起きると、縁側で萃香が寝こけて寝ゲロを吐いていたので、霊夢は足を上げて萃香の胸のあたりを踏みつぶした。
ぐええ、と声をあげて萃香は跳ね起きた。何するんだ、あばらが折れたらどうするんだ、と文句を言う。どうせあんた私ていどが乗ったところでどうなるもんでもないでしょ、それより自分で吐いたそれ始末しなさい酔っ払い、と言って霊夢は腰に手を当てる。
不満そうな顔をしながらも、さすがに悪いと思ったのか、萃香はおとなしくゲロの始末をした。井戸水で口をゆすいで、顔を洗ってさっぱりすると、境内の掃き掃除をしている霊夢のそばに寄って「今日はずっと霊夢と一緒にいる」と宣言した。
「ああそう。よくわかんないけど、暇なの?」
「いや、霊夢が来いって言ったんだよ。待ってるって」
そうだっけ? 霊夢は首をひねった。
考えたけど、言っていないと思った。
追求すると、
「まあ、ね」
要領を得ない。まあ、いいか、と霊夢は思った。
萃香がいようがいまいが、やることは変わらない。掃除の続きをする。毎日のことなので、それほど時間はかからない。終わるとせんべいを出して、お茶を淹れて縁側に座って飲みはじめた。今日もいい天気だ。ここ数日晴れがつづいて、少しだけ残っていた雪もすっかり溶けた。あったかくなって、腋を通り抜ける風も春の香りを帯びているようだった。
「あそこに。ユキワリソウが咲いてたよ」
萃香が指さした。霊夢の隣に座る。鳥居の横あたりで、小さな花茎を伸ばして、白色にピンク色を混ぜたような花がいくつも咲いている、と言う。あとで見に行ってみようか、と霊夢は思った。
ユキワリソウは早春に咲く花で、艶のある葉っぱが三つにわかれて先が尖っている。花びらのように見えるのは実は萼片だ。白、紫、ピンク色などがある。去年も見ただろうか、と少し考えて、面倒になって目を閉じた。
寝た。起きると、昼食の準備をして食べた。しぶしぶながらも萃香にも用意してやった。
食べて片付けをするともう仕事がなくなって、もう一度寝ようとすると萃香が暇だと言うのでやっぱり暇なんじゃないと言って、弾幕ごっこをしてやろうとしたらたまには他の遊びがいいと言うのでおちゃらかほいやけんけんぱーや、しりとりや、そういう子どものやる遊びを久しぶりにして、興が乗ってしまったので何年かぶりにお手玉を引っ張り出してきて萃香に見せてやると手を叩いて喜んだ。
夕方になった。暗くなってきたけど、まだ灯りをつけるには早い。ユキワリソウを見ようと思って鳥居のところに行った。萃香が言ったとおりの花が咲いていた。雪の下でも緑色の葉をつける花で、だからユキワリソウと呼ばれている。
鳥居から下に階段があって、そちらの方向を見ると人里がある。人里は、たぶん今が一番暗い時間だ。真昼間ではないし、灯りをつけるほど夜になっていない。萃香が口を開いた。
「昨日ね。いつもみたいに疎の状態になって人里を見てまわってたんだ。そしたらさ、慧音の寺子屋で、ほらあそこ、池があるだろ。その池に向かって、女の子がしゃがみ込んで、ずっと水面を見つめていたんだよ。水面に映る、自分の顔を見ていたんだ。ちっちゃいけど、やっぱり女の子だよね。気になるんだ。私もそれを見ていたよ。で、そのとき思ったんだ。
私とこの女の子は同じものを見てる。どっちも、水面に映る女の子の顔を見てるんだ。でも、女の子は私が見えないし、私がいることを知らない。
可愛い子だったよ。周りの男の子たちから、すぐに恋されちゃいそうな感じの。十歳くらいだったかな。黄色と緑の着物を着ていて、ちょっと阿求みたいだったね。
それから教室に入って、黒板を見ると、子どもの書いた落書きがしてあった。"いえで待ってます"って、それだけなんだ。他には何も書いてなかった。だから、何の役にも立たないんだ。伝言なんだろうけど、誰が書いたのかもわからないし、誰宛なのかもわからない。仮に目当ての奴が見たとしたって、自分のことだとはわからないし、誰の家に行けばいいかも、わからないだろ?
それで、私は考えたんだよ。霊夢のところに行こう、って。霊夢が私に来て欲しくてこれを書いたんだって、そんなわけはないんだけど、自分勝手に、都合のいい勘違いをすることにしたんだ。
あの寺子屋はそんなに子どもが多いわけじゃないから、誰が書いた字なのかはすぐわかるのかもしれない。誰が呼ばれてるのかも、他のことからわかるのかもしれない。でも、それで私が神社に来ることもできて――。
霊夢は今日、私と遊んでくれたね。こうやって、私の話を聞いてくれるね。私は考えたんだ。私たちは不器用だから、同時に話し出すことはできない。かわるがわる聞き、かわるがわる話すことしかできない。あの女の子はさ、あの時、私に見つめられながら、自分の顔だけを見ていた。いつもそうなんだ。疎になってる私が悪いんだけど、私に見られているものは、私に気づくことがないんだ。なのに、私たちは同じものを見てる――水面に映った、一人の女の子の姿を。
悪いけど、もうちょっとだけ付き合ってくれないかな。家に引っ込んで、灯りをつけよう。まだ、人里では火を灯していないけど、でもじゅうぶんに暗いし、霊夢と一緒に、夜の内に取り残されたみたいになってみたいんだ。二人だけで明るい部屋に置き去りにされたみたいにしていたいんだ。もう少しだけ」
これはきれいなまま終わった方が多分良かった。
寂しい事はない
…萃香が寝ゲロするのは神社に自分のにおいをマーキングするためだったしてね。
神社は自分のもの、つまるところ霊夢は自分のものと言いたかったんだと曲解してみる
でもスラスラ読めて、もとい読んでしまうって事はハマッてる訳で…
次作も楽しみ。
…春ですねぇ
は~るで~すよ~
そういうことだろ
私の読解力が足りなくて勘違いしてるのかもしれませんが
ゲロマブっ
あと、どうせなら綺麗なままで終わらせてほしかったな、とw
そういうのがいい。いい纏まりだったと思います。