「麻雀やるわよ」
冬のある日のことである。
そんな一言で集められた全員の顔に疑問符が浮かぶ。
輝夜、幽々子、レミリアといった錚々たる面々に従者である永琳、咲夜も控えている。
だが第一声を発したのはその誰でもなく、何故ここに私が居るという顔をしていた魔理沙であった。
「何故だ」
その問いに誰もが首肯する。誰一人として先程の発言の意味がわからなかった。
しかしともすれば圧力さえ感じさせる程の疑問にも博麗霊夢は動じない。
「基本能力は禁止で」
「待て」
「レートは1000点で……」
「ちょっと待て」
「なにようるさいわね」
思わずミニ八卦炉に手が伸びる魔理沙だが鋼の自制心で堪える。
掴むまではいい。突き付けるのもありだろう。だがスペル発動はなしだ。
ぶっ飛ばすのは後でも出来る……まずは話を進めねば。
大きく息を吐く――リラックス、リラックス。
「なんでいきなり呼びつけられた上に麻雀をしなきゃならないんだ……?」
力を抜き過ぎたか、幾分覇気に欠ける口調になったが言いたいことは言えた。
その証拠に先程と同じく霊夢と魔理沙を除いた全員が首肯する。
場所は博麗神社の居間。炬燵に火鉢が置かれたくつろぎ空間である。
うちで宴会すんな、妖怪がしょっちゅう来るから参拝客が減る、と常々言っている霊夢が幻想郷でも屈指の悪鬼羅刹の類を幾人も呼び出したのがここ博麗神社。とは言っても宴会も始まってしまえば文句も言わないし妖怪が遊びに来ても追い払いまではしない霊夢である。だから今回の誘いも宴会の打ち合わせなどかと思っていたレミリア達は麻雀をするの一言で完全にわからなくなったのだ。
あの霊夢が?
遊ぶ為だけに妖怪を呼び出す?
――性質の悪い冗談としか思えない。
不信感を抱かざるを得ない成り行きだった。
ところが先程より圧を増した疑問の視線を躱すように霊夢は話を続けてしまう。
「麻雀が嫌ならカードゲームでもいいわよ。レートは」
「だから待て。なんだそのレートって」
「賭けごとなんだからレートの設定は必要でしょ」
「だからなんで賭けごとせにゃならん」
「金を賭けない麻雀の何が楽しいのよ」
「知的遊戯と聞いたぞ麻雀ってのは。それにカードゲームでもいいって今言ったろうが」
直に話している魔理沙はもとより傍で聞いているレミリア達も不信感を強めた。
言ってることが滅茶苦茶である。なんでもいいから金を賭けた勝負をしようということになるが……
「お金持って来い、なんて言うから何かと思えば」
レミリアはちらと咲夜に持たせたままの大金に目を向ける。
一応言われた通りに持っては来たが、こうも雲行きが怪しくなっては出すに出せない。
わけがわからず用意もしてない魔理沙などは断固回避したい展開である。
ただ、それ以上にあまりにも不自然な違和感に首を傾げざるを得ない。
「おかしいぞおまえ。いきなりがめつくなって……」
金に執着しない霊夢が。
おかしさはこの一点に尽きる。
金が欲しいという一貫性は見えても動機がさっぱり見えてこない。
というより……意図的に隠しているような――と魔理沙は感じた。
そう考えればこの強引さもパフォーマンス染みて見えてくる。
言えない理由を隠す、パフォーマンス……
心配の視線さえ向ける魔理沙から逃れるように霊夢はふらふらと炬燵の上の湯呑を手に取る。
先程の魔理沙を真似るようにお茶を飲んで心を落ちつけ――
「……あー……お賽銭入らないんだからしょうがないでしょ」
明らかに今考えた嘘だった。
魔理沙でももう少しマシな嘘をつく、とレミリアは溜息を吐く。
引き合いに出されたのを察したわけでもなかろうが、当の魔理沙も呆れ顔。
何を言えばいいのやら、と白けた空気を壊したのは。
「え、それ本当なの?」
輝夜だった。
真に受けていた。
心底驚いたと顔に書いてある。
レミリアなどは露骨に何故信じるという視線を向けるが輝夜は気づきもしない。
彼女は他の面々と違い天才・八意永琳による姦計……もとい、純粋培養で育てられた姫君である。
世の酸いも甘いも全く知らぬお姫様。嘘をつくことはあれど嘘をつかれるという発想が欠けている。
「賭け事しなきゃいけないほど困窮してたの?」
「え、あ、う、……うん」
素直に信じられるとは思っていなかった霊夢は動揺した。
心配の視線を受けても嘘で流そうとした霊夢が。
