私アリス・マーガトロイドは今博麗神社上空に来ていた。理由は・・・復讐だ。
そう、この神社に住む博麗霊夢に復讐をしに来たのだ。
それというのも先日、長かった冬の日に私たちは再会したのだけど
「しばらくぶりね」
「さっき遭ったばかりだってば」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「しばらく巨人?」
「私のこと覚えてないの?まぁ、どうでもいいけど」
「それはともかく―――――」
と、思い出しただけでもこれはヒドイ!あいつ私のこと忘れてやがったのだ。
なんとか平静を装って、強がってみたけど私の心はズタズタだ。
魔法の研究も人形作りも手につかず、勢いで霊夢に何か仕返しをしようと
ここまで来たのに良い案が浮かばない。
仕方がないから今日は敵情視察でいいかしら。なんて思いながら境内に降り立つ。
見たところ居ないようだけど、この時間は縁側でだらけているんだったかしら。
そう思い周りこんでみると、そこには縁側に腰掛けて船を漕ぐ少女がいた。
いつのまにか腋丸出しになっていた霊夢だ。
私が静かに近づいていくと、こっちに気付いたのか声をかけてきた。
「ん~、あんたみたいなのが神社になんか用?」
「別に、ただの暇つぶしよ」 (復讐に来た!なんて言えないわ、それに今日は敵情視察よ)
「ふーん、どうでもいいけどちょうど良いところに来たわね。ちょっとこっち来なさいよ」
「いったい何よ?藪から棒に」
いいからいいからと手招きされる。
不審に思いながらも近づいていくと、今度は自分の隣をポンポンとたたく。
ここに座れという事だろうか?
霊夢の考えていることは分からないが、私に危害を加える気は無いようだ。
言われるままに縁側に腰を下ろす。
「・・・これでいいのかしら?」
「うん、上出来ね」
そう言ってニコリと笑うと
「きゃっ、ちょっと!いきなり何するのよ」
霊夢はいきなり私の太ももの上に頭を乗せて寝転んできた、俗に言う膝枕と言うやつだ。
「なかなかいい具合ね。ん~~、最近なんだか眠いのよ」
「だからって、なんで私を枕にするのよ」
「いいじゃない、別に減るもんじゃないし。後で起こしてね」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「もー、アリスは相変わらずうるさいわねぇ。体だけじゃなく心も大きくなりなさいよ」
「・・・・・」
「おやすみ~、一時間くらいたったら起こしてちょうだい」
寝てしまった・・・信じられない。
訊ねて来た客人を枕にするやつがどこに居るというのか
幻想郷では常識に囚われてはいけないのだろうか?
それにしても
「・・・なによ、やっぱり覚えてるんじゃない」
私の事を忘れてると思って仕返しにまで来たのに、なんだか一人で空回りしててバカみたいだ。
仕返しする気は無くなってしまったが、このままされるがままになるのも癪だし、なにか悪戯をしてやろう。
ツンツン
「んぅ」
ムニムニ
「んむ」
十数分後
霊夢のほっぺをいじっていた私は、なかなかの感触になんだか楽しくなっていた。
ばれたら怒られるのは間違いないのだが、止められない止まらない。
「ふんふんふ~ん♪」
ムニムニムニムニ
「ふいふんはのひほうへ」
「!!?」
楽しく霊夢のほっぺをムニムニしていたが、流石に調子に乗り過ぎていたようだ。
声が聞こえると同時に手首をガシッと掴まれた。
まずい!
