から落としてあげるような、良い子だけどそれを見せるのは恥ずかしがる子だと信じてます。
>コメント53さん
違うんだスピンオフと言いたいんじゃないんだ……忘れてただけなんだ……!
どっちにしろ駄目駄目ですね、すいません。直しました、指摘ありがとう御座います。
>コメント61さん
あんなに見てて心が折れそうになるアニメは初めてだ……でも面白いから見ちゃう……ビクビク
緋想天以降、天子の出番少なくて悔しいので、代わりに自分の作品に出して欲求を満たす。
>コメント77さん
パパ「よーし、パパ地震起こしちゃうぞー!」グラグラ
天子「やめて!」
この数日後に、紫にからかわれて顔真っ赤にしてる天子がまたいいですね。第二回も期待。
ちなみに霊夢を除く自機組人間の共通点には
「ラスボス一歩手前」というものもあります
なんと旧作の魔理沙(魔梨沙)でさえも。
第二回も……だと……?
しまった、考えなしに第一回とか付けなきゃよかったか……まぁ、頑張ってみます。
>コメント86さん
そんな共通点もあったのですか、知らなんだ
ならばラスボスの天子は最強の自機として君臨してくれるはず! ……えっ、そうじゃない?
>コメント90さん
メタネタで突っ走ると、どうにもオチが弱いなと感じたんですよね。
じゃあ天子の可愛いところ書いて無理矢理収めようぜ! でこうなりました。
>コメント93さん
天子は愛でるもの。
ネタで終わるかと思いきや、最後にしっかりとしたオチをつけてくれました。投稿者コメントの使い方としても良かったと思います。というか、たぶん作者さんはこれがやりたかっただけなんでしょうねw
思わず微笑んでしまうようなSSでした。おもしろかったです
100点