「永琳、うちの金蔵から適当に持ってきて」
「待ったー!」
声を張り上げ制止する。
霊夢は動揺し切っていた。
「あ、えっと、ね? そんな今すぐ、ってほどじゃないから? うん。だいじょうぶ」
「そうなの?」
輝夜は素直に応じるが残りの面々はそうはいかない。
金が欲しい、というのは輝夜を除いた全員が察していたことだ。
それなのに金をくれるというのと拒否するとは如何なることか。
賭け事をしなくて済むのだから余計な手間が省けて大助かりだろうに。
なんで、そんな良心が痛むとでも言いたげな顔をするのか――魔理沙は霊夢を窺う。
「さあ麻雀始めましょ!」
「そういう流れじゃなかったろうがー!!」
どこからか取り出された麻雀セットを張り飛ばした。
「痛めた良心どこやったんだよおまえ! 博打で巻き上げる方が酷いだろ!?」
「はっ! そんなもん炒めて食ったわ!」
「全っ然上手くないからな!? やめろそのドヤ顔!」
マジうぜえ! と魔理沙は吠える。
どつき漫才染みてきたその後ろで永琳は出しかけていた物をしまっていた。
流石天才というべきか、こんなこともあろうかと用意しておいた金塊だった。
ちなみにこの金塊、幻想郷での価値を現代の価値に換算すると約一億円以上である。
「いいから! もう麻雀やりましょう! さあ!」
「準備を始めるな! 卓の上に広げるな! まだ湯呑とかミカンとか乗ってるだろ!」
ついに取っ組み合いが始まり呼び出されたゲスト達は完全放置された――
というわけで乱闘をBGMに大物達は雑談を開始する。
「ねえ永琳、まーじゃんってなに?」
「私が代打ちとして出ましょう。ルールも知らないのならあの血も涙もない巫女も承諾する筈。ご安心を姫。病みに降り立った天才と言われた私の力を存分にお見せいたします」
「まーじゃんも天才なの?」
「はい。古今東西ありとあらゆるイカサマを最高レベルで習得済みです」
「イカサマはよくないわ永琳」
ほのぼのとしたやりとりに呆れ返ったのはレミリアだった。
「サマするって公言してどうするのよ……」
「あらあらー。うちも妖夢を連れてくれば面白かったかしらねえ」
そんな永遠亭の主従を眺めて、ただ一人供も連れずに現れた幽々子はころころと笑う。
そこでレミリアは最初から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「なんで連れてきてないの?」
「悪いアソビにお供は連れてこれないわ~」
どこまで本当なんだか。少女の口元は苦渋に歪む。
正直に言えば掴みどころのない幽々子は苦手である。
レミリアは早々に会話を終わらせるべく次の話題を振った。
「あなたはルール知ってるんでしょう?」
「得意技はツバメ返しよー」
「サマを堂々と得意技って言うな」
再び溜息をついてレミリアは会話を切り上げる。
マンガで読んだ程度の知識しかないレミリアは輝夜と同じ位置に居る。そのマンガにしても十全に楽しんでいるわけではなくストーリーを追っているだけなのでルールは全く覚えてない。用語をある程度知っているだけだ。実際に打つのは不可能である。
ならこちらも代打ちを出さねばならないのだが……
「あなた出る? 咲夜」
「得意技はガン牌です」
「だからサマを堂々と」
ダメだこの従者。レミリアは頭を抱えた。カリスマガードでもしなければ頭痛にまで及ぶ。
咲夜は能力禁止でも迷わず時を止めて積み込み摩り替えなんでもござれでやる気満々である。
というか自分と輝夜以外イカサマフルバーストしか考えてない。いつからここは雀鬼の巣になった。
気は進まないが幾分平和そうな幽々子と話していた方がまだ建設的だと判断せざるを得ない。
「それにしても霊夢は何考えてんだか。この面子で博打もないでしょうに」
「うふふ」
幽々子は楽しそうに笑いながら卓の上でバラけたままの麻雀牌をいじる。
ひょいひょいとそれを自分の前で積みながら――
「さぁて、この冬の終わりに何を企んでいるんでしょうねえ」
確信めいたものを宿らせた笑みを、深めた。
キャンバス(畳)に十字が描かれる――
霊夢必殺のライトクロスカウンター。
だがしかし、それは異形の十字を刻んだ。
魔理沙の顔が拳で歪む。それだけだった筈なのに……現実に歪んでいるのは、両者だった。
カウンター、失敗っ……!