「あ、れ、霊夢、えっと、これは、その」
ゴドンッ
「あいたっ」
霊夢の手を振りほどき、急いで立ち上がった。うう、なれない正座で足がシビシビする。
そして、太ももの上にあった霊夢の頭は、勢いよく床に打ち付けられてすごい音がした。
「痛ったー、ちょっとなにすんのよ!あんた、こんな真似してどうなるか分かってるんでしょうね」
「知らないわよ、そもそも勝手に頭乗せてきたのは霊夢でしょ!自業自得よ」
「どうやらアリスにはおしおきが必要のようね」
そう言いながら、どこからともなく御札を取り出す霊夢。
弾幕ごっこをするつもりは無かったが、こうなっては仕方ない。
「な、なにするつもりよ・・・言っておくけど、ただでやられる私じゃないわよ」
「ふん、そんなことは一度でも私に勝ってから言いなさい!」
「むっ、この前までの私とは思わないことね!」
私は人形たちを召喚した。
・・・・・・・それから
「じゃ、そっちの掃除が終わったらこっちの方お願いね」
「しくしく」
「返事は?」
「なんで、私がこんなことしなきゃならないのよ~」
「なんか文句あるの?弱いくせに」
「ごめんなさい」
「あんたには負けた罰として、うちで今日一日働いてもらうからね」
「しくしくしく~」
・・・・・・・さらにそれから
「味はどう?」
「いかがでございますか? 御主人様。でしょ?」
「それ、あんたのセリフじゃないでしょ!?・・・・・・・いかがでございますか? 御主人様」
「まだまだね」
「くっ、だからなんで、私がこんなことしてなきゃいけないのよ~」
「なによ話をぶり返して、またやるの?」
「うえ~ん」
「しかし、これはまた一から和食の作り方を叩き込まなきゃいけないようね」
「え~、なんでよ、私和食なんて普段作らないわよ」
「なんだったら作りに来ても良いわよ?おいしくいただいてあげるわ」
「嫌よ面倒くさい」
「なによ、けち臭いわねぇ」
そんなこんなで食事が終わり、しばしの休憩だ。ほっと一息ついてお茶を飲む。
今日はいろんな事があった、仕返ししようと思って来たらそれが早とちりの勘違いだったし、
膝枕させられて、いたずらしたら弾幕ごっこに発展して、負けたらまた神社で働く羽目になって、
せっかく作った晩御飯はけちつけられたし・・・でもけっきょく全部食べてくれたのよねぇ。
今日の事を思い返し「ハァ」とため息を付いていると、背後から霊夢が声をかけてきた。
「アリスー、お風呂の用意できたわよ」
「あら、霊夢にしては気が利くのね。お風呂の用意してくれるなんて」
「一言多いわよ。あんたに用意させるとぬるいのよ、やっぱりお風呂は熱くなくっちゃ」
「ふーん、まあ、とにかくありがとう。お言葉に甘えて先に入らせてもらうわね」
「はあ?誰が先に入っていいなんて言ったのよ」
「え?だって、さっき用意できたわよって」
「一緒に入るのよ。まだ罰は続いてるんだから、あんたは私の背中を流すの」
「え~」
「ほら、ぶちぶち言ってないで行くわよ」
むう、やはり拒否権は無いようだ。
仕方なく霊夢の後について浴室に向かう。浴衣やタオルは用意してくれていたようだ。
脱衣所で服を脱いでいると、ふと視線を感じた。もちろん霊夢しかいないわけだが。
「何よ?」と聞くと「別に」と視線を外された。私の体に変なところでもあったのかな?
霊夢の後に続いて浴室に入る。
すでに浴槽にはお湯が張られていたので、中は蒸気で暖かく蒸し風呂のようになっていた。
いったい何度くらいなんだろう・・・?
一先ず桶にお湯をすくい体にかける。結構熱かったのでちびちびかけていると、霊夢に背中を流すように言われた。
「どう、かゆい所とかない?」
「ええ、大丈夫よ」
「ところで霊夢って肌きれいよね、いろいろ無茶やって傷とかあるのかと思ってたわ」
「そんなヘマしないわよ。それにあんただって肌きれいじゃない、真っ白だし。あと・・・」
「あと、なによ?」
「いや、何ていうか、その・・・」
霊夢はこちらを振り返り、私の体をじっとりとした目で見る。
頭の先から足の先まで眺めた後、その視線はある場所で止まった。
「いつの間にそんなに大きくなったのよ、アリスのくせに生意気な」
はあ?何を言ってるんだこいつは、人の胸なんか見ながら。
呆れてポカンとしている私に、霊夢は話を続ける。
「昔はちんちくりんでペッタンコだったくせに、身長だけならまだしも胸まで。
怪しいわ、何か魔法でも使ってんの?」
「ちんちくりんってなによ、それにそんな魔法ある訳ないでしょ、変な言いがかりはやめてよね」