「ぐっ、かはっ……」
「ぷあ……っ」
後方に弾かれる二人。
忌々しげな目を向けたのは霊夢。
反して魔理沙は笑みさえ浮かべていた。
「魔理沙――あんた、何時の間に……」
「はっ……何時までもサンドバッグの案山子と思ってたのかよ……」
カンカンカンとゴングが鳴る。
飛び出しかけていた両者をレフェリーを務める永琳が押し留めた。
なおゴングを鳴らしたのは輝夜である。暇を持て余した永遠亭組が取り仕切っていた。
幽々子とレミリアは雑談に興じているのか見てすらいない。
そんなどこか間の抜けたインターバルに魔理沙は口を開いた。
「つーか、金持ち呼んだってのはわかるがその面子に何故私が入ってるんだ」
輝夜……言わずもがなのお姫様。
幽々子……広大なお屋敷住まいのお嬢様。
レミリア……一城の主である夜の王。
そんな面々に名を連ねるには魔理沙は異質過ぎる。
弾幕ごっこの実力ならともかく、問われているのは財力なのだ。
当然の疑問に、しかし霊夢は怪訝な目を向ける。
「え? だって魔理沙泥棒だし。溜め込んでるんじゃないの?」
「金目の物なんて盗んでねえよ! じゃない! 借りてねえよ! 私が借りるのは面白そうな物!」
親友のえげつない勘違いに思わず叫んだ。
仮にその通りだったとしたら盗品巻き上げるつもりだったのかこいつ。最低にも程がある。
戦慄する魔理沙とは対照的に霊夢の怪訝な目は変わらない。否、先程よりも強く――
「……なんで居るの? 魔理沙」
「はははしまいにゃはっ倒すぞテメェ」
「ほんとだ。なんで居るの魔理沙?」
「ああ場違いだと思ってたのよね」
「別口かと思ってたわ~」
「イジメかぁっ!!」
金持ち三巨頭に畳みかけられ魔理沙は泣いた。
咽び泣いた。漢泣きだった。
「帰っていいわよ。っぺ」
「なんでそんな外道なの!? おまえ何があったの!? もうなんかおまえが怖い!」
もう魔理沙には畳を叩くことしかできなかった。
恐るべきは数の暴力。戦争は数だよ姐御。
つかの間の勝利に霊夢は嗤う。前哨戦に過ぎないが一勝は一勝。弾みがつくというものだ。
そんな、勝利に酔う彼女は気づかなかった。手負いの獣こそが一番恐ろしいのだと。
「さて、邪魔者も排除したことだしさっさと麻雀を」
「――まだだぜ、霊夢」
殺気に霊夢の体が硬直する。
まさか……完全に心は折った筈。しかも畳に蹲っていたのに。
バカな、あんな体勢から打てるパンチなんて――まさか!?
「マスタアアアァァァッ!!」
ガゼルパンチ――!?
「ジャーマンスープレックスホールドォッ!!」
「ごふぁっ!?」
腰を抱え込まれ畳から引っこ抜かれた霊夢は綺麗な放物線を描いて後頭部から畳に叩きつけられた。
大分体格差があるせいか魔理沙の腰が破滅の音を立てたが、構わず永琳はカウントを取る。
腰の激痛の為ホールドは甘い。少し暴れれば3カウント以内に脱出も可能だった。
だが後頭部強打による意識混濁から抜け出せなかった霊夢は間に合わず――
「6ラウンド0分24秒! マリサ・キリサメKO勝利!」
何ルールだ。
と突っ込みたかったがレミリアは空気を読んだ。運命ではなく空気を。
これも淑女の責務かと頭痛を堪える。もうカリスマガードも効かない。
本音を言えばはっちゃけるタイミングを逸しただけなのだが、それを言ってどうするというか。
そんな主の苦悩を察したが咲夜は何も言わず、行動にも出なかった。
ただ見つめる。外見相応に子供っぽく暴れたいだろうにそれを必死で我慢する敬愛する主の姿。
萌える。
「萌えるな!!」
「口に出てましたか!?」
「出てたよ! ナレーションかと思ったわ!」
涙目で突っ込むレミリア。
今にも泣き出しそうな、決壊寸前のダムの如き表情。
ああ、それはなんて――高貴で、可憐な花であることか――
咲夜は、ただ……萌え
「だから萌えるなあっ!」
ぽかぽかとぐーで胸を叩かれるに至り、咲夜は完全に崩壊した。
泣く子が見ればひきつけを起こし、酔っ払いが見れば失禁するだろう悪魔めいた笑みが全開。
もし魔理沙が腰を押さえて蹲っておらず、この場に呼ばれたのが宇宙人主従ではなく配下の兎コンビだったら、そしてぽややん幽々子が妖夢を連れて来ていたら――確実に誰かが泣いていた。
それくらい、咲夜の笑みは、怖かった。
そっと永琳が紙袋を被せたのは、幻想少女の情けだったのか……
腰痛でそんなことには気づかなかった魔理沙は仰向けのままぴくりともしない霊夢を見やる。
目は開いており、唇を尖らせて不貞腐れていた。
「あいつつ……目ェ覚めたか」
「……卑怯者が」
「投げ技なしなんて聞いてないからな」
「これで終わりと思うなよ……明日も麻雀大会開いてやる……」
「ぞっとしたわ。その執念に」
腰をさすりながら身を起こす。霊夢もそれに倣った。
「で? 金に頓着しないおまえがなんでいきなりこんなことしたんだよ」
追及の手は緩めない。勝者の権利だと迫る。
しかし霊夢は口を噤む。顔を背け言いたくないと態度で示した。
当然魔理沙は怒った。禁じ手を使うことも躊躇わない程に。
「一から十まできっちり話せ。さもなきゃ賽銭箱でトコロテン作るぜ」
生命線を奪う――この上ない脅迫である。
おまえをコロスと告げるに等しい。
驚愕の表情で霊夢が振り返るのは必然だった。
「なんという賽銭テロ!? や、やめなさい! お賽銭が取り出せないじゃない!」
「入ってるとは思えんがな――さあ、どうする霊夢」
ボクシング……? で敗北した上に生命線を人質に取られた。
ことここに至り、霊夢は完全に追い詰められたのである。
抗いようが無い。冷たい汗が流れる――
そんな緊張を破ったのは静かな声。
「わからないんなら教えてあげましょうか?」
リーチを宣言するかのように点棒を掲げ、幽々子は微笑む。
優しげなその笑みに、魔理沙は訝しむ表情を返した。
「あ? わかるのかよ」
「うふふー。魔理沙はまだまだ子供ねえ」
何を言われてもさっぱり理解していない魔理沙は言い返せない。
肩を竦めて先を促すことしか出来なかった。
「ちょ、幽々子――」
「もう冬が終わる。春が来る」
制止しようとした霊夢はその一言で止まった。
図星を突かれて固まってしまった――らしい。
魔理沙達は意味がわからず首を傾げた。
確かにもう冬は終わりだが、それがどうしたというのか。
幽々子は柔和な笑みを崩さず、己の前に積んだ牌を一枚ぱたりと倒す。
出た牌は一筒。
「春が来れば――ね」
またぱたりと牌を倒す。
再び一筒。
「そこに、お金を持って来い。賭け事をしよう。なんて言われたら答えなんて一つだけ」
ぱたりぱたりと牌が倒され示されていく。
また一筒、三筒、四筒、五筒、五筒――筒子のみ。
「紫の為でしょ?」
幽々子の笑みに僅かな嫌らしさが宿る。
からかうような、ひとの悪い笑みに変わる。
「里の造り酒屋、いいのが出来たらしいじゃないー。あそこのは紫も好きだったわよねー」
ひょいと霊夢の正面から牌を拾う。
それを確認して、幽々子は笑みを深めた。
「ただ……それなりに値が張るそうね?」
残り全ての牌を倒し拾ってきた牌を差し込む。
差し込まれたのは二筒。筒子のみの役が成った。
「うふふー。ロン! 九蓮宝燈ーってところかしらー? 直撃でハコ点ねー」
霊夢は何も言えない。
頬を朱に染め固まったまま。
がしがしと魔理沙は頭を掻く。
考えてみればすぐわかることだった。
何事にも動じない霊夢がああまで取り乱すなど、紫のこと以外にあり得ない。
友人として理解しているつもりだったが――まだまだ、だったということだ。
「……こんな七面倒くさいことしなくとも貸せと言われりゃ金くらい貸すぜ」
呟きになんとか硬直から脱した霊夢の声は重い。
「だって、返すあて、ないし……」
「だからって博打で巻き上げようとすんなよ」
苦笑して魔理沙は霊夢の背を叩く。
「友達の恋応援する程度の器量はあるつもりだぜ」
幾ら必要なんだと口を開こうとした瞬間、幽々子の笑い声に止められる。
「うふふ、美しい友情ねー。でも、今日のところは私が美味しいところ持ってっちゃいますわ」
「なるほど」
今度苦笑したのはレミリアだった。