「だったら、この差はどう説明するのよ!おかしいじゃない!」
「単に霊夢の発育不足なんじゃないの?」
「ぐ、ぬぅ・・・」
呻いた霊夢が乙女にあるまじき表情をして立ち上がる。
そして、いきなり私を抱え上げると湯船に向かって放り投げた。
「そおい!」
ほぼ一瞬の出来事でまったく反応できなかった私は、ドッポーンと音を立ててお湯にたたき付けられる。
「ゴボゴボゴボ、ゲホッ、ケホッケホッ、熱い!何するのよ。」
「そんな瑣末な事は、どうでも良かったのであった」
「どうでも良くない!」
「まあまあ、それより気になることがあるのよねぇ」
「嫌な予感しかしないわね」
「そう、問題は大きさよりかんしょ『あーあー、聞こえなーい、聞きたくなーい』
どれどれと、手をわきわきさせながら近づいてくる。
違う、コイツ聖職者違う。
「さあ、おとなしくしなさい。別に減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃないでしょ!?あ、いや、やめ――――――」
「痛ーい」
「自業自得よ」
お風呂を上がった私たちは、縁側で体を冷ましていた。
あまり思い出したくはないが、お風呂であれだけ暴れれば、のぼせるのは当たり前である。
人形たちに団扇で扇がせながら、私は虚ろな目で外を見ていた。
一方霊夢は、頭に出来たたんこぶをさすっていた。もちろん殴った。当たり前である。
「はあ、これ以上外にいると湯冷めしてしまうわ、中に入りましょう」
「そうね。もう遅いし、そろそろ寝ましょうか」
「あ、布団の用意はできてるわよ」
「いつの間に用意したのよ?」
「人形にさせておいたのよ、人間が出来る事の大半は出来るわ。炊事も掃除もお手の物!」
「へー、器用なもんねぇ。そういえば昔は二体くらいだった気がするけど、今は何対くらい操れるの?」
「正確に調べたことは無いわね。たぶん家にある人形達ぐらいならいけると思うけど」
他愛の無い話をしながら寝室に向かうと、人形に用意させておいた布団が二つ並んでいる。
明日になれば晴れて解放だ。そうなれば神社での理不尽な労働ともおさらばだ!
家に帰って何をしようかと考えながら布団に潜り込んだ。
「それじゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
「まだ起きてる?」
「ん?なに」
「いや、やっぱりいいわ。何でもない」
「いったい何よ?霊夢らしくない」
「明日は早いから、早く寝なさいって言いたかっただけよ。おやすみ!」
「??・・・おやすみ」
(今日でお役御免だってのに、もう少し嬉そうにしたら?)
(・・・うん)
(はあ、また来てもいいわよ。悪さしないならだけどね。)
(え?いいの?)
(あんたの所の神様に門を閉じさせたのに、まるで効果無いみたいだったし。
でも悪さしたら、またお仕置きだからね)
(うん、わかった)
(ふふ、じゃあまたね。アリス)
(うん。またね、霊夢、バイバイ)
「ん、ん~~。もう朝か、霊夢は・・・まだ寝てるわね」
起きてから軽く伸びをする。ふと視線を横に向けると、隣の布団では霊夢が、すー、すーっと心地よさそうに寝息を立てていた。
またほっぺをムニムニしたい衝動に駆られたが、昨日の苦い経験を思い出し、ぐっと我慢する。まあ起こすのも悪いし。
さて、まずは顔でも洗いに行こうと、隣で眠る霊夢を起こさないように静かに移動する。
顔を洗い戻ってくると、霊夢はまだ寝ていた。やれやれと思いながら静かに着替えを済ませる。
昨日で罰は終わったので、そんなことをする必要は無いのだが、いわゆるサービスというやつだ。後はリベンジ。
驚く霊夢の顔を想像しながら私は台所に向かった。
「霊夢の好物って何だったかしら?」
おわり
次回にも期待してます
・御札取り出す→御札を取り出す
・これ以外にいると→これ以上外にいると
「しくしくしく~」「うえーん」と泣くアリスが個人的にツボでした。
こういうアリスも可愛いなあ…
いや、これは可愛らしいお話ですねぇ。そしてとても初々しい。
アリスと霊夢、二人が放つ台詞や立ち居振る舞いのそこかしこから桜の花びらがこぼれ落ちてくる印象。
上々の春度、ふわっとした暖かさですね。
今の二人は四分、それとも五分咲きくらいかな?
近い将来の満開が大いに楽しみな、そんな期待を抱かせてもらえる良い物語でした。
これからも投稿頑張ってください☆楽しみに待ってます
まったりした感じで面白かったです。