あらあら気づかれちゃったと幽々子は笑みを返す。
残りの全員が首を傾げていると、廊下から足音が聞こえてきた。
失礼しますと一声かけ障子を開けたのは妖夢だった。
「返事が無いんで勝手に入ったけど――間が悪かった?」
全員の視線を浴びて包みを抱えた妖夢は困った顔を見せる。
「いいわよー。それで妖夢、首尾は?」
「幽々子様、頼まれてたお酒買ってきました」
包みから取り出された酒瓶。
それは紛れもなく霊夢が狙っていた酒だった。
「え、なんで」
「言ったでしょ? この冬の終わりに――って」
紫は、幽々子の友人でもある。
彼女の好みを知っているのは霊夢だけではない。
最初から最後までお見通しだった、ということだった。
霊夢の顔はどんどん羞恥に染まっていく。
慣れぬ企み事をして、何人も巻き込んでこれでは……
「はん、これじゃいい道化だな」
立ち上がったのはレミリアだった。
咲夜が時を止めて着せたのか、外套を羽織っている。
「あ、レミリア……」
謝ろうとする声は遮られる。
「次の宴会には里の造り酒屋とやらに負けないワインを持って来るわよ」
ふわりと微笑み、レミリアとその従者は帰っていく。
お開きね、と輝夜がそれに続いた。
「春はお花見ね。お誘い待ってるわ」
がんばってねと、小さく呟かれた言葉は、友人のそれだった。
衣擦れの音に振り返ると、魔理沙がマントを羽織っていた。
「次は花見か。幹事が大変そうだぜ」
「魔理沙、あの」
「今日の勝ちは貸しだ。次の宴会ん時はぎゃあぎゃあ言うなよ」
言って帽子を被り、黒色の魔法使いも帰ってしまう。
残されたのは呆然とする霊夢と事態が呑み込めず首を傾げる妖夢。
そしてにこにこと笑う幽々子だけだった。
ことりと、卓の上から音がする。
「え?」
見れば、妖夢から受け取った酒を幽々子が置いたところだった。
「本当は私が紫と飲もうと買ったんだけど」
浮かべるのは変わらぬ優しげな微笑み。
「譲ってあげる」
華宵の亡霊はそう告げた。
「さ、帰るわよ妖夢ー」
「は? あの、私何しに……」
「里でお団子でも食べていきましょうかー」
ふわふわと掴みどころなく幽々子は立ち去ろうとする。
「あの、幽々子」
なんとか霊夢は声をかける。
それだけのことも難しくなるほどに混乱している。
混乱し切った頭で、それでも礼くらいは言わねばと考えるが何も浮かばない。
「幽々子、その、このお酒……じゃなくて、あの」
「余ったら宴会ででも飲ませてちょうだい」
敷居を跨ぎ、美人画のように振り返った顔にあるのは花咲く笑み。
礼なんて要らないわよ。その笑みは、そう告げていた。
何も言えぬ間にするりと幽々子たちも帰ってしまった。
残されたのは霊夢ただ一人。
卓の上には酒瓶一本。
大きく――息を吐く。
慣れないことして空回って、友人たちから励まされ――
何をしているのかと自分で自分に呆れ返る。
冷静さを取り戻してしまったから、もう誤魔化すことも出来ない。
ああまで励まされて、次逢う時どんな顔をすればいいのやら。
変に意識してしまう。もう慣れた筈の再会なのに。
幾度も繰り返したのに――待ち遠しくて、仕方が無かった。
「……恥ずかしいから、さっさと起きなさいよ、バカ紫」
少女は頬を桜色に染めたまま、ぴんと酒瓶を指で弾いた。
私の秘蔵のお酒をここにおいていこうか
愛しの眠り姫はまだ夢の中ですかね。
再会話、期待して待ってます!
早く起きていちゃいちゃしてしまえっ!
前半のハチャメチャ振りが後半の甘さを引き立てている
ようで良かったと思います。
霊夢さん、よかった。
乙女な霊夢に素敵な友人達、とても楽しく読ませて頂きました。
みんな、『らしい』な。そのままのこのお祭り騒ぎ感がたまらん。
うーん、なるほどなー。しっかりしてるわ。
よーし後は起きてからだ。がんばってな、霊夢!
最高だ。種種様々だけど愛って素晴らしい!!
ただのちゅっちゅはもう必要ないんですよ
あゝもう可愛い超カワイイ!
主役の霊夢がどうのでなく、呼ばれた彼女等がいいわ。
特に幽々子さま。すべて覚って酒渡すってかっけーですわ。